無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side:ルーデウス
私たちはついに
空中城塞を出発する前、秘書である空虚のシルヴァリルに預けてあった『帰還用の空間座標魔導具』に意識を集中させる。
次元の裂け目を固定し、転移の光が全身を包み込んだ。
次の瞬間、視界が切り替わり、見慣れた空中城塞ケイオス・ブレイカーの転移の間に立っていた。
周囲に立ち込める澄んだ空気を吸い込むと、なんだかとても久しぶりに帰ってきたような感慨が胸を突く。
「さて……あちらではどれくらいの時間が経っていたのだろうか?」
戦いの後だというのに、まだどこか現実感が薄い。
つい先ほどまで命を賭けていたはずなのに、今こうして静かに立っていることがひどく不思議な感覚だった。
私が呟いた直後、儀式の間の扉が重々しく開いた。
そこにいたのは、空虚のシルヴァリルを先頭とする、十二の配下たち全員だった。
アルマンフィをはじめとする精霊たちが左右に居並び、シルヴァリルがペルギウスに向けてうやうやしく膝を折る。
「甲龍王ペルギウス様!ご無事のご帰還、心よりお祝い申し上げます!」
シルヴァリルが代表して無事の帰還を祝う言葉を述べた。
ペルギウスは顎を軽く引き、威厳に満ちた声で問う。
「うむ、苦労をかけたな。シルヴァリル、我らが『無の世界』へ向かってから、どれほどの時が流れた?」
シルヴァリルは頭を上げたまま、静かに答えた。
「は。皆様が旅立たれてから、ちょうど『一年』の月日が経過いたしました」
「「「一年!?」」」
私とアレク、そしてルードの声が綺麗に重なった。
『無の世界』での体感時間は、戦闘を含めても三時間かそこらだったはずだ。
それなのに、現実世界では丸一年が過ぎ去っていたとは。
「やはり『無の世界』における時間経過の法則は、常世の理とは大きく異なっているようですね……。あちらで行使された魔力量が空間と時間の歪みを過剰に加速させたのかもしれません」
私の考察を聞きながら、ルードがガチャンガチャンと
『一、一年!?うそだろ!?ファリアがどれだけ心配してるか……!今すぐ事務所に帰る!』
その様子は、あの決戦を戦い抜いた兵器とは思えないほど、どこか滑稽で愛らしかった。
ルードの取り乱しように、私は苦笑しながらその巨大な金属の肩を叩いた。
「ルード、落ち着け。今は真夜中だ。シャリーアの街も事務所も寝静まっているはずだ」
「うむ、その通りだ。今から転移しても大事になろう。今夜は我が城塞にて一泊し、体を休めていくがよい」
ペルギウスからのお言葉をいただき、私たちはその温かい好意に甘えることにした。
ふと隣を見ると、オルステッドが静かに窓の外の夜空を眺めていた。
その横顔は、これまで一度も見せたことのないほど柔らかく、肩から重荷が完全に下りた、どこか力みのない穏やかな表情をしていた。
数万年。
気が遠くなるような途方もない時間のループを繰り返し、たった一人で世界を背負い続けてきた男が、ようやく掴み取った戦いの終止符。
その感慨深さと脱力感は、私たちの想像を絶するものがあるのだろう。
私はあえて声をかけず、そっとその場を後にした。
今のオルステッドには、一人静かに勝利の重みを噛み締める時間が必要な気がしたからだ。
案内された豪華な個室に入り、私はふかふかのベッドに倒れ込むようにして、深い眠りについた。
翌朝。爽やかな朝日が射し込む中、私とオルステッド、アレク、ルードの四人は転移陣を使い、シャリーアの街へと降り立った。
思った以上に深くぐっすりと寝てしまったらしい。
街の通りには既に人々が行き交っており、自宅も事務所も朝食を終えて一日の活動を始めている時間帯だ。
