無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
先日、私は五歳の誕生日を迎えた。
この世界に生まれて五年。家族に囲まれた祝宴は、『記憶』の中の孤独な誕生日とは比べ物にならないほど温かく、そして盛大なものだった。
プレゼントも豪華だった。父パウロからは、五歳の子供でも扱えるよう重心を調整された、鋭い光沢を放つ真剣を。母ゼニスからは、中級以上の術式が細かく記された、革の匂いも香ばしい立派な魔術書を贈られた。
そして、ロキシーからも特別な贈り物があった。それは、先端に小さな魔力結晶が嵌め込まれた、小振りの杖――ロッドだった。
「……魔術師の師匠は、弟子が初級魔術を習得した際、杖を贈る風習があるのです。ルディ、あなたはもう随分前に初級を終えていますが……これは、私があなたを正式な弟子だと認めた証です」
その言葉が何よりも嬉しかった。このロッドは、単なる道具ではない。ロキシーとの絆の形なのだ。
私はその夜、ロッドを抱きしめるようにして眠りについたほどだ。
しかし、その後。ロキシーから改まった顔で告げられた。
「ルディ。卒業試験を行いましょう。……私があなたに教えられることは、もう、本当に残り僅かになってしまいましたから」
ロキシーの言葉には、寂しさと、教え子の成長を喜ぶ誇らしさが混ざり合っていた。
ちょうどその頃、ロキシーのもとに一通の仕事依頼が届いていた。依頼主は、城塞都市ロアを治める貴族、フィリップ・ボレアス・グレイラット。
私は初耳だったのだが、彼はパウロの従兄弟にあたる人物だという。「うちの家系は貴族なんだ」という事実を今更ながら知り、私は驚きを禁じ得なかった。
「ロアへ行けば、高位の貴族の方々に挨拶をすることもあるでしょう。坊ちゃま、付け焼き刃ではいけません。作法を学びましょう」
リーリャによる、礼儀作法特訓が始まった。驚いたことに、ロキシーも「私は魔族の村で育ちましたから、人間の貴族の作法は不慣れで……」と言い出し、師弟揃ってリーリャの前に正座し、頭の下げ方から歩き方まで厳しく叩き込まれることになった。
ブエナ村からロアまでは、馬車でおよそ六時間から七時間の距離。往復や現地での滞在を含め、三日間の旅路となる。
私は留守中のシルフィが心配で、パウロに何度も念押しをした。
「父様、シルフィのことをお願いします。いじめっ子たちがまた悪さをしないように」
「分かってるって。シルフィの両親にも、いじめっ子の親たちにも、俺がガツンと言ってやったからな。任せておけ!」
パウロは頼もしく胸を叩いた。彼がこれほど真面目な顔をする時は、信じて良いだろう。
私たちはブエナ村を後にし、ロア行きの馬車に乗り込んだ。
最近、私は「魔神語」の勉強に励んでいる。馬車に揺られながら、私はたどたどしい発音で先生に問いかけた。
「(先生、魔術の理論……混合魔術について、もう一度教えてください)」
「(発音が甘いですよ、ルディ。ですが、向上心は素晴らしい。いいでしょう……)」
魔術の議論と魔神語の練習。そんな有意義な時間を過ごすうちに、景色は農村から巨大な城壁を擁する都市へと変わっていった。
昼過ぎ、私たちは城塞都市ロアに到着した。
石畳の道、立ち並ぶ商店、行き交う人々の熱気。ブエナ村とは全く異なる文明の香りに、私の心は躍った。
宿にチェックインするにはまだ早かったため、私たちは商店街を散策することにした。そこで、私は一冊の本に釘付けになった。
『シグの召喚術』
私が喉から手が出るほど欲していた、未知の分野の専門書だ。だが、値札を見た瞬間、私は卒倒しそうになった。
「アスラ金貨、10枚……!?」
『記憶』の感覚で言えば、およそ1000万円。一冊の本が、高級車一台分に相当する。流石に子供の財布(あるいはロキシーの旅費)で買える額ではなく、私は泣く泣く棚に本を戻した。
