無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: とある冒険者
俺は、肺が焼け付くような痛みを感じながら必死に足を動かしていた。
心の底から、この依頼を受けた自分たちの慢心を呪っていた。
依頼の内容は、『はぐれ赤竜の討伐』。
このアスラ王国、それも王都近辺では滅多に現れない希少な、そして最悪の災害。A級に昇格したばかりで浮き足立っていた俺たちのパーティは、名声欲しさにこれに手を出してしまったのだ。
初めて間近で見る赤竜は、想像を絶する巨大な岩山のようだった。
パーティ自慢の剣士が、命を削るような一撃を叩き込んでも、その鋼よりも硬い鱗に傷一つ付けられない。魔術師の仲間が全魔力を練り上げて放った火炎も、赤竜を怯ませることすらできない。
「逃げろ!撤退だッ!!」
俺の叫びに応え、メンバーは散り散りになって走り出す。息が上がり、視界の端が白く滲む。心臓が痛いくらいに早鐘を打っていた。
だが、赤竜はその巨体に似合わぬ速度で追ってきた。
逃げ切れるはずがない。背後を走っていた女魔術師が、木の根に足をもつれさせて転倒した。
「――っ、しまっ……!!」
絶望。
彼女が食われている間に、俺たちだけでも逃げれば……。そんな汚い思考が脳裏をよぎるが、俺は反射的に踵を返していた。助けようと手を伸ばす。だが、赤竜の巨大な顎は、すでに彼女の頭上まで迫っていた。
間に合わない。
その瞬間だった。
俺たちの視界を、鮮やかなエメラルドグリーンの疾風が吹き抜けた。
「――『
目に見えない風の神が赤竜の横面を強打したかのような衝撃。
俺たちが傷一つ付けられなかった赤竜が、たった一撃で、その巨体を大きく仰け反らせたのだ。
砂塵の中に現れたのは、瑞々しい緑の髪を持つ、一人の長耳族の少女だった。
「シルフィ、少し派手にやる。防御を」
不意に、上空から声が降ってきた。
大人に成りきっていない、けれど氷のように冷徹な、場違いなほど冷静な声。
その声を聴いた少女は、弾かれたように振り返り、俺たちに向かって叫んだ。
「私の後ろに固まって!伏せていてください!!」
言われるがまま、俺たちは少女の背後に縋り付くようにして伏せた。
少女が大地に両手を突く。刹那、地響きと共に分厚い土の防壁が俺たちの前にせり上がった。
一人の少年が、その土壁の頂点へと優雅に降り立つ。
彼は、見たこともないほど巨大な魔石が嵌め込まれた杖を、怒り狂う赤竜へと向けた。
「『
鼓膜が破裂したかと思うほどの轟音。
網膜を焼き切るような眩い白光。
空気が震え、地面が大きく揺れた。
直後、ズゥゥゥゥゥン……という、巨大な質量が地に倒れ伏す重苦しい振動が響いた。
少女が短く溜息をつき、土壁に指を触れる。それだけで巨大な防壁は音もなく砂へと還り、視界が開けた。
そこにいたのは、最高級の杖を携えた、幼さの残る傷だらけの少年。
そしてその先には、全身を炭化させ、ピクリとも動かずに息絶えた赤竜の残骸が転がっていた。
Side: ルーデウス
私たちは、アスラ王国の王都アルスへと足を踏み入れていた。
情報収集を主目的とし、ギルドで依頼をこなしながら、冒険者たちの会話から中央大陸の情勢を探る。
アルスは治安が良く、ギルドに持ち込まれる依頼も比較的平穏なものが多い。
今回のような『はぐれ赤竜の討伐』が紛れ込んでいたのは、本当に幸運だったと言うべきだろう。良い資金稼ぎになった。
今回の旅には、一人の同行者がいた。
シルフィだ。
ロアからブエナ村へ戻った際、私は家族全員の前で、エリスと正式に婚約したことを告げた。
パウロは「さすが俺の息子だ!」と祝福してくれたが、ゼニスとリーリャは、祝いつつもどこか複雑な表情を浮かべていた。
だが、その場にいたシルフィは、顔を真っ白にして泣き出し、そのまま家を飛び出してしまった。ノルンもまた、目に涙を溜めて彼女の後を追っていった。
「……何か、悪いことを言いましたか?」
