無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第12節 生体回路の解析:スペルド族の呪縛と共鳴バイアスの仮説

第12節 生体回路の解析:スペルド族の呪縛と共鳴バイアスの仮説

 

Side: ルーデウス

 

意識の覚醒を告げたのは、全身を苛む焼けるような激痛だった。

 

重いまぶたを無理やり押し上げると、視界に入ってきたのは布製の高い天井だった。『記憶』にある遊牧民の住居――ゲルのような構造。見慣れない、けれどどこか懐かしさを覚える民族的な意匠が施されたランプが、横たわる私の視界で静かに揺れていた。

 

「ルーデウス……?ルーデウス!目を覚ましたのね!!」

 

視界が急に遮られ、エリスの顔が至近距離まで迫る。

 

「……エ、リス……?」

 

喉は砂漠のように乾ききり、掠れた声しか出ない。

 

「よかった……!あなた、あの後二日も眠り続けていたのよ!?本当に、本当に心配したんだから……っ!」

 

エリスはそう言って、私の体に縋り付くように抱きしめてきた。節々の痛みはあったが、その温もりを私は黙って受け入れた。彼女を一人にしてしまった恐怖は、計り知れなかっただろう。

 

私は意識を内側へ向け、体内の魔力残量を確認した。

 

(一割……程度か。回復が異常に遅いな。損傷が激しすぎて、本能が生命力を組織修復に回し続けているのか)

 

「目を覚ましたか」

 

入り口の垂れ幕を上げ、一人の男が入ってきた。

その瞬間、私の腕の中でエリスの体がビクッと硬直した。

 

そこにいたのは、筋骨隆々とした巨躯に、エメラルドグリーンの髪。そして額には、不気味な鈍い輝きを放つ赤い宝石を宿した男。

魔物に襲われていた私たちを救った槍使いだろう。だが、エリスがこれほど怯えるのは珍しい。本来なら、命の恩人に対して彼女は敬意を払うはずなのだが、本能的な拒絶が彼女を支配しているようだった。

 

私は礼を言うために起き上がろうとしたが、神経が悲鳴を上げ、体が鉛のように重くて動かない。

 

「……無理をするな。そのまま寝ていろ」

 

男の声は低く、険しい顔つきをしていたが、その眼差しには深い慈悲の色が浮かんでいた。見た目の凶暴さに反して、この男は善人であると、私の直感が告げていた。

 

「不躾な形で失礼します……。私はルーデウス・グレイラット。死にかけていた私とエリスを助けてくださったのは、あなたですね。……心から感謝します」

「……人族の子供はひ弱だ。見捨てられるはずもなかろう。俺は、ルイジェルド・スペルディアだ」

 

ルイジェルドは、私の言葉を聞いて一瞬、驚いたように目を見開いた。まるで「自分に怯えずに礼を言う子供」を初めて見たかのような、不思議なものを見るような目だった。

 

続いて、小柄な男性が二人、天幕に入ってきた。透き通るような青い髪――ロキシーと同じ色だ。

 

「目覚めたか。私はこの集落の長老、ロックスだ」

「ルーデウスです。救っていただいたご恩、忘れません」

 

魔神語で話しかけられ、私も即座に魔神語で答える。寝たままの非礼を詫びるように、精一杯の目礼を返した。ロックスの後ろに槍を持って立つ男は、どこか見覚えのある面影をしている。ロキシーを少し男らしくしたような顔立ちだ。

外見、言語、そしてこの空気。私の推測が正しければ――。

 

「……あなた方はミグルド族、ですね。ここは魔大陸にある集落の一つでしょうか」

「魔神語を解するか、助かる。いかにも、ここはミグルドの集落だ。其方らこそ、あのような荒野で何をしていた?どこから来たのだ」

「アスラ王国のフィットア領という場所で、大規模な魔力災害に巻き込まれました。気づけばあの荒野に……。魔物の群れに囲まれ絶望していましたが、ルイジェルド様に救われました」

「様はいらん。スペルドの戦士として、子供を助けるのは当然だ」

 

ルイジェルドが淡々と断じる横で、長老のロックスが難しい顔で切り出した。

 

「そうか、そんな遠くから。……だが、ルーデウスとやら。其方に、聞かねばならぬことがある」

 

ロックスと、背後の男の表情がにわかに険しくなる。

ロックスは袖の中から、一つの小さな装飾品を取り出した。それは、私が肌身離さず身に付けていた、ロキシーから授かったお守りのペンダントだった。

 

「――『これ』を、どこで手に入れた?」

 

________________________________________

 

私は目を見開いて、そのペンダントを見つめた。いつの間にか村の服に着替えさせられている。その際に、預かられていたらしい。

 

