無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
シャリーアの自宅で、私は目を覚ました。
窓の外はまだ暗い。どうやら早く起きすぎたらしい。二度寝を試みようとしたが、意識は既に完全に覚醒しきっていた。仕方なく、私は寝台を離れることにした。
せっかく手に入った早朝の時間だ。有効に使わない手はない。
五龍将の秘宝に関する研究を進めることにした。
ペルギウスとオルステッド、両者の生体データは既に計算を終え、その差異を一覧化してある。だが、このままの生データはいわば未加工のバイナリ言語のようなものだ。それを実用可能な術式――プログラムコードへと変換する作業が、まだ残っている。
データを眺めながら机上で魔法陣の下書きを幾つも書き起こしていく。どうしても誤差の生じる曖昧な部分は、これまでの経験則で補完するしかない。
十枚ほどの下書きが積み上がった頃、外から足音が聞こえてきた。この時間、この足取りとなれば、エリスとアルスだろう。朝の鍛錬の時間だ。
自宅裏手、グレイラット道場の鍛錬場へと足を運ぶ。
「おはよう、エリス、アルス」
「おはよう、ルーデウス」
「……は……よう、とうさま」
アルスはまだ眠気が抜けきっていないのか、小さな拳で目をこすっている。それでも律儀に挨拶を返してくれるその律儀さは、誰に似たのだろうか。
皆で素振りを始める。エリスとアルスは剣神流、私は水神流だ。今日は木刀ではなく、木槍を手に取った。イゾルデの流麗な太刀捌きと、ルイジェルドの合理性を重視した動きを脳裏に思い描きながら、自身の型を最適化していく。
しばらくすると、パウロとノルンも道場に姿を見せた。朝の鍛錬はいつしかグレイラット家の習慣として定着している。パウロはアルスの傍らで剣神流の素振りを、ノルンは私の近くで水神流の素振りを行う。
パウロは嬉しそうにアルスへ手ほどきをしていた。おかげでアルスもようやく目が覚めてきたようで、小さな両手で子供用の木刀を一生懸命に振っている。その姿はなんとも微笑ましい。
十分に型を確認し終えたところで、軽い打ち合いの稽古に移る。エリスと私、ノルンとパウロという組み合わせだ。アルスはまだ見学に徹している。
最初は軽い牽制の応酬だったものが、次第に激しさを増していく。
私は槍のリーチを活かして牽制しつつ、カウンターの機会を窺う。エリスの動きは、純粋な剣神流というよりも、その場の状況に応じて柔軟に形を変える独特なものだ。北神流の要素もいつの間にか吸収しているらしい。さしずめ、剣神流狂犬派とでも呼ぶべきか。
その勢いに、私の防御も次第に捌ききれなくなってくる。最終的に、私は槍ではなく硬質な鱗を持つ腕で受け止め、返す槍をエリスの喉元へと突きつけた。
木刀だったからこそこの程度で済んだが、これが真剣であれば私の首は腕ごと胴から離れていただろう。
「わぁっ!すごい、すごい!とおさまも、かあさまもすごい!」
アルスが興奮した様子で駆け寄ってきて、自分もやりたいと言い出した。ノルンとの打ち合いを終えて見学していたパウロが、豪快に笑って応じる。
「よぉし、かかってこい!」
「いくよー!」
アルスは嬉しそうに木刀を振るった。パウロの様子にも、しっかりと手加減をしている余裕が見て取れる。道場での教育を通じて、彼の指導力もまた着実に成長しているようだった。
その間、ノルンから相談を受けた。カウンターの際の重心移動がどうも上手く繋がらないのだという。
実際に彼女の型を見せてもらうと、重心の切り替えが早すぎることに気づいた。
「兄さんの型を見ていたので、これくらいの速度感なのかと思っていました」
「ああ、私の動きにはルイジェルドさんの癖も混ざっているからね。イゾルデ殿の動きと比較すると、本来の水神流はもっとどっしりと構えるものなんだ」
そう説明すると、エリスが耳ざとく反応した。
「……ちょっと、いつイゾルデと会ったのよ?」
詰め寄ってくるエリスに、私は正直にアスラ王国滞在中に修行をつけてもらった経緯を話した。だが、それだけの情報では満足できなかったのか、彼女はさらに具体的な内容を聞き出そうと詰め寄ってくる。
「旦那様ーっ、ご飯の準備ができましたよーっ!」
そこへ、アイシャの声が響いた。おかげで稽古とエリスからの尋問は、一時中断となった。
「……この話、後でちゃんと聞かせてもらうから」
エリスの言葉に、私は色々と覚悟をしておいた方が良さそうだと密かに感じた。
「ルディ!あれをやってくれ!」
パウロが声をかけてくる。あれとは洗浄の魔術のことだろう。確かに稽古を終えた我々の身体は汗だくだ。家に戻る前に洗い流しておいた方がいいだろう。
