無職転生 ~性格改変_エンジニアリング視点での魔術構築~ 作:haru-ha
【設定について】
本作は『無職転生 ~異世界行ったら本気だす~』の二次創作小説です。
pixivに掲載していた小説(完結済)のセルフ転載となります。(所々、追記・修正しています)
以下の独自設定(IF設定)を含みます。
・原作と違って、元々存在していたルーデウスの自我は失われず、そこに「ある男」の記憶だけが継承されたという解釈で執筆しています。
・そのため、原作のルーデウスとは性格や口調、判断基準が異なります。
【注意事項】
・原作のストーリー改変(生存IFなど)が含まれる可能性があります。
・キャラの独自解釈、および設定の捏造が含まれます。
・原作全編のネタバレに配慮しておりません。
なんでも許せる方のみ、お進みください。
Side:ルーデウス
魔大陸、ガスロー地方。
荒涼とした赤茶色の大地がどこまでも続くこの地の一角に、天を突くようにそびえ立つ黒き居城——不死魔王アトーフェラトーフェの根城、ネクロス要塞の威容があった。
私が転移門から飛び立ち、要塞の巨大な跳ね橋の前に降り立つと、槍を構えていた門番の魔族たちが即座に姿勢を正した。
「お!ルーデウス殿ではないですか!今日もお越しで!」
「やあ、お疲れ。アトーフェはいるかい?」
「はっ!アトーフェ様は現在、練兵場にて親衛隊のシバき……いえ、熱心な模擬戦指導の真っ最中であります!どうぞ中へお入りください!」
すっかり顔パスだ。
私は門番たちに軽く手を振って中へと入った。
城内を進むと親衛隊長のムーアが、相変わらずの慇懃な無表情で出迎えてくれた。
「これはルーデウス殿。ようこそおいでくださいました」
「久しいな、ムーア。今日もアトーフェは元気そうで何よりだ」
私は召喚魔術を応用した収納、無の世界への限定的なアクセスを利用し、置いておいた巨大な酒樽を十樽ほど取り出し、石畳へと降ろした。
シャリーア特製の極上酒と私が製造している酒だ。
「いつもながらの土産だ。皆で飲んでくれ」
「おお……!これはありがたい。隊員たちの何よりの活力となります。心より感謝いたします」
ムーアの生気のない顔が、わずかに嬉しそうに緩んだ。
応接室へと案内され、温かいお茶(魔大陸特有の少し苦味のある野草茶だ)を淹れてもらったところで、ムーアが本題を切り出してきた。
「して……本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ああ、用件は二つある。まず一つ目は、魔界大帝キシリカ・キシリスの『大人の姿』の姿絵を一枚譲ってほしいんだ」
「ああ、キシリカ様の捜索用人相書きですな。少々お待ちを」
ムーアは執務机の引き出しの奥から、羊皮紙の巻物をすんなりと取り出して広げて見せてくれた。
そこに描かれていたのは、現在の幼い姿とは似ても似つかない、豊満で妖艶、そしてどこか狂気を孕んだ凄まじい威厳を放つ美女魔王の姿だった。
(……なるほど、これがキシリカの全盛期の姿か。これならザノバたちと原寸大彫像を作れそうだな)
「助かるよ、ムーア。……それと二つ目だけど、このガスロー地方で噴出している天然の『毒ガス』を使った実験をしたいんだ。安全に採取できる噴出地点を教えてもらえないか?」
私の言葉にムーアは顎に手を当てて考え込んだ。
「毒ガスの発生地点を教えるのは一向に構いません。……ですがルーデウス殿、それにあたり、こちらからも一つお願いしたいことがございましてな」
「何だ?」