「……そんな顔をしないでください、ルディ。あのような本は、ラノア魔法大学の図書館なら当たり前のように蔵書されているはずですから」
ロキシーの慰めを聞き、私は改めて「一日も早く魔法大学へ行きたい」と強く胸に刻んだ。
その夜は、ロアの宿に一泊した。
「宿を選ぶ時は、防犯と清潔さ、そして主人の目つきを見なさい。いつかあなたが一人で旅をする時に役立ちます」
旅慣れたロキシーの教えは、どれも実戦的だった。いつかこの世界を旅して、失われた魔術や未知の魔法陣を探すのも悪くない。そんな夢を見ながら、ロアの夜は更けていった。
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Side: ルーデウス
翌朝、私たちは領主ボレアス・グレイラット家の巨大な館へと向かった。
ロキシーも流石に緊張しているようで、何度もローブの裾を整えている。
豪華な広間に通され、しばらく待っていると、重厚な足音と共に二人の男性が入ってきた。
一人は、杖を突き、熊のような巨躯を持つ、気難しそうな初老の男。
もう一人は、パウロと同年代だろうか、茶髪で線の細い、どこか食えない雰囲気を持つ男。
前者がフィットア領主サウロス、後者が依頼主のフィリップだろう。
「ご、ご依頼を受け推参いたしました!水聖級魔術師、ロキシー・ミグルディアです!」
ロキシーが緊張で声を震わせながら挨拶する。私はリーリャの特訓を思い出し、完璧な角度で右手を胸に当てて一礼した。
「その弟子であり、パウロ・グレイラットの長男、ルーデウス・グレイラットと申します」
サウロスが、頭の先からつま先まで、私を舐めるようにじろじろと値踏みしてきた。
「フィットア領主サウロス・ボレアス・グレイラットだッ!!最低限の礼儀は弁えているようだな!ロアへの滞在を許すッ!!」
あまりの爆音に、耳がキーンとなるのを必死に堪える。サウロスは叫ぶだけ叫ぶと、嵐のように去っていった。
残されたフィリップが、軽薄そうな、しかし鋭い眼光を向けて笑う。
「座ってくれ、二人とも。……失礼、あのパウロの息子が、これほど礼儀正しいとは思わなくてね」
彼はパウロをアホな身内として認識しているようで、私は苦笑するしかなかった。
「依頼の内容は把握しているかな?このところ日照りが続いて水源が枯渇しかかっている。水を確保するために、水聖級魔術師の力を借りたい」
「承知しております。私と、弟子のルーデウスの二人で対応します」
「ほう。ルーデウスは見学ではないのかい?」
フィリップの疑念に、ロキシーは誇らしげに胸を張った。
「ルディは、既に水聖級魔術を扱うに相応しい力量を持っています。私が保証します」
「まだ五歳だろう?うちの娘とそう変わらない。その年で……ほう」
フィリップは面白そうに私を見た。
「娘は、同じ年頃の子供に会う機会が少なくてね。今日も君たちのことが気になって、扉の向こうでソワソワしているようだ。呼んでもいいかな?」
拒否する理由はない。頷くと、すぐに扉が開き、一人の少女が入ってきた。
ウェーブがかった真紅の髪。美少女と言って差し支えない容姿だが、その目は猛獣のように勝気だ。
彼女は私の前で仁王立ちになり、ガチンッ!とこれ見よがしに腕を組んで名乗った。
「エリス・ボレアス・グレイラットよッ!!」
その声の大きさと威圧感は、先ほどのサウロスに瓜二つだった。
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Side: ルーデウス
ロキシーと私の自己紹介を終えると、エリスはフィリップの隣に座り、獲物を狙う鷹のような目で私を凝視し始めた。
気まずい沈黙が下りる中、フィリップが実務的な話を切り出す。
