無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
ザノバとジュリ、そして人形だった男を連れて、私は空中城塞ケィオス・ブレイカーへと向かった。
いつものように、出迎えてくれたのは空虚のシルヴァリルだった。優雅な足取りで先導する彼女に続き、私たちは謁見の間へと通される。
ペルギウスは玉座で悠然と私たちを待っていた。
私は深く頭を下げ、先の一件で命を救っていただいたことへの礼を述べた。この身がまだこうして在るのは間違いなく彼のおかげだ。感謝してもしきれない。
「面を上げよ、ルーデウス」
ペルギウスは静かに言った。
「礼の言葉はもう十分に聞いた。……それより、貴様に一つ申し付けたいことがある」
「なんなりと」
「我の像を作れ。それをもって、借りは返したとみなそう」
思いがけない申し出だった。しかし、彫像作りは望むところだ。私は迷わず頷いた。
その時、ペルギウスの視線が私の後ろに控える男へと移った。
「して……その方は何者か」
名指しされ、男は目に見えて緊張した様子で一歩前に出ると、丁寧に一礼した。
「お、お初にお目にかかります。……この度は、色々とお世話に……ありがとうございます」
ぎこちない挨拶にペルギウスは片眉を上げた。
「その身体、尋常のものではないな。……何をした?」
男は少し戸惑いながらも、自分の身体は元々あの魔導人形の生首であったこと。そして、今の身体が私とザノバの手によって新しく作られたものであることを説明した。ペルギウスは黙って耳を傾けていたが、やがてその瞳に明らかな興味の色が浮かんだ。
「……ほう。人ならざる技をもって、人の形を作るか」
「はい。生体組織と魔道具を融合させる技術です」
「貴様のことだ、既に詳細を記した報告書を作っているだろう?」
私は頷き、あらかじめ用意していた報告書をシルヴァリルへと手渡した。ただし、それを渡す前に、私はもう一言だけ付け加えずにはいられなかった。
「ペルギウス様。……この技術は、あるいは『命を創造する』という領域にまで踏み込んでいるかもしれません。倫理的な問題は決して少なくない。もし地上でこれが安易に広まれば、いずれ大きな後悔を生むことになるでしょう」
ペルギウスはそれを聞いても表情を変えなかった。ただ静かに書を受け取り、一枚一枚に目を通していく。
謁見の間にしばしの沈黙が落ちた。
やがてペルギウスは書を閉じ、ゆっくりと頷いた。
「うむ。……貴様の言う通りだ。これは扱いを誤れば取り返しのつかぬ力になる」
その静かな声にはただの興味を超えた、重みのある理解が滲んでいた。
「だが」
ペルギウスは続けた。
「その男自身に罪はない。……よかろう。この城への滞在を許す」
男は驚いた様子で顔を上げ、それから深々と頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……!」
こうして、私たちの空中城塞への訪問は、静かながらも実り多いものとなった。
今日は、ナナホシが目覚める日だった。
ギースとの戦い、そして闘神との決着について彼女と情報を共有しておく必要がある。
朝、アルマンフィから連絡が入った。時間のスケアコートによる停止を一時的に解除したという。スケアコートにも魔力の回復時間が必要なのだ。
ナナホシはあの戦いの前――精神的に追い詰められた末に、時間のスケアコートの力を借りて自ら時を止めていた。目覚めた直後は身支度もままならないだろうと考え、私たちは少し時間を置いてから彼女の部屋へ向かうことにした。ザノバとジュリ、そして男も一緒だ。
部屋の扉をノックすると、すぐに返事があった。
中に入ると、先日見た時とまるで変わらない姿のナナホシが立っていた。だが、私たちを見た瞬間、その表情が驚愕に固まる。
無理もない。私の身体は今、十歳程度の大きさにまで縮んでしまっているのだから。
