アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話   作:月光舞詐称者姫

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会話シーンってやっぱり難しい……今回は難産でした。


第二十二話 アンストッパブルの代償

「マーレ!マーレぇ!」

 

 悲鳴にも似た叫び声をあげ、必死で弟を抱き起こすアウラ。

 

「なんと……」

「馬鹿な……!」

 

 その光景に戦慄するセバスと狼狽するデミウルゴス。蹴りを叩き込まれたマーレの首は、衝撃にハザードフォームのシューズの形にその一部が凹んでおり、ハザードフォームの破壊力を如実に表していた

 誰もが双子に気を取られる中、マーレにその破壊の跡を刻み込んだ張本人、ビルドだけが、一番己に近づいていたセバスとデミウルゴスの方をゆっくりと向く。

 

「「ッ!!」」

 

 思わず身構える二人。

 

「やめてセシー!それはセバス様よ!敵じゃないわ!?」

「チッ!ふざけやがって!」

 

 完全にセバスも攻撃対象として見ている様子にツアレが思わず声を上げるが、聞こえている気配はない。

 一歩、一歩と近づいていくビルド。セバスが拳を握り、デミウルゴスもその体の一部をスキル、悪魔の諸相により変化させる。

 一足遅れたクレマンティーヌもスチームブレードを構えて駆けつけようとする。だが、その間に大きな音を立てて一つの鉄塊が降ってきた。

 

「アンタは……」

「すまない、遅くなってしまった。」

 

 漆黒のフルプレートに、二振りのグレートソード。相棒の美女は別の戦いに赴いているのか不在だが、その姿は間違いない。

 

「"黒鉄"のモモンか。」

「そう言う君は、ナイトローグ。」

 

 ギルドが公布したモモンの二つ名をつぶやくクレマンティーヌに、モモンはその姿を見て武器を構える。片方をデミウルゴスやナイトローグのいる方へ、もう片方をビルドへ。しかし、徐ろに駆け出したビルドに、その片方を振るう形になる。だが

 

「馬鹿ッ!相手にするな!!」

「むぅっ!?」

 

 そのブレードをしゃがんで回避したビルドが、モモンに向けて拳を放ってくる。凄まじい音を立てて、今の今まで一度も傷つくことのなかった、夜空の様に黒いフルプレートにバキバキと亀裂が走る。

 

「(そんな馬鹿な!?確かにガチで使う奴じゃないとはいえ、それなりにレベルの高い物だぞ!?)」

 

 それがまるでクッキーか何かの様にひび割れたのだ。いやそれよりも鎧が砕けて正体が露呈するのはまずいと、人間の冒険者モモンを演じる為にモモンガは大きく下がりながら膝をつき、大ダメージを受けたふりをする。

 

「おい、大丈夫か!?」

「あ、あぁ、問題ない……八本指に助けられるとはな……」

 

 ナイトローグの情報を事前にセバスから得ていたモモンはそう言うが、クレマンティーヌは首を横に振る。

 

「このアイテムを使ってた八本指なら倒されたよ。話は後だ!」

 

 さらに向かってくるビルドに、次はナイトローグが武器を構える。マーレやモモンとは違って、それなりに優れた技量を有するクレマンティーヌの攻撃。しかし、

 

「なっ!?速っ……」

 

 ビルドのスピードは、彼女の予想を遥かに超えていた。ハザードレベルを一時的に急上昇させてるとはいえ、このスピードは明らかにニニャが出せるスピードではない

 

「(まさかコイツ……!!)」

 

 その原因に、心当たりがないわけではなかった。だが、そんなことを考える間もなく、ビルドの拳が突き刺さる。

 

「がっ……!?」

 

 そのまま追撃しようと拳を振りかぶるビルドだったがハザードの暴虐もそこで止まる

 

「いい加減にしなさい、ニニャさんッ!!」

 

 セバスが、その防御を穿つ拳を、技を持って逸らしていた。

 

「貴方の仲間まで、その手にかけるおつもりですか!!」

 

