アビドス分校へ戻る頃には、空の色がすっかり落ちていた。
ブラックマーケットの北側倉庫で保護された生徒たちは、先に到着していた救護班に引き渡された。怪我の程度はそれぞれ違う。手首に拘束の跡が残っている子、歩くたびに肩を震わせる子、何度名前を呼ばれてもすぐには反応できない子もいた。
それでも、彼女たちは生きて戻った。
先生は、その事実だけを何度か自分の中で確かめた。
校舎の入口では、ノノミとセリカが救護物資を運び、アヤネが被害者の情報を端末に入力している。シロコは外の見回りから戻ったばかりで、校門の方へ一度視線を向けた後、先生たちの様子を確認した。
誰も大きな声を出さなかった。
倉庫の中で何が起きたのか、すでに通信で共有されている。救出された生徒がいたこと。ヘルメット団を拘束したこと。薬品らしきアンプルケースと搬送名簿を押収したこと。
そして、薬を打った生徒が死んだこと。
その言葉だけが、校舎の空気を重くしていた。
ホシノは昇降口の近くで待っていた。いつもの緩い笑みは残しているものの、先生にはそれが少し薄く見えた。
「おかえり、先生」
「ただいま」
先生はそう返した後、少しだけ言葉に詰まった。
ホシノの視線が、先生の後ろにいるカヨコへ移る。
「出たんだね」
カヨコは短く頷いた。
「劣化品、かな。あんな反応は初めて見た」
ホシノの目がわずかに細くなる。
先生は二人を見る。
その短いやり取りだけで、二人が同じものを思い浮かべていることは分かった。先生だけが、まだその輪郭を掴めていない。
「聞かせてほしい」
先生は言った。
「超人とは、何なのか」
ホシノはしばらく黙っていた。
校舎の中から、救護に向かう生徒たちの足音が聞こえる。誰かが水の入ったケースを運び、別の誰かが毛布を持って廊下を走っていく。アビドス分校は静かに動いていた。助かった生徒たちを受け入れ、次に起きることへ備えるために。
ホシノは小さく息を吐く。
「分かった。会議室に行こう。ここでする話じゃないから」
会議室には、必要な人数だけが集められた。
先生、ホシノ、カヨコ、ハルカ、アル、ムツキ。記録役としてアヤネもいる。セリカ、ノノミ、シロコは救護と外部警戒に回っていた。
机の中央には、倉庫から回収された資料が並べられている。
空のアンプルケース。
拘束具の写真。
搬送予定と思われる名簿。
適合、未確認、搬送済みという文字の残った紙片。
先生はその中の一枚を見る。
名前の横に、短い記号が書き込まれている。意味は分からない。けれど、そこに並ぶ文字は、生徒を人として扱っているようには見えなかった。
アヤネが端末を起動する。
「記録を始めます。必要であれば、後から一部を伏せて共有できるようにします」
ホシノは頷き、先生を見る。
「……雷帝事件っていえばいいのかな。半年ぐらい前まで、ゲヘナ本校を中心にそれは起きてた」
「当時の生徒会長、五摂ロカを中心に引き起こされたんだ」
「私たちのアビドス分校もその渦中にあったんだよ」
先生は黙って頷いた。
ホシノは机の上に置かれた古い資料を一枚引き寄せる。そこには、シェマタと呼ばれる兵器に関する断片的な記録が残っていた。
「アビドスは砂漠の一部が列車砲シェマタ……大量破壊兵器が製造されてた。雷帝事件の残骸みたいなものが、この砂漠にも来たんだよ。校舎も、周辺も、かなりやられた」
ホシノの声は穏やかだった。先生には、彼女があえて声を荒らげないようにしているように見えた。
「その時、アビドスはもう十分苦しかった。借金もあったし、生徒も少なかった。そこに、シェマタの被害が来た。ユメ先輩がいなかったら、たぶん今の形では残ってなかったと思う」
「ユメが、復興計画を?」
