無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第16節 監禁:物質変換による衣食住の再構築と水洗式トイレの導入

 

Side: ルーデウス

 

ウェンポートに到着してから、数日が経過した。

予見眼の制御訓練を兼ねて街での情報収集を続けていたが、得られた成果は芳しくない。スペルド族の渡航費四百倍という理不尽な経済的障壁は、依然として私たちの前に立ちはだかっていた。

 

(……やはり、あの手を使うしかないか)

 

私の体内、腕の組織に混合(コンタミネーション)させている名杖傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)

ボレアス家から贈られた家宝級の逸品だ。これだけの素材と魔石が使われていれば、市場価格を叩き売られたとしても、三人分の正規渡航費を賄って余りあるはずだ。

 

黙って売却し、事後報告にすることも考えたが、先日自分の視力の件を隠してルイジェルドに激怒されたことが脳裏をよぎる。……ここは、誠実に相談すべきだろう。

 

その日の夕食時、私は意を決して切り出した。

 

「ルイジェルドさん、エリス。杖を売ろうと思います。それで渡航費の問題は解決できます」

「――なっ!?何言ってるのよ、バカじゃないの!?」

 

案の定、エリスがテーブルを叩いて立ち上がった。

 

「あれは私たち家族が、ルーデウスに贈ったものなのよ!?そんなの、絶対許さないわ!!」

「でもエリス、背に腹は代えられない。このままここで一年も足止めを食うわけには――」

「それには及ばん、ルーデウス」

 

重厚な声が私の言葉を遮った。ルイジェルドだ。彼はいつになく真剣な、けれどどこか申し訳なさそうな顔で私を見つめていた。

 

「……お前が杖を売ろうと考えていることには、薄々気づいていた。だが、その必要はない。……密輸人を見つけた」

 

詳しく話を聞けば、その密輸人は単なる犯罪を斡旋しているわけではないらしい。

秘密裏に禁制品、いずれ奴隷として売られる予定の『商品』について、引き取り手が来る前に解放して故郷へ帰してほしいのだという。どうやら、手を出してはならない存在に手を出したからだそうだ。

……奴隷を運ぶ手伝いではなく、結果的に彼らを「解放」することに繋がるのであれば、私の倫理観の許容範囲内だ。

 

「……分かりました。ですが、法を犯すことには変わりありません。せっかくスペルド族の名声が回復しつつあるのに……」

「今回だけは、俺がすべての悪事に目をつぶる。ルーデウス、その杖は大事にしろ」

 

ルイジェルドはそう言って、私の頭を力強く撫でた。

もし相手が更生不可能な悪人であれば、海を渡った後に私が始末し、情報を抹消すればいい。……計算は立った。

 

翌日。ルイジェルドを密輸人の男に引き渡した。

眼帯をした初老の男。顔には無数の傷があり、一見して修羅場を潜り抜けてきた剣士であることがうかがえた。

 

その後、私とエリスは正規のルートで客船に乗り込んだ。

エリスは三半規管が弱いのか、船の揺れに酷く苦しんでいた。私は彼女の隣に付き添い、船旅の間ずっと微弱な『ヒーリング』をかけ続け、自律神経の乱れを魔力で強制的に補正してあげたのだった。

 

________________________________________

 

二週間程度の航海の末、私たちはついにミリス大陸の港へと上陸した。

 

「……もう、船なんて一生乗りたくないわ」

 

地面に足をついた瞬間、エリスは青白い顔で吐き捨てた。

 

「残念ですがエリス、中央大陸へ戻る際にもう一度乗らなきゃいけませんよ」

「……その時も、絶対隣で治癒魔術かけてよね。約束よ!」

 

苦笑いしながら了承し、私は次の仕事へと意識を向けた。

ルイジェルドを迎えに行かねばならない。

 