 その怒声は、セバスの放つ闘気も相まって空をビリビリと振るわせる。次はお前だと言わんばかりに拳を振るうビルドに対して

 

「破ァッ!!」

 

 渾身の、鉄山靠を放つ。その衝撃で吹っ飛ばされた拍子にドライバーからバザードトリガーが外れ、迸る赤い光と共にハザードフォームへの変身が解除される。

 

「頭が……僕は、何を……」

「やっと正気に戻りやがったか……」

「クレマ……ミカンさん。すみません……」

 

 ボロボロの身体で頭を抑えるニニャの姿に、クレマンティーヌも変身を解除して駆け寄る。その直後、

  

「おねえ……ちゃん……」

「マーレ!?マーレ、しっかりして!ねぇ!!」

 

 ひゅーひゅーと、か細い息で言葉を紡ぐマーレの声と、アウラの鳴き声で、全員の視線がそっちに向く

 

「し、心配だな……おねえちゃんは……ちょっと大雑把、だから……」

「こんな時に何を!?」

「でも、そうやって……ちぢこ……まってる……僕を、ひっぱってくれるのが……」

 

 大好きだった.そんな言葉をこぼしていくマーレに、アウラは涙を流す。それじゃあまるで、今からいなくなるみたいじゃないか。そんなの

 

「嫌だ……!!嫌だよマーレ!行かないで!!大雑把なお姉ちゃんだから!!マーレが居ないとなんにも出来ないから!!だからぁ!!!」

 

 震える手で、マーレは自分の持っている、銀のどんぐりのネックレスをアウラの手に握らせる。アウラの首から下がる金のそれとお揃いの、通信が出来る、大切な……

 

『お夕飯の時間だよ』

 

 そんな時、場違いなふわりとした女性の声が響く。はっとアウラが見やったのは、その手についた腕時計。今の主人たるアインズから賜った、彼女達の創造主、ナザリックの至高の41人の1人、ぶくぶく茶釜の声が出る腕時計。

 最近自分は別の任務でマーレと離れ離れなことが多かったから、今日この任務を終わらせたら一緒に夕飯を食べようと約束して、この時間にセットしていた……

 

「ぶくぶく……ちゃがま……さま……?」

「そうだよマーレ!ぶくふく茶釜様の声が言ってるんだ!ナザリックに帰ろう!一緒に夕ご飯を食べよう!それで……!」

「どこに……いるの……?」

「ッ!!」

 

 至高の41人は、アインズを名乗るモモンガを覗いて皆、今はナザリックから姿を消している。それを知らないマーレではないし、この腕時計のことを知らない訳でもない。

 だが、それでも今際の際のマーレには、まるで本物のぶくぶく茶釜が、近くまできてくれたかの様に感じれてしまったのだ。

 

「あいたいよ……ぼくらの……」

 

 その言葉を残して、マーレの体から力が抜ける

 

「待って……!待ってよ……!!お願いだから……マーレぇ!!」

 

 ボロボロとマーレの体が崩れ落ちていく。青と銀の粒子になって、空中に溶けていく。やだ、いやだよと、それを必死にかき集めようとするが、どれもアウラの手をすり抜けていく。マーレ・ベロ・フィオーレ。ナザリックの階層守護者が、生き絶えた瞬間だった。

 

 一方街には、惨状が広がっていた。無数の攻撃的な植物が街を巻き込んで破壊し、地面が捲れ上がり数多の建物が、その住人ごと土砂に埋もれた.

