無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~   作:haru-ha

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【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)

以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。

【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。


エピローグ21:人神(ヒトガミ)との決戦

Side: ルーデウス

 

翌朝。家族への挨拶と抱擁を済ませた私は、早々に『龍の爪』事務所へと向かった。

 

事務所の最深部、厳重な結界に守られた転移の間には、既に三人の人物が万全の戦圧を纏って待機していた。

 

龍神オルステッド。

北神三世アレクサンダー・カールマン・ライバック。

そして、私の細胞と魂の混合により生まれた人工肉体を持つ男、ルード。

 

アレクとルードの表情は固い。特にルードは、決戦の重圧と武者震いによってその肩を微かに震わせていた。

そしてオルステッドの醸し出す空気は、普段の静謐なものとはまるで違っていた。内底から燃え上がるような数万年分の執念と決意の渦が、彼の周囲の空気を歪めているかのようだ。

 

転移の間に満ちる魔力の密度が、いつもと違う。

壁一面に描かれた術式が、うっすらと蒼白く発光しているのが見えた。

 

私は無意識のうちに、自分の胸元に手を当てていた。

 

「オルステッド、体の調子はいかがですか?」

 

私が声をかけると、オルステッドはゆっくりと振り向いた。その金色に輝く瞳がまっすぐに私を射貫く。

 

「……今までにないほど良好だ。これほど早く、そしてこれほど優位な条件で人神(ヒトガミ)との決戦に挑むことができようとはな……」

 

オルステッドの唇がかすかに、だが力強く弧を描いた。

 

「お前のおかげだ、ルーデウス。改めて、感謝する」

 

そう言うと、オルステッドは私に向かって深く頭を下げようとした。

私は慌てて手を出してそれを制する。

 

「やめてください。そういう畏まった挨拶は、奴を本当に倒してからにしましょう」

 

私の言葉に、オルステッドはゆっくりと頭を上げた。そして、アレク、ルード、そして私を見回し、低く澄んだ声で告げた。

 

「俺は、奴を『ここ』で……この代で確実に討ち取る。全員、力を貸してくれ」

「はいっ!お任せください、龍神様!僕の雷剣で奴を切り刻んで見せます!」

 

『ここ』でというのは、このループで、ということだろう。

アレクが元気いっぱいに返事をし、大剣の柄を握り直す。

ルードも緊張で少し声を擦れさせながらも、毅然と頷いた。

 

「さあ、行きましょうか」

 

私たちは頷き合い、床に描かれた転移魔法陣を起動した。

 


 

転移の光が収まると、そこは雲上の領域——空中城塞ケィオス・ブレイカーだった。

 

そこには、甲龍王ペルギウス・ドーラが豪奢な白銀の甲冑に身を包み、臨戦態勢で待ち構えていた。

背後には十二の配下たちが控えている。

 

オルステッドがペルギウスの前に進み出た。

 

「ペルギウス。今日はよろしく頼む」

 

ペルギウスは腕を組み、鋭い眼光でオルステッドを睨み返した。

 

「……約束は忘れておらんだろうな?オルステッド」

「ああ。人神(ヒトガミ)を討ち果たした後、俺が知る魔神ラプラスに関する情報のすべてを秘匿なく開示する。そして、復活したラプラスにとどめを刺す権利は、すべて貴様に譲る」

「うむ。ならば異論はない。我らが朋友の無念、この手で晴らすための協力だ」

 

そう言い切ったペルギウスの瞳の奥に、一瞬だけ深い哀愁がよぎるのを、私は見逃さなかった。

今回の決戦において、ペルギウスはこの条件付きで参戦に同意してくれたのだ。

 

ペルギウス自身の直接的な戦闘力は、オルステッドやアレクと比べれば決して高くはない。

だが、彼の持つ結界魔術は神級の領域であり、何より古代龍族の秘術を使用できる。

 

その秘術はオルステッドも使用できるが、彼が前線で全魔力を振り絞って戦う以上、後方で空間の保持や補助魔法陣の維持を担当する絶対的な術者が必要だったのだ。

ペルギウスがいてこそ、オルステッドは消耗を気にせず前線に突撃できる。

 

