荒廃惑星で気ままな傭兵ぐらしを。 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
「はあ……まったく、ツイてないな……」
苦労して追い詰めた賞金首をアスタルテにかっさらわれた、ケリーフォスは……
ひどい徒労感を覚えながらも、寝転がっていた床から起き上がった。
蹴り飛ばされた右半身がずきずき痛むが、なんとか動けそうではあった。
「肩、貸そっか?」
心配げに聞いてきたフライディに「いや……いい。骨が折れてる感じじゃない。」と、ストレッチして体の状態を確かめつつケリーは返した。
とはいえ、打撲と捻挫は全身に十か所はありそうではある。
(本当にツイてない。)
ケリーは泣きたい気分をため息でごまかした。
高額賞金首をあてにして、虎の子の
それもこれもすべて、あのフリーの女傭兵とブッキングしたせいだ。
「ボ、ボス!!」「ゴブジデスカ!!!」
と、その時。
泣きっ面に蜂が殺到してくるかのごとく、廊下の方からゴブリンたちの声と、足音が聞こえてきた。
ライフルで武装した、五匹ほどのゴブリンたちは……
斬撃によってズタズタに引き裂かれた執務室と、彼らのボスであるモズ・ヴィライリーの首なし死体を目に映すと。
みるみる顔を怒りに染めて、ケリーフォスとフライディにさけぶ。
「ヨ、ヨクモ、ボスヲ……」
「あ~……無駄を承知で、言い訳するけどさ……
きみたちの親分をやったのは、わたしたちじゃないんだよね~……」
「ダマレ!」「コロス!」
「コノ、タテモノハ、包囲サレテイル! ニゲラレルトオモウナヨ!!」
「デスヨネ~……ケリー。もうひと頑張り、いけそう?」
ゴブリンらに対する、弁明とも言えない弁明に失敗したフライディは。
先ほど、部屋の天井をぶち破るのにも使った大型の
建物の外からも、何十というゴブリンたちの声が聞こえてきた。
包囲されているというのは、はったりではないらしい。
臨戦態勢のフライディに対し、ケリーは。
一応はナイフに指をかけつつも、目の前のゴブリンたちとは別のものを見ているようだった。
「……いや。そろそろだ。
ガジドアにも、この建物の座標は送ってある。」
ケリーが、そうつぶやいた数秒後。
建物の外から、機関銃の掃射音と。ゴブリンどもの悲鳴が聞こえてきた。
「ナンダ!?」
「おっと、よそ見厳禁!」
「ガ──ッ」
目の前のゴブリンたちが外の異変に気が付いた隙をついて、フライディがトマホークのフルスイングで彼らをまとめて薙ぎ払った。
防弾チョッキの上からの、凄まじい
外見は細腕の天使である彼女の、見た目不相応な破壊的威力の一撃により、五匹のゴブリンは一掃された。
「ナイススイング、フライディ選手。」
「ぐぇえ、ジャケットに返り血がべっちょりと!」
ケリーは、まるで何かのコーチかのようにフライディを褒めたが……当のフライディは。
勢いよく弾けたゴブリンの血を浴びて、悲鳴を上げた。
「まあ……固まるまえに洗えば、落ちるだろ。たぶん……」
「うえええぇ……!」
お気に入りのジャケットがゴブリンの返り血にまみれ、げんなりとしているフライディを慰めつつ。
二人は、建物の外に出た。
街には銃声と、ゴブリンたちの悲鳴が響いていた。
建物の外を包囲しているはずのゴブリンたちは、逃げまどい。
機関銃を備えた四つ足の
反撃の機銃で、まるで作業かのように、死体の山を作り上げていく。
そんな鋼の無人機──が、四機。
外に出たケリーたちを、待ち構えていた。
ケリーフォスの
かつて《企業》の探査ユニットだったソレは今や、野戦特化のカスタムを施され。
ケリーたちの傭兵活動を支える戦力として、運用されている。
ケリーとフライディは、
「これで、終わり!!」
──ほどなくして、街に静寂が訪れた。
最後のゴブリンがフライディの手斧で叩き潰され、子鬼の軍隊『ズ・パグア盗賊団』は晴れて壊滅した。
「ふぃ……疲れたねぇ〜。
汗と返り血で全身びっしょり。
シャワー浴びたいなぁ……」
「ほんとだよ……」
掃討が済んだことを確認し、ケリーフォスとフライディは。
ようやく地面に座り込んで、小休止を得た。
「寄っかかってくるなよ……フライディ。汗臭い……」
「はあ? お互いさまでしょ〜!
うりうり……って、んん?」
そこで、二人は。
建物の中から、街の住民たちが、恐る恐ると顔を出して来ていることに気がついた。
外から、銃声もゴブリンの声もしなくなったことに気がついたのだろう。
街の人々は、地面に散らばるゴブリンの死体の山を見たあと。
へたり込むケリーたちを見て、にわかにざわめき出した。
「──市民の皆さん!
