一般人、邪悪へと変貌する   作:ハラシキア

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駄目人間

平日なのにパチ屋に並んでいる馬鹿一人。

マイホームで新台入れ替え日という事もあり、新台の某有名版権を終日打ち込む予定だ。

 

好きなアニメという訳では無いが、試打動画やPVを見る限りは悪くない。

スペックも昨今のスマスロにしては比較的マイルドな機種。

それに最近の俺はツイている!勝てる自信しかない。

 

ありったけの軍資金を握り締め、俺は今日大一番の勝負に出る!

敗北は許されない。今後の生活費もかかっている。

まだ俺は働きたくないんだっ!

 

 

十二時間後、俺は仕事を探していた。

理由は説明するまでも無い。

俺は負けたのだ。

 

 

幸先は良かった。

抽選番号も一桁。

狙い台に問題なく着席出来た。

 

挙動も示唆も良かった。

昼まで回して明らかに調子が良い。

子役確率や初当たりなどの数字は明らかに高設定。

強い偶数示唆も何度も確認してるし出玉状況も悪くない。

 

今の所は投資額も少ない。

特に辞める理由も見つからない。

ある程度の出玉もある。粘る価値があると考えていた。

 

そこから先が地獄だった。

先程まで当然の様に入っていたチャンスゾーンに入らない。

繰り返されるガセ前兆。

頑張って入れても当たらない。

気が付けば天井。財布の中身が消えていく。

 

そのままヤメ時を見誤り、気が付けば財布から栄一は姿を消した。

初当たりは若干重くなったものの高設定と言える数字。

それで大負けしたのは、単純にATをやれなかったからだ。

純粋なヒキ弱。高設定を活かせないクズ。それが今日の俺だ。

 

乾坤一擲の大勝負だったが、天は俺に味方してくれなかったようだ。

生活も厳しいので、即金の金になる仕事を探しつつ正社員になる道を探すのが賢明だろう。

 

そんな負け犬の俺だったが、流石に矜持は持ち合わせているつもりだ。

 

「そこの兄ちゃん。金に困ってそうな面してるね」

 

「なんだ、おっさん。俺がパチ屋で素寒貧だが、善良で心優しい清廉潔白な若者だぞ」

 

怪しい中年男性。胡散臭い笑みを浮かべている。

面倒なのに捕まった。相手にしなくて良かったのに、無視して通り過ぎるなり踵を返せば問題なかった。

付き合わなければ面倒ごとに巻き込まれなかったのだろう。

そう後から悔やんでしまうのも仕方ないが、結局のところ遅いか早いかの違いだった気もする。

ここで俺の運命は確定した。クソみたいな非日常が俺を待ち受けていた。

 

「兄ちゃん、オカルトに興味はあるかい?」

 

「宗教か?生憎俺が信仰してるのはギャンブル神だけだぞ」

 

「そんな信仰は辞めた方が良いぞ。お前さんには不思議な力がある。ちょっと付き合ってくれるんなら金をやるぞ」

 

栄一を扇状に広げるおっさん。

失われた額よりも多い。釘付けになった。

 

「前金だ。飯付き合ってくれるか」

 

「奢りだな。良いぜ、話ぐらいは聞いてやる」

 

呆れた様子で肩を竦められた。

少しイラついたが折角の金蔓様だ。丁寧に対応してやらないとな!

 

 

おっさんが用意していた車に乗り込む。

某有名セダン。何気なく助手席に乗り込んだが、正直圧倒されていた。

 

車に詳しい訳では無いが、グレードやオプションも良いのだろう。

少なくとも金には困っていないらしい。

乗り込むなり先程の栄一を軽い調子で渡された。

あまりにも呆気ない。躊躇も特にない様子だった。

こっちが逆に遠慮しそうになる。

 

果たして真っ当な方法で稼いでいるんだろうか。

金持ちと縁がない人生だった。それでも常識外れであることは分かる。

俺にそんな価値があるとは思えない。

だが、何となく俺に用があるようだ。上手く言葉には出来ないが、それだけは分かっていた。

 

そこそこ長い時間連れられた。

辺鄙な場所に向かうなら抵抗もしただろうが、明らかに繁華街に向かっていたし、見慣れた街並みで少しだけ安心した。

特に会話も無く黙々と歩く。

明らかな高級店と言えばいいのだろうか。経験は無いがドレスコードでもありそうな雰囲気だ。

 

中に入れば期待を裏切らない内装。

今まで人生で一番だろうと確信できた。

店員の対応も丁寧過ぎた。

多分、VIPの扱いをされているんだろうな。

いや、アレか。そういう人しか入れないのかもしれん。一見さんお断りみたいな感じか。

 

多少の雑談を挟みつつ、豪勢な酒と食事を楽しんだ。

美味いがとんでもない金額が掛かっているんだろう。

会社員時代の一月の食費が飛びそうだ。下手したらもっとか。

どちらにしても俺には縁が無さそうな場所だな。

 

「さて、本題に入ろうか」

 

「やっとか。で、アンタはなんなんだ?」

 

「ふむ、そうだな。仲介人とでも言っておこうか。君をスカウトする立場だと思ってくれればいい」

 

「スカウト?俺に何を求めているんだ」

 

「先程のオカルトという話に繋がる。簡潔に言えば、お前さんには不運にする力がある」

 

「はぁ、そうか。だとするならば、それほど価値があるとは思えないんだが」

 

不運ねぇ……。全くもって嬉しくない。

自覚は勿論無い。大体そんなことを言われてもピンと来ないな。

 