「ルード、機体の調子は?」

「ああ、完璧だよ、ルーデウス。魔力回路の同調率も一〇〇%だ」

 

ルードが歩み寄ったのは、空中城塞のドックに用意されていた、一機の巨大な魔導鎧(マジックアーマー)だった。

 

体高約三メートル。重厚な装甲は美しい紺色に塗り上げられている。

私とザノバが持てる技術の粋を集めて作り上げた、対人神(ヒトガミ)用決戦兵器だ。

人工的な肉体と、私に匹敵する膨大な魔力量を持つルードだけが、この超高出力機体を完璧に操縦することができる。

 

背部には細かな配線が幾何学模様のように走る大型の魔力炉が据えられ、両肩には未使用の増設アーマーが仮固定されている。

起動待機状態でありながら、静かに脈動する魔力の圧が離れていても肌に伝わってくるほどだった。

 

ルードが胸部の装甲を開き、滑り込むようにコクピットへ乗り込んだ。

重厚な駆動音が響き、機体の各部に青白い魔力光が走る。

 

ペルギウスが静かに手を開き、空間に魔力を満たしていった。

 

「では、始めるぞ」

 

場所は空中城塞、『儀式の間』。

作戦の第一段階は、私とルードが先行して『無の世界』へ転移し、人神(ヒトガミ)の存在する空間座標を特定、空中城塞との空間回線をアクセスさせることだ。

 

「いくぞ、ルード」

『……ああ。いつでも始めてくれ、ルーデウス』

 

私は宙に手を出さず、即席魔法陣(アドリブ・サーキット)を多重起動した。

何層もの幾何学模様が空間に浮遊し、眩い光を放つ。

 

視界が強烈な白に染まり——次の瞬間、音のない世界へと切り替わった。

 

一面、真っ白な空間。

上も下も、距離感すらも曖昧な、魂の形で存在する異次元領域——『無の世界』。

 

音もなければ、匂いもない。

重力すら感じられない空間。

私自身の魂が「立っている」と錯覚することで、無理やり感覚を成立させている。

 

何度も繰り返し訓練したはずなのに、この空間特有の異様さにはいまだに慣れることができない。

 

私は胸元から、五龍将の秘宝の複写品を組み込んで作成した特別な羅針盤を取り出した。

指針がグルグルと回転した後、ひとつの方向を指してピタリと静止する。

 

「ルード、あっちだ!」

『了解!つかまってくれ!』

 

ルードの操縦する紺色の魔導鎧(マジックアーマー)が、背部と脚部の魔力バーニアを噴射させた。

私はその巨大な装甲の肩に掴まり、白い虚無の中を高速で飛翔する。

 

ルードはかつて魂だけの存在としてこの空間を漂っていた記憶があるため、この地理——という表現が正しければだが——を感覚的に理解していた。

迷いのない加速で、白銀の空間を突き進む。

 

『……ここだ、ルーデウス!』

 

ルードがバーニアを逆噴射させ、機体を停止させた。

羅針盤の指針が激しく振動し、この先を指し示している。

 

私が疑似魔力眼(マナ・サイト)を起動して空間の深層を覗き込むと、そこには息を呑むほどの巨大な『歪み』が存在していた。

空間そのものを力ずくで捩じ切り、外界からの干渉を拒む密室の城砦。

 

「空間をこれほど歪めるだけの力を持っているということか……激しい戦いになるな」

 

私は背中から王竜剣カジャクトを引き抜いた。

重力操作の権能を全開にし、この曖昧な空間の座標を強引に固定、引き裂く。

 

「可視化……そして、空間通路の強制固定」

 

カジャクトの刃が白き空間を切り裂くと、そこに黒い亀裂が生じ、後続が転移するための安定した場が生成された。

 

さらに懐から、棒状の魔導具を取り出す。

これはペルギウスとの魔力接続を維持するためのアンカーだ。現実世界と『無の世界』を、途切れることのない魔力の糸で結びつける。

 

