無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
「こっちだ! 早く逃げろッ!!」
パウロの鋭い怒声が響く。彼ははぐれ赤竜の突進から逃げ遅れた冒険者の一団を誘導し、安全圏へと逃がしていた。
その背後、巨大な赤竜の巨躯に対し、ルイジェルドとエリスが左右から肉薄する。
パウロと合流し、私たちはすぐにミリシオンを後にした。
物価の高い首都で路銀を稼ぐ計画もあったが、「一刻も早く故郷へ戻る」という共通目的が、私たちの歩みを早めさせた。
現在のパーティ『デッドエンド』は、パウロ、ルイジェルド、エリス、そして私の四人体制だ。
パウロとルイジェルドは、共に長年リーダーを務めてきただけあって驚くほど息が合い、エリスもその二人の背中を見て凄まじい速度で戦術を吸収している。
今、私たちが受けている依頼は『はぐれ赤竜の討伐』。数組のパーティが全滅しかけたこの難題も、今の私たちにとっては効率的な資金調達の手段に過ぎない。
「ルイジェルドさん!エリス!下がってください!」
パウロが冒険者たちを完全に引き離したのを確認し、私は
内部で蓄積させていた魔力を、魔術へと流し込む。
『
一点集中。破壊力を極限まで高めた雷撃が、大気を引き裂きながら赤竜の眉間へと突き刺さった。術理は極めてシンプル、『
ドォォォォォン!! と鼓膜を震わせる轟音。視界が真っ白に染まるほどの閃光。
数秒後、視界が戻った時には、山のような赤竜が全身から煙を上げ、ピクリとも動かずに横たわっていた。
「……耳が痛いわよ、ルーデウス!!」
「……赤竜を一撃か。相変わらず、お前の魔術は異常な威力だな」
耳を押さえながら戻ってきたエリスと、苦笑するルイジェルド。至近距離で音速の衝撃波を浴びせてしまったのは申し訳ないが、これが最も燃費と安全性に優れた解法なのだ。
「さあ、父様。生き残った人たちの手当を。私は素材の回収に入ります。皆さん、手伝ってくださいね」
無事に依頼を完遂し、私たちのパーティ『デッドエンド』は名実ともにS級の地位を確立した。
あまり贅沢はできない旅路だが、今日は昇格祝いだ。
ミリシオンの宿で、パウロとルイジェルドは珍しく酒を酌み交わしていた。
意外なことに、この二人は戦闘以外でも気が合うらしい。「子供を守る」という一点において、ルイジェルドの高潔さと、パウロの親としての責任感が共鳴しているようだった。
「……それで。今後の進路について相談したいことがあります」
二人の酔いが回る前に、私は地図を広げた。
私たちはすでに中央大陸の東端、王竜王国の港町イーストポートに到達している。
道中、ミリス大陸のウェストポートではスペルド族の件で揉め事もあったが、エリスが救ったテレーズ・ラトレイアという女性騎士――なんとゼニスの妹であった彼女の介入により、事なきを得た。
テレーズは私を見るなり「なんて可愛らしい甥っ子なの!」と抱きしめて離さず、エリスが不機嫌の極致に達していた。パウロが彼女から汚物を見るような目で見られていたのには同情を禁じ得なかった。
「アスラ王国へ向かうルートは実質一つ。交易用の街道を西へ進むのみです。ですがその前に、北にあるシーローン王国へ寄り道をしたいと考えています」
「お前の師がいる国、だったな」
ルイジェルドが頷く。
「はい。魔大陸ではロキシー先生のご両親に大変お世話になりました。二十年も音沙汰のない娘を、それでもずっと案じておられた。あの心配そうな顔を、直接ここで伝えたいと思っています。しかし、その分旅路に遅れが……」
「いいんじゃない、ちょっと寄り道しても。ロキシーには私も会いたいし」
