無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


エピローグ20:決戦前夜

Side: ルーデウス

 

私の身体がようやく十五歳程度まで成長した。

 

鏡に映る自分の姿を見るたび、不思議な感慨を覚える。

闘神との戦いで縮んだ身体ももう一度成長させ、ようやく再度手に入れた「盛りの肉体」だ。

 

細胞の再構築と、魔力・闘気回路の馴染み。それらが時間をかけて噛み合い、体力・魔力の両面において、私の人生における最盛期とも呼べる域に達している。

 

腕を軽く振るだけで、内側から漲る力の充実を感じる。

ここまで来るのに一体どれだけの年月をかけただろうか。

 

前々からオルステッドとは何度も協議を重ねてきた。

いつ人神(ヒトガミ)との決戦に挑むべきか。

 

条件は整った。

かつてオルステッドが集めた五龍将の秘宝、そしてその複写品。

北神三世アレクとの戦いで手に入れた王竜剣カジャクトの重力・空間干渉能力。

そして、かつての『記憶の男』、今は私たちの仲間として確固たる地位を築いたルードによる多次元空間の道案内。

 

これらを組みあわせることで、今まで誰も到達できなかった人神(ヒトガミ)の根城——『無の世界』の空間座標を特定し、そこに直接穿孔することが可能となったのだ。

 

人神(ヒトガミ)は、どれほど強いのか。

 

あの規格外の強さを誇る龍神オルステッドが、数万年もの時を費やしても倒せずにいる相手だ。

奴の根城まで行きつけない構造的隔離も大きな要因だが、それ以上にオルステッドの父である初代龍神をも殺したとされる存在である。どれほど慎重を期しても用心しすぎるということはない。

 

ここ数年、私はその日のために万全の準備を進めてきた。

鉱神ゴッドバルドとの共同作業により、私専用の武装、そして家族に残すべき品々の錬成も完了している。

 

いよいよ明日。

私は、私たちは人神(ヒトガミ)と戦う。

 

窓の外を見るともう日は落ちかけていた。

 

作業机の上には鉱神ゴッドバルドと共に打ち上げた武具の設計図がまだ何枚も広げられたままになっている。

私はそれを一枚ずつ丁寧に畳み、引き出しの奥へとしまい込んだ。

 

今日という日を、私は家族のために使うと決めていた。

 


 

夕食が終わった後のリビングには、グレイラット家の全家族が顔を揃えていた。

 

暖炉の火が温かく揺れる部屋の中で、私は静かに口を開いた。

 

明日、人神(ヒトガミ)のもとへ向かい、決戦に挑むことを皆に告げる。

 

もちろん、いきなり言い出したわけではない。近いうちにその日が来ることは事前に全員へ伝えてあった。

だが、いざ「明日だ」と明確な期日を提示されると、部屋の空気がぎゅっと緊張で張り詰める。

 

パウロ、ゼニス、リーリャ。

エリス、ロキシー、シルフィ、アイシャ。

そして私の子供たち——アルス、クリスティーナ、ララ、リリ、ルーシー、ジークハルト。

 

誰もが心配と不安の交じった瞳で私を見つめている。

アイシャの膝の上にいる幼いアイリスとルーシュの二人だけが、まだ事態をよく理解していない様子で無邪気に指をくわえていた。

 

暖炉の薪がパチリと爆ぜる音だけが、しばらく部屋に響いていた。

誰も、なかなか最初の言葉を切り出せずにいる。

 

人神(ヒトガミ)という存在について、子供たちは幼い頃からノルンの描いた絵本で十分に知っている。

世界の影に潜み、あらゆる惨劇の糸を引いてきた敵。いつか私が倒さなければならない相手なのだと教え込んである。

 

真っ先に声を上げたのは、父であるパウロだった。

腕を組み、眉間に深いシワを寄せながら、あえて乱暴な口調で問いかけてくる。

 

「……勝てるんだろうな、ルディ」

「ええ、勝ってみせますよ。勝つための準備は、完璧に整えましたから」

「そうか。なら、余計な心配はいらねえな。さっさとぶん殴って、さっさと帰ってこい」

 

照れ隠しのように鼻を鳴らすパウロの横で、母であるゼニスが優しく微笑み、私の手を両手で包み込んでくれた。

 

その手のひらの温かさに、幼い頃の記憶が微かによみがえる。

 

「ルディなら、きっと大丈夫よ」

「はい、母さん。いってきます」

 

パウロがゼニスの肩にそっと手を置くのが見えた。

口では強気なことを言いながらも、その横顔には隠しきれない緊張が滲んでいる。

 

