貞操逆転世界の蛮族の村に転移した 作:ばんばんばんぞく
「今日は、子どもたち、連れてきた」
「オトコ、オトコだ!
スゴイ、スゴーイ!」
目を覚ますと、ルナがいた。
なんか、ちっこいのをいっぱい引き連れて。
「……だれ? この子たち」
「村の子どもたち。
貴重な男だから、見学させて来いって」
そんなパンダみたいな扱いされてんの? 僕。
……ならもうちょっと良い生活させてくれないかな。え、だめ? そっか。
「オトコ! オトコ!」
「アソボ! オトコ!」
「僕にはリントっていう名前があるから、ちゃんとそれで呼ぼうね」
牢の前で大はしゃぎする子どもたちを諌めながら、僕はそんなことを口にした。
ま、これもルナたちに勝手につけられた名前だけどね。
「リント! リント!
「コンニチハ! リント!」
少女たちは何度も僕の名前を反復している。
覚えようとでもしてくれてるのだろうか。
うむ、愛い奴らである。
見た目としては、だいたい小学校低学年くらいだろうか。ちょうど僕の胸の辺りに頭が来ている。真っ赤な髪で鮮やかに彩られている頭が。
服は相変わらず、ボロ布一枚。
加えて、身体も痩せ気味だ。
……てか、あのタトゥーみたいな紋章。
子どもたちにも入っているのか。
……どうやって?
あんなの入れる技術なんてないだろ、ぜったい。
まさか、だけど。
生まれたときからついているのじゃないだろうな。
ありえるかもしれない。
異世界ともなれば、それくらい。
ただ、ルナには入っていなかったんだよな、これ。んー、どういう違いなんだろう。
そんな風に思考を巡らせていると、ふと、身体の下から涼しい風が入ってきた。
なんだ?
僕は視線向ける。
そして、気づいた。
——なんと。
ルナからもらったパンツ(ボロ布)がめくれているじゃないか。
いやん、えっち。
「……ウオー、オトコ。
リント、スゴイ」
「そうそう、すごいでしょ。
僕のちん……」
「なんで入ってきてんの!?」
なんか、普通に牢の中にいるんだけど。
この子たち。
「カラダ、ヤワラカ。
ロウヤ、クライ、ヨユー」
そう言ったのは、牢の外にいた子どもたちの一人だ。彼女は語った後、自らの手を格子の穴へと滑り込ませ、そして。
ぬるりと、牢の中へと入り込んできた。
……えぇ。
凄い。
身体がぐねぐね曲がって、完全にびっくり人間だ。まるでどっかのヨガの達人みたいである。
大丈夫? 炎とか飛ばしてこないよね?
正直軽くドン引いてるよ僕。
「リント、アソブ。
イッパイ、アソブ」
確かにイメージ通りとはいえど、すごい身体能力だ。関心する気持ちもある。
……そして。
いつのまにか、僕の周りは何人もの子どもたちに囲われていた。
どうやら、一緒に遊びたいらしい。
「もう、しょうがないなぁ」
ま、いいだろう。
僕自身、子どもは好きだしな。
「ナデナデ、ウレシイ。
モット、モット」
「お、おっ、ここがいいのかい。
よしよし、特別にお兄ちゃんが可愛がってあげよう」
久しぶりの、人との接触。
思わず、頰が緩むのを感じた。
ここでルナ以外と話すのは、初めてだしな。
にしても。
「……意外と、普通な子もいるんだな」
ぶん殴られて牢屋に突っ込まれたときはやべえ奴らに捕えられたと思ったけど……いや、今でもだいぶ思ってるけど。
ルナやこの子たちみたいに、優しい子もいる。
もしかすると。
案外、他の奴らだって、話してみれば気のいい奴なのかもしれない。
そんなことを考えながら、僕は束の間の休息に心を弾ませた。
夜、僕はルナと一緒にいた。
牢屋を介して、背中をくっつけながら。
「今夜は月が綺麗だね。ルナ」
「……月、見えないけど?」
「ジョークだよ。
こういう夜はロマンチックな言葉が似合うんだから」
「ろまん?」
ここに来てから、もう一ヶ月は経っただろう。
時間感覚が失われてないのは、毎日、ルナが決まって会いに来てくれるからだ。
お母さんの病気が治ってから、ルナは笑うことが増えた。
今日も子どもたちに囲まれて、困った笑みを浮かべてたしな。
良い傾向である。
女の子というのは笑ってる顔が一番可愛いのだ。ま、ルナはもともと可愛いけどね。
そう思って、思わず微笑んだとき。
不意に、背中越しのルナの手が、僕の手に触れた。
そして。
「リント。
わたしも、触って」
「へ?」
そう、彼女は言い放つ。
「きゅ、急にどうしたの?