「うん。大まかな道筋を作ってくれた。私たちは、それをどうにか現実の数字に直して、今も続けてる」
ホシノは資料から手を離した。
「だから、超人とか、雷帝事件とか、そういうものがまた動いてるなら、アビドスは見ないふりできない。あれは、私たちの学校にも傷を残したものだから」
先生は廊下で見た返済計画表を思い出す。あの紙に書かれた数字の裏に、今の話があるのだと分かった。
ホシノの話が終わると、カヨコが口を開いた。
「次は、私かな」
会議室の空気が少し変わる。
カヨコは、先生の前に一枚の写真を置いた。
写っているのは、一人の生徒だった。
黒い髪。風紀委員会の制服。表情は少し硬い。戦闘員というより、情報を扱う生徒のように先生には見えた。
「黒原イト。ゲヘナ風紀委員会情報部の生徒」
先生はその名前を初めて聞いた。
カヨコは写真を見下ろしながら続ける。
「戦うのが得意な子じゃなかった。勘がよくて、情報を繋げるのが上手くて、危ないところに自分から踏み込む癖があった。だから、こっちは何度も止めた」
ムツキは黙っている。
アルも、いつものように口を挟まない。
「そのイトが、超人になった」
先生は写真からカヨコへ視線を移した。
「超人になる、というのは?」
カヨコは少し考えるように目を伏せた。
「先生も見たでしょう?アンプル。あれを自分に打ち込むの」
カヨコは続ける。
「超人薬は、生徒の神秘に干渉する。詳しい理屈は、私も全部知ってるわけじゃない。けど、力を引き出すだけじゃない。神秘の向きを無理やり変える。極端に偏らせる。そういうものだと思ってる」
先生は、倉庫で見たヘイローの光を思い出す。
濁り、揺れ、消えていった光。
「適合すれば、超人になれる。空を飛んだり、異常な再生能力を獲得したり……個人差はあるけど、強力な力を獲る」
「倉庫で見た生徒は?」
「適合に失敗した。詳しくはこれから調べるけど、あれは劣化品。だから獣化して……衰弱死した」
カヨコの声は平坦だった。先生には、彼女が平坦に話すことで、言葉の中身に飲まれないようにしているように見えた。
「適合したら……助かったのかな」
先生が聞くと、カヨコは写真を見たまま答えた。
「助かる、とは言えない」
ハルカの指が、膝の上で強く握られた。
カヨコはイトの写真を、ゆっくり指で押さえる。
「イトは適合した。強くなった。飛べるようになって、戦えるようになって、ロカを止めるために前に出た。けど、その代わりに普通の生徒ではいられなくなった」
「今は?」
先生の問いに、カヨコはすぐには答えなかった。
代わりに、ホシノが小さく目を伏せる。
カヨコは少し間を置いて言った。
「眠ってる。ずっと」
先生は何も言えなかった。
「力が逆流を起こしたみたいに、イトの体を蝕んでる。羽が増えて、指も変わってきてるって聞いてる。本人は目を覚まさない」
写真の中のイトは、まだ普通の生徒に見える。
先生は、その姿と、カヨコの言葉の間にある距離を想像しようとした。けれど、うまく形にならなかった。
カヨコは先生を見る。
「ああなるくらいだったら、何もできないままでもよかったんだよ」
その声には、怒りと後悔が混ざっていた。
「強くなれたからよかった、なんて私は思えない。守れたものがあったとしても、その代わりにあの子が戻ってこないなら……」
会議室は静まり返る。
先生は、カヨコの言葉をすぐには受け止めきれなかった。倉庫で死んだ生徒。写真の中のイト。強くなれるという噂。それらが同じ線の上にあることだけが、少しずつ見えてくる。
次に口を開いたのは、ハルカだった。
「私も、話します」
アルがわずかにハルカを見る。
「ハルカ、無理しなくても」
「大丈夫です」
ハルカは首を振った。
