米田は現在、無職。
そんな彼の趣味は一応体を動かす事。
ジムにだって行っている。
最近はちょっと行けて無いけど…。
しかし、ひょんな事でジムに行けなくなってしまう。
無職で唯一の運動の時間を失い、
米田はどうするのか…

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倍速ラジオ体操100セットダイエット

いつの時代も「楽して痩せたい」と願うもの。

ここにもそんなものぐさな男が一人。

男の名は米田正造。

10年勤めた会社を辞め、いまいち就活に身も入らず、

実家で、日々、ダラダラと過ごしていた。

 

「はぁー、ジムに行かなきゃなー」

24時間定額通い放題という文言に釣られて入会したジムも

今では週末に

「あー面倒だー行きたく無いー。でも会費が勿体無いしなー」

と散々うだうだと無駄な時間を過ごした後、

会費分ちゃんと元を取らなければとなんとか気持ちを奮い立たせて、

やっとジムに出かけるのであった。

 

そのジムは私服でも構わずトレーニングが出来る。

その日も米田は普段着のジーパンとヨレヨレのTシャツで

ジムに来ていた。

渋々ながらも、会費分を取り返そうとトレーニングを行う。

それなりに汗を流し、運動をしたという充足感が体を満たす。

「よし!もうワンセット、背筋をいじめちゃおっかな」

調子づいて勢いよく器具を両手に持ってしゃがんだ時、

ビリッ!

大きな音と共にジーパンのお尻が見事に裂け、

パンツが丸見えになってしまう。

余りにも大きな音だったせいか、トレーニング室にいた他の人達は

みんな米田の方を見ていた。

数瞬間過ぎた後、

「…プッ」

「ふふふ」

とジムのあちらこちらから笑いを堪える声や、

堪えきれず漏れてしまう笑い声が響いた。

米田は顔を真っ赤にして部屋を飛び出し、ジムから転がり出る。

ジムにいた人達の笑い顔を思い出し、顔を赤面させる。

「もう、帰ろう」

泣きそうな声でそう呟いて帰路に着こうとした時、思い出す。

着替えは無い。

そうだ着の身着のままでトレーニング出来るから、

わざわざ着替えなんて持ってきていないのだ。

ジムは人通りの多い駅の近くにあった。

ちょうど今は行楽帰りの家族連れやカップルでごった返している。

先ほどまで真っ赤だった米田の顔が今度は青ざめる。

早速めざとい子供が米田を指差し、笑いながら親に何やら言っている。

「ねえ…見て見て!…あのおじさん、パンツ丸出しだよ。」

子供の発言に、焦るように親も、

「コラッ、そんな事言っちゃダメでしょ」

と子供に注意をしているが、こちらを避けるように

子供の手を引いてもと来た道を引き返していく。

他の人達も、米田の格好を見るや大きく迂回して通り過ぎたり、

嫌なものを見たという顔で引き返したりしている。

ついには、

「君、君。なんという格好をしておるのだ!」

とお巡りさんまで話しかけてくる始末。

「なんでもないので!すみません!」

と汗拭きタオルでパンツを隠して、

半泣きになりながらその場から走り去った。

 

それから数週間、

その日以来ジムには行っていない。

現状無職なのに、ハロワに行くのも週に一度あるかないか。

完全に暇を持て余していた。

実家だし、無職でも生きるだけなら問題ないが、

流石にずっと無職というわけにもいかない。

どうしたものか…とウジウジとしながら、

家でゴロゴロする日々。

ある日、友人たちとの飲み会で久々に行った時、

「お前、ちょっと太ったんじゃね?」

と友人達に指摘される。

図星を突かれてギクッとしつつも、

ジムで起きた悲劇について友人たちに話す。

 

