無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第2節 家庭教師ロキシー、困惑する

Side: ルーデウス

 

魔術教本と向き合い始めて数カ月が経った。

今日も今日とて、魔術の研究に没頭している。

 

まずは基礎訓練として、右手の各指に異なる属性を割り当て、同時に発現させる。体内での能動的魔力活用は、日々の反復練習によって研ぎ澄まされ、今やさほど苦労もなく魔術を発現させることができる。

慣れてきたところで、魔術の並列稼働についても練習した。それぞれの指を任意に動かす感覚は、ピアノの練習に似ている。どうせ時間を死ぬほど持て余しているのだ。日常的に魔力運用を練習する。食事時まで指を動かしていたら、ゼニスに怒られてしまったが。

 

今日はようやく、四属性の魔術同時稼働に成功した。親指に火、人差し指に水、中指に土、薬指に風。指先で四つの異なるエネルギーが渦巻く様は、『記憶』にあるファンタジーアニメよりもずっと鮮烈だ。

 

教本によれば、魔術には攻撃、治癒、召喚などの分類がある。今私が扱っているのは攻撃魔術だ。更には『神撃魔術』という分類もあるようだが、教本には名前しか載っていなかった。未知の領域への好奇心で、胸が高鳴るのを感じる。

 

練習を始めた当初は、初級魔術を数回使うだけで酷い倦怠感に襲われ、糸が切れたように意識を失った。だが、その限界まで使い切る感覚は、どこか癖になる爽快感だった。『記憶』でいうと、ランナーズハイのまま気絶するようなものだろうか。

 

子供の体はエネルギーに満ち溢れている。夜、寝付けない時などは、指先から小さく魔力を放出し続ける。そうして魔力を枯渇させると、心地よい疲労感と共に深い眠りに落ちることができた。

 

魔力の枯渇と回復を繰り返すうちに、自分の中の器――魔力総量が目に見えて増えていくのを実感した。筋力と同じで、魔力も鍛えれば伸びるのだろう。

 

今や、初級魔術をただ発動するだけでは魔力を使い切ることすら難しい。そこで最近は、魔術の精密制御にリソースを割くことにしている。

 

例えば、人差し指の上にピンポン玉サイズの『火球弾(ファイアボール)』を作る。

その火力を維持したまま、大きさをビー玉サイズまで凝縮する。体積を減らしつつ密度を高める作業は、単に大規模な魔術を放つよりも遥かに繊細な魔力操作と、莫大なエネルギーが要求される。

額に汗がにじむ。赤色だった火球は、密度が高まるにつれて青白く、ついには太陽のように眩い純白へと変色していく。

 

キィィィィン……ッ!

 

金属が擦れるような高音が鳴り響き、火球の周囲の空気が熱で歪む。

砂粒ほどに凝縮された白光の塊。これ以上の圧縮は暴走を招くという直感があった。私はゆっくりと魔力を緩め、熱を霧散させていく。もしこれを解放すれば、この家など一瞬で灰になってしまうのではないだろうか。

 

「ふぅ……。まだ半分といったところか」

 

目を閉じ、残りの魔力量を確認する。今日は昼寝もするつもりなのだ。もっと魔力を消費しておきたい。

 

今度は土の魔術を使い、大きな土塊を生成した。それを圧縮して不純物を取り除き、大理石のような滑らかで硬質な白塊へと変質させる。いわば下地作りだ。

 

そこに指先で圧縮した風の魔術を彫刻刀として当て、細部を削り出していく。

『記憶』にある、あの男が好きだった『フィギュア』という文化を再現してみようと思ったのだ。モデルは、庭で木剣を振り回している父・パウロにしよう。

筋肉の躍動感、剣を振るう一瞬の静寂。魔力を削り、形を作るこの作業は、最高の暇つぶしになった。

 

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Side: ルーデウス

 