パウロがアルスを抱え上げ、皆がその周囲へと集まる。私は水魔術を発動し、まとめて汗を洗い流した。柔らかな水の奔流に包まれ、アルスは無邪気にはしゃいでいる。
すっきりと綺麗になった身体で、私たちは家へと戻った。
朝食の前に子供部屋で赤子たちの様子を見る。エリスも一緒だ。
部屋にはシルフィとルーシーの姿があった。
「おはよう、ルディ」
「おはよう」
シルフィはジークハルトを大切そうに抱いており、その傍らにルーシーが幸せそうに寄り添っている。きっと良いお姉ちゃんになるだろう。私はルーシーの頭を撫でた。ルーシーは嬉しそうに目を細めている。
エリスはクリスティーナに乳を与えていた。ごくごくと勢いよく飲んでいたクリスティーナだったが、飲みすぎて苦しくなったのか、突然泣き出してしまった。エリスがあやすものの、なかなか泣き止まず困り顔になる。
近くにいたアイシャが、私に『魔神鎧』を手早く着せてくれた。龍聖闘気を纏った『魔神鎧』であれば、この硬質な身体でも赤子を傷つけることなく抱き上げられる。
エリスからクリスティーナを受け取り、抱っこしたまま背中を優しくとんとんと叩いてやる。しばらくすると、けぷ、という可愛らしいげっぷと共に、クリスティーナは落ち着きを取り戻した。
「ぱちぱち」
ルーシーが小さな手で拍手をしてくれる。
「ありがとう、ルーデウス」
エリスが少し照れくさそうに礼を言った。
そこへ部屋を覗きにきたリーリャが、朝食が冷める前にどうぞと声をかけてくる。侍女にクリスティーナを預けようとしたが、彼女は『魔神鎧』の生地をしっかりと掴んで離そうとしない。無理に引き剥がせば、また泣き出してしまうだろう。
「……このままでいい」
困り顔のリーリャにそう告げ、私は娘を抱いたままリビングへと向かった。
赤子というのは、なぜこんなにも温かいのだろう。エリス、シルフィ、ルーシーと寄り添いながら廊下を歩くこの時間に、私は静かな幸福を感じていた。
「……私も、旦那様との子が欲しいなぁ」
隣を歩くアイシャが、ぽつりとそんな言葉を漏らしていた。
朝食の場には、既に皆が勢ぞろいしていた。……いや、ララとロキシーの姿が見当たらない。
そう思っていた矢先、聖獣レオに乗ったララがやってきた。どうやら二度寝を試みていたところを、レオが連れ出してくれたらしい。
続いて、ロキシーが現れた。少し寝坊をしてしまったようだ。妊娠中は眠気が絶え間なく襲ってくる上、いざ眠ろうとしても熟睡できないのだという。
「お疲れ様、ロキシー。体調は大丈夫かい?」
「ありがとうございます、ルディ。……ララの時に経験がありますから、大丈夫ですよ」
ロキシーは柔らかく微笑んで答えた。
皆が揃ったところで朝食が始まる。パウロ、エリス、アルスは鍛錬でお腹を空かせたのか、揃って勢いよく食事にがっついている。ノルンも上品な所作を保ちながら、なかなかのスピードで食べ進めていた。ララは半分眠りながら、それでも器用にスプーンを口へと運んでいる。ルーシーは年齢の割には上手に、行儀よく食事をしていた。
「……ルディ、クリスティーナを抱っこしたままなの?」
ゼニスが微笑ましそうに問いかけてくる。
「離してくれなくて」
私は苦笑しながら答えた。アイシャが、私が片手でも食べやすいようにと料理を取り分けてくれる。
朝食を終える頃には、クリスティーナはすっかり寝入っていた。起こさぬよう、私はゆっくりとした動作でリーリャへとその小さな身体を託した。
「今日はどんな予定なの、パウロ?」
ゼニスが問いかける。
「ああ、午前中は道場だ。また新しい門下生が増えてな。午後はラノア王国騎士団に稽古をつけに行く予定だ」
忙しそうにしているのは何よりだ。かつての無職状態の彼を思えば、感慨深いものがある。
「ルディは?」
続けてシルフィが私の予定を尋ねてきた。
「午前中は魔法大学に顔を出すよ。魔法陣に関するレポートをぜひ読みたいという先生がいてね、一緒に本を執筆することになったんだ。……せっかくだから、ノルンとロキシーも一緒に大学へ向かおうと思っている」
ノルンは授業と生徒会の仕事があり、ロキシーは出産休暇の申請のためだ。
「午後はオルステッドのところに顔を出す。エリスとアイシャは午前中から事務所だったな」
エリスは傭兵たちを鍛えるため、アイシャは仕事のためだ。
「シルフィ、留守を頼んでもいいかな」
「うん、任せて!」
シルフィはほころぶような笑顔で応えてくれた。
ラノア魔法大学へ、ロキシーとノルンと共に歩いていく。ロキシーは妊娠中の身だ。転んでは大変だと思い、私は自然と彼女の手を握っていた。
