無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
私たちは最大級の目的の一つであった「ナナホシの帰還」を試みた。空中城塞ケィオス・ブレイカーに設置された巨大な転移装置。そこに、ペルギウスや私の全リソースを注ぎ込んだ。
見送りには、シルフィとエリス、そしてルードが顔を出してくれた。三人とも、転移装置を見上げながらどこか落ち着かない様子だ。
「気をつけてね、ルディ」
「ああ、行ってくる」
シルフィが小さく手を振り、エリスは腕を組んだまま黙って頷いた。ルードは何か言いたげにしていたが、結局「……頼んだ」とだけ口にした。
座標の詳細な指定を行うためには、王竜剣カジャクトを有する私の同行が必須である。ペルギウスたちが組み上げた転移座標の演算式に、カジャクトの重力制御機能を組み込むことで、これまでとは比較にならないほどの精度が実現できる。
装置の周囲では最終調整が進められていた。ペルギウスの配下たちが石版の一枚一枚に魔力を通し、異常がないかを丹念に確認していく。アルマンフィが光の粒子となって装置の隙間を縫うように移動し、洞察のカロワンテが座標演算の結果を静かに読み上げていく。何度も繰り返してきた手順のはずだが、今日ばかりは空気が張り詰めていた。
ナナホシは旅装に身を包み、大きなリュックを背負って装置の中央に立っていた。
「ペルギウス様。……今まで、本当にお世話になりました」
「うむ。……励め」
ペルギウスは短くそれだけを返した。饒舌でない分だけ、彼女の門出を静かに見送ろうとしているのが伝わってくる。
私はナナホシの隣、手形の描かれた位置に立ち、両手を魔法陣に触れさせた。
「……合図がきたら魔力を流し込む」
ナナホシは緊張が隠しきれない表情で頷いた。
「では、始める」
ペルギウスの号令とともに配下たちが一斉に魔法陣へと手を触れた。石版の縁が淡く光を帯び始める。私はタイミングを計り、両手から魔力を注ぎ込んだ。
魔法陣が輝きを増していく。青、緑、白――見慣れた光の遷移だ。ここまでは、何度も繰り返してきた工程と何一つ変わらない。
「調子は良さそうだな」
隣でナナホシが安堵したように呟いた、その時だった。
魔法陣の輝きに、一筋の黒い陰りが差し込んだ。
「……黒い?」
以前にも一度だけ見た色だ。あの、実験が失敗に終わった時の色。
「ルーデウス!魔力を絞るな、そのまま維持しろ!」
ペルギウスの鋭い声が飛ぶ。私は言われるまま、魔力の供給を一定に保ち続けた。だが、黒い陰りは収まるどころか、じわじわとその面積を広げていく。
「……ッ!」
腕に、何かに引っ張られるような強い抵抗を感じた。魔力が吸い出される感覚そのものはいつも通りだが、その「流れ」が、いつもとは明らかに違う方向へと歪んでいる。
「ナナホシ、何か感じるか!?」
「分からない……でも、何かが、変……!」
パヂッ、という音とともに、光が一瞬にして弾けた。
視界が真っ白に染まり、次の瞬間には、耳が痛くなるほどの静寂が訪れていた。
――静けさに、まず気づいた。
土と、湿った草の匂い。頬を撫でる、湿度の高いぬるい夜風。そして、頭上には見慣れないほど瞬く星々。
私は、深い森の中に立っていた。
「……嘘だろう」
自分の両手を見下ろす。震えてはいない。だが、身体の奥には、経験したことのないほどの倦怠感が渦を巻いていた。膨大な魔力を一気に持っていかれた後特有の、あの空虚な感覚だ。
周囲を見回すが、ナナホシの姿はどこにもない。
「……私だけ、転移したのか」
信じがたい事態だった。あれほど入念に調整を重ねてきた装置だ。まさか、自分だけが転移するとは、想定の埒外もいいところだった。
だが、混乱している暇はない。異常事態が発生したのなら、一刻も早くシャリーアへ、いや、ケィオス・ブレイカーへと戻らねばならない。ナナホシとペルギウスたちが、私の身を案じているはずだ。
