無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


エピローグ27:ララと一緒に並行世界救出

Side:ルーデウス

 

朝の光が差し込むリビングには、いつもと変わらない我が家の賑やかな喧騒が満ちていた。

 

「アルス!ジーク!ピーマンを残そうとするんじゃないわよ!好き嫌いする男は強くならないわ!」

「うぅ……母ちゃん、苦いんだもん……」

「お、俺は……肉だけで強くなるからいいんだ……!」

「口答えしない!ぜんぶ食べなさい!」

 

エリスの雷が落ち、アルスとジークハルトが涙目で苦手な野菜を口へと運んでいる。

その隣ではルーシーとクリスティーナが背筋をピンと伸ばし、スプーンとフォークを一生懸命使って綺麗なテーブルマナーを実践しようと奮闘していた。

リリは昨夜遅くまで地下の実験室で魔道具をいじっていたのか、目をこすりながら船を漕いでいる。

 

多忙を極める日々の生活の中で、この朝食の家族団欒こそが私にとって何物にも代えがたい癒しの時間だった。

 

世界中を飛び回り王侯貴族や神々と渡り合う日々を送っていても、この賑やかな食卓に戻ってくるたび自分が何のために戦ってきたのかを再確認させられる。

 

だが、ふと視線を横に向けると長女ララの様子がいつもと違っていた。

普段のララならぼんやりとしながらもパンを器用にちぎって口に運んでいるはずなのだが、今日はスプーンを持ったままじっと手元を見つめ何か深い考え事に沈んでいる。

 

「……パパ、ママ」

 

ララが静かに顔を上げた。

 

「ん?どうしたんだい、ララ?」

「……今日、魔法大学をお休みしてもいい?」

 

その言葉に、正面に座っていたロキシーが目を丸くして身を乗り出した。

 

「ララ!?急にどうしたのですか?どこか身体の調子でも悪いのですか?」

「……ううん。病気じゃない。でも、お休みしたい」

 

何があったのかを問い詰めても、ララはキュッと唇を結んだまま口を閉ざしてしまった。

パウロやリーリャも心配そうに顔を見合わせている。

 

その時、お茶を飲んでいた母ゼニスがララの真剣な瞳をじっと見つめた後、優しく微笑んで頷いた。

 

「いいわよ、ララ。少しお休みしなさい」

「……お義母様?」

「あの子には、あの子にしか見えない大切な役目があるみたいだから」

 

ゼニスの温かい後押しに、ララは小さく「ありがとう、おばあちゃん」と呟いた。

 

朝食を終え食器を片付けようと立ち上がった時、ララが私の服の裾をキュッと引っ張ってきた。

 

「……パパ。今、お部屋で少しだけお話しできる?」

「もちろんいいよ」

 

するとロキシーが私のスケジュールを気遣うように声をかけてきた。

 

「ルディ、今日は『龍の爪』事務所で重要な会議があるのでは……?」

「大丈夫だ、ロキシー。いくら仕事で忙しくても、家族のためなら何をおいても時間を作る。アイシャには後で伝えるよ」

 

私はロキシーに笑顔を返すと、ララの手を引いて彼女の部屋へと向かった。

 


 

ララの部屋に入り、私は勉強机の前の椅子に腰掛けた。

ララはベッドの端にちょこんと座ると、胸元に手をかざし、混合(コンタミネーション)の光とともに一本の杖を実体化させた。

 

以前、私がプレゼントした傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)をベースに再構築した最高峰の杖だ。

 

ララはその杖を両手で大切そうに抱きしめ、いつになく真剣な瞳で私を見つめてきた。

 

「……パパは、あたしが『占命魔術』を使えるの、知ってるよね?」

「ああ。未来の予兆を感じ取ったり、運命の歪みを感知する力だろう?私にも知見のない分野だから、いつも興味深く聞いているよ」

「うん。……パパがオルステッド様と一緒に人神(ヒトガミ)を封印してからはね、この世界で嫌な未来が見えることは完全になくなったの。みんなずっと幸せで、平和な未来が続いてる」

