無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


第9節 教育工程の最適化:初陣と泥沼の粛清

Side: ルーデウス

意識が浮上した時、最初に感じたのは規則的な振動と、使い古された革の匂いだった。

ゆっくりと目を開けると、そこは揺れる馬車の中だった。私の正面には、逞しい腕を組み、彫像のように座るギレーヌの姿があった。

「……目が覚めたか、ルーデウス」

「ギレーヌ……。ということは、この馬車はロアに向かっているのですね」

「パウロの息子にしては、察しが良くて助かる」

ギレーヌは無造作に一通の封書を差し出してきた。

「パウロからの手紙だ。ロアに着くまでに目を通しておけ」

私はそれを受け取り、中身を確認した。そこにはパウロの乱雑な字で、私が領内の魔力異変を調査したがっていること、その間の滞在を許してほしいこと、そして「宿代代わりに家庭教師としてこき使って構わない」という勝手な条件が簡潔に綴られていた。

……あの脳筋親父、息子を気絶させて拉致させた挙句、勝手に就職先まで決めるとは。

「……事情は分かりました。謹んでお受けします」

「……その手紙には何と書いてあるのだ?」

どうやらギレーヌは字が読めないらしい。『記憶』にある現代日本とは違い、この世界では一流の戦士であっても識字率が低いのは珍しいことではない。私は手紙の内容を、一字一句読み上げて彼女に伝えた。

「――それでギレーヌ。道すがらお聞きしたいのですが、ロアに何か『異変』は起きていませんか?」

「異変、か。特に街に大きな変化はないが……お前には何が見えている?」

私は右目の疑似魔力眼(マナ・サイト)を起動し、瞳に宿る紫の魔術回路を彼女に向けた。

「私のこの『眼』には魔力の流れが見えます。数日前から、ロアの方角に巨大な魔力の『歪み』が発生しているのです」

「!その眼……私の魔眼と同じものか?」

ギレーヌが眼帯をずらすと、そこには鋭い魔力を帯びた、私とは異なる色合いの瞳が露わになった。

「……作りは異なるようです。私は網膜に直接魔法陣を焼き付けたものなので。ギレーヌのは天然の魔眼ですね」

「そうか。私はこの魔眼を完全に制御できているわけではない。お前の眼の方が見えているものの方が確かだろう」

彼女は再び眼帯を戻すと、思い出したように付け加えた。

「そういえば、数ヶ月前、ロアの街の上空に宙に浮く『赤い球体』が現れたな」

「赤い球……?それは一体どのような?」

「分からん。気味悪がる者もいたが、サウロス様が言うところだと、『悪いものではないだろう』とのことだった。今では街の連中も慣れて、誰も気にしちゃいない」

その言葉を耳にした瞬間、私の背筋に冷たいものが走った。疑似魔力眼(マナ・サイト)が見ているあの不気味な時空の歪みが、一般人にはただの珍しい自然現象として受け入れられている。

一刻も早く、その「赤い球」の正体を突き止めなければならない。馬車がロアの巨大な城門を潜る頃、私は密かにそう誓った。

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Side: ルーデウス

「ご無沙汰しております。サウロス様、フィリップ様。此度は急なお願いにも関わらず、館への滞在を許可いただきまして、誠に痛み入ります」

ボレアス家の館へ到着するなり、私は領主サウロスと、その息子フィリップに対し、リーリャ仕込みの完璧な貴族の礼を執った。

その殊勝な態度が満足だったのか、サウロスは「よく来たな!!歓迎するッ!!」と屋敷が震えるほどの大声で叫ぶと、嵐のように退室していった。相変わらず、私の繊細な鼓膜には優しくない御方だ。

「座ってくれ、ルーデウス。君が家庭教師に立候補してくれて助かったよ」

フィリップが対面の長椅子を勧め、優雅に脚を組んだ。

「君も知っての通り、娘のエリスは少々……いや、かなり気難しくてね。気に入った家庭教師は、そこにいるギレーヌを入れてこれまでたった二人しかいなかったんだ。だが、エリスは君のことを高く評価しているようだ。期待しているよ」

