無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side:ルーデウス
ビヘイリルにて賑やかな祝宴を終えた翌日。
父パウロと母ゼニス、そしてリーリャの三人は、「せっかく来たのだから、妊娠しているノルンの体調が落ち着くまでしばらくスペルド族の里に滞在する」ということになった。
久しぶりの親子水入らずの時間であり、何より新しい孫の誕生を控えているのだ。思う存分羽を伸ばしてもらうのが一番だろう。
私たちはスペルド族の里の転移魔法陣を使い、ラノア王国の『龍の爪』事務所へと帰還した。
同行メンバーは、私、オルステッド、アレク、そして客分のバーディガーディと魔界大帝キシリカ・キシリスの五人だ。
転移の光が収まり、事務所の地下室へと降り立つ。
地上へ繋がる階段を上がり、窓の外を見遣ると、シャリーアの街は既に夕暮れに包まれていた。街灯や建物の明かりがチラホラと点きはじめている。
「ふむ……すっかり日が暮れてしまったな。美術館の案内は明日にしよう」
「ぬおっ!?明日なのかルーデウス!?我輩の格好良い彫像を今すぐ拝みたかったのだがな!」
バーディガーディが六本の腕を大袈裟に振り回して悔しがる。横ではキシリカが「腹が減ったぞ!ドーナツはどこじゃぁっ!」と私の服の裾を引っぱっていた。
「まあまあ、落ち着いてくれ。夜間に美術館を開けさせるのも警備の迷惑になるからな。今夜は事務所の客室に泊まって、明日朝一番で向かおうか」
『龍の爪』事務所の敷地は、ここ数年で大幅に拡張・改修されている。
もともと多忙なスタッフのための仮眠室や簡易風呂、トイレは完備されていたのだが、最近ではラノア王国の王子が芸術制作や相談のために頻繁に訪問してくるようになった。そのため、彼のような高貴な賓客をもてなすための広々とした客室エリアが増築されたのだ。
私が二人を賓客用の部屋へと案内する。
魔法で温調された広い室内には、高級感のあるふかふかの羊毛ベッドが並び、隣接する浴室には魔導具で自動給湯される広大な石造りの浴槽が備え付けられていた。
それを見たバーディガーディとキシリカは、目を見開いて歓声を上げた。
「ぬおおおっ!?なんという豪華な部屋だ!ベッドがフカフカではないか!おまけにこんな大きな風呂までついているとは!」
「うひょーっ!高級な宿屋でもここまでの部屋は滅多にないぞ!すごいぞルーデウス!」
大はしゃぎする二人を見て、後ろに立っていたオルステッドとアレクが、どこか自慢げに胸を張った。
「我が『龍の爪』事務所の設備を甘く見てもらっては困るな、バーディガーディ」
「そうですね。ザノバさんやラノア王室の手が入っていますから。居住性においては王宮にも引けを取りません」
二人が我がことのように誇らしげに語るのが少し可笑しかったが、確かに自慢の設備だ。
「では二人はここで旅の汗を流して寛いでいてくれ。私は酒とドーナツを自宅から取ってこよう」
私は懐から通信石板を取り出し、シャリーアの自宅にいるアイシャへ連絡を入れた。
『旦那様?お帰りなさい!もう事務所に着いたのですか?』
『ああ、今着いたよ。実はバーディガーディとキシリカも一緒でね。今夜は事務所の客室に泊めて、明日美術館を案内することになったんだ。だから酒と、あの特製ドーナツを少し持っていきたいんだが』
『分かりました!すぐにおつまみと特製ドーナツ、それと極上の酒を木箱に詰めて準備しておきますね!』
さすがは我が妻、相変わらずの手際の良さだ。
私は転移陣で一度自宅へ戻り、アイシャが準備してくれた木箱を受け取ると、すぐに事務所へと引き返した。
部屋に戻ると、既に風呂上がりのバーディガーディとキシリカが、さっぱりとした顔でソファーに深く腰掛けていた。
