奇械姫と騎士 作:水氷(ばっかり手に入る)
ええーと今回は場面の切り替わりが頻繁にあります。ご了承ください
マリーが生まれてから楽しくのんびりとした平穏な日々から十数年が経過して、じいちゃんの身体は日に日に弱り始めていた。今日も少し体調を崩していたから家に医者を呼んで、診てくれたところだった
「それでは、おじいさんによろしくお伝えください」
「はい...」
「ありがとうございました」
じいちゃんの診察を終えた医者を家の敷地外のところまで見送ったあと、日が暮れたばかりの空を見上げながらマリーと話しはじめる
「最近じいちゃん、また部屋に閉じこもってなにかやってたみたいだし、それで体調崩しちゃったのかもしれない」
「そうね...それに、何をやってるか私にも教えてくれなかったわ」
「今度からはしっかりと傍にいてあげないとな」
「えぇ」
弱っていくじいちゃんを見ていくうちに、マリーもだんだん物思いに耽ることが多くなった。それが過去のことを思い出しているのか、未来を憂いているのかわからなかったが、暗い雰囲気にはしたくないから俺が2人を支えないとな...
そして家に戻った俺たちは、体調が弱っているじいちゃんを気遣ったり注意をしたりと、少しでも負担を減らせるように行動する
「ゴホッ...ゴホッ」
「アラン、大丈夫?」
「ふぅ...あぁ、問題ないさ」
「じいちゃん、もう作業部屋に籠り続けるのはなしだからな?せめて俺かマリーのどっちかを傍に置いてくれ」
「あぁ分かった。でも、もうしないさ」
少し寂しさを含ませた満足気な顔をするじいちゃんの<もうしない>という言葉は<もうできない>と言ってるようにも思えた。そういえば、作業部屋に居たということは何か作ってたんだよな。さっきの顔を見るに、完成したっぽいけど
「ねぇ。なにか出来ることはある?」
「...なにか、欲しいものはあるかい?」
そんな感じで思考していると、不安顔でソワソワとしていたマリーがじいちゃんに対してそう言った。それを聞いたじいちゃんは、その問いに答えることはなく逆に聞き返してきた
「あなたに元気でいてほしいっ」
「ははは、貴重なチャンスを老いぼれに使うものじゃない。アスターは、なにかあるかい?」
「じゃあ老いぼれが若々しく元気になるモノ」
「まったく、君も無下にするものじゃないよ」
「あはは、でも嘘は言ってない。勿論マリーもだ」
「そんなもの、顔を見なくともわかるさ...さて、2人とも。見せたいものがある。着いてきなさい」
ゆっくりと歩くじいちゃんに案内されたのは作業部屋だった。部屋の扉を開けて中へ入ると、そこには俺の身体の2、3倍以上はある大きな身体を纏った機械人形がいた
え、なにこれ─
「めっちゃかっ─ムグ」
「アスター、大きな声はアランの身体に響くわ」
「すまん」
いや咄嗟に大声あげてしまう所だったが、アレを見て平然とした態度でいろっていうほうが無理だろ。なんだあの男の夢を詰め込みに詰め込んだマシンは!
「はははっ...アスターがそんなに盛り上がるのを見ると、僕も頑張った甲斐があるというものだよ」
「それでアラン、その機械は?」
「あぁ、紹介しよう
新しく発明した<プロンニア>だ」
プロンニアを新たな家族として迎え入れた俺たちは、ささやかなパーティを開くのだった。もちろん、じいちゃんの負担にはならない程度にな。
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翌日、俺たちはプロンニアのテストも兼ねて散歩に出かけようとしていた。ちなみに、じいちゃんは足腰が弱っているから車椅子だ
「今日はいい天気だな」
「えぇ、みんなで散歩なんて久しぶりね」
「そうだね。とても有意義な時間になりそう─」
─ガゴッ!
玄関を出て庭園を歩き始めて間もなく、後方の方でなにかぶつかった音が響いた。そっちに視線を向けると、プロンニアが玄関の扉に引っかかっていた...