彼らが、野蛮な子鬼たちから、この街を開放してくれた英雄です!」
市民たちのざわめきを切り裂くように、よく通る少女の声が響いた。
ケリーフォスが先ほどゴブリンたちから助けた、市長の娘マリーだった。
マリーは、ケリーフォスのもとに駆け寄ってくると。
感極まった表情で、彼の手を取ってきた。
「ケリーフォス様……!
まさか本当に、子鬼たちから街を救ってくださるとは……!」
それにケリーは、「あー……」とどこか居心地が悪そうに頭を掻く。
街の救済よりも賞金首が目的だった手前、真っ直ぐな感謝の言葉が、なんとなくむず痒かった。
ケリーフォスと握り合わされた、マリーのしなやかな手を。
フライディは、ジトッとした目が見下ろす。
「……あのー? わたしも、なかなか頑張ったんですけどー?」
自分を指さしながらそう言った、フライディの声は。
街が救われたということをようやく実感した住民たちがあげた、地鳴りのような歓声によって、かき消されることとなった。
夜。
ケリーフォスとフライディは、街を救った英雄として、盛大な歓待を受けていた。
街全体を巻き込んだお祭り騒ぎの中で、砂漠の街の酒やら肉料理やらを、次から次へと振る舞われる。
「ふう……」
ケリーフォスは、その喧騒の中から抜けて、ひとり夜風に当たっていた。
酒を飲むのも、大人数で騒ぐのも嫌いじゃないが、その中心になるのは、あまり好きではなかった。
「……ケリーフォス様」
ケリーの背後から、マリーが声をかけた。
「依頼の、報酬についてなのですが……」
依頼。そう言われて、ケリーはああそういえばと思い出した。
元々ここへは(賞金首のついでではあるが)、ズ・パグア盗賊団の殲滅依頼を受けてやってきたのだ。
提示された報酬額が、賞金首に比べるとあまりに安かったせいで、頭からすっぽり抜け落ちていた。
「ああ。そうだった。
この街から命からがら逃げ出してきた、アインという男に依頼を受けた。」
「……そう、ですか。
その、アインは……無事なのでしょうか?」
沈痛な面持ちで聞いてきたマリーに、ケリーフォスはあっけらかんと返す。
「さあな。俺は、ギルドの仲介で仕事を受けただけだ。
その男の、顔も見たことはない。」
「……わかりました。ありがとうございます。」
マリーは礼を言うと。
「こちら、約束額の報酬になります。
ほんとうは、もっとお渡ししたいのですが、街にもあまり余裕がなく……」
そう言い、懐から、貨幣で膨らんだ袋を差し出した。
ケリーフォスが受け取り、中身を確認すると……
この手の傭兵雇用の相場からは少なすぎる、しかし事前に提示された金額通りの貨幣が、几帳面に詰め込まれていた。
「問題ないな。」
彼が頷いて、報酬をポーチにしまうと。
マリーは安心したように、ため息を吐いた。
そして彼女は再び、深く頭を下げてくる。
「この度は街を救っていただき、本当に──……」
「──マリー!!」
その時、聞き覚えのない声が響いた。
ケリーフォスがそちらを向くと、息を切らしたボロボロの少年が。
マリーの名を呼びながら駆け寄ってきていた。
「アイン──生きてたの?」
「なんとか砂漠を渡って、帰ってきたよ。
よかった、街は、助かったみたいで……!」
マリーと少年は旧知のようで、しばし再開を喜び涙ながらに抱き合っていたが。
やがて少年がケリーフォスの姿に気がつくと、慌てたように姿勢を正して頭を下げてきた。
「あ、あなたが、僕の依頼を受けてくれた、傭兵さんでしょうか。
この街を、幼馴染のマリーを救ってくれて、本当にありがとうございました……
あまり、満足な報酬を出せなかったのに、助けに来てくださって……!」
「ああ、ほんとに。安い依頼だったよ。
俺たちは、朝になる前にこの街を
見送りとかは、勘弁だ。」
ケリーは気だるげにそう言って、首にぶら下げていた無骨な防塵マスクを被り直した。
「そ、そんな、もう行ってしまうのですか?
せめて、もう少しもてなしを……」
「赤字だったんでな。
すぐに、次の仕事を探しに行かなきゃならない。」
そう言い残し、ケリーフォスは二人に背を向けると、夜闇に消え──
「ケーリぃー! 楽しんでるー?」
──……消えようとして。
宴会の方から、酒瓶片手に走ってきたフライディに抱きつかれて、地面に倒された。
酒臭い金髪の天使に押しつぶされたまま、ケリーは小さく笑った。
「お前は……楽しんでそうだな。フライディ?」
「ね、この地酒、ほんっとクるかりゃ……
ケリーも飲みなしゃいっ! ほらっ、ほらっ! ねえ〜!!」
「もう帰るぞ、フライディ。明日からまた仕事だ。」
「しごとっ……! や、やだっ……やだぁ〜!!」
暴れるフライディを米俵のように担いで、ケリーフォスは今度こそ暗闇に消えていった。
マリーとアインは。
困ったような表情で顔を見合わせてから、その背中が完全に見えなくなるまで見送るのだった。
『ズ・パグア盗賊団殲滅依頼・《達成》』
報酬:130万Cr*1