しばらくの間、ナナホシは言葉を発することができなかった。再起動というべきか、思考が状況に追いつくまで少しばかりの時間を要したようだった。
やがて、ようやく声が出せるようになったのか、彼女は震える声で尋ねてきた。
「……一体、何があったの?」
「闘神との戦いで、色々と消費しすぎた。結果がこれだ」
私はできるだけ淡々と、事実だけを伝えた。
ナナホシは深く息を吐き、額に手を当てた。
「……貴方に常識が通じないのは知っていたつもりだったけど。……流石に、これは想像を超えてたわ」
「そう言われると返す言葉もないな」
彼女は一拍置いて、今度は真剣な顔で問いを重ねた。
「転移実験は……大丈夫なの?」
「総魔力量は減っている。だが、その分、転移に必要なエネルギーも比例して少なくなっている。むしろ効率だけで言えば、以前より扱いやすいくらいだ」
「……相変わらず、前向きね」
「だから、いつでも実験に呼んでほしい」
私がそう告げると、ナナホシは呆れたように、それでいてどこか安堵したように、小さく笑った。
「ところで」
一息ついたところで、ナナホシの視線が私の後ろへと動いた。
「そこの男は誰? ……貴方に、兄弟なんていたかしら」
確かに顔立ちは私やパウロによく似ている。無理もない疑問だった。
「……ザノバも、この機会に知っておいた方がいいだろうな」
私はそう前置きしてから、男に目配せをした。
「話してもいいか」
「……ああ、構わない」
男が静かに頷いたのを確認し、私は語り始めた。
「この男は、『記憶』の持ち主だ。ナナホシ、君と同じ世界から来た人間で――かつて、ここではない世界で君を含めた三人の命を救おうとした者でもある」
男は少し照れくさそうに頭をかきながら、自己紹介の言葉を口にした。ナナホシはそれを聞いて再び大きく目を見開いた。
「……全然、分からなかったわ。あの、冴えない中年男が、これ?」
「おい、それは流石に失礼じゃないか」
男は抗議したものの、その口調にはどこか納得したような響きも混じっていた。自分でも以前の姿とのあまりの違いは自覚しているのだろう。
ナナホシはなぜこの男がこの世界にいるのか、そしてなぜ私と似た姿をしているのかを尋ねてきた。私はそれに答える形で、経緯を説明していく。
「この男は私に『記憶』だけを見せた後、長い間ずっと無の世界を漂っていた。冥王ビタとの戦いの最中でその魂と接触することができたんだ。そして、一時的に
「そんなことが……」
ナナホシは絶句していた。ザノバも同様に驚いた顔をしている。『記憶の男』の存在についてこうして詳しく語るのは、彼にとっても初めてのことだったのかもしれない。
しばらくの沈黙の後、ナナホシは男に向き直った。
「……元の世界に、戻りたいとは思わないの?」
男は少し考えるような間を置いてから、はっきりと首を横に振った。
「戻りたいとは、思わない。あっちの世界じゃ、俺は本当に何もかもだめだったから。今度こそこっちの世界で頑張ってみたいんだ」
「……そう」
「でも……向こうに残してきた家族が今どうしているのかは、気になる」
男はぽつりと付け加えた。異世界へ手紙を持ち込む方法があると聞いた、できれば手紙だけでも届けてもらえないだろうか、と。
「二十年以上、無の世界で過ごして……ずっとルーデウスの視界を共有していた。その間に色々と思うところ、反省するところがあったんだ」
男は静かにそう語った。ナナホシは、どこか同情するような、それでいて共感するような目で彼の言葉に耳を傾けていた。
転移実験については、私の身体の調整と前回の実験を踏まえた改善が終わり次第、改めて行うことになった。
今回、大きな改善点が一つある。
王竜剣カジャクトの存在だ。
重力そのものを操るこの剣は、それ自体が座標のアンカーとして機能する。加えて、重力という世界共通の環境変数を基準に座標を調整できるようになったことで、転移の精度は驚くほど向上していた。