私は即座に、体内に残る魔力を確認した。
「……まずいな」
想像以上に魔力は枯渇していた。異世界転移自体が魔力の消費が大きいのに加えて、今回はイレギュラーが起きて更にそれが大きくなったのだろう。今すぐ帰還用の魔法陣を組もうにも、このままではとても足りない。
一晩、いや、それ以上休まなければ、まともに術式を維持することすらできないだろう。
深く息を吐き、私は気持ちを切り替えることにした。焦っても状況は変わらない。ならば、今この瞬間にできることをやるしかない。
今、私が立っているこの場所は――木々の隙間から漏れる遠くの灯り、かすかに聞こえる車の走行音、規則的な地形の気配を纏っている。
カジャクトによる座標演算の恩恵は、想像以上のものだったのかもしれない。この様子なら、ナナホシの住所からそう遠くない場所に降り立った可能性が高い。
時刻は、恐らく深夜。空気の冷たさと静けさが、そう告げていた。
「……なら、やることは一つだな」
私は懐に忍ばせていた荷物を確認した。
使用済みのインスタントカメラ、そして分厚い封書が一つ。
まずは、ナナホシの自宅へ向かった。
今回、彼女自身が転移するはずだった以上、彼女からの手紙は用意されていない。だが、代わりに私は、ケィオス・ブレイカーで撮影しておいた今のナナホシの姿を写した一枚を持ってきていた。健やかに、こちらの世界で日々を過ごしている娘の姿。それだけでも、両親にとっては何よりの安心材料になるはずだ。
森を抜け、住宅街の明かりを頼りに歩くこと数十分。ようやく、見覚えのある表札を見つけた。以前、見た景色と家並みが一致する。
私はポストの投函口に、インスタントカメラとナナホシの写真が撮影されている旨が記載されたメモをそっと滑り込ませた。
次に向かったのは、ルードの実家だ。彼自身はもうこの世界に帰るつもりはないという。それでも、家族に謝罪と、そして感謝の言葉を届けたい――そう語っていた彼の想いを、私は預かってきていた。
以前のナナホシの手紙にも劣らないほどの厚みを持つ封書。幸い、彼の実家はそう遠くない位置にあった。私は同じように、静かにポストへとそれを投函した。
(これで、二人分の想いは届けられた……はずだ)
さて、魔力は……さすがにまだ足りないか。
ついでに買い出しもしておきたいところだった。ナナホシの両親への土産や、ロキシーや子供たちが心待ちにしている異世界のお菓子など、頼まれ事は山のようにある。
だが、深夜帯に街を出歩き、あちこちで買い物をして回るのは流石に無理があるだろう。コンビニくらいしか開いていない。魔力の回復を考えれば、じっとしておいた方が良い。
「……今回は、諦めるしかないな」
小さくため息をつき、私は来た道を引き返し、再び森の奥へと足を向けた。
森の奥、周囲から人目につかない場所を見つけると、私はその場に腰を下ろした。
(そういえば……)
思い出し、鞄の中から小さな薬瓶を取り出す。魔力回復用ポーションの試作品だ。ルードと二人で、あるゲームに登場するアイテムから着想を得て開発した代物だった。彼が語る「異世界のゲームでは、魔力や体力を瓶の中身一つで回復できる」という話に触発され、暇を見つけては素材の配合を試していたのだ。
「……検証も兼ねて、試すか」
蓋を開け、一気に飲み干す。ほんのりと甘い薬草特有の後味が口の中に広がった。
しばらく待ってみたが、体感できるほどの回復量ではない。体内の魔力量を確かめてみても、上昇はごくわずかだった。
「……まだまだ改良の余地があるな」
これでオルステッドクラスの魔力消費を賄おうと思えば、焼け石に水どころの話ではない。もっと根本的な配合の見直しが必要だろう。技術者としての血が疼くが、今はそれどころではない。
私はその場に横になり、目を閉じた。
二時間ほど、浅い眠りについただろうか。目を覚ますと、身体の奥に、辛うじて必要な分だけの魔力が戻っているのが感じられた。
「……よし、これなら足りる」