「……ルディは過保護ですね」
ロキシーが照れ笑いを浮かべながら呟く。ノルンはその様子を少し呆れたような目で眺めていた。
道中、ノルンから一つ相談を受けた。六魔連が既に卒業してしまい、代わって『雷神』に挑むにはどうすればいいのかと聞きに来る学生が後を絶たないのだという。
「以前は、六魔連を全員倒せば私に挑戦できるという仕組みだったね。まだ挑もうとする者がいるとは、酔狂なことだ」
「……兄さんの噂は、年々大きくなる一方ですから」
私は少し考え、一つの案を提示した。
「闘技大会形式にしてトーナメントで勝ち残った者と私が戦う、というのはどうだろう。管理も一本化できて楽になるはずだ」
「……いいんですか、兄さん?」
「構わないよ。君の負担を減らすためだ。いくらでも手を貸そう」
ノルンは少し驚いた様子だったが、やがて安堵したように頷いた。
ラノア魔法大学の門をくぐる。
さっそく一人の学生が、私の前に立ちはだかった。
「『雷神』ルーデウス・ボレアス・グレイラット!貴様に決闘を申し込む!」
私が魔法大学に足を運ぶのは稀だと認識されているのだろう、その声に釣られるようにして、十名ほどの学生たちが次々と名乗りを上げた。皆、私に挑みたくて仕方がなかったらしい。
ノルンとロキシーは、そんな学生たちを少し呆れた目で眺めていた。どうやら、この二人にはそれぞれファンクラブなるものが存在し、彼らの一部はその会員であるらしい。
「……そんなクラブがあったとは。……私も入れてもらえるだろうか?」
私が軽い気持ちで尋ねると、ノルンは「兄さん?」と咎めるような視線を寄越し、ロキシーは「ルディだったら大歓迎ですよ」と柔らかく笑って答えた。
さて、この学生たちをどう処理するか。怪我をさせない形で穏便に制圧したい。
ふと、以前から試してみたかった術式を思い出した。獣族の声の魔術、その指向性を極限まで高めたバージョンだ。
私は指で小さな輪を作り、小さく「わん」と声を出した。
それだけで、立ちはだかっていた学生たちが、一斉にその場へと倒れ、気絶した。
「……ど、どうやったんですか、今の?」
ノルンが目を丸くして問いかけてくる。
「パラメトリックスピーカーの要領だよ。高い周波数の超音波に、可聴音の信号を乗せて発信する。空気中を伝わる際の非線形効果を利用すれば、狙ったピンポイントの場所と方向にだけ音を届けることができるんだ」
「……はぁ」
「あの声の魔術は、普通に使うと結構煩いからね。少し工夫してみた」
私の説明に、ロキシーが半ば呆れたような表情を浮かべていた。
先生方との打ち合わせがようやく終わり、私は事務所へと足を向けた。予想以上に白熱した議論だった。
昼食に誘われ、教員向けの食堂で食事を取りながら、魔法陣の情報をどう呪文へと落とし込むかについて意見を交わした。雷魔術を呪文として体系化できれば、原理の理解がなくとも扱えるようになるかもしれない。これは新しい研究テーマとして十分に価値がありそうだ。
事務所に到着すると、エリスが傭兵たちを厳しく叩きのめしている最中だった。私が手を挙げて合図を送ると、一瞬嬉しそうな顔を見せたエリスだったが、次の瞬間にはすぐさま戦闘への意識を取り戻し、傭兵たちを容赦なく蹴散らしていた。
事務所の中に入ると、アイシャとリニア、プルセナの姿があった。
「ボス!」
寄ってくるリニアとプルセナは、二人とも余所行きの装いをしている。
「外で仕事か?」
「はい。シャリーアで一番の商人の
アイシャが答えてくれる。私はリニアとプルセナへと向き直った。
「私の妻であるアイシャを、しっかり守ってやってほしい」
「……まさか妹を娶るとはニャ……」
リニアが感慨深そうに呟く横で、アイシャは少し照れくさそうにしていた。
「次はあちしを娶るといいの」
「プルセナはデブだからあちしにしろニャ!」
「デブとちがうの!ぐらまらすなだけなの!」
二人はいつも通りの喧嘩を始めた。相変わらず賑やかな二人だ。それを横目に、私は改めてアイシャへと視線を戻した。
「頼んだよ」
「まかせて!」
アイシャは自信たっぷりな顔で頷いた。
オルステッドの部屋へと向かう。かの魔力回復装置が設置された部屋だ。改造を重ねて効率を大幅に向上させてからは、更にこの部屋に入り浸るようになった。最近では私が新しい図面を提示するたびに、より詳細な仕様書をせがまれるほどだ。
部屋の前室、秘書室に入る。アイシャの人選で雇い入れた、ファリアスティアというハーフエルフの秘書が一人で黙々と業務をこなしていた。
