無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
重厚なドアノッカーが、静かなシャリーアの街並みに響いた。木製の枠にわずかな軋みが走る。力加減を間違ってしまったようだ。
以前の私であれば指先の力加減など意識するまでもなかったが、今の身体は出力特性そのものが違う。まだ竜の膂力に慣れないのだ。指一本の握力が、かつての人族の全力を優に凌駕している。まるで工作機械の初期キャリブレーションを済ませないまま本番の生産ラインに投入されたようなものだ。
扉を開けたパウロは、私の姿を捉えた瞬間に彫像のように固まり、次の瞬間には、糸が切れた操り人形のようにその場にへたり込んだ。呼吸が止まっているのが、研ぎ澄まされた感覚でもわかる。
パウロが放心している間にアイシャが弾丸のように飛びついてくる。怪我しないよう、優しく受け止めた。
「……ルディ、……嘘だろ、……本当、……にお前……なのか?」
「……ただ、……いま、……父、さん」
まだ負荷が残るぎこちない声が漏れる。喉の奥で信号が渋滞し、音節ひとつひとつを手動で押し出しているような感覚だった。パウロは、私の右腕――エメラルドグリーンの硬質な鱗に覆われた、人間とは明らかに異なるその腕を、震える手で恐る恐る掴んだ。
「……あ、ああ……。温かい……。夢じゃねえ……本物の、ルディだ……!!」
パウロは私の胸に顔を埋め、人目も憚らず子供のように声を上げて泣いた。その振動が、鱗越しにも伝わってくる。
その声を聞きつけ、リーリャ、シルフィが玄関になだれ込んできた。
変わり果てた私の姿を見て、一様に息を呑む。硬質化した肌、紫の縦長の瞳孔、黒い鉤爪――人族の感覚では「異形」以外の分類ラベルを貼りようがないはずだ。けれど、生きて戻ったという揺るぎない事実が、生物としての恐怖を上書きしたのだろう。危険物として認識すべき対象を、家族という上位のラベルが塗り替えていく。その光景は、私が知るどんな魔術理論よりも不思議に思えた。
「ルディ!おかえり!おかえりなさい……ッ!!」
シルフィが、リーリャが、私の身体を壊さんばかりの勢いで抱きしめてきた。
(……鱗の硬度が彼女たちの肌を傷つけていないか?爪を立てないように気をつけないと……この身体の出力荷重をまだ正確に把握できていない。全出力の一割にも満たない筈だが、それでも人族の骨格には過剰だろう)
抱きしめ返したかったが、私は心の中で自らを律した。腕を大きく開くことすら、今の私には制御が必要な行為だった。隣でロキシーが、申し訳なさそうに、けれど安堵の混じった表情で立ち尽くしているのが見えた。彼女もまた、この再会の光景に何某かの責任を感じているのだろう。
「ノルンちゃんを呼んでくる!」
シルフィが涙を袖で拭い、風魔術による加速で文字通り弾丸のように飛び出していった。
その間、パウロは後方に控えていたエリナリーゼとタルハンドにも声をかけた。
「二人とも……息子を救ってくれて、本当に……ありがとう。……用意していた金はすべて渡すつもりだ。取っておいてくれ」
「ハッ、パウロ。水臭いことを言うな」
タルハンドが、背負っていた巨大な袋を床に置いた。ずしり、という重量感のある音が響く。
「迷宮の主の核から得た、最高純度の魔力結晶だ。これ一つで街が買えるほどの価値がある。お前が用意する報酬など、端金に過ぎんよ」
袋の中から覗く人頭ほどもある巨大な結晶の輝きに、パウロは度肝を抜かれたようだった。
タルハンドは「久しぶりにたらふく酒が飲める。この街の酒を飲み干してくるわい」と豪快に笑い、エリナリーゼは「クリフに会いに行きますわ。……シルフィ、明日、ロキシーのことについて詳しく話しましょうね」と、意味深な微笑みを残して去っていった。その視線の動かし方だけで、彼女がすでに大方の状況を把握していることが窺えた。さすがは経験豊富な女傑というべきか。
やがて、シルフィに抱えられたノルンが、空から降り立つように駆け込んできた。
「兄さん!!」
