新人の出勤2日目。
事務所は相変わらずヤニ臭が充満していた。
俺は私服のままでソファに沈み込み、タバコをくわえたまま新人の田辺まことを横目に見た。
教育係として面倒を見ることになったが、マジで面倒くさい。
OJTなんて久しぶり過ぎて忘れたわ。
「新人、今日は事務所の仲間を紹介しておく。まあ、キ○ガイしかいねぇから覚悟しとけよ」
まことが緊張した顔で頷いた。
そこへ、酒臭い女がフラフラと現れた。
「酒は最高よね〜! 朝から飲まないと一日始まらないわよ!」
俺はため息をつきながら紹介した。
「こいつが酒井ワカコ、28歳。ただの酒クズだ。戦闘では酔拳やら火炎やらを使う。酔うほど強くなるが、酔い潰れると無防備だからいつもツーマンセルの馬鹿だ」
ワカコが酒焼けしたハスキーボイスでニヤリと笑う。
「宗介ちゃんひどーい!私だってやる時はやるんですぅー!!ふふっ、むしろ、酔うほど強くなるんだから!飲まないと損よね〜? 新人ちゃんも一杯どう?」
まことが呆気に取られている。
次に、派手な金髪の女が近づいてきた。
「人生はギャンブルでしょ? 一発で決めるのが最高よ!」
「こいつが金畑金華、26歳のギャン中。ルーレットの出目で能力が変わる。ちなみにコイツのルーレットマシンは設定6で出目も大体イカサマだ。運良く777が出たら最強だが、ハズレを引くとピンチになるアホだ。」
金華が勝ち気な笑みを浮かべる。
「イカサマ? 戦術だっていってるでしょ!それに設定6だって負ける時は負けるの!ハイリスクハイリターンね!」
さらに奥から、妖艶な黒髪の女がゆっくりと現れた。
「ふふっ、溜まったリビドーは愛のシルシよ……」
「…四季欲阿奈子、31歳の風俗狂い。ローションと泡を操る。性欲が溜まるほど強くなる。戦闘後は大体ソープ行ってるクソレズだ」
阿奈子が妖しく微笑む。
「新人ちゃん、ストレス溜まったらお姉さんに相談してね♡」
まことが完全に引いていた。
「せ、先輩……この人たち、本当に魔法少女なんですか……?」
俺は肩をすくめた。
「あぁ?知らねえよ。お前だって成人済みの魔法少女じゃねえか…まあいいや。ようこそ新人、これがうちの事務所だ」
そこへ、社長の蜷川が割り込んできた。
「依頼だ。宗介とまこと連れて、こっち来い。ブリーフィングを開くぞ。ブローカーから映像来てる、よく見とけよ」
「…だりぃ……あぁー…はいよ」
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薄暗い小さな会議室で、プロジェクターが若干汚れた壁を照らし、音声が流れてくる。
“依頼内容を説明します。依頼主はホンジョウプラント組合。現在、北関東連合との境界付近にある農業プラント、これを荒らす複数体の妖魔がいます。その妖魔を全て撃破してください”
「複数の妖魔、ですか?あのぅ…先輩は良いとして…私は新人ですし、多数の妖魔は相手をしたことがありません。足を引っ張らないでしょうかでしょうか…」
「まあ説明は最後まで聞け」
社長が新人に傾聴を促す。
“該当妖魔の集団は北関東連合との境界を往復しながら活動しており、今までその捕捉が困難でした。しかし今回、撃破対象が境界の内側にある農業プラントの奥まで入り込みました。そのため依頼主は今が好機と見て当該妖魔の撃滅を判断しました。よって、妖魔の撃破および、妖魔の資源を持ち帰り戦果を報告する事が最終目標となります。なお、撃破対象の戦力それほど高くないとの報告が上がっています。懸念される北関東連合の主力魔法少女も、現在別任務で出払っているとの事ですので、越境攻撃による横槍の心配も無いでしょう。確実な任務遂行を期待します”
「ご覧の通り、新人教育には打ってつけの任務という事だ」
社長が俺を見て続ける。
「田辺まことの実力を実践で図るために、宗介は監督役として再び出撃してくれ」
俺はため息をついた。
「はぁ…了解だ」
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旧埼玉県境付近の農業プラントに到着した。