私は立ち上がり、
カジャクトを片手に持ち、その重力制御機能を借りながら、慎重に座標を合わせていく。もし精度を誤れば、また別のどこかへ飛ばされかねない。
「……頼むぞ」
魔法陣に魔力を流し込む。
視界が白く染まり、次の瞬間には、あの独特の浮遊感が全身を包んだ。カジャクトの座標補正のおかげか、今回は迷うことなく、目的の場所へと真っ直ぐに引き戻されていく感覚がある。
光が収まると、見慣れた石の床が視界に広がった。
「……戻ってきた、のか」
安堵の息を吐いた私の前に、光の粒子がふわりと集まり、人の形を成していく。アルマンフィだった。
「ルーデウス殿。無事で何よりだ」
「アルマンフィ。……どれくらい経過した?」
「四日ほど」
……思っていたより時間は経っていたが、前回よりマシか。
空はうっすらと白み始めている。今は早朝といったところだろう。
「ペルギウス様への報告は、朝食を済ませてからで構わないか?」
アルマンフィに聞くと、首肯が返ってくる。
「……それより、ナナホシの様子は」
尋ねると、アルマンフィの声のトーンがわずかに沈んだ。
「……眠れていないようだ」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
廊下を進んでいると、向こうから駆け寄ってくる人影があった。ルードだ。
「ルーデウス!よかった、無事だったんだな……!」
「ああ。心配をかけたな」
「本当だよ、四日間も戻ってこないから……」
ルードは心底安堵したように、大きく息を吐いた。
「私は無事に異世界にたどり着いた。お前の手紙も、ちゃんとポストに入れてきたよ」
「……ありがとう、な」
彼はそれだけ言うと、一瞬だけ目を伏せた。感謝の言葉の裏に、様々な感情が詰まっているのが伝わってくる。だが、彼はすぐに顔を上げた。
「でも、今はナナホシのことだ。あいつ、ずっと部屋に閉じこもって、何かを考え込んでる。……眠れてもいないみたいだ」
「今も、起きているのか?」
「多分な」
私はアルマンフィに視線を送った。空中城塞で起こっていることは、良くも悪くも全てペルギウスとその配下たちの把握するところだ。
「今もまだ起きているようだ」
アルマンフィの返答に、私はルードと顔を見合わせ、頷き合った。
「行くか」
「ああ」
ナナホシの部屋の前に立ち、扉をノックする。
「……誰?」
力ない声が返ってきた。覇気のない声色だった。
「私だ。ルードも一緒だ」
「……どうぞ」
扉を開けて中に入ると、そこには、酷い隈を目の下に湛えたナナホシの姿があった。
「……今回は、早かったわね」
彼女はベッドの縁に腰掛けたまま、力なくそう呟いた。
「ナナホシ。転移にどんな不具合が起こったんだ」
私が尋ねると、彼女は緩慢に首を横に振った。
「……不具合は、なかったわ。ペルギウス様も、そうおっしゃっていた。……でも、私は転移できなかった」
その言葉のまま、しばらく沈黙が流れた。ナナホシは、膝の上で自分の指を組み合わせ、じっとそれを見つめている。彼女がこの数日間、ずっとこの問いについて考え込んでいたことは、その憔悴しきった様子からも明らかだった。
「……たぶん、私にはまだこの世界で果たすべき『役割』が残っているんだわ。未来で篠原秋人と一緒に帰る約束とか……あるいは、彼をあちらに送り返すための装置の使い方を伝えるとか。そういう確定した未来が、今の私の離脱を許さないのよ」
彼女が言うには、これは一種のタイムパラドックスへの防衛本能のようなものらしい。すでに「未来の時代」に彼女が存在している、あるいは存在することになっている場合、今この時点で帰還してしまうと時空の因果が崩壊してしまう。世界は改変を避けるために、魔法陣の動作を強制停止させたのだ。
「……だから、私は待つことに決めたわ。その未来が来るまで、時間のスケアコートの力で眠り続ける。それが一番、確実で合理的な方法よ」
