無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
四歳になったばかりのある朝、食卓の空気はいつもより少しだけ張り詰めていた。
「ルディ。今日は午前の魔術訓練を休みにして、俺についてきてくれないか」
パウロがパンを咀嚼する手を止め、真剣な眼差しを向けてきた。早朝、村人から緊急の報せがあったという。村の外れに危険度D級の魔物『ターミネートボア』が出没し、家畜が襲われる被害が出たのだ。
「ターミネートボア……。単体ならD級ですが、E級のアサルトドッグを複数引き連れる習性があります。群れの規模によっては、総合的な危険度はC級まで跳ね上がる、厄介な相手ですね」
ロキシーがそう呟く。
「その通りだ。俺が村の若衆を率いて討伐に向かうが、念のための後方支援がほしい。もちろん、ロキシーもいっしょだ」
ゼニスは「まだ四歳なのよ?」と心配そうに眉を下げたが、パウロは「ルディの実力は俺が一番知っている」と譲らなかった。結局、ロキシーの傍を離れないことを条件に、私も戦場へ赴くことになった。
村の外れには、十数名の村人たちが集まっていた。手には古びた剣や槍、中には農具を武器代わりに握りしめている者もいる。彼らの表情には隠しきれない不安が張り付いていた。
パウロが私を紹介すると、一瞬、場に冷ややかな猜疑心が流れた。
「こんな幼子が、魔術師だと……?」
「パウロさん、本気か?」
だが、パウロが「こいつは治癒魔術が使える」と一言添えた瞬間、村人たちの顔色は一変した。「魔術師様がいるなら安心だ!」「頼みます、坊ちゃま!」と、手のひらを返したような歓声が上がる。現金なものだとは思うが、それだけ彼らにとって治癒の力は救いなのだろう。
私は移動の合間に、懐から「それ」を取り出した。昨夜、深夜までかかって製作した『
以前の大きな板材から、片目に装着するモノクル型まで小型化した。金細工のような緻密な意匠を施したそれは、一見すれば高価なアクセサリーのようにも見える。
「ルディ、それは……?また夜な夜な作っていたのですか」
ロキシーが感心したように、あるいは呆れたように覗き込んできた。
「はい。小型化すれば持ち運びも楽ですし、何より魔力を注ぎ込むほどに感度が上がるよう、回路を多重化したんです。材料費も抑えられて、メリットばかりですよ」
私は魔方陣を試作する上で、どこまで小型化できるかに注力していた。幸い、無詠唱魔術で精密加工できる私は、目視できるレベルなら幾らでも小型化の余地がある。
そのモノクルを装着し、森の深部を見通す。
私の仮説通り、闘気や魔力を持つ生命体は、このレンズを通して鮮やかな光の塊として捉えられる。
「……確認しました。父様、こちらの方角に巨大な光の核が一つ、それを取り巻く小さな光が十五……いえ、十七あります。光の動きからして、アサルトドッグを従えたターミネートボアではないかと思います」
パウロは私の指した方角を一度疑うように見たが、モノクルを借りて覗き込むと、その正確さに目を見開いた。「こりゃあいい。奇襲がかけられるぞ」とニヤリと笑い、パウロは村人たちに指示を飛ばした。
魔物の群れが視界に入る位置まで接近する。
中心に鎮座するターミネートボアは、『記憶』でいうところの軽自動車ほどの巨躯を誇り、凶悪な牙を鳴らしていた。周囲を囲むアサルトドッグたちは、獲物を探して鼻を鳴らしている。
「ロキシー先生、アサルトドッグの数が多いです。村人たちを近づける前に、広域魔術で削りましょう」
「分かりました。では、私は上から氷で攻めましょうか」
「承知しました。私は下から行きます。父様、合図を」
「……行くぞッ!」
パウロの闘気が爆発し、彼が弾丸のような速さでターミネートボアの懐へ飛び込んだ。
同時に、私が魔術を起動する。
『
私の無詠唱魔術が、地面を突き破る。
村人たちの前に鋭利な氷の柱を次々と隆起させ、物理的な防壁を作りつつ、逃げ惑うアサルトドッグたちを地中から串刺しにした。
直後、空が凍てつく。ロキシー先生の『
パウロの横薙ぎ一閃がボアの巨躯を両断し、討伐は完了した。
あまりに一瞬の出来事に、村人たちは呆然と立ち尽くしていた。だが、やがて勝利を確信すると、「流石はパウロさんだ!」「魔術師様万歳!」と、割れんばかりの称賛の声が草原に響き渡った。
私は少しだけ顔を赤くしながら、隣で誇らしげに胸を張るロキシーと共に、勝利の余韻に浸ったのだった。
