無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
ロキシーが我が家にやってきてから、早くも一年が過ぎた。
三歳を過ぎた私の日々は、端から見れば奇妙なほどに、私からすれば充実しすぎるほどに忙しく過ぎていく。
朝はリーリャの手伝いから始まり、朝食後はロキシーとの魔術訓練。昼食を挟んで午後は父パウロとの剣術修行。夕食の下準備を済ませ、夜は先生との座学。そして就寝前には、もはや日課を通り越して趣味となった土魔術による人形作りを行う。
時折、パウロやロキシーに村の警護や魔物退治の仕事が入ることもあるが、その際は現場に同行させてもらったり、残った片方の訓練時間を延長したりして、一秒たりとも無駄にしない生活を送っていた。
魔術に関しては、この一年で上級魔術までを完全に習得してしまった。
この世界の魔術は、初級・中級・上級・聖級・王級・帝級・神級の七段階にランク分けされている。教本には中級までしか載っていなかったが、ロキシーの個人授業によって上級の門を叩くことができたのだ。
ロキシーの話では、ラノア魔法大学へ行けば聖級までは学べるが、王級以上は国家機密や個人間の秘匿事項となっており、コネや多額の献金が必要になるという。この保守的な体制が魔術というものの進化を妨げているのではないかと思えてならない。
もっとも、私にとってランクは目安に過ぎないが。
「ルディ、あなたの無詠唱魔術はアレンジの幅が広すぎます。中級魔術にありったけの魔力を注ぎ込めば、威力だけなら既に聖級を凌駕しているでしょう」
ロキシーにそう言わしめるほど、私の魔力出力は規格外に成長していた。
一方で、治癒魔術と結界魔術については高い壁にぶつかっていた。
これらはミリス神聖国が権利を独占しており、その全容を知ることは難しい。ロキシーが知っていた中級治癒と初級結界を学べたのは幸運だったが、ここから先は自分で理屈を解釈し、独自にアレンジしていくしかないだろう。
最近の魔術訓練では、専ら魔導具の研究に打ち込んでいる。
発端は、ロキシーから教わった「魔法陣」の概念だ。
魔力を流すことで特定の効力を発揮する幾何学模様。しかしその多くは失われたロストテクノロジーであり、現代では遺跡の壁画や古のスクロールを書き写した不完全な資料しか残っていない。
私はロキシーが持っていた古い魔術書にあった初級の魔法陣を土台に、その「回路」を現代風……いや、『記憶風』に翻訳する作業に没頭した。
呪文は口頭で唱えて初めて魔術となる。同じ文字を紙に書いても、魔術は発現しない。だが魔法陣は逆だ。魔力を通す特殊な塗料で描いた図形そのものが、魔術として発動する。言わば、魔法陣とは『コンパイラ』だ。魔術の構成要件がすべて可視化される事実に、私は興奮を抑えられなかった。ここ最近は、空いた時間のほとんどを魔法陣の解読に費やしている。
「ルディ、今日の魔術訓練は何をする予定?」
朝食の席で、ゼニスが楽しそうに小首を傾げた。
「魔法陣の実証実験です。今日は理論を詰め直したオリジナルのものを試そうと思います」
「オリジナルの魔法陣……?そんなもの、三歳児の遊びで片付く領域なのか?」
パウロがパンを頬張りながら、半信半疑といった様子で口を挟む。ロキシーが私の代わりに答える。
「普通の魔術師なら一生をかけても無理でしょう。ですが、ルディですから」
「ロキシー先生の教え方が良かったからです。……少し、夜更かしが過ぎてリーリャさんに怒られましたが」
私が苦笑いしながら視線を逸らすと、ゼニスがジト目で微笑んだ。
「昨日も遅くまでカリカリ書いていたものね」
「……試作だけでも三十九回書き直しましたから。その前の理論検証を含めれば、優に百回は超えています」
私の言葉に、パウロとリーリャが「これだから天才(変態)は……」と言わんばかりの呆れ顔を浮かべた。
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Side: ルーデウス
草原の演習場に到着すると、私は早速準備に取り掛かった。
まずは土魔術で成分を抽出し、透明度の高い円形の板ガラスを成形する。
羊皮紙に記した精密な設計図を見ながら、極細の魔力の刃でその表面に魔法陣を彫り込んでいく。仕上げに、魔力を通しやすい特殊な塗料を溝の隅々まで流し込んだ。本当はもっと試作を重ねたかったが、この塗料には高価な素材が要る。裕福というほどでもないうちの家計はもちろん、そもそもこんな田舎の村に魔術関連用品を扱う店などあるはずもない。
「準備はいいですか、ロキシー先生」
「ええ。いつでも」
ロキシーと頷き合い、魔方陣に少しずつ魔力を流す。回路が淡く発光し、大気に馴染んでいく。
この魔法陣の機能は、「魔力の視覚化」だ。
魔術とは、生命エネルギーを事象へと変換する現象だ――そう仮説を立てた私は、その逆――事象への干渉を光として再変換する回路を組んだ。仕組みは単純で、魔法陣が持つ魔力から事象への変換を逆転させ、初級火魔術の発光機能だけを切り出して再現しただけだ。
「先生、そこで初級魔術を撃ってみてください」
ロキシーが円形の魔法陣の向こう側に立ち、杖を構える。
彼女が魔術を行使した瞬間、私は魔法陣越しに「それ」を見た。
ロキシーの体内で魔力の源泉が脈打ち、それが血管のような経路を通り、杖の先端へと収束、放出される。光の奔流となって。