「オルステッドはいるか?」
「ルーデウス様!……はい、社長は奥にいらっしゃいます」
ファリアスティアは、いまだ少し緊張した面持ちで答えてくれた。
ついでに、私宛に届いている郵便を受け取る。数が多いためこちらへ届けてもらうようにしているのだ。各国から続々と手紙が届く様を見て、いっそ郵便事業自体を『龍の爪』で手がけるのも悪くないかもしれないと考える。現存の郵便の仕組みは、時間がかかりすぎる上に届かないことも珍しくない。転移魔法陣は公には使えないが、手紙だけを送れる簡易魔法陣を作ってみても良いかもしれない。
愛妾の打診などのくだらない内容の郵便はその場で処分し、必要なものだけを懐に収めた。
そして、私はオルステッドの部屋へと足を踏み入れた。
目的は、龍神オルステッドへの報告と今後の戦略会議だ。
「ルーデウスか」
「ただいま戻りました、オルステッド」
銀髪を揺らし、圧倒的な威圧感を纏った男が顔を上げる。
「予定では、次はシーローンと王竜王国へ向かうはずではなかったのか?」
「ええ。ですがその前にミリシオンで発生した不測の事態について、対面で報告させていただきたく」
私はギース・ヌーカディアから届いた手紙を渡し、その内容を一言一句漏らさず伝えた。
彼が
報告を聞き終えたオルステッドの表情に、微かな、けれど確かな「驚愕」が走るのを私は見逃さなかった。何万年というループを繰り返し、世界の全事象を網羅しているはずの彼にとって、これは計算外だったようだ。
「……ギースか。奴はこれまで、俺がいかなる干渉を行おうともその行動を一度も変えたことはなかった。ゆえに、使徒のリストからは完全に除外していたのだが」
オルステッドは自身の記憶を検索するように視線を落とした。
彼がこれまでのループで実行してきた「使徒の特定」は、歴史への介入による反応の差異を観測するものだ。
だが、ギースだけは違ったという。
どのループにおいても、ギースは一貫して冒険者として生き、冒険者として死んだ。殺される寸前であっても、あるいは拷問に近い状況に置かれたとしても、彼は一度も「使徒」としての情報を出力しなかった。
「奴はすべてのパターンにおいて使徒でありながら、それを墓場まで隠し通していたわけか……。これまでの俺は、奴の沈黙を『歴史通り』だと錯覚していた。……道理で勝てないわけだ」
オルステッドは珍しく、落胆の色を滲ませて呟いた。
完璧だと思っていた彼の地図に、最初から致命的な偽情報が紛れ込んでいたのだ。
「しかし、よくやった、ルーデウス。奴をこの段階で炙り出した功績は大きい」
オルステッドはすぐに思考を切り替えた。
彼にとって、この情報は「次」に繋がる勝利の鍵だ。
「奴が
その言葉を聞き、私は心の片隅で静かな違和感を覚えた。
オルステッドにとっての世界は、何度でもやり直しが効くシステムだ。だが、私にとっては違う。
『記憶』を継承し、この肉体で妻を愛し、子供を育てている「私」という個体は、このループにしか存在しない。次の周回で生まれてくるルーデウスが、私と同じ思考回路を持つ保証はどこにもない。そもそも『ルーデウス』が生まれるかも怪しいのだ。
「……ええ。ですが私は、このループで勝たねばなりません。次はありませんから」
私の言葉に、オルステッドは僅かに目を細めて頷いた。
「ミリシオン、アスラ、シャリーア。既にギルドを通じてギースを全世界に指名手配しました。ベガリットや天大陸、魔大陸の奥地までは網が届きにくいでしょうが、奴の行動を狭めることは可能です」
「妥当な判断だ。だが、手紙の内容が真実なら、ギースは正面から貴様を殺しに来る戦力を集めている。奴が声をかけるであろう『駒』を、先んじて無力化、あるいは味方に引き入れる必要があるな」
私は次なる「仲間の獲得、および敵の排除」に関するロードマップを提示した。
五位『死神』ランドルフ。彼を通じて王竜王国へのコネクションを確立する。
その後、魔王アトーフェを正式な戦力として再確認し、列強の下位から順にアプローチをかける。
「次は七位『北神』を考えていますが……オルステッド、彼らの現在地を特定できますか?」
「わからん。北神の一族は放浪を好む。歴史の微細な変化で出現座標が大きくズレるため、今の状況では検索不可能だ」
「……非効率ですね。では、北神は後回しにしましょう。次は六位『剣神』ガル・ファリオン。彼とは面識があります。交渉のテーブルに着かせることは可能かと」
「剣神の次は、鬼神を潰しておくのがいいだろう。ビヘイリル王国にいるヤツはラプラスと対立しやすく、
オルステッドの助言は非常に理に適っていた。
