ケイオス・ラベル -異世界冒険譚(偽)-   作:らいとそると

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第4話 無力なる神

 茂みの中から現れたのは、傷だらけのボロボロにされた村の老戦士だった。

 身体中が血まみれで、背中には矢が刺さっていた。

 

 ……体から、血の気が引いていく感覚が、する。

 

 村人達が駆け寄るも間に合わず、地面に倒れ伏す老戦士。

 苦し気な呻き声と、血を吐くような咳。

 血だまりが、広がっていく……。

 

 さっきから……やけに心臓の音が、うるさい。

 

 知らず、足が後ろに下がっていく。

 

 ──今すぐ、ここから逃げ出さないと……。

 

「神様……。」

 

 呼ばれ、体をビクリと震わせ、声の方に目をやった。

 ウィステリアが不安気に、俺の服の裾を掴んでいる。

 

(……しっかりしろ。逃げて……どうする?そもそも、どこに逃げる?

 逃げ場なんて、最初から無い──)

 

 軋む音が鳴る程に、剣を握る手に力を込める。

 

(覚悟は……覚悟を、持て!持つんだ!!)

 

 どれ程言い聞かせても、心臓は落ち着かない。気づけば口の中はカラカラに乾き、舌が上顎にくっついているような錯覚を感じた。

 

 茂みがまた、ガサリと音を立てた。

 大柄な緑の肌をし、眼帯をした男が、その体に負けない巨大な片刃の曲刀を担いで現れた。

 こちらを見定めるようにギョロリと見渡して、『ふむ…』と顎を擦るのが、妙に様になっていた。

 

「黒髪の男と、赤髪の女。なるほど……聞いた通り悪くねぇ──」

「う、うおおおああああああああああ!!!」

 

 斧を持った村人が叫びながら男へ突撃していった。

 渾身の力で振り下ろされた斧は空しく空を切り、次の瞬間、眼帯の緑男の曲刀の餌食となった。

 肩口からバッサリと斬られ、腰の辺りで止まったソレを、村人を蹴り飛ばして引き抜く緑男。

 水袋が破れたような音を立てて、村人だったモノが赤黒く染まりあたりに飛び散る。

 

 ──まるで、現実感が無かった。

 

 俺の覚悟を、血だまりと内臓の赤色が、死という恐怖が、ゆっくりと塗りつぶす。

 

「う、ううう……」

 

 震える身体、腕──それらを無理矢理動かして、敵に剣を向けた。

 虚勢──にもなっていない。

 その様子を緑男は鼻で笑い、曲刀を高く振り上げた。

 たったそれだけで、俺は情けなく小さな悲鳴と共に後ずさってしまう。

 今にも両手で握る剣を落としてしまいそうだった。

 

 周りから次々と、人影が現れた。

 同じ大柄な緑の肌をした者達と、赤い肌をした小柄な者達が村を囲むようにしていた。

 

「お頭、包囲は完了してますぜ。どうします?」

「全員捕らえろ。抵抗するなら痛めつけろ。それでダメなら殺せ」

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 雄叫びが、村中に響き渡った。

 

「か、神様!早く奴らを殺してしまって下さい!殲滅するのです!滅ぼすのですよ!!」

 

 村長がそんな事を言ってくる……。

 ──無理だ。出来るはずが無い。

 俺の心はとっくに折れてしまっていた。

 

「ランタはどうした!?なぜ戻ってこない!!?お、お前…お前ぇ!早く神を戦わせろ!!なんのために貴様のような穢れを今まで飼ってやったと思っている!」

「や……やめて……」

 

 俺が動けないでいると、今度はウィステリアに泣きつく村長。

 力任せにウィステリアを掴み揺さぶって喚いている。

 

 目の前の俺を完全に無視し、ゆっくりと、散歩でもしているかのように村長に近付いた頭と呼ばれた男。

 見下すように村長を睨みつける。

 

「な、なんだ貴様は!この薄汚い人擬きがわしに近付く──ぐごっぉ!!」

「大事な商品を手荒に扱うんじゃねぇよ」

 

 巨大な曲刀に体を貫かれる村長。

 すぐさまソレは引き抜かれ、血を大量に噴き出しながら膝から崩れ落ちた。

 

「テメェも、その剣を捨ててさっさと降参しな。なぁに、悪いようにはしねぇさ」

 

 そう言ってニヤリと笑いかけられる。

 周りでは怒号と悲鳴、そしてあちらこちらで家が燃やされ、火の手が上がっていた。

 

(何が、『悪いようにしない』だ……)

 

 深呼吸を一つ。

 ……相手は油断している。

 不意打ちで斬りつけて、ウィステリアの手を引いて逃げる。

 今、俺が出来るとしたら……そのあたりが現実的だろう。それすら難しいのは……わかっている。だが、やるしかない。

 手汗で滑りそうな剣の柄を握り直し、相手の隙を伺う。

 ふと、横からの声に反応して体を向け──こちらは眼帯で死角となった。

 

 今しかない!!

 

 力いっぱい振り上げ斬りかかって、あっさりと俺の剣は弾き飛ばされ、そこでようやく誘われたんだと気づいた。

 剣を失った俺は、巨大な手に首を掴まれ持ち上げられる。

 

「グッ……ガ──」

 

 苦しさからバタバタと動かす足はただ無意味に空を蹴る。首を握る力が増して締め上げられ、そして、俺の意識はそこで途切れた……。

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