「実は……最近、アトーフェ様の親衛隊への入隊希望者が急増しておりましてな。ネクロス要塞の騎士棟が完全に満員となり、居住スペースが著しく不足しているのです」
「ほう、入隊希望者が増えているのか?」
ムーアは深く頷いた。
「ええ。先の闘神との大戦において、アトーフェ様と親衛隊が鬼族を相手に大暴れした武勇伝が魔大陸中に知れ渡りましてね。それに加え、以前のような『強制契約』を取りやめ、人族の騎士団に倣った真っ当な雇用契約と給与体系を導入したところ、評判が跳ね上がりましてな」
なるほど、ブラック企業が真っ当なホワイト企業に生まれ変わったことで応募が殺到しているわけか。実に喜ばしいことだ。
「つきましては、要塞の敷地内に新たな『新騎士棟』を増築したいのですが……ルーデウス殿の神がかり的な土魔術と建築技術をお借りできないかと」
「お安い御用だ。その代わり、私の実験用の建物を隣に一つ建てさせてもらってもいいか?」
「ええ、もちろん。構造上問題なければいくらでも」
交渉成立だ。
握手を交わしたその時、バァンッ!と部屋の扉が勢いよく蹴破られた。
「ガハハハッ!誰かと思えばルーデウスではないか!よくぞ来たな我が友よ!さあ、今すぐ私と一騎打ちの立ち会いを……!」
「アトーフェ様、ルーデウス殿は遠路はるばる極上の酒を持ってきてくださったのです。まずは歓迎の宴が先決でございましょう」
「ぬおっ!?酒か!それならば話は別だ!全員、宴の準備をせいっ!」
ムーアの絶妙な誘導により、その日は朝まで続く盛大な酒宴となったのだった。
翌朝。
アトーフェは二日酔いなど微塵も感じさせない元気さで、「よし!今日の飯にする魔物を狩ってくる!」と叫びながら荒野へと飛び出していった。相変わらず凄まじいバイタリティだ。
私はムーアと共に、新騎士棟の建設予定地へと向かった。
ムーアから手渡された基本設計図に目を落とす。
「ふむ……基礎の寸法や必要な部屋割り、間取りは完璧に計算されているな。ただ、外観の意匠や装飾については何も指定がないが?」
「ええ。そのあたりはすべてルーデウス殿にお任せいたします。ルーデウス殿が作成される素晴らしい彫像の数々の噂は魔大陸にも届いておりますのでな」
私の芸術の腕前を信頼してくれるのは嬉しい。
ネクロス要塞のような異世界の『魔王城』そのものといったゴシック調の黒き巨城をデザインするのは初めての経験だ。腕が鳴る。
(頭の中でネクロス要塞の既存の尖塔、アーチ、レリーフの特徴をスキャンして統合しよう……)
その日は要塞の外壁や柱の装飾を徹底的に観察し、夜、客室に籠もって羊皮紙に精密な建築図面を描き上げた。気がつけば東の空が白んでいたが、心地よい高揚感があった。
夜明けとともに、建設予定地へ向かう。
既にアトーフェ親衛隊の騎士たちが、杭と縄を使って測量作業を進めていた。
「みんな、ご苦労様。追加の図面ができたから、この位置まで測量を拡張してくれ」
「は、はいっ!雷神様!」
屈強な魔族の騎士たちが、私の指示に従ってキビキビと動く。
測量が完了したエリアから、早速基礎工事に取り掛かる。
「さて、まずは地盤改良からいこうか」
私は両手を地面にかざし、土魔術を起動した。
予定地の表土を一気に掘削し、地中まで均一な溝を掘り抜く。
そこへ、土魔術で生成した大量の硬質砕石を隙間なく敷き詰めた。
重力魔術を小さめの規模で応用し、敷き詰めた砕石の上から高圧の垂直重力を叩き込む。
ズズズンッ!と地鳴りが響き、地面が岩盤並みの密度へと一瞬で圧縮・硬化された。
続いて、土魔術で鉄分を抽出し、頑丈な鉄筋を格子状に編み上げて基礎の骨組みを組む。
その上から、土魔術で生成した高密度の硬化セメントと耐衝撃用の粉末の混合材料を流し込み、分子結合を強化して固めた。