手筈では、波止場にある特定の倉庫の一つに、他の『密輸品』と共に一時的に収容されているはずだ。私はエリスに先に宿を取るよう指示し、ルイジェルドから預かっていた槍を背負って一人で向かった。

 

指定された館の前には、昨日の密輸人とは別の、見るからに質の悪いごろつきが立っていた。

 

「……スペルド族を預かりに来ました」

「ああ、聞いてるぜ。入れ」

 

中に案内される途中、私は鉄格子の嵌められた部屋の奥に、銀色の巨大な犬が閉じ込められているのを目撃した。

 

(……結界魔術か?魔方陣の上に繋がれ、魔力を吸い取られているようだ)

 

不穏な気配だが、魔法陣の内容が気になる。私は初級結界魔術しか使えないからな。帰りに余裕があればメモしていこう。

 

そのまま奥の一室へ通されると、そこには短く髪の伸び始めたルイジェルドが、重厚な手枷をされて座っていた。

 

「ルーデウス……」

 

ルイジェルドの声は低く、そして火山のような怒りを孕んでいた。彼は小声で、私の耳元に情報を落とす。

 

「俺の他にも子供が捕らえられている。全部で七人。……奥の部屋から、すすり泣く声がここまで聞こえてくる」

 

子供に優しいルイジェルドが、何日も子供の泣く声を聞かされれば、怒りも溜まるだろう。

 

「……助けましょう。ここにある情報は、すべて抹消します」

「分かっている。皆殺しだ」

 

私はルイジェルドの手枷に極小の『風刃(ウインドカッター)』を当てて切断し、槍を手渡した。

直後。ルイジェルドは音もなく跳躍し、案内人の首を一瞬で刈り取った。悲鳴すら上げる隙のない処刑だ。

 

「ルーデウス、お前は子供たちを。外の始末は俺がやる」

 

部屋を飛び出したルイジェルドの背中を見送り、私は泣き声を頼りに部屋を突き止めた。

扉を蹴破ると、そこには衣服を剥ぎ取られ、裸にされた獣族の子供たちが七人、震えながら身を寄せ合っていた。

私は隣室から毟り取ったカーテンを彼らに差し出した。

 

「大丈夫だ。もう、怖い思いはさせない」

 

子供たちは怯えた目で私を見上げていたが、その中の一匹――兎のような長い耳を持つ幼い女の子が、しゃくり上げながらも小さく口を開いた。

 

「……ほ、本当に、助けてくれるのニャ……?お家に、帰れるのニャ……?」

「ああ、約束する。もう誰も、君たちを傷つけない。故郷まで、必ず送り届けるよ」

 

その一言に、張り詰めていた糸が切れたように、子供たちは一斉に声を上げて泣き出した。

年端も行かぬ小さな体で、これほどの恐怖と孤独に耐えてきたのだろう。ブエナ村で泥だらけになって震えていた、あの日のシルフィの姿がふと脳裏をよぎった。世界が変わっても、種族が違っても、守るべきものの形は何一つ変わらない。

 

子供たちの体には、無理やり連行された際にできたであろう痛々しい打撲痕や擦り傷が無数にあった。私は手枷を土魔術で砂に変え、全員に治癒魔術を施した。

 

「ルーデウス、悪党はすべて片付けたぞ」

 

ルイジェルドの声が廊下に響く。

 

「早かったですね。……倉庫ごとまとめて焼却して、証拠隠滅しましょう」

「お、おにーさんたち、助けてくれてありがとうなのニャ……」

「森で遊んでたらいきなり変な男たちに捕まって、無理やりここに連れてこられたニャ!」

 

独特の語尾を持つ子供たち。私は彼らの頭を撫で、安心させるように微笑んだ。

 

「安心してください。君たちの故郷まで、必ず送り届けます」

「行くぞ。ここはもうすぐ灰になる……!」

 

ルイジェルドが促すが、子供の一人が私の袖を掴んだ。

 

