荒廃惑星で気ままな傭兵ぐらしを。   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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『ズ・パグア盗賊団殲滅依頼①』-彩暦147年-

「──異界の《勇者》が、その青い(つるぎ)と光で、《魔王》を滅ぼしたのが、終わりの始まりだった。

 

 ──《魔王》亡きあと、その広大な版図(はんと)を巡る戦争が起こった。

 

 兵器として()び出された数多の異界人たちによって、星が戦火に包まれた。

 

 その戦火は煌々と燃え盛り。

 それに目をつけて宇宙(そら)から《企業》を名乗る者たちが降り立ち、互いに潰しあった。

 

 そしてやがて、すべてが焼き尽くされ、大地には灰だけが残された……

 

 これは、そんな荒廃した惑星でも気ままに楽しく生きる、腕利きの傭兵ケリーフォスがおくる……

 ハートフルかつハードボイルドな、傭兵ぐらしをつづった物語である──」

 

 

 

 

 

 

『……ケリー? そのさあ、ナレーションみたいな独り言をレコーダーに吹き込むクセ、そろそろやめてみない?

 仕事のたびにやってるけど……ぶっちゃけ、ちょっときもいよー?』

 

 "なーにがハードボイルドなのさ……"

 あきれたような女の声が、耳の通信機から響くのを聴いて、砂漠迷彩柄のコンバット・スーツを纏った男──ケリーフォスは。

 レコーダーの録音終了ボタンを押してから、「はあ……わかってないな……フライディ」と、ため息交じりの声で返した。

 

「これはだな、俺なりのルーティンなのさ。

 仕事前はこれをやらないと、いまいち気合入らないんだよ。

 お前だって、でかい仕事でカネが入るといつも、あの馬鹿みたいな値段するフルーツタルト、幸せそうに食ってるだろ?」

 

『それとこれとじゃ話がべつでしょ……

 それに、あのお店のフルーツタルトは今どき珍しい天然モノで、他所(よそ)とは一味も二味もだねぇ……!!

 って……今はそんな話してる場合じゃないんだってば。

 ターゲットの予測地点まで、あと500メートル弱!

 今回の賞金首(ターゲット)がいるって情報の、ズ・バグア盗賊団が根城にしてる市街地、もう目と鼻の先だよ!』

 

 ケリーフォスは、防塵マスクの熱源(サーモ)センサー機能をオンにし、北の方角に目を凝らした。

 

 砂塵がひどくて肉眼では何も見えないが、熱源(サーモ)センサーを通せば……

 いくつもの、()()()()()()()()()熱源反応が、石造りの街に出入りしているのが、見て取れた。

 

 今回のターゲット。ズ・バグア盗賊団の根城の街だ。

 

 ごうごうと吹き荒れる有害な砂塵から肌と肺を守る、無骨なマスクの内で。

 ケリーフォスは、唇をゆがめて笑った。

 

 狙撃手(スナイパー)も、観測手(スポッター)もいない。

 思った通りの、()()()()()だ。

 さすがに、子鬼族(ゴブリン)にそこまでは仕込めなかったらしい。

 

「オーケー……それじゃあ、手筈通り。

俺とフライディがかく乱して、ガジドア爺さんの魔改造無人機(ドローン)を投入だ。」

 

 手にしたライフルのトリガーをシングル・ショットで数度引き絞り、動作確認を済ませ。

 ケリーは、盗賊団の根城へと足を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 本来なら、(ふね)の燃料代にもならない安い依頼だった。

 

 ズ・バグア盗賊団は、古戦場で拾った火器で武装した、三十匹ほどの小鬼族(ゴブリン)からなる群れ()()()

 

 ろくに訓練もされていない、粗雑な少年兵未満の代物であり。

被害にあった村落による討伐依頼はぽつぽつとあれど、まともな傭兵が請け負うほどの報酬ではない。

 

 しかし、半年ほど前から事情が変わった。

 

 とつぜん、小鬼たちが組織だったふるまいをし始め。

稚拙(ちせつ)ながら、軍隊のような規律と戦術のもと、行動しはじめたのだ。

 