「ブワッハッハッハー!」

大爆笑の友人達。

「お、お前ら!笑うなよー」

予想通りの友人達の反応に、言うんじゃなかったと後悔する米田。

「ま、まあそんな事があったからジムにも行きづらくてさ」

例の一件の大分前から週一でしか行ってなかった事は言わない。

「なるほど、無職で、唯一外出する理由だったジムにも行けなくなったから、仕方なく、家でゴロゴロダラダラ食っちゃ寝してたら太ったと…」

友人達の自分を見る目が冷たく鋭い眼光を放っている。

「いや働けよ」

「働け」

「働けば良いじゃん」

ほぼ同時に友人達からツッコミを受ける米田。

「は、はははー…」

最早笑って誤魔化すしかなさそうだ。

しかし、確かに最近お腹周りがふくよかに成長しつつある。

先日、久々の採用面接の時着たスーツも、

少し…いや結構ギリギリな感じでキツかった。

無職でスーツを新調しなきゃいけないのはかなり厳しい。

「やっぱダイエットしなきゃダメかー」

諦めたように呟く。

「いや、だから働け…」

と言いかけた友人を別の友人が静止して、

「まあ、何にせよ。このままじゃダメだろうね。

ニートに一直線!みたいな。

まずはダイエットからやってみたら良いんじゃない?」

とりあえず前向きな行動を優しく褒めてくれる。

「そうだね。このままじゃスーツだって着れなくなっちゃうよ」

もう一人の友人も同調してくれる。

痛いところを突かれ、ギクリとする米田。

「ダイエットか、何がイイかな?」

友人達からの冷たい視線から逃れる為に、

ダイエットに前向きな姿勢を見せなければと話題を振る。

友人達は一様に考え始める。

とりあえず、責められ続ける難局は脱したようだ。

米田はホッと胸を撫で下ろした。

 

「まあ、ダイエットと言えばジョギングじゃね?」

体育会系の友人が事もなさげにさらっと言う。

「ジョ、ジョギングかぁ。有酸素運動だっけ?

あれって20分以上は知らなきゃダメなんだろ?

そんなに走れないよ」

とやる前から弱音を吐く。

「ハァー」

いきなりやる気の無い発言に、友人達はため息を吐く。

「じゃあウォーキングならどう?」

とめげずに優しき友人が提案してくれる。

「ウォーキングかぁ…あれ30分歩いても80キロカロリー

くらいしか消費しないんだろ?タイパ悪いしなぁ…」

またしても歯切れの悪い米田。

「ええ〜」

流石の優しき彼もあきれて困り顔だ。

「消費カロリーって言ったら、

階段を10段上がるのに1キロカロリーいるって聞いたことがあるぞ。

米田!毎日階段上り1万段ってのはどうだ?」

と無茶な提案をしてくる体育会系。

「いやいやそれ、確実に膝、死ぬやつだろ」

これには米田もツッコまざるを得ない。

他の友人達も、

「それは、流石に…」

「うーん、僕も、無理かな…」

と苦笑いをしている。

すると、この中では1番付き合いの長い小学生からの友人が、

「カロリーって話で思い出したんだけど、

ラジオ体操をしっかりとした時の消費カロリーは20キロカロリー

なんだって、ヨネ、小学校の時、毎年夏休みのラジオ体操、

皆勤だったじゃん。続けられるんじゃない?」

とのアイデアに、米田は頭の中でカチリと何かが噛み合う音がした。

「それだ!」

と思わず叫ぶ米田であった。

 

次の日、

家で早速ネットでラジオ体操の音楽を見つける。

ジャージに着替え、一通りやってみる。

まだ、完璧に体操の動きは体が覚えていた。

「ラジオ体操?ラクショーじゃん」

ラジオ体操をして疲れたなんて記憶はない。

何度だって出来るだろう。

これはいける!

何より、ジムに行がなくても良いし、器具もいらない!

