荒廃惑星で気ままな傭兵ぐらしを。   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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『大都市』-彩暦147年-

 移動拠点のリビングルーム。

 ソファに寝転がって、近場の《大都市》から違法受信したテレビ番組を見ているフライディをよそに。

 

 ケリーフォスは、次の仕事に向けての準備をしていた。

 

『ようやく追い詰めたぞ! C級賞金首、《銃腕のロイス》!』

【──"今回の傭兵24時"──スタッフが密着するA級傭兵《騎士王シャルル》が追い詰めたのは、右腕をマシンガン付きの義体に改造した《銃腕のロイス》──】

 

「……ねえケリー、わたしたちにも、こういうテレビの密着取材とか来ないかな?

 ケリーもたしかA級傭兵だよね?」

 

 名前も売れて、良さそうじゃない?

 そう言ってきたフライディに、ケリーはラップトップPCの画面とにらめっこしながら「ないない」と返す。

 

「あのなあ、フライディ……

 そんなもんに、本当に腕の良い傭兵は出ないんだよ。

 そいつもどうせ、自己プロデュース能力だけのお飾りだろ~……?」

 

「えー……?」

 

()け、我が麾下(きか)の勇士たちよ!』

【──騎士王の号令とともに、12体の超高級カスタムドロイドがC級賞金首《銃腕のロイス》へと襲いかかる──】

【自慢のマシンガンも、ドロイドたちの装甲には意味をなさない──】

【──これが、A級傭兵、《騎士王》の"決闘"だ──】

『視聴者のみなさん! この私シャルル特別モデルのドロイド、《十二勇士》は、当番組のスポンサーでもある《ギアモジュール・インダストリー社》のオンラインストアから購入可能ですよ! そしてなんとなんと今ならこの高周波騎士剣(バイブレーション・ナイトソード)もさらにさらに番組終了から30分以内なら──』

 

 

「うお〜! ケリー、これはヤバくない?  

 番組終了から30分以内なら、15%オフだって!」

 

「お前みたいなのがいるからこいつらが儲かるんだぞ~?」

 

 目をキラキラさせてテレビを指さすフライディ。

 ケリーは深い溜息を吐きながら、残念なものを見るような視線を、光輪(ヘイロウ)を浮かせた青混じりの金髪へと送った。

  

「俺みたいなのは、仕事のやり口が地味すぎて()えないから、スポンサーなんて付かないのさ。

 傭兵業も今どきキャラクター商売、世知辛いもんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

『──ケリーフォスさん。お久しぶりです。』

 

「お……繋がったか。」

 

 と……その時。ケリーのラップトップPCの画面に、ビデオ通話の画面が表示された。

 

 ウィンドウの中、細い青髪を総髪(オールバック)にした若い男が……

 (ふち)の無い眼鏡の向こうから、疲労と神経質さがにじんだ瞳でケリーフォスを見ている。

 

 ケリーは親しげに表情をゆるめて口を開く。

 

「ノウス……お前ってやつは、顔を合わせるたびに出世していくな。

 執務室がまた広くなったんじゃないか?」

 

 ノウスと呼ばれた男は、赤褐色をした一枚板のデスクに肘を立てながら『ははは……今は、プラシノの首席補佐官ですよ。思ってたより良いものじゃないですがね。』と。

 疲労でたるんだ目元を細めて言った。

 

「出会ったときは、出世欲で目をギラつかせた若い財務官僚だったのに……

 今や《大都市》の重役か。雲の上の存在だな、本当」

 

『やめてください……あの傭兵ケリーフォスにへつらわれたら、生きた心地がしません。

 魔族の組織を単独で壊滅させられるような男は、どの《大都市》にだってそういない……

 あなたは、私の知る限り最高の傭兵だ。』

 

「……いや、あれは……まあ、いいや。

 とにかく、リップサービスでもうれしいね」

 

 ばつが悪そうに頭をかくケリーフォスに、ノウスは「事実ですから」と返した。

 

『今回の()()()()()()()()に、あなたを指名したのが、その証拠です。』

 

 そのとき。

 重々しい雰囲気で、本題を切り出そうとするノウスの視線が、ケリーの右後ろにとまった。

 

 そして、わずかに見開かれる。

 

「おい、仕事中だぞ、フライディ……」

 

「気になるじゃん。」

 

 ビデオ通話の画面を、フライディが覗き込んでいた。

 

光輪(ヘイロウ)……その女性は、思徒(タルパズ)ですか?