「待たせな。酒とドーナツだ」
木箱を開け、冷えた『
「ぬおおっ!待っておったぞぁっ!」
「ドーナツじゃあぁぁっ!いただきまぁぁすっ!」
キシリカが目を輝かせてドーナツに飛びつき、口いっぱいに頬張った。
「んむっ!んぐっ!美味い!美味いぞルーデウス!甘くて香ばしくて、口の中でとろけるようじゃぁっ!」
「ハハッ、ゆっくり食べろよキシリカ。酒もたっぷりあるからな」
バーディガーディも巨大な樽ジョッキに酒を注ぎ、豪快に一気に煽った。
「ぷはぁぁぁっ!!美味いっ!やはりルーデウスの持ってくる酒と肴は世界一だな!」
「アレクも飲むかい?」
「ああっ!いただこう、ルーデウス」
アレクも嬉しそうにグラスを受け取り、オルステッドも端のソファーに静かに腰掛け、専用の小さなグラスに注がれた酒を口に含んだ。
その表情はどこか穏やかで、嬉しそうだ。
そこから、賑やかな夜の宴が始まった。
バーディガーディが太古の大戦や昔話を身振り手振りを交えて豪快に語り、キシリカがドーナツを喉に詰まらせて騒ぎ、アレクが
私はそれらに相槌を打ちながら、ゆっくりと酒を傾けた。
結局、話は尽きることなく、宴は外がうっすらと白み始める朝方まで続いたのだった。
「……うう……頭が割れるように痛い……」
翌日の昼過ぎ。
客室のソファーで頭を押さえて唸っていたのは、北神アレクサンダーだった。
度数の高い『
横ではバーディガーディが「ぬははっ!我輩は二日酔いなど無縁であるぞ!」と高笑いしているが、少し顔色が悪い気がする。
「アレク、動くなよ」
私が手に魔力を込め、アレクの頭部に解毒魔術を施すと、彼の青ざめていた顔色に一瞬で血色が戻った。
「……ハッ!?い、痛みが消えた……!胃のムカムカもない……!ありがとう、ルーデウス……生き返ったよ……」
「酒は飲んでも飲まれるな、だよアレク」
そこへ、部屋の扉がコンコンと軽くノックされた。
「旦那様、入りますね」
扉が開くと、アイシャ、ルード、ファリアスティアの三人が、大きなトレーを抱えて入ってきた。
トレーの上には、香ばしく焼かれたパンにたっぷりの野菜と肉が挟まれた具だくさんのサンドイッチと、温かいスープが人数分載せられている。
「みんな起きましたか?秘書業務の合間に、ルードさんとファリアスティアさんと一緒に昼食を作ってきたんですよ」
「おう、ルーデウス。腹が減っているだろうと思ってな。アイシャちゃん直伝のサンドイッチだ、食べてくれ」
ルードが爽やかな笑顔でトレーをテーブルに置いた。
ファリアスティアも小さく一礼し、温かいスープを各自の前に配ってくれる。
「これはありがたい。みんな、感謝するよ」
私たちは早速、差し入れられたサンドイッチにかぶりついた。
新鮮な野菜のシャキシャキとした食感と、ジューシーな肉の旨味、そして香ばしいパンの風味が口いっぱいに広がる。絶品だ。
「美味いっ!アイシャ、ルード、素晴らしい味だ!」
「むぐむぐ……!昨夜のドーナツも美味かったが、このサンドイッチというのも美味いのう!」
バーディガーディとキシリカが大喜びでサンドイッチを平らげていく。
昼食を終え、お茶を飲んで一息ついたところで、私は立ち上がった。
「さて、腹ごしらえも済んだし、いよいよラノア王国国立美術館へ向かうか」
「「「おおおぉぉぉっ!!」」」
こうして私、オルステッド、アレク、バーディガーディ、キシリカの五人は、事務所を出て国立美術館へと向かった。
大きな公園の一角に建設された、ラノア王国国立美術館。
日本の新国立美術館をモデルにした、曲線を多用したモダンな石造りの建築は、周囲の景観とも調和しつつも圧倒的な存在感を放っている。
「ほう……これが美術館か。なかなか趣のある建造物ではないか」
