無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
今日は、ザノバとジュリ、そしてジンジャーを伴ってシーローン王国へと足を運んでいる。
本来なら、私の第四の夫人であり事業の要であるアイシャも同行させる予定だった。だが、彼女が新しい命を授かったことが判明したため、今回は無理をさせず、シャリーアの自宅で静養してもらうことに決めたのだ。出発の朝、玄関先まで見送りに出てきた彼女は「お土産、期待してますからね」といつも通りの調子で笑っていたが、その手はさりげなく自分の腹に添えられていた。
今回シーローンを訪れた目的は、この国が歴史的な転換点を迎えるからに他ならない。
「シーローン共和国」の発足。
王都に近づくにつれ、街の様相は以前訪れた時とは明らかに違って見えた。かつて貴族の紋章が誇らしげに掲げられていた建物には、代わりに商会の看板や、真新しい行政機構の標識が並んでいる。石畳の広場では、身分に関係なく行き交う人々の顔に、どこか浮き足立ったような活気が満ちていた。長らく澱んでいた空気が入れ替わる瞬間というのは、こういう手触りをしているのかもしれない。
かつては王族として追放同然の扱いを受けようとしていたザノバだが、パックス陛下からの熱烈な要請により、共和国の指導者層の一人として名を連ねることになった。招待の手紙を受け取った際のザノバの驚きと喜びに満ちた表情は、今でも鮮明に記憶に残っている。あの巨躯の男が手紙を持つ手を震わせ、何度も文面を読み返していた姿は、私にとっても忘れがたい光景だった。
王城への入城手続きを進めていると、広場で偶然にもオルステッドと遭遇した。
「……オルステッド。貴方もこちらへ?」
「ああ。歴史の特異点が移動する瞬間だ。確認しておく必要がある」
相変わらず端的な物言いだったが、その双眸の奥には、この国の行く末を見極めようとする真剣な光が宿っていた。せっかくの機会なので彼も同行してもらうことにした。
謁見の間へ通される。玉座に至るまでの長い赤絨毯を歩きながら、私はふと、以前この城で経験した様々な出来事を思い出していた。ここもまた、私にとって浅からぬ縁のある場所だ。
私たちは慣例に従って深く頭を垂れたが、オルステッドだけは不遜なまでに直立したまま、玉座を見据えていた。本来なら不敬罪に問われる不自然な光景だが、彼の放つ圧倒的な威圧感を前に、文官も衛兵も誰一人として異を唱えることはできなかった。空気そのものが彼の存在によって張り詰めているかのようだった。
パックス陛下は予定外の「龍神」の登場に一瞬だけ動揺を見せたが、流石に一国の主だ。すぐさま平静を取り戻し、実務的な対応を開始した。
会議の内容は主に新設される共和国の構造と統治方針についてだ。議題は多岐にわたった。貴族制の名残をどう扱うか、商業ギルドにどこまで権限を委譲するか、周辺国との外交をどう再構築するか――一つ一つが、この国の未来を左右する重い決断ばかりだった。
オルステッドが以前授けた助言通り、パックス陛下は特定の特権階級ではなく、実利を重んじる商人たちを味方につけることで盤石な基盤を築きつつあった。会議の途中、パックス陛下が示した税制改革案の資料には、細やかな配慮と長期的な視野が随所に感じられ、私は密かに感心していた。かつての彼からは想像もつかない成長ぶりだ。
オルステッドは将来的に魔神ラプラスが誕生する予定の血筋が、この新しい国のシステムに正しく組み込まれていることを確認すると、満足げに鼻を鳴らして一人で立ち去っていった。相変わらず社交辞令の類には一切興味がないらしい。
「……ふぅ。龍神が目の前にいるだけで寿命が縮まる思いだった」
パックス陛下がようやく肩の力を抜き、苦笑いを浮かべた。額にはうっすらと汗が滲んでいる。
昼食はもはや恒例となった死神ランドルフ殿の手料理だ。今日の献立は、香草をたっぷりと使った鳥肉の香草焼きと彩り豊かな温野菜の盛り合わせ、そして仕上げに供された、とろりとしたクリームソースのスープ。どれもこれも、かつて刃を振るっていた男の手によるものとはとても思えない、繊細な味わいだった。