「勿体なきお言葉です。精一杯務めさせていただきます」

「うむ。――トーマス!エリスを連れてこい」

フィリップが呼びかけると、執事のトーマスが恭しく扉を開けた。

直後、ドカドカという足音と共に真紅の髪を揺らしたエリスが入室してきた。彼女は私の前で仁王立ちになり、ガバッと腕を組んだ。

「待っていたわよ!ルーデウス!!」

「ご無沙汰しております、エリス様。……今日から、あなたの家庭教師を務めさせていただくことになりました。至らぬ点も多いかと存じますが、宜しくお願い申し上げます」

私の堅苦しい挨拶に対し、エリスは「苦しゅうないわ!」と言わんばかりに力強く頷いた。私を「年下の子供」ではなく「競い合うべき対象」として見ている彼女の瞳には、打算のない純粋な活気が宿っていた。

「……まずは、現在の学習状況を確認させていただきます。他の家庭教師の方とも、打ち合わせをさせていただけますか?」

エリスを一度自室へ戻し、私はトーマスの案内で別室へと向かった。そこには、エリスが数少ない「気に入っている教師」の一人であるという、年配の女性が待っていた。

差し出されたエリスの一週間の学習スケジュールを見た瞬間、私は愕然とした。

「……これは、何ですか?」

「エリスお嬢様の時間割ですよ。何か問題でも?」

紙面は、朝から晩まで読み書き、算術、ダンス、マナー、そしてギレーヌとの剣術訓練で、一分の隙もなく埋め尽くされていた。

『記憶』にある現代日本の受験生ですら、これほど酷使されることは稀だろう。

「……詰め込みすぎです。これでは脳がパンクして、学習効率が落ちるだけです。第一、『休み』が一日もありません」

私の言葉に、二人の教師とトーマスは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

「よく分からんな、ルーデウス。詳しく説明しろ。……『休み』とは、一体何だ?」

ギレーヌまでもが不思議そうに首を傾げた。

……そうか、この世界の貴族教育には、週休という概念が存在しないのか。私の家庭教師としての初仕事は、この館に「休息による効率化」という概念を浸透させることから始まった。

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Side: ルーデウス

「ねぇ!もっとあっちの、賑やかな方へ行ってみましょうよ!」

弾けるような笑顔で、エリスが私の手を引いてロアの市場を駆け抜ける。

私の提案した「週に一日の完全休日」という制度は、フィリップの承諾を得て無事に導入された。その最初の休日、私はエリスを連れて街へと繰り出したのだ。

「……休み、休みか。何度聞いても理解に苦しむが、お嬢様の顔は明るいな」

ギレーヌは背後でそう呟きつつも、鋭い眼光で周囲を警戒し、しっかりと護衛を務めてくれている。

今日の市場訪問には、裏の目的があった。算術を嫌うエリスに、実戦形式で数字を扱わせるためだ。

「今日はフィリップ様から、エリスお嬢様に特別にお小遣いが預けられています。……貴族のお嬢様にしては、少し心許ない額ですね」

「えっ、そうなの?」

「そうです。だからこそ、算術が必要なのです。エリスお嬢様、これとこれを買った場合、お釣りはいくら残りますか?」

エリスは最初こそ難しい顔をしていたが、自分が欲しいものを手に入れるためとなると、驚くべき集中力で計算を始めた。

「……これは、十五……いえ、十六アスラ銅貨ね!足りるわ、買いましょう!」

彼女は生きた経済の中で目を輝かせて数字と格闘している。学習とはこうあるべきだ、と私は独りごちた。

しばらく商店を巡り、私たちは人通りの少ない路地裏に近いエリアまで足を踏み入れた。

エリスの足取りは軽く、剣術で鍛えられた体力は底知れない。

「エリスお嬢様、この先は少し治安が……」

私が注意を促そうと足を止めた、その時だった。

「――っ!?」

背後のギレーヌを振り返ると、彼女は何者かに話しかけられていた。……執事のトーマスだ。なぜ、彼がこんな場所に?