敵の手駒を減らし、こちらのリソースを増やす。
「他には、脅威となる個体は?」
「天大陸の迷宮『地獄』に住まう『冥王』ビタ。魔大陸の『不快の魔王』ケブラーカブラー。……この二人は厄介だが、前者はこちらから向かうには遠すぎる。まずは近くのターゲットから処理していくほうが良いだろう」
「了解しました。では、彼らを『仲間にするか、あるいは排除する』という方針で動きます」
会議は終了した。
私は執務室を出ると、廊下の窓からシャリーアの街並みを眺めた。
ギースという「
次なる目的地は、シーローン共和国……現在はまだその移行期にあるシーローン王国だ。今回の遠征には、ザノバとジュリを同行させている。
ザノバにとっては故郷への帰還であり、ジュリにとっては師匠の背中を学ぶ実地訓練の場でもある。
王宮へと足を踏み入れると、シーローンの街並みにはまだ先の戦いの傷跡が散見されたが、それ以上に人々の活気と復興への熱量が肌に伝わってきた。
以前であればパックスに対する民衆の不満や悪評が当然のように聞こえてきたものだが、今のこの国に漂う空気は澄んでいる。ジェイド将軍の辣腕ぶりも、市井の声を聞く限り高く評価されているようだ。
「師匠、パックス陛下はなかなかどうして立派に国を回しているようですな」
「ああ、健全な統治が行われている証拠だな」
ザノバの言葉に頷きつつ、私たちは謁見の申し込みを行った。
パックスとのコネクション、そしてザノバという王族の存在を考えれば、許可が下りるのは時間の問題だと踏んでいた。だが、予想を上回る速度で手続きが進行し、私たちは到着当日の夕食会に招待されることとなった。
会場となる広間に入ると、そこには既にパックスとベネディクトの姿があった。
傍らに控えるジュリを見る。今日の彼女は、いつもの作業着ではなく、洗練された侍従の衣装に身を包んでいた。アイシャの完璧な所作に憧れ、密かに練習を重ねてきたらしい。その立ち居振る舞いは、私の目から見ても十分に「合格点」と言える精度だった。
「パックス陛下、ベネディクト様。お久しぶりです。……随分と、落ち着かれたようですね」
私が丁寧な礼を執ると、パックス様は僅かに威厳を増した表情で頷いた。
「ルーデウスか。貴様の顔を見ると、あの夜の凄まじい雷光を思い出して、未だに背筋が凍る思いがするぞ。……ジェイドなどは貴様がこの城門を潜ったと聞いただけで顔色を変えていた」
パックスの冗談混じりの言葉に、背後で控えるジェイド将軍が苦笑いを浮かべながらも僅かに身を竦ませた。どうやら私の行使した拷問がトラウマらしい。
席に着き、最近の国内情勢について情報の共有を行う。
統治は依然として困難の連続ではあるようだが、北の小国群との交渉は驚くほどスムーズに進んでいるらしい。私の魔術攻撃が周辺諸国にとって決定的なトラウマとなり、正面から争うよりも、シーローン主導の合併を受け入れる方が生存確率が高いと判断された結果だ。それに、どちらかというと弱った王竜王国の属国に刃を向けているらしい。
雑談に花を咲かせていると、一人の男が静かに部屋へ入ってきた。
死神ランドルフ。
だが、今日の彼はその不吉な異名に似合わぬ、白く清潔なコック服に身を包んでいた。
「皆様、失礼。……急遽、私が手料理を振る舞うことにしましてね」
ランドルフが運んできた料理は、王宮料理としての体裁を保ちつつも、どこか魔大陸を彷彿とさせる野性味溢れる香りを放っていた。
だが、以前食べたあの「形容しがたい」代物とは明らかに次元が異なる。
「……美味しいな、ランドルフ殿。見た目と臭い、そして味のバランスが劇的に改善されている」
「ほう、そう仰っていただけると助かります。貴殿のアドバイス通り、商人たちとの交流を通じて、中央大陸の人族が好む調味の比率を研究しました」
ランドルフは骸骨のような顔を嬉しそうに崩した。
ザノバも「これならば料理として楽しめますな」と満足げにフォークを動かしている。
食後、お茶を啜りながら、私は本題を切り出した。
次なるミッション、王竜王国への潜入についてだ。
「……オルステッドが前王を暗殺した一件。その事実がどれほど王竜王国内で正確に処理されているか……それが問題です。もし、龍神の関与が公然の事実となっているならば、彼の右腕と目されている私が行くのは、火に油を注ぐようなものですから」
パックスはカップを置き、少しの間、思考の海へと沈んだ。
「……恐らく、問題はないだろう。絶対的な権力者を失った直後、あちらの国は深刻な内部混乱に陥っていたからな。情報が錯綜し、真偽を確かめる余裕すらなかったのだろう。……我がシーローンも、その混乱のおかげで干渉を受けずに済んだのだ。今となっては、オルステッドを見たという数少ない証言も信憑性の低い噂として処理されているはずだ」