彼女は勢いよく私に飛びついた。私は彼女を抱き締めようとしたが、鋭利に発達した黒い爪が彼女の背中を裂いてしまわないかという恐怖が勝り、不自然に腕を浮かせることしかできなかった。まるで、精密機器の梱包作業員が壊れ物を前に手を出しかねているような格好だっただろう。
(……今の私の身体は、親愛を示すにも出力制限が必要か。不便なものだ。愛情という最もシンプルな入力に対して、これほど複雑な出力制御を要求されるとは、設計者の意図を疑いたくなる。まぁこの身体の設計者は私なのだが)
リビングに集まり、状況説明の場を設けた。
私はロキシーに、
ミグルド族であるロキシーのみが最適に扱えるこの魔術具があれば、彼女は私の意思を受信できる。ちなみに彼女はこの魔術具を渡された時、涙を流しながら、複雑な表情をしていた。
「……ルディの喉は、まだ負荷が残っていて、スムーズな会話が難しいです。私が彼の
ロキシーが通訳となり、迷宮最深部での
私が
その「人族としての限界突破」による再起動の代償として、今の異形があること。
生体としての設計思想そのものを書き換えるような、後戻りのできない改修だったこと。
パウロは私の鱗の付いた腕を痛ましそうに、けれど誇らしそうに見つめていた。
「……お前のことだ、俺には理解できねえ理屈で生き残ると思ってたよ。……生きて帰ってきてくれた。それだけで、俺には十分すぎるほどだ」
その夜、ロキシーもこの家に泊まることになった。
だが、私と彼女の間に流れる、単なる「師弟」とは言い難い濃密な空気感。
ノルンが、それを敏感に察知して疑いの目を向けてきた。彼女の観察眼は、私が思っている以上に鋭敏らしい。
「……兄さん。ロキシーさんと、何かあったの?」
説明しようとするが、言葉が詰まる。ロキシーも顔を赤くして俯いた。
その「ただならぬ気配」に、パウロとリーリャの表情が引き締まった。
「……ルディ。明日、エリナリーゼも呼んで、じっくり話を聞かせてもらうぞ。……いいな?」
パウロの低い声には、確かな父親としての威厳が混ざっていた。逃げ場のない詰問の予感に、私は喉の奥で信号処理を止めるしかなかった。
お風呂の時間。
今の私の身体をどう洗うべきか。この十本の凶悪な爪で自分の皮膚を傷つけずに済むか。指先の力加減、水流の抵抗、鱗の隙間に入り込む石鹸の泡――洗浄というごく単純な作業一つとっても、検討すべきパラメータが以前とは桁違いに増えている。
……まぁ多少傷ついてもすぐに治癒するか。お風呂場を血で汚すことには気が引けるが……。脱衣所で一人、考えていると、ドアが遠慮なく開け放たれた。
「お兄ちゃん!背中流してあげる!」
アイシャだった。彼女は躊躇なく脱ぎ捨てると、立ち尽くす私の元へやってきた。
「アイ、シャ……。もう……十歳、すぎ、てる。全、裸……の男、の前に……」
「お兄ちゃんは家族でしょ。それに、その身体の不自由さじゃうまく洗えないよ、遠慮しないで」
有無を言わさぬ効率主義。妹の合理的判断の前では、私の抗議など優先度の低い意見として処理されてしまうらしい。
彼女は私の鱗が張り付いた腕や足、そして以前とは異なる紫色の瞳を、科学者のような冷静さと、妹としての慈愛と、純粋な好奇心が混ざった目で見つめた。まるで新型の実験機材を検分する研究者のようだった。
「……この鱗、周囲の魔力を微弱に吸収してるんだね。……もしかしてこれ、一枚剥がして加工したら、対魔術師用の最高級防具として売れるんじゃない?」
「……お、もしろ、い……。今、度、実験……して、みよう」
冗談を言い合いながらも、彼女は私の新しい身体を「便利な強化パーツ」として受け入れてくれたようだった。その割り切りの早さには、いつも助けられている。
話題は「眼」のことになった。
「……キシ、リカの……魔眼、は、……残った。魂、に……きざ……まれて、いる」
「すごいね!さすが魔界大帝!」
「『
「もうっ!あんまり自分の身体を実験台にしてると、皆が怒るよっ!」
アイシャは私の背中を丁寧に、けれど手加減のない力で洗いながら、そんな軽口を叩いた。湯気の向こうで揺れる彼女の笑顔が、少しだけ張り詰めていた空気を緩めてくれた。
Side: ロキシー
翌日。エリナリーゼさんが、憔悴した夫のクリフさんを伴って現れました。
