無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第18節 氷結領域:雪白の領域と、戦士の戦慄

 

Side: ルーデウス

 

あの凄惨な火災から一夜が明けようとしていた。

私は獣族の戦士たち、そして要領のいいギースと共に、村の中に残兵が潜んでいないかを確認して回った。

 

村の至る所には戦いによる爪痕が残り、傷ついた獣族の戦士たちが呻き声を上げていた。私は彼ら一人ひとりに寄り添い、治癒魔術を施して回った。

 

「人族の子供が、これほど高度な治癒を……。恩に着る」

「気にしないでください。……それより、敵の狙いは子供たちでした。目的を果たせなかった彼らの仲間が、態勢を整えて波状攻撃を仕掛けてくる可能性は否定できません」

 

私は合理的な判断に基づき、降り続く雨の中、夜明けまで交代での監視強化を提言した。戦士たちは最初こそ戸惑っていたが、実力の一端を見せた私の言葉に異を唱える者はいなかった。

 

空が白み始め、深い森の霧を太陽が照らし出した頃、見張りの戦士から緊急の通達が上がった。

 

「――集落に接近する大集団ありッ!迎撃態勢を取れ!!」

 

村の空気が一気に張り詰める。略奪者どもの増援か。

 

「私も警戒に当たります!案内を!」

「っ、感謝する!こちらだ!!」

 

私は風魔術による跳躍で戦士たちの後を追った。巨大な木の枝の上、高度数十メートルの位置で数人の戦士と共に身を潜める。

戦士が指差す先、木々の合間を抜けてこちらへ向かってくる集団が見えた。だが、右目の視力をほぼ失っている私には、それが味方か敵かさえ判別できない。

 

(人数は五十から六十……か?なかなかの大所帯だ。もし襲撃者であれば、集落の結界に触れる前に、広域魔術で一網打尽にする)

 

私は静かに右手に魔力を練り上げた。掌の中で、指向性を高めた熱量が渦を巻く。

その時、隣にいた戦士が歓喜に震える声を上げた。

 

「――ッ!あれは、戦士長ギュエスとギュスターヴ族長です!!」

「攫われていた子供たちも一緒だ!!戻ってきたんだ!!」

 

その言葉を聞き、私は練り上げていた魔力を即座に霧散させた。安堵が肺から漏れ出す。

 

「……人族と、魔族が一人ずつ混じっていませんか?」

「!よく分かったな。その通りだ、槍を携えた禿頭の男と、人族の少女が同行している」

「私の仲間です。……どうやら、ようやく合流できそうですね」

 

村の入り口に列をなす出迎えの中、私は逸る気持ちを抑えながら待った。

やがて、疲労の色を隠せない一団が、木々の合間から姿を現す。

 

先頭を歩くのは、見慣れた禿頭の巨躯。その隣には、薄汚れながらも気丈に胸を張って歩く赤毛の少女がいた。

 

「――ルイジェルドさん!エリス!」

 

私が声を上げると、二人は弾かれたように顔を上げた。

 

「ルーデウス……ッ!」

 

エリスの目が一気に潤み、彼女は隊列を無視して駆け出した。人混みをかき分け、私の胸に勢いよく飛び込んでくる。

 

「馬鹿ぁ!心配させて、この……!無事で良かった、本当に良かったぁ……!」

 

彼女はしゃくり上げながら、私の背中に強く腕を回した。数日分の疲労と不安が、その震える声に滲んでいた。

遅れて歩み寄ってきたルイジェルドも、その大きな手で私とエリスをまとめて包み込むように抱き寄せた。

 

「……無事だったか。すまなかった、遅くなって」

「いいえ。……お二人こそ、ご無事で何よりです」

 

三人分の体温と、雨に濡れた土と汗の匂い。しばらくの間、私たちはその場を動かず、ただ互いの無事を確かめ合っていた。

 


 

その後、案内された村で最も巨大な大樹、その最上層にある族長の館にて、私たちは詳しい報告を交わすことになった。

 

ドルディア族の族長ギュスターヴ、そして戦士長ギュエス。彼らは、ルイジェルドとエリス、そして救出された五十人近い子供たちを連れて帰還した。

 