「以前は、『世界のどこかの陸地』程度の精度しか出せなかった。今なら――数十メートル程度の誤差で、目的の座標に飛べるはずだ」
私がそう説明すると、ナナホシは信じられないといった様子で、何度も剣の意匠を見つめ直していた。
シルヴァリルたちが装置の改造に勤しむ中、私とザノバとジュリは別の作業に取り掛かった。男は事務所の仕事があるので既にシャリーアへ返している。
空中城塞ケィオス・ブレイカー。眼下には切れ目のない雲海が広がり、この城塞そのものが天と地の境界に浮かぶ一つの聖域であるかのような荘厳さを漂わせていた。何度見てもこの非日常的な光景には未だに慣れることができない。
この城の主であるペルギウスと、その配下の方々を象徴する「巨大彫像プロジェクト」が、いよいよ形になる時が来たのだ。
作業エリアとしてお借りしたのは、雲海を見下ろす広大な空中庭園の一角。私の生涯において、これほどまでに心血を注ぎ全リソースを投入すべき造形は他にないだろう。芸術の友であるザノバと共に、私たちは一寸の気の緩みもなくこの一ヶ月を駆け抜けた。
思い返せば、着手当初は困難の連続だった。ペルギウスと十二の配下、それぞれの纏う空気や役割の違いをいかにして一つの群像として統一感を保ちながら表現するか。ザノバと私は連日、設計図を前に議論を重ねた。
「師匠、この者――光輝のアルマンフィ殿は光を操ると聞き及んでおりますが、纏う衣の質感が雷を操る御方のそれと酷似しております。これでは個性が死んでしまいますぞ」
「確かにそうだな。それぞれが持つ力の性質ごとに、生地の彫り込む深さと反射角を変えよう。
そうした試行錯誤を、来る日も来る日も繰り返した一ヶ月だった。
「師匠、この指先の角度。あと数ミリ、天を仰ぐような曲線が必要ではありませんかな」
「同感だ、ザノバ。ペルギウス様の威厳を表現するには物理的な正確さ以上に、空間を支配する圧力を込める必要がある」
そう言って私は指先に魔力を込め、石の表面を薄皮一枚ぶんだけ削り直した。ザノバはそれを食い入るように見つめ、満足げに頷く。
「見事な調整でございます。……師匠と組む彫刻は、いつも新しい発見に満ちておりますな。数値と感性、その両輪が噛み合った時の完成度は私一人では到底至れぬ境地です」
「それはこちらの台詞だよ、ザノバ。君の『魂を込める』感覚がなければ、この像はただの精密な模型にしかならなかっただろう」
互いの技量を認め合いながら、私たちは黙々と鑿を振るい続けた。
龍神オルステッドからは一ヶ月という破格の休暇をもらっていた。最近は北神三世アレクサンダーが私の代わりに実務をこなしてくれているおかげで、ようやくこの「恩返し」に専念する暇を得られたのだ。
ジュリもまた、私たちの指示に従って驚異的な集中力で細部を仕上げていく。まだ幼い彼女の手先は、配下たちの纏う装飾の繊細な彫り込みにおいて既に師であるザノバをも凌ぐ精度を発揮していた。
「ジュリ、ここの模様、もっと細かくできる?」
「できます!おまかせください!」
目を輝かせて即答するジュリの姿に、ザノバは目を細めて頷いた。
「……良い弟子を持ったものです。この子はいずれ、私を超えるでしょうな」
「もう既に、細部の精度では超えているんじゃないか?」
私がそう茶化すと、ザノバは「否定はできませぬ」と豪快に笑った。
時折、心配したシルフィやエリスが差し入れを持って様子を見に来てくれた。放っておけば食事も休憩も忘れて没頭してしまう私たちを、彼女たちが強引に休ませるのが日常の光景となっていた。
「もう、ルディったら。また手が止まらなくなってるでしょう?ほら、パン持ってきたから休憩」
「あたしの持ってきたお肉も食べなさいよ!精がつくわ!」
シルフィとエリスに両側から挟まれ、無理やり作業道具を取り上げられる。石を削る手を止めるのは名残惜しかったが、二人の気遣いを無下にはできない。ジュリとザノバも同じように休憩へと連れ出されていった。
こうした賑やかな中断もまた、この一ヶ月の作業を彩るかけがえのない時間だった。