「それは……中央大陸ブエナ村で過ごしていた頃、私の魔術の師であるロキシー・ミグルディア先生より卒業の証として授かったものです」

「ロキシー、だと!?それは本当か!?」

 

長老の背後にいた男が激昂した。同時に、垂れ幕を跳ね除けて一人の小柄な女性が駆け込んできた。

ロキシーに、驚くほどよく似た顔立ちの女性が、身を乗り出してくる。

 

「師の名前を、間違えるはずがありません。先生が家庭教師の任を終えて旅立つ際、私に託してくださったのです」

「馬鹿な……!ロキシーが、こんなに大事な物を、他人に渡すはずが……っ!」

「……先生がこのペンダントを大切にされていたのは知っていました。ですが、先生は大切なものだからこそ、これを授けると言ってくださったのです」

 

私の真っ直ぐな言葉に、男は深く溜息をつき、静かに身を引いた。

代わりに、ロキシー似の女性が身を乗り出して私に詰め寄る。

 

「私はロキシーの母、ロカリーです。……あの子は、娘は今、どこにいるのですか!?」

「家庭教師を辞めた後は冒険者として旅をされておりましたが、その後に手紙をいただきました。今はシーローン王国の王宮付き魔術師として、王子の家庭教師を務めておられます」

「ロキシーが……王子の家庭教師に?」

 

二人の顔に、驚愕と、そして何にも代えがたい安堵の色が広がった。長老のロックスが、その場を収めるように口を開く。

 

「……今後どうすべきかは追って話し合うとして。今はルーデウス君の体を癒すのが先だ。ロキシーの教え子であれば、我らにとっても客人同然。いくらでも滞在するが良い」

「ありがとうございます。お返しできるものが何もなく心苦しいですが……お言葉に甘えさせていただきます」

 

ロックス、ロキシーの父であるロイン、母のロカリー、そしてルイジェルドが天幕を去っていった。

一気に静かになった室内で、エリスが水を差し出してくれた。手が満足に動かない私のために、彼女は一口ずつ丁寧に飲ませてくれる。

 

「ルーデウス……何を、話していたの?」

 

彼女には魔神語での会話は理解できなかったのであろう。私が目覚めるまで、とても不安だったに違いない。そうに問う彼女に、私は話の内容を要約して伝えた。ここはロキシーの故郷であること、私たちが歓迎されていること。

 

「ねぇルーデウス、私たち……これからどうなっちゃうの?」

 

エリスの瞳には、強気な彼女らしからぬ、底の見えない不安の色が沈んでいた。無理もない。親も、師匠も、住み慣れた家も、すべてから離れてしまったのだから。

 

「安心してください。……私が、命に代えてもエリスをアスラまで送り届けます」

 

彼女の目をじっと見据え、私は誓った。

 

「……そうね!ルーデウスがいるんだから、大丈夫よね。でも、まずは自分の体を治して!」

「ええ。魔力は少し戻りました。これから残りの全魔力を使って治癒魔術をかけます。……おそらく使い切ってまた眠ってしまいますが、明日には動けるようになるはずです」

「分かったわ。私も、隣で寝る。おやすみなさい、ルーデウス」

 

エリスはそう言って私の横に潜り込んだ。

 

私は意識を研ぎ澄ませ、体内を巡る乏しい魔力を損傷部位へと誘導する。『ヒーリング』――。

細胞を活性化させる熱が全身を包み込む。魔力が空っぽになる爽快感と共に、私は深い眠りの泥へと沈んでいった。

 

________________________________________

 

翌朝。目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。

 

鈍い痛みは残っていたが、節々は繋がり、筋肉も制御下にある。隣ではエリスがまだ安らかな寝息を立てていた。気丈に振る舞ってはいても、極限の緊張が彼女を疲れさせていたのだろう。

 

身体の至る所に、治癒が間に合わなかった無数の傷跡がケロイドのように残っている。……まあ、生き延びた代償だ。

(体内魔力は三、四割といったところか。少し心許ないが、効率的に動けば問題ないだろう)

 

「ほう、もう起き上がれるのか?」

 

入り口からルイジェルドがぬっと現れた。その瞳には、やはり深い気遣いの色が混ざっている。

 

「はい。魔力さえあれば、私の魔術で治せますから」

 

意気揚々と答えた直後、情けないことに私のお腹が盛大に鳴った。

ルイジェルドと、後ろから来た長老が同時に小さく吹き出す。

 

「ククッ。すぐに朝食にしよう」

 

