貞操逆転世界の蛮族の村に転移した   作:ばんばんばんぞく

1 / 3
第1話 ガチ蛮族、男を捕える

 目を覚ます。

 同時、気づいた。

 

 ……え、ここ、どこ。

 

 目の前に広がるのは、荒れ果てた草原。

 枯れた野草に、へし折られた枝木の残骸、辺りには、何か、白い骨のような物も落ちている。

 

 ……その光景はまるでサバンナにでも来たのかと思うほど、衝撃的なものだった。

 

 ポツリと、頬が濡れる。

 

「……雨、降ってる」

 

 見上げた瞬間、真っ暗に染まった空が視界を支配した。

 

 ——瞬間、激しい雷雨が僕を襲いだす。

 

 いや、正確には。

 先ほどからも降っていたのだろう。

 動揺して気づいていなかっただけで。

 

「どこか、身を隠すとこっ」

 

 わからない、わからない、けど……!

 

 身に迫る命の危険。

 僕は必死に混乱する頭を押さえつけて、足を動かそうと、立ち上がる。

 

 歩き出すため。

 一歩目踏み出そうと、足を出したとき。

 

「ぐ、るる、ぐるるるっ」

 

 ——僕の身体は、硬直した。

 

「……え?」

 

 理由は一つ。

 目の前に、巨大な、黒い影が現れたからだ。

 

 雨に濡れて、漆黒に染まった体毛。

 口元に光る鋭い牙。

 そこには赤い液体がこびりついていた。

 

 見た目は、犬。

 いや、もしかすると、狼というやつの方が近いかもしれない。

 

 ——でも、これは、おかしいだろ。

 

 大きい、あまりにも大きすぎる。

 足だけで、僕の身長くらいあるんじゃないか。

 これじゃまるで、化け物だ。

 

 こんな生物、日本にいるわけがない。

 それどころか、世界中どこを探したっていないに違いない。ゲームや漫画だけの世界だけだ。

 こんなのの、存在が許されていいのは。

 

 そして、そんな生物が。

 

 ——涎を垂らしながら、僕をニヤニヤと見つめていた。

 

「……逃げ、ないとっ」

 

 捕まれば、死ぬ。

 わかっていても、足が動かない。

 恐怖で足がすくむなんて、ほんとに、存在してたのか。

 

「やめろっ、来るなっ!

 化け物っ!!」

 

 僕は叫んだ。

 ただ、ひたすらに、叫んだ。

 こんなに大きな声を出したのは、人生で初めてだった。それほどまでに、必死になって、叫んだ。

 

 動物というのは、人の声に怯える。

 大声というものは人類が最古から敵対生物と対峙するときに使ってきたものだ。

 

 なのに。

 

 目の前の狼は、何度僕が叫んでも、怯まない。

 むしろ、獲物が抵抗する様子を見て、愉しんでいる。そんな風にも見える。

 

 ……こいつ、完全に、知性がある。

 

 そして、その知性は。

 ——僕という存在を完膚なきまでに抹消するために、活用されていた。

 

「死にたく、ない。

 こんな、よく分からない場所で、死んでたまるか」

 

 ぐちゃぐちゃだ。

 頭の中は、恐怖と困惑と理不尽への怒りに塗れている。

 

 迫ってくる、大狼。

 視界も悪く、強風に押されるこの状況じゃ、逃げるなんて不可能だ。

 

 ——避けられぬ死。

 僕を待ち受けるのは、そんな悲惨な運命、だけ。

 

 ……だったら。

 

 どうせ、死ぬなら。

 

 

 ——精一杯、足掻いてやる。

 

 

 僕は立ち上がる。

 足はガクガクと震えていたが、動きはする。

 

 このとき。

 僕の頭は不思議と、冷えていた。

 

 ……あの巨体。

 背を向いて逃げれば、間違いなく追いつかれる。身体の大きさというのは、一歩の大きさでもあるんだから。

 

 ——だから、懐に潜り込む。

 四足動物というのは構造上、どうしても腹の下にスペースができるはすだ。

 足の可動域にも限界がある。

 上手いこと、入り込んで、足の一本でも倒してしまえば……

 

 考える暇はない。

 もう、狼は目の前まで迫ってきている。

 

「やるしか、ないっ」

 

 僕は駆けだす。

 目の前の大狼の足元。

 二つの前足の隙間を目掛けて。

 

 けれど、そのとき。

 