「オルステッド様、私たちは一度事務所に向かいましょうか」
アレクが尋ねると、オルステッドは私に向き直り、優しい声で言った。
「ルーデウス、お前は自宅へ帰ると良い。一年間も留守にしたのだ、家族が待っているだろう」
「……ありがとうございます、オルステッド。では、お言葉に甘えて」
ファリアスティアに一刻も早く会いたいルードと、アレク、オルステッドはそのまま事務所へと向かっていった。
私は胸を躍らせながら、我が家への道を急いだ。
見慣れたはずのシャリーアの街並みが、今日はやけに鮮やかに見える。
パン屋の焼きたての匂い、露店の呼び込みの声、子供たちの笑い声。
たった一年、体感としては一日も経っていない程度離れていただけなのに、この当たり前の日常がこれほど愛おしく感じられるとは思わなかった。
自宅の敷地に足を踏み入れると、パウロの道場からはいつも通りの活気あふれる掛け声と、木剣の打ち合う音が響いていた。
玄関のドアノッカーに手を伸ばそうとしたその時、前庭の小さな花壇でガーデニングをしていた二人の人物が、私の存在に気づいて振り返った。
ゼニスとシルフィだ。
「……ルディ……?」
「……ただいま、二人とも」
私の「ただいま」の言葉が最後まで終わらないうちに、二人は手袋やジョウロを放り出し、なりふり構わず私に飛びついてきた。
「ルディ!ルディいぃっ!心配したんだよぉっ!」
「……ルディ……無事で……よかった……!」
シルフィは胸に顔を埋めてボロボロと涙をこぼし、ゼニスは私の頬を温かな両手で包み込んで、何度も頷いている。
「すまない、二人とも。ここまで時間がかかるとは思っていなかったんだ。心配をかけたね」
二人の体を抱きしめていると、玄関の扉が勢いよく開かれ、バタバタと猛烈な足音が響いた。
「ルーデウス様っ!?」
「旦那様!旦那様なのですかっ!?」
飛び出してきたのは、リーリャとアイシャだった。
普段は冷静沈着で品格を重んじるリーリャにしては、見たこともないほどの激しい動きだ。
やはり血は争えない、二人並んで走ってくる姿は実に親子らしい。
ゼニスとシルフィが少し身体を離すと、今度はリーリャとアイシャが代わる代わる私に強く抱きついてきた。
「無事のご帰還、何よりにございます……!どれほど胸を痛めたか……!」
「旦那様!遅いです!遅すぎますよぉっ!」
リーリャは私の胸に顔を埋めたまま、しばらく肩を震わせていた。
いつも冷静で、家のことを完璧に取り仕切ってくれる彼女が、これほど感情を露わにする姿を見るのは初めてかもしれない。
「心配をかけて申し訳ありませんでした、リーリャさん」
「……いいえ。お戻りくださっただけで、十分にございます」
アイシャは涙目のまま、それでも私の顔をぺしぺしと両手で叩いてきた。
「一年ですよ、旦那様!一年!せめて手紙の一枚でも寄越してくださればよかったのに!」
「あちらでは手紙を送る手段がなかったんだ。本当にすまない」
「もう……。でも、無事に帰ってきてくださったから、全部許します」
そう言って、アイシャはくしゃりと泣き笑いのような表情を浮かべた。
二人の温もりを感じながら苦笑していると、扉が叩き割らんばかりの勢いで開かれた。
「ルーデウスッ!!」
地響きのような叫び声とともに躍り出てきたのは、エリス、アルス、ジークハルト、そしてパウロだった。
訓練を力ずくで中断して駆けつけてきたらしい。
次の瞬間、これまでの誰とも比べものにならない速度と質量が私に向かって飛来した。
「ぬおっ!?」
エリスの超音速タックルだ。
私は咄嗟に足裏に龍聖闘気を極大集中させ、大地に根を張るようにして踏ん張った。
どがぁんっ!!