そうして、ついにその日がやってきた。
今日はお披露目の日。私の持つ土魔術の精密操作と、ザノバの類まれなる芸術センス、そしてジュリの磨き上げた技術の結晶。
自信はある。だが、伝説の英雄を前にして、心臓の鼓動が少しだけ早まるのを感じた。
朝から落ち着かない様子だったジュリは、何度も布の掛け具合を確認しては「ずれてないですよね?大丈夫ですよね?」と私とザノバに繰り返し尋ねてきた。その健気な姿に、私たちも自然と気合が入る。
やがて、ペルギウスが十二の配下すべてを引き連れて空中庭園に姿を現した。
先頭を歩むペルギウスの纏う空気は、いつも以上に厳かだった。その一歩後ろには忠臣・空虚のシルヴァリルが付き従い、さらにその後方に光輝のアルマンフィをはじめとする臣下たちが粛々と列をなして続いている。
その圧倒的な威圧感を前に、ザノバとジュリが緊張で肩を震わせる。私は一歩前に出ると、今の小さな身体で精一杯の最敬礼を捧げた。
「面を上げよ、ルーデウス」
ペルギウスの許しを得て、私は背筋を伸ばし、震えそうになる声を意志の力で抑え込みながら静かに口を開いた。
「ペルギウス様。貴方は
ペルギウスは「うむ」と短く返すと、隣のシルヴァリルに目を向けた。
「シルヴァリル、布を取れ」
「はっ」
巨大な幕が、風もないのに一息に払われた。ついに彫像の全容が白日の下に晒される。
その瞬間、常に不遜な態度を崩さないペルギウスが、一瞬だけ息を呑むのが分かった。周囲を固める配下たちからも、驚嘆のどよめきが漏れる。
横幅十数メートルに及ぶ、巨大な群像。中央に立つペルギウスを、左右に六体ずつ、計十二の配下たちが囲むように配置されている。
ペルギウスを象徴するにあたり、神々しいまでの黄金比と均整を表現するのは当然の前提だ。だがそれだけでは、ただの無機質な石塊に過ぎない。
私は彼が歩んできた歴史、その重みを石の中に封じ込めた。世界を救った英雄としての誇りと、それゆえに背負わねばならぬ孤独。そして空から地上を監視し続ける「世界の守護者」としての神々しさ。その瞳には、遠い彼方を見据えるような静謐でありながら底知れぬ意志の光を刻み込んだ。
特に神々しい衣装の表現には、ザノバが心血を注いだ。硬い石を素材にしながら、まるで風にたなびく絹のような柔らかさと、王の纏う布としての格式高い質感がそこに現出していた。裾の一枚一枚に至るまで、風に揺れる瞬間を切り取ったかのような躍動感がある。
そして両脇に控える十二体の配下たちもまた、それぞれが持つ力の質に応じた個性豊かな造形で表現されている。光輝のアルマンフィには実体化する寸前の揺らめきを、轟雷のクリアナイトには耳を澄ませるかのような静けさを秘めた鋭い輪郭を、時間のスケアコートにはガスマスクを思わせる仮面の奥にひそむ静止の気配を。見る者が一目で誰であるか判別できるほどの、緻密な作り分けがなされていた。
ペルギウスはしばらくの間、彫像の前で硬直していたが、やがて絞り出すような声で言った。
「……素晴らしい。我の想像を遥かに超える出来栄えだ。ルーデウス、ザノバ、ジュリ。見事である。褒めて遣わす」
ペルギウスは顔を僅かに綻ばせ、こちらを見る。
「これほどの技を目にしたのは久方ぶりだ。……アスラの貴族どもが見栄のために誂える、あの空虚な工芸品とは根本から違う。貴様らの手には、我の歩んだ歴史そのものが宿っておる」
その言葉を皮切りに、周囲に控えていた配下たちからも、口々に感嘆の声が上がった。
「まあ……。この流れるような衣の表現、素晴らしいですわ」
優雅な仮面の奥から、シルヴァリルが満足げな声を漏らす。
「この勇ましさ……見事な出来だ」
轟雷のクリアナイトも、珍しく感嘆を隠さずに呟いた。
普段は寡黙な彼らが、自らを模した像を前にこれほど饒舌になる姿は珍しい。その様子を見て、ジュリが誇らしげに、そして安堵したように大きく息を吐き出した。