「ルディ、お前……。頭はいいのに、そういう所は本当に鈍いな」
パウロに呆れたように言われた。
数時間後、ノルンはアイシャとリーリャに連れられて戻ってきた。
その夜、寝る前にノルンから「どうしてシルフィを選ばなかったのか」と激しく詰め寄られた。
聞けばシルフィは、私が転移で消えていた数年間、私の無事を信じて、ずっと待ち続けてくれていたのだという。……その純粋な好意に、私は全く気づいていなかった。
アイシャによれば、パウロが「ルディは完璧に見えるが、色恋沙汰に関しては驚くほど鈍い」と評していたらしい。
私は、自らの心と向き合って出した答えを、ノルンとアイシャに話した。
たとえシルフィが私を想ってくれていたとしても、私は魔大陸での死線をエリスと共に潜り抜け、彼女を愛すると決めた。その想いを曲げることはできない、と。
「シルフィを悲しませたいわけじゃない。だが、私はエリスに一生を捧げると誓った。父様たちを批判するわけではないが、私には二人の女性を同時に娶るというのは不実に感じてしまう」
ノルンはシルフィにとても懐いていたようで不満げだったが、私の「誠実でありたい」という拒絶を、最後には理解してくれたようだった。
それから数日、シルフィは姿を見せなかった。
シルフィの家に会いに行くことはできた。だが、無理に踏み込むことは、彼女への配慮に反する気がした。
三日目の夜、突然シルフィが訪ねてきた。
「……ルディ」
目を赤く腫らしたシルフィが、力なく笑った。
「大丈夫だよ。もう、ちゃんと分かってるから」
「シルフィ……」
「ボクね、ずっと考えてたの。ルディがいなくなってからの数年間、ずっと。……ルディが帰ってきてくれたら、何て言おうかって。頭の中で、何百回も練習してた」
彼女は膝を抱え、窓の外の星を見上げた。
「でも、いざその時が来たら、全然違う言葉しか出てこなかった。悔しいけど、これが今のボクの限界だったんだと思う」
「シルフィ、私は――」
「ううん、いいの。もう言わなくていい」
彼女は私の言葉を遮り、真っ直ぐにこちらを見た。その瞳には、まだ涙の跡が残っていたが、同時に強い意志の光が宿っていた。
「ルディが選んだのがエリスさんなら、それでいい。ボクは、ルディに幸せになってほしいだけだから。……でも」
「でも?」
「でも、諦めたわけじゃないよ。ボクはボクのやり方で、ルディの傍にいる方法を探す。恋人じゃなくても、家族でも、友達でも……なんでもいいから、ルディの人生に関わっていたいの」
その真っ直ぐな言葉に、私は胸を締め付けられる思いだった。
「……ありがとう、シルフィ。シルフィは強いね」
「大袈裟だよ、ルディったら」
彼女は涙を拭いながら、少しだけおどけて笑ってみせた。
その笑顔が無理をしたものだと分かっていながら、私はそれ以上何も言うことができなかった。
そして、旅立ちの朝。
彼女は、完璧に整えられた旅装束を纏い、門の前に立っていた。
「ボクも、一緒に行くよ」
驚く私に、彼女は真っ直ぐな瞳で告げた。
「ルディに小さいころに助けてもらった恩を返したい。それに、ボクもラノア魔法大学で、もっと広い世界を学びたいの」
パウロたちの後押しもあり、最終的にシルフィの同行を認めた。
アリエル王女のような高位の女性と接触するにあたっては、女性がいた方が動きやすいのは事実だった。
道中、いくつかの依頼をこなしながら、私はシルフィに魔術の実戦技術を叩き込んだ。
もともと無詠唱の基礎がある彼女は、吸収が早かった。
私の不在の間も修行を欠かさなかったらしく、彼女の魔力運用、無詠唱魔術は、以前よりも格段に精密なものへと進化していた。
ギルドに赤竜の素材を納品し、報酬を受け取る。
路銀としては十分すぎる。私たちは情報を求めて、ギルド併設の食事処へと向かった。
夜の酒場は混み合っており、喧騒が渦巻いている。
その一角に、一際目を引く女性がいた。