村に戻った二人は、放火された村の惨状に驚愕していたが、残っていた戦士たちから状況を聞き、私の働きを知ると、その表情を複雑に変えた。

特に戦士長ギュエスは、私の前に進み出ると、信じられない行動に出た。

彼はその場に仰向けに転がると、無防備な腹部を私に向けて晒したのだ。

 

「……本当に、すまなかった!許してくれ!!」

(……これが獣族における土下座か。屈強な男の腹筋を見せつけられても、記憶が『気色が悪い』と拒絶反応を起こすのだが……)

 

聞けば、私たちが救った子供たちの中に、ギュエスの愛娘も含まれていたという。

さらには聖獣の封印を解き、解放したのも私だ。恩人を誘拐犯と間違え、全裸で拘束し冷水を浴びせたという自身の失態。ギュエスは「もはやこの首を差し出して許しを請うしかない」と、本気で死ぬ覚悟を口にしていた。

 

「……謝罪は受け入れます。首なんていらないので、至急、座を正してください」

 

私が目を逸らしながら淡々と答えると、周囲の戦士たちから安堵の溜息が漏れた。

牢の見張り番をしていた女性戦士も、涙目で謝罪を求めてきた。

だが、彼女はギュエスの命令に従っただけだ。さらに次の雨期が終われば結婚する予定があると聞き、私は首を横に振った。

 

「結婚を控えた女性に腹を見せさせる趣味はありません。悪いのは誘拐犯たちだ。あなたは職務を全うしただけでしょう」

 

族長ギュスターヴは「なんという寛大さだ……」と深く感じ入った様子で、私を正式な賓客として扱うことを宣言した。

 


 

次に、私はギュスターヴとルイジェルドから、この一週間の空白について詳細な報告を受けた。

救出された子供の数があまりに多かった理由が、そこにあった。

 

「密輸組織の狙いは、雨期による追跡困難な時期を突いた、聖獣と族長の孫娘の強奪という周到な作戦だった」

 

私がザントポートの倉庫で放った魔術による火災、そしてルイジェルドが敵を屠った際の濃密な血臭。それが、森の追跡者たちにとっての決定的な道標になったのだという。

その後、ルイジェルドは獣族と協力し、自身の第三の眼をフル活用。獣族の鼻ですら感知できなかった密輸船を暴き出し、出港直前の船に乗り込んで五十人もの子供を救出した。

だが、そこからが問題だった。港町ザントポートの役人が賄賂を受け取り、この大規模誘拐を黙認していた事実が発覚。これがミリス神聖国との条約違反となり、一時は戦争を予感させるほどの国際問題へと発展したらしい。

その外交交渉と、五十人の子供を各地の集落へ送り届ける作業に一週間を費やした結果、私の救出順位は必然的に最後尾へと追いやられていたわけだ。

 

「その間、エリスは救われた子供たちの護衛を『満面の笑み』で引き受けていたそうで。……なるほど、エリスが満足していたなら、一週間くらいは安いものです」

 

エリスは気まずそうに目を逸らしている。

 

「ルーデウス、俺からも謝罪させてくれ。お前を不安な目に遭わせた」

「ルイジェルドさん、謝罪は不要です。あなたが私を必ず迎えに来ると信じていたし、あなたも私が独力で生き延びると信頼してくれていた。……それでおあいこです」

 

私が微笑むと、ルイジェルドは岩のような大きな手で、私の頭を力強く、何度も撫でてくれた。

 


 

「さて、合流できたところで。……エリス、話しておかなければならないことがあります」

 

私は背後で所在なげにしていたギースを呼び寄せた。

 

「共に牢屋で過ごした仲のギースです。昨夜の襲撃では、彼の索敵能力に助けられました」

 

紹介を受けたギースが、ルイジェルドやエリス、そして族長たちに軽く頭を下げる。

 

「ギースから中央大陸の情報を聞きました。……エリス、落ち着いて聞いてください」

 

私は、城塞都市ロアの現状を伝えた。街の一角が空間ごと消失し、そこには底の見えない大穴が空いているという事実を。

 

