無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
その日の夕刻、私はシルフィ、エリナリーゼと共に、アリエル王女の私室へと招かれた。
テーブルには王宮から持ち込まれたであろう銀食器と豪勢な料理が並び、背後には護衛のルークとメイドたちが、影のように、けれど隙なく控えている。
「まずは、昨日の模擬戦での見事な立ち振る舞いへの賛美を。……それと、本日は折り入って相談があるのです」
アリエル王女が優雅にグラスを傾け、本題を切り出した。
「私に生徒会への入員打診が来ています。有力者との繋がりを作るには絶好の機会ですが、同時に学園内での派閥争いに本格的に巻き込まれるリスクも孕んでいる。護衛のルーク一人では、物理的に手が足りないのです」
王女の視線が私を捉える。
「デッドエンドに、公的な護衛を依頼したいのです。もちろん、相応の報酬は約束しますわ。期間は我々の魔法大学での立場が安定するまで、です。」
私は少し考える。王女の身辺警護は、同性であり、かつ実力も確かなシルフィたちが適任だ。
「ルディには龍神様からの『呪いの調査』という最優先のお仕事があるものね。……私がやるよ、ルディの負担を減らしたいし」
シルフィが即座に立候補してくれた。
「わたくしもやりますわ。一人では交代もできませんもの、二人がかりなら鉄壁ですわよ。それに、若くて活きのいい学生さんたちを間近で見られるのも悪くありませんわ」
エリナリーゼは目を輝かせて肉を頬張っている。相変わらずだ。
「龍神からの課題……?」
怪訝な顔をするルークに、私は苦笑して答えた。
「完膚なきまでに負けましてね。殺さない対価として『呪いの調査』、あとは『魔力の回復に関する研究』という宿題を課されているのです。ですので、私は自由に動ける身でありたいと考えています。もちろん、有事の際にはご協力します」
アリエル王女は初めからこの展開を予測していたのだろう、満足げに頷いた。
「分かりましたわ。では、シルフィエット様、エリナリーゼ様。私の背中をお預けします」
こうして、私は自らの研究――ナナホシとの接触と、研究に全力を投入できる環境を整えた。
翌日。私は特別生の中でも孤独な異端として知られるサイレント・セブンスター――ナナホシの研究室を訪ねた。
「待ちくたびれたわよ、ルーデウス」
研究室に籠もっていた彼女は、焦燥を隠そうともせずに私を迎えた。会話を効率化するため、私たちはこの世界の言葉ではなく、ナナホシの故郷の言語である日本語で対話を開始する。
ナナホシは元の世界からいきなりこちらに転移してしまったらしい。元の世界に帰るための召喚魔術の研究について助力してほしいそうだ。
「それで、現在の進捗は?」
「最悪よ。理論値は合っているはずなのに、試す魔力が足りないの。とりあえず、これらの魔法陣に片っ端から魔力を込めて頂戴」
ナナホシが提示した、羊皮紙にびっしりと書き連ねられた膨大な魔法陣に一枚ずつ魔力を込める。
ナナホシはその結果を具にメモしていく。
召喚魔術については学ぶ機会がなかった。魔力を込めつつ、それに込められている意味を解釈し、召喚魔術の理論を学んでいく。
幸いといってはなんだが、かなりの数の魔法陣が用意されている。三十枚を超えたころには、大体の内容が読み取れるようになっていた。
「……なるほど。ナナホシ、この設計は根本的な欠陥がある」
「なっ……!何がよ。私はこれでもちゃんと調べた基礎を応用して必死に計算して……!」
「魔法陣が二次元の平面に限定されているせいで、記述できる変数が圧倒的に足りていない。これでは座標固定には不十分だ。このままだと情報の書き込み密度が限界に達して行き詰まるだろう。……なぜ、多層化をさせていない?」
「多層化……?魔法陣を重ねるなんて、そんなことできるの?」
「きちんと同期させれば可能だ。魔法陣を三次元の『回路図』として捉えれば、話は簡単、見ていろ」
私は右手を出し、彼女の目の前で三層の