見事な縦ロールに整えられた金髪。露出の多い服装。隣に座る男に艶かしく愛想を振りまいている。
(……熟練の冒険者か。あるいは、情報屋か)
目立たない席に座り、料理を注文して耳を澄ましていると、一人の男が私たちのテーブルへ近づいてきた。
「……あんた、さっきの赤竜を仕留めた魔術師だろ?」
声をかけてきたのは、昼間に助けたパーティのリーダーだった。
名をゾルダートと言うらしい。冒険者特有の粗暴な口調ではあったが、彼は深く腰を折り、真摯な謝意を示してきた。
「気にするな。私はパーティ『デッドエンド』の名に誓って、当然の行動をしただけだ」
私がそう答えた瞬間、周囲の冒険者たちの動きが止まった。
「デッドエンド」――。S級パーティとしての名声ではなく、かつてのスペルド族の悪名として、その単語に反応したのだ。
私は食事の手を止め、彼らに向かって静かに語り始めた。
「誤解しないでくれ。スペルド族の戦士は、実際にかつて私たちの仲間だった。彼は子供を救うことに魂を懸ける、気高く優しい戦士だ。救われた私が言うのだから間違いない」
「だが……あいつらは、狂った一族だって噂だぜ?」
「優しい人だったが、あまりに強すぎた。その圧倒的な武力を恐れた弱者が、悪意あるデマを流したのだろう。……私の父、三つの流派の心得を持つパウロ・グレイラットですら、彼には手も足も出なかったほどだ」
私の言葉に、あの金髪の女性が敏感に反応した。
彼女はしなだれかかっていた男に軽く詫びを入れ、優雅な、けれど隙のない足取りでこちらへ歩み寄ってくる。
「……ちょっと、あなた。今、なんて言ったかしら?」
彼女は私の至近距離まで顔を近づけ、その赤色の瞳で私を凝視した。
シルフィが不快そうに眉を寄せるが、女性は構わず続ける。
「あなた、もしかして……グレイラット家の子?」
「ルーデウス・グレイラット。……失礼ですが、どちら様でしょう?」
「まさか。パウロ・グレイラットの息子……。ええ、確かにゼニスの面影があるわね……でも髪の色が……」
彼女の口から、母様の名前が出た。
「父と母をご存知なのですか?」
「ええ……私はエリナリーゼ・ドラゴンロード。かつて、ゼニスと同じパーティだった仲ですわ」
エリナリーゼ・ドラゴンロード。
その名が出た途端、周囲の冒険者たちが「あのドラゴンロードか……」と距離を置いた。
彼女は空いた椅子に腰掛け、懐かしむように私を見つめた。
「エリナリーゼさん……。母とパーティを組んでいたということは、父とも?」
「知りませんわ、あんな男。ゼニスがなぜあんな奴を選んだのか、今でも理解に苦しみますわね」
どうやらパウロは、よほど彼女から嫌われているらしい。一体昔に何をやらかしたんだ。
「……それにしても、見れば見るほどゼニスにそっくりね。瞳と髪の色以外は」
「母の妹であるテレーズさんにも、同じことを言われました。髪の色は元々茶色でしたが、諸事情があってこのようになっています」
「あら、テレーズに会ったの?あの子、元気かしら」
「ええ、お元気そうでした。……もっとも、私を抱きしめて離してくれず、父には汚物を見るような目を向けていましたが」
思わず苦笑交じりにそう答えると、エリナリーゼは扇子で口元を隠し、くすくすと肩を揺らして笑った。
「テレーズらしいこと。あの子、可愛いものに目がないのですわ」
「……可愛い、ですか。確かに私は二十歳にも満たない子供ですが」
「見た目の話じゃありませんわ。……あなた、ゼニスにそっくりな顔をしていますもの。でも、時々ひどく老成した目をしますのね」
エリナリーゼは値踏みするように私を見つめ、それから小さく肩をすくめた。
話が弾む中、彼女はふと真剣な表情を浮かべた。
「それで、ルーデウス。なぜあなたはこんな王都にいるの?ゼニスは今フィットア領にいるのではなかったかしら?」
私は、情報収集のためにアリエル王女に関する調査を行っていることを伝えた。
エリナリーゼは意外そうな顔をしたが、すぐに考え込む仕草を見せた。