魔術の研究の合間には、家の手伝いを行っている。

私は二歳になり、台所でリーリャの夕食準備を手伝うようになった。

 

「坊ちゃま、火と水をお願いできますか?」

「分かりました。これくらいでいいですか?」

 

私は鍋に正確な量の水を満たし、薪に火を灯す。

薪に火をつけるのには、少しコツがいる。湿った薪は爆ぜやすく、煙も出る。だから、あらかじめ風と水の混合魔術で薪の湿気を取り除いてから着火するのだ。

 

「ありがとうございます。坊ちゃまにお願いすると、火の回りが安定して助かります」

 

リーリャがわずかに口角を上げて微笑んだ。

以前は私を得体の知れない子供を見るような目で見ていた彼女だが、根気強く手伝いを続けるうちに、最近ではこうして信頼を寄せてくれるようになった。

 

「リーリャさん、今度は野菜の処理に魔術を使ってもいいですか?試したいことがあるんです」

 

彼女は少し驚いたようだが、「坊ちゃまなら」と了承してくれた。

実験台は、泥のついた根菜たちだ。

まず、水球の中に野菜を放り込み、洗濯機のように水流を発生させて土を落とす。次に風の魔術を混ぜ、微細な風の刃を無数に発生させた。

風の刃で野菜の薄皮だけをミリ単位で削り取っていく。削り取った薄皮を丁寧に水球から排除していく。

洗浄、皮むき、そしてすすぎ。一連の工程がわずか十数秒で終わった。

磨き上げられた野菜を差し出すと、リーリャは目を見開いて固まっていた。

 

「……効率的ですね」

 

彼女は呆れたように、けれどどこか感心した様子で頷いた。

 

その日の夕食は、私が下処理した野菜たっぷりのスープだった。

パウロもゼニスも「今日のスープは雑味がなくて美味いな!」と上機嫌だ。

 

一家団欒の茶を飲んだところで、私は本題を切り出した。

 

「父様、母様。ご相談があります」

「どうしたルディ、改まって」

 

茶を一口飲み、喉を潤してから告げる。

 

「リーリャさんに頂いた魔術教本を読んで魔術を練習してきましたが……この教本に載っている初級魔術はすべて習得しました。ですので、次は中級魔術の練習に移りたいのです」

 

食卓に、静寂が訪れた。パウロは「ん?」と首を傾げ、ゼニスは目を丸くしている。

 

「初級を、すべてだと?このあいだ二歳になったばかりだろう?」

「ええ。教本に載っている魔術は、一通り」

 

疑念の混じった目を向けられ、私は言葉よりも実力を見せることにした。

右手の人差し指を立てる。

 

「『水弾(ウォーターボール)』」

 

詠唱を省略し、水晶玉のように透き通った、完璧な球状の水球を生み出した。

うん、なかなかよく出来ているのではないだろうか?以前よりもさらに精度を高め、表面をマイクロメートルレベルで整えたことで、鏡のように滑らかに仕上げている。真球度も目視で見る限りは問題なさそうだ。

 

「……信じられん。成長が早いとは思っていたが、これほどとは」

「ルディ……他の属性も、本当に使えるの?」

 

ドン引きしているパウロに対し、ゼニスは瞳を輝かせて身を乗り出した。

私は他の指を立て、それぞれの先に火、土、風の魔術を無詠唱で同時に発現させた。

 

「なっ……!?」

「キャーー!!すごいわ!ルディは天才よ!!」

 

ゼニスが立ち上がり、私を力いっぱい抱きしめる。

 

「あなた!ルディに家庭教師をつけましょう!本物の魔術師を!」

「いや待て!男が生まれたら剣士にする約束だろう!」

「この才能を見なさい!剣なんて後回しよ!」

「約束は約束だ!ルディ、お前も剣をやりたいよな!?」

 

夫婦喧嘩が始まってしまった。どうしよう、と困惑していると、背後からリーリャが冷静な助け船を出した。

 

