荒廃惑星で気ままな傭兵ぐらしを。   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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『ズ・パグア盗賊団殲滅依頼 《達成》』-彩暦147年-

「はあ……まったく、ツイてないな……」

 

 苦労して追い詰めた賞金首をアスタルテにかっさらわれた、ケリーフォスは……

 ひどい徒労感を覚えながらも、寝転がっていた床から起き上がった。

 

 蹴り飛ばされた右半身がずきずき痛むが、なんとか動けそうではあった。

 

「肩、貸そっか?」

 

 心配げに聞いてきたフライディに「いや……いい。骨が折れてる感じじゃない。」と、ストレッチして体の状態を確かめつつケリーは返した。

 とはいえ、打撲と捻挫は全身に十か所はありそうではある。

 

(本当にツイてない。)

 

 ケリーは泣きたい気分をため息でごまかした。

 高額賞金首をあてにして、虎の子の異分子(ペレグリウム)弾頭まで投入したというのに、残ったのはケガと負債だけ。

 それもこれもすべて、あのフリーの女傭兵とブッキングしたせいだ。

 

「ボ、ボス!!」「ゴブジデスカ!!!」

 

 と、その時。

 泣きっ面に蜂が殺到してくるかのごとく、廊下の方からゴブリンたちの声と、足音が聞こえてきた。

 

 ライフルで武装した、五匹ほどのゴブリンたちは……

 斬撃によってズタズタに引き裂かれた執務室と、彼らのボスであるモズ・ヴィライリーの首なし死体を目に映すと。

 みるみる顔を怒りに染めて、ケリーフォスとフライディにさけぶ。

 

「ヨ、ヨクモ、ボスヲ……」

 

「あ~……無駄を承知で、言い訳するけどさ……

 きみたちの親分をやったのは、わたしたちじゃないんだよね~……」

 

「ダマレ!」「コロス!」

「コノ、タテモノハ、包囲サレテイル! ニゲラレルトオモウナヨ!!」

 

「デスヨネ~……ケリー。もうひと頑張り、いけそう?」

 

 ゴブリンらに対する、弁明とも言えない弁明に失敗したフライディは。

 先ほど、部屋の天井をぶち破るのにも使った大型の手斧(トマホーク)を構え、その水色の大きな目をケリーに流しつつそう聞いてきた。

 

 建物の外からも、何十というゴブリンたちの声が聞こえてきた。

 包囲されているというのは、はったりではないらしい。

 

 臨戦態勢のフライディに対し、ケリーは。

 一応はナイフに指をかけつつも、目の前のゴブリンたちとは別のものを見ているようだった。

 

「……いや。そろそろだ。

 ガジドアにも、この建物の座標は送ってある。」

 

 ケリーが、そうつぶやいた数秒後。

 建物の外から、機関銃の掃射音と。ゴブリンどもの悲鳴が聞こえてきた。

 

「ナンダ!?」

 

「おっと、よそ見厳禁!」

 

「ガ──ッ」

 

 目の前のゴブリンたちが外の異変に気が付いた隙をついて、フライディがトマホークのフルスイングで彼らをまとめて薙ぎ払った。

 防弾チョッキの上からの、凄まじい衝撃(インパクト)。ひとかたまりの小鬼肉団子が出来上がる。

 

 外見は細腕の天使である彼女の、見た目不相応な破壊的威力の一撃により、五匹のゴブリンは一掃された。

 

「ナイススイング、フライディ選手。」  

 

「ぐぇえ、ジャケットに返り血がべっちょりと!」

 

 ケリーは、まるで何かのコーチかのようにフライディを褒めたが……当のフライディは。

 勢いよく弾けたゴブリンの血を浴びて、悲鳴を上げた。

 

「まあ……固まるまえに洗えば、落ちるだろ。たぶん……」

 

「うえええぇ……!」

 