「ルーデウス!ルーデウスルーデウスルーデウスッ!!」
「ぐふっ……!エリス、待って、肋骨が、肋骨から嫌な音が……!」
全力の抱擁だ。みし、みしりと私の身体が悲鳴を上げるが、私だって負けてはいられない。両腕に力を込め、愛おしいエリスの身体を全力で抱き返した。
ふと目線を下に向けると、エリスの背後からアルスとジークハルトが私を見上げていた。
(……あ、二人とも背が伸びている。大きくなったな……)
たった一年、されど子供にとっての一年はあまりにも大きい。
私はエリスを優しく促して身体を離すと、膝をついて二人を迎える姿勢をとった。
「アルス、ジーク。ただいま」
「「パパぁぁぁっ!!」」
二人揃って、私の胸へと飛び込んできた。
幼い腕で必死に私の首にしがみついてくる子供たちを、愛おしさに胸を締め付けられながら強く抱きしめる。
その頭上から、パウロの手が乱暴に伸びてきて、私の頭をガシガシと撫で回した。
「遅ぇんだよ、バカ息子が!一年だぞ一年!どんだけ首を長くして待たせやがるんだ!?」
「……すみません、父さん。あちらの時間経過は予想外でした」
照れくさそうに笑うパウロの瞳にも、うっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。
ようやく家の中に入ると、廊下の奥からクリスティーナとリリ、そしてララとルーシーがパタパタと走ってきた。
「パパ!」「パパ帰ってきた!」
魔法大学は今、長期休暇中らしい。研究職であるロキシーだけは仕事があるとかで、まだ大学に残っているようだった。
私は再びしゃがみ込み、クリスとリリを両腕で抱き上げた。
「クリス、リリ。ただいま!」
高々と抱え上げると、二人とも「きゃあきゃあ」と歓声を上げて大喜びした。
それを見たアルスとジークハルトが、「いいなぁ」「僕も抱っこしてほしい」と羨ましそうに見上げている。
少し離れたところで待っていたルーシーが、こらえきれない様子で駆け寄ってきた。
「パパ……!パパぁっ!」
私はクリスとリリを一旦下ろすと、飛び込んできたルーシーをしっかりと受け止めた。
ルーシーはしばらく私の胸に顔を埋めたまま、肩を震わせていた。
「……ずっと信じてたよ。パパは絶対に帰ってくるって」
「ああ。ちゃんと帰ってきたよ、ルーシー」
少し離れたところで、ララがぶっきらぼうに鼻を鳴らしながらも、瞳をうっすらと潤ませていた。
「……遅い」
「ごめんよ、ララ」
「……もう一つ、遅い。約束してた
そのマイペースな物言いに、私は思わず噴き出しそうになった。
だが、その素っ気ない態度の裏に、精一杯の心配と安堵が滲んでいることはちゃんと伝わってきていた。
私はララの頭も優しく撫でてやった。
そのまま子供たちを連れてリビングへ入ると、先に家に戻っていたアイシャが二人の子ども——アイリスとルーシュを両腕に抱っこして迎えてくれた。
「旦那様、この子たちも旦那様を待っていましたよ」
私はクリスとリリを静かに床へ下ろすと、今度はアイリスとルーシュを一人ずつ腕に抱き上げた。
二人はすっかりハイハイを覚え、顔つきもしっかりとしてきている。私を見ると、私と似た竜の瞳を輝かせて、小さな手を伸ばしてきた。
両手が完全に塞がったその直後、後ろからアイシャが「えーいっ」と背中に抱きついてきた。
「ふふ、これで全員揃いましたね、旦那様」
「ああ……改めてただいま、アイシャ」
リーリャがエプロンを整えながら申し分なさそうに尋ねてきた。
「ルーデウス様、何かお召し上がりになりますか?まだ朝食をお取りになっていないのでしたら、すぐに準備いたしますが」
「ありがたいです、リーリャさん。温かいスープとパンをいただけると助かります」
食卓につくと、家族全員が私を取り囲むように座った。
一年ぶりに囲む食卓は、いつも以上に賑やかで、誰もが少しでも私の近くに座ろうと肩を寄せ合っている。
パウロに「道場の方は大丈夫なのですか?」と聞くと、彼は腕を組んで自慢げに鼻を鳴らした。
「ふん、最近じゃあ指導を代わりに任せられるほどの腕立つ門下生が育ってきてるからな。今日くらい仕事を休んだって誰も文句は言わねえよ」
焼きたてのパンをスープに浸して口に運んでいると、耐えきれなくなったエリスがテーブルに身を乗り出してきた。
「ねえルーデウス!