「王女の周辺……。男たちと遊んでいるうちに、いくつか耳に入った噂はありますわ。今の王宮は、血を洗うような派閥争いの真っ只中。アリエル王女も、命を狙われて相当に追い詰められているはずですわ」
彼女は私の目をじっと見据えて言った。
「今日はもう遅いですわ。明日、場所を改めてゆっくり話しましょう。……ゼニスの子なら、力になってあげたいですしね」
彼女はしなやかな手つきで私の頭を一度撫でると、待たせていた男の方へと帰っていった。
私は、去りゆく彼女の背中を見送りながら、ある違和感を覚えていた。
エリナリーゼは私のことを凝視していたが、同じくらい――あるいはそれ以上に、隣にいるシルフィのことを気にしていた。
去り際も、横目で何度も彼女の横顔を、特にその耳の形を確認するように見ていたのだ。
「シルフィ。……エリナリーゼさんと、どこかで会ったことがあるか?」
「えっ?……ううん。私は、あんなに綺麗な人と知り合いなはずないよ。……どうして?」
シルフィは不思議そうに首を傾げた。
謎を残したまま、王都の夜は更けていった。
Side: とある貧困層の男
城塞都市ロアに底が見えない大穴ができて暫く経つ。
簡易的な柵が取り付けられたそこは、今や観光名所になっていた。
領主様としても苦肉の策だろう。こんな大穴ができて、活用しようにもどうしようもない。大きな石を落としても、見えなくなるまで落ちていき、底に落ちた音さえしないのだ。埋め立てられるはずもない。
貧困層の間では、ロープを使って大穴を降りて、その壁面に露出した鉱石を取る者たちが現れた。このアスラ王国で、貧困層から脱するのは容易なことではない。冒険者になって一発当てるくらいしか、成り上がる道筋がないのだ。冒険者も当然甘い職業ではない。多くの者が夢を見て、魔物に殺されるオチを辿っている。
そんな中、身体を張れば一攫千金が狙える方法が現れたのだ。
多くの者が、夜な夜なロープを張って大穴に挑んだ。夜にやるのは、ここを観光名所にしたい領主様から禁止令が出ているからだ。事実、何人もの男が油断して、その大穴に落ちていった。人が落ちたら、この大穴に悲鳴が響くのだ。それが、段々と遠くなり、聞こえないところまで落ちていく。その声を聞くと、背筋が凍る思いだった。
それでも、夜な夜なツルハシを持って降りる人の数は減らなかった。
狙いは金銀ではない。魔力鉱石だ。
数年前のあの光の柱はどうやら魔力災害だったらしく、その壁面からはパンパンに魔力が詰まった良質な魔力鉱石が取れる。あの魔力災害はどうやら無作為な転移を齎す恐ろしいものであるらしいが、一人の幼い魔術師がその身を挺して街を守ったそうだ。そのときの結界魔術がかかっているから、魔力暴走等は起きないという噂だ。
実際に一攫千金に成功した者が現れ始めたとあれば、より競争率が高くなる。
俺も、養わなければいけない妻と子がいるのだ。家族のためなら、恐怖を嚙み潰してでも大穴に挑める。
それに、今日の俺は特別なのだ。
夢に出てきた神のお告げに従えば、今日絶対に魔力鉱石を手に入れることができる。
『いつもとは違う輝きを放つ石を探せ。それが、お前と、お前の家族を救う』――優しい声が、繰り返しそう囁いていた。
半信半疑ではあったが、悪い夢ではない。信じて損はないだろう。
俺はロープを崖の突起にしっかりと結びつけ、暗闇に沈む大穴へと足を踏み入れた。
ランタンの頼りない灯りだけを頼りに、壁面を伝ってゆっくりと降りていく。
……いつもとは、違う輝き。
そんなものが本当にあるのだろうか。
半信半疑のまま、俺はランタンを壁面に近づけながら、慎重に降下を続けた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
少し短いですが、切りが良いのでここで切りました。
各ヒロインとの関係性がどう変わっていくか、楽しみにして頂ければ幸甚です。