 お気に入りのジャケットがゴブリンの返り血にまみれ、げんなりとしているフライディを慰めつつ。

 二人は、建物の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 街には銃声と、ゴブリンたちの悲鳴が響いていた。

 

 建物の外を包囲しているはずのゴブリンたちは、逃げまどい。

 機関銃を備えた四つ足の無人機(ドローン)によって、蹂躙されている。

 

 無人機(ドローン)は、ゴブリンの放つ口径の小さいライフル弾をまるで受け付けず。

 反撃の機銃で、まるで作業かのように、死体の山を作り上げていく。

 

 そんな鋼の無人機──が、四機。

 外に出たケリーたちを、待ち構えていた。

 

 ケリーフォスの(ふね)に乗るエンジニア、ガジドアによって重武装化された、自律兵器だ。

 かつて《企業》の探査ユニットだったソレは今や、野戦特化のカスタムを施され。

 ケリーたちの傭兵活動を支える戦力として、運用されている。

 

 ケリーとフライディは、無人機(ドローン)が打ち漏らした少数のゴブリンを、プチプチと潰していくだけで良かった。

 

 

「これで、終わり!!」

 

 ──ほどなくして、街に静寂が訪れた。

 最後のゴブリンがフライディの手斧で叩き潰され、子鬼の軍隊『ズ・パグア盗賊団』は晴れて壊滅した。

 

「ふぃ……疲れたねぇ〜。

 汗と返り血で全身びっしょり。

 シャワー浴びたいなぁ……」

 

「ほんとだよ……」 

 

 掃討が済んだことを確認し、ケリーフォスとフライディは。

 ようやく地面に座り込んで、小休止を得た。

 

「寄っかかってくるなよ……フライディ。汗臭い……」

 

「はあ? お互いさまでしょ〜!

 うりうり……って、んん?」

 

 そこで、二人は。

 建物の中から、街の住民たちが、恐る恐ると顔を出して来ていることに気がついた。

 

 外から、銃声もゴブリンの声もしなくなったことに気がついたのだろう。

 街の人々は、地面に散らばるゴブリンの死体の山を見たあと。

 へたり込むケリーたちを見て、にわかにざわめき出した。

 

 

「──市民の皆さん! 

 彼らが、野蛮な子鬼たちから、この街を開放してくれた英雄です!」

 

 市民たちのざわめきを切り裂くように、よく通る少女の声が響いた。

 

 ケリーフォスが先ほどゴブリンたちから助けた、市長の娘マリーだった。

 

 マリーは、ケリーフォスのもとに駆け寄ってくると。

 感極まった表情で、彼の手を取ってきた。

 

「ケリーフォス様……! 

 まさか本当に、子鬼たちから街を救ってくださるとは……!」

 

 それにケリーは、「あー……」とどこか居心地が悪そうに頭を掻く。

 

 街の救済よりも賞金首が目的だった手前、真っ直ぐな感謝の言葉が、なんとなくむず痒かった。

 

 ケリーフォスと握り合わされた、マリーのしなやかな手を。

 フライディは、ジトッとした目が見下ろす。

 

「……あのー? わたしも、なかなか頑張ったんですけどー?」

 

 自分を指さしながらそう言った、フライディの声は。

 街が救われたということをようやく実感した住民たちがあげた、地鳴りのような歓声によって、かき消されることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 ケリーフォスとフライディは、街を救った英雄として、盛大な歓待を受けていた。

 街全体を巻き込んだお祭り騒ぎの中で、砂漠の街の酒やら肉料理やらを、次から次へと振る舞われる。

 

「ふう……」

 

 ケリーフォスは、その喧騒の中から抜けて、ひとり夜風に当たっていた。

 

 酒を飲むのも、大人数で騒ぐのも嫌いじゃないが、その中心になるのは、あまり好きではなかった。

 

「……ケリーフォス様」

 

 ケリーの背後から、マリーが声をかけた。

 

「依頼の、報酬についてなのですが……」

 