「それは良かった。私たちの戦いは無駄じゃなかったということだね」

「……でもね。昨日の夜、すっごく嫌な悪夢を見たの」

 

ララがキュッと眉を寄せ、小さな肩を震わせた。

 

「嫌な夢?」

「うん。……この世界の未来じゃないの。この世界とは全然関係がなくて、解決してもしなくても、わたしたちの暮らしには何の影響もないお話」

「こことは異なる世界……ナナホシやルードが元々暮らしていた、異世界(地球)のことかい?」

「ううん、それとも違うの。世界そのものは、この世界とまったく同じなの。なんて言えばいいのかな……ここであって、ここではない世界」

「……なるほど。選ばれなかった無数の可能性が堆積した『並行世界』のようなものか」

 

私の推測にララはコクリと頷いた。

 

「うん、そんな感じ。……あたし一人の力じゃ、その世界へ行くことすらできないから、そこでどれだけ酷いことが起きても助けられない。でも……パパの力があれば、きっと何とかできると思うの」

「……ララは、その並行世界で起きようとしている悲劇をなんとかして救ってあげたいんだね?」

「……うん。でも、パパを危険な目に遭わせちゃうかもしれない……」

 

伏し目がちに呟くララの頭に、私はそっと手を伸ばし、優しく撫でてやった。

 

「いいよ、ララ。一緒に行こう」

「……えっ?いいの……?」

「もちろんさ。君は普段いたずらばかりしているけれど、こうして真剣にパパにお願いをしてくるなんて滅多にないからね。愛娘の頼みを断る父親がどこにいるんだい?」

 

ララは目を見開き、やがて心底ほっとしたように、パッと満面の笑みを咲かせた。

 

「……ありがとう、パパ!」

 


 

私たちは準備を整え、シャリーアの街外れにある人気のない草原へと移動した。

 

「さてララ。どうやってその並行世界へ向かえばいいんだい?」

「まずはね、真ん中の『無の世界』へ行くの。そこから先はわたしが占命魔術で座標を道案内するから」

「了解した」

 

私は背中から王竜剣カジャクトを引き抜いた。

重力と空間操作の権能を解放し、虚空に向かって一閃を放つ。

 

ズズズ……ッ!

 

大地が揺れ、草原の中央に精巧な竜のレリーフが刻まれた重厚な石造りの門がせり上がってきた。

 

「……さすがパパ。でも、ただの通過点なのに門の装飾まで凝るのはちょっとやりすぎだと思う」

「ははは、ただの土の門じゃ味気ないだろう?芸術性は常に意識しないとね」

 

呆れたようなジト目を向けてくるララに苦笑いを返しながら、私たちは門をくぐり、一面真っ白な『無の世界』へと足を踏み入れた。

 

歩きやすいよう、カジャクトの重力場で足元に安定した透明な足場を作りながら進む。

ララは片手に傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)を構え、もう片方の手で私の手をぎゅっと強く握りしめていた。

普段はマイペースな彼女だが、未知の空間に対する緊張がその小さな手から伝わってくる。

 

「……パパ、あっち。あの光の歪みのところ」

「よし、あそこだな」

 

私たちは白い虚無の中をしばらく歩き、ララが「ここ!」と指差した空間の座標へ辿り着いた。

私は再びカジャクトを振るい、空間に新たな次元の門を穿ち出した。

 

「いくよ、ララ」

「うん!」

 

手をつないだまま、二人で光の門をくぐり抜けた。

 


 

門を抜けると、そこは薄暗い木造家屋の廊下だった。

 

夜の帳がすっかり下りており、室内には静まり返った闇が広がっている。

不用意に灯りを点けるのは避けるべきだろう。私はララと目を見合わせ、静かに頷き合った。

 

暗闇に目が慣れてくると、周囲の光景に見覚えがあることに気づいた。

 

(……ここは、シャリーアの自宅……?いや、違う。私がここ数年で増築や改造を施す前の、昔の古い構造そのままだ……!)

