貞操逆転世界の蛮族の村に転移した 作:ばんばんばんぞく
「——壊血病」
それは、大航海時代に航海士の中で流行った栄養疾患である。
何ヶ月も海の上で過ごす航海士たち。
彼らの食事は必然的に魚や肉を乾燥させた保存食に偏る。
野菜や果物なんかは海の上では補給できないからだ。
しかし、人間の身体というものは、一部の栄養が不足すると、壊れ、機能を失う。
その代表例がビタミンCだ。
肉や魚には含まれないそれらが不足すると、古傷が開き、歯茎から血が噴き出る難病を患うことになる。
それが、壊血病だ。
……たまたま、知っていた。
前世でいっぱい、勉強したから。
お母さんに言われて、何回も何回もノートに書いて、覚えたから。
もちろん、確証はない。
僕は医者じゃないし、知識も本で覚えただけの小さなものだ。
けど。
……ぼくが、力になれるなら。
「レモンかオレンジがいいと思う。
お母さんにあげてみて」
壊血病を防ぐのに必要なのはビタミンC。
つまりは柑橘類である。
栄養疾患は原因となる栄養をしっかり摂れば、すぐに治るはず。
手遅れでは、ないはずだ。
「……そんなの、雨で全部取れなくなった。
果物なんて、もう村にはない」
ルナが答える。
……そうか。
初めてここに見たときに見た、あの大雨。
どうやら、あれは一年以上続いているらしい。
確かにあの雨が続いているようなら木に成る果実は全滅だろう。実際、折れた木はそこら中にあったしな。
それならば。
「芋はどう? ここじゃ陽当たりが悪いだろうし、多くは取れないだろうけど……」
芋類にも一定のビタミンCは含まれる。
レモンやオレンジよりは少ないが。
あとは、動物の内臓という選択肢もある。
……ただ、できればそれは避けたい。
正しい調理技術もないであろうこの場所では、寄生虫や細菌の危険がありすぎる。
できるなら、最終手段にしたいところだ。
だから、これで行けてくれ——
僕はルナの言葉を待つ。
彼女は僕の言葉を聞いて、口に手を当てて、思考を巡らせていた。
そして、数秒後。
彼女が口を開く。
「……じゃがいもなら、ある、かも。
昔、屋根あるとこで、ちょっとだけ、育ててたから」
……ビンゴだ。
「早い方がいい。
症状が進むと後遺症が残る可能性がある」
少しだけでも良い。
とにかく、食べれば症状は改善するはずだ。
「できれば、焼いて食べさせてあげて。
……後、陽が出てないなら大丈夫だと思うけど、芽はちゃんととってあげてね」
そう、僕が伝えた後。
「……うん、やって、みるっ」
ルナは急いで階段を登って、お母さんの元へと駆けていった。
次の日のこと。
「病気、治った」
ルナは二本の骨つき肉を持って、牢の前に来ていた。
「リントの、おかげ」
その顔は笑っていた。
屈託もない、綺麗な、明るい笑みだ。
初めて、見たな。
こんな顔。
……良かった。
どうやら、推測は正解だったようだ。
「……これ、お礼」
ほっと胸を撫で下ろす僕。
そこに、彼女が手を差し伸べてきた。
握られているのは、白い骨。
だが、その先端には今までとは違う。
黒い物がついている。
「ご飯、火、通した」
「……これ、すごい焦げてるけど」
「……こうじゃ、ないの?」
焼け焦げた、肉。
火加減が分かってないんだろう。
……ふふ、もう。
ま、いいか。
「ん、おいひい。
やっぱ、お肉は焼かないとね」
「……ほんとだ、おいしい」
ルナも一緒に食べる。
どうやら、焼いた肉を食べるのは初めてだったらしい。
ガツガツと、彼女は肉に食いついている。
まったく、軟弱者はどっちなのだ。
そんな風に揶揄おうと思ったとき。
不意に、ルナが言葉を発した。
「欲しいもの、あったら、言って。
……私が、なんとかする」
それは、彼女のなりの僕への礼なのだろう。
……よし、素直に、受け取ることにするか。
にしても、欲しい物、か。
「じゃあ、とりあえず」
僕の答えは決まっていた。
「……パンツ、ちょうだい」
こうして、僕は人間としての尊厳を取り戻すことに成功したのである。
「……ちんちんが、擦れて痛い」
「いたそう、ちんちん」
代わりに、下半身がすごいヒリヒリするようになったけど。
うぅ、いたい、まじいたいこれ。
一方、その頃。
「……オイ、ソロソロ、ミンナ、カエッテクル」
「ソウカ、ナラ、アノ、オトコ、デバン」
「オトコ、オカス。
オカシテ——コロス」