荒廃惑星で気ままな傭兵ぐらしを。 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
移動拠点のリビングルーム。
ソファに寝転がって、近場の《大都市》から違法受信したテレビ番組を見ているフライディをよそに。
ケリーフォスは、次の仕事に向けての準備をしていた。
『ようやく追い詰めたぞ! C級賞金首、《銃腕のロイス》!』
【──"今回の傭兵24時"──スタッフが密着するA級傭兵《騎士王シャルル》が追い詰めたのは、右腕をマシンガン付きの義体に改造した《銃腕のロイス》──】
「……ねえケリー、わたしたちにも、こういうテレビの密着取材とか来ないかな?
ケリーもたしかA級傭兵だよね?」
名前も売れて、良さそうじゃない?
そう言ってきたフライディに、ケリーはラップトップPCの画面とにらめっこしながら「ないない」と返す。
「あのなあ、フライディ……
そんなもんに、本当に腕の良い傭兵は出ないんだよ。
そいつもどうせ、自己プロデュース能力だけのお飾りだろ~……?」
「えー……?」
『
【──騎士王の号令とともに、12体の超高級カスタムドロイドがC級賞金首《銃腕のロイス》へと襲いかかる──】
【自慢のマシンガンも、ドロイドたちの装甲には意味をなさない──】
【──これが、A級傭兵、《騎士王》の"決闘"だ──】
『視聴者のみなさん! この私シャルル特別モデルのドロイド、《十二勇士》は、当番組のスポンサーでもある《ギアモジュール・インダストリー社》のオンラインストアから購入可能ですよ! そしてなんとなんと今ならこの
「うお〜! ケリー、これはヤバくない?
番組終了から30分以内なら、15%オフだって!」
「……いいか? お前みたいなのがいるから、こいつらが儲かるんだぞ? フライディ。」
目をキラキラさせてテレビを指さすフライディ。
ケリーは深い溜息を吐きながら、残念なものを見るような視線を、
それなりの腕がある傭兵なら、企業のスポンサー付きになってああいう仕事をした方が安定して稼げる。
実際、ケリーフォスにもそうした打診がないこともないが。
企業の犬なんてまっぴらなケリーはすべて断っていた。
目指すはあくまで、気ままな傭兵ぐらしなのだ。
『──ケリーフォスさん。お久しぶりです。』
「お……繋がったか。」
と……その時。ケリーのラップトップPCの画面に、ビデオ通話の画面が表示された。
ウィンドウの中、細い青髪を
ケリーは親しげに表情をゆるめて口を開く。
「ノウス……お前ってやつは、顔を合わせるたびに出世していくな。
執務室がまた広くなったんじゃないか?」
ノウスと呼ばれた男は、赤褐色をした一枚板のデスクに肘を立てながら『ははは……今は、プラシノの首席補佐官ですよ。思ってたより良いものじゃないですがね。』と。
疲労でたるんだ目元を細めて言った。
「出会ったときは、出世欲で目をギラつかせた若い財務官僚だったのに……
今や《大都市》の重役か。雲の上の存在だな、本当」
『やめてください……あの傭兵ケリーフォスにへつらわれたら、生きた心地がしません。
魔族の組織を単独で壊滅させられるような男は、どの《大都市》にだってそういない……
あなたは、私の知る限り最高の傭兵だ。』
「……いや、あれは……まあ、いいや。
とにかく、リップサービスでもうれしいね」
ばつが悪そうに頭をかくケリーフォスに、ノウスは「事実ですから」と返した。
『今回の
そのとき。
重々しい雰囲気で、本題を切り出そうとするノウスの視線が、ケリーの右後ろにとまった。
そして、わずかに見開かれる。
ビデオ通話の画面を、フライディが覗き込んでいた。
『……その女性は、
人の感情に共振した、魔力粒子の受肉体……
本物をお目にかかるのは、人生で二度目です。』
「ああ。今の相棒の、フライディだ。
「どうもー、申請されてるフライディでーす。
よろしくねー? 眼鏡くん。」
ひらひらと手を振る金髪の天使を、ノウスはしげしげと見つめる。
『……たしかに、
フライディさんは、何の感情から生まれた種類の
「あー……」
ケリーは「教えていいか?」とフライディに聞くが。
フライディは目元に影を落として「絶っ対にイヤ。プライバシー!」と吐き捨てた。
「……悪い。種類は教えられないが、危ないやつではない。
言うこと聞くし、待てもできる。
俺が責任をもって、ちゃんと面倒見てるから。」
「あれ……ペットかなにかの話してる?」
『ええ。問題ありません。個人的な興味からの質問でしたので……
それでは、本題に入らせてください。』
ノウスは、一瞬の沈黙の後。
眼鏡の位置を直しながら、こう切り出した。
『私たちの……《
単刀直入に──非登録の《地球人》が、この都市に潜伏している可能性がある。』
地球人。
その言葉に、ケリーフォスの心臓が、密かに跳ねた。
この荒廃した灰の惑星には、七つの《大都市》が存在する。
そのうちのひとつが、プラシノ──《
プラシノは七つの《大都市》の中で、特に医療と食料生産に優れる都市であり。
その人口は、大都市としても上位となる。
それぞれ、多種多様な特色を持つ七つの《大都市》だが……
一点だけ、共通することがある。
──《地球人》を五人、保有しているということだ。
『地球人……《異彩》と呼ばれる異世界人の肉体にのみ蓄積する"
不意に活性化すれば、都市が焦土になりかねないほどの危険な粒子です。』
「その、地球人が……あんたのとこの都市に潜伏している、と?
それが何故わかったんだ?」
ケリーフォスの問いに、ノウスは唇を噛みながら答える。
『……街の各所に設置されている
時折、異常な数値を叩き出すようになったのです。
基準値は0.05
これはいつ、大気中の魔力と結びついて爆裂してもおかしくない値です。』
「あー……それはつまり……かなり危険というか……
ヤバイ状態ってことか?」
『ええ。ヤバイです。それもかなり。』
ちんぷんかんぷんな数字やら単位やらを説明され、やや目眩をさせながら聞き返したケリーに。
深刻な面持ちでノウスはそう返した。
『ケリーフォスさん。
報酬はお約束しますし、前金もお支払いします。
あなたには、早急に《
都市に潜伏している可能性のある地球人を、探し出してもらいたい。』
「……ああ。その依頼、請け負うよ。
信頼できる地位の依頼主からの、高額な依頼だからな。断る理由もない。
お前からのコンタクトがあった時点で、
今の座標からなら、4日ほどで到着するはずだ。」
『そうですか……はあ……良かった……
ケリーフォスさん。貴方に請け負っていただけたら、私も少しは安心できるというものです。』
緊張の糸が切れたかのように、深い息を吐くノウスに。
ケリーは、やや呆れたように笑う。
「買いかぶりすぎだな。
……
そう言ってビデオ通話を切り。
ケリーフォスは、ほんのわずかに目をひそめた。
想定していたよりも、