無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第22節 分岐点(ターニングポイント):龍神オルステッドとの戦い

 

Side: ルーデウス

 

 

人神(ヒトガミ)

 

 

魔大陸のあの日、精神体として出会ったあの不審者がそう名乗っていた。

私の脳裏にその姿がよぎった瞬間、私の思考の動きを、オルステッドは冷徹に読み取った。

 

「――ッ!!」

 

オルステッドから爆発的な殺気が立ち上る。

視認不能。私の眼が反応するよりも早く、彼の手刀が私の喉元へ迫る。

それを防いだのは、限界を超えて身体を動かしたルイジェルドだった。

 

「逃げろッ!!ルーデウス――!!」

「邪魔だ、ルイジェルド・スペルディア」

 

あの、最強の戦士ルイジェルドが。

紙屑のように殴り飛ばされた。それは物理的な衝撃というよりも、法則の暴力だった。

ルイジェルドは数十メートル後方の岩壁に激突し、ピクリとも動かなくなった。土煙が舞い上がり、砕けた岩の破片がぱらぱらと地面に降り注ぐ。

 

「悪いな……。こいつはどうやら、俺の敵――『人神(ヒトガミ)の使徒』のようだ」

 

オルステッドが手の骨を鳴らす。

 

「殺さねばならん」

 

恐怖で硬直していたパウロとエリスが、親としての、そして戦士としての本能で無理やり身体を動かした。

指の一本すら動かせなかったはずの体を、精神力だけで無理に叩き起こしたのだろう。エリスの目には涙が浮かび、パウロの歯は恐怖と怒りで軋んでいた。それでも二人は、震える足で地を蹴った。

 

エリスが袈裟懸けに、パウロが鋭い切り上げで左右から肉薄する。

 

「奥義――『流』」

 

二人の渾身の剣閃が、まるで子供の遊びをあしらうように虚空へ受け流された。

二人は揃って壁に叩きつけられ、意識を失う。

 

そのままの予備動作で、オルステッドの諸手による打撃が私の胸部に叩き込まれた。

 

バキィッ、という不快な音が体内で反響する。

 

肺が潰れ、肺胞が破裂したのが感覚として理解できた。呼吸をしようとしても、空気が入ってくる感触がない。喉の奥で、ひゅう、と虚しい音だけが鳴る。溺れているのに、水は一滴もないという奇妙な感覚だった。

 

「魔術師はまず肺を潰すに限る。……死んで人神(ヒトガミ)に伝えるがいい。龍神オルステッドが、必ず貴様を殺すと……な」

「『電撃(エレクトリック)』」

 

至近距離で放たれた雷光。

だが、オルステッドは左手を一振りするだけで、魔術を「手で払って」消滅させた。

 

「……無詠唱、か。今の魔術はなんだ? 驚いたな……。俺の肉体に、僅かだが焼損の傷を付けるとは」

 

彼が独白している間に、私は体内の魔力をフル稼働させ、潰れた肺と心臓周辺を治癒魔術で強引に繋ぎ直した。

かちり、かちりと、砕けたガラス細工の破片を無理やり組み上げるような感覚。激痛が脳を焼くが、止まっている暇はない。

 

同時に、身体の周囲に八層の即席魔法陣(アドリブ・サーキット)を投射する。

 

魔力過循環状態(オーバードライブ)……ッ!!」

 

魔力を全開で循環させる。

ルイジェルドたちは手加減で済まされたようだが、私に対してこの男は殺意を隠していない。

 

ならば、死ぬ気で、死力を尽くして抗うまで。

 

『記憶』がこれまでにないほど強い警鐘を鳴らしているが、今は無視だ。

 

私は腕の組織から傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)を顕現させた。

 


 

最初に行ったのは、距離の確保だ。

 

風の噴射と火魔術の小規模爆発を組み合わせ、垂直に上空へ跳躍する。意識を失った仲間を巻き込むわけにはいかない。

オルステッドは重力を無視したような跳躍で追いすがってくる。

 

「『氷槍(アイスランサー)』」

 

十六本の氷槍を多重射出するが、彼は空中でそれらをすべて素手で粉砕した。一瞥もくれない。

 

「『風裂(ウインドスライス)』」

 

数多の不可視の刃を射出する。だが、オルステッドはその連撃の隙間をすり抜けるように潜り込み、あるいは手刀で無効化して肉薄してくる。

 