その声は小さい。けれど、逃げるための小ささではなかった。
「私も、超人です」
先生はハルカを見る。
ハルカは膝の上の手を握りしめたまま、ゆっくり言葉を選んでいく。
「打った時の私は、今よりずっと弱くて、何もできなくて、誰かの役に立ちたいのに、いつも足を引っ張っているように感じていました。自分が変われるなら、強くなれるなら、それで誰かに必要とされるなら、薬でも何でもいいと思ってしまいました」
ハルカは一度、息を整えた。
「でも、薬は救いではありませんでした」
先生は黙って聞く。
「意識が濁って、自分の体なのに、自分のものじゃないみたいになりました。何かを壊したことは覚えています。でも、どうして壊したのか、誰を傷つけそうになったのか、全部は覚えていません」
アルが視線を落とす。
ムツキは目を伏せず、ハルカを見ていた。
「私は、別に強くなんてならなくても良かったんです」
ハルカの声が少し震えた。
「本当は、誰かに捨てられたくなかっただけでした。必要ないと言われるのが怖かっただけでした。薬は、そういう気持ちにつけ込むものです。弱い人を救うものじゃありません。自分を壊すものだったんです」
先生は、倉庫で見つけた名簿を見た。
適合。未確認。搬送済み。
そこに書かれた生徒たちの中にも、ハルカと同じように、自分を変えたいと思っていた子がいたのかもしれない。先生はそう考えた。確かめる方法はない。けれど、その想像は簡単には消えなかった。
アヤネが記録を取りながら、唇を結んでいる。
ホシノは静かに言った。
「先生。今の話で、だいたい分かったと思う。薬を打てば強くなれる、なんて単純な話じゃない」
先生は頷く。
「適合すれば超人になる。適合しなければ獣化する。劣化した薬なら、その危険はもっと高い」
「うん。あとは、誰が今それを動かしてるのか」
カヨコが資料の一つを引き寄せる。
「倉庫で見つけたケースは、たぶん末端。薬も完成品じゃない。劣化品がブラックマーケットに流れてるなら、元になるものがどこかにある」
「元になるもの?」
先生が聞くと、カヨコは少しだけホシノを見る。
ホシノが頷いた。
「それについては、二人、話を聞いた方がいい」
場所は、ゲヘナの矯正局だった。
アビドスから移動する間、先生はほとんど言葉を発しなかった。端末には、ホシノから共有された最低限の情報が表示されている。
野蛇マヤ。
畳紙メルリ。
旧生徒会側に関わった超人。
現在は矯正局に収容中。
先生はその文字を眺めながら、会議室で聞いた話を繰り返し思い出していた。
普通の生徒ではありえない力を得ること。
代わりに、普通の生徒ではいられなくなること。
矯正局の面会室は、冷たい空気だった。
厚いガラスで仕切られた空間に、固定された椅子と机、必要最低限の照明だけが置かれている。先生とカヨコ、ホシノが席に着くと、向こう側の扉が開いた。
先に入ってきたのは、野蛇マヤだった。
瞳孔が細い。首元から見える皮膚には、蛇の鱗のような質感が一部残っている。歩き方そのものは自然に見えるのに、重心の置き方だけがわずかに人と違っていた。
続いて、畳紙メルリが入ってくる。
彼女の指先や頬の一部には、紙を折ったような硬い線が残っていた。肌の上に別の素材が貼りついたようなその質感に、先生は一瞬、言葉を失った。
戦いが終わっても、残るものがある。
会議室で聞いたイトの話だけではない。目の前のマヤとメルリも、超人の力に身体を変えられたまま、ここに座ろうとしている。
マヤが椅子に座り、先生を見た。
「先生っていうから、どんな人かと思ったけど……普通の大人だねぇ」
カヨコが淡々と言う。
「薬のことを聞きに来た」
「いきなりだなぁ」