 ズ・バグア盗賊団は、ほかの小規模な盗賊団を吸収しながら、村々を襲って力を蓄え続け──

 

 一か月前。総勢100人ほどに達したズ・バグア盗賊団は、ついに街を攻め落とした。

 

 被害にあったのは、かつては都市貿易の中継地としてそれなりに栄えていた、人口千人ほどの宿の街だ。

 

 旧式ながら防衛設備や衛兵団もあり、けしてザルというわけではなかったはずのその街は、子鬼どもに制圧され。

 

 現在、砂漠の街の住民たちは逃げることも出来ず、盗賊団による恐怖政治のもとで、暮らしているという。

 

 この仕事を──『ズ・バグア盗賊団殲滅依頼』を、ケリーが登録している傭兵ギルドに持ち込んだのは……

その街から一人で命からがら逃げ出した、住民の男だった。

 

「そんで……お前らみたいな子鬼族(ゴブリン)ごときに、軍隊の真似事なんて芸を仕込んだのが。

 俺のお目当ての、賞金首(ターゲット)ってわけだが……」

 

「〜〜〜ッ!」

 

 盗賊団によって制圧された市街地のはずれ。

 ケリーは斥候をしていた子鬼の口を塞ぎながら、喉元にナイフを押し当てていた。

 

 彼の腕の中で子鬼はジタバタと暴れるが、より強くナイフを突きつけられると。

もがくのをやめて、ひたすら荒い息を繰り返すだけになった。

 

 それを確認してから、ケリーは懐から取り出した一枚の写真をゴブリンに見せた。

 

 その写真は、なにかの式典で撮影されたであろうもの。

 髭面の軍人が、胸に勲章をつけて、誰かと握手をしている写真だった。

 

「──モズ・ヴィライリー准将だ。知ってるか?」

 

 写真をひらひらさせながら、ケリーフォスは今回のターゲットの名を口にした。

 

 ケリーたちにとって、『ズ・バグア盗賊団殲滅依頼』の方はあくまで()()()だった。

 

 本命は──この盗賊団の裏で糸を引いていると思われる、賞金首(バウンティ)の方だ。

 

 モズ・ヴィライリー()准将は、悪名高いテロリストである。

 

 今は崩壊した帝国主義国家の残党で、自分とともに落ち延びた麾下(きか)の軍隊を指揮し、一時は《大都市》の一角を占拠すらした。

 

 だが、4年前に彼の勢力は討伐され。

 彼自身もまた、行方不明という扱いになっていた。

 

 ところが──件の依頼人が、街の防衛戦のさなかで、モズ・ヴィライリーらしき男を見たと言ったのだ。

 

 伝説的な将官が、子鬼族(ゴブリン)どもの指揮などと──

 傭兵仲間たちは眉唾だと吐いて捨てたが、ケリーはむしろ、合点がいった。

 

 百程度の子鬼族(ゴブリン)が、あの規模の街を攻め落とすなど、率いているのが伝説的な将官でもなければ、説明がつかない。

 

「この男の居場所と、仲間の配置を吐け。

 さもないと──あ?」

 

 ケリーが、捕らえた子鬼族への尋問をはじめようとしたときだった。

 腕の中の子鬼がとつぜん痙攣し始め、動かなくなってしまったのだ。

 

 彼はにわかに目を細める。

 

「……マジかよ。子鬼族(ゴブリン)が自害しやがった」

 

 奥歯に、毒薬でも仕込んでいたらしい。

 本当に()()()()()だな──と思わず感心してしまう。

 ケリーは手についた血の泡を拭き取りながら、子鬼の死骸を足元の灰に埋めて隠蔽した。

 

 通信機に、小声で話しかける。

 

「フライディ。尋問は無理そうだ。」

 

『え、どうして?』

 

「こいつらゴブリンのクセして、一丁前に軍人してやがるってことだ。

 だが、かえって確信が高まった。

 ──賞金首(モズ)は、確実にこの街にいる。」

 

『なるほど、よーし……やる気出てきたぞ。

 それじゃあ、さっさとそいつとっ捕まえて、パーっとやろう!