「それは人神(ヒトガミ)から得た力か? ……他にもまだ隠しているのか?」

 

私は全力で空中を逃げ回りながら、至近距離での火魔術爆発を連続発生させて、オルステッドを地面に叩き落とすことに成功する。

 

宙に浮かんだまま、杖を地面に向ける。

辺り一面が泥沼と化し、オルステッドは足を取られる。

 

そのまま土魔術を操り、泥沼の中に巨大な破砕機を生成する。

『記憶』の中で見た、金属の塊すら砕く産業用重機だ。

しかし、次の瞬間、構築された破砕機が泥沼ごと吹き飛ばされ、石の塊が砂となってまき散らされる。

オルステッドは不快そうな顔で見上げ、こちらに照準を合わせる。

 

「っ!まだだ!」

 

即席魔法陣(アドリブ・サーキット)を重ねる。

泥と一緒に地中の水分も宙を舞っている。

多重魔術(スタック・マジック)では、『事象の発生前に属性を混ぜ合わせる』ことが必要、だがそんな時間はない。土壇場で新たな技術を開発する。

 

――『属性書換(タイプキャスト)

 

宙に浮く水滴を『可燃性の水』に無理やり書き変える。凄まじい魔力の消費だ。

そして、限界まで圧縮した火球弾(ファイアボール)を放つ。

 

ゴォォォッ……ズドォォンッ!!

 

霧状に散った可燃性の水蒸気に火球が引火し、一拍遅れて爆発が周囲を呑み込んだ。

 

やったか?

 

いや、オルステッドの外套は燃えたようだが、本人には傷一つ付いていない。

――あれに耐えられる生物がいるのか!?

 


 

オルステッドが飛び上がる。予見眼をもってしても、反応できない。

勘だけで、水神流の理合で、左手でぎりぎり受け流す。

左手が裂け、骨が露出する。即時、治癒魔術で治す。

 

「『雷銃(レイ)』!!」

 

電気を光子に変え、レーザーを連続して放つ。

オルステッドは跳躍しつつ、片手でそれらを撥ね退けた。

 

良く見れば、オルステッドの腕には熱傷の痕が見えた。

 

そういえば、初めに放った『電撃(エレクトリック)』は多少通用していた。

この、やたら硬い闘気の持ち主に、風も水も土も火も全く通用しなかったにも関わらず、である。

電子や光子を用いた攻撃なら通用する?

だが、一直線に進む『雷銃(レイ)』では軌道が読まれてしまう。どうすれば良い?

 

光子を直接生み出し、制御する?いや、完璧に想像できなくても良い。『記憶』とは違い、ここは魔力がある世界だ。私は『魔力』という、理解に及ばない力を行使出来ている。であれば、理解の及ばない物質を生み出すことも不可能ではないはずだ。操作可能な、『光子のような何か』を想像しろ!

 

「……『追従雷銃(ホーミングレイ)』!!」

 

土壇場で生み出した魔術は、私の想像通りに『曲がる』光線となった。

自律誘導される五本の雷光がオルステッドを襲う。三本は弾かれたが、二本は直撃した。

再度オルステッドが地に叩きつけられ、辺りが砂塵で見えなくなる。

 

手を緩めるな!!

次は十本の『追従雷銃(ホーミングレイ)』を砂塵に向かって放つ。

視界の端に映る自分の髪が白くなり始めていることに、他人事のように気付いた。

 

……それらすべてが弾き飛ばされ、周囲へ飛び散ったのが分かった。

 

 

 

 

――オルステッドはいつのまにか、手に大きな剣を持っていた。

 

 

 

 


 

オルステッドの姿がかき消える。

次の瞬間、私の左腕が切り飛ばされた。

 

「……は?」

 

唖然とした隙に、重い蹴りを食らう。

風魔術の守りを容易く突破した蹴りは、次は私を地上へと叩き落とした。

 

あまりの衝撃に、意識が飛びそうになる。

左腕を失った痛みでようやく意識が保てている。焼けるような、それでいて感覚が遠のくような、矛盾した痛みが腕の断面から脳天まで突き抜ける。

地面にぶつかったせいか、全身の骨が砕ける感触もある。内臓が焼けるように熱い。

それでも私は、意識が消える寸前に治癒魔術をねじ込んだ。

 

 

あまりの力の差に、敗北の文字が浮かぶ。

 

 

……まだだ。まだ、戦える。

 