「大丈夫なのでは?前王ならともかく、今は『あの方』が王座に就いておられますからなぁ……」
ランドルフが意味深な笑みを浮かべて付け加えた。
私はパックスの分析を合理的なものと判断し、王竜王国への公式な紹介状を書いてもらった。アリエル女王から賜ったものと合わせれば、外交的な身分保障は万全だ。
その後、私はジェイド将軍にギース・ヌーカディアを全世界で指名手配した件について、シーローン国内での網の目をより緻密にするよう指示を出した。
「……そして、ランドルフ殿。来るべき
私の直球の勧誘に、ランドルフは困ったように首を振った。
「……それは、少々難しいですな。……実は、ベネディクト様の腹には、パックス陛下との新しい命が宿っております」
「……何と」
私は驚き、隣に座るベネディクトへと視線を向けた。彼女は少し照れくさそうに、けれど慈しむように自らの腹部に手を当てていた。
「シーローンの基盤はまだ脆弱です。北の国々との交渉も山場、王竜王国が今後どのような圧力をかけてくるかも不透明。……私にとっての最優先は、未来の主君を守り抜くことです。戦場へ出向き、この場所を空けるわけにはいきません」
「……見事な忠義だ、ランドルフ殿。その判断は極めて合理的だろう。……貴殿の優先順位を、私は尊重しようと思う」
私がそう告げると、ランドルフは「分かっていただけて光栄です」と優しく笑った。
かつての『死神』が、一人の調理師として、そして守護者として、新たな目的を見出した。その事実は私にとっても喜ばしい。
「敵に回らないという確約だけで、十分だ。……貴殿が、『
「それは絶対にありませんな。以前も申しましたが、なるべく関わりたくないと考えておるので」
ランドルフは不快そうに肩をすくめ、最後に私に一つの提案をした。
「……王竜王国へ行かれるのであれば、現地の様子を教えていただきたい。礼はさせていただきますので」
「承知した。有益な情報を持ち帰ってこよう」
シーローンの夜は穏やかだった。
私は、新しく手に入れた二枚の紹介状を懐に収め、次なる目的地、王竜王国へと視線を向けた。
一度シャリーアへと戻り、装備の再整備と情報の共有を済ませた私は、次なる目的地である王竜王国へと向かった。
今回の同行者はエリスとアイシャだ。
エリスは私を守るために。アイシャは私の対外的な「格」を維持するために、だ。
王竜王国は実力主義の傾向が強いとはいえ、大国である以上、シーローン王国よりも礼節や見栄に重点を置く必要があると判断した結果だ。
転移後、まずはアスラ王国の大使館へと向かった。アリエル女王からの紹介状を提示し、最高級の馬車と正装を調達する。
「旦那様、この礼服はいかがでしょう?王竜王国の伝統的な意匠を取り入れつつ、アスラの洗練さを残した一品ですが」
アイシャが複数の衣装を提示してくるが、肝心の彼女自身が自分の服選びに難航しているようだ。
「……アイシャ。下着姿に近い状態でこちらに意見を求めるのは……眼のやり場に困る」
「ふふ、旦那様を誘惑できているようで安心しました。……エリスさんも、何か言ってくださいよ」
「ルーデウスなら、アイシャにぴったりな服を選べるわ!ほら、早く選んであげなさいよ!」
エリスの豪語により、結局私が二人の衣装をコーディネートすることになった。
熟考の末、エリスには赤を基調とした、男性用をベースにした凛々しい礼服を選んだ。彼女の要望通り、帯剣してもシルエットが崩れない実戦的な設計だ。
対してアイシャには、純白の生地に繊細な刺繍を施した、清楚ながらも華やかなドレスを選択した。
「……少し派手すぎませんか?侍従としては目立ちすぎる気がしますが」
「いや、今日の君は私の妻として同行してもらう。この程度の彩度は必要だ」
「ルーデウスの言う通りよ!アイシャ、とっても可愛いわ!」
エリスの太鼓判もあり、アイシャは照れくさそうに、けれど満足げに微笑んだ。
大使館での謁見申請から回答を待つ数日間、私たちは三人で聖地の街を散策した。今後戦いが待っていたとしても、適度なリラックスは必要だろう。
謁見当日。
私たちは重厚な空気が支配する王宮の廊下を進み、巨大な鎧が整列する謁見の間へと足を踏み入れた。
隣を歩くエリスは、アイシャに叩き込まれた礼儀作法を必死に実行しているようだが、その表情は「いつ斬りかかられても即座に迎撃できる」という剣王としての戦闘モードを完全に隠しきれていない。