 たくさん賞金も稼げるし、街の人からも感謝されるだろうし、良い依頼だねえ』

 

「そうだな? このクラスの賞金首を捕まえれば、(ふね)の燃料代を払って、弾薬代を差し引いて、ガジドア爺さんの酒代をまかなっても……

 しばらくは、遊んで暮らせちまうさ。フライディ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい有り様だな……」

 

 市街地の物陰に隠れながら、ケリーフォスはそうこぼした。

 

 血と硝煙の匂い立ち込める。

 街の中は、ひどく荒れ果てていた。

 

 あちこちをライフルを持った子鬼族(ゴブリン)どもが巡回しており。

 路地の至る場所に、住民たちの死体が山と積まれている。

 

 この街から逃げようとして撃ち殺されたか……

 あるいは、見せしめとして殺されたのか。

 

 人々はみな、怯えきった生気のない表情で。

 武装したゴブリンたちに支配される中での暮らしを、受け入れているようだった。

 

 しかし、やはりと言うべきか、ゴブリンたちは妙に秩序だっていた。

 

 野生下のゴブリンならば及んでいるであろう、本能に任せた殺戮や略奪などの凶行には、表面上およんでおらず。

 その証拠に、街は、店や行政など最低限の機能を残したままに、支配されていた。

 

(問題は、どうやって、賞金首(モズ)の居所に当たりをつけるかだな。)

 

 どうしたものか。

 建物の陰で壁に背をもたれながら、ケリーフォスは考える。

 

 方法の一つとして考えられるのは、茶や酒、葉巻(シガー)など、高級な嗜好品の流れを追うことだ。

 

 裏で糸を引いている──と思われるモズ以外、この街にいるのは、弾圧される住民たちと、嗜好品の味なんてろくにわからんゴブリンどもだけだ。

 その流れを追っていけば、いずれモズにたどり着ける可能性は高い。

 

 問題は、それだと時間がかかりすぎることだ。

 敵地のど真ん中で、悠長に特定品目の物流を追うなどという自殺行為、ケリーフォスはまっぴらだった。

 

 なら、どうするか。

 (ゴブリン)どもに聞けないのなら、住民に聞くのが一番早いだろう。

 

「──や、やめて……はなして!」

 

 そう結論付けたケリーの耳を、かん高い悲鳴が()いた。

 

「…………」

 

 身をひそめながらその方向を見やると……

 上等そうな身なりの少女が、大型(ホブ)のゴブリンに腕を掴まれ、どこかへ連れていかれようとしていた。

 

 ケリーはじっとして、物陰からその様子を見守る。

 

(……モズへの献上品か?)

 

 あの身なりからして、街の権力者の娘か何かだろう。

 

 賞金首(モズ)への献上品として連れていかれようとしているなら、このまま追跡して居場所を特定した方がいいが……

 

 もし、ゴブリンどもが自分たちで()()()つもりならば、助けて出して、彼女から情報を聞き出すのがいい。

 

 そう考え、しばし観察していたケリーフォスだったが……

 

「……まあ、()()か。

 はは、溜まるもんは溜まるってか……?」

 

 少女が、大通りではなく裏路地に引っ張られていくのを見て、音もなく駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめて──はなして!」

 

 市長の娘、マリー・クロスフォードにとって、この一か月間は、悪夢そのものだった。

 

 祖父が立ち上げ、父が発展させた街だった。

 いまはやや寂れてはいるが、生まれ育ったマリーにとっては、愛する故郷だった。

 住む人々も、名産品の料理も、みんな大好きだった。

 

 だが今は──小鬼の軍勢に支配され、見る影もない。

 

 小鬼が、何倍もの数いた街の衛兵隊をたやすく撃破し、街の防壁を突破する光景は、信じられないものだった。

 

 彼女の知る子鬼とは、数だけが取り柄の烏合の衆という認識であったが──この子鬼たちは、違う。

 マリーの素人目でも見間違いようなく、彼らは訓練された兵士だった。

 