「...じいちゃん、プロンニアの図体と玄関の扉の大きさのこと考えてなかっただろ」
「はははっ、確かに彼の大きさだと簡単に扉を越えられないということを失念していたね」
「私が助けてくるわ。アスターはアランをお願い」
「あぁ」
マリーがプロンニアを外へ出すように何とか動いてるが、まぁ時間はかかるだろうな。俺も手伝いたいが2人ほど機械には強くないから逆に足引っ張りそうでいやだし
「アスター」
「なんだ?」
「君から視ると、今の彼女をどう思うかな?」
「そりゃまた突然なことで─
そうだな...人間に近いとは思うが、マリーの様子を見れば自分は所詮機械人形と思って、感情的思考な部分を完全に受け入れることが出来てない感じがする。まぁ事実なのは事実だけど。あと、その部分が論理的思考がぶつかりあってストレスが溜まってるときもある。本人は無自覚だけどな」
「なるほどね。でも、彼女はそのぶつかり合ってしまうことを自覚はしていると思うよ。ただ彼女はそれを
「へぇ、そういうことか...因みに今のマリーの心境は、新しく家族が出来たことで世話焼きが出てるって感じだな。プロンニアを助けてる今の状況に、全く仕方ない奴だなという感じでも喜んでやってそうだ。本人は無自覚というのがつくけど!」
「はははっ...そう言われると、マリアネッテが家族になって間もない頃の君とそっくりだね」
「やめてくれ、そう言われるとなんか恥ずかしい」
別に意識なんかしていなかったんだが、じいちゃんに言われるとなんとも思ってなかったマリーとのやり取りが無性に恥ずかしくなるのはなんでだよ。いやでも振り返ると確かに結構な世話焼きだったかもな...彼女の為に花の手入れ方法にダンス、自室や寝間着や寝具を用意したりして、うん焼いてたわ
まぁなんにしても、最近はあまり元気がない日が増えていたマリーが、プロンニアが家族になったことで多少は元気を取り戻したみたいでよかった。例えじいちゃんがいなくなっても...あぁそうか
「じいちゃん」
「なんだい?」
「ありがとう...プロンニアを造ってくれて」
「なぜ造ったかはきかないんだね」
「あぁ、何を思ってつくったのかは完璧に察することは出来ないが、ひとつだけ絶対そうだろうなっていうことがある。俺にとってはそれだけで十分で、訊く必要なんてない」
「そうか。ありがとう...」
「こっちのセリフなんだけどな」
じいちゃんはもうこの先長くはない。俺も寿命というものがある以上、何れはいなくなる。ただし、マリーは違う。彼女は奇械公が手掛けた最高傑作で数百年、メンテナンスをしっかりやればそれ以上生きることになる。彼女もそれを理解している。この先、彼女は親しくなる人を何十人何百人も見送ることになって、その度に彼女は孤独を感じる。それを少しでも和らげるために、プロンニアを造ったんだろうな
「お待たせ。少し時間がかかってしまったわ」
「構わないよ。それじゃあいこうか」
「玄関部分、今度改良しないとだな」
「そうね。じゃないとプロンニアが傷付くわ」
マリーとプロンニアが戻ってきたことで、俺たちは今度こそ散歩を開始したのだった。ちなみに玄関の改良はじいちゃんが家にいないときに、俺とプロンニアがやることとなった。最初はマリーの自室をつくった機械(じいちゃん製)に任せようと思ったが、凄まじい音だったから考え直してこういう感じにした
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あれから、さらに月日は流れた。その間に起こったことは大して特筆すべきものはない。ただ平穏な時間が過ぎて行った
いや、ひとつだけあったな。確か夜の出来事で全員が自室で各々の時間を過ごしていた時間。俺は喉が乾いたから自室を出て水を飲んでいたんだ。そしたらマリーの部屋からなんか悶える声となにかを破る音が聞こえて様子を見に行ったんだ
──回想──
「マリー、なにかあったか?」
「へっ!?い、いえっなんでもないわ!アスターこそこんな時間に何か用かしら?」
「いや、マリーの部屋がなんか騒がしかったからなにかあったんじゃないかと気になってな」
「そ、そうごめんなさい。大丈夫よ?ただ不注意で背中のゼンマイを壁にぶつけちゃったのよ!私、喉乾いたから水飲んでくるわ!」
そう言って慌てた様子で自室を出たマリーを見送ったあと、チラッと部屋を見た。そこにはいつもと変わらないマリーの部屋...かと思いきや、机の上にじいちゃんから貰った日誌が開かれたまま─何故か破かれた跡がある─で、すぐ側にあるゴミ箱は倒れていて中身が散乱していた
「よっぽど慌ててたんだな。あの様子じゃゴミ箱が倒れたことにも気付いてなさそうだ...仕方ない、戻してやるか
あ、さっきの破れた音は日誌を破いた音か...でもマリーがなんでそんなヤンチャな─あっ」
──終了──
まぁ、これ以上は彼女の尊厳もあるから控えよう
