封印を解いた悪魔が俺に執着するけど普通にかわいいので、覚悟をきめて全力で愛する 作:やゆよ
ヤンデレって……いいよね。
自分にだけ強く執着してくれて、自分のことだけを愛してくれる。
その分束縛は強いし、下手するとこっちに危害を加えてくる危険性もあるけど、だからこそ俺は思ってしまう。
そんな子を、逆に本気で愛してみたい。
本気で愛することで、ヤンデレを受け止めてみたい、なんて。
まぁ、オタクの都合がいい妄想だ。
現実でそんなことは普通ないし、仮に会っても人に危害を加えるのはちょっとどうかと思う。
けど、そんな人が目の前に現れたら?
俺が本気で愛さなければ、誰かを殺してしまうとしたら?
俺は多分、覚悟を決めると思う。
というか、決めた。
俺が出会ったのは、いろいろな事情が相まって契約した悪魔の少女だ。
その悪魔は、かわいい。
浮気とかしたら殺されそうだし、四六時中ベタベタしてくるし、たまに気に入らない相手を殺さないかと耳元で囁いてくるけど。
でも浮気なんてするつもりはないし、かわいい女の子にベタベタされたら嬉しいし、気に入らない相手は別に殺さないので問題ない。
転生した当初は特にこれといったチートもなくてどうなることかと思った。
しかしこんなカワイイ悪魔と契約できるならチートの有無なんて誤差だよ、誤差。
ただまぁ、そんな彼女と本気で生きると覚悟を決めた結果、なんか周りが俺の行動にドン引きするんですけど。
あとたまに彼女もドン引きしてくるんですけど、なんでなんですかね?
■
扉をくぐると、そこは俺が想像していた通りの光景だった。
酒場が併設された、ファンタジー風のお役所っぽい施設。
冒険者ギルドに対するオタクのイメージはそんなところだろう。
それぞれ思い思いの格好をした冒険者があちこちにいて、依頼ボードを見ていたり受け付けに並んでいたり、昼間から飲んだくれているやつもいる。
「本当に冒険者ギルドに来たんだなあ」
『ずいぶんと感慨深そうね』
「まあ、ずっとここに来るつもりで今までやってきたからな」
人の波をかき分けて、耳元から聞こえてくる声と話をしながら先に進む。
他の人間には聞こえない声だ。
ここは人の声が多いから、ちょっと独り言をぶつぶつ呟いても、それを気にするものはいない。
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど」
「はい、かしこまりました」
――十五になって成人を迎えた俺は、故郷の村を飛び出して冒険者になる。
もともと次男坊で家を継ぐ必要もないので、これは当然のことだけど。
俺にとっては、夢にまで見た冒険者生活の始まりだ。
といっても、まぁ。
『――――ねぇ、その女生意気じゃない? 私のロモにどうしてそんな事務的なのかしら。ロモは素敵な子よ? もっと愛想を振るまいてもいいんじゃない?』
隣から、そんな声が聞こえてくるんだけど。
いやいや落ち着きなさいよ君、どうせ愛想振る舞いたらそれはそれで嫉妬するでしょ君。
まぁいつものことすぎるので、俺は気にせず受付さんと冒険者登録を続ける。
「――では、お名前はロモさんですね、登録完了いたしました。おめでとうございます、今日から貴方も冒険者です」
「ありがとうございます」
ロモ、というのは俺の名前。
苗字はない、平民だからな。
『ああロモ、ロモ、ロモ。素敵な名前よねぇ。でもどうしてこの女が貴方の名前を口にするのかしら。ねぇ、ロモ』
俺は手元にある、冒険者証を眺めた。
銅のプレートで俺の名前が刻まれている。
基本的に冒険者はコレを身につける決まりになっていて、なくしたら罰金だ。
出世にも関わる。
そしてそんなことは無関係に――
『――――殺す?』
”彼女”は物騒だ。
『私なら、あの女を存在の痕跡残らず消してあげられる。あの女の尊厳を一つ残らず陵辱してあげられる。生まれてきたことを後悔してあげられる。ねぇロモ。貴方は――』
「――ベレト」
