今日も魔法少女たちは目が死んでる   作:アスタロット

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第一話

 

21世紀後半。

我が国は、突如として出現した「妖魔」と呼ばれる敵性存在によって、未曾有の危機に陥った。

妖魔は神出鬼没に姿を現しては、民間人を無差別に襲い、破壊と恐怖を撒き散らした。

国の実力組織である自衛隊や、警察の特殊部隊が総力を挙げて対抗した。

しかし、妖魔の持つ超常的な力の前に、彼らが使用する実弾兵器は全く歯が立たなかった。

次第に社会は混沌の渦に飲み込まれ、人々は毎日を怯えながら暮らすしかなかった。

 

しかし時を同じくして、また希望の光も生まれた。

列島各地で、超越的な能力を操る少女たちが次々と現れたのだ。

彼女たちが行使する超自然的な力は、妖魔に対抗する唯一の手段となった。

人々は妖魔と勇敢に立ち向かう彼女たちを「魔法少女」と呼び、英雄視した。

 

数年後。

 

魔法少女と妖魔の争いは熾烈を極めた。

しかし各地の魔法少女たちは、妖魔の飽和攻撃を逆手に取り、妖魔の各個撃破を繰り返した。

そして、精鋭による首魁の特定およびその殴り込み作戦が成功。

後に「妖魔大戦」と呼ばれる一連の争いに、ようやく終止符が打たれた。

 

魔法少女たちの尽力により、遂に我が国は平和を掴んだ。

 

しかし間も無く、次なる問題が浮上した。

それは救世の英雄たる、魔法少女たちの取り扱いだった。

妖魔と対峙できる彼女たちは、裏を返せば脅威となりうる存在。

正面から戦えば、治安維持組織や軍事力は彼女たちの能力に到底及ばない。

その事実は、権力者にとって新たな火種だった。

そこで彼らから要請を受けた政府は「超自然的能力保持者に関する法律」を制定。

公共の場での能力行使を厳しく規制し、違反者には重い罰則を設けた。

当然、国を守った自負を持つ魔法少女たちから、大きな反発が生まれた。

その反発は、逆に国民や権力者の疑心暗鬼を助長した。

一部の権力者は、魔法少女によるクーデターすら危惧するようになったという。

 

それでも政府は、妖魔大戦で活躍した魔法少女たちに一応の配慮を見せた。

不当な規制への謝罪と、功労を讃えるための「祝賀大会」を開催したのだ。

各地から魔法少女が集められ、華やかな会場で公的な式典が行われた。

 

そして、翌20XX年X月X日、事件は起きた。

一箇所に集められた魔法少女たちは、政府の有事部隊の不意打ちによって秘密裏に殲滅された。

事前に能力リサーチを済ませ、爆撃を回避し得る危険な能力者は「排除」済みだった。

これが俗に言う「魔法少女弾圧事件」だ。

表向きには”テロ行為による被害”という発表された。

しかし戦闘機と軍用ヘリが動員されれば、それが政府の判断であるのは誰の目にも明らかだった。

 

 

いずれにせよ、その会場に居合わせた一般市民含める、多くの魔法少女が死亡。

この事件により、我が国から多数の魔法少女が姿を消した。

真の平和、魔法少女なき平和が訪れたはずだった。

 

しかし、それは幻想に過ぎなかった。

妖魔が再び出現し始めたのだ。

対抗できる戦力はほぼ壊滅。

奴らは自由気ままに人々を蹂躙し、治安維持組織も行政も機能不全に陥った。

不幸中の幸いだったのは、大会に参加しなかった魔法少女や、僅かな生き残りが、身近な人々を守るために再び立ち上がったことだけだろう。

 

そして魔法少女弾圧事件から約十年後。

 

日本社会は、魔法少女が存在する地域と、存在しない地域で、大きな経済格差を生み出していた。

かつての首都・東京は所属する魔法少女を全て弾圧済み。

自ら戦力を放棄していた結果、妖魔に対抗できず実質的な壊滅状態となり、広大な「空白地帯」となった。

 

今や国民の過半は、魔法少女がいる「魔法区画」に住まいを構え、妖魔と不法者が跋扈する空白地帯は利権と資源を巡る経済戦争の舞台と化していた。

 

魔法少女達にかつての理想は無く、志は英雄から遠く離れつつある。

今や彼女たちは荒廃した国土で延々と続く、魔法区画同士による、代理戦争の尖兵と成り果てていた。

 

 

 

 

「……はあ…最悪、またこの夢かよ。寝覚め悪ぃなあ」

 