て、てか、なんで?」
「ん、いいから、さわって」
いつのまにか、こちらに振り向いている彼女。その目は、すこしとろんとしていて、心臓がざわめくのを感じた。
「……もしかして、子どもたちに嫉妬でもした?」
「……むぅ、いわせないで」
そう言うと、ルナは少し頬を膨らませてみせる。
……図星だったのか?
少し、意外だ。
最近はよく話しかけてくるとはいえ、態度としてはそっけない感じがデフォルトだし。
意外と寂しがり屋さんなのだろうか。
まったく、可愛い子だ。
勘違いされても知らないぞ。
「ほら、こっち来て、ルナ」
手だけなら、なんとか、牢からもだせる。
僕はルナを近くへと招き寄せ。
その頭へと手を伸ばした。
「んっ、もっと、リント」
もちろん、変なとこを触ったりはしない。
肌に触れるのも気が引けるし、頭だけだ。
てか、そもそも届かないしな、牢のせいで。
「……はぁ、はあ。
もっと、さわって、いい」
そう言われましても。
格子の関係でこれ以上下には持ってけないんだけどな。
彼女の言葉に応えることができず、僕はそのまま、頭の上へ手を置き続ける。
「むぅ、むらつく。
すごい、むらつく。わたし」
「む、むら……なんて?」
うまく聞き取れなかった。
てか、息すっごい荒いし……大丈夫かな。
なんか、これ以上は危険かもしれない。
そう思った僕は、手を引っこ抜く。
うん、そろそろいいだろう。
「……んぅ」
ルナは残念そうな顔でこちらを見ていたが、仕方ない。たまには非情な判断も必要である。
それに、別にいつでもできるだろう。
この程度のことなら。
僕は再度ルナと背中を合わせる。
後ろのルナはすごいモゾモゾしてるけど、気にしない。気にしないったら気にしない。
そんな風に思いながら、僕はゆっくり、時間が過ぎるのを待った。
こうして、何もせず、ただ時を待つというのは新鮮だ。
前の世界じゃ、絶対に味わうことができなかったな。
——前の世界、か。
「あのさ、ルナ」
「なに、リント」
ふと、話したくなった。
ルナに。
「ちょっと、話を聞いてもらっていいかな」
僕のことを。
「あはは、つまんなかったら、ぜんぜん、
聞き流してくれてもいいから」
「……つまんなくなんか、ない」
「お、それはよかった。
お世辞でも嬉しいよ」
そうして、僕は語り始める。
もちろん、軽く、簡単にだ。
シリアスは好みじゃないからね。
「僕、ここにくる前はさ。
日本っていうとこに住んでたんだ。
ここよりは少し都会で、美味しい食べ物もいっぱいある。そんなとこに」
「……にほん」
正直言って、彼女に完璧な理解を求めるのは難しいだろう。
「僕はそこで高校生……んー、簡単に言ったら見習いみたいな感じ? ごめん、よくわかんないかもね」
でも、いい。
少しでも、僕の話を聞いてくれるなら。
それでいい。
「家では毎日、勉強漬けでさ。
お受験だぁー!って言って、ご飯も食べれず、殴られたこともあって」
僕のお母さんは、厳しかった。
自分と同じ苦労をさせないためって言って、いつも、僕を叱ってばかりだった。
「栄養補給のサプリをいっぱい飲んで。
嫌いなものも、好きなものも、ごちゃ混ぜされて」
一回も、褒められたことはなかった。