不審に思った瞬間、路地の影から二つの影が猛然と飛び出してきた。

「な――」

抵抗の間もなかった。特殊な薬物を染み込ませたであろう布で口を塞がれ、私の意識は急激な睡魔に呑み込まれていった。

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Side: ルーデウス

目が覚めると、視界は薄暗く、カビ臭い埃の匂いが鼻を突いた。

どうやら、どこかの物置小屋に監禁されているらしい。手首は背後で固く縛られ、口には猿ぐつわが噛まされていた。

「んぐ……っ」

隣を見ると、エリスも転がっていた。彼女も手を縛られているが、なぜか猿ぐつわはされていない。

(……誘拐犯は、私の無詠唱魔術を知らないのか?だが、私が『魔術師』であることは把握して猿ぐつわをした。……無詠唱の存在が秘匿されていたのが、幸いしたな)

私の体内には、混合(コンタミネーション)によってロキシーにもらった杖が溶け込んでいる。いつでも発動は可能だ。だが、今はまず敵の数と状況を把握するのが先決だ。

エリスが意識を取り戻した。現状を理解した彼女は、恐怖を怒りで上書きするように絶叫した。

「な……何よこれ!ふざけないでちょうだい!私を誰だと思っているの!?フィットア領主の孫娘よ!!ギレーヌ!!助けて、ギレー――」

「うるせぇぞクソガキ!テメェ、状況が分かってんのか!?」

乱暴に扉が開け放たれ、薄汚い服装をしたごろつきが一人、部屋に入ってきた。

「私を誰だと思ってるの!?あんたなんかギレーヌに真っ二つにされるわよ!!」

「うるせぇってんだよ、このガキが!!」

男が、エリスの腹部を思い切り蹴り上げた。

「ガハッ……っ!!」

鈍い音が響き、エリスが壁際まで転がっていく。男はさらに追撃しようと足を振り上げた。

私は咄嗟にエリスの前に立ちはだかって男を睨みつけた。

「なんだお前は?ヒーローごっこかぁ!?お前から痛い目に遭いたいってんなら、望み通りにしてやるよ!」

男の拳が私の顔面に叩き込まれた。

(……今は、耐える。一人で勝手に動いてエリスを危険に晒すわけにはいかない。反撃は、完璧な隙を突く時だ)

私は無抵抗のまま、執拗な暴行を受けた。全身を襲う激痛。鼻血が床を汚し、視界が火花を散らす。エリスが「やめてぇ!!」と泣き叫ぶ声が遠くで聞こえる。

男は数分間私を蹴り飛ばし続けると、「……ふん、死にやしねぇよ。まぁお前の方は死んでも構わないけどな」と吐き捨て、部屋を後にした。

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Side: ルーデウス

バタンッ!と扉が閉められ、周囲に静寂が戻った。聞こえるのはエリスの嗚咽だけだ。

私は即座に脳内の回路を繋いだ。

(――『ヒーリング』)

体内に溜まった熱を、癒しの魔力で上書きする。内出血が消え、折れかかった肋骨が接合していく。

エリスは、血まみれだったはずの私が平然と起き上がったのを見て、絶句して涙を止めた。

私は背後の縄と猿ぐつわを、音を立てずに『風刃(ウインドカッター)』で切断した。

「(エリスお嬢様……静かに。今からここを脱出します。私の合図があるまで、絶対に声を上げないでください)」

エリスは震えながらも、必死に頷いた。

私は腕の皮膚を波打たせ、内に秘めていたロッドを滑り出させた。

(『ヒーリング』……)

エリスの怪我を完治させる。彼女が驚きで声を上げそうになるのを手で制し、私は扉へと忍び寄った。

扉の向こうからは、数人の男たちの話し声が聞こえる。

「どうするんだ!?身代金の方が売るより値段が高けぇんだろ!?……男のガキの方は始末して構わねぇだな?」

(……やはり、私の方は殺すつもりか。ならば、手加減の必要はないな)

