黄昏職員、転生する。
暗い廊下に、赤い警報灯だけが揺れていた。
その会社の名は、Lobotomy Corporation。
世界のエネルギーを生み出すため、「幻想体」と呼ばれる存在を管理する企業。
そこには数え切れないほどの職員がいた。
その中でも一人だけ、誰からも慕われる職員がいた。
彼の名は――アリア。
「おはよう。今日も無理だけはしないでね。」
朝一番に交わすその一言だけで、張り詰めた空気は少しだけ和らぐ。
新人が失敗しても責めない。
恐怖で動けなくなった職員には、自ら前へ立つ。
休憩時間にはコーヒーを淹れ、疲れた仲間へ静かに差し出す。
「ありがとう、アリア。」
「君がいると安心する。」
そんな言葉を聞くたび、彼は少しだけ照れくさそうに笑った。
「僕一人じゃ何もできないよ。みんながいるから頑張れるんだ。」
誰よりも強く。
誰よりも優しく。
だからこそ、多くの職員が彼を信頼していた。
ある日。
管理人から新たなE.G.Oの装備許可が下りた。
それは、三体の幻想体――
罰鳥
大鳥
審判鳥
その力が一つとなった、ALEPH級E.G.O。
『黄昏』。
黒い外套。
巨大な黒い武器。
そして、三羽の鳥を思わせる装飾に黄金の紋章。
誰もが息を呑んだ。
「……本当に装備するのか?」
確かに『黄昏』は強力なEGOだ。この施設では最強のEGOと言って良いだろう。
しかし、それを使うと言うことは自ずと自ら危険に足を踏み入れ戦わなければいけないことを意味する。
同僚の問いに、アリアは静かに頷く。
「誰かが背負わなくちゃいけないなら、僕がやるよ。」
黄昏は、彼を選んだ。
その日から、彼は会社最強の職員となった。
白夜。
数多のALEPH幻想体。
絶望的な鎮圧任務でも、彼は必ず生還した。
仲間を一人でも多く連れ帰るために。
しかし。
その日は違った。
施設全域に非常警報が鳴り響く。
『全職員へ通達。複数ALEPH幻想体が脱走。』
『至急鎮圧を開始してください。』
「……またか。」
誰もが武器を握る。
アリアも黄昏を構え、最前線へ向かった。
戦闘は数時間続いた。
幻想体は倒しても倒しても現れる。
廊下は血で池ができ、天井には誰かの肉がへばり付いている、施設は悲鳴で満ちていた。
「アリア!」
仲間の叫び。
振り返ると、新人職員が足を怪我し倒れている。
その先では、巨大な幻想体が腕を振り上げていた。
間に合わない。
そう理解した瞬間。
アリアは迷わなかった。
「……生きて。」
黄昏を限界まで解放する。
黄昏の力を最大限引き出せる彼だけが使える「黒い森の怪物」になる技。
黒い光が残像のように残りアリアは急加速し、三羽の鳥の幻影が羽ばたく。
新人を突き飛ばした、その直後。
音が消えた。
腰から上が切り飛ばされた自分の下半身が見えた。
世界が白く染まった。
「ここは……。」
意識だけが漂っていた。
身体がない。
痛みもない。
ただ、暗闇だけが続いている。
遠くから、三つの声が聞こえた。
「罪を知れ。」
「真実を見よ。」
「秤は、なお傾かず。」
三つの光が彼を包む。
黄昏のE.G.Oは砕けることなく、魂そのものへ溶け込んでいく。
「まだ終わりではない。」
「お前には、もう一つの世界がある。」
次の瞬間。
世界そのものが割れた。
時空が裂け、魂は光の奔流へ飲み込まれていく。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
どれほどの時間が流れたのか。
研究施設の一室。
白いポッドの中で、一体の少女型アンドロイドが眠っていた。
識別番号。
AL-0S。
完成目前だったその素体へ、一筋の黒い光が吸い込まれる。
機械が激しく明滅する。
「エラー。」
「未知の精神波形を確認。」
「人格データ……存在しません。」
「再構築を開始。」
本来入力されるはずだった人格データは存在しなかった。
それの代わりと言わんばかりに、異世界から流れ着いた魂が、静かにその器へ宿る。
黒いE.G.Oの力と、AL-0Sの肉体は拒絶することなく、一つへと融合した。
静寂。
少女の指先が、わずかに動く。
心臓はない。
それでも胸の奥で、何かが鼓動した。
「……ここ、は。」
ゆっくりと瞼が開く。
黄金色の瞳。
その奥には、黒い二重の輪が静かに浮かんでいた。
天井を見上げる。
知らない部屋。
知らない世界。
知らない身体。
「僕は……。」
記憶が流れ込む。
職員だった日々。
仲間たちの笑顔。
黄昏。
最後の戦い。
そして――死。
少女は、自分の小さな手を見つめる。
そこにはもう、職員だった頃の大きな手はなかった。
代わりに、細く白い少女の手があった。
「……生きて、いる?」
その瞬間。
頭上に黄金色のヘイローが静かに灯る。
同時に、部屋の隅に置かれていた黒い武器が共鳴するように震えた。
まるで、長い旅を終えた主人を迎えるように。
自身が入っていたポットを割り、少女はその武器へ歩み寄る。
静かに手を添える。
懐かしい感触だった。
「……ただいま。」
誰に向けた言葉だったのか。
その答えを知る者は、もうどこにもいなかった。
しかしその日。
キヴォトスには、一人の新たな少女が誕生した。
その名は――アリア。
完全に自己満なので亀投稿になりそうです()
こんなのでも見てくれる人いるんだろうか...?