その声には、諦めというよりも、むしろ静かな決意が宿っているように聞こえた。ルードは何か言いたげに口を開きかけたが、結局、何も言えずにただ俯いていた。
「……分かった。今は、それを尊重しよう」
私がそう答えると、ナナホシはわずかに口元を緩めた。
「ありがとう、ルーデウス」
それ以上、この場で語るべき言葉は見つからなかった。私とルードは、静かに彼女の部屋を後にした。
食堂に移り、ルードと二人で遅い朝食を取りながら、私たちはナナホシの話を続けた。
「……なぁ、ルーデウス。何か、手はないのか?」
ルードが、パンを千切る手を止めて尋ねてきた。
「彼女の言う『役割』とやらが果たされる未来を、こちらから作ってやれないか、ってことか」
「ああ。ずっと眠り続けるだけなんてあんまりだろ。ナナホシの両親だって納得しない」
その気持ちは、私にもよく分かった。
「ナナホシの仮説が正しいなら、鍵になるのは篠原秋人という人物の存在だ。……もし、彼が召喚される必要すらない未来を、こちらで先に作ってしまえたら、どうなると思う?」
「そりゃ……ナナホシの役割も、無くなるってことか?」
「そうだ」
言葉にしてみると、単純な理屈だ。だが、その実現にはもっと情報を収集する必要がある。
ルードは黙って考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「……分かった。俺にできることがあれば、何でも言ってくれ」
「頼りにしているよ」
朝食を終える頃には、頭の中で、これからの方針がおおよそ形になり始めていた。
朝食の後、私はペルギウスとの謁見の席に呼ばれた。
謁見の間に入ると、ペルギウスは玉座に腰掛けたまま、明らかに不機嫌な顔をしていた。眉間には深い皺が刻まれている。
「……ご報告いたします」
私はまず、自分の身に起きたことを順を追って説明した。転移そのものは問題なく完遂し、異世界――恐らくはナナホシの故郷にほど近い場所へと降り立てたこと。そして、カジャクトを併用したことで、座標指定の精度がこれまでとは比較にならないほど向上していたことを。
「……ふむ。カジャクトの重力補正、思った以上の成果だな」
その報告にペルギウスは僅かに顎を引いた。だが、その表情に晴れやかさはない。話題は自然と、ナナホシのことへと移った。
「……ナナホシの言う現象について、貴様はどう見る」
「彼女自身の見立てでは、未来の因果を守るための強制停止……ということでした」
「非論理的な話だ」
ペルギウスは吐き捨てるように言った。
「我の術式に不備があるはずがない。……いや、あってはならぬのだ。あの魔法陣は、我と我が弟子の、これまでの全てを注ぎ込んだ結晶。因果だの運命だのという、得体の知れぬ言葉で片付けられてたまるものか」
その語調には、単なる技術者としての矜持を超えた、何か切実な感情が滲んでいるように思えた。
「……ペルギウス様がそう仰るのも分かります。ですが」
私は一拍置いて、続けた。
「非論理的かもしれませんが、一つ、考えていることがあります」
「申してみよ」
「ナナホシが言うには、彼女には果たすべき『役割』がある。それが、これから先の未来において、彼女でなければならない理由になっている――ということでした。だとすれば、逆に、その役割を『不要にしてしまう未来』を、我々が先んじて作り出せばいい」
ペルギウスは無言のまま、続きを促すように私を見据えた。
「彼女が語っていた『ナナホシでなければならない役割』というものがあるとすれば、それは恐らく、異世界の知識、もしくは転移魔術の技術に関わるものでしょう。ならば、それが彼女の手を借りずとも、この時代のうちに実現してしまえば……彼女の役割そのものが消滅するはずです」
「ふむ……」
「ナナホシが名を挙げていた、篠原秋人という人物についても、同様のことが言えます。そもそも彼が未来において召喚されるに至った理由――それすらも、遡れば何かしらの必然があるはずです。もし、彼が召喚される必要のない世界線を、こちらから先に作れたなら」