「――ッ!?嘘よ……嘘でしょ!?」

 

エリスの叫びが館に響く。彼女は激しく動揺し、自分の無力さを呪うように拳を握りしめた。

 

「私があの時、襲撃者に後れを取らなければ……!……街を守れたのに!!」

「エリス、自分を責めないで。あの襲撃者――光輝のアルマンフィと名乗る者は、通常の存在ではありませんでした」

 

ルイジェルドがその名を聞いて眉を跳ね上げた。

 

「アルマンフィ……。甲龍王ペルギウスに従う、十二の使い魔の一人か。彼らが動いたということは、その事変は世界の均衡を揺るがすほどの異変だったということだ。……ルーデウス、お前一人の手に負えるものではなかった」

 

私はエリスの震える体を抱きしめた。

 

「街の一部が消えたのは悲劇です。……ですが、残りの部分は助かっているんです。もし、私たちがあの日奮闘していなければ、ロアの街どころか、フィットア領全体が消滅していた可能性がある。私たちのしたことは、無駄じゃありませんでした」

 

エリスは私の服を掴み、しばらくの間泣きじゃくっていた。

やがて、彼女は「早く帰って、お父様たちの無事を確かめるわ」と、瞳に強い光を取り戻した。

 


 

すぐにでもミリス大陸を横断したかったが、皮肉にも雨期が始まってしまった。

 

例年よりも大幅に早い到来。これから三ヶ月間、この大森林は集中的な豪雨に見舞われる。

地面は瞬く間に洪水のようになり、地を歩くことは不可能になる。この地域の建物がすべて樹上にある理由を、私はその濁流を見て理解した。

 

(魔術で雲を散らすことも考えたが……。雨期が早まった一因が、先日私が強引に降らせた雨の影響である可能性も捨てきれない。気象にこれ以上の干渉を繰り返すのは、リスクが高すぎる)

 

私たちは、雨期が明けるまでドルディア村に逗留することになった。

幸い、村人たちからは大歓迎を受けている。

 

滞在中、エリスは一族の出身者であるギレーヌの話をギュスターヴ族長たちに切り出した。ギレーヌからもらった「魔除けの指輪」を証拠として提示しながら。

だが、族長たちの反応は冷酷だった。

 

「ギレーヌだと?あの、一族の面汚しのことか」

 

彼らによれば、若き日のギレーヌは手のつけられない乱暴者であり、村にとっての恥辱そのものであったという。

憧れの師を罵られたエリスは、涙を浮かべて激昂した。

 

「ふざけないで!ギレーヌは私の最高の師匠よ!誰よりも強くて、優しくて、私が『助けて』って言ったら、必ず飛んで助けに来てくれるんだから!!」

「知った風な口を利くな、小娘。あやつが村を出たのは、力に驕り、長老の言葉すら聞かなかったからだ」

「力に驕って、何が悪いのよ!!強くなろうとすることの、何が間違ってるって言うの!?あなたたちは、ただ変わっていく者が怖いだけじゃない!」

 

エリスの剣幕に、皆が気圧されたように押し黙る。それでも彼女は言葉を止めなかった。

 

「ギレーヌは、字も読めない自分を恥じて、一生懸命に机に向かってたのよ。誰よりも努力家だった!あなたたちが知ってる乱暴者のギレーヌなんて、もういないの!」

 

彼女が館を飛び出した後、私は冷静にギュスターヴたちへ事実を伝えた。

 

「……子供の頃のことは分かりません。ですが、現在のギレーヌ・デドルディアは、大陸最高峰の剣士の一人――剣王であり、大貴族の護衛を務めるほどの教養と礼節を身に付けています」

「剣王……それに貴族の護衛だと?あの知能の欠片もなかった娘が?」

「ええ。彼女は自らの欠点を克服するため、算術や読み書きの特訓に、必死の努力で取り組んでいました。私が彼女に魔術を教え、師として杖を贈ったのは、彼女が尊敬に値する戦士だからです」

 

「読み書き・魔術が使える」という事実の重みに、族長たちはもはや絶句するしかなかった。

彼らはエリスに、そしてギレーヌに対して、これまでの無礼を謝罪することを約束してくれた。

 