ペルギウス自身の魔力量ではオルステッドという規格外の存在をこの次元まで転移させることはできない。

だからこそこのアンカーを釣り糸とし、私自身の魔力を滑車にして、あちら側にいる龍族二人とアレクを引き引き込むのだ。

 

「ぐっ……重い……!」

 

手応えは、山を一つ引っ張り上げるかのように重厚だった。

魔力の糸がぎりぎりと軋み、今にも千切れそうな悲鳴を上げる。

 

私は歯を食いしばり、体内の魔力を豪快に吐き出し、強引に糸を手繰り寄せる。

額から汗が噴き出し、腕の感覚が徐々に麻痺していくのが分かった。

 

それでも、止めるわけにはいかない。

 

直後、強烈な光の柱が二本、空間を貫いた。

 

光が収まると、そこにはオルステッド、ペルギウス、そして大剣を構えたアレクの姿があった。

ペルギウスとアレクは足場すらない『無の世界』の気味の悪い異様さに、息を呑んで周囲を見回している。

 

私は懐から、アイシャが完璧に調合してくれた特製の魔力回復ポーションを取り出し、一気に煽った。

私の魔力波長に完全に最適化された特上品だ。全身に魔力が素早く満ち渡っていく。

 

オルステッドは既に敵の気配を捉えているようだった。その視線は、空間の歪みの最深部を睨みつけている。

 

「……この先か、ルーデウス」

「はい。歪みの中心はこの先です」

「よし。全員、準備はいいか?」

 

アレクが私と鉱神が共同で作り上げた大剣を構え、ルードが魔導鎧(マジックアーマー)の全武装を起動する。

ペルギウスが魔爪を放ち、古代の詠唱を開始する構えをとる。

私は王竜剣カジャクトを右手に構えた。

 

オルステッドが静かに両手を合わせ、左手の掌から一本の刀——神刀を引き抜いた。

 

「穿てっ!!」

 

オルステッドが神刀を空間に突き刺し、目の前の空間が銃弾を受けたかのようにひび割れた。

 

バリィィィンッ!

 

まるで巨大な強化ガラスが粉々に割れ砕けるような、澄んだ破壊音が響き渡った。

裂けた空間の向こう側——そこに、奴がいた。

 

全身を白く塗りつぶされたような、モザイク状の不定形な人型。

幾重もの運命の糸を束ね、世界を裏から支配してきた元凶——人神(ヒトガミ)だ。

 

長年、幾多の人生を通じて私たちを陥れ、苦しめ続けてきた張本人。

その存在を、ようやく再度この目で捉えることができた。

 

不思議と、恐怖はなかった。

あるのは、ただ静かに燃える確かな殺意だけだ。

 

オルステッドが飛び出すよりも早く、私は事前に起動し、周囲に潜ませていた魔術を放った。

 

私の周囲に浮遊していた、鈍色に光る腕ほどの大きさの金属筒が四個。

それらが雷光の速度で射出され、人神(ヒトガミ)の四方を包囲する。

 

「『収束荷電粒子砲(ガンマ・パーティクル・キャノン)』」

 

重力魔術を応用することで複数の陣を必要とせず、極限まで小型化・省エネ化を果たした私の最新魔術だ。

ルードの発案により、杖から放つのではなく、自律飛翔する筒から放つ形式を採用した。

ルードが前世の記憶から『ファンネル』と呼んでいたこのシステムにより、射出角度の縛りは完全に消滅している。

 

四つの筒から一斉に放たれた超高密度の熱線が、人神(ヒトガミ)の四肢を一瞬で焼き切り、分断した。

 

『なっ……早すぎる!!なぜだ!?なぜお前たちがここにいる!?』

 

人神(ヒトガミ)が、慌てふためいた耳障りな声を上げる。

表情など分からないモザイク状の顔面だが、信じられないものを見るように私たちを凝視しているのが伝わってきた。

 

しかし、切り飛ばされたはずの手足は、一瞬で引き寄せられるように元の体幹へと接合された。

 

「……実体がない?魂だけの存在となっているのか……!」

 

