黄昏職員、探索する。
「……ただいま。」
その言葉を最後に、部屋は再び静寂へ包まれた。
少女――アリアの視線は、部屋の隅に置かれた黒い武器へ向けられる。
近づくにつれ、不思議な懐かしさが胸を満たしていく。
まるで何年も離れ離れだった友と再会したような感覚。
「……。」
ゆっくりと手を伸ばす。
指先が黒い砲身へ触れた、その瞬間だった。
――ドクン。
胸の奥で、心臓の代わりに黄金色の光が脈打つ。
同時に静かな起動音が響いた。
『……認証完了。』
自身の頭の中に機械音声が流れる。
『E.G.O適合率──100%。』
『唯一認証個体を確認。』
アリアは息を呑んだ。
「……。」
あの時の感覚が蘇る。
初めて握ってから、何度も共に戦ってきたあの時の感覚を。
彼は武器を持ち上げる。
ずしりとした重量。
だが、不思議なほど軽く感じた。
手に馴染む。
引き金へ指を添える。
その一連の動作は、身体が覚えていたものとは全く違うものだ。
「……黄昏。」
自然と言葉が漏れる。
そうだ。
これは間違いない。
かつて自分が振るっていたE.G.O。
『黄昏』そのものだ。
だが、姿が違う。
以前は巨大な剣を思わせる武装だった。
しかし今、目の前にあるそれは。
漆黒の長い砲身。
その側面には黄金色の光が走る。
武器全体は三鳥の装飾が施されている。
まるで未来兵器のような巨大なレールガンへ姿を変えていた。
「姿を……変えたのか。」
アリアは静かに砲身を撫でる。
すると武器が少しだけ、側面を走る光が強くなった気がした。
それはまるで三羽の鳥が見守っているかのようだった。
「君たちも、一緒なんだね。」
小さく微笑む。
その瞬間だけは、職員だった頃の優しい表情が戻っていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
アリアは取り敢えず当たりを探索することにした。
「...うわぁ....。」
部屋を見渡す。
壁には割れたモニター。
床には散乱した書類。
机や床に厚く積もった埃。
何年も人が立ち入っていないことは、一目で分かった。
「ここは……研究施設?」
奥にある端末だけが、かすかな電力で点滅している。
アリアは武器を背負い、端末の前へ座った。
画面を触れる。
『接触者を検知。』
『AL-0S開発データベース起動。』
「AL……0S?」
画面に出てきた画像と、自分の身体を比べてみる。
少女の身体。
長い髪の毛。
「……この身体だ。」
画面には膨大な資料が並んでいた。
開発記録。
設計図。
実験結果。
そして、一つのファイルが目に留まる。
《Project AL-0S 最終報告書》
アリアは少し震える指で開いた。
被験体名称:AL-0S
人格育成実験。
戦術支援型自律兵器開発計画。
結果──失敗。
ページをめくる。
そこには冷たい文字だけが並んでいた。
人格データの定着率0%。
自己学習機能停止。
起動不可。
廃棄予定。
「……。」
さらに読み進める。
本機体は失敗作として永久保管。
次期個体へ技術を継承する。
「失敗……作。」
少女は自分の手を見る。
白い肌。
細い指。
人間と見分けがつかない身体。
だが、その中身は。
本来なら誰も宿るはずのなかった空っぽの器。
「つまり……。」
静かに呟く。
「僕は、この身体に偶然入り込んだだけ。」
誰かが作った人格ではない。
誰かのコピーでもない。
自分は、自分だった。
少しだけ安堵する。
職員だった頃の記憶は、本物だったのだ。
ふと、画面の右上へ目を向ける。
赤い通知が表示されていた。
《施設管理ログ》
最後のログは更新が遥か昔に止まっている。
「そんなまさか……。」
ログを開く。
一行目から、嫌な予感しかしなかった。
全研究員、避難完了。
施設封鎖。
Project AL-0S終了。
建物は永久放棄とする。
さらに最後の一文。
今後、本施設へ立ち入る者はいない。
画面はそこで終わっていた。
「……誰も、来ないしいない。」
部屋を見渡す。
壊れた椅子。
朽ちた機械。
割れたガラス。
積もった埃。
ずっと眠っていたのだ。
この身体だけが。
誰にも知られず。
誰にも起こされず。
ずっと昔から。
アリアは静かに目を閉じる。
「……一人だったんだ。」
返事はない。
ただ、背中の黒いレールガンだけが、かすかに低い駆動音を鳴らした。
まるで「一人ではない」と語りかけるように。
アリアはその音に小さく微笑んで
「それでも、進もう。」
「この世界で、僕にできることを探すために。」
そう呟くと、閉ざされた研究施設の扉へ向かって、一歩を踏み出した。
その足音だけが、長い眠りについていた施設の廊下に静かに響いていた。