エリスとの約束、ルイジェルドとの約束を、守らなければいけない。

なにより、全力で魔力が行使できる初めての戦いに、アドレナリンが全開になったように高揚している。

 

「ははっ!!強すぎるだろうっ……!!」

 

全力の戦闘。手加減も、慈悲も、妥協もない真剣勝負。

死に直面しながら、私の心の内側には、今まで研鑽してきた力を存分に振るえる歓喜が溢れ出していた。恐怖と愉悦が渾然一体となり、もはやどちらが自分の本心なのか分からなくなっていた。

 

「『震壊雷(フラゴール)』!!」

 

傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)から放たれた極太の稲妻が、オルステッドを直撃する。

彼はそれも手で払いのけたが、直後、その手を僅かに振った。

 

(……効いている!?少しは痺れたか!?)

 

「『震壊雷(フラゴール)』!!」

 

私は理性を飛ばし、笑いながら稲妻を連射した。

一撃、二撃、三撃。空が紫に染まる。

ふと、自分の鼻から熱い液体が溢れ出したことに気づいた。身体への魔力負荷が臨界を超えている。

視界の端に映る自分の髪が、完全に白くなっていた。

 

その一瞬の隙。

 

オルステッドの剣が、築いていた風の壁を突き破って私の鳩尾へ届いた。

河原を割るような鋭利な衝撃が体の中に入ってくる。周囲に纏っていた風魔術ごと、私は串刺しになった。

 

「……まだだ。まだ終わらせない……!!」

 

魔力枯渇だろうが、串刺しにされていようが関係ない。命のすべてを燃やして、絞り出してでも戦いを続けたい。

 

至近距離から電撃(エレクトリック)を放とうとすると、予見したオルステッドは剣を振るって、私をゴミのように投げ出す。

 

 

 

傷口から、心臓の鼓動に合わせて血が噴き出していた。

 

 

 

距離を取ったオルステッドが、静かに構えを取る。とどめを刺すつもりなのだろう。

 

だがその前に。私は絞り出した魔力で私の最大威力の魔術構成を完了させていた。

浮遊させていた八層の即席魔法陣(アドリブ・サーキット)を、傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)の先端に一直線に整列させる。

 

放つのは、雷銃(レイ)の極大化魔術。

先端の二つの魔法陣は照準と速度の最適化を担い、経路上に真空の筒を形成する。手前の三つの魔法陣は収束と圧縮を担う。生み出すのは、先ほど開発した『光子のようなもの』だが、曲がる性質は捨て、ただひたすら強大なエネルギーだけを追求した粒子だ。そして中間の三つの魔法陣が、その加速を担う。

文字通り、命をかけた全身全霊の一撃。

 

 

 

「『収束荷電粒子砲(ガンマ・パーティクル・キャノン)』」

 

 

 

収束された極太の光線が、空間を焼き、一直線にオルステッドを呑み込もうとする。

 

 

 

――これまで一切の攻撃を受け止め、流してきたオルステッドが、初めて身を翻して回避の動作を取った。

 

光線が彼の頬をかすめ、鮮血が舞う。

 

「……龍神である俺に、身を躱させるか」

 

これでは足りない。もっとだ。もっと出力を……!!

剣で心臓を貫かれていようが関係ない。

魔力が尽きていようが関係ない。

戦いの高揚に身を任せ、残る全生命力を、血管が破裂せんばかりに魔術へ注ぎ込む。

 

――しかし。

 

ごぽっ、と口から大量の血が溢れ出した。

 

(……人族の肉体の、耐久限界……?)

 

視界が急速に狭まる中、オルステッドが私に手を向け、死神のような静かさで告げた。手にしていた剣は、いつの間にかなくなっていた。

 

「『乱魔(ディスタブ・マジック)』」

 

回路が、一瞬で断絶した。

展開していた魔法陣が、糸が切れたように霧散していく。

 

――なんて酷いことをするのだろう。

死に行く私に対して、こんなに魅力的な、興味深い技術を見せつけるなんて。

これから死ぬのに、さきほど使われた『乱魔(ディスタブ・マジック)』という技術を研究したくてたまらない。

 

そんな私の思いも空しく。

完全な無防備となった私の首へ――。

オルステッドの手刀が、音もなく貫いた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。
ついに来ました、分岐点(ターニングポイント)
オルステッドと戦う中で、このルーデウスの最大の弱点、『人族としての限界』が明確になりました。
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