無職で無収入な米田には何よりも有難い。

「そうだ!一日のカロリー摂取量と同じだけラジオ体操やれば、

食ったもの全部筋肉になってムキムキになれるんじゃないか!」

 

はじめの十回目位まではそう思っていた。

10回を過ぎたあたりから少し二の腕や太腿に

負荷を感じる様になっていた。

「おお!効いてる!効いてる!」

その負荷が嬉しい。

ダイエット目的なのだから、

体に何の影響もないとか本末転倒なのだ。

負荷を感じるということは、ちゃんと効果はあるという事。

「それでこそやりがいがあるというもの!」

米田はますます張り切ってラジオ体操を踊った。

しかし、20回を過ぎた辺りから体の負荷が回を増す毎に

大きくなっていく実感があった。

それでも、

「何くそ!」

と粘ったが、40回を達成したところで、

「ち、ちょっと…き、休憩」

と休憩を取る事にした。

その後、15分休憩し、再開する。

始めた時と違って腕や足が重く感じる。

休憩した事で蓄積された疲労が一気に噴き出してきた感覚だ。

しかし、それがまた心地良い。

肉体との対話。

「どうだ限界か?やめてしまうか?」

という問いに、

「いや、まだイケる。むしろここからが本番だ」

と体を動かす。

手足が重い分、自分の動きがより明確に知覚出来る。

一挙手一投足毎に理想的な動きをなぞる米田。

より完成度の高いラジオ体操に近づいていく様な、

不思議な体験に、今まで感じたことのない満足感を体感する。

もう一歩、あと少し。

しかし、一度尽きた体力。

たった少しの休憩ではタカがしれている。

それでも何とか10回続けて、倒れる様にベッドに転がる。

「や、やっと50回、半分。あと…まだ半分…」

あと50回という事実が米田の頭に重くのし掛かる。

「もう止めてしまおうか?」

疲弊した体に、その誘惑に身を委ねてしまいそうになる。

しかし、2度目の15分の休憩のち、

米田は不死鳥の如く復活する。

「まだ、あと数回イケる!」

最早、100回というルールはどうでも良かった。

「ラジオ体操を、完璧なラジオ体操を!」

頭の中はそれだけだった。

その後、10回は出来たが、休憩。

次は、惜しくも10回には届かないまま休憩、

その次は意地で10回やったが休憩は長めにとった。

さらにその次とその次には5回に一度。

既にラジオ体操とは呼べないものになっていたが、

それでも続けた。

米田なりに何か掴めそうな感触があったのだ。

ヘロヘロになりながらも体操を続ける。

その次は3回で限界が来る。次は2回。

ついには、1回やっては休み、1回やっては休みを繰り返し、

ついに見事、ラジオ体操を100セットを成し遂げる。

感想は一言、

「長い!長過ぎる」

ラジオ体操第一だけでも1回約3分程度。

100回だと単純計算で300分=5時間かかる計算だ。

しかも、休憩を何度も挟んだ。

結局、朝から始めたラジオ体操が終わったのは、

夜の10時過ぎだった。

「これを毎日やってたら本当に無職から卒業出来ないよ」

と自嘲気味に呟いたが、

これまでだって就活関係の行動を一切しない日はザラに

あった事は記憶から飛んでいる。

しかし、それ以上は何も考える余力もなく、

台所で母親が作り置きしてくれていた夕食を食べると、

そのまま、その日は寝てしまった。

 

次の日、米田は全身筋肉痛になっていた。

しかし、その筋肉痛が嬉しい。

「おお!ちゃんと筋肉ちゃんが成長してるぞ!」

その事実に後押しされてその日も

ラジオ体操100回チャレンジを実行する事にする。

問題は時間だ。

しかし、それも解決策を思いついていた。

倍速だ。

2倍速でラジオ体操をするのだ。

「そうすれば、時間は半分で済むじゃ無いか!」

得意げな米田。

しかし、米田はまだ気付いていない。

早く終わる事と、肉体の疲労ははまた別の問題である事を。

 

兎にも角にも、

ここに、米田考案、『倍速ラジオ体操100セットダイエット」

が幕を開けたのであった。

 

 

数時間後…

「うぉえええ〜…」

米田はトイレで盛大に吐いていた。

激しい運動量に体がついていけずに、

拒絶反応を起こしたのだろう。

それでも、

「やるじゃ無いかラジオ体操!まさかこれほどキツいとはな。だが、俺は負けん!必ず倍速ラジオ体操をものにしてやるぜ、うっぷ…オ、オエエエ〜」

胃の中のものをリバースしながらも、

突如現れた強敵にワクワクする米田であった。

 

彼の再就職はまだまだ遠そうである…。


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