しかし…
プラントの敷地内は、予想以上に静かだった。
破壊されたばかりの施設の壁や、放置された農業用機械が無造作に転がっている。
風は吹いているが、妖魔の気配は薄い。
まことが周囲を見回しながら小さく息をついた。
「……先輩、妖魔の気配、ほとんどないですね。事前のブリーフィングでは複数体が奥まで入り込んだって言ってましたけど……」
俺はタバコをくわえたまま、ゆっくりと煙を吐き出した。
視線はプラントの奥、施設の影の奥深くに固定されている。
「……いや」
まことがこちらを見てきた。
「え?」
「撃破された妖魔が点在してる。まだ新鮮だ」
まことが先の風景を見た。
確かに、魔素の霧がまだ完全に消えていない妖魔の残骸が、所々に転がっている。
戦闘の痕跡は確かにある。
だが——
「死骸の配置が変だ。仲間割れじゃない。まるで誰かが個別に倒したような並び方をしてる」
まことはまだピンと来ていないようだった。
彼女は少しほっとしたような表情で、肩の力を抜いた。
「でも……これで戦わずに済みそうですね。ラッキーというか、今回は不戦勝?かも……」
俺は無言で前を向いたまま、ゆっくりと歩き出した。
まことが後ろからついてくる。
「先輩?」
「おい、新人」
「……はい?」
「事前のブリーフィングを思い出せ。『北関東連合の主力魔法少女は現在出払っている』って言ってたよな?」
まことが少し首を傾げる。
「ええ……だから横槍や越境攻撃の心配はないって」
「なら、なんでここに死骸がある?」
まことが言葉に詰まる。
俺はさらに続ける。
「越境攻撃して来そうな北関東連合の主力が出払ってるなら、妖魔を倒したのは誰だ?なぜ死骸だけが残ってる?しかも、俺たちが到着するタイミングで。俺の気のせいか?もし他の事務所にも依頼が入ってんなら、ブリーフィングで言ってるはずだ。共同戦線ってな」
まことはまだ完全に理解できていないようだったが、徐々に顔色が変わっていく。
「つまり……誰かが先にここにいて、妖魔を倒したってことですか?」
「少なくとも、俺たちが来る前に誰かが戦ってた。しかも、かなり効率的に」
俺はタバコを深く吸い、再び煙を吐き出した。
視線は変わらず、プラントの奥の影の部分を捉えている。
「ラッキーだと思うのはまだ早い。この状況……何かおかしい」
まことがようやく緊張を取り戻したのか、
軽く息を呑んだ。
「……先輩」
「なんだ」
「奥の方……誰か、いるような気がします」
俺はゆっくりとタバコをくわえ直した。
煙を一筋、静かに吐きながら、奥の影に向かって小さく呟いた。
「……来たな」
プラントの奥、崩れかけた施設の影から、
ゆっくりと人影が現れた。
「よう、おそかったじゃねえか」
そこに立っていたのは——
北関東魔法区域連合のエース
マジカル・ストームだった。
「よう、ヤニカスロリ女…おそかったじゃねえか」
彼女は風を纏い、勝ち気な笑みを浮かべながら言った。
俺はタバコをくわえたまま、煙をゆっくりと展開した。
「……またお前かよ。面倒くせえ……」
まことが隣で身構える。
「先輩……事前のブリーフィングで主力は出払ってるって……」
「どうやら予定が変わったみたいだな」
ヤツが肩を軽く鳴らしながら一歩ずつ近づいてくる。
「ふふっ、今日は運がいいぜ。ちょうどいい相手が来てくれた」
新人が小さく呟く。
「戦わずに済むと思ったのに……」
俺は低く声をかけた。
「新人、落ち着け。任務はイレギュラーばかりだ、今のうちに慣れておけ。だが相手は北関東のエース。しかも俺はヤツと相性が悪い……だから、まずは話してみる」
俺は煙を薄く広げながら、ダメ元で手を挙げた。
「よお、マジカル・ストーム。今日は穏便に済ませて立ち去ってくれねえか?妖魔はもう倒れてるみたいだし、俺たちも面倒なのはごめんだ。ここは、お互い引き下がろうや」
マジカルストームが目を細めて笑う。
「はん? アタシにそんなお願いされてもなぁ……あの時の屈辱、忘れる訳ねえよ…なぁ?ラ・フュメ!」