続いて、私は家庭の切り盛りを一手に引き受けてくれているリーリャに向き直った。

 

「リーリャさん。留守中の家をよろしくお願いします」

「承知いたしました、ルーデウス様。……それで、お戻りはいつ頃になりますでしょうか?」

「申し訳ありません。なるべく早く帰ってくるつもりですが、相手の根城である『無の世界』の時間の進み方がこちらと同じとは限りません。明確な期日は、私にも読めないんです」

 

リーリャは一瞬だけ目を伏せたが、すぐに背筋を伸ばし、いつも通りの落ち着いた表情に戻った。

 

「かしこまりました。何日、何ヶ月お戻りが遅れましょうとも、この屋敷は私が責任を持ってお守りいたします。ルーデウス様は、どうかご自身のことだけをお考えください」

「ありがとうございます、リーリャさん。本当にあなたがいてくれて助かっています」

 

私の言葉に、妻たちがそれぞれの反応を見せる。

 

エリスが拳を握り締め、力強い眼差しで踏み込んできた。

 

「ルーデウス!本当にあたしたちはついていかなくていいの!?あたしだって、あたしの剣だって、あなたの役に立つのよ!」

「ありがとう、エリス。でも、君にはこの家を守っていてほしいんだ。もし人神(ヒトガミ)が土壇場で何か仕掛けてきたとき、家族を守れるのは君だけだ」

 

エリスは悔しそうに歯を噛み締めたが、私の意図を理解すると、力強く首を縦に振った。

 

「……分かったわ。家も、子供たちも、あたしが絶対に守ってみせる!」

 

そう言い切った直後、エリスはふいと顔を背けた。

その横顔が、ほんの少しだけ潤んでいるように見えたのは、暖炉の光のせいだけではないだろう。

 

「……無事に帰ってきなさいよ。じゃないと、許さないわ」

「約束するよ」

 

ロキシーが静かに一歩前へ出ると、小さく魔法陣の刺繍の施された布製の袋を差し出してきた。

 

「ルーデウス。これを持って行ってください。私とシルフィ、エリスで魔力を込めて作った手作りのお守りです」

「ありがとう、ロキシー。ポケットに入れて、肌身離さず持っていこう」

「はい。どうか、ご無事で」

 

小さな袋を受け取ると、三人分の魔力の温もりがじんわりと手のひらに伝わってくる。

どんな高価な魔道具よりも、この一つが今の私には心強かった。

 

シルフィが私の隣に寄り添い、少しだけ目元を潤ませながらも、毅然とした笑顔を浮かべた。

 

「子供たちの教育と将来は、私たちがしっかり守っておくからね。安心して戦ってきて」

「任せたよ、シルフィ。君がいてくれるから、私は後ろを振り返らずに戦える」

 

最後に、アイシャが私の前に立った。

明日の決戦に向けた最終的な装備のチェックや身支度は、すべて彼女が手伝ってくれることになっている。

 

「旦那様。明日の準備は、私にすべてお任せくださいね」

「ああ、頼むよアイシャ。最後まで甘えさせてもらうよ」

「はいっ。任せてください!」

 

アイシャの瞳には、一切の迷いがない固い決意が宿っていた。

 

私は一通り妻たちと言葉を交わすと、子供たちの方へと向き直った。

 

「さて……先ほどリーリャさんにも話した通り、今回の戦いはどれだけ時間がかかるか読めないんだ。もしかしたら、アルス、ララ、ルーシーの十歳の誕生日に間に合わないかもしれない」

 

子供たちがハッとした顔をする。

 

「だからね、少し早いけれど、今日一人一人に特別な贈り物を準備したんだ」

 

私はまず、長男のアルスを呼んだ。

 

「アルス、前へ」

「はいっ!」

 

元気よく返事をして前に出たアルス。

私は一振りの剣を彼に差し出した。

鞘から覗く刀身は、まるで夕焼けの空のように緋色に輝いている。片刃の重厚な作りの剣だ。

 

アルスが成長し、大人になったときの体格に合わせて作ってあるため、十歳前の子供にはあまりにも大きすぎる。

受け取ったアルスが、剣の重さに踏み留まれず、よろよろと姿勢を崩しかけた。

すかさず後ろからエリスの手が伸び、アルスの身体と剣をガッしと支える。

 

「これはパパが鉱神ゴッドバルドと一緒に作った、特別な剣だ。銘も、どんな効果を秘めているかも、敢えて教えない」

「え……教えてくれないの?」

「ああ。君が強くなって、色んな人と出会い、冒険をして、いつか自分の力でこの剣の機能を解明してほしいんだ。君なら、きっとこの剣にふさわしい立派な男になれる」

 