バーディガーディが感心したように見上げる中、私たちは正面の重厚な大扉をくぐり、館内へと足を踏み入れた。
館内は静寂に包まれており、天井の魔導具から発せられる柔らかい光が展示物を照らし出している。
まず案内したのは、最初の展示エリア『小型・中型魔物の部屋』だ。
ここには私が腕を振るって制作した精巧な小型魔物の彫像が並んでいる。
アサルトドッグ、ターミネートボア、ゴブリンなどの魔物が、まるで今にも動き出しそうな躍動感で再現されていた。
「ぬぬ……?これはゴブリンか?爪の先や皮膚の皺まで恐ろしいほど細かく作られておるな……!」
「うむ!毛並みの一本一本まで魔導具で精密に彫り込まれておる!」
バーディガーディとキシリカが、ガラスケースに顔を近づけて感心している。
続いて向かったのは、天井が吹き抜けになった大空間『大型魔物展示室』だ。
そこに鎮座していたのは、翼を広げ、今にも咆哮を上げんばかりの原寸大の赤竜の像だった。
「「「うおおおぉぉぉっ!?」」」
バーディガーディとキシリカ、そしてアレクが一斉に声を上げて仰反った。
「で、デカい……!本物の赤竜と寸分違わぬ大きさではないか!?」
「ひぃっ!?た、食べられるぅぅっ!助けてくれルーデウス!」
キシリカが私の背中にしがみついて悲鳴を上げる。
オルステッドやアレクも、まじまじと赤竜の巨像を見上げていた。
「……見事な出来映えだな、ルーデウス。鱗の重なりや飛膜の質感まで完璧だ。赤竜の習性を熟知していなければ、ここまでの再現はできん」
「ええ、オルステッド。幸い、何度か退治して解体していますから。実際に赤竜の生態を観察し、骨格から再現した自信作です」
二人が関心深そうに頷くのを見て、私も鼻が高い。
作った甲斐があったというものだ。こうして報われる瞬間は何度味わっても嬉しいものだった。
次に進んだのは、メインエリアの一つである『人物彫像の部屋』だ。
ここには、七大列強をはじめとする世界の英雄や、各国要人の精巧な彫像が立ち並んでいる。
歩みを進めると、そこには白銀の外套を羽織り、絶対的な威厳をもって佇むオルステッドの彫像と、大剣を構えて凛々しく立つアレクの彫像が飾られていた。
「あ……僕の像だ……!」
アレクが自分の彫像の前に駆け寄り、照れくさそうに頭を掻いた。
「すごいな……僕がこんなに格好良く彫られているなんて。父上に見せたら羨ましがるだろうな」
「フン……俺の顔など彫って何になるというのだ」
オルステッドは不機嫌そうに鼻を鳴らしていたが、その視線はチラチラと自身の像へと向けられており、耳の先端が少し赤くなっていた。
心の中では相当嬉しいのだろう。オルステッドにはこういう可愛いところがある。
すると、少し先を歩いていたキシリカが、小さな彫像の前で脚を止めた。
「ぬおっ!?これは妾ではないか!ぬはははっ!流石はルーデウス、妾の可愛らしくも偉大な姿をしっかり残しておるな!」
そこにあったのは、普段の小さな子供姿のキシリカの彫像だった。
キシリカは最初、腰を抜かさんばかりに喜んでいたのだが、ふと周囲を見回し、首をかしげた。
「……む?むむむ……?おかしいぞ?ルーデウスよ!」
「どうしたんだい、キシリカ?」
「なぜ妾の『真の姿』……あの豊満で妖艶、美しくも恐ろしい魔王姿の彫像が無いのだぁぁっ!?」
キシリカがジタバタと地足を踏み鳴らして抗議してきた。
「いや、そう言われてもな……。私もザノバも君のその大きい姿を見たことがないんだよ。正確な姿が分からないなら、彫りようがないだろう?」
「むぐぐ……!姿なら妾の頭の中に完璧に残っておるわ!」
「君の頭の中にあっても、職人に見えないと形にできないんだよ。せめて正確な姿絵でもあれば、それを元に想像を膨らませて立体化できるんだがね」
