無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side: ルーデウス
オルステッドからの依頼を完了し、シャリーアの自宅への帰路についている。
今回の任務は魔大陸に住むとある魔族の子どもの保護だった。保護対象そのものはすぐに見つかったので、そこまでは順調だったのだが――問題はその子どもが魔物の群れに囲まれていたことだ。想定していたよりも数が多く、思いのほか手こずってしまった。
しかも、保護対象の子どもは大人しくじっとしていてはくれない。あちこち動き回る小さな身体を巻き込まないよう手加減しながらの戦闘は、想像以上に神経を使う。今後、こうした保護任務ではもう少し立ち回りを工夫する必要がありそうだ。
そんなことを考えながら夜道を歩いていると、シャリーアに着く頃には、もうすっかり夜の帳が下りていた。明かりの消えた民家も多く、ぽつりぽつりと灯る窓明かりだけを頼りに私は帰路を急いだ。
(夕飯は食べそこなったな……家に何か食べるものがあれば良いのだが)
そんなことを考えながら玄関の扉を開けると、そこにはアイシャが待っていてくれた。
「おかえりなさい、旦那様」
「ただいま、アイシャ。……こんな時間まで、起きていてくれたのか」
他の皆はもう寝静まっている頃だろう。それでも彼女だけはこうして起きて出迎えてくれる。ありがたいことだ。
「ありがとう」
素直にそう告げると、アイシャは嬉しそうに顔をほころばせた。
「何か食べるものは残っているか?」
「もちろんです。旦那様の分、ちゃんと取り置いておきましたから」
今夜の献立は、シチューとパンらしい。空腹には何よりのご馳走だ。
私はアイシャに続いて、大家族のためにやたらと広く作られた食卓へと向かった。
すると、その食卓の一角に突っ伏したパウロの姿があった。近くには空になった酒瓶が転がっている。この様子ならリーリャもまだ起きているだろう。テーブルの上には簡素ながらも旨そうなつまみがいくつか並んでいた。
物音に気づいたのか、パウロがのっそりと顔を上げた。
「……おう、おかえり」
「ただいま戻りました、父さん。……何かあったのですか?」
いつになく沈んだ様子のパウロに、私はそう尋ねた。
パウロは酒瓶を弄びながらぽつりぽつりと話し始めた。剣術道場の話だという。
「……最近な、教えてて伸びる奴と、伸びない奴がいるんだよ」
「伸びない、というのは?」
「同じことを教えてるはずなんだがな……。俺の指導が間違ってるのかもな」
自嘲気味にそう漏らすパウロの姿は、いつもの豪快な彼らしくなかった。
なるほど、と私は内心で頷いた。パウロの指導法は、良くも悪くも根性論だ。「気合で乗り越えろ」「身体で覚えろ」という、彼らしい熱の入った教え方をする。
闘気を発揮する修行という意味では、それも決して間違いではない。闘気とは、突き詰めれば生命力――ある種、気合の領分に近いところもある。だが、技巧派の素質を持つ門下生に対しては、あまり噛み合わないやり方だろう。
「父さんの教え方は、闘気を鍛えるには向いていると思いますよ。……ただ、技巧を磨きたいタイプの人間には、少し合わないのかもしれません」
「技巧、か……」
「……ギレーヌの指導法には、見習うところがあるかもしれませんね」
「ギレーヌが?」
「ロアにいた頃、何度か見る機会がありました。……ああ見えて、彼女の指導は非常に合理的なんです。しっかりとした型を身につけさせて、立ち合いの後には、何が良かったのか、何が悪かったのかを一つ一つ丁寧に説明してくれる」
パウロは唸るように腕を組んだ。
「……そういうのは俺、苦手なんだよな」
「苦手でも指導者を名乗るなら、身につけないといけないのでは?」
私がそう言うと、パウロは一瞬、驚いたような顔をした。それから、どこか気恥ずかしそうに頭をかいた。
「……そうだな。多くの奴を教えるようになって、ようやく分かってきたよ。指導者ってのもそう簡単なもんじゃないってな」
そう言ったかと思うと、パウロは急に居住まいを正し、私の方へと身を乗り出した。
「なぁ、ルディ。……一度、お前が手本を見せてくれねぇか」
「私が、ですか」
「頼む!」
思いのほか真剣な様子で頭を下げられ、私は思わず苦笑した。
(仕方ないな……明日は、自分の研究に充てようと思っていたのだが)
「分かりました。明日の朝練から私も指導に加わりましょう」
「本当か!」
「ただし」
私は一つ、釘を刺しておくことにした。
「私が教えられるのは、水神流と、北神流の基礎程度です。剣神流については、父さんの方が詳しいでしょうから」
「十分だ、十分だよ!」
パウロは酒で赤らんだ顔をさらに輝かせ、何度も頷いた。
そうして私は、翌朝から時折、剣術道場で指導を行うことになったのだった。