それらは独立して高速回転しながら、一つの立体的な三次元構造体として完全に調和し、金色の光を放っている。
「……嘘でしょ。媒体もなしに、空中に魔法陣を構成するなんて。しかもこの密度……」
「これにお前の書いた召喚術式を流し込む……起動しても良いか?」
ナナホシが、少し震えながら頷く。
了承は得た、魔力を接続する。
パチッ、という空間が弾ける音と共に、魔法陣の中央に小さな歪みが生じた。
直後、そこからコロコロと――一個の『ペットボトルの蓋』が転がり落ちた。
「……成功だわ。私の実験じゃ動かなかった回路が、こんなにも簡単に……!?」
ナナホシの瞳に、絶望ではない、初めての希望の光が宿るのを見た。彼女はこの理論を元に、次なる魔法陣の構築を開始した。
「……ルーデウス。どうして、こんなに協力してくれるの?あなたにとって、私を元の世界に帰す理由なんて、ないはずでしょう」
唐突な問いに、私は少し考えてから答えた。
「単純な好奇心だ。異世界間の召喚理論を解明できれば、それは私自身の存在――『記憶』の由来を理解する手掛かりにもなるかもしれない。……それに」
「それに?」
「同じ世界の言葉を話せる相手と、こうして専門的な議論ができるのは、単純に楽しいからな」
ナナホシは意外そうに目を瞬かせ、それから小さく噴き出した。
「……変な奴。でも、悪い気はしないわ」
魔法大学に入学して、しばらくの時が流れた。
学園の図書館は宝の山だった。私は片っ端から資料を解析し、独学では限界のあった解毒魔術、治癒魔術、結界魔術の三系統すべてにおいて、上級まで習得した。治癒魔術については修練場の魔法陣も翻訳済みなので、聖級まで使えるようになった。
ナナホシの研究室の隣に、私は自身の拠点を構えた。オルステッドの名を出せば、大学側は驚くほどスムーズに便宜を図ってくれた。
隣接してザノバ、クリフの研究室も並び、そこは一種の「特待生ギルド」のような様相を呈していた。
アリエル王女は生徒会に入って早々に生徒会長に就任し、学園の政治的地位を完全に固めていた。
ザノバは人形作りに没頭する傍ら、私のアドバイスでジュリエットという名の奴隷の少女を購入した。私は彼女に、かつてのシルフィと同様の英才教育を施した。
初めて顔を合わせた時、ジュリエットは怯えた目でザノバの後ろに隠れる、痩せ細った奴隷の少女だった。だが、魔力の扱い方を教えるうちに、その瞳には少しずつ生気が戻っていった。
「先生、これで、良い……?」
恐る恐る指先に魔力を灯すジュリエットに、私は頷いてみせた。
「合っている。……あとは、この感覚を忘れないように、毎日少しずつ繰り返すだけだ」
「うん……!ありがと、先生!」
彼女がザノバに駆け寄って、嬉しそうに満面の笑みで報告する様子を見て、この人形好きの王子が、少しずつ彼女を大切にし始めていることが理解できた気がした。
(……結果として、ジュリも無詠唱魔術を習得した。これで、無詠唱は才能ではなく、脳の記憶力が高い時期の訓練によって再現性が得られる技術だと証明できたな)
だが、この技術を広めるのは危険だろう。年若い奴隷が高値でやり取りされるようになる未来になるに違いない。後世に伝えるために書にまとめてはおくが、禁書扱いにしてもらおう。
クリフは驚くべきことに、エリナリーゼと交際を始めていた。
「……ルーデウス。彼女の呪いは、僕が必ず解いてみせる」
彼は真剣だった。エリナリーゼの呪いに関する観測結果を共有し、私は彼と共同研究を進めた。私の部屋に鎮座する大型の可視化装置によって、彼女の体内で増殖する魔力結晶のプロセスがようやく視覚化できるようになったのだ。
「見てくれ、ルーデウス。この結晶の成長パターン、明らかに月の満ち欠けと同期している」
クリフが興奮気味に観測結果の紙束を突き出してくる。
「……面白い。魔力結晶の成長速度と天体の運行に相関があるとすれば、呪いの根本原理は魔力の外部同調にあるのかもしれない」