________________________________________
Side: ルーデウス
魔物討伐の熱狂から数日が経った朝。今度はロキシーから、意外な仕事の相談を受けた。
「ルディ、先日の大雨で村の水路がいくつか破損してしまったそうです。パウロさんからも、村の復旧に協力してほしいと言われました」
私は二つ返事で了承し、ロキシーと共に被害の大きい現場へと向かった。
そこには、泥にまみれて水路の泥を掻き出している村人たちがいた。ロキシーは彼らと顔なじみのようで、「先生、助かるよ!」と声をかけられている。私は彼女の弟子として挨拶を済ませ、壊れた水路を検分した。
水路の石組みは脆く崩れ、堆積した土砂が流れを塞いでいた。
「ルディ、私はゴミの除去を行います。あなたは土魔術で水路の修復をお願いできますか?」
「分かりました、先生」
私は『記憶』の中にある土木技術を参照する。
ただ硬い石の壁を作るだけでは、次の大雨でまた割れてしまうだろう。丈夫な建築物には、強固な『芯』と『しなやかさ』が必要だ。
私は土魔術で地中の鉄成分を抽出し、網目状の「鉄筋」のような構造を水路の内部に生成した。それを土の層で厚く覆い、表面を魔力で焼き固めて滑らかに仕上げる。
「……よし、これで当分は壊れないはずです」
一瞬で強固なコンクリート構造体さながらの水路が完成する。
村人たちからは「おおっ、一瞬で元通りだ!」「いや、前より立派じゃないか!」と、驚愕と歓喜の声が上がった。
その後も、昼食を挟んで村のあちこちを回り、破損した家屋の基礎や石壁を修復して回った。気づけば陽は大きく傾き、空は美しい茜色に染まっていた。
「……ふふ、ルディ。すっかり村の有名人ですね」
「魔術を誰かの役に立てるのは、悪い気分じゃありませんね」
ロキシーとそんな会話をしながら帰路についていると、不意に不穏な声が聞こえてきた。
「魔族は村に入るなよー!」
「あっち行けよ、バケモノ!」
小高い丘の陰で、数人の子供たちが、フードを深く被った小さな子供を追い回していた。手近な地面から泥玉を作り、執拗に投げつけている。
ロキシーの顔が、一瞬で険しくなった。彼女自身、魔族としての差別に苦しんできた過去があるのだろう。今にも助けに入ろうとする彼女を制し、私は一歩前に出た。
魔術を使って追い払うのは容易だ。だが、先日の魔物討伐を思い出す。
私の魔術で次々に串刺しにされるアサルトドッグたち。あの威力は、既に人族の子供が耐えられるレベルを遥かに超えてしまっているだろう。手加減を誤れば、相手を殺してしまう。そして、手加減できるほど人に向かって魔術を放ったことがないのも事実だ。
私は無詠唱で『
「そこまでだ」
飛んできた泥玉を、道端に落ちていた枝で流れるように叩き落とした。
最近、私はパウロとリーリャにお願いして水神流の基礎を学んでいる。
パウロは「男なら剣神流で攻めろ!」とうるさかったが、私はリーリャの舞うような防御の美しさに惚れ込み、パウロを「父様の水神流もリーリャさんに負けないくらい凄いです!」と持ち上げることで、水神流中心の指導を勝ち取ったのだ。魔術師を相手取る剣士の視点に立てば、剣神流よりも防御に長けた水神流の使い手のほうが、よほど厄介な相手のはずだから。
「な、なんだお前!どけよ!」
子供たちが怯む中、背後からロキシーが凛とした声を張り上げた。
「弱い者いじめはやめなさい!恥ずかしくないのですか!」
「うわあ、魔族の親玉が来たぞ!逃げろ!」
私の身のこなしと、ロキシーの迫力に圧された子供たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ帰った。ロキシーは「親玉とは失礼な……」と本気で憤慨している。
私は後ろで震えていた子供に声をかけた。
「大丈夫?怪我はない?」
返事はない。子供の服は泥だらけで、フードからは髪が覗いていた。
「少し、綺麗にしようか」
私は混合魔術を使い、温水と温風をやさしく纏わせた。
泥汚れを洗い流し、ふわふわの風で乾燥させる。
顔を上げたその子供の髪は、夕陽を浴びて、宝石のエメラルドのように鮮やかに輝いていた。
________________________________________
Side: ルーデウス
「……あ」
目の前の子供の髪色に、私は思わず息を呑んだ。