 

その時、頭上の階段からギィ……と床を軋ませる足音が聞こえてきた。

私は咄嗟にララを引き寄せ、廊下の物陰へと身を潜めた。

 

階段を降りてきたのは、一本の頼りない蝋燭を手にした一人の青年だった。

 

ぼんやりとした火に照らされたその横顔を見た瞬間、私は危うく声を上げそうになり、喉の奥で息を呑んだ。

 

(……あれは……私なのか……!?)

 

そこにいたのは、茶色い髪を伸ばし、顔に大きな傷跡もなく、どこか若々しさと甘さを残した青年——かつての、そしてこの世界における『ルーデウス・グレイラット』だった。

 

白髪になり、竜の瞳を持ち、魔神鎧を纏う今の私とは、あまりにもかけ離れた姿。

 

不思議な感覚だった。

鏡の中の自分を見ているようで、けれどそこにいるのは紛れもなく他人。

あの頃の自分がどれほど無力で、どれほど多くの過ちを重ねながら今の私へと至ったのか、まざまざと思い知らされる。

 

目の前の『ルーデウス』は、何気ない足取りで、廊下の隅にある古びた地下室の木製ドアノブへと手を伸ばそうとしていた。

 

その瞬間、私の手を握るララの手が激しく震えた。

 

「……パパ!彼を止めて!!」

 


 

「……止まれ」

 

私は物陰から踏み出し、低く鋭い声で制止した。

 

「ひっ……!?だ、誰だ!?」

 

『ルーデウス』が飛び上がるように驚き、蝋燭の火を揺らしながら振り返った。

暗闇に佇む私の異様な威圧感に気圧され、彼はガタガタと後ずさりながら叫んだ。

 

「あ、あんた……もしかして、人神(ヒトガミ)か!?」

 

予想もしていなかった名前に、私は思わず眉間に深いシワを寄せた。

 

「……違う」

「じゃ、じゃあ誰なんだよ!?なんで俺の家に不法侵入してるんだ!?」

「私は……並行世界から来た、お前だ」

 

私は魔神鎧のフードをゆっくりと跳ね上げ、顔を露わにした。

 

蝋燭の明かりに照らされた私の顔を見て、『ルーデウス』は目を限界まで見開き、開いた口が塞がらない様子で固まった。

 

「な……顔は確かに俺にそっくりだけど……!年齢も違うし、髪は真っ白だし、顔も傷だらけだし、眼の色まで化け物みたいじゃないか!?」

「……私の外見のことはどうでもいい」

 

そこへ、ララがフードを深く被ったまま、私の背後から静かに姿を現した。

 

「パパ、この地下室の下から、すごく嫌な、吐き気のする気配がする……。パパ、見てきて。その間、あたしが『ここ』がどんな状況の世界か、この人に聞いておくから」

「分かった。頼んだよ、ララ」

 

私は警戒しながら地下室への扉を開け、階段を駆け下りた。

 


 

地下室の暗がりの中、私は疑似魔力眼(マナ・サイト)を起動して空間を走査した。

食料の貯蔵樽の影に、微かな、だが極めて異様な魔力反応を放つ『生き物』の気配を捉える。

 

「……これか」

 

私は土魔術で極小の土檻を瞬時に形成し、その生物を隙間なく捕獲した。

用事を済ませた私は、檻を手に持って一階のリビングへと戻った。

 

リビングでは椅子に座らされた『ルーデウス』が、腕を組んでジト目を向けてくるララからの容赦ない質問攻めに遭い、タジタジになって冷や汗を流していた。

 

「パパ、おかえり。『何か』あった?」

「ああ。恐らく君が感じ取った嫌な気配の正体は、こいつのことだろうね」

 