驚くべきことに、彼は最近自分の考案したレシピを本として出版し、かなりの利益を上げているらしい。
「共和国が安定した暁には王都に自分のレストランを開くつもりでしてね」
コック帽を被り、誇らしげに語るランドルフ殿の顔に、かつての暗殺者の面影は微塵もなかった。
「開店の折には真っ先に招待していただきたいな」
私がそう言うと、彼は嬉しそうに目を細め、「その時は、看板メニューにドーナツを加えてみるのも面白いかもしれませんな」と冗談交じりに返してきた。案外、悪くない話かもしれない。
食事を終えたところで、ザノバが自身の情熱を語り始めた。
「陛下。この国に、我が誇る人形店とノルン殿の描く絵本を扱う店舗を設立したいと考えているのですが、許可をいただけますでしょうか?」
パックス陛下は最初、娯楽品の流通に懐疑的な様子だった。国の再建期にあって、まずは実利のある産業を優先すべきだという判断も為政者としては理解できるものだ。だが、私がラノア王国での現在の売上高と、それがもたらす文化的な影響力を論理的に説明すると、彼は即座に「王としての判断」を下した。
「……なるほど、それほどの利益を生むのであれば拒む理由はないな。何より、ベネディクトがその絵本を心待ちにしているようだ」
隣でベネディクトが、私が持参した最新の絵本を宝物のように抱きしめているのを見て、パックス陛下は優しく微笑んだ。幼い王妃が絵本の表紙を何度も指でなぞる様子はこの場にいる誰の心も和ませた。
商売の許可は得られた。これから傭兵団『龍の爪』も全面的にバックアップし、シーローン支部の主要事業として育てていくつもりだ。最近、私たちは食品事業にも進出を開始しているため、ランドルフ殿のレストランとの提携も視野に入れられるだろう。頭の中では、既に流通経路や広告展開のプランがいくつか組み上がり始めていた。
対話が一段落した後、私たちは別室へと案内された。
パックス陛下とベネディクト様の間に生まれた、第一子を見せてもらえるという。廊下を進む間、ザノバの足取りが少しずつ重くなっていくのが分かった。
そして、ザノバは部屋の入り口で、ぴたりと足を止めた。
「……余は、ここで待たせてもらいます」
その声は、普段の朗々とした調子とはまるで違い、かすかに震えていた。彼の脳裏には、かつて力加減を誤って、自らの兄弟の赤子を死なせてしまった凄惨な過去がよぎっていたのだろう。その罪悪感は長年彼の心を縛り続けてきた。
「ザノバ。今の君の腕にはオルステッドと同じ『呪い軽減の腕輪』がある。そして何より、君はもうあの頃の何も知らない王子ではない」
私は彼の傍らに寄り、静かに諭した。技術者として、この呪いの構造は既に何度も検証済みだ。今の彼があの頃と同じ悲劇を繰り返す可能性は限りなく低い。だが、理屈だけでは割り切れないものが人の心には確かに存在する。
「……大丈夫です、殿下」
ジュリが、ザノバの震える手をそっと握り、真っ直ぐな瞳で彼を励ました。その小さな手のひらから伝わる温もりが、幾分かザノバの緊張を解いたようだった。
意を決して入室したザノバの前に、パックス陛下が自らの赤子を抱いて立った。
「……兄上。抱いてやってくれ。我が自慢の息子だ」
それは、一国の王としてではなく、一人の弟として、兄を全面的に信頼しているという証だった。パックス陛下の眼差しには一切の躊躇いがなかった。
ザノバは、まるで壊れやすい工芸品を扱うような、繊細で、慈しみに満ちた手つきで赤子を受け取った。太い指が、折れそうなほど注意深く小さな身体を支えている。
腕の中で眠る小さな命。
ザノバはしばらくの間、一言も発さずにその重みを噛み締めていた。やがて、その大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。
「……あ、ああ……。なんと、なんと温かい……」
その声は、感嘆と安堵、そして長年抱え続けた罪の意識から解き放たれる喜びとが複雑に絡み合ったものだった。ジュリが目元を拭いながら、その光景をじっと見つめている。