コンクリートを遥かに凌駕する強度と耐衝撃性を持つ、超強固な基礎構造の完成だ。
魔術による建築には、型枠も、乾燥を待つ養生期間も、バイブレーターによる空気抜きも必要ない。イメージ通りの密度と形状で、瞬時に完全硬化させることができる。
「うおおお……っ!?」
「な、なんだあの基礎は……!?一瞬で岩のような土台ができあがったぞ……!」
見ていた親衛隊の騎士たちが、目を丸くしてどよめいた。
基礎さえ完成すれば、あとは図面通りに上部構造を一気に立ち上げるだけだ。
鉄筋の骨組みを上空へと伸ばし、外壁と床、柱を一体成形していく。
そして、今回試したかった最大の実験——『地脈魔力を用いたインフラ設備の実用化』だ。
魔大陸は過酷な荒野だが、大地を流れる地脈の魔力濃度は世界でも群を抜いて濃厚だ。
私は地下の基幹部に、地脈から自然に魔力を吸い上げて半永久的に稼働する『水生成の魔法陣』を設置した。
上水道配管には、土魔術でクロムとニッケルを精密に配合して精錬した『ステンレス鋼管』を採用。錆びることなく、清浄な水を各部屋へと供給する。樹脂が使えればもっと軽くできるのだが、ポリプロピレンや塩化ビニル等の開発を今後検討するか。
さらに、全室に水洗式の最新トイレを完備した下水道配管を敷設した。
(さて、ここからが本番だ。集まった汚水をそのまま垂れ流すのではなく、安全な『有機堆肥』へとリサイクルするシステムを構築する)
未処理の糞尿をそのまま畑に撒けば、悪臭だけでなく寄生虫や伝染病の温床となる。
地球のバイオコンポストの原理を応用し、下水道の終着点に多重加熱と滅菌、そして好気性発酵を促進する専用の魔法陣リアクターを設置した。
外壁の装飾も妥協しない。
ネクロス要塞特有の漆黒の岩肌をベースに、威厳ある悪魔や魔獣のガーゴイルレリーフを壁面に彫り込み、まるで数百年前からこの城の一部であったかのような一体感を持たせた。
「……信じられん」
完成した壮麗な新騎士棟を見上げ、ムーアが呆れ果てたように呟いた。
「わずか数時間で、ここまで頑丈で美しい最新の城館が建ってしまうとは……ルーデウス殿、貴方は本当に人族なのですか?」
「ハハハ、これでも一応、魔術は得意だからね」
そうこうしているうちに、隣の実験棟の測量も完了した。
こちらは騎士棟に比べれば小さな平屋の研究所だ。同様の手順であっという間に頑強な実験棟を立ち上げ、内装の実験設備を整えた。
窓や扉の木工加工は親衛隊の騎士たちに任せることにして、私は実験棟での検証作業へと移った。
完成した実験棟の裏手で、早速リサイクル堆肥化の実験を開始した。
新騎士棟はまだ入居前だが、要塞内の既存の施設から廃棄予定の糞尿を分けてもらった。
人族の排泄物での堆肥化技術は確立しているが、不死魔族や各種魔族の排泄物でも同様の微生物発酵が成立するかを検証する必要がある。
風魔術で悪臭を遠ざけつつ、魔法陣リアクターに排泄物を投入し、精密な温度管理と魔力照射を行う。
数十分後。
リアクターから排出されたのは、黒々としてサラサラとした、完全に無臭の極上堆肥だった。
「よし、魔族の排泄物でも全く問題なく完全発酵・滅菌できるな」
魔大陸は土壌が痩せており、堆肥を作るための落ち葉や植物残渣が手に入りにくい。
だが、この魔法陣リアクターによる強制発酵システムを使えば、植物素材に頼らずとも高品質な有機肥料を生成できる。
さらにムーアの発案で、親衛隊が狩ってきた巨大魔物の解体残骸(骨や内臓、腱などの可食部以外の廃棄物)も粉砕してリアクターへと投入してみた。