その問いに、アルスやジークハルト、クリスたちも目を輝かせて私を見つめてくる。
「ああ、勝ったよ。完璧にね」
私はスープを飲み干すと、決戦の様子を分かりやすく噛み砕いて話し始めた。
ルードが操縦する巨大な紺色の
私の鱗を使った特殊なガトリング銃『アヴェンジャー』の威力。
ペルギウスの広げた巨大な『龍門』。
そして、オルステッドが振るった漆黒の神刀の切れ味と、異世界の技術を応用して作ったシリコンウェハの魔法陣による完全封印の瞬間。
「……最後にね、奴が二度と誰かを言葉巧みに騙せないよう、奴の持っていた『信頼される呪い』を力ずくで叩き壊して、『嫌悪される呪い』に変えておいたんだ」
アルスが目を輝かせながら身を乗り出してきた。
「パパ、その黒い神刀ってやつ、僕も見てみたい!オルステッド様に頼んだら見せてもらえるかな!?」
「はは、それはオルステッド次第だな。でも、危険なものだから、絶対に軽々しく触ろうとしちゃだめだよ」
ジークハルトも負けじと拳を握りしめた。
「ぼく、大きくなったら、パパがくれた大剣で、パパみたいに強い敵と戦うんだ!」
「その意気だ、ジーク。だけど、まずは今の剣術の稽古をしっかり頑張ることだね」
「その『シリコンウェハ』って魔法陣、見たい見たい!」
「ルードおじさんのロボットも見たかったなぁ!」
シルフィやゼニスは安堵の息をつき、エリスは「あたしもその神刀ってやつ、一回受けてみたいわね!」と拳を握りしめている。
パウロが感慨深げに腕を組んで頷いた。
「……そうか。本当に、終わったんだな」
「はい。長い戦いでした」
その一言に込められた重みを、この場にいる誰もが噛み締めているようだった。
一通り話し終えると、時計の針はまだ昼前を指していた。
しかし、パウロは「今日はめでたい日だ!」と言って、日が高いにもかかわらず酒瓶を持ち出してきた。
アイシャもニヤリと笑うと、私が以前醸造に成功した酒『
「旦那様、今日は無事のご帰還と
真昼間からの祝宴が始まった。
夕方になり、研究室での仕事を終えたロキシーがリビングのドアを開けた。
私の姿を見るなり、ロキシーは手に持っていた書類を落とし、こちらへ駆け寄ってきた。
「ルディ……!ルディっ!」
ロキシーは私の胸に飛び込むと、しばらく言葉にならない嗚咽を漏らし続けた。
普段は理知的で落ち着いている彼女が、これほど取り乱す姿を見るのは久しぶりだ。
「……ずっと、ずっと心配していました。夢の中でも、あなたのことばかり考えていて……」
「すみません、ロキシー。心配をかけました」
私はロキシーを他の家族と同じように、力いっぱい抱きしめ、改めて再会を寿いだのだった。
それからの動きは、驚くほど迅速だった。
各国への報告や連絡は、優秀な相棒であるアイシャが神がかった手際で処理してくれた。
子供たちの世話をリーリャに任せ、アイシャはすぐさま『龍の爪』事務所の執務に戻っていったのだが、各国からのリアクションは予想以上に早かった。
特に、アスラ王国の国王アリエル・アネモイ・アスラからの反応は劇的だった。
『素晴らしい……!素晴らしい快挙です、ルーデウス様!これはぜひ、第二回
帰ってきて早々、私は再び
シルフィやロキシーには「帰ってきたばかりなのに、また忙しくなるの……?」と呆れ顔で苦笑いされたが、こればかりは仕方がなかった。
一方、オルステッドの様子はというと、どこか『燃え尽き症候群』のような状態になっていた。
数万年という途方もない歳月、幾度ものループを重ねて追求し続けた目的を、ついに達成してしまったのだ。無理もない。
だが、目的を達成したからといって、人生が終わるわけではない。