アルスは手の中の緋色の剣をじっと見つめ、やがて何かを覚悟したような凛々しい顔で頷いた。

 

「うん!パパ、俺、絶対に強くなってこの剣を使いこなしてみせる!」

 

後ろで支えていたエリスが、ニッと八重歯を覗かせて笑った。

 

「ふふん、あたしが羨ましいと思うほどの業物よ。大事にしなさい、アルス」

 

母としての顔で告げるエリスの言葉に、アルスは誇らしげに胸を張った。

 

私はアルスの頭に手を乗せ、くしゃりと撫でた。

 

「アルス。剣の使い方も大事だけど、それ以上に、剣を抜かずに済む知恵を身につけてほしい。それが、パパからの一番の願いだ」

「……うん。分かった」

 

いつもは元気いっぱいなアルスが、その時だけは神妙な顔で頷いた。

 

次は、長女のララを呼んだ。

 

「ララ、おいで」

 

普段はどこかボケーっとしていて、何を考えているのか分からないララだが、今日ばかりは真剣な瞳で私の前に歩み寄ってきた。

 

私は体内の魔力を練り上げ、混合(コンタミネーション)の技法を用いて、手の中に一本の杖を顕現させた。

 

それを見たララが、目を見開いて声を上げる。

 

「……!それ、傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)……!?でも、形がちょっと違う……?」

「よく気づいたね。これはね、傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)をベースに、さらに特殊な改造を施したものなんだ」

 

素材の詳細は伏せたが、これを二度作ることは不可能に近いだろう。

 

「元の傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)は水魔術に特化した、私にとって最高の杖だったけれど、これは属性に関係なく、あらゆる魔術の構築と威力を極限まで最適化できる。正直、一国の国家予算でも買い取れないほどの代物だよ」

「……国家予算」

「だからね、絶対に人に盗まれないように気をつけなさい」

 

ララは手渡された新たな杖を、愛おしそうになで回していたが、ふと顔を上げて私を見つめてきた。

 

「……盗まれたくないから、パパが帰ってきたら、その混合(コンタミネーション)ってやつ、教えて」

「もちろんだとも。約束するよ。だから、楽しみに待っていておくれ」

 

すると、横で見ていたロキシーが心配そうに私に問いかけてきた。

 

「ルーデウス。そんな素晴らしい杖、明日の戦いに持っていかなくて良いのですか?」

「大丈夫だよ、ロキシー。明日の戦いでは、王竜剣カジャクトと私の即席魔法陣(アドリブ・サーキット)がメインになるから。この杖はララに託すのが一番なんだ」

 

ロキシーは納得したように微笑み、ララの頭を優しく撫でた。

 

ララは杖を大事そうに両腕で抱えたまま、じっと刀身のような細工を見つめ続けている。

普段はどこか気の抜けた表情ばかりのララが、これほど熱心に何かを見つめる姿は珍しい。

 

「……ねえパパ。あたし、この杖に負けないくらい、すごい魔術師になる」

「うん。ララならなれるよ。君は誰にも真似できない才能を持っている。……君はいつかふらっと旅に出そうな気がしているんだ。その際も、この杖を持っていくと良い」

 

次はルーシーを呼んだ。

 

「ルーシー」

「はい……っ」

 

少し緊張した面持ちで、おしとやかに前に出たルーシー。

私は彼女の前にかがみ込み、頭を優しく撫でてやった。

 

「ルーシーとクリスティーナに何を贈るかは、本当に一番悩んだんだ。ルーシーはうちの子供たちの中でも、特にしっかりしていて優しいからね」

 

ルーシーは照れくさそうに頬を緩め、目を細めた。

 

「だからね、特別な魔道具を贈ることにしたんだ。武器を贈っても困るだろうからね。素材も貴重だし、技術的にもあまりに複雑で、私ですら二度と作れるとは思えないほどの代物だよ」

 

私は懐から、ひとつの腕輪を取り出した。

繊細な銀細工のような、極細の緻密な意匠が施された美しい腕輪だ。

 

それをルーシーの細い手首にはめてやる。

 

「これはね、ルーシーがこれから生きていく中で、どうしようもなく困ったとき……命を賭してでも『やり直したい』と切望したときに使うものだ。その腕輪に魔力を込め、強く祈りなさい。起こってしまった出来事から、一週間以内であれば望ましい」

 

ルーシーと、その様子を見守っていたシルフィが、不思議そうに首を傾げた。

 

「ルディ、これも具体的な効果は説明してくれないの?」

「……知らないほうがいいんだ、シルフィ。この魔道具の本当の効果が世界に知れ渡れば、確実に戦争が起きる。国家が軍を投入してでも奪い合いに来るほどの禁忌の代物だからね」