俺の願いはあっさり一蹴された。
これはもう戦うしかない。
俺は即座に作戦を決めた。
「新人! お前を全面に出す!俺は後ろから援護する!怪力で突っ込め!」
まことが頷き、怪力を構えて突進した。
しかし、経験と能力の熟知に長けたヤツは、新人の動きを容易く見切っていた。
「甘いなぁ!」
マジカルストームの強烈な突風がまことを捉え、
豪速で遠くへ吹き飛ばした。
「うわっ……!」
まことが壁に激突し、気絶寸前で倒れ込む。
マジカルストームが俺に向き直る。
「ふふっ、これでタイマンだなあ……ええ?ヤニカスゥ」
俺は煙を展開し、体術を駆使して応戦した。
煙の触手で足を絡め、接近戦に持ち込もうとするが、ヤツの風が煙を散らし、俺の動きを封じる。
相性の悪さが現れ、俺は徐々に押され始めた。
くそ……このままじゃまずい。
勝てない。
負ける。
ダメだ。
殺される。
不利を悟った俺は、”前回”と同じ作戦に出た。
「い、いや!……やめて……お願い……怖いよぉ……」
可憐でか弱い少女らしい命乞い。
涙目で震える演技を全力で演じた。
ヤツの動きが一瞬止まる。
「……ふふっ、またその手か。でもアタシはもう騙されねえ……」
それでも、マジカルストームは俺の姿に興奮したのか、ゆっくりと近づいてきた。
「跪けよ、ヤニカス。本気で命乞いすんだろ?なら土下座して詫びろ!そしてアタシの靴を舐めろ」
俺は歯を食いしばりながら、膝を折った。
「ごめんなさい…」
地面に額をこすりつけるように頭を下げ、土下座の姿勢を取る。
マジカルストームが満足げに笑い、俺の後頭部を踏み躙る。
「いい子だ……ヒヒッ」
そしてヤツはブーツをゆっくり脱ぎ、素足を俺の顔の前に突き出した。
ヤツは油断せず、未だ両手に風を纏っている。
「舐めろ」
俺は屈服の恥辱に打ちのめされながら、ヤツの足先に……舌を這わせ始めた。
ブーツで蒸れて、汗の混じった味が口の中に広がる。
しかも納豆くせえ、最悪のフレーバーだ。
「ふふっ……もっと丁寧に……そうだ…指の間も……」
俺は舌を動かし、足の指一本一本を丁寧に舐めていく。
マジカルストームの息が荒くなり、足が微かに震える。
「はあ……いい……上手いな、ラ・フュメ……」
興奮したヤツは、俺の顎をつま先で上げ、ふくらはぎを舐めるよう促した。
俺は黙って舌を這わせ、汗の味を飲み込む。
調子に乗ったヤツは太腿まで舐めるよう強要した。
しまいには鼠蹊部までも舐めさせられる。
クソ女の体温と甘い匂いが強くなっていく。
「んあっ…もっと……奥もっとまで……」
マジカルストームが足を広げ、スカートをたくし上げ、股間を俺の顔に近づける。
俺は屈辱に震えながら、舌をヤツの股間に伸ばそうとした瞬間——
「先輩!!」
豪速で戦線に復帰したマジカルパワーが、強烈な体当たりをヤツに叩き込んだ。
「ぐあっ……!」
マジカルストームが吹き飛び、地面に激突して負傷する。
まことが俺に駆け寄る。
「先輩! 大丈夫ですか!?」
俺は口の端を拭い、即座に立ち上がった。
「……よくやった、新人。お前も大丈夫か?」
「頑丈さが取り柄なんで!」
「ならば良し!……形勢逆転だ」
煙能力でヤツに挑むのは悪手だった。
相性が悪いのならば、純粋な数の力とフィジカルで勝負に持ち込むべきだった。
私たち二人は、負傷したマジカルストームに肉弾戦を挑んだ。
ヤツは風を振り回して抵抗するが、
二人掛かりの攻撃に次第に押されていく。
「くそ……アタシの……アタシだけの奴隷になるはずだったのに……!」
マジカルストームは捨て台詞を吐き、風を纏って撤退した。
俺たちはなんとか戦術的勝利を収めた。
任務終了ー
農業プラントの妖魔資源を回収し、事務所に戻る道中、まことが心配そうに俺を見ていた。
「先輩……大丈夫でしたか?」
「……ああ最悪だ。あやうく戦場でクンニさせられるとろだったぜ、助かったよ。ただ、アイツにまた絡まれるのは面倒くせえな。体術鍛えるか…」
俺はタバコに火をつけ、深く煙を吸い込み口内に残るアイツの匂いを煙で上書きした。
つづく