ロックス長老が目を瞑った。すると、私の頭の中に「カリ、カリ」という微かなノイズのような音が響く。

不思議そうな顔をする私に、ルイジェルドが教えてくれた。

 

「ミグルド族は、離れていても念話(テレパシー)で意思を交わせる」

「なるほど……微弱な魔力の震えは念話(テレパシー)ですか。非常に小声ですが、確かに言語として聞き取れます」

 

ルイジェルドが「聞き取れるのか?」と驚いたような表情を浮かべた。どうやら、他種族がミグルド族の念話(テレパシー)を捉えるのは稀であるらしい。確かに、魔力の振動としては極めて微弱だろう。私も、普段から魔力の微小精密制御を練習していなければ気付けなかっただろう。

 

ほどなくしてロカリーが朝食を運んできた。その匂いでエリスも目を覚まし、私は魔大陸での初めての食事を囲んだ。食後の茶を啜り終えた頃、ロックス長老が本題を切り出した。

 

「それで。其方ら、これからどうするつもりだ?」

 

私はエリスを一目見てから、長老を見据えた。

 

「私は、エリスをアスラ王国へ帰さねばなりません。路銀を稼ぎながら、中央大陸を目指します」

「……気の遠くなるような道のりだな。中央海は海族が支配しており、直行する船は出ん。まずはリカリスの街へ向かい、魔大陸を南下して港町ウェンポートを目指すしかない。そこから海を渡り、ミリス大陸を横断して、再び船で中央大陸へ……」

 

脳内に地図を描き、数年単位の旅路をシミュレートする。だが、迷いはない。やるしかないのだ。

 

「その距離を、子供二人だけで?金策しながら歩くと?」

「それしか、方法がありませんから」

「二人ではない。俺がついていく」

 

ルイジェルドが私の言葉を断ち切るように告げた。

 

「そして、二人を必ずアスラまで送り届ける」

「なんじゃと?」

 

長老が驚きの声を上げ、私も言葉を失った。

 

「ルイジェルドさん、それは……そこまで甘えるわけには……!」

「断るな。スペルドの戦士は一度決めたことを覆さん。子供が余計な気遣いをする必要はない」

 

大きな手が私の頭をポンと叩く。

……正直、私はこの長い旅路を考えた時、不安で押しつぶされそうだった。ルイジェルドという強者の申し出は、今の私にとって唯一の蜘蛛の糸だった。

 

「……じゃが、ルイジェルドよ。おぬし、街へ入れんじゃろう」

「む……」

 

長老の冷静な指摘に、ルイジェルドは絶句した。

 

________________________________________

 

どういうことだ? 私は二人の会話を静かに聞く。

 

「街に入れば衛兵に追われ、討伐隊を組まれるだろう?」

「だが……俺一人が街の外で待てば……」

「それでは街の中での不測の事態に対応できん。無責任極まりないぞ」

「街の中で何かあれば――」

「あれば、どうする」

「街の人間を皆殺しにしてでも、二人を救い出すまでだ」

「……子供のこととなると見境がないのぉ、ルイジェルド。そんな強引さで、おぬしの真の目的は達成できるのか?」

 

私はそこで、言葉を差し込んだ。

 

「目的、とは?」

「単純なことじゃ。スペルドの悪評を取り除きたい、という悲願よ」

 

スペルドの悪評。ロキシーからも聞いていた「呪われた種族」の噂。

 

「あれは真実ではない!すべては魔神ラプラスの陰謀だ!」

 

ルイジェルドが激昂し、重い口を開いた。

 

魔神ラプラスは、かつて魔族の権利を勝ち取った英雄とされていた。ルイジェルドらスペルド族は、その精鋭部隊として最強の武勲を誇っていた。

しかし、ラプラスから『魔槍』を授けられてからすべてが一変したという。

 

その槍は凄まじい力を与えたが、同時に使用者の精神を蝕み、狂わせる毒物だった。

スペルド族の戦士団は敵味方の区別を失い、自らの家族、子供までも無差別に殺戮する怪物へと成り果てた。

その槍は、血を吸うほどに使用者の魂を黒く、醜く染め上げるのだ。

ルイジェルドが正気に戻れたのは、彼の息子の命を賭した行動ゆえだった。息子は自らの命を犠牲にしてルイジェルドの魔槍を破壊し、呪縛を解いたのだ。

正気に戻ったルイジェルドは、自らの手で家族を殺したという絶望に悶え、ラプラスを心底から憎んだ。

彼は戦士団の魔槍をすべて叩き折り、伝説の『魔神殺しの三英雄』がラプラスを封印する際、最後の一撃を助けるに至ったのだという。

 

だが、魔神ラプラスが封印されてもスペルド族への迫害は止まなかった。

 