 

私の真剣な声色に、シルフィはヒッと小さく息を呑み、顔を青ざめさせた。

ルーシーは自分の手首にはめられた銀の腕輪を、愛おしそうに撫でながら力強く頷いた。

 

「パパ、ありがとう。大切にするね!」

 

そう言った後、ルーシーはふと真剣な瞳で私を見上げた。

 

「でも……パパ。あたし、この腕輪を使わなくていいように、精一杯頑張るよ。だから、パパも無理しないで帰ってきてね」

 

その言葉に、私は胸の奥が熱くなるのを感じた。

ルーシーは、私の子供たちの中でも一番早く大人びた考え方をする。

その優しさが、今はどうしようもなく愛おしい。

 

「ああ。約束するよ」

 

次はクリスティーナを呼んだ。

 

「クリス、おいで」

「はーい!」

 

トテトテと愛らしい足取りで寄ってきたクリスティーナ。

彼女は子供たちの中でも一番の甘えん坊だ。膝の上に乗らんばかりの勢いで抱きついてくるので、頭を撫でてやると、心底嬉しそうに目を細めた。

 

「クリスにも、二度と作れないくらい貴重な魔道具をあげるね」

 

私は金色に輝く、ルーシーのものと対になるような繊細な装飾の腕輪を取り出し、クリスティーナの手首に装着してやった。

 

「これはね、普段から身につけているだけで効果を発揮するものだ。効果は一見すると控えめかもしれないけれど、君の人生において、日々確実に役に立ってくれる」

「ん〜?これも、戦争になっちゃうくらいすごいの?」

「ああ。特に政治を行う為政者、国の偉い人ほど、喉から手が出るほど欲しがるだろうね。だからクリス、この腕輪の機能も秘密にしておこうね」

「わかった!パパとの秘密だね!」

 

クリスティーナは嬉しそうに腕輪を掲げると、きゃっきゃと声を上げながらスキップでシルフィのもとへ戻っていった。

 

その無邪気な後ろ姿を見送りながら、エリスが小さく笑う。

 

「クリスは本当に、パパが大好きね」

「クリスだけじゃなくて、みんなそうであってくれたら嬉しいな」

 

次はジークハルトを呼んだ。

 

「ジーク」

「……はいっ」

 

少し緊張した面持ちで歩み寄ってきたジークハルト。

彼に贈る品は、他の子たちのものより一回り以上大きい。

 

私が取り出したのは、北神アレクサンダーが携えているような重厚な大剣だった。

刀身は黒曜石のように深い漆黒で、その表面には鮮やかなエメラルドグリーンの波紋が浮かび上がっている。

 

「ジーク、君は他の子よりも生まれつき力が強くて、骨格もしっかりしている。今はまだ重いかもしれないけれど、大きくなったら必ずこの大剣を縦横無尽に扱えるようになる」

「大剣……かっこいい……!」

「君には北神流の資質があると思うんだ。君もきっと、この剣に負けないくらい強い男になれるよ」

 

ジークハルトは大剣の柄を両手で握りしめた。

幼い身体にはあまりに重く、足元が少しよろついたものの、彼はしっかりと大地を踏みしめ、剣を持ち上げてみせた。

 

「うん!ぼく、アレク兄ちゃんみたいに強くなって、この剣でみんなを守るよ!」

 

力強く頷くジークハルトの姿に、たくましさが滲み出ていた。

 

大剣を抱えたまま、ジークハルトはちらりとシルフィの方を見た。

母譲りの心の強さが、その瞳の奥にしっかりと宿っていた。

 

次は、リリだ。

 

「リリ、おいで」

「はーいっ!」

 

元気いっぱいに返事をして飛び出してきたリリ。

 

「リリにも完成した魔道具を渡そうかと考えたんだけどね。君の場合は、完成品をもらうよりも、それを作る過程や構造の方に興味があるだろう?」

「えへへ……」

「ロキシーから普段の様子を聞いているよ。家中にある魔道具を分解しようとしては怒られているってね」

 

痛いところを突かれたリリは、照れくさそうに頭を掻いた。

 

「だから、魔道具は渡さない。代わりに……この家の地下にある実験室(ラボ)の所有権を、すべてリリにあげるよ」

 

その瞬間、リリの顔がぱぁっと華やかに輝いた。

 

「えっ!?ほんとうに!?あの地下室に入っていいの!?」

「ああ。いつも忍び込もうと苦心していたのは知っているからね」

 

すると、母であるロキシーがハッとして口を挟んできた。

 