マヤは笑った。軽い声だったが、先生にはその笑いが本当に軽いものなのか判断できなかった。
メルリが肩をすくめる。
「まあ、どうせそのうち来るやろとは思っとったけど」
ホシノが静かに言う。
「ブラックマーケットに劣化品が流れてる。生徒が獣化して死んだ」
その言葉で、マヤの表情から少しだけ笑みが消えた。
「へえ。もうそこまで出回ってるんだ」
先生はマヤを見る。
「知っていたの?」
「出回るかも、くらいはね。一人、心当たりがある」
カヨコの目が細くなる。
「誰?」
「言うわけないじゃ~ん」
マヤはカヨコを見て、わざとらしく笑った。その笑みには、相手を怒らせるための棘がある。先生には、マヤがこの状況そのものを楽しんでいるように見えた。
ガラス越しの空気が、少し冷える。
カヨコは黙ったまま、マヤを見ていた。
マヤは椅子にもたれ、今度は先生の方へ視線を移す。
「気分転換……先生は、五摂ロカのことをどこまで聞いてる?」
「名前だけは聞いた。詳しいことは、まだ」
「じゃあ、そこからか」
マヤは指先で机を軽く叩いた。
「五摂ロカ。最初の超人。あの子の血は超人薬の原料になった」
先生は手元の資料に視線を落とす。
五摂ロカ。
会議室で何度か出た名前。ヒナやカヨコたちの反応から、軽い名前ではないことは分かっていた。けれど、その人物が何者で、何を残したのか、先生はまだ十分に知らない。
メルリが続ける。
「ウチらの血でも試したけど……ロカの血を使った薬は、まだ安定しとった方や。そんでも壊れるやつは壊れる。今出回っとるのが劣化品なら、そりゃ獣になるやつも出るやろな」
先生は聞く。
「ロカが、今も薬を撒いている可能性は?」
マヤは一瞬、きょとんとした顔をした。
それから、小さく笑う。
「ロカが撒いてる? それはないよねぇ」
メルリも頷く。
「死体やし、血が足りんやろ」
面会室の空気が固まった。
先生は、その言葉の意味をすぐには飲み込めなかった。
「死体……?」
カヨコは目を伏せる。ホシノも何も言わない。
マヤは先生の反応を見て、少しだけ声を落とした。
「ロカは死んでる。本人が何かしてるわけじゃない。でも、死んだ後の体から材料を取ることはできる。どれだけ残ってるかは知らないけど」
先生の中で、倉庫のアンプルケース、獣化した生徒、ヘイローの消失、ロカの名前が繋がっていく。
ロカ本人が薬を撒いているわけではない。死んだロカの体から採られたものが、別の誰かに使われている。
その理解が形になった瞬間、先生の胸の奥に強い嫌悪が広がった。
メルリが頬杖をつく。
「……量産。さっきの話やけど、変な技術持ったやつがおってなぁ。あいつなら、ロカの死体を血が湧き出る泉みたいに出来るんちゃうか」
カヨコが静かに聞く。
「……随分よく喋るね。どういう風の吹き回し?」
マヤは少し考えるように視線を上げた。
「何でって、もう私たちは舞台に上がれないからねぇ。こうして教えてあげるからさ、精々私たちを楽しませてよ。先生」
先生はマヤの目を見る。
そこには反省も、怯えも、諦めも見えにくかった。少なくとも先生には、そう見えた。彼女は罰を受けている生徒というより、ガラスの向こうからまだ続く劇を眺めている観客のようだった。
先生は、アビドスで見た資料を思い出す。
カイザーPMC基地への不審な搬入記録。深夜に集中する未登録車両。薬品ケースに近い形状の荷物。
ホシノも同じことを考えたようだった。先生の方を見る。
「先生。たぶん、調べる場所は決まったよ」
先生は頷く。
「カイザーPMC基地」
その名前を口にすると、面会室の空気がさらに重くなった。
マヤは変わらずおどけるように話す。
「それじゃあ、終わったらまた来てよ。先生の格好いいところ知りたいなぁ」