急ぐ旅路ではあるのだが……。
しかし、エリスがあっけらかんと言ってくれた。
「手紙はすでにアスラへ何通も送ってあるんだ。数日の遅れならフィリップも文句は言わねえだろ。行こうぜ、ルディ」
パウロも快諾してくれた。
私たちはロキシーへ向けて「これからそちらに伺います」という内容の手紙を出し、準備を整えた。
数週間の旅を経て、私たちはシーローン王国の王都ラタキアに到着した。
魔大陸に比べれば魔物の脅威は低い。
強すぎるルイジェルド、元S級のパウロ、そして剣神流の才を開花させつつあるエリス。この超攻撃型布陣を突破できる魔物など、この辺りには存在しなかった。
宿に泊まった翌朝、驚くべきことに王宮からの使者が現れた。
ロキシーからの返信かと思ったが、渡された書状の差出人は第七王子、パックス・シーローン。
『ロキシーの弟子を名乗るルーデウスに興味がある。即刻、城へ出向け』
高圧的な文面。ロキシーが家庭教師として手を焼いていると聞いていた問題児の名だ。
不穏な予感はあったが、王族の召喚を無碍にはできない。私たちは四人で王宮へと向かった。
門番に案内され、たどり着いたのは王宮の奥まった場所にある騎士訓練場だった。
(……客間ではないのか?ロキシー先生は騎士の魔術指導もしていると聞いていたが……)
のんびりと構えていたその時、周囲の物陰から武装した騎士たちが一斉に現れた。
重厚な全身鎧に、壁のような大盾、そして鋭い槍。総勢二十人。
パウロとルイジェルド、エリスが即座に抜刀し、殺気を放つ。私も
「ルーデウス・グレイラット殿。お覚悟を」
騎士の一人が宣告し、武器の穂先を向けてくる。
だが、私は彼らの陣形を見て、思わず感嘆の声を漏らしていた。
「……素晴らしい。対魔術師用の封じ込め陣形ですね。死角を消し、魔法を想定した多重の守り。ロキシー先生の指導によるものでしょうか?」
「ルーデウス!?何を呑気なこと言ってるのよ!!」
「ルディ、こいつら本気だぞ!」
エリスとパウロに怒鳴られるが、私は冷静にその兵法を賞賛していた。
(全身金属鎧に、厚い盾。……中級程度の単発魔術では、物理的な質量で防がれるか?)
試しに無詠唱の
騎士たちは大盾を完璧に重ね、衝撃を最小限に抑えて踏みとどまった。
「驚きました。無詠唱魔術にまで対応訓練がなされているとは。……これは、ロキシー先生が私に課した試練ということですね?」
「おいルディ!お前、勘違いしてないか!?」
「いいえ。弟子として、先生の期待には全力で応えねばなりません。……皆さん、少し耳を塞いで伏せてください」
「「え?」」
「『
ルイジェルドさんたちが反射的に身を伏せた瞬間、私は杖を地面に突き立てた。
足元を除く全方位へ、高密度の稲妻を網状に展開する。……ふむ、仲間は回避が間に合ったようだ。
バリバリッ!! という激しい放電音。
次の瞬間、金属の鎧と盾という、最高の
出力を調整したため命に別状はないが、しばらくは指一本動かせないはずだ。
「……あ。ロキシー先生に説明する人を一人残しておくべきでしたね」
呆然と立ち上がるパウロとエリス。ルイジェルドだけは冷静に脱出経路を計算していたが、そこへ。
「何をやっているのですか、あなたたちはッ!!……って、ルディ!?」
遠くから、聞き慣れた愛らしい叫び声が響いた。
訓練場の入り口、青い三つ編みを振り乱しながら駆けてくる小柄な人影があった。走る勢いのまま転びかけ、体勢を立て直し、それでもなお全力で駆けてくる。数年ぶりに見るその姿は記憶の中とまるで変わらず、けれど確かにそこにいる、生きたロキシーだった。
「先生……!」
