不老なのをいいことに、移りゆく世代を眺めながら辺境で気ままに過ごしていたら、知らないうちにレベルが限界を振り切っていた 作:無性主人公広めたい
話がまとまるなり、鷹宮が、まっさきに動いた。
「俺からだ。——『炎帝』。いちばん高いやつだ。持ち点、まるごと、これに突っ込む」
鷹宮が宙に手を伸ばし、その札をつかむと、札は光になって、あいつの窓へ吸い込まれた。とたん、窓の数字が、ぐんとせり上がる。
力も、速さも、魔力も——さっきまで、みんな一様に『1』で並んでいたはずの数字が、見る間に二桁、三桁へと桁を変えて、跳ね上がっていく。ついさっきまで、オレたちと同じ『1』だったなんて、とても思えない。
ただ、札を持っただけじゃない。取ったスキルに見合って、ステータスの数字まで、底上げされるらしい。
鷹宮は手のひらに小さな炎を躍らせて、「うっわ、すげえ……本当に出るのかよ、これ」と声を弾ませた。
「うむ。よき選択だ」
王が、満足げに頷いた。さっきまでの、値踏みするような冷たさが、嘘みたいに消えている。
そこからは、早かった。
「じゃあ俺は『剣聖』に全部突っ込む!」
「私は、『聖癒』を」
「『金剛』、まだ残ってる?」
一人、また一人と、値の張る札が、宙から消えていく。強そうなものほど、あっという間だ。
そのたび、めいめいの窓で、数字が跳ね上がる。みんな、持ちポイントを惜しみなくつぎ込んで、得意げに、勇者の顔になっていく。王の反応も、その都度、満足げだ。
——どんどん、減っていく。いいものが、宙から、減っていく。
そうして。
「……残っているのは、もう、そこのお前、ひとりだけだな」
王が、めんどくさそうに、こっちを見た。
オレは、前に出る。がらんとしてきた宙を、見回した。
……見事に、めぼしい札は、何も残っていなかった。強くて値の張るやつは、根こそぎ、宙から消えている。
まあ、いい。どうせ、戦う気なんてない。派手な力なんか持ったら、最前線に放り込まれて、使い潰されるだけだ。
前線で磨り減らされるくらいなら、放り出されて、こそこそ逃げ回っているほうが、まだ性に合っている。——丸腰で外に出されたって、逃げて隠れるくらいは、なんとかなる気がする。だったら、残りもので、十分。
残った札を、上から眺めていく。『遠くの音がよく聞こえる』。『触れた水を、甘くする』。——見事に、どれも地味で、使いどころもわからない、半端なやつばかりだ。その中の一枚で、ふと、目が止まった。
——『デイリーリワード』。九十ポイント。
札には、こう書いてある。
『この身は、戦っても、鍛えても、強くならない。ステータスを底上げする力を持たず、成長を運ぶのは、毎日ひとつ届く贈り物のみ。何が届くかは、その日しだい』
……戦っても、鍛えても、強くならない。
つまり——この先どれだけ魔物を倒したところで、それでオレが強くなることは、ない。剣を振っても、身体を鍛えても、経験値の一つも入りはしない。
そのうえ、さっき皆がやった、スキルでの底上げも、いっさい無い。最弱のまま、据え置き。そりゃ、誰も選ばない。今すぐ戦えなければ追放される、こんな場所では。
でも——その代わりに、毎日ひとつ、贈り物が届くという。細かい説明を読むと、ほとんどの日は、ほんのわずかな経験値。それきりだ。ごくたまに、当たりもあるようだけど——それが何なのかまでは、どこにも書いていなかった。
……毎日、もらえる。へえ。
働かなくても、寝ていても、毎日かってに、何かが届く。その響きが、なんというか、すごく、楽そうだった。
……うん。楽だし、これでいいか。
深いことは、考えなかった。オレは、その札に触れる。ぽん、と、九十ポイントが消えて、札も、ふっと宙から消えた。
手元に、十ポイントだけ、残る。
もう一度、宙を見る。十で買える、半端な札。その中に——あった。
——『不老』。十ポイント。
不老。不老不死、ってことか? ……いや、待て。それ、めちゃくちゃ強いんじゃ——と、一瞬だけ、心が浮ついた。
でも、説明を読んで、すぐにしぼんだ。
『老いない。ただし、傷つき、殺されることはある。ステータスへの補正も、ない』
……なんだ。死なないわけじゃ、ないのか。歳を取らないだけ。
がっかり、というか——拍子抜けだ。歳を取らないだけで、今すぐ戦えるようになるわけじゃない。戦力にならなければ追い出される、こんな場所じゃ、これは、なんの助けにもならない。
——でも。
ふと、思った。毎日かってに、ちょっとずつ、何かが届く。それを、歳も取らずに、ずっと、受け取り続けられる。……これ、案外、相性、いいんじゃないか?
まあ、どうせ、十ポイント、余っているわけだし。
「……まあ、いっか。いれとこう」
軽い気持ちで、オレは、その札にも触れた。
窓の数字が、書き換わる。——いや、ほとんど、なんにも変わらなかった。
白瀬ユウ Lv.1
体力 1 力 1 速さ 1 魔力 1
スキル:デイリーリワード/不老
まわりが軒並み、二桁も三桁も数字を伸ばしたなかで、オレの窓だけ、まっさらな『1』が、きれいに並んでいる。見事なくらいの、最弱だ。
横から、ぷっと噴き出す声がした。
「見ろよ、あいつのステータス。初期値のまま、ぜんぶ1だってさ」
「みんなスキルで上がってんのに、こいつだけ、なんも変わってねえ」
「戦う気、ゼロじゃん」
その中の一人が、オレの窓を覗き込んだ。スキルの名前の下に刻まれた、細かい説明書きまで、じろじろと読んでいく。そして、鼻で笑った。
「おい、これ見ろよ。あいつの札……魔物をいくら倒したって、経験値の一つも入らねえって書いてあるぜ。伸びるのは、毎日ちょっぴり届く分だけ。あんなの、一生かけたって最弱のまんまじゃねえか」
男は、なおも、オレの窓に顔を寄せて、もう一枚の名を、指でつついた。
「それに、もう一個は『不老』? ……はっ。不死身ってわけでもないのか。ただ、歳を取らないだけ。そんなもん、魔王の前で何の役に立つんだよ。斬られりゃ死ぬくせに、戦えもしない。それじゃ、いないのと同じだろ」
どっと、嘲笑が広がる。
玉座の上で、王が、オレの窓を一瞥した。スキルの欄に並んだ、見慣れない名前には、目もくれない。ざっと数字だけを確かめて——それきりだった。
王の目が、すっと、興味を失う。オレを『1』と勘定して、頭数から外したのが、分かった。
「——全て、初期値か」
王が、気だるげに、吐き捨てた。
「戦えぬ者に、用はない。出ていけ。城の外で、好きにするがいい」
——ああ。やっぱり、こうなるのか。
……まあ、いい。笑いたいなら、笑えばいいさ。
ただ、ひとつだけ。
毎日、ほんの少しずつ。それを、永遠に、受け取り続けたら——いったい、どうなるんだろう。
そんなことをふと、思った。