「僕は、こういう地道な検証作業は苦手だと思っていたんだが……お前と話していると、退屈しない」
そう言って、クリフは珍しく素直に笑った。
部屋の隅では、エリナリーゼが「二人とも、休憩なさいな」と紅茶を差し出しながら、どこか嬉しそうに私たちの様子を眺めていた。
リニアとプルセナは、初日の制裁以来、私を完全にボスと認めていた。
「ボス、あちしたちに従わない奴らを全員あのビリビリで焼いてほしいニャ」
「ボス、お肉。お肉が食べたいの」
彼女らには「極力争いを起こすな」と命じ、表向きは平穏な日々が過ぎていった。
ある日。いつものように研究室でデータの整理をしていると、ザノバとクリフが窓の外を指差した。
「師匠、研究棟の入り口が大変なことになっておりますぞ」
窓の外を見ると、そこには数十名の獣族の学生たちが群れをなし、殺気立った様子でこちらを睨みつけていた。
「……ああ。獣族の発情期か。目的はリニアとプルセナだろう。彼女たちのボスはルーデウスだと認識されている。ルーデウスを倒して所有権を奪おうと押し寄せているのだろうな」
クリフの解説を聞いて、思わずげんなりしてしまう。
「……なぜ私が獣族の生殖本能に付き合わねばならない。……リニアとプルセナに押し付けられたな」
一人の教師が研究室に訪ねてくる。
「先生、どうかされましたか?」
「どうもこうも、ございませんわ!!」
先生はこの状況に怒っているらしい。
「困った時期がまた来たものです。とはいえ、風習と生殖に関わることなので、学校側で大々的に禁止することはできません!!もどかしい限りです!!」
先生側も困っているようだ。まぁ、これだけ押し寄せられれば他の学生への影響も出るだろう。
「……先生、私に何か用があって訪ねてこられたのでは?」
先生は忘れていたのだろう、そうでした、と言って続ける。
「ルーデウス殿、どうか穏便に……。彼らと決闘を承けないでください。これ以上の騒ぎを起こしてはなりません!」
「無視すると?それが最も非効率な選択ですよ、先生」
私は椅子を立った。
「獣族は序列の生き物だ。リニアとプルセナが卒業するまで毎年この問題が起こりますよ。……ここで絶望的な力の差を見せたほうが、早く静かになるでしょう」
教師の制止を無視し、私は三階の窓から校庭へと垂直降下した。
制圧は一瞬だった。
全方位への『
研究棟の前を埋め尽くしていた獣族たちは、武器を構える暇もなく全身を硬直させ、地面へと転がった。
ん?人族の剣士も混ざっている?……まぁこの場にいるのであれば目的は同じだろう、問題ない。
これでようやく静かになる――そう思った私の前に、一つの巨大な影が悠然と歩いてきた。
「……む?今の魔術、なかなかやるではないか!我が輩の肌が少しピリついたぞ!」
身長三メートル近い、六本の腕を持つ巨漢。
漆黒の肌に筋骨隆々の肉体。岩山のような威圧感を放つその男は、朗々と笑いながら名乗った。
「我が輩は魔王、バーディガーディ!!貴様に、一世一代の決闘を申し込む!!」
――学園中が騒ぎになった。校長や教頭までもが慌てて校庭へ駆けつけてくる。
エリナリーゼが「バーディガーディ!?なぜこんな所に!?」と驚愕している。かつての共に旅したことがあるらしい。
堂々と構える魔王に問う。
「なぜ魔王であるあなたが、一学生の私に決闘を?」
「決まっておる!我が愛しきフィアンセ、キシリカ・キシリスがお主のことを『ラプラスを超える魔力総量を持つバケモノ』と褒めちぎっておってな!我が輩は猛烈に嫉妬したのだ!!」
嫉妬で決闘。短絡的で、あのキシリカ・キシリスとは気が合うだろう。
「……魔力総量が戦闘力に直結するわけではありません。実際、私は二年前、龍神に殺されました」
その言葉に、魔王の気配が劇的に変貌した。
「……龍神だと?オルステッドか?奴と戦って、生きているのか?」
「気まぐれで生かされたに過ぎません」
「その際……貴様は奴に、傷をつけたか?」