その光景を見て、私はこのシーローン共和国という新しいシステムが、決して崩壊することのない強固な絆で結ばれたのだと確信した。私はザノバの背中を、静かに、優しく叩いた。
今日はビヘイリル王国の深い森へと足を運んでいる。
同行者はエリス、アレク、そして珍しく自分から「付いていきたい」と申し出てきたノルンだ。道中で里の復興作業に当たっていたルイジェルドと合流し、私たちはさらに森の奥深くへと進んだ。ノルンはまぁ、ルイジェルド目当てだろう。
彼女は森を歩きながら、やたらとルイジェルドに植物の名前や薬草の使い方を尋ねては、熱心にメモを取っていた。絵本の取材だと本人は主張しているが、その頬がほんのり紅潮しているのを、私は見逃さなかった。
背後では重力魔術で浮かせた大量の土産物が列をなして浮遊している。木箱、酒樽、それに冷気魔術で包んだ保冷用の箱まで、ちょっとした行商隊のような光景だ。
目的地はかつての強敵であり、今は中立の立場にある男の隠れ家だ。
闘神バーディガーディ。
彼は敗北後、
私はその潔い自己分析を評価し、時折こうして酒の差し入れを持って様子を見に来ている。もはや、私にとってはちょっとした慰問旅行のようなものになりつつあった。
森を抜け拓けた広場に足を踏み入れると、今日の拠点はいつもと様子が違っていた。焚き火の周りに見慣れない巨躯の影がある。
「おや、先客か」
そこにいたのは、巨躯を誇る『鬼神』マルタだった。丸太のような腕を組み、こちらをじっと見据えている。
「……カシラ。来たか」
不慣れな人間語で挨拶しようとするマルタに、私は「魔神語で構わない」と返した。すると彼は安堵したように表情を緩め、流暢な魔神語で近況を語り始めた。ビヘイリルの復興作業の進捗、鬼ヶ島との交易再開の話、若い鬼族たちの武術修行の様子――話しぶりからは歴戦の指導者としての威厳が伝わってきた。
驚いたのはノルンだ。彼女は最近、ミリスでの絵本製作の資料調査を兼ねて魔神語を猛勉強していたらしく、鬼神の言葉を概ね理解して適切に応対していた。マルタも、まさか人族の若い娘が自分の言葉を解するとは思っていなかったのだろう、目を丸くして感心していた。
アレクにいたっては、バーディガーディは血縁上の大叔父にあたる。
「大叔父上、ご無沙汰しております。北神カールマン三世、アレクサンダー、参上いたしました!」
「はーっはっは!アレクか!相変わらず堅苦しい奴よ、もっと肩の力を抜け!」
アレクの真面目すぎる挨拶に、バーディガーディは腹を抱えて笑っていた。その豪快な笑い声だけで、森の鳥たちが一斉に飛び立つほどだ。
「さて、まずは土産を。各国から取り寄せた最高級の酒を二十樽ほど用意した」
「おお!待っておったぞ!マルタ殿も遠慮せず飲んでいくが良い!」
バーディガーディに誘われ、マルタも少し羨ましそうにしていた目を細めて喜びを表した。鬼族は元来、酒に強い種族が多いと聞く。今日は良い勝負が見られるかもしれない。
「だが、今日はさらにもう一つ。とっておきのサプライズを用意している」
私は、一際大きな木箱を重力操作で前へと出した。
「……何だ?生き物でも入っておるのか?」
バーディガーディが怪訝そうに蓋を開けた、その瞬間。
「サプライズは妾!魔界大帝キシリカ・キシリスであーる!!」
中から小さな影が勢いよく飛び出した。
「おお、我がフィアンセ、キシリカではないか!!」
「ファーハハハ!バーディよ、久しぶりじゃな!」
二人は再会を祝して豪快に抱き合った。以前、アトーフェに会いに行った際に彼女と再会し、バーディガーディの近況を話したところ、どうしても付いていくと駄駄をこねられた結果がこれだ。木箱の中に押し込むという少々乱暴な運搬方法になったのは、彼女自身の強い希望による――本人曰く「その方が驚きが増すじゃろう」とのことだった。
キシリカも加わり、宴は一気に加熱した。
エリスも、ルイジェルドも、ノルンも、バーディガーディの底抜けに明るい気配に中てられたのか実に楽しそうに笑っている。焚き火の炎が夕闇の中で揺らめき、賑やかな声が森の奥へと響いていく。