「それで、依頼の計画はどうなっている?」
「はい。これから街外れの平原へ移動し、魔術で雨を降らせようと思います」
それを聞いたエリスの目が輝いた。「街の外」「魔術」という言葉に反応したらしい。
「……ねえ、ルーデウス。あなた何歳なの?」
「先日、五歳になりました」
受け答えする私を睨みつけ、エリスは不満げに鼻を鳴らした。
「お父様っ!私より二歳も年下じゃない!なのにこの子、街の外へ行くのよ!私も行きたい!」
わがままが始まった。私とロキシーは困った顔で見合わせたが、フィリップは意外にも乗り気だった。
「……ふむ。街の外の光景を見るのも、教育の一環として良いかもしれないね」
「それならっ!」
「護衛にギレーヌを付ければ問題ないだろう。トーマス、馬車を準備しろ」
フィリップの独断で、お嬢様の同行が決まってしまった。
準備された馬車は、見たこともないほど豪華な貴族仕様だった。
馬車の前で待っていたのは、褐色の肌に獣の耳と尻尾を持つ、背の高い女性だった。屋敷で行ったと同様に、丁寧に名乗る。
「お前がパウロの息子か……。あのアホからこれほど礼儀正しいガキが生まれるとは」
「父をご存知なのですか?」
「ああ。昔、冒険者としてパーティを組んでいた」
それは初耳だった。あの父がこれほど強そうな獣人族の剣士とパーティを組んでいたとは。もっと詳しく聞きたかったが、エリスがそれを許さなかった。
馬車が走り出すと、エリスの質問攻めが始まった。
「ルーデウス、あなた本当に魔術が使えるの?こんなに小さいのに」
「はい、一通りは」
「やってみせなさい!」
私は掌を開き、指先に火、水、風、土の初級魔術を灯して見せた。
「わあ……っ!」
エリスの瞳がキラキラと輝く。一方で、ギレーヌは鋭い眼光を向けた。
「詠唱がないだと?……ロキシーと言ったな、お前が教えたのか?」
「いいえ。ルディは私が家庭教師として来る前からこの調子でした。……私にも無詠唱は使えませんよ」
ギレーヌは絶句した。ロキシーの苦笑いを交えながら、私たちは和やかに(主にエリスの興奮に付き合いながら)目的地の平原へと到着した。
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Side: ルーデウス
草原の真ん中に降り立つ。ロキシーが、教え子を見る厳格な師の顔になった。
「ルディ。あなたにはこれから、水聖級攻撃魔術『
私は頷き、ロキシーからもらったロッドを正しく構えた。
エリスとギレーヌは少し離れた馬車の側で見守っている。私は深く息を吸い、重厚な音節を紡ぎ出した。
「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ――」
呪文を唱えるたび、体内の膨大な魔力が吸い出されていく。
私は『記憶』を呼び起こした。雷雲の発生は科学現象だ。水と風の魔力をただ注ぐだけでなく、大気に極端な温度差を作り、上昇気流を強制的に発生させる。
まず、地表付近に高温多湿の空気の層を土魔術と火魔術の残熱で作り出す。同時に、上空数千メートルには水魔術で氷点下の冷気層を展開する。この温度差こそが全ての起点だ。暖かく軽い空気は上昇し、冷たく重い空気は下降しようとする――対流の原理そのものだ。
上昇する湿った空気は、高度を上げるごとに気圧の低下に伴って断熱膨張し、温度を下げていく。露点に達した瞬間、水蒸気は微小な水滴へと凝結し、それが雲粒となる。ここで重要なのは、水が気体から液体へ相転移する際に『潜熱』を放出するという事実だ。放出された熱は周囲の空気をさらに温め、上昇気流を加速させる。つまり、一度上昇が始まれば、雲は自らの相転移エネルギーを使って自己増殖的に成長していく――正のフィードバックループだ。