私はテーブルの上に土の檻をトンと置いた。

檻の中には一匹の小さなネズミが閉じ込められていた。

 

『ルーデウス』が眉をひそめて覗き込んでくる。

 

「……ネズミ?なんだよ、ただのネズミじゃないか」

「ただのネズミに見えるか?歯の先端をよく見てみろ」

 

『ルーデウス』が目を凝らし、息を呑んだ。

 

「……歯が、紫色に結晶化してる……?魔石……?」

「そうだ。これは『魔石病』という不治の病を媒介する、極めて危険な感染源だ。……おい、お前に聞くが、今この家に妊娠している女性はいるか?」

「えっ……?あ、ああ……いるけど……ロキシーが、俺の子を身篭ってる……」

 

私の言葉に、『ルーデウス』が呆然と答えた。

 

私は冷徹な声で告げた。

 

「このネズミが齧った食料を、妊娠中の母体が一口でも口にすれば……母体も、腹の中の子供も、魔石病に侵されて確実に死に至る」

 

「「「……っ!?」」」

 

『ルーデウス』の顔から、一瞬にして全ての血の気が引いた。

紙のように真っ白になり、全身をガタガタと激しく震わせ始める。

 

「な……なんで……そんなものが……俺の家の地下室に……」

「お前、さっき地下室を開けようとしていただろう。誰に言われて開けようとしたんだ?」

「……人神(ヒトガミ)に……夢の中で……『地下室の様子を見てこい』って……頼まれて……」

「……完全に嵌められたな」

 

私は深いため息を吐き出し、哀れなもう一人の自分を見下ろした。

 

「なぜ人神(ヒトガミ)なんかの言うことを真に受けたんだ?あの存在と関わること自体、破滅と不幸を招くだけだというのに」

「あ、あんた……人神(ヒトガミ)のことを知っているのか!?」

「嫌というほど知っているさ。奴の目的はただ一つ……お前とロキシーの間に生まれる子供を、何としてでも抹殺することだ」

 

私は人神(ヒトガミ)の正体、奴が未来予知を使って人々をチェスの駒のように操り、破滅へと誘導してきた歴史の真実をかいつまんで説明した。

 

『ルーデウス』は頭を抱え、絶望に打ちひしがれて呻いた。

 

「そんな……じゃあ俺は……ロキシーと我が子を、自分の手で殺すところだったのか……!?どうすればいいんだ……!これから俺はどうすれば……!」

「落ち着け。家族を守りたいなら、龍神オルステッドを頼れ」

「なっ……!?オルステッドだって!?」

 

『ルーデウス』が悲鳴のような声を上げた。

 

「無理だ!あいつは化け物だ!俺は昔、『赤竜の下顎』であいつに一撃で心臓を潰されて、一度殺されたんだぞ!?あんな奴と関われるわけがない!」

「情けない声を出すな!」

 

私は『ルーデウス』の胸ぐらを掴み上げ、鋭い眼光で睨みつけた。

 

「殺されたことなら私だってある!だがな、オルステッドは敵ではない!真の敵は人神(ヒトガミ)だ!恐怖に負けて逃げ出せば、次こそ本当にお前の家族全員が皆殺しにされるぞ!お前は、命に代えても守りたい家族がいるんじゃないのか!?」

 

私の怒声に、『ルーデウス』はハッと目を見開き、やがて悔しそうに唇を噛み締めながら、固い覚悟を込めて頷いた。

 

「……分かった。オルステッドに……会いに行く」

 


 

私たちはナナホシの元へと向かい、彼女を介して龍神オルステッドへの緊急連絡を取り付けた。

 

待ち合わせ場所として指定したのはシャリーアの街外れの荒野——私の世界では『龍の爪』事務所が建っているあの場所だった。

 

冷たい夜風が吹き抜ける荒野に佇む中、『ルーデウス』は恐怖のあまりガタガタと膝を震わせている。

一方の私は、周囲を見回しながらどこか懐かしい気分に浸っていた。

 