妖魔大戦が終わって、平和になったはずの国。

魔法少女はこの国の英雄だった。

少なくとも、あの頃まではそう思っていた。

祝賀会の招待状と勲章が来た時、俺も素直に喜んだ。

“やっと認められた”ってな。

……馬鹿だったよ。

 

一堂に会した魔法少女たちに、銃撃に加えてトドメは戦略爆撃。

アホか。

オーバーキルにも程がある。

しかもご丁寧にサーチ能力者は事前に事故で死亡。

俺は運良く大会をサボって生き残ったクチだ。

でも、あの日ニュースで見た爆音と悲鳴は、今でも耳から離れねえ。

 

それから十年。

日本は魔法少女がいる地域と、いない地域で真っ二つになった。

東京は空白地帯のど真ん中。

俺たち生き残りは、故郷に帰っても経済戦争の道具に成り下がるだけだった。

 

俺は関東蜷川興業所属の魔法少女、マジカル・ラ・フュメ。

本名、野分宗介、38歳。元男だ。

 

健康診断の血液検査を誤って女性用で提出した結果、極めて稀な魔法少女適性が認められた。

X染色体過多だって後で分かったが、そんなもん関係ねえ。

地域から派遣されたって言うマスコットみたいな連中に、半ば強制的に変身させられて以来、この姿だ。

 

可愛らしい銀灰色の髪、華奢な体、愛らしい顔。

 

……吐き気がする。

鏡を見るたび、”これが俺か?”って思う。

二十代半ばまで積み上げてきた男の人生が、全部無意味になった気がする。

極度のヤニカスだった俺は、今も煙を操る能力を得た。

便利な力だ。視界を奪い、攻撃を隠し、時には相手の息を詰まらせる。

でも、使えば使うほどニコチンが消費されて、切れた時の症状がキツくなる。

自爆能力だな、本当に。

肺の色?んなもん知るか。

 

今日も俺がいる事務所は、ヤニと酒の匂いが充満してる。

ソファに沈み込んで、タバコの空ケースを握りしめながらため息をつく。

朝から少し能力を使ったせいで、もう頭が重い。

指先が微かに震えて、喉がカラカラだ。

 

脳の奥が「タバコを吸え、タバコを吸え」って叫ぶ。

 

くそっ、この身体が情けねえ。

可愛い少女の姿でイライラして、貧乏ゆすりをして、煙を欲しがってる38歳のおっさん。

笑えるよな。

誰かに見られたら、ただのヤニカス未成年だと思われるだけだ。

でも、俺は俺だ。野分宗介だ。

この華奢な腕で煙の魔法を操ってる。

 

そんな考えを巡らせていると、事務所のドアが勢いよく開いた。

 

「失礼します!本日付けで配属されました、田辺まことです!魔法少女名はマジカルパワー!よろしくお願いします!」

 

元気いっぱいの新人だなあ。

あれがこないだ社長が言ってたヤツか。

24歳か、結構可愛いな。

学生時代に適性を見出されて、正義の味方になりたいって入ってきたんかな?

目が輝いてるぜ。

能力は怪力持ちで、社会に擦れていない常識人。

……可哀想に。

 

俺はソファから身を起こし、煙の残る吐息を吐きながら言った。

 

「こりゃどうも……ようこそ、クズの楽園へ。新人サン」

 

可愛らしい声なのに、口調は完全に中年男。

まことが一瞬固まるのが分かった。

 

「え……あの、先輩?その……タバコ……?」

 

「あー…おれは野分宗介だ。38歳、独身、元男。血液検査のミスでこうなった。文句あるか?」

 

自嘲がこみ上げる。

毎回こうやって説明するたび、腹が立つ。

このチンチクリンな身体が惨めで仕方ない。

まことが目を丸くしてるのを見て、余計に苛立つ。

 

この子はまだ知らねえんだろうな。

俺みたいな元おっさんが、こんな姿でニコチン切れ起こしてイライラしてる現実を。

英雄だった俺たちが、今はただの道具だってことを。

 

そこへ社長の蜷川が奥から出てきた。

わりとイケてるジジイで、とにかく声が渋い、

笑顔は爽やかだが、目は金勘定しか見てねえがな。

 

「ようやく新人が来たか。ようこそ関東蜷川興業へ。さっそくで悪いが、役場から緊急の依頼だ。資料が送られて来たから、とりあえず見ろ」

 

ジジイは抱えていたノートPCをこちらに向け、映像を再生した。

 

“ミッションを説明します。我々のエリアに隣接する空白地帯の商業施設跡に、中型の妖魔が現れました。我々は該当妖魔がこちらのエリアに侵攻してくる可能性が高いと判断しました。よって、その前にターゲットの撃滅をお願いします。ターゲットは商業施設を根城にしていたと思われる非合法集団を壊滅させており、人間にとって非常に危険な存在ですが、魔法少女のあなた方にかかれば、撃滅はそう難しく無い存在でしょう。迅速な処理と資源の回収を期待しています”