ちゃんとやれて、及第点。
少しやれて、期待はずれ。
人並みだと、大説教。
そんな、人生だった。
「友達とも、遊びに行かせてもらえなくて。
ずっと、一人だったんだ」
ずっと、いえなかった。
誰にも、こんなことは。
……ルナにだけだ。
こういう泣き言を言えたのは。
僕の、人生で。
前の世界は、苦しかった。
毎日、毎日。好きでもない勉強を押し付けられて。期待を、ずっと、背負わされて。
嫌だった、ほんとは、ずっと。
——でも。
僕が本当に彼女に伝えたいのは、こんな泣き言じゃない。
「だから、さ。
こうして、ルナと一緒にいれるのが。
ちょっと、楽しいんだ。
あはは、牢屋は嫌だけどね」
……意外でもないけど。
僕はこの世界に来たことを、苦には思っていない。
それは、きっと、ルナがいるから。
そうなんだろう。
「それだけが、伝えたかったんだ。
……ごめん、たぶん、わかんない話をしちゃったよね。
ぜんぜん、忘れてもらっても——」
そう言って、話を終えようとしたとき。
「ル、ルナ?」
目の前に、ルナの顔があった。
いつもとは、違う。
まるで、なにもかもを、包み込むような、優しい笑みをした、ルナが。
「……リント、こっち、きて」
「そう、言われましても」
額がくっつく。
鼻先が触れて、ルナの匂いがした。
そして。
「わたし、リントのこと、すき」
彼女はそう、呟いた。
「……ひょえ?」
混乱する僕。
少し、顔を赤らめながらも、ルナは言葉を止めない。
「だから、だいじょうぶ。
リントは、一人じゃない、から」
彼女は顔を手で覆う。
恥ずかしいのか、俯きながら。
「……笑って。
リントは笑ってるときが、一番、かっこいいから」
そう言い放ってから、彼女は逃げるように、牢の前から去っていった。
「……ふはははははっ」
彼女が去った後、地下牢には謎の笑い声が響くことになったが。
……次の日。
僕は寝不足の頭を揺らしながら、ルナが来るのを待っていた。
昨日のルナの、発言。
あれが気になる。
すごい、気になる。
が、まずは彼女を到着を待たないといけない。
そして、それとなく聞き出すのだ。
……好きって、どういうことって。
足音がすぐに聞こえだす。
相変わらず、僕の起床を察知するのが早いものだ。もしかすると、近くで寝てたりするのだろうか。
……にしても、今日はやけに足音が速いな。
なにか、急いでるんだろうか。
そう思って、僕は耳を澄ませる。
だんだん近づいてくる足音。
どんどんと、その音は大きくなってきて。
——僕は気づいた。
「……え?」
重いのだ。
足音が、明らかに、ルナのものより。
子どもたちでもない。
一人で来てたとしてももっと軽いし、大勢なら騒ぐはずだ。
となれば、いったい、誰が。
そう思った瞬間だった。
僕の視界にとある人影が映り込む。
見覚えのある、人影が。
「お前は、あのとき、僕を連れ去った……」
そこにいたのは、この世界に来た初日。
狼を討ち取って、僕を助け、そして。
……気絶させ、ここに連れてきた張本人だった。
「イッカゲツ、ブリ」
彼女は、僕の姿を一瞥した後。
言葉を発する。
「——アス、シケイ、シッコウ。
ツレテク」
……は?
「死刑、執行?」