私はロッドの先を扉に向け、音を立てずにドア枠と壁を火魔術で「溶接」した。外から鍵を開けようとしても、もはや物理的に開くことはないだろう。

次に、鉄格子の嵌められた高窓に目を向けた。

土魔術で即席の階段を作り、鉄格子の基部を砂に変えて静かに抜き取る。エリスを先に外へ逃がし、私も後に続いた。

外へ出た後、階段を砂に戻し、再び鉄格子を嵌め直して魔術で接合する。証拠隠滅は完璧だ。

「(敵の仲間がどこに潜んでいるか分かりません。隠れながら、現在地を確認します)」

手を繋いで走り出した先、衛兵の守る門を見つけた。私は迷わず衛兵に接触し、子供を装って乗合馬車の場所を尋ねた。

掲示板の文字を読み取り、私は状況を把握する。

「エリスお嬢様、ここは『ウィーデン』という街です。ロアからは馬車を二つ乗り継がなければならない距離です」

「……あなた、字が読めるの?」

「はい。勉強しておいて損はないでしょう?」

私は体内に隠し持っていた予備の銀貨を取り出し、勘定した。ロキシー先生に教わった宿の相場と、馬車賃を思い出す。

「お釣りを誤魔化されなければ、ギリギリ足ります。次の街で一泊し、翌日の始発でロアへ戻りましょう」

「……お金、そんなにあるの?」

「備えあれば憂いなし、です。さあ、行きましょう」

宿の主人に不審な目で見られつつも、私は『記憶』にある交渉術を使い、適正な料金で部屋を確保した。慣れない環境と恐怖で眠れないエリスの手を握り続け、私は一晩中、疑似魔力眼(マナ・サイト)で周囲を警戒し続けた。幸い、睡眠時間を削るのは、いつもの研究で慣れている。

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Side: ルーデウス

翌日、私たちは馬車を乗り継ぎ、ついにロアの巨大な城壁を視界に捉えた。

エリスの顔には、極度の疲労と睡眠不足による隈が浮かんでいる。

ロアの街中に入り、馬車を下りる。

「……あと少しです、エリスお嬢様。館へ戻れば、ギレーヌたちがいます」

私は彼女を励ましながら、重い足取りで歩を進めた。

だが、館が目と鼻の先に見えた瞬間、エリスの緊張の糸が切れた。

「あ……!お父様っ!ギレーヌ!!」

彼女は私の手を振り解き、館に向かって走り出してしまった。

「エリス、待って!!」

一瞬の遅れ。その隙を、影が突いた。

路地裏から飛び出した屈強な男が、走るエリスの体を横から掻っ攫い、そのまま暗がりへと消えた。

「――しまっ……!」

背中に悪寒が走る。

私は即座に魔力過循環状態(オーバードライブ)を発動した。体内に溶け込ませていた杖が右手に収まる。

そして、風魔術による高速移動で、路地裏へ突っ込む。

逃げ道の先、エリスを担いだ男ともう一人のごろつきが、私を見て嘲笑った。

「なんだぁ?ガキかぁ!!邪魔すんなら、ここでバラしてやるよ!!」

「……問答無用」

……人を攻撃する、殺す覚悟なら、昨晩既に済ませている。命を奪おうとするなら、奪われる覚悟をしなければならない。私は、命に賭けてもエリスを守る。

私は無詠唱で十本の『氷槍(アイスランス)』を発現し、弾丸の速度で撃ち出した。

同時にもう一方の手で、上空に巨大な火球を放つ。

閃光に目を焼かれた男たちに向け、氷の槍が降り注ぐ。一人は反応できず、胸と腹を深く貫かれ、悲鳴を上げる間もなく絶命した。

だが、もう一人。エリスを担いでいる男は、北神流を修めているのだろう。特有の柔軟な身のこなしで氷槍を全て剣で叩き落とした。

「ちぃっ、ただのガキじゃねぇな!」

男がエリスを放り出し、私に向かって肉薄してくる。

私は風魔術による加速でそれを回避し、地面に足を着く直前のエリスを回収、即座に後退した。

「待ちやがれっ!!」

追いすがる男に向け、私は火球を放つ。男はそれを容易く切り伏せたが、本命はその足元だ。

「『泥沼(マッドドロップ)』」

一瞬で作り出した底なしの泥沼に、男の両足が深く沈み込む。

「ぐわぁっ!?何だこの泥は!」

私は間髪入れず、泥の中の土粒子を固めて、巨大な土の鋸へと変えた。この泥は私の制御管理下にある。

パウロと戦った時がそうだったが、子どもの膂力で大人の剣士にダメージを与えるのは難しい。だが、魔術なら話は別だ。魔力をつぎ込めば、いくらでもトルクを上げることができる。私は『記憶』の油圧式チェーンソーを想像し、土の鋸を高速で回転させる。