 

雨期が始まって一週間。

大森林の雨は、まさに「天の底が抜けた」ような激しさだった。

 

樹下の地面はすでに濁流に飲み込まれ、たまに足場を踏み外した子供たちが流されそうになる。私はパトロールを日課にし、流されそうな子供を魔術で救い出し、ついでにすべての通路に強固な安全手摺を魔術で固定して回った。

 

戦士たちと肩を並べて警戒に当たる中で、私は一族に伝わる独自の音響技術――「声の魔術」を学ぶ機会を得た。

ザントポートで私を無力化した、あの咆哮だ。

 

「これは、喉から発せられる振動を、魔術で共鳴させているのか……」

 

私は彼らの特殊な声帯構造を解析した。人族の喉ではそのまま再現することは不可能。ならば、「外部スピーカー」を作ればいい。

私は指で輪を作り、その内側に指向性増幅の即席魔法陣(アドリブ・サーキット)を展開。声に魔力を乗せ、魔法陣の膜を震わせて高周波を射出する。

 

『――ウオオオオン!!』

 

凄まじい衝撃波が森を揺らした。族長たちは「数日の観察で我らの秘術を人族の身で再現するとは……!」と、腰を抜かさんばかりに驚いていた。

 

だが、雨期の脅威は雨だけではなかった。

濁流に乗って、村へ侵入してくる魔物たちだ。

アメンボ型の魔物や、擬態を得意とするカメレオン・リザード。雨の中では獣族の嗅覚が封じられ、索敵効率が著しく低下する。

 

エリスが同年代の女の子たちとの女子会(?)に夢中になっている間、私は戦士たちから、村の周囲に巨大な魔物の巣窟があることを聞いた。

 

「毎年、数人の子供たちがその犠牲になる。だが、巣を叩くには戦士団の被害が大きくなりすぎる……。放置するしかないのだ」

 

ギュエスの悲痛な言葉が、私の耳に残った。

 


 

私はルイジェルドに、魔物の巣窟の殲滅を提案した。

 

「来年以降、私たちがいない時に犠牲者が出るのは防げません。私たちがいる間に、根本的な原因――巣を潰すべきです」

 

ルイジェルドは渋い顔をした。

 

「……気持ちは分かる。だが、この村には戦士たちの誇りがある。余所者が勝手に介入するのは、彼らの顔に泥を塗ることになる」

 

私は即座に論理で切り返した。

 

「ルイジェルドさん。その『誇り』は、子供の命よりも重いのですか?誇りは時間をかければ修復できますが、死んだ子供は二度と戻りません。戦士のメンツのために子供を差し出すなど、それこそ不名誉の極みでしょう」

 

ルイジェルドはしばらく黙考した後、ギュエスへ話を繋いでくれた。

結果、ギュエスは「ルイジェルド殿が協力してくださるなら、これほど心強いことはない!」と大歓迎し、パトロールへの正式な同行を認めた。

ルイジェルドは、「最近の戦士は……」と複雑な表情をしていた。

 

しかし、ルイジェルドは依然として私に釘を刺した。

 

「巣の殲滅を行う際は、必ず俺と村の戦士たちが同行する。独断は許さん」

 

その言葉に、私は内心で溜息をついた。村の戦士たちが同行すれば、私は彼らを巻き込まないように手加減をしなければならない。

私としては、ミリス大陸を本格的に横断する前に、自身の魔力出力を全開で「慣らし」ておきたかった。

 

(……申し訳ありませんが、一人の方がやりやすいです)

 

巣の殲滅を決行する当日。ルイジェルドやギュエス、精鋭の戦士たちが武装して私の元へ現れた。

私は彼らを「撒く」ことにした。

 

混合(コンタミネーション)、杖を顕現させる。

私は風魔術による物理的な圧力と、火魔術による小規模な爆発を足裏で連続発生させた。

 

「なっ――ルーデウス!?」

「待てッ!!」

 

驚愕するルイジェルドたちを眼下に置き去りにし、私は垂直に急上昇。そのまま森の上空を高速で滑走した。

 