「例え俺一人になっても、一族の誇りを取り戻したい。その悪評を、歴史から抹消したいのだ」

 

私はその話を聞き、背筋に冷たい戦慄が走った。

私が独自に開発した技術――術式付与(エンチャント)

それはまさに、ラプラスが槍に「呪いの術式」を書き込んだ手法と同系統のものだと直感したからだ。

 

ならば、今の私にこそ、手伝えることがあるはずだ。

 

「ルイジェルドさん。命を救っていただいたご恩、そしてその気高い悲願。……ぜひ、私にも協力させてください」

 

気づけば、私はそう告げていた。

ルイジェルドは、その鋭い瞳に微かな驚きの色を宿した。

 

________________________________________

 

朝食の後、ミグルド族の天幕を出る。ロックス長老たちは村の仕事へと向かったようだ。

 

エリスも窮屈な生活に飽きていたのか、外の空気を吸いながら大きく背伸びをしている。ルイジェルドは、少し離れた場所で静かに私たちを見守っていた。

 

私は体をほぐしながら、先ほどの話を反芻していた。

ラプラスがスペルド族に施した呪い……それを私の術式付与(エンチャント)混合(コンタミネーション)の理論で読み解けば、解決の糸口が見えるかもしれない。

 

まずは、周囲の人間がなぜ彼を無条件に恐れるのかという現象の正体を考察する。

気になるのはエリスだ。あの気高く勝気な彼女が、ルイジェルドが視界に入るだけで、まるで死を突きつけられた猫のように怯えきっている。ルイジェルド自身はこれほど穏やかで、慈悲深い男であるにも関わらず、だ。

これはただの精神的な嫌悪ではなく、術式による強制的な感情介入の可能性がある。

 

「ルイジェルドさん。エリスがなぜこれほどあなたを怖がっているのか、気になりませんか?」

「……俺にとっては、これが通常の反応だ。怖がらないお前の方が、どうかしている」

 

その回答が、私の確信を強めた。

 

「ルイジェルドさん、この眼を……私の右目を見てください」

 

ルイジェルドは訝しげにしながらも、屈み込んで私の眼を覗き込んだ。

 

「この疑似魔力眼(マナ・サイト)は、あらゆる魔力の流れを視覚化します。ルイジェルドさんが恐れられる『原因』が見えるかもしれません」

「その若さで魔眼を……。分かった、俺はどうしていればいい?」

「なるべく力を抜いてください。闘気を纏わず、ありのままの状態で」

 

ルイジェルドは素直に立ちすくむ。私は右目に魔力を過剰に流し込み、感度を限界まで引き上げた。

瞳の奥の魔法陣が熱を帯び、視界がセピア色に変わり、徐々に変色する。

 

(……もっとだ、もっと深層を見ろ……!)

 

すると、ルイジェルドの肉体の中に、血管とは異なる次元で巡る、極めて緻密で複雑な魔力回路を発見した。

それは私の混合(コンタミネーション)技術で体内に取り込んでいる杖のように、全身の細胞と不可分に結びついている。

 

「……っ!」

 

激しい頭痛に襲われ、私は術式を解除した。右目を氷で冷やしながら、情報を整理する。

 

「……どうだった?」

「ルイジェルドさん。あなたの身体には、私が使う術式付与(エンチャント)とは比較にならないほど、高度な魔術が付与されています。……周囲があなたを恐れるのは、あなたの見た目ではなく、あなたから放射されているこの魔術が原因である可能性が高いです」

「……なんだと!?」

 

ルイジェルドが私の肩を掴んだ。その顔には、驚愕と一筋の希望が浮かんでいた。

 

「どうやったら、それを解除できる!?」

「……すぐには分かりません。生体にこれほど複雑な術を直接書き込むのは、現代の魔術の範疇を超えています。……ルイジェルドさん、魔神ラプラスについて何か他に心当たりはありませんか?」

「心当たりはないが……ラプラス自身も、同じような体質だった。周囲に畏怖を撒き散らし、緑の髪をしていた」

 

髪の色。その言葉に私は引っかかった。

ロキシーは言っていた。「緑に近い髪色を持つ種族ほど、凶暴で危険だという迷信がある」と。

それは単なる偏見ではなく、魔神ラプラスという「起源」を呪いの媒体として利用するための、大規模な刷り込み、あるいは魔力的な共鳴の仕組み、言わば共鳴バイアスではないのか?