結果、リン酸と窒素を豊富に含んだ、骨粉入りの最高級特殊肥料が完成した。
「素晴らしい……!今まで労力をかけて捨てていた魔物のゴミが、作物を育てる宝に変わるとは!」
ムーアが感嘆の声を上げる。
私は実験棟の隣の荒野を耕し、実験農地を開墾した。
土魔術で土壌を柔らかく解し、完成した特殊堆肥をたっぷりとすき込む。
そして地下水脈から自動で定時散水を行う灌漑魔法陣を設置した。
「魔大陸の大地は地脈の魔力が濃い分、水分と栄養さえあれば植物の成長速度は中央大陸の数倍になるだろう。ただ、作物が魔力を吸いすぎて食べた者たちが魔力過多になるのを防ぐため、ソーカス草を周囲に混植しておこう」
これで、ネクロス要塞で新鮮な野菜を自給自足できる基盤が整った。
堆肥化の実験を終えた私は、ムーアから教えてもらったガスロー地方の毒ガス噴出地帯へと向かった。
そこは赤茶色の岩肌の裂け目から、紫がかった不気味な煙がシューシューと噴き出す危険地帯だった。
私は風魔術のシールドを展開して有毒ガスの吸入を完全に遮断し、土魔術で作った気密容器にガスを慎重に捕集した。
実験棟へ戻り、採取したガスの成分分析に取り掛かる。
(……ふむ。地球の知識で言えば、主成分は硫化水素とメタン、そして極めて高密度の励起魔力粒子が結合した特殊な気体だな)
可燃性をテストすると、青白い激しい炎を上げて綺麗に燃焼した。導管を引けば、要塞の厨房や暖房の燃料ガスとして活用できる。燃焼前に硫黄を除去する必要はあるが。
ガスに含まれる有害な硫黄を中和・分離しながら魔力粒子だけを残す。残った超高密度の魔力ガスに極大の圧縮圧力をかけてみた。
キィィィン……ッ!
高圧チェンバーの中でガスが凝縮し、やがて紫色の澄んだ美しい結晶体へと相転移した。
「これは……『高純度魔力結晶』か?」
毒抜きを施したことで、純粋な魔力触媒として安全に使用できる結晶だ。
魔道具の動力源や、魔術スクロールのインク原料として高値で取引できる。
「ガスロー地方の厄介者だった毒ガスが、燃料と高価な特産品に化けるぞ……!」
これなら、アトーフェ親衛隊の新たな資金源として十分に機能するはずだ。
一通りの実験とシステム構築が完了した。
私はムーアから紹介された、一人の親衛隊の騎士に実験棟の管理と農地の経過観察を委任することにした。
聞けば、彼は元々魔大陸の農家の出身で、日々の命がけの戦闘訓練に胃を痛めていたらしい。
「えっ!?私がこの農地と実験棟の責任者に!?毎日の地獄の訓練を免除されて、大好きな土いじりができるんですか!?やります!喜んで引き受けさせていただきます!!」
騎士は涙を流して私の手を握りしめ、喜んで引き受けてくれた。適材適所というやつだ。
アトーフェにも一連の成果を説明したのだが、難しい仕組みはさっぱり理解できなかったようだ。
だが、「要するに、ここで美味い野菜と酒のつまみが山ほど採れるようになるのだな!?」と聞かれ、「ああ、そうだ」と答えると、アトーフェは大喜びでその騎士の背中をバシバシと叩いて激励していた。
「よくやったぞ貴様!精を出して美味い野菜を育てい!ガハハハッ!」
ネクロス要塞の発展を見届け、私は満足感とともにシャリーアの自宅へと帰還した。
自宅へ戻ると、ロキシー、ララ、リリの三人が、お出かけ用の可愛らしい服を着て準備を整えて待っていた。
今日は、ロキシーの故郷である魔大陸・ビエゴヤ地方の『ミグルド族の里』へ、久しぶりの里帰りをする約束の日だったのだ。
ロキシーはこの日のために、魔法大学での講義のスケジュールを調整し、長期休暇を取ってくれていた。
「パパ、おかえり!準備ばっちりだよ!」