雨粒は風の膜に弾かれ、頬を打つ冷たい風が心地よい。空中移動の爽快感に身を委ねながら、私は瞬時に目的地の座標を特定した。

疑似魔力眼(マナ・サイト)を一瞬起動する。

右目の視力はほぼゼロだが、魔力密度の濃淡によって敵の配置は「見えた」。

 

ターゲットは、雨群蜥蜴(レインフォース・リザード)のコロニー。推定は百体くらいか。

私は傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)に莫大な魔力を蓄積させ、巣の真っただ中へと垂直降下を開始した。

地面に激突する寸前、私は杖を大地に突き立てた。

 

氷結領域(アイシクル・フィールド)

 

一瞬。

 

文字通り一瞬にして、周囲数百メートルが死の静寂に包まれた。

豪雨は瞬時に結晶化して雪へと変わり、地上の濁流はダイヤモンドのように硬質な氷の層へと固定された。

 


Side: ルイジェルド

 

ルーデウスが、あの異常な速度で飛び去った後。俺と獣族の戦士たちは、戦慄しながら森を駆け抜けた。

 

「……なんだ、あの速度は!そもそも、あんな飛び方があるのか!?」

 

ギュエスの叫びに答える余裕はない。俺は全速力で追いかけたが、あいつの背中は瞬く間に雲の彼方へと消えてしまった。

 

ようやく目的の魔物の巣が近づいた時。

私たちは、あまりに不自然な『境界線』を前にして、足を止めた。

 

「な……んだ、これは……」

 

戦士たちが絶句する。

 

一歩先、森の深部が――完全に凍りついていた。

 

緑の葉も、茶色の幹も、流れていた水も、すべてが青白い氷に閉じ込められている。

その領域の中では、轟々と鳴り響いていた豪雨の音が消え、ただ静かに、雪だけが降り積もっていた。

 

私たちは恐怖を押し殺し、その「無音の世界」へと足を踏み入れた。

足元は滑らかに凍りつき、かつて魔物がうごめいていた気配は微塵もない。

 

巣の中心部。そこには、大量の雨群蜥蜴(レインフォース・リザード)たちが、戦う姿勢のまま、あるいは逃げようとする形のまま、精緻な氷像となって立ち並んでいた。

 

その中心に、ルーデウスが一人、静かに立っていた。

 

「ああ、ルイジェルドさん。……流石ですね、到着が早い」

 

何でもない、いつもの平坦な口調。それが、今の俺には底知れない怪物の声のように聞こえた。

ギュエスが震える声で尋ねる。

 

「……ルーデウス殿。この魔物たちは……皆、死んでいるのか?」

「ええ、すべて殺しました。放置すれば解けて腐敗しますから、物理的に処理しましょう」

 

ルーデウスが軽く杖を振る。

 

――パ、キィィィィン!!

 

領域内の無数の氷像が、同時に音を立てて粉々に砕け散り、ただの雪山の一部へと還っていった。

 

「さて。……次は東側の巣へ行ってきますね。すぐ戻ります」

 

言うが早いか。ルーデウスの背中から眩い火の粉が舞い上がり、彼は再び、音を置き去りにして空へと吸い込まれていった。

残された雪の平原に、幻想的な火の粉の鱗粉だけがゆっくりと降り注いでいた。

 

ギュエスが、地面に膝をつきながら呟いた。

 

「……戦士たちから聞いていたが……。これほどとは。……ルイジェルド殿。あのような、神の如き魔術師と、貴殿は旅をしてきたのか」

「……いや。俺も、あいつの『全力』を見たのは、今日が初めてだ」

 

己の手の震えが止まらないことに気づいていた。

守るべき子供。導くべき存在。

俺は、あの少年の底を――見誤っていたのだ。




ここまでお読みいただきありがとうございます。
声の魔術、実はこのルーデウスの弱点です。壁を作っても防げず、闘気が纏えないルーデウスはまともにダメージを受けます。非常に汎用性と制圧力に優れた技術です。
思う存分魔力を使って、ちょっとすっきりしたルーデウスでした。
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