「手に小さな火傷と、頬にかすり傷を少々。……私の肉体が耐えきれず、自壊して終わりましたが」
バーディガーディは豪快に笑い、腕を組んだ。
「良い!!龍神に傷をつけた男の全力、我が輩が直に受けてやろう!!」
彼は一つの提案をしてきた。
「こうしよう。一発だけ、貴様の最大最強の奥義を我が輩に放て。我が輩の闘気を貫き、ダメージを与えれば貴様の勝ち。微塵も揺らがねば我が輩の勝ちだ。どうだ?」
私はその提案を、実証実験として合理的であると判断した。
「……分かりました。ですが、これから放つ技は貫通力が極めて高い。後ろの学生たちを避難させてください。巻き込まれれば即死します」
いつの間にかギャラリーに混じっていたアリエル王女が即座に指示を飛ばし、校庭の背後が完全にクリアになる。
魔王の背後には、魔法大学の外壁と遠くの山脈が見えるのみ。
固唾を呑んで見守る観衆の中、ザノバが震える声で呟くのが聞こえた。
「師匠……まさか、本当に魔王を相手取るおつもりか……」
「大丈夫ですよ、ザノバ様。ルディなら」
シルフィが気丈にそう答えるが、その声にも僅かな緊張が滲んでいた。
私は
体内に眠る膨大な魔力を、八層の
密度が高まり、私の身体が重力を無視して数センチ浮き上がる。
「……行きますよ」
『
白い光が、世界を一色に塗り潰した。
Side: シルフィエット
アリエル王女の隣で、私は祈るようにルディを見守っていた。
あんな山のような魔王を相手に、ルディは表情一つ変えずに杖を構えている。
「あの魔法陣は……何かしら?」
アリエル王女が、畏怖を含んだ声で尋ねる。
「ルディが本気を出す時の……。人族の肉体の限界を超えた魔力を使うための、外部演算回路、だそうです」
「シルフィ、あなたも使えるの?」
「……無理です。魔法陣を紙に書く『絵画』だとしたら、ルディがやっているのは、キャンパスを使わずに空中に投げ出したインクの滴を一瞬で繋いで、傑作を完成させるようなもの。……世界でもあれを使えるのはルディくらいでしょう」
その直後だった。
視覚が、情報の処理を拒否した。
光線が放たれたのではない。ルディが魔王に杖を向けた瞬間、すでに魔王の胸には「大穴」が空いていた。
ドォォォォォォォォンッ!!
遅れてやってくる、空間が裂けるような轟音。
白い光の残像は、魔王を貫き、学園の外壁をも易々と貫き、地平線の彼方にある山の斜面を真っ赤に焼き、文字通り貫通していった。
「……うそ……」
アリエル王女が絶句する。これが、龍神オルステッドに傷をつけたルディの魔術。
魔王バーディガーディは、口から血を噴き出しながら「見事だ……」と呟き、仰向けに倒れ伏した。
「……死んだ……の、ですか?」
アリエル王女の問いにエリナリーゼさんが青い顔で答える。
「バーディガーディは不死魔族。……でも、おかしいですわ。あの程度の傷、一瞬で治るはずなのに……再生が始まらない!?」
ルディは眉を寄せ、倒れた魔王に駆け寄った。
傷口を覗き込み、何かを確認すると、おもむろにその大穴へ手を差し込んだ。
ルディが微弱な風魔術で、傷口の表面の焼け焦げた部分を薄く削り取ったのが分かった。
すると、止まっていた再生が、ダムが決壊したかのように一気に始まり、数秒で魔王の巨躯が元通りになった。
「――我が輩、大復活ぅぅぅぅぅッ!!!」
飛び起きた魔王は、周囲が呆気に取られる中、これ以上なく楽しげに叫んだ。
「ここまで死を近くに感じたのは初めてだ!お前の魔術、とんでもないな!我が輩の身体の再生を阻害するとは……まさに不死殺しだ!!」
バーディガーディは、ルディの小さな肩をバシバシと力一杯叩いた。
「貴様の勝ちだ、ルーデウス!!誇れ!我が輩を本気で『殺しかけた』人族としてな!!」
気づけば、ルディは魔王に肩車をされていた。
「勝ったぞぉ……」
やる気のない、めんどくさそうなルディの勝鬨。
周囲の学生たちは、あまりの次元の違いに声を出すことすら忘れ、ただ呆然とその光景を眺めていた。
「ぬぅ、なんとノリの悪い連中よ。我が輩が一発殴れば盛り上がるか?」