だから端的に、俺は彼女の名を呼んで。
「――――今日もかわいいな」
『……………………ああそう』
本音をぶつけた。
そしたら黙った。
かわいい。
ベレトは基本的に構ってほしいからこう言っているだけなので、否定するより別の話で流したほうがいいのだ。
それはそれとして、かわいいのは本音である。
と、そんな時。
「んだぁてめぇ! バカにしてんのか!?」
ギルドの中に、怒号が響き渡る。
それまでの喧騒が、一気にしんと静まり帰った。
『あら、喧嘩かしら。行ってみましょう、楽しそうだわ』
そして、こういう他人の野次馬が大好きなのがベレトである。
促されるままに進むと、そこには一人の男が一人の少女に怒鳴りつけている姿があった。
野次馬が輪を形成しており、ぽっかりと二人の間だけ空白が生まれている。
「てめぇからぶつかってきたんだろうが、あぁ!?」
「そ、そんなことないですぅ、ご、ごめんなさいぃい!」
少女の方は顔立ちがいい。
黒い髪で、如何にもか弱い雰囲気のシスター服、神官だろうか。
冒険者証を見る限り新人で、多分俺と同じく今年が成人であるため、冒険者になろうとやってきたタイプ。
男の方は如何にもチンピラって感じ。
冒険者証は銅だけど……なんか少し違和感があるな。
『ふぅん、あの子と男がぶつかって、それで諍いになってるみたいね。男が酔っ払ってるみたい』
「そりゃまぁ諍いにもなるか」
冒険者ってのは血気盛んだなぁ。
とはいえ、普通ならさっさと誰かが割って入りそうなものだ。
銅級同士の諍いなんて、上位者が仲裁して終わり……と普通なら考える。
「……あの男、等級が銅級なだけで、実際はもっと強いな?」
『あら、どうしてそう思うの?』
「装備が上等すぎる。一見使い古しててボロいけど、実際はかなりの高級品だな。長くつかってるんだろう」
『正解、ロモも観察眼が磨かれたわねぇ』
「おかげさまでな」
――とすると、少しまずいかもしれないな。
『介入するの? いいのかしら、そんなことしたら私があの子に嫉妬して殺しちゃうかもしれないわ?』
「しないだろ。
『うふふ、じゃあどうして介入するの?』
「決まってる」
相手は強い。
”普通”にやったら、手間取ってしまう。
”普通じゃない方法”はベレトが後で怖い。
とすると――
「よし」
俺はそっとぽっかりと空白地帯になった渦中へと歩み寄る。
「ああ? 何だてめぇ」
「ひ、え、あ……」
怯える少女の横を通り過ぎると――
ノータイムで金的を叩き込んだ。
「お、ぐ」
倒れ込む男。
完全に油断していたのだろう、装備がちょうど金的をいれるのにちょうどいいデザインだったのも相まって、隙だらけだった。
任務完了、さっさと退散するか。
「ま、待ってください!」
と思ったら、少女に呼び止められた。
ええ、面倒なんだけどな……というか周りの空気を見なよ、完全に凍りついてるぞ?
悪いこと言わないから、ここは素直に引いときなって。
『誰のせいよ、誰の』
いや俺は、この場における最適解を選択しただけでな。
「あの……ありがとうございます! お、お名前を聞かせていただけないでしょうか……」
え、名前?
それなら俺の答えは一つだ。
「ああ、ごめん。俺、仕事以外で女性と話をするつもり、ないから」
――いい切って、俺はその場を後にする。
地獄みたいな空気と、俺にだけ聞こえるベレトの大爆笑を背に受けながら。
まあだって、ヤンデレ相手に覚悟を決めるってそういうことですし、おすし。
――こうして、俺の冒険者生活一日目は終わった。
まぁ何とも波乱な一日だ。
『それで、さっきは聞かなかったけど、どうしてあそこで介入したの? この地獄みたいな空気、貴方が介入しなければ生まれなかったわよ?』
「なんでって、決まってるってさっきも言っただろ」
ただまぁ、俺としては――
「
『――――』
――悪くない、一日目だったと思うけどな。
だいたいこんな感じのお話です。
よろしくお願いします。