私が困り顔で説明すると、キシリカはハッと何かを思い出したように人差し指を立てた。
「……姿絵!?姿絵なら心当たりがあるぞっ!」
「本当かい?」
「うむ!昔、魔大陸でアトーフェの奴に追い回されていた頃、奴が妾を捕まえるために魔大陸中に配っていた『捜索用の姿絵』があるはずじゃ!アトーフェの城になら一枚くらい残っておるかもしれん!」
「アトーフェの城か……」
私は顎に手を当てて思案した。
「分かった。今度アトーフェの城に行く機会があったら、副官のムーアに聞いて探してみよう。まあ、まずはペルギウス様の部屋の増築と、ペルギウス様および十二の配下の彫像を完成させるのが先だけどね」
「うむ!約束じゃぞルーデウス!」
キシリカがご満悦で頷いた。
そして私たちは、この美術館の目玉とも言える、最大の特別展示室へと足を踏み入れた。
『原寸大・闘神バーディガーディの部屋』。
重厚な両開きの扉が開かれた瞬間、全員が言葉を失い、その場に絶句した。
高さ十メートルを超える大ドーム状の展示室。
その中央に鎮座していたのは——黄金に輝く最高級の魔石と金属で造り上げられた圧倒的な威容——『闘神鎧』を纏ったバーディガーディの原寸大巨像だった。
六本の腕を掲げ、全身から溢れ出る闘気が目に見えるかのように緻密に彫り込まれている。
「「「……っ!?」」」
アレクも、キシリカも、そしてあのオルステッドすらも息を呑み、息を止めてその巨像を見上げていた。
数秒の静寂の後。
「……ぬ……ぬは……」
バーディガーディの肩が、激しく震え始めた。
そして彼は六本の腕を天高く突き上げ、お腹の底から響くような大爆笑を炸裂させた!
「ぬははははははははははははははっ!!見事!見事であるぞルーデウスッ!!まさしく!まさしく我輩の勇姿そのものではないかっ!!」
バーディガーディは大絶賛し、自身の巨像の周りをぐるぐると回りながら拍手を送り続けた。
「素晴らしい!凄まじいなお前の彫像の腕は!我輩の肉体の躍動、闘神鎧の輝き、すべてが完璧だ!ガハハハッ!これを見るためだけにラノアへ来た甲斐があったというものだ!」
もう二度と纏うことのない鎧の姿をこうして永遠に残せたことが、私にとっても誇りだ。
あの戦いの記憶は、これからもこの部屋で語り継がれていくのだろう。
一通り館内を巡り、私たちは出口付近の屋外庭園へと進んだ。
そこは美術館の出口と公園が一体となった広場になっており、その中央の噴水広場に、一際異彩を放つ巨大な青銅像が設置されていた。
白銀と青銅のグラデーションで彩られた、数頭の竜の首を持つ巨大な多頭竜の姿。
かつて私が闘神との戦いで見せた、神獣化・雷電魔石多頭竜の形態を再現した彫像だ。
それを見たオルステッドが、少し驚いたように目を細めた。
「……珍しいな、ルーデウス。お前が自らの姿を彫像として残すとは」
「ああ、これですか」
私は苦笑いを浮かべながら説明した。
「王子からせがまれましてね。私が型取りだけ行ったんです。仕上げの外装制作と磨き上げは、ザノバとラノアの王子が集めた職人が買って出てくれました」
「ぬおおっ!これも凄まじいぞルーデウス!まるであのときの戦いそのものではないか!」
「格好いいぞルーデウス!金ピカではないが、なかなかの迫力じゃ!」
バーディガーディとキシリカも、私の多頭竜像を見て大興奮で歓声を上げている。
ふと見ると、いつの間にかキシリカが多頭竜像の首の根元までよじ登り、像の頭の上で「ぬははーっ!見下ろす眺めは最高じゃぁっ!」とポーズを決めていた。
直後、笛の音が激しく鳴り響いた。
「こらぁぁぁっ!彫像の上に登っちゃダメだろーっ!すぐに降りなさいっ!」
美術館の警備員が顔を真っ赤にして飛んできて、キシリカを捕まえようと追いかけ回し始めた。