「ガルゥゥゥ、オロォォォオオオォ——ッ」

 

 狼が、吠えた。

 信じられないほど、大きな声で。

 

「……ぁ」

 

 瞬間、僕の身体から力が抜ける。

 意思とは関係なしに、脱力した、身体。

 

 筋肉が、痙攣している。

 今の、咆哮のせいだ。

 

 僕はそのまま、地面へと倒れ込む。

 

「こんなの、反則、だろ」

 

 狼は、もう、目の前にいた。

 

 その口が開く。

 捕食。

 つまりは、死だ。

 

 ……あぁ、死ぬのか、ぼく。

 

 もう、抵抗のしようがない。

 全てを、諦めて、僕は静かに終わりを待つため、瞳を閉じようとする。

 

 

 ——けれど、そのとき。

 

 唐突だった。

 

「アソコダ、イクゾ」

 

 声がした。

 屈強で、揺るぎない、女の人の声。

 僕は、思わず、声の方向を目で追う。

 

 そして、次に僕が見たのは。

 

「——トウバツ、カンリョウ」

 

 首を落とされ、驚いたような顔のまま、地に伏している大狼の姿だった。

 

 その、落ちた首の上には一人の人間が立っている。

 

「……ア? オマエ、ダレ?」

 

 目が合う。

 同時、僕はその奇妙な格好に驚愕した。

 

 その人は、ほぼ裸だった。

 かろうじて、布切れ一枚は纏っているものの、それもボロボロで服という体裁を成しているとは思えない。

 

 しかも、手に持っているのは何かの動物の骨を尖らせただけの粗末な武器。髪は明らかに日本人とは思えない鮮やかな紅色。肌にはなにか、タトゥーのような紋章が刻まれていた。

 

 見た目が美しい女性である故に、そのギャップ凄まじいものがある。

 

 まるで、これでは。

 

 ——蛮族。

 そんな言葉が頭によぎった。

 

 でも僕は、すぐにその言葉を撤回する。

 

 だって。

 

「た、助けてくれたん、ですか?」

 

 この人は、あの化け物から僕を救ってくれたのだ。

 

 ……助かった。

 その事実に、僕の胸が激しく、安堵するのを感じた。

 

 見た目は、少し怖い人だけど。

 でも、きっと、悪い人ではない。

 そうに違いないはずだ。

 

 安心したおかげか、僕のお尻が地面へ落ちる。

 

 すると。

 そんな姿を見てか、目の前の女の人が声を出した。

 

「オイ、ミンナ。ココダ!」

 

 瞬間。

 

「ナンダ、ナンダ」

「ウオ、オトコ、オトコダ!」

「イキテルゾ、コイツ」

 

 彼女の仲間らしき人たちがゾロゾロと姿を表しだす。

 ……みんな、女の人。

 しかも、同じ格好だ。

 

 ——見る場所に、困る。

 背が高くて、すらっとした綺麗な人ばかりだし、身体つきも凄い。雨でびしょ濡れなこともあって、余計に目立っていた。

 

 そうして、近くに来た蛮族さんたちは、僕を囲って色々と話していた。

 

 不思議なことに。

 彼らの話している言葉は日本語であった。

 ……随分と片言で、上手く聞き取れないが。

 

 その、数分後。

 彼女らは急に、僕の元へと歩いてきた。

 

 僕は、やってきた女の人たちへ視線を合わせる。

 

「あ、あの、貴方たちは、いったい」

 

 必要なのは会話だ。

 

 さっきの狼とは違う。

 そうだ、彼女らは人間で、僕たち人類には対話という大きな武器があるのだ。

 

 ——そう、だから、対話、を。

 

「マズ、キゼツ、サセル」

 

「へぁ?」

 

 直後、頭部を襲った猛烈な衝撃。

 

 それと、ともに。

 僕の意識は、一瞬で、落ちた。

 

 

 

 そして。

 

「——なんで牢屋なのぉ!?」

 

 目を覚ましたとき。

 僕は、牢屋にいた。

 ……着ているものを全て剥ぎ取られ、一糸纏わぬ全裸で。

 

「オトコ、オカス」

「ミンナデ、オカス」

「ソレガ、オキテ」

 

 その言葉は、僕の理解の範疇を越える言葉たち。

 だけど、一つだけ、わかることがあるとすれば。

 

 ——あ、あぁ、もしかして、この人たち。

 

 が、ガチ蛮族なの??

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。