(……昔のオルステッドは、本当に近寄りがたい絶対の殺気を放っていたな。今のあの方はすっかり丸くなって子供たちに懐かれているけれど……)

 

ザッ、ザッ……。

 

暗闇の向こうから、冷気とともに足音が響いてきた。

 

現れたのは、白銀の髪をなびかせ、白い外套を羽織った男——龍神オルステッドだった。

 

オルステッドの金色の瞳が、冷徹に私たちを射抜く。

 

懐かしい、殺気立った眼差しだった。

今の私が知るオルステッドの穏やかな表情からは、想像もつかないほどの刃のような鋭さ。

あちらの世界のオルステッドは長い年月と数多の出会いを経て、あの柔らかな笑みをこぼすまでになったのだろう。

 

「……ナナホシから話は聞いた。俺を呼び出したのは貴様たちか」

「ええ、龍神オルステッド。お初にお目にかかります」

「……何が目的だ?」

「人神(ヒトガミ)を討ち滅ぼすための、完全な同盟を結びに来ました」

 

私がそう告げた、次の瞬間——!

 

オルステッドの姿がブレた。

超神速の手刀が、私の首を刈り取らんと音もなく振り抜かれる!

 

ギィィィィンッ!!

 

火花が激しく散り散った。

私は無詠唱で手元に雷槍を顕現させ、オルステッドの手刀を受け止めていた。

 

激しい衝撃波が荒野の砂塵を巻き上げる。

 

「ひぃぃっ!?」

 

腰を抜かした『ルーデウス』が絶叫する中、私は涼しい顔でオルステッドを見据えた。

 

「落ち着いてください、オルステッド。私とこの男には、貴方の『呪い』は一切効きません。まずは話を聞いていただけませんか?」

 

オルステッドは驚愕に目を細め、ゆっくりと手刀を引いて距離を取った。

 

「……貴様、何者だ」

「さて……長い話になります。座ってじっくりと話しましょうか」

 

私は土魔術で人数分の頑丈な石造りのテーブルと椅子を錬成し、腰を下ろした。

 


 

私はすべてをオルステッドに語り聞かせた。

 

この世界の『ルーデウス』が異世界の魂を持つ特異点であり、だからこそ呪いが効かず、人神(ヒトガミ)を欺くための最大の切り札になり得ること。

私自身は並行世界の未来から、娘ララの占命魔術に導かれてこの場に介入したこと。

人神(ヒトガミ)がネズミを使ってロキシーと胎児を暗殺しようとした卑劣な計画の全貌。

そして——私の世界においては、オルステッドと完全に手を取り合い、人神(ヒトガミ)を永久封印することに成功したという結末を。

 

オルステッドは終始無言のまま、金色の瞳を揺らしながら私の話を聞き入っていた。

途方もない情報量に、あの冷静沈着な龍神の思考回路が完全に処理落ちを起こしているのが分かった。

 

ふと横を見ると、ララが大きなあくびをして私の膝に頭を預けてきた。

 

「……パパ、ねむい」

「よしよし、よく頑張ったね」

 

私は『ルーデウス』に向き直った。

 

「おい、お前。私はこれから朝まで、オルステッドに伝えなければならない重要な情報がたくさんある。ララを連れて一度家に戻り、お前の家で寝かせてやってくれないか?」

「えっ!?あ、ああ、分かった!任せてくれ!」

 

早くこの場から離れたかったらしい『ルーデウス』は二つ返事で了承し、ララを優しく抱きかかえて自宅へと連れ帰っていった。

 

「……さて、オルステッド。夜明けまで、未来の知識をすべてお渡ししましょう」

 


 

夜が明け、地平線から赤い朝日が差し込み始めた。

 

ララの話によれば、並行世界の理により、こちらの世界に物質的なアイテムを残していくことはできない。

だが——『情報』と『知識』であれば、いくらでも伝承できる。

 