 

相変わらず事務的な説明だ。

簡単に言ってくれるぜ。

 

「と言う事で、宗介は新人を連れて行って来てくれ。行けるな?新人」

 

「はい、頑張ります!」

 

まことが拳を握って答える。

 

俺は深いため息をついた。

 

「……ったく、めんどくせぇ……」

 

本当に、身体が重いぜ。

 

他の先輩たちも適当に絡んでくる。

 

酒瓶抱えたアル中の奴、競馬新聞読んでるギャン中の奴、エロ雑誌読んでる風俗狂いのヤツ。

全員、荒んだ魔法少女だ。

俺もその一人。

 

 

その後に、ダラダラと準備をして事務所を出る前に、俺は新しいタバコに火をつけた。

煙を深く吸い込む。

 

「ふう……」

 

うめえ。

ニコチンとタールが脳にキマる。

一瞬で頭がクリアになり、世界が色づく。

ニコチンが回ると、冷静になれる。

イライラが溶けて、煙を操るのも楽しくなる。

 

「よし、行くか」

 

俺はタバコの火を消して、空白地帯に向かった。

 

新人のまことが隣で少し顔をしかめる。

タバコの臭いが気になるらしい。

まあ、少女の姿で煙を吐く俺は、確かに異様だ。

 

ちなみに移動中は終始イライラが止まらなかった。

イメージ守れだのなんだので、外じゃ堂々と吸えないからな。

ぶっちゃけ、あんまり気にしてねえけど。

普通にコンビニ前でウンコ座りしながら吸ってるしな。

 

 

 

空白地帯にある目的地に到着。

その廃墟の奥では、悍ましい集合体が蠢いていた。

古びたマネキンや壊れた人形が無数に寄せ集まり、手足が生えた肉塊のような姿。

廃棄人形の寄せ集め。

身近な日常の恐怖が妖魔化した存在だ。

 

「先輩……あれ……人形が……たくさん……」

 

新人が顔を青ざめながら言った。

俺はタバコをくわえたまま、軽く舌打ちした。

 

「うっわキモ……ったく、毎回これかよ」

 

俺はため息をつきながら、渋々呟いた。

 

「変身…」

 

光が体を包む。

衣装が魔法少女のコスチュームに変わる。

銀灰色の髪に煙のような模様が浮かぶ、白と黒を基調としたタイトな衣装。

肩と腕を覆う軽いマント風の布、腰回りに煙のフリル。

 

 

「紫煙の香りは魅惑の香り、マジカルヤニ中・ラ・フュメ見参……くそが」

 

この掛け声が、どうにも気に入らねえ。

毎回言わないと変身後に能力使えねぇなんて、どこの罰ゲームだよ。

紫煙の香り?

マジカルヤニ中?

38歳のおっさんがこんなバカバカしいセリフを叫ぶなんて、死にたくなるわ。

しかもコスチュームも相変わらず気に入らねえ。

白と黒のシックな色合いなのに、煙の模様が派手で、腰のラインが妙に強調されてる。

中身が俺じゃなければ最高の美少女なのが、尚更キツい。

 

嫌気が差す……

本当に嫌気が差す……

 

変身が完了した俺はタバコをくわえたまま、煙を軽く吐き出した。

コスチュームの裾を軽く直しながら、深いため息をつく。

 

一方、新人は目を輝かせて変身した。

 

「魔法の力は野生の力!マジカルゴリラ! パワー参上!」

 

「ブフォッw」

 

まことに申し訳ないが、彼女の口上に俺は吹き出してしまった。

しかし彼女の声は嬉々として弾んでいた。

赤と金色を基調とした力強い衣装。

肩パッドとグローブが強調され、全体的に明るく活発なデザインだ。

新人は拳を握りしめ、満面の笑みで言った。

 

「わー!やっとこの姿で戦えるの、嬉しいです! 先輩、一緒に頑張りましょう!」

 

対比が痛いな。

新人は純粋にこの掛け声とコスチュームを気に入って喜んでる。

俺はただ、バカバカしいセリフと煙のフリルに嫌気が刺してるだけだ……

 

いや、でもやっぱりゴリラはねえわ。

バカでしょ、マジカルゴリラって……

 

「よし、行くぞ」

 

俺はタバコをくわえたまま、片手で煙を発生させた。

ヤニを吸えている俺は嬉々として能力を使う。

 

「俺がこいつをぶっ潰す。新人は援護を頼む」

 