「ナナホシもまた、召喚される必要がなくなる、ということか」
ペルギウスが、私の言葉を先取りするように呟いた。
「その通りです。……そのために、私は因果律そのものを変えるために動くつもりです」
「因果律を変える、か。……具体的には、どうする」
「正直、正解が分かっているわけではありません。ただ、因果律そのものを操れる存在があるとすれば、それは各地に散る神級の力を持つ者たちではないでしょう。もっと上位の――未来を見通し、それを操作できる存在。今のところ、私の知る限り、それに該当する存在は一つしか思いつきません」
「
私は頷いた。
「なるべく早く、
ペルギウスはしばらくの間、黙って私を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……分かった。貴様の考え、一理あるように思う。しかし、我はあくまで、魔法陣の不備という可能性を捨てぬ。ラプラス復活までの間、術式の改良を続けよう」
「ご協力、感謝いたします」
「感謝は要らぬ。……我の意地でやることだ」
そう言ってから、ペルギウスは静かに目を伏せた。
「ナナホシの決断については、我も尊重しよう。あの娘が望むなら、スケアコートの権能で、深い眠りへとつかせる」
こうして、ナナホシは再び、時間のスケアコートの力によって、長い眠りへとついた。
時間のスケアコートも、二十四時間三百六十五日の連続稼働を続けるには、流石に負担が大きいらしい。月に一度、ナナホシは目を覚ますことになった。
その日は、私とペルギウス、そしてルードの三人で現在の実験結果を共有し、彼女と短いティータイムを過ごすのが新たな恒例行事となった。以前のような張り詰めた空気はなく、どちらかといえば、穏やかな時間だ。ナナホシも、少しずつではあるが、以前の調子を取り戻しつつあるように見えた。
そして今では、二ヶ月に一度のペースでナナホシの故郷へ赴くことが、私の定期的な業務の一つとなっている。
主な任務は、ナナホシとあちらの両親との手紙のやり取りだ。直接顔を合わせることは叶わなくとも、近況を知らせる確かな情報が定期的に行き来することで、ナナホシの精神状態は劇的に安定していった。あちらのご両親も「娘は元気にやっている」という確信を得て、以前よりもずっと前向きに彼女の帰りを待ってくれるようになっている。
毎回の訪問ではペルギウスから決まって買い出しを頼まれる。異世界のお菓子にすっかり夢中になっているロキシー、子供たち、そしてアイシャの分もだ。彼女たちに渡す度、子供のように目を輝かせる姿を見るのは、密かな楽しみの一つになっていた。
ルードはこちらで作っているドーナツのラインナップを、異世界レベルにまで拡張したいらしい。あちらの菓子を熱心に視察しては、様々な素材をメモしている。材料の一部がこちらの世界で育てられるかどうかも、そろそろ本格的に検証してみるつもりだ。
私自身は家電関連の技術に強い関心を抱いていた。特に、電気の応用については、いずれこちらの世界にも普及させたいという野心がある。魔術による電撃の再現とはまた違う、体系化された技術としての「電気」――その仕組みを学ぶたび、技術者としての血が疼くのを感じた。
ナナホシの両親を経由して、こちらの宝石や金を現金化する流れも整いつつある。聞けば、大きな金貨よりも小さなインゴットに加工した方が換金しやすいのだという。こうした地道な積み重ねがいずれ大きな資金源になるはずだ。
だが、何より優先すべきは、
ナナホシの役割を、この時代のうちに不要なものへと変えるために。そして、いつか彼女が心置きなく目を覚まし、望む未来へと歩き出せるように。
私は、戦力の増強を本格化させることに決めた。
ナナホシのお話でした。
二カ月に1度の出張であれば、相当色々な物を異世界から持ち込めますね。