 依頼。そう言われて、ケリーはああそういえばと思い出した。

 元々ここへは(賞金首のついでではあるが)、ズ・パグア盗賊団の殲滅依頼を受けてやってきたのだ。

 

 提示された報酬額が、賞金首に比べるとあまりに安かったせいで、頭からすっぽり抜け落ちていた。

 

「ああ。そうだった。

 この街から命からがら逃げ出してきた、アインという男に依頼を受けた。」

 

「……そう、ですか。

 その、アインは……無事なのでしょうか?」

 

 沈痛な面持ちで聞いてきたマリーに、ケリーフォスはあっけらかんと返す。

 

「さあな。俺は、ギルドの仲介で仕事を受けただけだ。

 その男の、顔も見たことはない。」

 

「……わかりました。ありがとうございます。」

 

 マリーは礼を言うと。

 

「こちら、約束額の報酬になります。

 ほんとうは、もっとお渡ししたいのですが、街にもあまり余裕がなく……」

 

 そう言い、懐から、貨幣で膨らんだ袋を差し出した。

 

 ケリーフォスが受け取り、中身を確認すると……

 この手の傭兵雇用の相場からは少なすぎる、しかし事前に提示された金額通りの貨幣が、几帳面に詰め込まれていた。

 

「問題ないな。」

 

 彼が頷いて、報酬をポーチにしまうと。

 マリーは安心したように、ため息を吐いた。

 

 そして彼女は再び、深く頭を下げてくる。

 

「この度は街を救っていただき、本当に──……」

 

「──マリー!!」

 

 その時、聞き覚えのない声が響いた。

 

 ケリーフォスがそちらを向くと、息を切らしたボロボロの少年が。

 マリーの名を呼びながら駆け寄ってきていた。

 

「アイン──生きてたの?」

 

「なんとか砂漠を渡って、帰ってきたよ。

 よかった、街は、助かったみたいで……!」

 

 マリーと少年は旧知のようで、しばし再開を喜び涙ながらに抱き合っていたが。

 やがて少年がケリーフォスの姿に気がつくと、慌てたように姿勢を正して頭を下げてきた。

 

「あ、あなたが、僕の依頼を受けてくれた、傭兵さんでしょうか。

 この街を、幼馴染のマリーを救ってくれて、本当にありがとうございました……

 あまり、満足な報酬を出せなかったのに、助けに来てくださって……!」

 

「ああ、ほんとに。安い依頼だったよ。

 俺たちは、朝になる前にこの街を()つ。

 見送りとかは、勘弁だ。」

 

 ケリーは気だるげにそう言って、首にぶら下げていた無骨な防塵マスクを被り直した。

 

「そ、そんな、もう行ってしまうのですか?

 せめて、もう少しもてなしを……」

 

「赤字だったんでな。

 すぐに、次の仕事を探しに行かなきゃならない。」

 

 そう言い残し、ケリーフォスは二人に背を向けると、夜闇に消え──

 

「ケーリぃー! 楽しんでるー?」

 

 ──……消えようとして。

 宴会の方から、酒瓶片手に走ってきたフライディに抱きつかれて、地面に倒された。

 

 酒臭い金髪の天使に押しつぶされたまま、ケリーは小さく笑った。

 

「お前は……楽しんでそうだな。フライディ?」

 

「ね、この地酒、ほんっとクるかりゃ……

 ケリーも飲みなしゃいっ! ほらっ、ほらっ! ねえ〜!!」

 

「もう帰るぞ、フライディ。明日からまた仕事だ。」

 

「しごとっ……! や、やだっ……やだぁ〜!!」

 

 暴れるフライディを米俵のように担いで、ケリーフォスは今度こそ暗闇に消えていった。

 

 

 マリーとアインは。

 困ったような表情で顔を見合わせてから、その背中が完全に見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 

 

『ズ・パグア盗賊団殲滅依頼・《達成》』

 報酬:130万Cr*1

*1
1Crはだいたい1.2円ぐらい※ケリー談

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