背後から近づいてきたロキシーも、その鮮やかな緑色を見て、ぴたりと足を止めた。
以前、ロキシーの講義で聞いた『スペルド族』の特徴――。
しかし、よく見ればその子の額に赤い宝石はない。ロキシーもそれに気づいたのか、ホッとしたように肩の力を抜いた。
「大変だったね。……髪の色がスペルド族に似ているだけで、いじめられていたのかな」
私がやさしく問いかけると、その子は不安げに大きな瞳を揺らした。
「……君は、怖くないの?」
「怖くないよ。私の先生も魔族だからね」
私は隣に立つロキシーを紹介した。その子はロキシーの透き通るような青い髪をじっと見つめ、少しだけ安心したように表情を和らげた。
子供が持っていたバスケットの中身を確認すると、親に頼まれたのだろうパンが、先ほどの泥玉のせいで汚れてしまっていた。
「これじゃ、お家に帰っても困るな。……一度、私の家においで」
私たちはその子を連れて、グレイラット家へと戻った。
玄関ではゼニスとリーリャが迎えてくれたが、見慣れない子供と、私の汚れた服を見て驚愕していた。
「ルディ!喧嘩でもしたの!?」
「いえ、いじめられている子を助けただけです。私の服は魔術で洗えるから大丈夫ですよ」
ロキシーが憤慨した様子で事の顛末を説明すると、ゼニスたちの表情は同情に変わった。
「そんな理由で……。大変だったわね、これ、そのパンの代わりに持っていきなさい」
ゼニスは家にある焼きたてのパンをバスケットに詰め直してくれた。リーリャも黙って子供の服に残ったシミを拭ってくれている。
陽が完全に落ちたので、私とパウロでその子を送り届けることになった。
帰りの道中、その子はポツリと自分の名前を教えてくれた。
「……シルフィエット」
「いい名前だね。私はルーデウス。今度何かあったら、いつでも私を頼ってほしい」
シルフィエット、シルフィは私の魔術が気になったようで、さっきの「体を温かく洗う魔術」を自分も使ってみたいと呟いた。
「私もまだ練習中なんだ。今度、ロキシー先生に一緒に教わることができるか聞いてみる」
そんな約束を交わし、私たちは村の端の方にあるシルフィの家まで送り届けた。
家への帰り道、パウロが隣でニヤニヤしながら私の肩を叩いた。
「ルディ、お前も隅に置けないな。あんな可愛い子を速攻で口説き落とすなんて、さすが俺の息子だ」
「からかわないでください。……でも、シルフィは大人しくていい子ですね。いい友達になれそうです」
「友達、か。……まあ、あんな可愛い子を男の子だと思ってるあたり、お前もまだまだ子供だな」
「えっ」
私は足を止めた。
「……男の子じゃ、ないんですか?」
パウロは腹を抱えて笑い出した。
「ははは!賢いようで抜けてるなぁ、ルディ!どこをどう見たらあの子が男に見えるんだ!」
私は顔が火照るのを感じた。顔立ちは中性的だったし、服装もズボンだったから、てっきり……。
ひとしきり笑った後、パウロは真剣な顔で私に尋ねた。
「ところでルディ。なぜあの子を助ける時、魔術で反撃しなかったんだ。お前の魔術なら、いじめっ子たちを一撃で追い払えただろう?」
「……魔物さえ殺せる私の魔術を、村の子供に向けるのは怖かったんです。手加減の練習もまだ不十分ですし、もし怪我をさせたり、殺してしまったりしたら……」
私は自分の手を見つめた。
「だから、剣術で守るのが一番だと思いました」
パウロは一瞬驚いたように目を見開いたが、やがて優しく私の頭を撫でた。
「……その認識は正しい。力を振るう相手と場所を、お前はちゃんと理解している。……お前が真っ当な男に育ってくれて、俺は嬉しいよ」
普段は能天気な父に見せられた、慈愛に満ちた笑顔。
私は少し照れくさくなって、繋がれたパウロの大きな手を、ぎゅっと握り返したのだった。
お読みいただきありがとうございます。
魔術具を小型化し、『
このルーデウスは庭の外に出れるので、シルフィとの出会いも早まりました。
ロキシーとシルフィが出会い、憤慨したロキシーが家族に説明してくれたので、原作のようなトラブルには発展しませんでした。
1日1話投稿を目指しますが、時間の空きがでたら1日2回投稿します。
Pixivに投稿しているシリーズは完結済みです。加筆・追記前ではありますが、それでも70万字近くあるので、先が気になる方はこちらをどうぞ。
https://www.pixiv.net/novel/series/15825087