「あ、あたちたちの他に、お犬様が捕まえられてなかったニャ!?大事な、大事なお犬様なのニャ!」

 

あの銀色の巨大な犬か。

 

「……分かりました。私が行ってきます。ルイジェルドさんは子供たちを安全な場所へ」

「分かった、気をつけろよ。深追いはするな」

 

________________________________________

 

私は先ほど犬を見かけた部屋へと引き返した。

 

牢の鍵を魔術で解錠し、中へ入る。銀色の犬はこちらを警戒し、喉の奥から地響きのような唸り声を上げていた。

 

「……唸るな。私は味方だ。お前を外へ連れ出しに来た」

 

そう言い聞かせると、犬は不思議そうに小首を傾げ、唸り声を止めた。……言葉を理解しているのか?

私は犬に繋がれた鎖を土魔術で脆化させて破壊した。近くで見ると、体長二メートルを優に超える巨体だ。

 

(……やはり、この魔方陣は結界魔術か。自律稼働させるための外部電源――魔力結晶があるはずだ)

 

私は少しだけ疑似魔力眼(マナ・サイト)を起動した。

視界がセピア色に切り替わり、酷くぼやけた視界で空間を走る魔力のラインを追う。天井の裏、二階の床下付近に、高密度の魔力源を特定した。

 

「『雷銃(レイ)』」

 

人差し指から指向性を高めた極細のレーザーを放つ。私の雷魔術は魔力で電子を生み出しているが、電気という特性上、大気中で指向性を高めるのが難しい。『記憶』にあるレーザーを想像し、一点に集められた過剰な電子を一瞬で光へと相変移させる。光子のほうがずっと制御が楽だ。

放たれたレーザーは天井を貫通し、隠されていた魔力結晶をピンポイントで粉砕した。魔方陣の光が消え、犬を縛っていた重圧が霧散した。

自由になった犬は、嬉しそうに私の元へ駆け寄ると、その巨体で頭を擦り寄せてきた。

 

(……重い、重いしデカい。ちょっと怖いな、これ)

 

その時。

倉庫の入り口の方から、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

私は即座に杖を展開し、警戒態勢に入る。犬にも「下がっていろ」と合図すると、驚くほど素直に私の背後へ回った。

 

(悪人の増援か?いや、ルイジェルドさんが見逃すはずはないが……)

 

足音は扉の前で止まった。

勢いよく扉が開け放たれ、侵入者が武器を手にしているのを確認した瞬間、私は躊躇なく術式を起動した。

 

「『雷撃(エレクトリック)』」

 

高電圧の電撃が先頭の二人を直撃し、彼らは悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。一応、殺さぬように手加減したが、数分は動けないはずだ。

 

「お前たちは、獣族を攫った犯人の仲間か!?」

 

私の問いに、奥で身構えていた者が叫び返した。

 

「違う!!俺たちは助けに来たんだ!!人族のクズどもに拉致された同胞を奪い返しにな!!」

 

……不味い。味方だ。

 

「待て、話を聞いてくれ!子供たちはすでに解放した!私も彼らを助けに来たんだ!」

 

だが、私の言葉は信じてもらえなかった。

男が指を口に当て、特殊な呼吸法を行うのが予見眼に映る。魔術の発動前兆。迎撃は可能だが、これ以上味方を傷つけるわけにはいかない。

 

「――ウオオオオン!!!」

 

空気が物理的に震えた。

魔術で増幅された、脳を直接揺さぶるような咆哮。

 

(……声による音響魔術か、興味深い……)

 

私の意識は、強烈な痺れと共に闇へと突き落とされた。

 

________________________________________

 

……揺れている。

 

誰かに担がれ、森の中を高速で移動している感覚。

 

再び意識が浮上した時、私は木製の檻の中に転がされていた。

 

床は頑丈な木で出来ており、窓はなく、隅には不衛生な壺が一つ。

扉は見えるが、その間には鉄格子がある。

 