鈍色に光る鉄の玉座。そこに腰掛ける男の名が、響き渡る。
「王竜王国第三十三代国王、ステルヴィオ・フォン・キングドラゴン陛下にあらせられる!」
「顔を上げ、名を名乗られよ」
「お初にお目にかかります。アスラ王国のルーデウス・ボレアス・グレイラットと申します。陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
私が完璧な作法で挨拶を終えると、続いてエリスとアイシャも挨拶を交わした。エリスは言葉を噛みそうになっていたが、なんとか完遂したようだ。
玉座に座るステルヴィオ陛下は、一見するとどこにでもいそうな中年の男性だった。くすんだ金髪に、実務的すぎて華美さに欠ける王冠を被っている。
「貴公が、あの水神レイダを討ち、シーローンに迫る連合軍を一撃で粉滅させたという『雷神』か?」
「過分な評価です。水神レイダを倒したのは、ここにいる剣王エリス、および剣王ギレーヌとの共闘による成果です。北の軍勢については私一人で対処しましたが、一割ほどの残存兵は逃しております。殲滅とは呼べません」
「……九割の戦力を消滅させたなら、それは定義上『殲滅』と呼んで差し支えないだろう。我が国は形式よりも実績、すなわち実力を重んじる。それほどの結果を出した者は、相応に評価しよう」
陛下の言葉に、エリスとアイシャが誇らしげに胸を張る。
陛下は一つ溜息を吐くと、背もたれに体を預けた。
「貴公のような傑物から声を聞ける機会は稀だが……。同時に、貴公のような者が、明確な用件もなく余の前に現れるはずもない」
「それは……」
「ああ、待て。当てる楽しみを奪わないでくれ。……まず、仕官ではない。貴公はアスラのアリエル王の懐刀だ」
「仰る通りです」
「そして、これほどの実力者がわざわざ足を運ぶ理由……。巷で流れている不確実な噂が関係しているな。……シャガール、詳細を」
控えていた大臣、シャガールが手元の情報を読み上げる。
「……ルーデウス・ボレアス・グレイラット。八十年後の魔神ラプラス復活を予見し、各国の有力者へネットワークの構築を呼びかけている、とのことです」
「おお、それだ。そしてその一環として、各国に自身の組織――傭兵団を配置し、ビジネスを展開している。……間違いはないか?」
「陛下のご慧眼には恐れ入ります。その通りです」
私は王竜王国の情報収集能力に素直に敬意を表した。
「勝手にやればよいものを、わざわざ許可を取りに来る。余は、その『法』を遵守する姿勢を嫌いではない。だが、求められたからと即座に了承してしまえば、国の威信に関わるのでな。……そこで、一つ条件を提示させてもらおう」
「……北の紛争地帯における、周辺諸国の動向についてですか?」
私が先回りして問うと、陛下は面白そうに口角を上げた。
「察しが良いな。前王が崩御した際の混乱に乗じ、我が国の属国三つが攻撃を受けている。支配下にある以上、支援は不可欠だが……。シーローンでの『雷神』の恐怖は、既にこの地にも波及している。貴公が出向けば、被害を最小限に抑え、楽に制圧できるのではないか?」
「不可能ではありません」
だが、心境としては複雑だ。何しろ、その戦争の裏で火を焚べているのは、私の協力者であるアリエル女王なのだ。アスラ王国は、王竜王国を弱体化させるべく周辺諸国を扇動し、武器を売り払っている。アリエルなりの大国同士の高度な嫌がらせだ。
「簡単に言ってくれるな……。カーク、お前はどう思う?」
陛下が、少し離れた席に座っていた青年に声をかけた。
カークランド・フォン・キングドラゴン。この国の第一王子であり、次代の王座を担う男だ。
「……紛争地帯を平定するまでは、アスラ王国と表立って敵対すべきではない。それが私の結論です。ルーデウス殿がアリエル王と懇意であるなら、ここで彼を受け入れ、さらに龍神オルステッドとの協力関係を構築することは、アスラ側への強力な抑止力になります。何より、八十年後のラプラス復活という重大な事変への備えは、我が国の長期的利益に繋がります」
王子の論理的かつ合理的な進言に、ステルヴィオ陛下は満足げに頷いた。
「よし……。では、ルーデウス。貴公の要求を承認する。代わりに、北の国々の掃除を頼むとするか」
「了解しました。最短の手順で片付けましょう」
王竜王国の承認を獲得。
王竜王国のステルヴィオ陛下から提示された条件――北の紛争地帯の平定。
それを達成するのに、物理的な衝突を引き起こす必要はない。心理的な圧力を利用した「情報操作」のみで、このタスクは完了できる。
私は即座に通信石板を起動し、アスラ王国のアリエル女王へと連絡を入れた。