「成功だ……!魔力の流れが見える!」
「本当ですか!?私にも見せてください!」
交代して私が魔術を放つと、ロキシーもまた感嘆の声を上げた。
二人で子供のように騒いでいると、庭で素振りをしていたパウロがやってきた。
「なんだ、騒がしいな。その板がそんなにすごいのか?」
「パウロさん、これを見てください。ルディ、もう一度初級魔術を」
私が魔術を放つ。パウロは「ほう、綺麗だな」とぼんやりした感想を述べるにとどまったが、私の目的はそこではなかった。
「父様。その魔法陣の向こうで、全力の素振りを見せてくれませんか?」
「素振り?魔術の実験じゃないのか?」
不思議そうな顔をしながらも、パウロは木剣を構えた。
魔術具越しに彼を観察する。
最初は静かな立ち上がり。だが、パウロが速度を上げ、あの人外の機動を見せ始めた瞬間――。
「……っ!?」
パウロの全身に、魔術行使の際と似た光が溢れ出したのだ。
それは体内を激しく循環し、特に踏み込む足や、剣を握る腕の筋肉を強烈に発光させている。パウロの動きのキレに合わせ、光の密度が爆発的に高まっていく。魔術と異なるのは、その光が身体から放たれるのではなく、体内を循環していることだろうか。
「父様、今の素振りに魔力を混ぜましたか?」
「いや、そんな器用な真似はできん。言っただろう、俺は剣士だ」
三人が沈黙する中、背後から静かな声が響いた。
「……それは『闘気』でしょうね」
いつの間にか、昼食の合図に来たリーリャが立っていた。
「リーリャさん、闘気とは?」
「剣士が長年の修練の果てに、無意識のうちに体内の力を体内に留め、肉体を強化する術です。パウロ様のように一流の剣士は、常にそれを纏っています」
闘気。魔術と同じ魔力を源としながら、内側へ向ける技術。
私が求めていた「身体強化」の正体は、これだったのだ。
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Side: ルーデウス
その日の深夜。
私は午後の訓練での失敗を反芻しながら、キッチンで水を飲んでいた。
パウロの動きをトレースし、魔力を体内に留めようと試みたが、結果は惨敗だった。
魔力は私の意思を裏切るように毛穴から霧散し、無理に留めようとすれば全身に針で刺されたような激痛が走る。
夜の座学でロキシーに相談したが、「魔術師が肉体を強化するのは効率が悪い」という結論しか得られなかった。
「……ルーデウス坊ちゃま。また、思い詰めていらっしゃるのですか?」
背後からリーリャが現れた。
「相談に乗ってください、リーリャさん。私は……剣士としての才覚、闘気を纏う才能が欠けているようなのです」
「認めたくないことでしょうが、そうかもしれません。坊ちゃまの魔力は、外へ放つことに特化しすぎておられるようです」
無表情なリーリャの言葉が、冷徹な事実として突き刺さる。
「闘気なしで戦う術は、ないのでしょうか」
「……どの流派でも、高みを目指すなら闘気は必須です」
その返答に、がっくりと肩を落としてしまう。
パウロ曰く、この世界では一対一の勝負なら圧倒的に剣士が有利だという。魔術師には呪文という、実戦では致命的な隙が常に伴う。闘気で身体を強化した剣士なら、その隙をついて何度でも魔術師を屠れるだろう。しかも魔術師には魔力切れがあるが、剣士の闘気にはそれがないことを今日確かめた。反射神経や動体視力まで底上げする闘気の前では、魔術師は目にも止まらぬ速さで切り刻まれる運命なのかもしれない。事実、世界最強と謳われる七大列強に魔術師はほとんどいないらしい。
……私が深淵を感じた『魔術』とは、そんなものなのだろうか?いや、絶対に何か方法があるはずだ。魔術師の身で、剣士に勝てる方法が……!
「ですが、水神流であれば……その理を究めれば、技量次第で最小限の力で立ち回れるかもしれません」
その言葉に、希望が生まれる。技量で闘気を持つ相手を制する方法、それはきっと私の志にも役に立つはずだ。
「リーリャさんの水神流、見せてもらえませんか?」
私の突拍子もない願いに、彼女は驚いたように眉を動かした。だが、ため息をついて近くの箒を手に取った。
「一度だけですよ」
彼女が動いた。
パウロの暴風のような剣術とは対照的な、水のような滑らかな動き。
一切の無駄を排し、敵の力を利用して制する流れるような型の美しさに、私は息を呑んだ。
「……美しい」
「……何分、ブランクがありますから。詳しくは、パウロ様に習ってください」
わずかに耳たぶを赤くして、リーリャは箒を置いた。
……明日はパウロに、剣神流だけでなく水神流の基礎を乞おう。
そして今夜は、リーリャのあの凛とした姿を忘れないうちに、人形で再現してみよう――そう決めて、私は寝室へと戻った。
お読みいただきありがとうございます。
無詠唱魔術でも、闘気を鍛えた剣士を相手取るのは難しいですよね。原作のルーデウスも特に苦労していた所だと思います。本作では、いかに魔術師が剣士に勝つか、というのもテーマの一つです。魔導鎧ではない解決策を提示できればと考えています。
魔術具作りについては独自解釈です。ナナホシが、ペルギウスの助けもあって異世界転移用のオリジナル魔方陣を開発していた描写を見て、魔術にのめり込んだルーデウスなら作れる物として取り扱っています。
次話は明日投稿します。
引き続きよろしくお願いいたします。