これからの長い生こそ、重圧から解放された状態で、楽しく有意義に生きるべきなのだ。
私は事務所の執務室で、ぼんやりと窓の外を眺めていたオルステッドに声をかけた。
「オルステッド。今度、第二回
オルステッドは少し驚いたように私を見つめた後、フッと口元を緩めた。
「……そうか。分かった。ルーデウス、お前が仕切る舞台なら、喜んで参列しよう」
アリエルからは、アレクやルード、そしてペルギウスもぜひ参列させてほしいと強く要望されていた。
アリエル様はこの歴史的転換点を利用して、アスラ王国の主導権と、新たな世界秩序の構築を大々的にアピールするつもりのようだった。
第二回
第一回の経験があったため、準備の手順自体は非常にスムーズだった。
招集される各国の王族や首脳陣も、前回の衝撃とセキュアな転移スクロールの利便性を鮮明に記憶しているため、打診から数日と置かずに全員が参加を快諾してきた。
準備に奔走した数ヶ月間、私はシャリーアと王都アルスを何度も往復し、多忙な日々を送った。
家で書類の山と格闘していると、エリスが呆れ顔でスープを持ってきてくれたり、ララが書類の上に座り込んで邪魔をしてきたりと、賑やかで慌ただしい日常がそこにはあった。
そしてついに、会議の当日がやってきた。
Side:アリエル
第二回
三日間にわたる会議期間の中で、最も大規模かつ華やかな公式晩餐会が、アスラ王国が誇る『シルバーパレス』最大のパーティー会場にて催されます。
会場を埋め尽くすのは、全世界から集った真の要人たち。
ミリス神聖国からは、最高権力者である教皇猊下、そしてその孫クリフ・グリモル。
王竜王国からは、国王陛下とカークランド王子。
シーローン共和国からは、クーデターを経て新たなる共和制の礎を築いたパックス陛下と、軍部を率いるジェイド将軍。
その他、ラノア王国、ネリス公国、バシェラント公国、ビヘイリル王国の王族や代表者たち。
彼らの纏う衣装や表情は様々ですが、その瞳の奥に共通して宿るものがあるようです。
一年前のあの衝撃的な会議——龍神、甲龍王、そして雷神が空間を裂いて現れたあの瞬間を、誰もが鮮明に覚えているのでしょう。今日という日への、隠しきれない期待と緊張の色をしているのが分かります。
私は綿密に計算し尽くされたデザインの、純白と黄金を基調とした絢爛なドレスを身に纏い、パーティー会場の中央に設けられた一段高い舞台の上へと登りました。
手にした拡大発声の魔道具に、静かに魔力を通します。
「皆様。本日はよくぞアスラ王国、シルバーパレスへお集まりいただきました」
会場の喧騒が、潮が引くように静まり返ります。
全員の視線が、私へと注がれていました。
「本日は、この世界の根幹に関わる、極めて重大なご報告がございます。……ですがその前に、まずは皆様に太古の昔に失われた『本当の世界の歴史』についてお話しせねばなりません」
要人たちがざわめき立ちます。
私は堂々とした態度で言葉を続けました。
「私たちが今生きているこの世界は、『人の世界』と呼ばれているそうです。ですが、かつて世界は一つではありませんでした。世界はサイコロ状の『六面体』をしており、それぞれの面に異なる世界が存在していたのです」
私は背景に投影された光の魔術映像を指し示しました。
急遽ルーデウス様にご準備いただいた、投影の魔道具。『プロジェクター』というらしいですわ。これは色んな場面で使えそうです。
「平地と草原の『人の世界』。毒と瘴気が渦巻く『魔の世界』。天地が反転した『龍の世界』。鬱蒼たる森の『獣の世界』。豊かな海が広がる『海の世界』。そして、標高三千メートルの断崖絶壁の上に広がる『天の世界』。これら六つの世界の中心には、何も存在しない空洞——『無の世界』が存在していました」