内容は極めてシンプルだ。
『雷神』ルーデウスが王竜王国と正式な協力体制を構築し、現在属国を攻撃している諸国に対して直接介入の意思を固めた……という「噂」を北の諸国へ流布してほしい。
女王からの返信は、数分と経たずに同期された。
『承知いたしましたわ、ルーデウス様。その程度の根回し、造作もありません。……その代わり、と言っては何ですが。今度アスラへいらっしゃる際は、シルフィとノルンを必ず連れてきてくださいね?』
アリエルらしい切実な要求だった。彼女にとって癒やしの供給は、過酷な政務を維持するための必須条件なのだ。
「……分かった。シルフィとは最近ゆっくりと外出もできていなかったし、良い機会になるだろう」
私は石板を閉じ、隣で退屈そうに剣の素振りをしていたエリスと、事後処理を進めていたアイシャに声をかけた。
「さて、シャリーアに帰還する前にもう一度シーローンに寄っていこう」
転移魔法陣による瞬間移動を提案したが、エリスから「たまには空を飛んで移動したいわ!」という強い要望が出された。
移動効率を考えれば魔法陣が勝るが、パートナーの精神的充足もまた重要だ。
私は風魔術による慣性制御と、竜人化による強靭な身体出力をフル稼働させた。
両腕にエリスとアイシャを一人ずつ抱え上げ、垂直に離陸する。
アイシャは以前の経験から慣れた様子で私の首に腕を回しているが、エリスは眼下に広がる王竜王国の山脈と雲海に「凄い景色ね!ルーデウス、もっと飛ばして!」と大興奮していた。
シーローン王国への到着は想定よりも早かった。
パックス陛下に王竜王国との交渉結果を報告すると、彼は「流石だな、これで当面は背後の憂いもなくなった」と深く安堵した様子を見せた。
「皆様、よくぞ戻られましたな。丁度、新作の試作が終わったところです」
死神ランドルフが、嬉々としてコック服の袖を捲り、厨房へと消えていった。
運ばれてきた料理に対し、アイシャとエリスは最初は魔大陸風の独特なスパイスの香りに驚いていたが、一口食べればその深い旨味に魅了されたらしい。
「おいしいわね!ランドルフ、やるじゃない!」
「……ええ、驚きました。この複雑な調味、私も見習いたいところです」
二人がパクパクと食事を進める様を見て、ランドルフは骸骨のような顔を満足げに崩していた。
食後、私はランドルフに、ギースを効率的に探索するための手法について問いかけた。全世界に指名手配はかけたが、逃亡のスペシャリストである奴を捕らえるには、さらなる「策」が必要だ。
「ルーデウス殿は、魔帝キシリカ・キシリスをご存知で?」
「……ああ。二度ほど邂逅している。彼女から『予見眼』を授かった」
「ならば話は早いですな。人を探すのであれば、理屈抜きに彼女を探し出し、その『眼』を利用させてもらうのが最も近道でしょう」
ランドルフの助言は、極めて合理的だった。
キシリカの眼による広域探索があれば、ギースの潜伏座標を特定できる確率は飛躍的に向上する。
「……だが、彼女は放浪の身。コンタクトを取るのが難しいのが難点だな」
「これを。……代償を要求されるやもしれませんが、この指輪を見せて『ランドルフの願いだ』と告げれば、多少の無理は聞いていただけるはずです」
ランドルフから手渡されたのは、鈍く白い光を放つ指輪だった。
素材を確認する。……おそらく、何らかの魔物の骨を加工したものだ。彼の隠されたコネクションの一端だろう。
「有難く頂戴する。有力なツールになるはずだ」
その夜、パックス陛下の好意により、私たちは王宮の賓客室で一晩を過ごすことになった。
アイシャは、一国の王宮に滞在するという非日常に、少女らしい期待と喜びを滲ませていた。エリスは何も気にせず、堂々としている。さすがの器の大きさだ。
私は寝る前に、シャリーアの自宅に設置してある石板へとメッセージを刻む。
『来週、アスラ王国へ向かう。シルフィとノルンを同行させたい。アリエル女王からの招待だ。二人の予定を確認してくれ』
アスラ王国の後の次なる目的地は、魔大陸。魔王アトーフェ・ラトーフェの領地だ。
脳筋……もとい、戦闘本能を最優先する彼女と交渉を行うには、論理だけでなく、相応の「手土産」があったほうが楽だろう。
アリエル女王への表敬訪問のついでに、アスラ最高級の酒を大量に買い込んでいくか。
私は隣で眠りについたエリスの寝顔を眺めながら、魔大陸攻略に向けた資材調達のリストを頭の中で構築し始めた。
シリアスばかりだと疲れてしまうので、日常編としてモーニングルーティンを加筆してみました。
さて、ビタ戦はどうなることやら……。