そして時は進み、じいちゃんの容態はもう音楽を聴くのも負担になってしまった。その為に、庭園においているピアノを処分しようとマリーから相談を持ちかけられた
「どう?アランからの許可も既に貰ってるわ」
「マリー、ピアノには思い出だってあるし手放さなくても装飾品として置いておけばいいだろ?」
「でもコレの本来の使い道をしないで置いておくなんて無駄すぎるわ。それなら処分して空いたスペースを有効活用した方が合理的よ」
「合理的、ね。本当にそう思ってるのか?」
「えぇっ...」
最近、マリーもだんだんストレスが溜まって不安定になっている気がする。彼女の感情が表に出て来なくなってきていた
「...分かった。じいちゃんが許可出してるならコレ以上は言わない。ただ捨てるんじゃなくて、誰かに譲るとかバザーに出すとかにしてくれ。もちろん、信用たる人に」
「えぇ。分かったわ...ありがとう」
その後、マリーはピアノを荷台に乗せてプロンニアと共に都の方へ出かけて行った。おそらくどこかの孤児院に寄付するんだろうな
2人を見送った俺は家の中へと入り、じいちゃんが座っている場所の対面に居座る。それを見たじいちゃんは微笑みを浮かべて話しかけてきた
「マリアネッテと話はついたかな?」
「あぁ。ピアノはどこかに寄付するという感じで落ち着いた。本当によかったのか?」
「そうだね。何も思い入れがないと言えば嘘になるけどね。でも、ここよりも役に立つ場所があるなら喜んで手放すさ」
「そっか」
マリーは最初、処分するとしか言ってなかったのにじいちゃんはそれを、まるでこういう形で収まることを分かっていたかのように言ってのけた。流石は年配者...っていうのも失礼か
「アスター、すまないが頼みがあるんだ」
「頼み事なんて珍しい...何をすればいいんだ?」
「君にこれを預けたいんだ」
そう言ってじいちゃんから渡されたのは、立方体の機械で出来たなにかだった。軽く見ただけでも精巧に作られていることがわかるが、何に使うんだ?
「これは?」
「それはマリアネッテだけが使える用にしてあるものでね。アスターにはそれを時が来たら彼女に渡して欲しい」
「いろいろ言いたいことはあるが、時っていうのは具体的にどんな時だ?」
「彼女が自身と向き合う時だと、君が判断した時」
「...じいちゃん、言っちゃ悪いけど厳しいぞ。その時を判断するのは出来ると思うが、その場に居合わせれるかがわからなさすぎる」
なぜなら、予想よりもマリーが感情豊かに成長したというのが大きい。別にそれについては喜ばしいことだが、その反面じいちゃんがいなくなった時の反動が大きくなるだろう。それで起こることは、俺のことを避けるために出ていくことだ
「彼女は賢いからね。僕との死別は、君との死別をも連想してしまうことだろうね」
「俺の予想じゃ、その死別でマリーはこれまでの感情で一番大きい哀しみを負う。一緒にいてもいなくても変わらない死別が待ってるなら、その哀しみを少しでも軽くしようと俺から距離をおこうと行動すると思ってる」
「丁度、僕は彼女に<自由に生きなさい>と言っているから、世界へ旅にでるだろうね」
「限りなく高い可能性から確定事項をありがとう!」
離れる為の建前も丁寧につくりやがって!なんでこんな時にちょっと茶目っ気が入るんだよ!!
「...はぁっ、わかった。じいちゃんが無理のある頼み事なんてするはずないしな。俺なりのやり方でやらせてもらう」
「ありがとう」
「ただし、その時に居合わせれず俺の寿命が限界になった場合は、遺産として間接的にマリーへ渡すぞ」
「あぁ、それでいいさ」
まったく...じいちゃんは、俺がマリーに渡せると確信しているんだろうな。あぁもう敵わねぇや
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『この世界は美しい──僕たちの想像が及ばないほどにね。だから2人には、やりたいことをやって生きていってほしいんだ。我が子たちよ、自分の願いを見つけなさい。君たちには君たちの人生があることを、どうか忘れないでくれ』
これがじいちゃん─アラン・ギヨタンの最期の言葉だ
この言葉は俺たちに向けてではなく、どちらかというとマリーに対して言ったのが適切だろう。俺はまずじいちゃんに頼まれたやるべきことを成さないと
その後じいちゃんの死別で、マリーは俺と話すのは最低限だったり当たりが強くなったりと、明確に避け始めた。そしてじいちゃんの遺言のひとつに、奇械公が設計した図やその資料を廃棄して欲しいと言われていて、それを処分し終えたときのことだ
「アスター...私はプロンニアと旅に出るわ。アランが遺した言葉通り、世界を知るために。あなたが一緒に来る必要はないわ」
「そうか...気をつけてな。いつでも帰ってこいよ」
マリアネッテはプロンニアと共にここを去った
アスターの存在によって、サンドローネは原作よりもエラーの蓄積が早くなっています
ちなみに、アスターはアランと暮らし始めて十数年経過してましたが未だに記憶が完璧に戻っていません!