私が名を呼ぶと、彼女は倒れ伏す騎士たちの間を縫うようにして駆け寄り、私の両肩を掴んで上から下まで矯めつ眇めつ眺め回した。
「ルディ……!?本当に、ルディなのですか……!?なんで、こんなところに……!」
「はい、先生。ご無沙汰しております。……色々とありまして」
「色々って……!このお馬鹿弟子はぁぁぁ!!騎士たちに何てことしているのですか!?」
安堵と困惑がない交ぜになった表情で、ロキシーは私の頬を両手で挟み、それから思い切り抱きついてきた。夜の座学の頃と変わらない、少し不思議で甘い匂いが鼻をくすぐった。
事態を把握したロキシーに案内され、私たちは王宮の賓客用の客室へと通された。
パウロとルイジェルドは豪華な内装に居心地が悪そうにしていたが、エリスだけは我が物顔で椅子にふんぞり返っている。……大物だ。
客室には、騒ぎを聞きつけた第三王子ザノバ・シーローンも同席されていた。
ロキシーは「私の弟子が……不祥事を……」と、死にそうな顔でザノバ王子に平謝りしている。
「……それで。ロキシーの弟子を名乗る少年よ。なぜこのような騒動を?」
ザノバ王子の問いに、私は事の経緯を説明した。
ロキシーへ手紙を出し続けていたこと。パックス王子の名で呼び出しを受けたこと。騎士に襲撃され、それを「先生からの試練」だと解釈して制圧したこと。
「手紙……?私、一通も受け取っていませんが……。ああ、やはりパックス様の仕業ですか……!」
ロキシーが顔を覆う。パックス王子は、ロキシーの郵便物を勝手に検閲し、嫌がらせのために私を騎士たちにぶつけたらしい。
「……先生、改めてお久しぶりです。そして、お話したいことが山ほどあります」
私は転移事件の経緯、エリスと共に魔大陸へ飛ばされたこと、そしてルイジェルドに救われたことを話した。
「スペルド族……っ!?」
ロキシーは面白いほどにビクつき、椅子から転げ落ちそうになった。パウロよりリアクションが大きい。ブエナ村の時から変わらず表情豊かで嬉しい。
私は彼女に、ルイジェルドがどれほど高潔で、子供を愛する戦士であるかを論理的に説明し、パウロもそれに同意した。それでもロキシーはまだビクついていたが。
そして、私は本題を切り出した。
「魔大陸で、ミグルド族の集落に立ち寄りました。そこで、先生のご両親――ロイン様とロカリー様にお会いしたんです」
ロキシーが、弾かれたように顔を上げた。表情から、それまでの動揺も礼儀も、すべてが吹き飛んでいた。
「お父さんと、お母さんに……?二人は……二人は、元気でしたか……?」
その声は、震えていた。二十年もの間、故郷を離れ、一度も帰っていない娘の声だ。
「ええ。とてもお元気でしたよ。ロイン様は穏やかで、ロカリー様は先生によく似た、優しい方でした。……ただ、お二人とも、二十年間、片時も先生のことを忘れたことはなかったそうです。連絡がないことを、ずっと、ずっと案じておられました」
ロキシーの大きな瞳に、みるみるうちに涙が盛り上がっていく。彼女はそれを堪えるように、両手をきつく握りしめていた。
「……そう、ですか。ずっと、心配ばかりかけて……」
「怒ってなどおられませんでしたよ。ただ、会いたい、と。それだけでした」
私は懐から、昨晩作り上げた彫像を取り出し、机の上に置いた。
「これが証拠です。あのお二人の、今の姿です」
その瞬間。
それまで静かに話を聞いていたザノバ王子の様子が、劇的に変貌した。
「――こ、この彫像はぁぁぁぁぁッ!!?」
鼓膜が裂けんばかりの絶叫。
エリスなどは、驚きのあまり猫のように毛を逆立てて椅子から飛び上がっていた。
ザノバ王子は椅子を蹴り飛ばして立ち上がると、「少々お待ちいただきたいッ!!」と叫び、風のような速さで退室していった。