アレクが体の一部を激しい雷光へと変化させ、超神速で突撃した。

 

「奥義——雷光閃!」

 

雷と化したアレクの姿は、もはや肉眼で追うことすら難しい。

この大剣を渡してから新たに開発したという奥義を放つ。

残像だけが幾重にも重なり、人神(ヒトガミ)の周囲を稲妻の帯が包み込んだ。

 

ルードも魔導鎧(マジックアーマー)のバーニアを全開にして加速し、左腕に仕込まれた大型の魔力剣で人神(ヒトガミ)を横一文字に薙ぎ払う。

 

金属と金属がぶつかり合うような、耳障りな高音が空間に反響した。

 

激しい衝撃波が走り、人神(ヒトガミ)のモザイク状の身体が煙のように乱れた。

だが、ダメージが通っていない。切り裂かれたモザイクは、すぐに元通りに収束してしまう。

 

「くっ……そんな……!」

 

アレクが悔しげに舌打ちする。

これだけの威力の一撃を叩き込んでおきながら、手応えがまるでない。

その事実が、私たちの背筋に冷たいものを走らせた。

 

続いてオルステッドが肉薄し、神刀を突き立てる。

人神(ヒトガミ)は理解不能な動き——空間そのものをぐにゃりと歪めるような、転移とは異なる異次元の回避動作でそれを躱した。

 

(……物理打撃も普通の魔術も効かない?概念的な攻撃でしかダメージを与えられないのか?)

 

後方に控えるペルギウスが、朗々とした声で大詠唱を続けている。

 

「その龍はただ忠義にのみ生きる。両の爪は長く、鋭く、決して拳を握れない——」

 

人神(ヒトガミ)はオルステッドの猛攻を間一髪で回避しながら、発狂したような叫び声を上げた。

 

『救世主も、聖獣も、ましてや篠原秋人さえまだこの世界に来ていないはずなのに……!!運命の計算が……合わない!なぜだ、なぜなんだルーデウス・グレイラットォォッ!!』

 

人神(ヒトガミ)の口から出たその名前に、私は冷ややかな視線を返した。

 

「……計算が合わないのは、お前が私と私の家族という『変数』を軽視したからだろう。それに……今の私はルーデウス・ボレアス・グレイラットだ」

『知るかぁぁぁッ!!』

 

人神(ヒトガミ)が咆哮すると、空間全体を揺るがす絶大な衝撃波が放出された。

激しい圧力が襲いかかる。

 

「くっ!」

 

私は咄嗟に割り込み、詠唱を続けているペルギウスの前に多層の結界障壁を展開して守った。

だが、前線で間合いを詰めていたオルステッドとアレクがその衝撃波を受けて後方へと吹き飛ばされる。

 

人神(ヒトガミ)はまるで気味の悪い液体のように形状を崩しながら、まだ体勢を戻せていないルードの魔導鎧(マジックアーマー)へ一直線に肉薄した。

 

『まずは邪魔な人形からだぁっ!』

「まずい、ルード!!」

 

距離がある。魔術の着弾すら間に合わない。

私は右手に持った王竜剣カジャクトの重力制御機構をオーバーヒート覚悟で全開に叩き込んだ!

 

「『時間停止(クロノ・スタシス)』!!」

 

カジャクトを中心に、極小範囲の重力場が無限大にまで縮小し、人神(ヒトガミ)の周囲の時間軸を力ずくで凍りつかせる。

 

人神(ヒトガミ)の動きが、ぴたりと静止した。

 

だが、相手は人神(ヒトガミ)だ。止められるのはほんの一瞬、コンマ数秒に過ぎない。

しかし、その一瞬で十分だった。

 

「させるかッ!」

 

吹き飛んでいたアレクが身体を完全に雷と化して戻り、ルードの魔導鎧(マジックアーマー)を安全圏まで力ずくで引っ張り戻す。

そして体勢を立て直したオルステッドの神刀が、止まっていた人神(ヒトガミ)の胴体を真横から深く切り裂いた!