クリフさんは幽霊のように干からびていましたが、エリナリーゼさんは驚くほど艶やかで、夕べの「呪いの排出」が極めて円滑に行われたことを物語っていました。その対照的な様子に、居合わせた誰もが何も聞かないことにしたようでした。
「さて。本題に入りましょうか」
私とルディの関係。それを打ち明ける場。
エリナリーゼさんは場を支配するように、ノルンとアイシャ、そしてクリフとルディを部屋から追い出しました。
「子供たちにはまだ早すぎますわ。……ルーデウス、あなたもいないほうが話しやすいですわ」
残されたのは、私、パウロさん、リーリャさん、そして寝台に座るゼニスさん。息が詰まるような静寂が部屋を満たします。
私は意を決して、床に膝をつき、深く頭を下げました。
「……パウロさん、リーリャさん。申し訳ありません。……私は、ルディが最も弱り、死を望んでいた隙に、不貞の関係を無理やり結びました」
床板の木目を見つめながら、私はただ処罰を待ちました。
パウロさんたちが息を呑む中、エリナリーゼさんが冷徹に、けれど温かく事実を補完します。
「……あの時のルーデウスは、四肢を失い、視力と身体の自由を失った状態に絶望し、自ら命を捨てようとしていました。……ロキシーの捨て身の強硬手段がなければ、彼は間違いなくそのまま衰弱死して果てていましたわ。……これは救命措置だったのですよ」
リーリャさんは複雑な表情を浮かべていましたが、パウロさんはしばらく沈黙した後、私に向かって深く、深く腰を折った。予想もしていなかった反応に、私は顔を上げることさえできませんでした。
「……ロキシー。ありがとう。……俺の息子を、こっちの世界に引き留めてくれて。感謝してもしきれねえ」
「パウロさん……」
「あいつなら、嫁の二人や三人、支えきれる甲斐性はあるはずだ。……ルディが責任を取ると言っているなら、俺は何も言わねえよ。家族が増えるのは、良いことだ」
その豪放な言葉に、緊張で強張っていた私の肩から、ゆっくりと力が抜けていくのがわかりました。
その時。
それまでぼんやりとしていたゼニスさんが、ふらりと立ち上がり、私を優しく抱きしめてくれました。
「……ん……。……ろ……き……し……」
たどたどしい、けれど確かな温もり。彼女もまた、私を家族として認めてくれたようでした。
その時、私は気づきました。
ルディからもらったイヤリング型の魔術具が、これまでとは違う明瞭な信号を受信していることに。ノイズの少ない、驚くほどクリアな受信感度でした。
「(ルディの命があることが一番大事なの。私はミリス教徒だけど、貴方にとても感謝しているわ。ありがとう、ロキシーちゃん)」
それは、紛れもないゼニスさんの「心の声」でした。
「?どうしたんだ、ロキシー?」
「っ! 今、
「なんだと!?」
耳を澄ませます。信号は途切れることなく、むしろ回を追うごとに明瞭になっていくようでした。
「(あらあら、どうしたの? みんな驚いた顔をして)」
穏やかで、慈愛に満ちた、以前のゼニスさんそのままの意識。言葉を発する器官ではなく、まったく別の経路から、彼女の人格がそのまま流れ込んでくる感覚でした。
「もしかして、口で喋れないだけで……情報の出力が『
パウロさんもリーリャさんも、驚きに目を見開きました。
私が通訳となってゼニスさんの言葉を伝えると、二人の目には溢れんばかりの涙が浮かんでいました。
「……ありがとう……!ロキシー……!」
「いえ、これを作ったのはルディですから。あの子のことです、ミグルド族以外でも使える翻訳機を、きっとすぐに作り上げるでしょう。……この受信感度なら、対応できる範囲はさらに広げられるはずです」
お茶を飲んで、気持ちを少し落ち着かせます。芳しい香りが、張り詰めていた場の空気を和らげてくれました。
これからのことを、話さねばなりません。
「……エリスさんには、謝らなければなりません。……殺されても、文句は言えない。そう思っています」
「……ああ。だが、あのお嬢ちゃんは、命の恩人を蔑ろにするほど狭量じゃねぇだろう。……ま、もしもの時はルディに体を張って守らせればいいさ」
パウロさんの言葉には、娘同然に育ててきたエリスさんへの信頼が滲んでいました。