「そもそも、そういった能力を持つ者は少ない。フィクションの世界で良くある瞬間移動も未来予知や念力といったものは存在しない。仮にあったとしても限定的だ。出力という面で見れば手品や子供騙しぐらいの価値しかない」

 

「へぇ、なるほどね。俺にも不運という力があるって話か」

 

「そうだ。それにお前さんの能力は使い勝手が良い」

 

少しだけ嬉しくなったが、黙って水に手を伸ばした。

酔って聞く話じゃなさそうだ。

若干だが目を細めたな。口角も動いてる。

煽てるだけじゃあ俺は動かんぞ。

 

「で、アンタは俺の何を評価している?俺に何を求めてんだ?」

 

「先に断っておくが、今までの経歴を洗わせて貰ってる。ハッキリ言って凄く優秀だ。前金やここでも支払いも安く思える価値がある」

 

「凄く高評価は有難いが、説明してくれないと意味が分からん。詳しい説明を頼む」

 

「簡潔に言えば不幸を撒き散らすという分かり易い能力ではない。お前さんはフグみたいなものだ」

 

「えっ、それは褒められてるの?絶対に悪口じゃないの?」

 

「適切に調理すれば美味しく頂けるだろう。不運と表現したが厳密には違う。そういった側面もあるが、幸運の要素もかなり強い。むしろ、そちらの方が本体に近いんだが、毒を持っていることに変わりはない。薬にならない毒で扱いを誤れば致命傷になる。それだけの話だ」

 

俺にそんな能力があるのか?

変な例えをされた所為で全く嬉しくない。

誰がフグだ。もっと良い海洋生物あっただろ。ウニとかさぁ。

 

「ほーん。で、アンタは俺に何をさせるつもりなの?俺自身そんな能力があっても意識的に使えない以上はアテにされても困るわけだが」

 

「そうだな。だから鍛える。まずはそうして貰いたい」

 

「あぁ、なるほど。変な施設に連れて行かない?」

 

「アホなこと抜かすな。能力者を見つける苦労は半端じゃないんだ。お前さんに恨まれたらロクな目に遭いそうにない。そういうことを考えれば、下手なことをする気も起こらん。……とはいえ、ある程度は現実も教えておくが、俺含めた大多数の能力者は雑に扱われてるのも事実。ここまで稼げる様になるまで時間が掛かったと言えば理解できるだろう」

 

「なるほど、少し整理する」

 

水を一気飲みする。

大分飲んだから気休めに過ぎないが、今と明日の為には必要な事だろう。

 

息を吐きつつ頭の中で簡単に纏める。

恐らく俺はレアスキル持ちとかの分類なんだろう。

アニメや漫画の様な高い出力の分かり易い能力は、子供騙しレベルでありふれているんだろう。

将来性もあるだろうが、現時点でも稀少性や活かせる機会の多さで評価されてそうだな。

それに見込みが無いなら、ここまでのアピールはしてこないだろう。

 

だが、まだ信用するには早すぎる。

能力という非現実的な存在の証明に待遇面での交渉。

真っ当な社会人としての経験が警戒を促している。

流石に某マルチとまでは疑ってはいないが、怪しまないのは脳内お花畑の馬鹿だけだ。

それに変な宗教の可能性は未だに捨てきれていないしな。

 

「良い警戒心だ。マルチや宗教では無い。理解が早いのは有難いが、もう少し心を開いて欲しいものだ」

 

一瞬だけ呼吸が止まる。

明らかに心を読んでないか、このジジィ。

黙って心を閉ざすとしよう。

 

「なんで心を閉ざすんだ」

 

やっぱりか。失敗したな。

今まで全部読まれていた訳か。死ねよ。プライバシーを守れよ。

 

「そこまで万能ではない。……私も心の中とはいえ罵倒されるなら待遇について考えるぞ」

 

「なるほど分かったとりあえずもう少し金を出してくれるなら訓練を受けます」

 

「現金過ぎる……無駄金だが恩を着せるには安い。最初の金と豪勢な料理で普通なら納得して貰える事も多いんだが……」

 

溜息交じりで懐から封筒を差し出して来る。

恭しく頭を下げながら両手で頂く。

中々の厚みだ。笑みが零れる。

 

「……じゃあ早速明日からだからな。無いとは思うが逃げても無駄だぞ。名前から住所に経歴と人間関係まで抑えてるからな」

 

「へへっ、俺をそんなに買ってくれてるんですから、それなりに誠意を持って対応する所存ですよ」

 

「薄っぺらいな……」

 

変な顔をしていたが、気にしないでおくことした。

俺に相手の誠意(おかね)が良く伝わった。一旦帰らせて貰う事にする。

丁寧に挨拶して颯爽と後にした。

 

「ハハハハハッ!勝ち組キター!」

 

有象無象の雑音が耳を通り抜ける。

周囲を見渡してみると、心に勝者の余裕がこみあげてくる。

 

今までと違う視界だ。

明滅に似た状態。ハッキリはしないが、人々の身体にオーラの様なものが僅かに確認できた。

多分、これが運の総量なのだろう。何となくだが、そうだと思った。

 

感覚的な話だが、現状では運を操る段階は難しいのだろう。

人に確認できない概念を把握出来るのは強みだが、もっと能力を知れば良い使い方があるはずだ。

色々と考えたが、切欠を手にしただけに過ぎない。

今は人とは違う力があったことを喜んでおこうか。

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