 人の感情に共振した、魔力粒子の受肉体……

 本物をお目にかかるのは、人生で二度目です。』

 

「ああ。今の相棒の、フライディだ。

 思徒(タルパズ)だが、ちゃんと申請してるから問題ない。」

 

「どもー、申請されてるフライディでーす。

 よろしくねー? 眼鏡くん。」

 

 ひらひらと手を振る金髪の天使を、ノウスはしげしげと見つめる。

 

『……たしかに、首輪(チョーカー)付きのようですが……

 フライディさんは、何の感情から生まれた種類の思徒(タルパズ)でしょうか?』

 

「あー……」

 

 ケリーは「教えていいか?」とフライディに聞くが。

 フライディは目元に影を落として「ダメ! プライバシー! コンプレックスです!」と吐き捨てた。

 

「……悪い。種類は教えられないが、危ないやつではない。

 言うこと聞くし、待てもできる。

 俺が責任をもって、ちゃんと面倒見てるから。」

 

「あれ……ペットかなにかの話してる?」

 

『ええ。問題ありません。個人的な興味からの質問でしたので……

 それでは、本題に入らせてください。』

 

 ノウスは、一瞬の沈黙の後。

 眼鏡の位置を直しながら、こう切り出した。

 

『私たちの……《緑の大都市(ポリス・プラシノ)》の危機です。

 単刀直入に──非登録の《地球人》が、この都市に潜伏している可能性がある。』

 

 

 地球人。

 

 その言葉に、ケリーフォスの心臓が、密かに跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この荒廃した灰の惑星には、七つの《大都市》が存在する。

 

 そのうちのひとつが、プラシノ──《緑の大都市(ポリス・プラシノ)》だ。

 

 プラシノは七つの《大都市》の中で、特に医療と食料生産に優れる都市であり。

 その人口は、大都市としても上位となる。

 

 それぞれ、多種多様な特色を持つ七つの《大都市》だが……

 一点だけ、共通することがある。

 

 ──《地球人》を五人、保有しているということだ。

 ()()として。そして()()()()()()として。

 

『地球人……《異彩》と呼ばれる異世界人の肉体にのみ蓄積する"異分子(ペレグリウム)"は。

 不意に活性化すれば、都市が焦土になりかねないほどの危険な粒子です。』

 

「その、地球人が……あんたのとこの都市に潜伏している、と?

 それが何故わかったんだ?」

 

 ケリーフォスの問いに、ノウスは唇を噛みながら答える。

 

『……街の各所に設置されている異分子(ペレグリウム)計器が、一週間ほど前から……

 時折、異常な数値を叩き出すようになったのです。

 基準値は0.05Gm(グリム)のところ、局所的には70もの数値が観測されました。

 これはいつ、大気中の魔力と結びついて爆裂してもおかしくない値です。』

 

「あー……それはつまり……かなり危険というか……

 ヤバイ状態ってことか?」

 

『ええ。ヤバイです。それもかなり。』

 

 ちんぷんかんぷんな数字やら単位やらを説明され、やや目眩をさせながら聞き返したケリーに。

 深刻な面持ちでノウスはそう返した。

 

『ケリーフォスさん。

 報酬はお約束しますし、前金もお支払いします。

 あなたには、早急に《緑の大都市(ポリス・プラシノ)》まで来ていただき……

 都市に潜伏している可能性のある地球人を、探し出してもらいたい。』

 

「……ああ。その依頼、請け負うよ。

 信頼できる地位の依頼主からの、高額な依頼だからな。断る理由もない。

 お前からのコンタクトがあった時点で、(ふね)の進路をプラシノに変更してある。

 今の座標からなら、4日ほどで到着するはずだ。」

 

『そうですか……はあ……良かった……

 ケリーフォスさん。貴方に請け負っていただけたら、私も少しは安心できるというものです。』

 

 緊張の糸が切れたかのように、深い息を吐くノウスに。

 ケリーは、やや呆れたように笑う。

 

「買いかぶりすぎだな。

 ……()()一流の傭兵の中では、そこまで抜きん出てるってわけじゃないんだよ。」

 

 そう言ってビデオ通話を切り。

 ケリーフォスは、ほんのわずかに目をひそめた。

 

 想定していたよりも、()()()()()仕事になりそうだ──と。




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