先生はマヤを見る。
「……君たちの身体は、戻らないの?」
マヤは自分の手を見る。指先の皮膚には、鱗のような光沢が残っていた。
「……戻らないねぇ。少なくとも、今のところは」
メルリも、自分の指を軽く曲げた。紙の折り目のような線が、関節とは別の場所で硬く浮かぶ。
「嫌なもんやで」
先生は何も言えなかった。
会議室でカヨコが話したイトのことが、ここでも重なる。超人になった後、眠り続け、身体だけが変わっていく生徒。目の前の二人も、その先にいる。
面会を終えた後、先生たちは矯正局の廊下を歩いた。
ホシノは先を歩き、カヨコは少し後ろにいる。先生はしばらく、二人に何も聞けなかった。聞きたいことはいくつもあるのに、どこから言葉にすればいいのか分からなかった。
出口近くで、カヨコが立ち止まる。
「イトも、たぶん同じ」
先生は彼女を見る。
「眠ってる間にも進んでる。羽が増えて、指も変わってきてる。本人が望んだわけじゃないのに」
カヨコの声は静かだった。
「超人になるって、そういうことだよ」
先生は頷けなかった。
頷いてしまえば、分かったことになってしまう気がした。けれど、分からないまま進むこともできない。
先生は、矯正局の冷たい廊下の先を見る。
次に向かう場所は、もう決まっていた。
アビドス分校へ戻ると、すでに夜になっていた。
会議室には再び資料が広げられている。倉庫から回収されたもの、聞き取りの記録、マヤとメルリの証言、カイザーPMC基地への搬入記録。アヤネがそれらを一つの画面にまとめていた。
「整理します」
アヤネの声は少し硬かった。
「ブラックマーケットでは、生徒誘拐と薬物売買の噂があります。ヘルメット団のアジトからは、拘束された生徒、空のアンプルケース、搬送予定と思われる名簿が見つかりました。薬を使用した生徒は獣化し、死亡しています」
先生は画面を見る。
「超人薬は、生徒の神秘に干渉する。適合すれば超人になる。適合しなければ獣化する。劣化品ではその危険が高い」
カヨコが続ける。
「ロカ由来の材料が使われている可能性が高い。本人じゃなくて、遺体か、その一部」
ハルカが顔を伏せる。
アルは拳を握り、ムツキは黙ったままだった。
アヤネが次の資料を出す。
「カイザーPMC基地への不審な搬入記録があります。医療品または薬品保管ケースに近い形状の荷物が、深夜に複数回搬入されています。倉庫街の搬送記録と、時間帯が一部重なります」
ホシノが机に手を置いた。
「偶然にするには、重なりすぎてるね」
先生は画面を見つめる。
生徒誘拐。
薬。
劣化品。
ロカの遺体。
カイザーPMC基地。
全てが一つの形を取り始めていた。
先生はゆっくり口を開く。
「これは、アビドスだけの問題じゃない」
誰も否定しなかった。
「カイザーPMC基地を調べる必要がある」
ホシノが頷く。
「うん。そこに何があるのか、見に行かないと」
アヤネが少し不安そうに先生を見る。
「ただ、証拠はまだ状況証拠に近いです。アビドスだけで踏み込めば、逆にこちらが不利になる可能性があります」
「分かってる」
先生は端末を閉じた。
倉庫で死んだ生徒の姿が、目の奥に残っている。
あれをもう一度起こさないために、何をしなければならないのか。答えはまだ整っていない。それでも、次に見るべき場所だけははっきりしていた。
先生は会議室の全員を見る。
「準備しよう。カイザーPMC基地への強制調査を考える」
その言葉に、会議室の空気が変わった。
アルが顔を上げる。
ハルカが静かに息を吸う。
カヨコは目を伏せず、先生を見た。
ホシノは少しだけ目を細める。
先生は目を閉じる。
鮮烈な赤が、瞼の裏に残り続けていた。