各国の王族や将軍たちが、息を呑むのが分かります。
ある者は戯言だと眉をひそめ、ある者は古代の伝承と一致することに驚愕し、目を見開いているようです。
「これらは単なるおとぎ話ではありません。厳然たる事実です。そして……『人の世界』を除くすべての世界が破滅し、残された断片が繋ぎ合わされたのが、今の私たちの世界なのです。では、なぜ他の世界は滅び去ったのか?」
私は会場全体を見回し、低く、力強い声で告げます。
「それは……ある一つの悪意ある存在——
「「「
会場のあちこちで声が上がります。
前回の世界会議において、雷神ルーデウス様から警告された悪名高き存在。
「
私は客席にいる一人の人物へと視線を向けます。
「シーローン共和国のパックス陛下。……ご説明をお願いできますか?」
指名されたパックス陛下が、重々しく立ち上がりました。
「うむ……アリエル陛下。我がシーローンがクーデターの危機に瀕し、国が破滅しかけたあの惨劇。裏で糸を引いていたのは、我が国の将軍の夢に現れ、精神を汚染した
パックス陛下の重厚な証言に、会場の空気はいっそう張りつめます。
「感謝いたします、パックス陛下。……そして、かく言う私自身も、
私は一瞬だけ、会場の隅に控えるルークへと視線を送りました。
ルークは静かに目を伏せ、深々と頭を下げました。
「かつて、私の最も信頼する側近であった者が
王族たちの顔に、恐怖と緊張が走ります。
『では、どうすればいいのだ?』『夢に現れる悪魔など、防ぎようがないではないか!』という動揺の囁きが広がります。
ミリス神聖国の教皇猊下でさえ、祈るように両手を組み、青ざめた顔で天を仰いでいました。
王竜王国のカークランド王子も、隣に座る国王陛下と何やら早口で言葉を交わし合っています。
私はそれを制するように、両手を広げた。
「ですが……ご安心ください」
私の口元に、勝利の笑みが浮かびます。
「
会場がしんと静まり返ります。
「一年にも及ぶ激闘の末……彼らは
静寂。
一拍、二拍。
誰もが言葉を失い、ただ呆然と舞台上の私を見つめています。
そして次の瞬間——地鳴りのような歓声と叫びが、パーティー会場全体を激震させました!
『打倒しただと!?』
『夢の悪神を、か!?』
『真実なのですか、アリエル陛下!!』
「先ほど述べたことは、まぎれもなく真実です。これにより、
私が手を叩くと、舞台の袖から一人目の人物が歩み出てきました。
「第一の英雄!偉大なる北神の正統なる継承者!前線において圧倒的な剣技で仲間を守り抜いた剣士——北神アレクサンダー・カールマン・ライバック!」
アレクサンダーが、少々緊張しながらも胸を張り、眩い光を浴びて舞台の中央へ立ちました。
客席を見ると、黄金騎士シャンドルが目元をハンカチで拭い、涙ぐみながら息子に惜しみない拍手を送っていました。
「第二の英雄!アスラ王国が誇る絶対の守護神!幾多の不可能な戦いを勝利に導いた大魔導士——『雷神』ルーデウス・ボレアス・グレイラット!」
重厚な気配とともに、漆黒と金で飾られた『魔神鎧』を身に纏ったルーデウス様が舞台へ上がる。
その異形にして圧巻の威容に、各国の王族たちが息を呑み、畏怖の眼差しを向けました。
一方で、アスラ王国のボレアス家の貴族たちは「雷神万歳!!」「ボレアスの誇りだ!!」と狂喜乱舞の大歓声を上げています。
「第三の英雄!雷神ルーデウス様、シーローン共和国のザノバ殿下が持てる技術の結晶として開発し、
ドスンッ!ドスンッ!