 

『ギエアガァァッ!?』

 

人神(ヒトガミ)が初めて明確な苦悶の悲鳴を上げる。

退避したルードが息を荒らげながら叫んだ。

 

『すまん、ルーデウス!助かった!』

「ルード!『アレ』を使え!!」

『了解っ!!』

 

ルードが魔導鎧(マジックアーマー)を低く構えた。

機体の右肩装甲が開き、混合(コンタミネーション)の光とともに、禍々しい造形の巨大な多軸回転機関砲——ガトリング銃が顕現した。

ルードが『アヴェンジャー』と名付けた、決戦用極大兵装だ。

 

『くらえぇぇぇッ!』

 

六本の砲身が超高回転を始め、激しい火花とともに弾丸の嵐が吐き出された。

 

人神(ヒトガミ)はそれをただの物理攻撃だと高を括ったのだろう。回避行動すら取らず、モザイクの身体で受け止めようとした。

 

だが——弾丸が接触した瞬間、人神(ヒトガミ)の身体が激しく爆ぜ飛んだ!

 

『ギャィアァァァァッ!?なに……なんだこれはぁぁッ!?痛い、痛い痛い痛いぁぁぁッ!!』

 

人神(ヒトガミ)が狂乱の悲鳴を上げて転げ回る。

 

ルードが放った弾丸は、ただの金属ではない。

私の身体から剥ぎ取った『竜の鱗』を加工して作られた、特別な絶対魔力遮断弾だ。

 

この世界において、魔力とは闘気と同義であり、すなわち生命力・魂そのものである。

私の鱗の持つ「あらゆる魔力を無効化・分解する」性質を弾丸として叩き込むことで、実体を持たない人神(ヒトガミ)の魂そのものを直接削り取る『死弾』として機能したのだ。

 

(……自前の鱗を剥がすのは激痛を伴うのが最大のネックだったが。自分の腕を切り落としてから鱗を剥ぎ取り、腕を再生させる方法に気づいて大量生産した甲斐があったな。二度とやりたくはないが)

 

ペルギウスの大詠唱が、ついにクライマックスを迎える。

 

「かの龍が怒りしとき、拳は握られん。爪は折れ、牙は抜け、しかし思い知るだろう。忠義を握りし龍が、いかなる思いで忠義を捨てたかを!」

 

激痛に悶える人神(ヒトガミ)に対し、オルステッドとアレクが容赦ない連撃を叩き込む。

人神(ヒトガミ)が予測不能な軌道で反撃の光を放とうとするが、アレクが雷と化した剣撃でその四肢を細かく切り散らし、発動前に潰していく。

 

追い詰められた人神(ヒトガミ)が、ついにこれまでと異なる異常な行動に出た。

モザイク状の身体の中心に、狂気的なまでの光が集束していく。

 

その光は、これまで見てきたどの攻撃とも質が違っていた。

まるで、人神(ヒトガミ)という存在そのものを燃料にして放とうとしているかのような、異様な圧迫感。

 

(なっ……!?)

 

疑似魔力眼(マナ・サイト)で視界を覆うエネルギー量を視認した瞬間、私の背筋に冷たい汗が吹き出した。

ロアの転移事変の際に発生した膨大な魔力など、これに比べれば赤子のようなものだ。

世界を一つ丸ごと消し去っても余りある、絶対的な破滅の光。

 

「アレク、ルード、下がれ!あれは受けきれる威力じゃない!」

 

私の叫びに、二人が即座に反応し後退する。

だが、この広大な『無の世界』の中で、逃げ場などどこにもないのも事実だった。

 

『消えろ……消えろ消えろ消えろ!世界ごと消え失せろぉぉぉッ!!』

「三番目に死んだ龍。最も鋭き瞳を持つ、白銀鱗の龍将。甲龍王ペルギウスの名を以って召喚する——」

 

ペルギウスが両手を天に掲げ、叫んだ。

 

「開け『後龍門』!招け『前龍門』!」

『死ねぇぇーーーっ!!』

 

人神(ヒトガミ)の全存在をかけた破滅の光が放たれた。

同時に空中に出現した巨大な『前龍門』が、その膨大な光を吸い込んでいく。

 

しかし、エネルギーの量があまりにも多すぎた。

前龍門の表面に、ミシミシと激しい亀裂が走り始める!