マルタが「……若い衆も呼んでもいいか?」と訊ねると、バーディガーディは「おう、どんどん呼べ!酒は唸るほどあるぞ!」と即答した。
数分後には里のスペルド族や鬼ヶ島の鬼族までが集まり、平原は大規模な酒宴の会場へと書き換えられた。あちこちで焚き火が焚かれ、串焼きの香ばしい匂いが立ち込め、誰かが即興で楽器を鳴らし始める。種族の垣根を越えた、まさに異種族入り乱れての祝宴だ。
私はここで、もう一つの木箱を開放した。
「実験を兼ねて、新製品を持ってきた」
冷気魔術で鮮度を保っていた大量のドーナツだ。輪の形をした揚げ菓子が、木箱いっぱいに詰め込まれている。
これを目にした瞬間、キシリカの瞳が一点に固定された。
「これは……!まさか、あの時の……!!」
彼女が狂ったように貪り食い始めるのを見て、私の仮説――『魔族はドーナツに抗えない説』は確信へと変わった。データはまだ二例目だが、これで十分な再現性があると言っていいだろう。
「うむ!!これほどの美味を口にするのは何百年ぶりか!よこせキシリカ、半分は我輩の分だ!」
「嫌じゃ!これは妾のドーナツじゃ!」
魔王と魔帝が子供のようにドーナツを取り合っている。ルイジェルドも無表情ながら「……美味いな」と呟き、黙々と食べ続けている。鬼神マルタとその部下たちにいたっては、あまりの衝撃に言葉を失い、次々と口に放り込んでいた。中には、あまりの美味しさに涙ぐんでいる若い鬼族の姿まであった。
(よし。アイシャ、これは確実に市場を独占できるぞ。スペルド族の里へも売れそうだ)
心の中で私は次の商機をしっかりと算段していた。
やがて、アレクとエリス、そして鬼族の若者たちの間で「飲み比べ」が開始された。誰が言い出したのかは定かではないが、盛り上がった宴の勢いというのはこういう即興の余興を生み出すものらしい。
結果は早かった。まずエリスが崩れ落ち、次いでアレクが沈没した。二人とも剣士としてのスペックは高いが、アルコール耐性は常人の域を出ないようだ。エリスは頬を赤くしたまま「まだ……いけるわよ……」とうわ言のように呟いていたが、次の瞬間には机に突っ伏していた。アレクも似たようなもので、豪快な笑い声を上げたかと思うと、そのまま静かに沈黙した。
「……ふむ。仲間の敵を取らねばならんな」
今の私の肉体は十歳児程度だが、内蔵されているのは竜の因子。毒素耐性は最大値に設定されている。この身体になってからアルコールに酔うという現象を経験したことがない。いささか味気ない体質だとも思うが、こういう場では純粋に有利だ。
私はマルタから差し出された盃を受け取った。
「どこまで飲めるか、検証してみよう」
次々と挑んでくる鬼族の戦士たちを、私は淡々と、けれど確実に酔い潰していった。一人、また一人と、屈強な鬼族の若者たちが盃を空にしては、地面に転がっていく。その様子を遠巻きに見ていたスペルド族の子供たちが、いつしか「雷神さま、すごい!」と歓声を上げるほどの見世物になっていた。
最後には、酒樽を片手にした鬼神マルタと私の、一対一の対決となった。
「……カシラ。侮っていたわけではないが、正直、驚いておる」
マルタが盃を傾けながら、そう漏らした。
「私も驚いているよ。マルタ殿、さすがは鬼神だ」
酒樽と盃が何度も交わされ、周囲の視線が二人に集中する。バーディガーディはキシリカを膝に乗せたまま、この一騎打ちを楽しそうに眺めていた。
背後では、バーディガーディがキシリカを膝に乗せたまま、月明かりの下で豪快に笑い続けていた。戦争の火種が消え、かつての敵と味方が同じ釜の飯……ならぬドーナツと酒を食らう。これほど非効率で、けれど心地よい体験は、私の記憶の中にも他に類を見ないものだった。
夜が更けるまで、宴は続いた。焚き火の火の粉が夜空に舞い上がり、まるで小さな星のように森の闇に溶けていく。かつて殺し合った者たちが、今はこうして一つの火を囲んでいる。この歪で、けれど確かに温かい光景こそが、長い戦いの果てに私たちが手に入れたものなのだろう。
シーローンとビヘイリルのお話でした。
バーディは原作ほど不自由をしていません。森の中であれば移動できるので、狩り等をして普段は過ごしているようです。