賑やかな朝食の時間だった。家族が勢ぞろいした食卓に、アイシャが開発した塩麹漬け肉をたっぷりと挟んだサンドイッチが並んでいる。
「聞いて聞いて!ギルドですごい話を聞いたのよ!」
そのサンドイッチを頬張りながら、エリスが目をきらきらさせて話し始めた。彼女は自分自身の鍛錬や傭兵団の指導に加え、時折こうして冒険者としての依頼もこなしている。その実力は既に剣王の領域を優に逸脱している。あちこちのパーティから引く手数多なのも頷ける話だった。
「ラノア王国に新しい
その一言に、アルスの目が輝いた。いや、アルスだけではない。隣に座るロキシーの瞳にも、隠しきれない好奇心の光が宿っている。一方、ルーシーは不思議そうに首を傾げ、ララはまだ眠いのか、ぼんやりとスプーンを咥えたままだった。
「そういや俺の方にもギルドから依頼が来てたぞ。二つ同時なんて珍しいな」
パウロが思い出したように言う。
「どれくらい難しい
ゼニスが尋ねると、エリスは首を横に振った。
「まだ見つかったばかりだから、難易度は分からないの。だから、難易度設定のために実力者に一度潜ってほしいってギルドから頼まれたのよ。なるべく早めに、って」
そして、彼女は嬉しそうに提案した。
「皆で行きましょうよ!」
「俺も行く!」
アルスがぴんと手を挙げたが、流石にまだ早すぎるだろう。私がやんわりとそう告げると、彼はしょんぼりと肩を落とした。
「私は構いません」
「私も行こう」
ロキシーと私は、ほぼ同時に了承の意を示した。
「ルードも誘ってみるか。事務所の業務をしながら冒険者としても動いていたはずだ」
私がそう提案すると、パウロが「それはいいな!」と即座に同意した。
「シルフィも来なさいよ、最近運動不足でしょ」
エリスがそう水を向けると、シルフィは少し苦笑しながら頷いた。
「……確かに、そうかも。私も参加しようかな。リーリャさん、良いかしら?」
「問題ございません」
リーリャが穏やかにそう答える。
「たまには、外で羽を伸ばしてらっしゃい」
ゼニスも笑顔でそう送り出してくれた。侍従の数も十分に足りている以上、心配はいらないだろう。
「決まりね!……ごちそうさま!レオ!食後の運動に行くわよ!」
エリスは元気よくそう言うと、席を立って駆け出していった。レオも大好きな散歩の気配を察したのか、慌てて彼女の後を追いかけていく。
「あっ、リード忘れてます!」
アイシャがそれに気づき、慌てて二人の後を追いかけていった。
当初は全員一つのパーティを組んで
ギルドとしては、一刻も早くこの二つの
「これだけ人数がいるんだ。二手に分かれて、それぞれ攻略しちまうか」
パウロがそう提案した。
「危険ではありませんか?」
ロキシーが心配そうに眉を寄せる。
「ギルドからは、危険を感じたらすぐ引き返して構わないと言われているのだろう?……まぁ心配は分かるが、二つの
私がそう補足すると、ロキシーもようやく納得したように頷いた。
チーム分けは、くじで決めることになった。
「……この紙、しっかり握らないと」
ロキシーが妙な気合を入れて、くじを引く手に力を込めている。どうやら私と同じチームになりたいという願いが滲み出ているらしい。
ルードもまた、私と同じチームを希望しているようだった。理由を聞けば、「パウロさんとルーデウス以外は、そんなに話したこともないから」とのことだった。
シルフィがてきぱきとくじ引きの準備を整え、全員分を開封していく。
結果は、こうなった。
チームA:エリス、シルフィ、ロキシー
チームB:パウロ、私、ルード
見事なまでに、男女で綺麗に分かれる結果となった。
「……そんな」
ロキシーとシルフィが、揃ってがっくりとうなだれていた。
Side: ロキシー
エリス、シルフィと一緒に、
本当はルディと一緒に行きたかったのですが……くじ引きの結果なら仕方ありません。私は昔から、この手の運には恵まれないのです。まぁ、また別の機会にルディを誘うことにしましょう。
このパーティの中では、私が一番の年長者です。しかも
ずんずんと迷わず先へ進もうとするエリスを、時々抑えながら進みます。魔物が現れれば、エリスが一瞬で切り伏せてしまいます。
「魔大陸の魔物に比べたら、全然弱いわね」
エリスは少し物足りなさそうに漏らしていましたが、あちらの魔物が出てきたら、ラノア王国の並の冒険者ではひとたまりもないでしょう。
私は一つ一つの罠を丁寧に確認しながら、慎重に歩を進めていきます。しっかり者のシルフィがフォローしてくれるので、とても心強いです。
このダンジョンの難易度としては、おそらくC級といったところでしょうか。地図を作りながら、出現する魔物の情報も細かくメモしていきます。特別強い魔物もおらず、罠も単純なものが多い印象です。
半日ほど探索を続けたところで、今回は一旦脱出することにしました。調査としては十分な成果と言えるでしょう。エリスの戦闘力と、シルフィのフォローのおかげで、半日とは思えないほど詳細にマッピングすることができました。