 

「ぬぅ……ッ!」

 

ペルギウスの余裕に満ちていた表情が、初めて苦悶に歪んだ。

額に脂汗を浮かべ、両腕を震わせながらも、決して門から手を離そうとしない。

 

「ペルギウス様、持ちこたえてください!『強制拡張(フォースト・イクスパンション)』!!」

 

私は溜め込んでいた全魔力を解き放ち、前龍門に直接接続した。

私の規格外の魔力によって龍門の容量が強制的に再構築され、拡張される。

人神(ヒトガミ)の放った破滅の光線のすべてが、完全に前龍門の内部へと吸い込まれて消えた。

 

『そんな……バカな……僕の全力が……!?』

 

人神(ヒトガミ)が驚愕の声を上げる。

 

前龍門に溜め込まれた破滅のエネルギーが、すぐさま『後龍門』へと転送される。

だが、それをそのまま射出しても人神(ヒトガミ)には通らない。

 

私は後龍門の排出口へと跳躍すると、混合(コンタミネーション)の技術を全開にして、その溢れ出そうになる破滅のエネルギーを自分自身の身体へと強引に取り込んだ!

 

「ぐああぁぁぁっ!?」

 

全身の細胞が沸騰し、破裂しそうになる。

視界が赤と白に明滅し、意識が何度も刈り取られそうになった。

 

(……ここで気を失ったら、全部終わりだ)

 

私は即座に身体を竜化させ、硬質な鱗と骨格で内側からの爆発を力ずくで抑え込んだ。

かつて闘神鎧を分解・消化したときと同じプロセス。膨大なエネルギーを、私の体内で別のベクトルへと変換する。

 

血管という血管が浮き上がり、骨が軋む。

それでも、私は歯を食いしばって意識を繋ぎ止め続けた。

 

しかし、これをただの雷として放っても人神(ヒトガミ)は倒せない。

エネルギーの譲渡先は、最初から一つに決まっていた。

 

唯一神の力にすら耐えうる、最強の器。

 

「オルステッドっ!!」

 

私は叫びとともに、体内で変換した純粋エネルギーのすべてを、オルステッドが掲げる神刀へと一気に流し込んだ。

 

キィィィィンッ……!

 

神刀が暴烈なエネルギー移譲を受け、耳をつんざく高音を響かせた。

太陽のごとく眩い白熱を放ったかと思うと、次の瞬間、光をすべて呑み込む闇そのもののような漆黒へと変貌した。

 

オルステッドが、漆黒に染まった神刀を静かに構え、人神(ヒトガミ)と向き直る。

 

『ひっ……来ないで……来ないでくれぇぇっ!』

 

怯えた声を上げる人神(ヒトガミ)に対し、オルステッドは問答無用で一閃を放った。

 

黒き神刀の軌跡が空間を切り裂く。

人神(ヒトガミ)の両手、両足が、同時に切断されて宙を舞った。

 

これまでの攻撃とは、明らかに質が異なっていた。

切断面から血のように光がダラダラと溢れ出し、人神(ヒトガミ)は狂乱の絶叫を上げる。

 

『ぎゃああああああああっ!!痛い!痛い痛い痛いっ!!僕の手が!僕の足がぁぁぁッ!!』

『今だ!』

 

私はすかさず人神(ヒトガミ)の背後へと転移した。

宙に舞う人神(ヒトガミ)の切断された両手両足を竜の顎で丸呑みにした。

 

吐き気を催すほどの強烈な異物感と激痛が胸を襲う。

私は必死に歯を食いしばり、体内で『属性書換(タイプ・キャスト)』を実行した。

 

ぐちゅり、という嫌な感触とともに、人神(ヒトガミ)の四肢の情報構造が書き換えられていく。

……これで、この切り離された両手両足の所有権は、完全に私のものとなった。

 

『逆混合(リバース・コンタミネーション)』

 