私はこの過程を魔力で人為的に誘発し、さらに強制的な上昇気流を注ぎ足すことで、本来なら数十分かかる積乱雲の発達を、一瞬で完了させた。
温度差を広げるほど、気流は加速し、雲は厚みを増していく。雲頂が上空の冷気層まで達し、氷晶と過冷却水滴が混在する領域まで発達すれば、次の段階に移れる。
雷を生むには、静電気を発生させなければならない。雲内部で、軽い氷晶と重い霰が、上昇気流と重力によって激しく擦れ合う。この摩擦――『記憶』でいうところの接触帯電――によって、軽い氷晶は正電荷を、重い霰は負電荷を帯びる。上昇気流に運ばれる氷晶は雲の上部に、落下する霰は雲の下部に溜まり、雲内部に巨大な電位差が生まれる。この電位差が閾値を超えた瞬間、放電――つまり雷が発生する。
私はこの電荷分離のプロセスすら、魔力で強制的に再現していた。氷晶と霰に見立てた微細な氷粒を風魔術で高速衝突させ、擦過による帯電を人工的に作り出す。自然界なら気の遠くなるほどの試行回数が必要な現象を、密度と速度を極限まで高めることで圧縮しているに過ぎない。
初めはその魔力消費量に驚いたが、原理を理解して根本を把握すればぐっと効率が良くなった。無駄な部分――現実の大気ならば風任せ、運任せになる部分を、魔力で直接介入して最短経路で成立させているだけなのだ。
(水聖級魔術とはいうものの、スケールが大きいだけの風と水と火の混合魔術)
「……『
空一面を漆黒の雷雲が覆い尽くした。
バリバリと耳を裂くような雷鳴が響き渡り、エリスが小さく悲鳴を上げてギレーヌにしがみつく。
激しい雨が大地を叩き、土地を潤していく。私はロッドを通して、その巨大な気象現象を支配し続けた。
「……ルディ、合格です」
一時間を待たずして、ロキシーが声をかけた。
「まだ一時間経っていませんが」
「必要ありません。これだけの規模を即座に構築し、制御できれば十分です。……おめでとう。これであなたは、立派な水聖級魔術師です」
雨に濡れた髪をかき上げ、ロキシーは最高の笑顔で私の「卒業」を祝福してくれた。
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Side: ルーデウス
私が魔力で無理やり集めた雲は、自然には散りにくい。最後に魔力操作をして雲を散らすと、空には美しい虹がかかった。
帰りの馬車の中、エリスのテンションは最高潮だった。
「凄かったわ!ルーデウス、あなた、本当は凄いのね!」
「……ありがとうございます。でも先生、あれ、もっとコンパクトに改良できますよね。雷の発生は別の系統の現象として切り分ければ……」
「馬車の中で何を――」
ロキシーの制止を聞くより早く、私は掌の中に『
小さな掌の上で、小さな雨が降り、バチバチと火花のような雷鳴が鳴る。
「えっ、何それ!?」
驚く面々を余所に、私は検証を続ける。
『
目を閉じて、起こりうるアウトプットを想像する。数十秒経って、目を開けてみる。パチパチと光り輝く「雷の塊」だけが手に残っていた。実験は成功だ。
「……これは……」
ギレーヌが絶句し、ロキシーが血相を変えた。
「ルディ!馬車の中でそんな実験をしないでください!感電したらどうするんですか!」
私は慌てて雷を握り潰し、魔力を霧散させた。……明日からじっくりこの魔術を研究しよう。これは剣士に対する魔術師の切り札になる魔術だ。
驚きの余韻が漂う中、ギレーヌが私の手のひらに目を留めた。
「……ルディ。その剣ダコ、修行をしているな?パウロに習っているのか」
「はい。ですが、私には剣の才能がないんです」
私は素直に、闘気が纏えないという悩みを打ち明けた。エリスが不満そうに自分の手と見比べる。
「私の手のほうが柔らかいじゃない!ルーデウス、二歳からやってるなんてズルいわよ!」
「パウロなら剣神流を教え込むはずだが。なぜ水神流に変えた」