帰り道、エリスが楽しそうに提案してきます。
「ルーデウスたちのチームと、どっちが多く踏破できたか競争ね!」
彼女なりに、
外に出ると既に日が傾き、辺りは夕暮れの色に染まっていました。来るときに使った馬車にいくつかの戦利品を積み込み、私たちはルディたちが挑んだ
ルディのことですから、きっと大丈夫でしょう。通信石板にも特に緊急の便りは届いていません。
私が御者を務め、馬車を進めます。エリスは戦利品を眺めながら楽しそうに鼻歌を歌い、シルフィは少し疲れが出たのか、うとうとと目を細めていました。
ルディたちの
近づいてみると、焚火の傍には、ルディが土魔術で作ったであろう立派な机と椅子が置かれていました。傍らには解体された魔物の残骸、そして串焼きにされている肉が、焚火の上で香ばしい匂いを漂わせています。
(……お腹、鳴っちゃいました。恥ずかしいです)
ルディは苦笑しながら、土魔術で作った白い皿に串焼きを取り分けてくれます。ルードさんが飲み物の準備をしてくれました。
エリスはそれを一気に飲み干すと、待ちきれないとばかりに串焼きにかぶりつきます。シルフィも美味しそうに頬張っていました。
「ねぇねぇルディ、どれだけ踏破できた!?あたしたちはこれだけ進んだんだから!」
エリスさんはそう声をかけながら、私が描いた地図を自慢げに広げて見せます。
「すごいじゃないか」
ルディは素直にそう賞賛してくれました。その率直な反応に、私も少し誇らしい気持ちになります。
「それで、ルディたちはどれだけ進んだの?」
シルフィがそう尋ねると、ルディはあっさりとした調子で答えました。
「なんてことはない、全部踏破したよ」
「――完全に踏破、ですか?そんなに小さな
思わず聞き返すと、ルディは詳細に記された地図を見せてくれました。
……
一体、どうやってこれほど短時間で踏破したのでしょうか。単純に歩いて回っただけでは到底間に合うはずがない広さです。
「新しい魔術を使ったんだ」
そう言われても、私はそんな魔術聞いたこともありません。
「新たに開発したんだ。まぁ、そうだな。難易度としては……帝級くらいか?」
ルディがそう答えると、パウロさんが横から口を挟みました。
「いや、あれの効果を見たら神級じゃないか?俺には理屈は分からなかったが、まさか二時間程度でここまで踏破するとはな……」
「――二時間程度!? 一体、何をやったんですか!?」
思わず声が上ずりました。
ルードさんが、その隣で「酷い目にあった……」と力なく項垂れています。
「どんな魔術なの?」
シルフィさんが尋ねると、ルディはルードさんを指差しながら説明を始めました。
「こいつの機能を使ったんだ。雷魔術の
今回のモチーフは、軍隊蟻なのだそうです。生物をモチーフにしているのは召喚魔術がベースになっているからでしょう。
始まりは、たった二匹の蟻。ですが、恐ろしいことに、無限とも言える増殖機能を持っているのだといいます。
「
その一言に、私は思わず背筋が寒くなりました。何千、何万と増え続けた蟻の群れが、迷宮内へと一斉に突撃していく光景を想像してしまったからです。
ルディの説明は、まだ続きます。
「この蟻たちには、異世界の『人工知能』の技術が組み込まれている」
「じ、人工知能……? なんですかそれは」
聞けば、一匹一匹の蟻が高い知能を持ち、学習する機能を備えているのだそうです。どんな罠も、どんな強敵も、無限に増える蟻たちが一匹また一匹と試行錯誤を重ね、最終的には必ず突破してしまう。
さらに驚異的なのは、蟻同士でその情報がすべて共有されるという点です。突破できないものなど存在しない、そんな恐ろしい魔術でした。
「……その情報の集約は、どうやって?」
私が恐る恐る尋ねると、ルードさんが嘆くように教えてくれました。
「俺と、蟻たちを魔術的に繋いだんだよ。蟻たちが得た情報が、全部俺のところに集まってくる仕組みでな……視界がもう、気持ち悪いし……頭がおかしくなるかと思った……」
ルードさんはそう言って、机に突っ伏してしまいました。
「そんなのずるいわ!こっちが勝ったと思ったのに!」
エリスさんが不満げに声を上げます。
「魔術を使ってはいけない、というルールではなかっただろう?」
ルディはそう涼しい顔で返していました。
「それに、この魔術は触媒としての負担も少なくて済むんだ。……今回は、指を二本使っただけだからね」
「痛々しいから、自分の身体を触媒にするのはやめてくれ……」
パウロさんが苦い顔でそう漏らしていましたが、ルディはどこ吹く風といった様子でした。
……
私は、そんなルディの頬を、ぎゅっと引っ張ってお仕置きしました。
ようやくの
新魔術には名前をつけれませんでした。
つけるなら、