男の野太い断末魔が路地裏に木霊する。泥沼は瞬く間に鮮血で赤黒く染まった。

男は、自らの下半身がズタズタになりながらも、最後の力で剣を私に向かって投擲した。

空気を切り裂き、高速で迫る鋼の刃。

「――それは見たことがある」

私は冷静に横殴りの風雪を叩きつけて剣の軌道をずらした。パウロとの闘いで学んだ敗北の教訓が今、結実した。

トドメを刺そうとロッドを向けた、その刹那。

死角から飛来した獣の影が、男の首を音もなく刈り取った。

「……遅くなったな、ルーデウス。敵は二人だけか?」

剣王ギレーヌが、そこに立っていた。

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Side: ルーデウス

「お嬢様っ!よくぞご無事で……!!」

館に戻るなり、獣耳のメイドたちが泣きながらエリスに駆け寄ってきた。

極度の緊張から解放されたエリスは、今にも崩れ落ちそうに膝を震わせている。私はそっと彼女の肩を支えた。

「エリスお嬢様、終わりましたよ」

「……ルーデウス。……これからは私のこと、エリスって呼びなさい」

彼女はそれだけを蚊の鳴くような声で呟くと、そのまま私の肩に体重を預け、深い眠りに落ちてしまった。

私は眠ったエリスをギレーヌに預け、別室へと通された。そこには、ボロボロで、憔悴しきった様子のフィリップがいた。

「……すまない、ルーデウス。私の不徳の致すところだ」

今回の事件の首謀者は、あろうことか執事のトーマスだった。彼はエリスに懸想していた変態貴族と通じ、彼女を売り飛ばす手筈を整えていたのだ。

本来なら護衛を離れたギレーヌも厳罰に処されるべきだが、トーマスの裏切りという特殊な事情を鑑み、今回は不問に付されたそうだ。当然だろう、雇い主の一派であるトーマスに話しかけられれば、ギレーヌの立場では無視できまい。

「――聞いたぞッ!!ルーデウス!!孫娘を救ったそうだなッ!!」

扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきたのは、サウロスだった。

「よくやった!!お前はボレアス家の恩人だ!!褒賞は何が良い!?何でも申してみよ!!」

荒々しく頭を撫で回される。フィリップの憔悴は、サウロスに当たり散らされたせいでもあったらしい。

「サウロス様。私は、このロアに起きている異変を調査し、最悪の事態からこの街を守るためにここに来ました。……もし調査の結果、大掛かりな避難や資材が必要になった時、その全面的なご協力を頂きたい、それが私の望みです」

一瞬、部屋が静まり返った。サウロスは俯き、肩を小刻みに震わせ始めた。

(……まずかったか。私利私欲を言わなかったのが、不興を買ったか?)

「……ぐ、ぐぅぅ……ッ!せっかくの褒賞を、己の贅沢ではなく、民と街のために使おうと言うのかッ!!あっぱれだルーデウス!!お前のような漢は、パウロには勿体ないわッ!!」

サウロスは感極まった様子で、私をガシッと掴み上げ、天井に届かんばかりの「高い高い」を始めた。

パウロのそれよりも遥かに高く、暴力的なまでの力強さ。

振り回される視界はパウロのそれよりもずっと高かった。

(データを更新しておこう。「高い高い」記録は、本日をもって更新された)




ここまでお読みいただきありがとうございます。

このルーデウスは『記憶』を客観的に見たものの、感覚としてはこの世界の者たちに近いです。なので、命のやり取りに対する覚悟もこの歳で決まっています。

土と水が自在に操作できるのであれば、『泥沼』は別の魔術に化けるでしょう。このルーデウスは沈んだ部分を捩じ切るように使っています。

エリスはルーデウスからの挑発が無いので、原作よりも素直です。既に一度接触していて、水聖級魔術を行使している様を目撃しているのも大きいでしょう。

これから、ロアの異変をどう防ぐかというストーリーを書きます。
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