 

「……ルイジェルドさん、ラプラスに額の宝石はありましたか?」

「いや、この目を持つのはスペルド族だけだ。だが髪は確かに緑だった」

 

僅かだが、特徴が重なる。

 

「生体に魔術を取り込むには、時間をかけて馴染ませる必要があります。ですが、術者と対象が『類似した特性』を持っていれば、その手順は劇的に短縮されます。……もし、その髪の色自体が、呪いの術式を定着させるための『条件』だとしたら?」

「……俺の、この髪が?」

「神とも称されたラプラスの技術なら、特定の色彩波長に術式条件を合わせることくらい……不可能ではないかもしれません。ただ、根拠の薄い仮説です。忘れてください」

 

ルイジェルドは、私の言葉を噛みしめるように、静かに自分の髪に触れた。

右目に当てていた氷を外す。その視界は酷くぼやけてしまっていた。

 

________________________________________

 

「ロックス様、ロイン様、ロカリー様。大変お世話になりました」

 

翌日、旅の支度を整えた私たちは、お世話になった村の方々に深く一礼した。

 

「もう行ってしまうのですか……?」

 

ロカリーが涙ぐんで私を、エリスを交互に見つめる。ロキシーに似た顔でそんな表情をされると、こちらまで胸が締め付けられる。

 

「ロカリー、ルーデウス君の前途を邪魔してはいけないよ。――ルーデウス君、これを」

 

ロインが差し出してきたのは、鋭い輝きを放つ一振りのダガーと、路銀の入った革袋だった。

 

「そんな、いただけません!」

「これは礼だ。……ロキシーは念話(テレパシー)が使えない子でね。二十年前に村を出て以来、一度も音沙汰がなかった。……あの子が無事であると知れただけで、私たちには十分すぎる報酬なのだ」

「ロイン様……」

 

結局、私はその厚意を有難く受け取ることにした。代わりに、私も一つ、昨夜のうちに完成させた荷物を差し出した。

 

「これは……?ロキシーの像か!?」

「はい。先生が私の家庭教師だった頃の姿ですが……お礼にと思い、魔術で作りました」

「……ミグルド族は、寿命の近くまで姿が変わらん。きっと今も、この像のように凛とした姿で過ごしているのだろう。……ありがとう、ルーデウス君。大切に飾らせてもらうよ」

 

ロインとロカリーは、像を抱きしめるようにして、涙を流しながら笑ってくれた。

最後に、ロックス長老に別れの挨拶をする。

 

「長老、治療と滞在、本当にありがとうございました」

「なぁに、構わん。困った時はいつでも戻ってくるといい」

 

私は少しの茶目っ気と、研究の成果を込めて、声を出さずにお礼を言った。

 

「(本当に、ありがとうございました)」

 

ロックス、ロイン、ロカリーの三人が、弾かれたように目を見開く。

 

「(……まさか。数日の滞在で、我ら特有の魔力波長を模倣し、念話(テレパシー)を使えるようになるとは……。だがルーデウス君、少し出力が強すぎて耳の奥がキーンとしますぞ)」

 

相当に魔力を絞ったつもりだったが、まだ調整が必要らしい。苦笑いしながら、私は「申し訳ありません」と口頭で謝罪した。

 

あとはルイジェルドが来れば、出発の準備は完了する。

その時、天幕の影から、ぬっと一人の男が現れた。

 

「「……えっ!?」」

 

私とエリス、そして村の全員が絶叫した。

そこにいたのは、あのエメラルドグリーンの髪を、一本残らず綺麗に剃り上げ、青々と光るつるつるの頭になったルイジェルドだった。

 

「ルイジェルドさん!?その頭、どうしたんですか!?」

「剃った」

 

何でもないことのように、彼は断じた。

 

「お前が昨日言っただろう。髪の色が呪いの条件かもしれないと」

「あれはあくまで、ただの仮説だと……!」

「仮説でも構わん。……あのラプラスと同じ髪色をしているという事実だけで、俺の腹が煮えくり返ることに気づいただけだ」

 

凄まじい決意、あるいは凄まじいまでの勘違い。

 

(相関関係と因果関係の混同、とでも言うべきか。だが、本人が良いのであれば、問題はないだろう)

 

ともあれ、とんでもないイメチェンを遂げた最強の戦士と共に、私とエリスの魔大陸横断の旅は、静かに、けれど力強く幕を開けたのだった。




ここまでお読みいただきありがとうございます。

念話(テレパシー)については独自設定です。なぜロキシーは念話(テレパシー)が使えないか、という点についても後々考察する予定です。

疑似魔力眼(マナ・サイト)の性能は、生まれつきの魔力眼よりも優れています。しかし、代償があります。

仮説の段階で頭を剃り上げてしまったルイジェルド。今後の展開が少しスムーズになります。

引き続きお付き合いいただけますと幸いです。
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