新人が「了解です!」と怪力で突進。

 

戦闘開始。

廃棄人形の寄せ集めが手足を触手のように伸ばしてくる。

俺はタバコをくわえたまま煙を展開。

視界を奪い、煙の触手を伸ばして絡め取り、地面に叩きつける。

煙を纏った拳で殴りまくり、壊れたマネキンの部品を蹴飛ばす。

 

「ははっ、たかが人形如きの寄せ集めが!気持ちいいぜ……!」

 

新人は怪力で周りの部品を砕くが、寄せ集めの再生が速く、触手に絡まれそうになる。

敵の反撃が激しくなり、俺たちの攻撃が分散する。

チームワークなどない各個撃破の乱戦。

俺は煙を操り、寄せ集めの動きを乱した。

 

「今だ、新人!中心部を適当に力一杯ぶち抜け!」

 

新人が怪力全開で痛恨の一撃を叩き込む。

妖魔の中心が砕け、悍ましい集合体が崩れ落ちはじめた。

寄せ集めが崩壊し、残骸が散らばる。

 

しかしその中心に、やたらとビジュアルが良い等身大の少女型人形が一体、佇んでいた。

完璧なプロポーション、艶やかな肌、微かに微笑むような表情。

廃棄人形の寄せ集めの核が、最後にこんな形で残ったらしい。

いや、むしろコレが妖魔の核か。

 

「え……これ……?」

 

新人が戸惑う。

俺はタバコをくわえたまま、観察した。

その瞬間、ラブドールが突然動き出した。

目が赤く光り、異常な速さで新人に襲いかかる。

 

「なっ——!」

 

気を抜いていた新人が人形の攻撃により吹き飛ばされ、壁を突き破って場外へ吹き飛ぶ。

 

「新人!」

 

俺はタバコをくわえたまま、煙を展開。

人形は異常な速さと手数で攻めてくる。

煙の触手をかわし、素早い蹴りや掌底で俺を翻弄する。

 

「くそっ、速え……!この動き、ただの人形じゃねえ……!」

 

攻撃の手数が多すぎて、俺は徐々に押されていく。

 

イライラが募る。

人形は無言なのに、どこか俺を舐めているような動きを感じる。

無駄な攻撃をわざと見せて、こちらの反応を試しているような。

まるで舐めプ。

嘲笑われているような気がした。

 

「このクソ人形が……この俺をナメてやがる……!」

 

俺はガチギレした。

吸いかけのタバコを握りつぶし、肉弾戦で応戦。

煙を纏った拳で殴り、煙の触手で絡め取ろうとする。

煙の動きが読まれいている。

なら戦術を変えるか。

 

俺はあえて追い詰められたフリをして、煙攻撃を空振りする。

そして人形が不用心に接近した瞬間、俺は素手でヤツの首を掴み上げた。

反撃の隙を与えず、即座に地面に叩きつける。

衝撃で妖魔の動きが大きく鈍る。

すかさず俺はマウントポジションを取って、ひたすら相手に腹パンを連打し始めた。

 

「この……クソ人形が……!死ね…死ねっ!」

 

拳が何発も敵の腹にめり込む。

可愛い顔が無傷のまま、腹を徹底的にボコボコにする。

 

可愛い人形ちゃんは、途中から命乞いをするような表情をしていたが、お構いなしだ。

舐めプ野郎は殺す。

 

都合数十回の殴打により敵の力が尽き、ただの動かぬ人形に戻った。

俺は息を荒げ、タバコを深く吸った。

 

「……ふう」

 

新人がボロボロになりながら合流してきた。

 

「せ、先輩……大丈夫ですか……?」

 

俺は力尽きた敵を眺め、ニヤリと笑った。

やたらとビジュアルが可愛い等身大の人形。

可愛い顔も無傷で、俺の好みドンピシャだ。

 

「おい新人……これ、持ち帰る?」

 

「い、いえ…私は結構です」

 

「ふーん、なら俺が貰おうかなぁ。洗って綺麗にすれば”使える”かな?」

 

新人がドン引きした顔で俺を見る。

 

「え……先輩……それ……持ち帰って、どうするんですか?」

 

俺は新しいタバコをくわえ、人形を肩に担いだ。

 

「悪くねえだろ?記念品だ」

 

人形の正体はラブドールだった。

中古だろうが石鹸で洗えば問題ないっしょ。

 

 

つづく

 




TIPS:人形寄せ集め妖魔
最高クラスのラブドールに取り憑いた妖魔が、商業施設跡のマネキンや人形を取り込みつつ巨大化したもの。
商業施設跡を根城にしていた半グレ集団は、この妖魔により全滅している。
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