「……んっ」

「おい、起きろ。人族の誘拐犯め」

 

ばしゃん、と冷たい水を浴びせられた。

檻の外には、皮鎧に身を包んだ獣族の女性戦士が、嫌悪感を隠そうともせずに立っていた。彼女は私を一瞥すると、無言で部屋を出ていった。

 

「……はぁ」

 

私はため息をつき、魔術で自分の体を乾かした。

あの戦士たちの頑なな態度では、今の私の言い分はノイズとして処理されるだろう。……力ずくの説得は、かえって事態を悪化させる。

 

私は鉄格子を観察した。魔術で切断は可能。

壁も木製。脱獄は造作もない。

だが、ここはどこだ?

私は壁の一部を切り抜き、外を覗き見た。

 

(……幻想的だな。ここは、大森林か?)

 

そこには、巨大な木々の上に築かれた空中都市が広がっていた。

建物はすべて枝の上に作られ、樹間には吊り橋や足場が張り巡らされている。

地上には簡素な小屋の跡がある程度。

行き交う人々は皆、獣の耳や尻尾を持つ獣族。話されているのは、以前ギレーヌから学んだ獣神語だ。

 

(脱出は可能。だが、道が分からない。そして、見つかれば即戦闘になる。……ルイジェルドさんたちが合流するまで、ここで無害を装って待つのが最適解か)

 

方針が決まれば、次は環境整備だ。

 

まずは、全裸なのが生理的に落ち着かない。私は壁の木材を極細の繊維にまで分解し、魔術で糸を紡いで布へと織り上げた。魔大陸で額当てを作った経験が活きたな。

 

ミグルド族の服をベースにしつつ、火魔術で加熱して黒くした糸を混ぜ込み、お馴染みの額当てのデザインを取り入れた簡易服を作成した。

 

次に、この殺風景な空間だ。

窓のない壁を切り抜き、開閉可能な木の戸を取り付ける。せっかくだ。窓枠も凝った意匠にしよう。どうせ牢の中ではすることもないのだ。

 

机と椅子がないのは知的活動に支障をきたす。私は壁材をさらに削り、足の意匠にこだわった丸テーブルと一脚の椅子を錬成した。

 

寝床も虫だらけだったので、水で洗浄した後、加熱殺菌し、温風で乾燥。

さらに、壁材を使ってハンモックを編み上げた。床で寝るよりも遥かに快適だ。

 

そして最大の問題はトイレだ。あの壺一つで済ませろというのは、『記憶』を持つ私には耐え難い。

私は木材から高密度の厚紙を生成し、防音・防臭を兼ねた個室を作った。さらに土魔術で磁器のような滑らかな質感の「洋式水洗トイレ」を製作。水魔術と土魔術を循環させれば、完璧な衛生環境の完成だ。

 

(……ふむ。衣食住のうち、衣と住は整った)

 

「食」が提供されるかは不透明だが、最悪、壁を突き破って狩りに出ればいい。

壁を素材に使ったため、だいぶ薄くなってしまったが、内装は以前の監獄とは比べ物にならないほど快適になった。

 

 

翌朝。見張りの女性が食事を運んできた。

 

「おい、飯だ。食え――って、な、何よこれぇ!!?」

 

開け放たれた扉の先、監獄が凝った意匠のワンルームに変貌しているのを見て、女性は叫んだ。

 

彼女は激怒して私を折檻しようと踏み込んできたが、鉄格子の鍵はすでに私の魔術で改造してある。

私は新設した食事受け渡し用の小窓から、冷静に告げた。

 

「……おはようございます。お腹が空いたので、その食事を頂けますか?」




ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

新たな魔術が登場しました。本作のルーデウスはまだ直接的な光子の生成に至っていないので、生成した電子から光子を作っています。ゆくゆくは、光子そのものの生成にも手を出すでしょう。

マッドな精神な分、変なところで凝り症です。次話からは牢獄編です。
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