「ひぃぃっ!?怒られたぁっ!助けてくれルーデウスぅぅっ!」
「ぬはははっ!キシリカ、逃げ足だけは一人前だな!」
警備員に追いかけられて悲鳴を上げるキシリカと、それを見て大爆笑するバーディガーディ。
アレクが呆れ顔で止めに入り、オルステッドは静かにフッと口元を緩めている。
青空の下、大爆笑と賑やかな声が、ラノアの公園にいつまでも響き渡っていた。
バーディガーディとキシリカの二人は、「せっかくラノアに来たのだから、街の食べ歩きや名所を存分に観光して回るぞ!」と元気いっぱいにシャリーアの街へと繰り出していった。
急にぽっかりと時間が空いてしまったな。
私は手持ち無沙汰を感じつつも、久しぶりに魔法大学へ足を運び、次の講義の準備でもしようかと思い立った。
街の賑わいを通り抜け、魔法大学の近くへと転移する。
重厚な正門をくぐると、構内には多くの学生たちが行き交っていた。彼らの瑞々しい熱気を感じながら、私は教員棟を目指して石畳の道を歩き出す。
だが、食堂前の広場までやってきたところで、何やら異様な騒ぎが耳に飛び込んできた。
「だから!パパは本当に闘神を倒したんだってば!」
「『雷神』は元々人族だろう!人族が伝説の闘神に勝てるわけないだろ!」
「それだけじゃない!絵本に出てくる
「はははっ!
人だかりの中心から聞こえてきたのは我が子たち——アルスとルーシーの声だった。
数人の上級生らしい学生たちと、顔を真っ赤にして言い争っているようだ。
私が人だかりに近づいていくと、周囲の学生たちが私の姿に気づき、ハッとして蜘蛛の子を散らすように道を空けた。
「あ……先生……!」
「おい、ご本人が来られたぞ……!」
ひそひそ声が広がる中、私は人だかりの中心へと踏み込んだ。
「どうしたんだい?アルス、ルーシー」
私が声をかけると、アルスとルーシーがパッと表情を明るくして振り向いた。
「パパ!こいつらがパパの強さを全然信じないんだよ!」
「そうだよ!パパが闘神や
口を尖らせて訴えてくる二人に対し、言い争っていた上級生たちは、本物の『雷神』である私と目が合った瞬間、顔を青ざめさせて後ずさった。
「ふむ……どうやら私のことで言い争いをしてくれていたみたいだね」
私は困ったように苦笑した。
子供たちが父親の武勇伝を自慢したくなる気持ちは嬉しいが、確かに闘神打倒や
アルスが上級生たちを指差し、悔しそうに叫んだ。
「どうやったらパパの凄さを信じるんだよお前らは!」
学生たちは恐怖で身体を強ばらせながらも、プライドからか震える声で反論してきた。
「だ、だってそうだろう……!?神級魔術を使える存在なんて今の時代にいるはずがない!神級魔術はすべてとうの昔に失伝しているはずだ!」
「そうだ!見たこともないものを信じろと言われても無理がある!」
彼らの言い分も一理ある。見えないものを盲信しろという方が酷というものだ。
私は顎に手を当てて考えた。
「確かにね、伝承に残る多くの神級魔術は失伝している。なら、誰がどう見ても『神級魔術だ』と納得できる規模の魔術を、新しく見せるしかないだろうね」
すると、学生の一人がヤケクソ気味に声を張り上げてきた。
「そんな魔術があると言うなら、見せてみてくださいよ!」
実演してみせねば信じられない、か。
とはいえ、ここで全開の攻撃魔術を解き放てば、魔法大学どころかラノア王国そのものが地図から消滅してしまう。
「……そうだね。最近、ルードやザノバたちと話していた『アレ』を少しだけ見せてみようか」
私は人だかりから少し離れた空き地の中央へ移動すると、青空を見上げた。
「例えば土魔術で神級を定義するなら、こんな感じになるだろうね」
私は無詠唱で体内の魔力を練り上げた。
ズズズ……ッ!