「……午前中は魔術を、午後は剣を学ばれてはいかがでしょう」

「「それだ!!」」

 

こうして、私の二部制教育が決まった。

ゼニスは「早速、ロアの街で一番の先生を探しましょう!」と鼻歌混じりに部屋を出ていった。

私は、どのような家庭教師が来るか胸を少し躍らせながら、リーリャに小声でお礼を言った。

 

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Side: ルーデウス

 

今日は待ちに待った、家庭教師が来る日だ。

 

私は準備として、教本の記述から独学で中級魔術の理論を理解し、一通り呪文を覚えておいた。

また、リーリャからこの世界の礼儀作法も叩き込んでもらった。新しい知識をもたらしてくれる師には、最大限の敬意を払うべきだと考えたからだ。『記憶』の中ならともかく、この世界の礼儀作法には知見がない。これはこれで良い勉強になったと思える。

 

「……はじめまして。今日から家庭教師を務めさせていただきます、ロキシー・ミグルディアです」

 

玄関に立っていたのは、想像とは正反対の人物だった。

透き通るような青い髪を二つの三つ編みにし、体躯は私より少し大きい程度の小柄だ。だが、その瞳――『記憶』で言うところのジト目は、深い知性と落ち着きを湛えている。

 

「ルーデウス・グレイラットと申します。ご指導、よろしくお願いいたします」

 

私がリーリャ仕込みの礼儀正しい挨拶を返すと、ロキシーは帽子を直し、わずかに驚いたように目を瞬かせた。

 

「(……いるんですよね、『うちの子は天才です』って張り切っちゃう親御さんって……)」

 

小声がつぶやかれたが、私の耳はそれを逃さなかった。確かに、三歳にも満たない子供に魔術を教えるなど、普通の魔術師なら徒労だと思うだろう。

 

「……分かりました。やれるだけのことはやってみましょう」

 

ロキシーは少し呆れたような、同情するような目でそう言った。

まずは実力測定ということで、私たちは庭へ移動した。

 

「まずは私がお手本を見せます。よく見ていてくださいね」

 

ロキシーは自身の体躯よりも大きな杖を構えた。

 

「汝の求めるところに大いなる水の加護あらん。清涼なるせせらぎの流れを今ここに――『水弾(ウォーターボール)』!」

 

放たれたバレーボール大の水球は、庭の木に向かって一直線に飛び、その太い枝を無残に叩き折った。

 

「どうですか、ルディ?」

 

少しだけ得意げに鼻を鳴らすロキシーに、私は申し訳なさそうに指を指した。

 

「……先生。あの木は母がとても大事にしているもので、以前父が折った時は、一週間は食卓が氷河期になりました」

「えっ、ひょう……ええええ!?そうなんですか!?」

 

ロキシーの顔から血の気が引く。

 

「な、なんとかしないと!怒られるのは勘弁です……!」

 

彼女は慌てて枝を持ち上げようとするが、背が低くてぎりぎり届くかどうかの距離だ。焦りながら、彼女は必死に詠唱を紡いだ。

 

「か、神なる力は芳醇なる糧!力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん!『ヒーリング』!」

 

温かな光が枝を包み、まるで時間を巻き戻すように木が接合された。

治癒魔術。教本には載っていなかった魔術だ。

 

「……先生、今のは治癒魔術ですか?すごいです」

「えっ?あ、はい。中級程度なら……。ま、まあ、これくらい訓練すれば誰でもできますよ?」

 

青ざめていた顔が一転、ロキシーは再びどや顔に戻った。

なんだか、とても表情豊かで人間味のある人のようだ。

 

「さあ、次はあなたの番ですよ。同じようにやってみてください」

 

また木を傷つけるわけにはいかない。私は土魔術を使い、瞬時に精巧な人型を庭の端に生成した。サイズはパウロくらいで良いだろう。他意はない、サイズが想像しやすいだけだ。