私は一晩をかけて、オルステッドに持てる知識をすべて叩き込んだ。

 

自らの『嫌悪の呪い』を劇的に軽減する魔道具の設計理論。

後に人神(ヒトガミ)の最後の使徒として立ちはだかる、裏切り者ギースの正体と動向。

バーディガーディが闘神鎧を纏って襲来する決戦のシナリオと、その分解・無力化の手順。

五龍将の秘宝の複写技術と、カジャクトを用いた『無の世界』への正確な座標指定の方法。

 

オルステッドは真剣な表情でそのすべてを脳内に刻み込んでいたが、膨大な知識の奔流に、頭を押さえて唸っていた。

 

朝日の中、家で少し仮眠を取ったらしい『ルーデウス』がララと共に歩いてやってきた。

 

私は『ルーデウス』の肩をポンと叩いた。

 

「いいか、お前。家族を守りたければ、オルステッドに全力で協力しろ。このお方は口下手で不器用だが……信じるに値する最高の上司だ」

 

そして、未だに処理落ち気味のオルステッドに向き直る。

 

「オルステッド。魔道具の開発や各国の協力者を募る際は、この男を馬車馬のように使ってください。家族の安全と生活さえ保障してやれば、こいつは信じられないほどの成果を叩き出しますから」

「……うむ。承知した」

 

オルステッドが力強く頷いてくれた。これで、この世界の破滅の未来は完全に回避されたはずだ。

 

ララが私の服を引っ張った。

 

「……パパ、そろそろ帰らないと。門が閉じちゃう」

「ああ、そうだな」

 

私は王竜剣カジャクトを取り出し、帰還のための光の門を草原に開いた。

 

門をくぐる直前、私は足を止め、『ルーデウス』を振り返った。

 

「そうだ、最後に一つだけ言っておく」

「え?」

「ララから聞いたが、エリスと手紙の行き違いで仲違いしたままだろう。エリスはお前を捨てたんじゃない。お前を守るために、強くなりたくて剣の聖地へ修行に行ったんだ。今でもお前を一心に愛している。……意地を張らずに、すぐに迎えに行ってやれ」

「なっ……!?エリスが……俺を……!?」

 

『ルーデウス』が目を見開いた。

 

「それと、雷を用いる魔術の研鑽を積め。もしくは魔導鎧を作れ。これからお前は、幾多の強敵と戦うことになる。……絶対に死ぬなよ」

 

私がララと手をつないで光の門へ足を踏み入れようとした、その時。

 

「……なぁ!」

 

背後から、『ルーデウス』が必死な声で呼び止めてきた。

振り返ると、彼は涙を拭い、まっすぐに私を見つめていた。

 

「……お前は今、幸せか?」

 

私は一瞬驚いたが、すぐに胸を張り、心からの満面の笑みを返した。

 

「ああ、もちろんだ。世界一幸せだよ。……お前も、必ずそうなれるさ」

 


 

光に包まれ、次元の狭間を抜けて元の世界へと戻ってきた。

 

草原に降り立つと、空は綺麗な夕暮れ色に染まっていた。

日付は出発した日の夕方——時間のズレは数時間のようだ。

 

「……パパ、助けられてよかったね」

「ああ。ララのおかげだよ。ありがとう」

 

私はララの小さな手をぎゅっと握り直した。

 

(……あの世界の私も、きっと幸せになれる。この子が繋いでくれた縁が、無駄になることは決してない)

 

「さあ、急いで帰ろう。夕飯に遅れたら、今度こそロキシーに怒られちゃうからね」

「ふふ、うん!」

 

夕日に照らされたシャリーアの街並みを、私たちは笑顔で駆け抜けていった。

我が家で待つ、愛する家族たちのもとへ。




原作世界とのクロスがリクエストに挙がっていたので書いていました。
原作と言っても、老デウスの世界とクロスしました。
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