「ふふ、お父さん、待ってた」
リリは楽しそうに小さなリュックを背負い、ララは私がプレゼントした改造杖を大事そうに抱えて、いつになくワクワクとした表情を浮かべていた。
聖獣レオも嬉しそうに尻尾を振って、ララの足元に寄り添っている。
「みんな、待たせてすまないね。出発する前に、一度事務所のオルステッドに挨拶をしておこうか」
私たちは全員で『龍の爪』事務所へと向かった。
事務所の執務室に入ると、そこには机に向かって猛烈な勢いでペンを走らせているオルステッドの姿があった。
彼が幾千ものループで見てきた世界の歴史、失われた技術、英雄たちの記録。すべてを書き終える頃には、図書館が一つ埋まるほどの大著になるに違いない。
「オルステッド、少しの間、妻の実家へ里帰りしに行きます」
「……うむ。家族との時間を大切にしてくるがいい、ルーデウス」
オルステッドが顔を上げて穏やかに答えた。
すると、ララがとてとてと歩み寄り、オルステッドの周りをぐるぐると歩き始めた。
そして隙を見て、小さな指でオルステッドの脇腹をつんつんと突き始めた。
オルステッドは微動だにせず、金色の瞳を細めて、心底愛おしそうにララを見つめている。
龍神の放つ威圧感などどこ吹く風のララと、そんなララを「見ていて飽きない」と評して可愛がるオルステッド。この二人は本当に仲が良い。
「ふふ、オルステッド様もララちゃんには敵いませんね」
「ああ、実に微笑ましい光景だな」
ファリアスティアとルードがお茶を運びながら微笑み合っている。アイシャは仕事で外に出ているようだ。
隣の訓練場からは、アレクがジークハルトたちを引き連れて、元気に剣術の指導を行っている威勢のいい声が響いていた。
みんな、それぞれの平穏で充実した時間を生きている。
私たちは事務所のみんなに見送られ、地下の転移魔法陣を起動した。
光が収まると、そこは魔大陸の交易都市・リカリスの街だった。
ラノアの緑豊かな景色や、アスラの瀟洒な街並みとはまるで違う、赤い荒野に囲まれたゴツゴツとした岩造りの街並みと、乾燥した独特の風。
「わぁ……!空気が乾いてる!」
「建物がみんな岩でできてる……!」
初めて目にする異国情緒に、リリとララが目を輝かせ、レオがフンスフンスと熱心に地面の匂いを嗅ぎ回っている。
「よし、街の外に出て、集落まで一気に飛んでいこうか」
街の検問を抜け、荒野へと出たところで、私が全員を抱きかかえようと腕を広げると——ララがスッと前に出た。
「……パパ、あたし、自分で飛べる」
ララが手にした改造杖を軽く掲げると、無詠唱で柔らかな風の魔力場が彼女の足元に発生した。
小さな身体が、ふわりと宙に浮き上がる。
「おお……!上手に飛べるようになったね、ララ!」
実は、ロキシーが幼少期からララに無詠唱魔術の感覚を徹底的に英才教育していたのだ。
現在、私とロキシーの共著で『無詠唱魔術の習得理論』という論文をまとめている最中なのだが、ララはその理論の最高の証明者だった。
(もっとも、幼い子供が無詠唱魔術習得に好適であると知れ渡ると人攫いなどの危険があるため、論文を一般公開するかどうかは慎重に検討中なのだが)
「リリはどうする?自分で飛んでみるかい?」
「ううん……!リリはまだ高いところ飛ぶの怖いから、パパに抱っこしてもらう!」
甘えん坊のリリを左腕で抱き上げ、右腕にロキシーの腰を抱き寄せると、私は風魔術を発動して空へと舞い上がった。
ララとレオが私の隣を並走するように飛翔する。
広大な赤き魔大陸の空を風を切って飛び抜け、私たちは懐かしきミグルド族の集落へと向かった。