「ルーデウス、あそこには危険な薬品や未完成の魔道具がたくさんあったはずでは……!?」

「大丈夫だ、ロキシー。危険な素材や試作品は、すべて『龍の爪』事務所の地下倉庫に移設したよ。その代わり、私がこれまでに書き溜めた魔道具の設計思想や理論書、それと安全な基礎素材をたくさん置いておいた。自由に研究に使っていいよ」

 

それを聞いたリリは、跳び上がらんばかりの勢いで万歳をした。

 

「やったーーーー!!パパ大好き!!ありがとう!!」

 

大喜びで跳ね回るリリを見て、家族みんなから温かな笑いが漏れた。

 

はしゃぎ疲れたのか、リリはようやく落ち着くと、私の袖をきゅっと引っ張った。

 

「パパ。帰ってきたら、ラボで新しく作ったやつ、見てね」

「ああ、楽しみにしているよ。ただし、危ないものは絶対に一人で試さないこと。約束できるかい?」

「うっ……わ、わかった。ちゃんとママにも見せてから試す」

 

渋々ながらも約束するリリに、私は思わず笑みがこぼれた。

 

最後に、私はアイシャの隣にいる幼い二人——アイリスとルーシュに向き直った。

 

「アイリス、ルーシュ。君たちはまだ小さすぎて、武具や複雑な魔道具を渡すには早いからね」

 

私はポケットから、二つの小さな指輪を取り出し、アイシャの手のひらに託した。

 

「アイシャ。これは変装の魔道具を、私の技術で再構築したものだ。通常の変装の魔道具は幻影で見た目を変えるだけだが、これは本当に肉体の表面構造を変化させる『変身の魔道具』なんだ」

「変身……?」

「ああ。人族に変身できる。この子たちは、私から受け継いだ竜の爪や鱗、目といった特徴が強く出ているだろう?それは時に彼らの力になるけれど、社会で暮らす上では困る場面も出てくるかもしれない。そんな時に使わせてあげてほしい」

 

アイシャは手のひらの二つの指輪を愛おしそうに見つめ、優しく微笑んだ。

 

「分かりました、旦那様。この子たちが大きくなって、自分で判断できるようになるまで、私が大切にお預かりしておきますね」

 

こうして、子供たち一人ひとりへの贈り物と約束が完了した。

 

部屋の中には、明日からの別れに対する寂しさはあっても、悲壮感はなかった。

誰もが私の勝利を信じ、帰りを待っていてくれる。

 

やがて子供たちが順番に眠りにつき、リーリャに手を引かれて部屋へと運ばれていく。

最後まで興奮の冷めやらないリリだけが、ロキシーに抱きかかえられながら、それでも船を漕ぎ始めていた。

 

静かになったリビングに残ったのは、私と妻たち、そしてパウロとゼニスだけだった。

 

暖炉の火は、いつの間にか小さな熾火だけになっている。

 

「……本当に、行っちまうんだな」

 

パウロがぽつりとつぶやいた。

その声には、先ほどまでの威勢の良さはなく、ただ一人の父親としての本音が滲んでいた。

 

「はい。でも、必ず帰ってきます。この家に」

「当たり前だ。帰ってこなかったら、あの世まで説教しに行くぞ」

 

軽口めいた物言いだったが、その目は真剣そのものだった。

私は小さく笑い、頷いた。

 

エリスが私の隣に腰を下ろし、静かに肩に頭を預けてくる。

シルフィとロキシーもまた、それぞれの位置から私を見つめていた。

 

言葉はいらなかった。

 

ただ、この温かい時間が、これから向かう戦いの中で何度でも私を立ち上がらせてくれるだろう。

 

私は愛する家族の顔を一人ひとり焼き付けるように見回すと、深く息を吸い込み、固い決意とともに明日の戦いへと心を向けた。




決戦前夜の話でした。

アルスとジークの武器について、詳細は後のエピソードで触れます。

ララに贈られた傲慢なる水竜王(アクア・ハーティア)は、『五龍将の秘宝』の複製品を素材にして強化されています。召喚魔術や占命魔術にも効果を発揮します。

ルーシーに贈られた腕輪の機能は、『時間遡行』です。発動してから10日前に戻ることができます。あまりに長い時間戻ると身体の欠損が起きますので、この期間になっています。

クリスティーナに贈られた腕輪の機能は、『あらゆる生物に信用される呪い』です。人神(ヒトガミ)の呪いよりも効果はマイルドです。アリエルの『聴いていて心地よいカリスマ性のある声』くらいの効果です。まぁそれでも為政者であれば喉から手が出るほど欲しい魔道具でしょう。
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