一瞬にして頭上の光が遮られ、広場全体が不気味な暗闇に包まれた。
学生たちが悲鳴を上げて見上げると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
魔法大学の上空、高度数百メートルの位置に——直径三十メートルを超える巨大な超高密度の『隕石』が浮かんでいた。
圧倒的な質量がもたらす物理的な威圧感。空を覆い尽くす影が、地上に集まる者たちの本能的な恐怖を猛烈に刺激する。
「ひっ……!?こ、これは……!?」
「な、なんだあの巨岩はぁぁぁッ!?」
言い争っていた学生たちは、あまりの規模に腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
周囲を取り囲んでいた他の学生たちも、誰一人として声を出せずにいる。
中には腰を抜かして尻もちをつく者、隣の友人にしがみつく者、口をあんぐりと開けたまま固まる者と、反応は様々だった。
「最近ね、ルード……仲間たちと『各属性の神級魔術とはどのような規模になるか』という議論をしていたんだよ。土魔術で神級を表現するなら、まさにこれだね。名付けて——『
ルーシーが目を丸くし、畏怖の念を抱きながら見上げてきた。
「これが……神級の土魔術なの……!?」
「あくまで私が独自に理論化して開発した、神級規模の土魔術だけどね」
私が苦笑して答えると、アルスがゴクリと唾を呑み込み、震える声で尋ねてきた。
「パパ……これ、落とされるってこと……!?」
「いやいや、まさか。このまま真下に落とすだけじゃ、衝撃波と質量攻撃としてはまだまだ威力不足なんだ。本来はね、肉眼では見えないほどの超高高度から、ターゲットに向けて重力魔術で極大の引力を付与し、高速で地上へ叩きつけるものなんだよ」
私の淡々とした解説を聞いた周囲の学生たちが、絶望的な悲鳴を上げた。
「そ、そんなものが上空から降ってきたら……この魔法大学が跡形もなく吹き飛んでしまいます!!」
「ははは、何を言っているんだい。魔法大学だけで済むわけがないだろう?ラノア王国どころか、この国ごと壊滅するよ」
「「「ひぃぃぃぃぃっ!?」」」
学生たちが泡を吹いて倒れそうになった、その時。
「何をやっているのですか!?道を開けなさい!」
人だかりの奥から、聞き覚えのある凛とした怒り声が響き渡った。
現れたのは、青色の髪をなびかせた妻であり、この大学の先生でもあるロキシーだった。
ロキシーは頭上の巨大な隕石を見上げるなり、目を見開いて私へと詰め寄ってきた。
「ルディ!何をやっているのですか!?」
「やあ、ロキシー。特別講義だよ」
「特別講義……!?こんな危険な真似をしてはいけません!今あなたが万が一にも制御を切ったら、ここにいる全員が即死なんですよ!?」
三角帽子を揺らしながらカンカンに怒るロキシー。
確かに、万が一にも落下すれば惨事どころの話ではない。安全な状況とは言えないだろう。
「大丈夫だよ、ロキシー。制御はきちんと維持しているから」
「そういう問題ではありません!大体、なぜこんな騒ぎを起こしているのですか!」
腰に手を当てて詰め寄ってくるロキシーに、私はたじたじになりながら弁明した。
「いや、これは子供たちの名誉のための、やむを得ない実演でね……」
「言い訳は後で聞きます!」
私は周囲の腰を抜かしている学生たちに向かって優しく声をかけた。
「みんな、大丈夫だから逃げなくてもいいよ。……せっかくだから、次は雷魔術のデモンストレーションもお見せしようか。これで雷魔術に興味を持ってくれる学生が増えると嬉しいんだけどね」
私は胸の前で手をかざし、術式を多重展開した。
『
一瞬にして空中に幾重もの複雑な黄金の魔法陣が重なり合い、極限まで収束された雷光の粒子が収束する。
ドドドドドォォォォンッ!!