その後、庭園にテーブルが用意され、出来上がった像を眺めながらの祝宴が始まった。夕暮れ前の澄んだ空気の中、芳醇な香りを纏う果実酒と、配下たちが用意してくれたという珍しい料理の数々が並べられる。
ペルギウスは古今東西のあらゆる美食に通じている。彼は供された料理を一口ごとに吟味するように味わい、ワインの産地や熟成年数まで言い当てては、給仕役の配下を驚かせていた。最高級のワインを傾けながら、一点一点、彫像の細部について深い感想を述べていく。
「この我が持つ魔術具の紋様。よくぞここまで正確に再現したものだ。どこでこの意匠を調べ上げた?」
「以前、貴方の私室にお招きいただいた際に、記憶に焼き付けておきました。まさか、こうして役立つ日が来るとは思いませんでしたが」
「ほう。相変わらず、抜け目のない男よ」
ペルギウスは愉快そうに喉を鳴らして笑った。
ザノバが嬉々として込めた想いや技術的な工夫を語り、私がそれを補足する。
「特に、こちらの空虚のシルヴァリル殿の翼の表現には、師匠と二人で三日三晩悩み抜きましたぞ。石という硬質な素材で、いかにして『今にも羽ばたきそうな軽やかさ』を表現するか」
「あの時は羽根の一枚一枚に異なる角度の反射率を持たせるという結論に至るまで、随分と遠回りをしたな」
そんな制作秘話に、配下たちも興味深そうに耳を傾けていた。ジュリもまた緊張が解けたのか、あどけない笑顔で配下たちと料理を摘みながら談笑している。
以前に冥王ビタが見せた「幸福な夢」にも勝るとも劣らない、穏やかで満たされたひととき。けれどこれは偽りではない、確かな現実の記録だ。戦いに次ぐ戦いで張り詰めていた日々の中、こうして純粋な創作と感謝を分かち合える時間があることに、私は静かな幸福を噛み締めていた。
宴も終盤に差し掛かった頃。空が茜色に染まり、雄大な夕景がケィオス・ブレイカーを包み込み始めた。雲海までもが、燃えるような橙色に染め上げられていく。
「ペルギウス様。……ここからが、この像の真の『見どころ』です」
私の言葉に、ペルギウスは不思議そうな顔で像へと目を向けた。
そして、目を見開いたまま絶句した。
今回の彫像は、この空中城塞から見える「夕景」を逆算して設計したものだ。傾いた陽光が彫像に差し込む角度、そこから大地へと伸びる影の形。太陽の軌道を計算し、最も美しい角度で光が差し込むよう、像の設置角度を一度単位で調整してある。ザノバと共に幾度となく試作模型を作り、太陽の位置を模した光源で影の落ち方を検証した、地道な積み重ねの結果だ。
夕闇の中で像が放つ陰影のコントラストが、まるでペルギウスと十二の配下が文字通り世界の上に立ち、守護しているような偉大さを描き出していた。橙色の光が像の輪郭を金色に縁取り、伸びた影が城塞の床から雲海の彼方まで、まるで大地全体を包み込むように広がっていく。
細部の仕上げ一ミリにまでこだわった「影の計算」。シルヴァリルもアルマンフィも言葉を失ったまま、その幻想的な光景に見入っていた。他の配下たちも、誰一人として言葉を発することなく、ただ静かにその光景に魅入られている。
長い沈黙ののち、ペルギウスが静かにつぶやいた。
「……ルーデウス。素晴らしい、最高の贈り物だ。改めて、褒めて遣わすぞ」
そう言ったペルギウスの顔には、これまで一度も見せたことがないような、穏やかで柔らかい「友」への微笑みが浮かんでいた。私はその表情を、新しく手に入れた大切な記憶として、静かに心の奥底へ保存した。
「師匠。……この光景を作り上げられたこと、生涯の誇りでございます」
隣に立つザノバも、感慨深げにそう呟いた。ジュリもまた、その小さな手で目元を擦りながら、大きく頷いている。
夕日が完全に沈みきるまで、私たちはただ静かに、その光と影が織りなす芸術を見つめ続けた。一ヶ月の労苦のすべてが、この一瞬の光景に報われた気がした。
ナナホシと彼の邂逅、
そして、彫像作成の集大成でした。
魔物の彫像美術館制作も今後話に加えたいですね。