取り込んだ四肢を、四本の漆黒の杭として再顕現させた。

 

私はその一本を牙で掴むと、人神(ヒトガミ)の背後からその腹を深く突き刺した。

 

『ガハッ……!』

 

『アレク!』

「はいっ!」

 

アレクが二本目の杭を掴み取り、人神(ヒトガミ)の右肩へ深く打ち込む。

 

『ルード!』

『任せろ!』

 

ルードの魔導鎧(マジックアーマー)が三本目の杭を掴み、人神(ヒトガミ)の左肩へ叩き込む。

 

そして最後の一本を、オルステッドが掴み——人神(ヒトガミ)の首の根本へと一直線に突き刺した。

 

四本の杭によって串刺しにされ、空間そのものへと縫い付けられた人神(ヒトガミ)が激しく痙攣する。

 

私は後方に控えるペルギウスに向かって叫んだ。

 

「ペルギウス様!この杭を触媒にして、封印を!!」

 

ペルギウスが即座に前へ躍り出た。

彼が懐から取り出したのは、一枚の薄い板——この世界には存在しない素材で作られた、特別な封印の魔法陣だった。

 

その素材の名は、シリコンウェハ。

私が異世界へと転移した際に拝借してきた超高純度珪素基板だ。

フォトレジスト技術と超精密な魔法陣描画を組み合わせ、ナノレベルの正確さで回路を刻み込んだ至高の魔法陣。既に回路には特別な魔力塗料が満たされている。

 

ペルギウスがウェハに魔力を打ち込むと、そこから高密度の極細光線が投射され、人神(ヒトガミ)の全身を包み込んだ。

 

光線が収束すると同時に、人神(ヒトガミ)は金縛りに遭ったかのようにピクリとも動かなくなった。

そのモザイク状の光すらも完全に減衰し、静まり返っていた。

 


 

しんと静まり返った『無の世界』に、ルードの慎重な声が響いた。

 

『……これで、封印されたのか?』

 

ペルギウスが疲労を滲ませながらも、満足げに鼻を鳴らした。

 

「うむ。これほどの存在ともなれば、既存の触媒では耐え切れん。だが、これは奴自身の両手両足を触媒として組んである。奴自身の手足である以上、内側から抜け出すことは絶対に不可能だ」

 

アレクが大剣を収めながら、不思議そうに首を傾げた。

 

「あの……こいつ自身の両手両足なら、自分で引き抜いて逃げたりしないんですか?」

 

私が答える。

 

「オルステッドが切断した瞬間、私が取り込んで『属性書換(タイプ・キャスト)』を行ったからね。今のあの杭は、概念的には私の両手両足と同じ扱いになっている。奴が自力で操作することはできないだろう」

『……殺さなくてよかったんですか、社長?』

 

ルードの問いに、オルステッドは静かに首を振った。

 

「人神(ヒトガミ)を完全に消滅させれば、この世界を支える柱が失われ、人界そのものが崩壊する。だからこそ、こうして永遠に封印し続けるしかないのだ」

 

動かない人神(ヒトガミ)を見下ろす。

意識はあるのだろうが、指一本動かすことも、言葉を発することもできない。呪詛を吐くことすら許されず、永遠の静寂の中に閉じ込められている。

 

ルードがポツリと漏らした。

 

『……なんだか、少し可哀想だな。この状態で死ぬこともできず、永劫の時を過ごすなんてさ』

 

確かに、客観的に見ればあまりにも残酷な処刑に見えるかもしれない。

だが、私はルードに向き直り、静かに諭した。

 

「ルード。こいつは自分の欲望と保身のために、人界を除く五つの世界を騙し、滅ぼした張本人なんだ。何億という生命を理不尽に奪ってきた。……報いを受ける時が、ようやく来たんだよ」

 

ルードは私の言葉を噛み締め、深く頷いた。

 

『……そうか。それもそうだな』

「ふむ。しかし未来永劫、か。流石にそこまで結界が保持されるかどうかは、我とて試験できぬぞ」

 

ペルギウスの懸念に、私は「そうですね」と頷き、一歩前へ出た。

 

「念のための対策を、もう一つ打っておきましょうか」

 

私は沈黙する人神(ヒトガミ)の胸元へ歩み寄ると、そのモザイク状の身体へ躊躇なく右手を突き刺した。

 

『ぐ……あ……』

 

かすかな呻き声が漏れる。

私は体内の魔力を特殊な波長に変換し、流し込んだ。

 

「『呪縛破壊(マレ・ルプトゥラ)』」

 

バキンッ!!