緑豊かな巨大なクレーターのような盆地に広がる、ミグルド族の集落。
私たちが集落の中央広場に舞い降りると、畑仕事をしていた村人たちが驚いたように手を止め、一人の青髪の女性が駆け寄ってきた。
ロキシーの母、ロカリーだ。
「……ロキシー……?ロキシーなの……!?」
「お母さん……!ただいま帰りました!」
ロキシーが駆け寄り、ロカリーと強く抱き合った。
家の中から、父親のロイン、そして集落の長老も杖をついて飛び出してきた。
「ロキシー!本当にロキシーなのか……!」
「お父さん……!長老も、ご無沙汰しております!」
涙を流して再会を喜び合う家族の姿に、私の胸も熱くなる。
ロキシーがかつて、
それでも両親は変わらぬ愛情を注ぎ続けてくれていたのだと、この再会の光景を見ているだけで痛いほど伝わってきた。
ひとしきり涙の抱擁を交わした後、ロキシーが誇らしげに私たちを手招きした。
「お父さん、お母さん。私の夫のルーデウス……そして、私たちの子供たちです」
私は一歩前に出て、深々と頭を下げた。
「お義父さん、お義母さん、ご無沙汰しております。ルーデウスです」
そして、少し緊張して私の足元に隠れていたララとリリの背中を、優しく前に押し出してやった。
「ほら、二人とも。ご挨拶しなさい」
「……ララです。おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは」
「リリです!はじめまして!」
二人がぺこりと頭を下げると、ロインとロカリーは目を見開き、次の瞬間、顔中をくしゃくしゃにして泣き笑いの表情を浮かべた。
「おおお……!なんて愛らしい……!私たちの孫か……!」
「よく来てくれたわねぇ……!かわいい、本当にロキシーにそっくりね……!」
二人はララとリリを両腕で抱きしめ、何度も何度も頭を撫で回した。
最初は緊張していたララとリリも、二人の温かな愛情に触れて、すぐに嬉しそうに笑顔を咲かせた。
私たちは持参した大量のお土産を広げた。
シャリーアから運んできた新鮮な野菜や果物、極上の肉、そしてお酒。
さらに、ロキシー、ララ、リリの強い希望により、アイシャ特製の甘い焼き菓子や、ふんわりと揚げた特製ドーナツを山のように用意してきたのだ。
「さあ皆さん、甘いお菓子もたくさんありますよ!」
私がドーナツを配ると、一口かじったロインとロカリー、そして集落の大人たちまでもが目を丸くして絶句した。
「な……なんだこの美味い食べ物は……!?甘くて、柔らかくて……天国のような味がするぞ……!」
「美味しい……!こんな美味しいお菓子、生まれて初めて食べたよ……!」
ミグルド族の大人から子供までが、夢中になってドーナツを頬張っている。
(……やはり、魔族はドーナツの甘さに抗えないという説は、学会に発表できるレベルで正しいかもしれないな)
私は心の中でそう確信し、苦笑いを浮かべた。
夕暮れが訪れると、集落の中央にかがり火が焚かれ、盛大で温かな祝宴が始まった。
ロインとお酒を酌み交わし、ロカリーの手料理をいただき、村の子供たちと笑顔で遊ぶララとリリを見守る。
隣では、ロキシーが心底幸せそうに目を細めて、愛する家族たちの笑顔を眺めていた。
「ルディ、ありがとうございます。……ここまで連れてきてくれて」
「お礼を言うのは私の方だよ、ロキシー。君の大切な故郷に、私も家族の一員として迎え入れてもらえたんだからね」
そっと私の肩に頭を預けてくるロキシーの温もりを感じながら、私は穏やかな夜空を見上げた。
穏やかな風が、ミグルド族の里の夜を優しく包み込んでいた。
ネクロス城塞改造のところは独自設定もりもりです。