そんな物騒なつぶやきが聞こえる。慌てて、校長たちがバーディガーディに駆け寄って収めるよう言葉を尽くしていた。
ルディは先生方に囲まれ、称賛を浴びながらも、めんどくさそうな顔で、研究室の方へと視線を戻していた。
……本当に、ルディはどこまで行ってしまうんだろう。
そんな不安がよぎるたび、私は自分にそう言い聞かせる。どこまで行っても、隣を歩き続けられるように、私も強くなろう、と。
Side: ゼニス
ノルンとアイシャが生まれてから、目が回るような忙しさだったけれど、ようやく落ち着いてきたわ。
子どもに手がかかることは理解していたつもりだったけれど、まだまだ甘かったみたい。ルディが、異常に手がかからない子だったのよ。普通の子は、こんなに手がかかるものだったんだとようやく分かったわ。
もう二人もそれなりに大きくなって、四六時中目を光らせておく必要はなくなった。忙しさは減ったけれど、少し寂しいわ。
特にアイシャは成長が早いようで、しっかりと家の手伝いをしてる。リーリャに、ルディを思い出すわ、と言ったら、リーリャはルーデウス坊ちゃまはこんなものではありませんでした、と言っていたわね。確かにルディは、もっと幼いころから言葉をしゃべって本を読んで、何なら魔術を使って家事を効率化してたわね……やっぱり特別な子だったんだ、改めてそう思ったわ。
傷だらけで、髪の毛が真っ白になってしまったルディを思い出すと、心配で胸が締め付けられそうになる。でも、ルディは龍神様から仰せつかった仕事と、サウロス様を助けるために既に旅立ってしまった。男の子はみんなそんなものなのかしら……ノルンとアイシャにはなるべく長く家にいてほしいわ。
リーリャが、このブエナ村に旅商人が来るという話を拾ってきた。ミリスと比べてもロアと比べても田舎なこの場所では、とても重要なイベントだわ。
リーリャと一緒に買う物を相談する。とにかく、布は絶対必要だわ。ノルンもアイシャもどんどん大きくなるんだもの、あればあるほど良い。せっかくの女の子なんだもの。いっぱいおしゃれしてあげたいわ。
パウロにも相談したかったのだけど……今日は出張でいない。
最近は出張が多くなっているの。子どもが手がかからなくなってきたのもそうだけど、王都でルディが暴れているのが原因みたい。最近は『雷鳴のルーデウス』なんて呼ばれてる。誇らしいけど、やっぱり心配だわ。シルフィちゃんも振り回されていないといいのだけれど。ルディが有名になって、その父としてパウロも有名になったの。だから、強い魔物の討伐なんかには呼ばれるようになっていた。こちらも心配だけど、ルディほどじゃない。だって、パウロだもの、きっと大丈夫よ。
リーリャと一緒に、旅商人から買ったいくつもの商品が入った木箱を家に運ぶ。こういうときは男手が欲しくなるわ。ちょっと買いすぎちゃったかしら……時間はあるから、後でじっくり整理しましょ、とリーリャにいう。リーリャも疲れたのか、了承してくれた。危ないものもあるかもしれないから、ノルンとアイシャが触れないように夫婦の寝室に木箱を仮置きした。
蓋を開けて、戦利品を改めて確認する。ほとんどが布や服だ。選別は骨が折れる作業になりそうね……。
ふと、小さな木箱が紛れていることに気づく。
間違えて商品を入れてしまったのかしら……あの旅商人も、こんな田舎でこれだけの売買があると思っていなかったのでしょう。慌てて商品を木箱に詰めていたものね。高級な品物じゃなければ良いのだけれど……。
その木箱を開けて中身を確認する。
中身は、怪しげに輝く魔力鉱石だった。
こんな貴重な物がなぜ…………
私はそれにゆっくりと手を触れた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
魔法大学でのひと時でした。この一話だけで、数か月経過しています。
『不死殺し』については独自設定です。
例の
ちなみに、獣族に混じっていた人族はニナです。