呆然とする私たちの前に、彼は再び風のように戻ってきた。その腕には、一体の彫像が抱えられている。
「あなたが……!あなた様が、この像の製作者なのですかッ!?」
差し出されたのは、私が幼少期に作り、パウロが勝手に商人に売ったロキシー像だった。
「ああ、懐かしい。……それは、私が作った像の一つですが、今見ると細部の処理が甘いですね」
「いやぁルディ、あの時はすまんかった。まさかあんな高値で売れるとはな」
「あなたが……あなたが、神かッ……!!」
ザノバ王子は、王族が絶対にしてはいけない姿勢――五体投地のような格好で私を拝み始めた。怖い。
「……話を戻してもよろしいですか、殿下」
引き気味に視線を戻すと、ロキシーは驚愕の限界を超えたのか、魂が抜けたような顔で、それでもまだ両親の彫像をそっと指でなぞっていた。目元は、まだ涙で濡れている。
「ロキシー先生。ご両親は、先生が立派な魔術師として王宮に仕えていると聞いて、本当に、本当に喜んでおられました。今はお役目があり難しいでしょうが……いつか、一度だけでいい。村に顔を見せてあげてください」
「……ええ。ルディ。……ありがとう。私の役目も、もうすぐ一段落します。その時は必ず、魔大陸へ戻りましょう」
ロキシーは彫像を大切そうに両手で包み込み、私の目をしっかり見据え、力強く頷いてくれた。
「あと、こちらを。お手荷物になるでしょうが、村のご両親に渡してください」
私は路銀の入った革袋を差し出した。
「ロイン様たちは、無一文だった私たちに命を繋ぐ路銀を託してくださった。本来なら直接お返しすべきですが、私たちの旅はまだ続くので……」
「……分かりました。責任を持って、届けますね」
その時。
背後で像を凝視していたザノバ王子が、「ああぁぁ……」と熱に浮かされたような声を漏らした。
彼は私が持ってきたご両親の像を、喉から手が出るほど欲しそうに眺めている。
(……まあ、このまま放置するのも忍びないな)
「殿下。もし良ければ、もう一つ何か作りましょうか?一晩あれば、今の私なりの最高傑作を」
「な、なんと……ッ!!よろしいのですかぁぁぁ!!?」
ザノバ王子が歓喜のあまり咆哮した、その瞬間。
バンッ!! と扉が乱暴に開け放たれた。
そこに立っていたのは、下卑た笑みを浮かべた小太りの男と、武装した数人の騎士だった。
「余の親衛隊よ!!この不届き者たちを、今すぐ捕らえよッ!!」
「パ、パックス王子……!」
ロキシーが絶望的な溜息を吐く。
だが、そのパックスを凌駕する怒声を上げたのは、他ならぬザノバ王子だった。
「何を言うかパァァァァックスッ!!このお方をどなたと心得るッ!!この御方は私の、我が彫刻の師となるお方だぞ!!今すぐ兵を下げよ、さもなくば貴様の首を今ここで圧し折ってくれるわぁぁぁ!!」
ザノバ王子が、両手を広げて怪獣のような形相でパックスへ突進していく。
私とパウロ、ルイジェルド、エリスの四人は、ただ呆然と、その「身内争い」を見守るしかなかった。
(……シーローン王国、想像以上にカオスな場所だな。……アスラ王国の政治的混沌はありそうだが、ここにも別種の火薬庫が待っていたとは。もっとも、こちらは剣ではなく彫像で決着がつきそうなあたり、まだ平和的と言えるのかもしれない)
再会の感動が、別の何かに上書きされていくのを感じながら、私は冷めたお茶を一口、啜ったのだった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
シーローン回でした。
ロキシーとの感動の再会のはずが、気付けばザノバ回になっていました。