 

まるで硬質なガラスが粉砕されたかのような透明な衝撃音が、人神(ヒトガミ)の内部から響いた。

直後、人神(ヒトガミ)の身体から漂っていた独特の「引きつけられるような怪しい気配」が完全に消失した。

 

アレクが目を丸くして尋ねてくる。

 

「ルーデウス、今のは一体何を……!?」

「呪い……こいつが生まれ持っていた『誰からも無条件で信頼される呪い』の構造を、力ずくで破壊した」

 

オルステッドが驚愕の表情を浮かべた。

 

「そんなことが可能だったのか……?ルーデウス、ならばなぜ俺の呪いを……」

「オルステッド、言いたいことは分かりますが、これは『解呪』ではなくただの『破壊』です。呪いが消えて無くなるわけではなく、別の歪んだ形へと変質するだけなんです。そして大抵の場合、悪化する方向へ崩れます」

 

私は疑似魔力眼(マナ・サイト)で、人神(ヒトガミ)の体内で砕け散った呪いの回路がどのように再結合したかを確認した。

 

「……ふむ。こう壊れるか。数奇な運命だ」

「どうなったのだ、ルーデウス?」

 

ペルギウスの問いに、私は苦笑いを浮かべて答えた。

 

「恐らくですが……『誰からも信頼される呪い』が崩壊し、『あらゆる者から本能的に嫌悪・忌避される呪い』に近い形に変質しました」

 

それを聞いたオルステッドが、心底安心したように、どこか晴れやかな笑みを浮かべた。

 

「……そうか。ならば、こいつが人の夢に現れて、言葉巧みに人を誘導することは不可能だな」

 

誰よりも『嫌悪される呪い』の苦しみと不便さを知り尽くしているオルステッドの言葉だからこそ、その実感は重く、そして確かな勝利の証として響いたのだった。

 

私は改めて、封印された人神(ヒトガミ)を見下ろした。

 

かつては世界の裏側から糸を引き、何度も私たちを絶望の淵へ追い込んできた存在。

その姿は今、指一本動かせぬまま、永遠の静寂の中に沈んでいる。

 

「……終わった、か」

 

自分の口から漏れた言葉が、やけに他人事のように響いた。

実感が追いつかない。

 

ルードが魔導鎧(マジックアーマー)のコクピットから降り立ち、私の肩にそっと手を置いた。

 

「終わったんだよ、ルーデウス。……本当に、お疲れ様」

 

その一言に、張り詰めていた何かが、ゆっくりと緩んでいくのを感じた。

 

アレクが大剣を背に担ぎ直しながら、少し照れくさそうに笑う。

 

「さあ、帰りましょう。家族が待ってるんでしょう?」

「……そうだな。帰ろう」

 

ペルギウスが疲労の滲む顔で、それでも満足げに頷いた。

 

「うむ。長き因縁にひとまずの決着といったところか。よくやったな、ルーデウス」

「ありがとうございます、ペルギウス様。あなたの協力がなければ、成し得なかった勝利です」

 

オルステッドが最後に、静かに私の方を見た。

その金色の瞳には、これまで見たことのないほど穏やかな光が宿っている。

 

「ルーデウス。……ありがとう」

 

短い言葉だったが、そこに込められた万感の想いは、誰よりも私に伝わってきた。

 

私たちは互いに頷き合うと、帰還のための転移魔法陣を起動した。

 

待っている家族のもとへ。

ようやく、帰れる。




人神(ヒトガミ)戦でした。

原作でほぼ情報がない戦いだったので、独自解釈が多く含まれることをご了承いただければ幸いです。
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