「ひっ……」

 

 大柄のホブ・ゴブリンに腕を掴まれ、連れて行かれた先。

 路地裏の奥では、人間のあらゆる体液が混じり合ったような、酸っぱい匂いがした。

 

 姿を消した街の娘たちが、裸同然の格好で倒れており。

 その何倍もの数、ひしめき合うようにゴブリンたちがこちらを見ていた。

 

 ここは、ゴブリンたちの"発散場所"のようだった。

 

 十を超える、緑色の子鬼たちのねばっこい視線がマリーの胸を、腰を、脚をなぞっていく。

 視線を浴びた場所が、腐食していくような、そんな感覚がした。

 

 ホブ・ゴブリンの丸太のような腕に髪を乱暴に掴まれ、地面に引き倒された。

 

 マリーの衣服を破ろうと、いくつもの手が群がってくる。

 

(ああ……せめて、父さまとアインだけでも……)

 

 涙が流れ落ちる、まぶたを閉じ、マリーは。

 市長である自らの父と、街の外へ助けを呼びに行くと言って姿を消した、幼馴染の無事を祈った。

 

「おっと……そこまでだ。子鬼ども」

 

 ──()()()

 なにかをねじ切るような音とともに、路地裏の入口の方から、そんな声が響いた。

 

 この地獄に似つかわしくない。まるで、街角で喧嘩を諌めるかのような、軽い調子の男の声だった。

 

「……?」

 

 マリーが顔を上げ、そちらを見ると……

 ──そこには、首を180度捻転させられ。

 体は正面を向きながらも、禿げた後頭部をこちらに晒した、ホブ・ゴブリンの死体が立っていた。

 

 ゴブリンたちは、仲間の死体に動転した素振りを見せる。

 

 死体の陰から飛び出てきた、その男は。

 その隙を見逃すほど間抜けでも、慈悲深くもないようだった。

 

「よっと……」

 

 首筋にナイフの一線を走らされ、喉笛から鮮血を吹き出してゴブリンが一匹倒れる。

 

 そこでようやく彼らは我に返ったようで、一斉に男へと飛びかかるが──

 

 そこからの流れは、あまりに一方的なものだった。

 

 彼は、閉所での戦闘に精通しているようだった。

 

 群がってくるゴブリンたちを躱し、透かし──時には遮蔽として扱い、一対多の袋叩きを許さない。

 

 そして、ほんの一瞬の虚を突いては、彼らの急所にナイフを滑らせる。

 

 わずか数分後。

 結局その男は、背中のライフル銃を使うまでもなく。

 ナイフ捌きと体術だけで、12匹のゴブリンを血溜まりに沈めてしまった。

 

「ふう……うまいこと不意打ちできて助かったな……」

 

 その男は、コンバット・スーツの袖でナイフに付着した血と脂を拭いながら。

 軽い運動のあとのようなため息混じりに、マリーに問いかけてくる。

 

「へい、大丈夫かい。お嬢さん。」

 

 死体の丘の中心から、ごつごつとした防塵マスクと軍用装備の男が。 

 軽々しい声で、ひらひらと手を降ってきた。

 

「──ぁ。ぁ。」

 

 あまりの光景、口はパクパクと空気を()むばかりで、言葉を吐き出すことはない。

 

 男は、地面にへたり込み、何も言えないマリーを見て。

「あ……そうか。こんなマスクしてちゃあな……」といいながら、防塵マスクのロックを外して、頭に被っていたそれを脱いだ。

 

「あ、あなた、は…………?」

 

 破裂しそうだった心臓が落ち着きを取り戻し、マリーはようやくそう口にする事ができた。

 

 マスクを外した男は──

 どこか軽薄げな雰囲気を(たた)えた、黒髪の青年は。

 

 ナイフを腰のホルダーにしまってから、地面のマリーに手を差し伸べて、こう言った。

 

「──俺の名は、ケリーフォス。傭兵だ。

 金儲けついでに、あんたの街を助けてやるから……

 協力しろ、お嬢さん。」

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