空を切り裂く絶大な光の柱が天へと貫いた。
上空に鎮座していた直径三十メートルの巨岩が、極太の荷電粒子線に呑み込まれた瞬間、一切の破片すら残さず、分子レベルで完全に消滅・蒸発した。
遅れて、猛烈な爆風が吹き荒れ、学生たちの衣服や髪を激しく揺らす。
空は何事もなかったかのように、元の爽やかな青空を取り戻していた。
「……ふぅ。これで安全だね。雷魔術に興味がある学生は、ぜひ私の講義を聞きに来ておくれ」
私は笑顔でそう締めくくった。
しかし、周囲からのリアクションは一切なかった。
全員が口をぽかんと開け、呆然と空を見上げている。ロキシーまでもが目を丸くしたまま固まっていた。
アルスたちと言い争っていた学生たちに至っては、青ざめた顔で白目を剥き、完全に気絶寸前の状態だ。
(……少し派手すぎただろうか?)
私が首を傾げていると、へたり込んだ学生たちの中から、一人の人物がゆっくりと、震える手を挙げた。
髪が長く、見た目からして真面目で引っ込み思案そうな男子学生だ。
彼はおそるおそる立ち上がると、必死の覚悟を込めた大声で叫んだ。
「せ、先生っ!私は魔力が人よりありません!でも……でも、あなたの雷魔術をどうしても学びたいんです!私のような者でも、受講を許可していただけるでしょうか!?」
その必死な瞳に、私は温かい微笑みを返した。
「もちろんだとも。大歓迎だよ。魔術を学びたいという情熱に、魔力量の多寡なんて関係ないからね」
私の言葉に、その学生は顔をぱぁっと輝かせた。
ルーシーとアルスも、その様子を興味深そうに見守っていた。
「あ、ありがとうございます……!実は私……友達から『
「……ほう?詠唱を長く?」
学生は意を決したように、長大な独自の呪文を朗誦し始めた。
太古の詩文を継ぎ足したような、極めて長くて冗長な詠唱。
そして長い詠唱の果て——彼の指先から、バチッと小さな青い電撃が弾けた。
「……詠唱を限界まで長くすることで、魔法陣の構造を言葉で補強し、ごくわずかな魔力でも発動できるようにしたんです!」
学生が照れくさそうに、しかし誇らしげに語る言葉を聞いた瞬間、私の中で雷が落ちたような衝撃が走った。
(……素晴らしい……!!)
無詠唱や詠唱短縮は、魔法陣の構築を魔力とイメージで力ずくで行うため、通常の詠唱よりも消費魔力が大きくなるのが常識だ。
だがこの学生は、その真逆の発想に至ったのだ!
『あえて詠唱を長く引き伸ばし、精密な言語で魔法陣構造を補強する』ことで、極小の魔力しか持たない者でも高レベルの魔術を起動可能にする技術。
「君……!君は素晴らしい天才だ!!」
私は思わず学生の手を強く握りしめた。
「従来の魔術体系の常識を覆す、全く新しいアプローチだ!君、ぜひ私の講義……いや、私の研究室においで!他の教授たちの説得が必要なら、私が責任を持って説得に尽力するから!」
「は、はいっ!ありがとうございます!!」
男子学生は感激のあまり涙を浮かべ、何度も深く頭を下げた。
「あの人、パパの弟子になるの……?」
「すごい発見をした人みたいだぞ。パパがあんなに興奮するの、久しぶりに見た」
二人がこそこそと囁き合う声が、私の耳にも微かに届いていた。
これだから、講師という職業はやめられない。
自分ひとりの頭では決して出てこないような奇抜で素晴らしいアイデアが、若い学生たちの情熱から生まれるのだから。
背後で、腕を組んだロキシーが「はぁ……」と呆れた溜息をつきながら、説教の準備を整えているのを気配で感じつつも、私の胸は未来への熱い興奮で満たされていたのだった。
「ルディ……後でじっくりお話がありますからね」
「……はい」
有無を言わさぬロキシーの声に、私は素直に頷くしかなかった。
美術館+弟子ゲットでした。