私はパウロさんに誓いました。ルディの身体の調整が終わったら、必ず彼女の元へ向き合いに行くと。その約束が、これから背負うべき責任の重さを、改めて私に自覚させてくれました。
Side: ルーデウス
クリフ、ノルン、アイシャと共に、リハビリを兼ねて魔法大学へ向かった。
異形の四肢での歩行は、慣れてしまえば人族の頃よりも遥かに安定しており、移動速度も体力も跳ね上がっていることに気づく。ゼニスから引き取った負荷についても、竜の身体の容量であれば然程問題ない。だが、慣れは必要だ。関節の可動域、着地時の衝撃吸収率、いずれの数値も旧モデルを大幅に上回っている。まるで基礎スペックそのものが刷新された試作機のようだ。
発声については、まだ練習が必要だ。喉という出力器官は相当に繊細らしい。再構築には、もう少し時間がかかりそうだった。
大学に到着し、まずは生徒会室のアリエル王女の元へ向かう。
私は彼女に、ベガリット大陸での死闘、そしてこの肉体の『仕様変更』について詳細に報告した。
「……なるほど。相変わらず、貴方は私の『常識』という名の物差しを折り続けてくれますわね」
驚愕する王女と、物理的に引いているルーク。だが、彼らは私の戦闘力が以前よりも飛躍的に向上したことを即座に理解し、政治的な価値を再計算しているようだった。その切り替えの早さもまた、王族、貴族としての訓練の賜物なのだろう。
アイシャを紹介すると、アリエル王女はその聡明さに目を細めた。
「あら、可愛らしく、ルーデウスに似て賢そうな妹君ですこと。……ルーク、彼女を将来の事務次官候補としてマークしておきなさい」
「はっ、御意」
ルークが恭しく一礼する横で、アイシャは満更でもなさそうな顔をしていた。
そこへ。
「師匠ォォォォォォォォォッ!!!」
乱入してきたザノバ。彼は私の腕の鱗を見るなり、絶叫した。
「なんと!腕が復活しておられる!あの美しい芸術品を生み出す御手が失われたことを、余は夜な夜な枕を濡らして嘆いておりましたぞ!師匠!その御腕、正確に動かせるのですか!?」
「……調整、中。……まだ、精度が……低い」
私は、練習で作った、少し彫り跡が荒い人形を渡した。指先の力加減がまだ最適化されておらず、細部の造形に粗が残っている代物だ。
「これはこれで味があります!!師匠の新たな境地ですな!!」
ザノバは感涙に咽んでいた。この男の感涙の閾値は、いつになっても私には理解しきれない。その横で、リニアとプルセナが好奇心で私の腕を触り、「痛っ!? 鱗が刃物みたいニャ!」「指が切れたの、お肉で治療してほしいの」と勝手に負傷していた。触るなと忠告する暇もなかった。
「……兄さん。昨日も思いましたが、本当にあきれるほど常識が通じませんね」
後ろで見ていたノルンが、呆れ半分、誇らしさ半分の溜息を吐いた。
最後に、ナナホシの研究室を訪ねた。
私は転移の迷宮で記録した、転移魔方陣を詳細に記したレポートを彼女に手渡した。書籍だと曖昧だった座標系の記述方式や術式の階層構造まで、可能な限り解析しやすいよう整理したつもりだ。
「……これ……解析、すれば。異世界……の、ゲート接続にも……役に立つ……はず」
「ありがとう、ルーデウス。……やはりあなたのすることは、規格外ね……でも、助かるわ」
彼女は不器用な労いの言葉をかけると、真剣な表情で付け加えた。
「そういえば。……龍神オルステッドが、近いうちにまたここへ来るそうよ」
私は右手の鋭い黒爪を、ぎちり、と鳴らして握りしめた。
ちょうど良い。オルステッドに聞きたいことがあったのだ。
家族を傷つけ、母を廃人一歩手前まで追い込んだ、あの不審者――『
奴をこの世界から完全に抹殺する方法を。
これは、感情的な復讐ではない。奴という不確定要素を排除しなければ、私にとって最上級に重要な家族という繋がりの安全が担保できない――ただそれだけの問題だ。
私は龍神に、真っ向から問うことを心に誓った。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
Newルーデウスのお披露目でした。まだまだ調整には時間がかかりそうですね。
次の話には、エリスが出ます。