ギレーヌの問いに、私は「リーリャさんの動きが美しかったから。あと、相手の剣士は嫌がると思って」と答えた。
「合理的だな」
ギレーヌは頷いた。
「お前が想像している通り、魔術師にとって天敵は距離を詰めてくる剣士だ。剣士から見れば、近接防御に特化した水神流を極めた魔術師など厄介極まりない」
「今度ロアに来たら、私とも剣の修行をしなさい!私が鍛えてあげるわ!」
エリスの強引な誘いに、私は苦笑いで答えるしかなかった。
館に戻ると、サウロスから「今夜は泊まっていけ!」という断り切れない招待を受けた。
サウロスの大声、フィリップの打算的な視線、そしてエリスの興奮。
そんな中でテーブルマナーを完璧にこなさなければならない極限状態の夕食会は、魔術の訓練よりも私を疲弊させた。
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Side: ルーデウス
ブエナ村へ帰り着いた時、私とロキシーは疲れ果てていた。
パウロ、ゼニス、そしてリーリャが総出で迎えてくれた。
「今日は休みだ。よく眠った方が良い」
パウロの言葉に従い、私たちは受け取った多額の報酬を家に置き、文字通り泥のように眠った。
そして数日後。ロキシーが旅立つ時が来た。
「三年間、本当にお世話になりました」
ロキシーはパウロたちに深く頭を下げた。両親から引き止める声もあったが、彼女の決意は固かった。
「私は、ルディを教えていて自分の無力さを知りました。もっと世界を回り、魔術の腕を磨き直したいのです」
……私は、胸にぽっかりと穴が空いたような感覚だった。もっともっと、教えてほしいことがあった。ロキシーと一緒に実験するのが、本当に楽しかった。それが出来なくなるのが、どうしようもなく悲しかった。
別れを受け入れられず、俯く私に、ロキシーが歩み寄った。
「卒業祝いです、ルディ。受け取ってください」
渡されたのは、彼女がいつも身に付けていた、ミグルド族の伝統的なお守りだった。
「……気難しい魔族に出会った時、これを見せて私の名前を出せば、少しくらいは融通してくれるかもしれません」
「先生、貴方がこれをとても大切にしているのは、見ていて分かりました。こんな大切なものを頂いてしまっても良いのですか……?」
「大切なものだからこそ、貴方に持っていてほしいのです」
ロキシーは優しく私を抱きしめた。夜の座学で嗅ぎ慣れた、少し不思議で甘い香りが鼻腔を擽る。
「ラノア魔法大学へ行きなさい。あなたなら、きっと新しい魔術の歴史を作れる。……手紙を書きます。住所が決まったら出すので、その時はあなたの研究の進捗を教えてくださいね」
「……はい!絶対に書きます。先生、私……頑張ります!」
こらえていた涙が溢れ出した。
ロキシーの背中が遠ざかっていく。
私はその姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り続けた。
彼女から与えられた膨大な知識、杖、そしてこのお守り。
私は、ロキシー・ミグルディアという最高の師匠を生涯尊敬し続けることを、青い空に向かって誓ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
独自設定として、水聖級魔術の依頼をフィリップから出させました。
エリスとの出会いも少し早まりました。
家庭教師という立場での出会いではなかったので、原作と比べてマイルドな邂逅となりました。
雷魔術の設定についても独自設定です。
原作のルーデウスは「自然現象」を再現するプロセスを踏んでいるので雷魔術には溜めが必要でしたが、水分子が生み出せるなら電子そのものを直接生み出せるだろう、と解釈しています。
次話も追記終わり次第投稿します。
引き続きよろしくお願いします。