いや、発現する威力を鑑みると、庭に作るのは危ないか……作ったばかりの人型を崩し、庭の外に再生成する。

 

「えっ……?」

 

ロキシーが当惑の声を漏らすが、私は構わず右手を差し出した。

詠唱はしない。

バレーボール大の水を生成し、その中心部を高圧に設定。表面を膜のような高密度の膜で包み込むことで、内圧を高めて破壊力を凝縮する。

さらに水球のサイズを縮めて圧力を加える。水魔術が持つ機能は『水の生成』、『生成した水の移動』、『水の温度変化』に大別される。

これを更に細分化し、『水分子の生成と操作』として認識し直す。

更に圧縮が捗り、ピンポン玉サイズになる。見た目が大きく変化し、一見キラキラと輝く氷の球に見える。それぞれの水分子を無理やり操作して距離を近づけているのだ。密度が氷とは段違いであるため、金属のように重たい氷となっている。

更に更に圧縮する。ビー玉サイズになり、固体と流体の境目が無くなる。見た目は黒くドロドロして、発光する球だ。既に水分子としての形を保てておらず、酸素原子の格子の中を水素原子が動き回っている状態である。……これはだめだな。恐らく、『記憶』にあるビルを破壊する程度の威力があるだろう。

圧縮を緩めて氷の球に戻す。そして、それを遠くに見える人型に向けて放った。ビュンっと音を立てて高速で移動し、きらめきが軌跡となって残り、着弾する。

 

ドォォォォォォォォンッ!!!!

 

放たれた氷球が人型に接触した瞬間、内包された圧力が爆発し、土塊を文字通り粉々に粉砕した。

強烈な爆風がここまで届く。ロキシーはスカート姿だ。めくれ上がると目のやり場に困ってしまう。爆風を風魔術を使って上空に受け流した。

続けて、圧縮された水が濁流となってここまで届く。土魔術を使って堰き止めようとしたが、若干庭まで侵入してしまった。想像していたよりも威力が強かったようだ。

 

「な……なんですかこの威力は!?それに、今のは詠唱省略……!?」

 

ロキシーは、破壊力と詠唱が無いことに驚愕していた。

 

「詠唱を省いたほうが、威力の微調整や発動速度の管理がしやすいので。基本的にはこうしています」

 

答えると、ロキシーは口を半開きにしたまま、彫像のように固まった。

強烈な爆風でこの辺りの気流が乱れたのだろう。強風が庭を通り抜け、静寂が流れる。

やがて、ロキシーは肩を震わせ、何かに取り憑かれたようにクスクスと笑い始めた。

 

「……フフ……あはは。よく分かりました」

 

彼女は私を射抜くような、熱を帯びた瞳で見つめ返した。

 

「威力、精度、そして無詠唱。……全くもって初級とは思えませんが、合格です。ルディ」

「ありがとうございます、先生」

「(……これは……教える側も命がけになりそうですね……!)」

 

ロキシーは独り言が多いようだ。筒抜けだが、あえて指摘しないでおこう。

これが、私と師との出会いだった。

その後、爆音に驚いたパウロとリーリャに怒られ、さらに庭を泥水まみれにした件でゼニスにこってり絞られたのは、言うまでもない。




お読みいただきありがとうございます。

想像力の違いが魔術の出力に影響するという解釈で書いています。
この世界の一般的な魔術師は水魔術を『水』としてしか認識していないので、圧縮には限界があります。
一方で『記憶』を持つルーデウスは『水分子』、より細かな単位まで想像が及ぶので、圧縮率に違いが生じます。
『超イオン水』まで圧縮すると被害が甚大なので、少し圧縮を緩めました。

また、このルーデウスは『記憶』を反面教師としているので、性的な物に対する忌避感と、紳士であろうとする心意気があります。

次話は明日投稿します。また見てくださると嬉しいです。
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