舞台が揺れました。
体高三メートルを超える、美しい紺色に塗り上げられた巨大な人型兵器が、重厚な足音を立てて現れました。
これを操縦しているのはルーデウス様そっくりのルードという人物です。
だが、ルード本人が「自分は表舞台に出ず、静かに家族と暮らしたい」と強く希望したため、ルーデウス様と相談の上、この『機神』という称号を兵器そのものに授け、機体の姿で登壇してもらう形をとったのです。
巨大な機械仕掛けの『機神』の威容に、各国の軍部首脳たちは開いた口が塞がらない様子で圧倒されていました。
クリフ様だけは、専門家としての興奮を隠しきれない様子で、単眼鏡を片手に機体の関節部や装甲の継ぎ目を熱心に観察していました。
「ミリスの技術など、児戯に等しいな……」とつぶやく声が聞こえた気がします。
「第四の英雄!太古の龍族の秘術を保持し、絶対の結界をもって
舞台の頭上に光り輝く扉が現れ、十二の配下を従えたペルギウス様が静かに舞い降りました。
前回の世界会議でもその姿を見ている要人たちは、示し合わせたかのように一斉にその場に跪きました。
ペルギウス様は大変満足そうな笑みを浮かべ、顎を撫でながら周囲を見回しています。
その視線が、まるで最高の芸術品でも品定めするかのように、会場の装飾や照明の一つ一つにまで注がれているのが分かりました。
甲龍王らしい、美への飽くなきこだわりだと思うと、自然と口元が緩みました。
「そして……最後の英雄!」
私は一呼吸置き、最大の発声で叫びました。
「数万年という途方もない孤独の戦いを経て、ついに宿敵を封印せしめた、世界最強の存在——『龍神』オルステッド様です!」
ペルギウス様に続いて、オルステッド様が静かに舞台の上へと姿を現しました。
前回の世界会議で彼を見た者は、誰もがその変化に息を呑みました。
以前の彼は、見る者すべてに絶望的な恐怖を抱かせ、触れれば切れる刃物のような殺気が放たれているようでした。
ですが今の彼は、どこか穏やかで、慈愛すら感じさせる絶対的な威厳を漂わせています。
会場の誰かが、感極まったように呟くのが聞こえました。
「これが……本当に、あの龍神様なのか……」と。
五人の英雄が舞台の上に居並びました。
「皆様!この五名の英傑に、万雷の拍手を!!」
シルバーパレスの天井を突き破らんばかりの拍手と歓声が、いつまでも、いつまでも響き渡り続けました。
歓声が鳴り止まぬ中、ふと会場の空気が変わったのを感じました。
拍手の合間を縫うように、一人の男性が舞台へと歩み出てきたのです。
ルークでした。
ルーデウス様の前に進み出ると、ルークは膝を折り、深々と頭を垂れました。
「ルーデウス殿。……この場をお借りして、謝罪させていただきたい」
会場のざわめきの中にも、静かな緊張が広がっていくのが分かりました。
「かつて私は、
ルークの声は、微かに震えていました。
私にとっても、あの日のことは決して忘れられない出来事です。信頼していた側近が、まるで別人のように豹変し、剣を抜いた瞬間の恐怖は、今も胸の奥に刻まれています。
ルーデウス様は静かにルークへ歩み寄ると、その肩に手を置きました。
「頭を上げてください、ルーク殿。あなたも、
「……ですが」
「もう終わったことです。あなたが今、こうして真正面から謝罪してくれたこと、それで十分です。私は、あなたを恨んではいません」
ルーデウス様の言葉に、ルークは肩を震わせながら、深く、深く頭を下げ続けました。
その光景を見ていた客席の一角から、静かに歩み出てくる者たちがいました。
私の側近であるイゾルテとドーガ、そして黄金騎士シャンドルです。
彼らもこれまであの一件にまつわるどこか気まずい空気を、誰もが感じ取っていたのでしょう。
イゾルテが穏やかな微笑みを浮かべ、ルーデウス様に向かって深く一礼しました。
「雷神様。……私たちも、ようやく肩の荷が下りた思いです。ルーク殿の謝罪、そして雷神様の寛大なお言葉、心に染み入りました」
「私からも、改めて感謝を。……あなたのような御方が、この国の味方でいてくださることを、誇りに思います」
ドーガも武人らしい実直な口調で、深く頭を下げました。
シャンドルもまた、目を細めて頷きました。
「これで、ようやく本当の意味で、わだかまりが解けたな」
会場に、温かな拍手が再び湧き起こりました。
先ほどまでの祝勝の熱狂とはまた違う、静かで、しかし確かな絆を確かめ合うような拍手でした。
Side:アレクサンダー
大式典が終わった後のパーティー会場は、上品ながらも酒と料理が乱れ飛ぶ、狂乱の宴と化していた。
ルードが顔も出さずに操縦していた『機神』
舞台を降りたルーデウス、オルステッド様、ペルギウス様の周りには、各国の王族や大貴族たちが押し寄せ、群がるような人だかりができていた。
「はぁ……参ったな」
僕はマナーや社交辞令という奴が大の苦手だ。
グラスを片手に人群れをすり抜け、会場の外にある夜風の吹き抜けるバルコニーへと避難した。
冷たい夜風が、火照った顔を心地よく冷やしてくれる。
バルコニーの欄干に背を預け、眼下に広がる王都アルスの美しい夜景と、室内の絢爛な喧騒を眺めながら、深紅のワインを口に含んだ。
思えば、ここまで長い道のりだった。
剣の腕だけを頼りに粋がっていた頃の自分と、今の自分は、まるで別人のようだ。
(……英雄、か)
胸の奥から、じんわりと温かい感情が込み上げてくる。
僕はずっと、父を超える『本物の英雄』になりたかった。
だが、以前の僕はやり方を完全に間違えていた。自分の力だけを誇示し、名声を求め、敵を倒すことだけが英雄だと思い込んでいた。
ルーデウスやオルステッド様と出会い、彼らの背中を追いかけ、仲間と共に戦った今なら分かる。
父が昔、僕に言おうとしていたことの意味が。
「夜風に当たってクールダウンかい?アレク君」
背後から、聞き覚えのある親しみやすい声が聞こえた。
振り返ると、そこには豪華な黄金の飾りが施された騎士服を纏った男——僕の父であるアレックス・カールマン・ライバック、今のシャンドルが立っていた。
手には、高級なワインボトルと二つのグラスが握られている。
「父さん……」
「隣、いいかい?」
シャンドルは僕の隣に並ぶと、自分のグラスと僕のグラスにトクトクと深紅の液体を注いだ。
「綺麗な夜景だな。……そして、素晴らしい式典だった」
シャンドルはそう言うと、どこか照れくさそうに頭を掻いた。
「いやあ、息子が本物の英雄として全世界から称賛される姿を見るのが、これほど誇らしく、嬉しいものだとは思わなかったよ。北神の名を継がせた甲斐があったというものだ」
「……父さん」
僕は手に持ったグラスを見つめながら、ずっと胸の中に引っかかっていた問いを口にした。
「僕は……父さんを超えられたのでしょうか?僕は、僕がずっと望んでいた『本物の英雄』になれたのでしょうか?」
言葉にしてしまうと、自分がひどく子供じみた問いを発していることに気づいて、僕は少しだけ気恥ずかしくなった。
それでも、これだけはどうしても、今この人に聞いておきたかった。
シャンドルは一瞬だけ驚いたように目を見開いたが、すぐに目元を優しく緩め、低く穏やかな声で笑った。
「ハハハ、何を言っているんだ。君はとっくに私を超えているよ、アレク君」
「ですが……僕がやってきたことは、ルーデウスやオルステッド様のサポートのようなもので……」
「何を言うか」
シャンドルは僕の肩を、強く、力強く叩いた。
「かつて私が倒した王竜王カジャクトも、伝説の魔獣ベヒーモスも、龍神オルステッドの足元にも及ばない存在だった。そしてその龍神オルステッドが、数万年もの時をかけても倒せなかった宿敵
シャンドルは僕の目をまっすぐに力強く見つめ返した。
「誇りなさい、アレクサンダー。君は世界を救ったんだ。私の自慢の息子であり、文句のつけどころもない本物の英雄だ」
そう言って、シャンドルは自分のグラスを僕のグラスへと軽く打ち合わせた。
カチン、と澄んだ美しい音が夜空に響く。
「……ありがとうございます、父さん」
僕は込み上げてくる熱いものを必死にこらえながら、ワインを一口煽った。
喉を通るその酒は、これまでの人生で飲んできたあらゆる高級酒よりも、甘く、清々しく、美味かった。
会場の奥から、賑やかな笑い声と楽団の演奏が風に乗って聞こえてくる。
バルコニーに並んで立つ僕たちは、しばらくの間、何も言わずにただ夜景を眺め続けていた。
父と子。それだけで十分だった。
ルードは顔を出すことを拒否しました。ファリアスティアとの平和な生活があれば十分なのでしょう。