 ニニャの恩師であるブラッドスタークを殺そうとして、それを止めるためにニニャが戦った。その結果、意識のない間に

 

「僕が……これを……?」

 

 広がるのは、遺体すら残さず消えた少年と、その前で血と泥と吐瀉物に塗れた服で啜り泣く少女。最愛の弟を奪われた少女は、そんなニニャの疑問にブチ切れた

 

「あぁああああああああああ!」

 

 鞭も持たないまま、ニニャに向かって泣き腫らした傷だらけの顔で突撃する。それを抑えたのは、デミウルゴスだった。

 

「何すんのさデミウルゴス!そいつを殺せないじゃないか!!」

「君こそ落ち着きたまえ、これ以上暴れるのは、我々にとって不都合になる!」

 

 仮面の奥で歯噛みしながら、デミウルゴスはアウラに言う。この場には、すでにモモンが来てしまった。当初の計画では、最上位の冒険者相手に暴れた自分と、モモンが戦ったのち、この地に悪魔を召喚する自分たちのマジックアイテムが流れ着いた。それを回収するために街に悪魔を解き放つと、次なる災いの宣言をして撤退。

 だがマーレが殺された今、そんな大掛かりな芝居を打っている余裕はない。

 オマケに今のアインズは冒険者モモンを演じている。全くもってふざけた話だが、マーレを殺した以上ニニャはこの戦いにおける功労者だ。ここでアウラがニニャを殺せば、モモンは戦いの功労者を目の前でむざむざと殺されてしまった愚か者になる。至高の存在たるアインズに使える物として、アインズの顔にその様な泥を塗る真似は避けなければならない。

 

 敵が、弟の仇が今、目の前にいるんだと、アウラは絶叫する。だが、デミウルゴスは緊急時にと渡されていた転移用のアイテムを取り出す。

 

「私としても、奴は八つ裂きにしてやりたいとも。」

 

 親愛なる仲間を殺され、計画も台無しだ。仮面の奥の宝石で出来た瞳が怒りに燃える。

 

「ですが今は控えましょう。報いを受けさせる計画なら、いくらでも提案してみせます。」

 

 光に包まれ消えていく二人。モモンも、鎧のひび割れた部分を抑えて治療してくると、よろよろとその場を去っていく。

 クレマンティーヌが見れば、ニニャは頭を抑え、ガタガタと震えていた。無理もない、彼女にとっても初めてだったのだろう自分が殺した相手の親族から、あんな風に責められるなんて経験は。そんな様子のニニャを起こし、クレマンティーヌは言う

 

「行くぞ、会議の場所に戻る。」

 

 色々なことが起こり過ぎた。あのコブラ野郎や王女様を交えて、話をしなければならないと、イビルアイ達に荒んだ瞳で呼びかける。

 

「あ、あぁ……私達も、仲間を治療してからでいいか?」

「好きにしろ。」

 

 そう言いながら、肩に感じる、立ち上がらせたニニャの怯える様な震えを直に感じ、舌打ちする。

 

「今度はこれかよ。クソッ……!」

 

 

 その後、ナザリック地下大墳墓の第十階層、玉座の間にて、階層守護者たちが緊張した面持ちで集まっていた。他にも蘇生されたプレアデスなど、今回の作戦に関わったメンバーからそうでないものまで,錚々たるメンツが揃い踏みだ。だがそこに、六階層を守る双子のエルフの姿はない。

 

「アルベド、アウラは……」

 

 玉座に座るアインズは、隣に座すアルベドに、その双子の生(・)き(・)残(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)方(・)の名前を問いかけた。

 

「休ませました。あの状態ではとても、会議に参加できそうにありませんでしたから。」

「そうか……苦労をかけたな。」

 

 マーレの蘇生は、叶わなかった。ブラッドスタークや、現地の冒険者にやられたプレアデスの面々は別だ。だがマーレの蘇生は叶わなかった。

 

『なんだこれは!?一体どうなってる!?』

 

 蘇生な儀式の準備を完了させ、いざ蘇生となった段階で、配下達の前だと言うのに思わず狼狽してしまったアインズを、誰も攻めることができないだろう。

 何せ蘇生を行おうとしたアインズのコンソールには、マーレの名前がなくそこには文字化けした文字の羅列が並んでしまって居ただけなのだ。この状態をアインズは、マーレを構成する魂(データ)が何らかの異常により深刻なダメージを受けた。と解釈した。いや、異常の原因は言わずもがなだ。

 

「(あの、黒い仮面ライダー……てっきりビルドの偽物でも出たのかもと思って居たけど)」

 

 元々レエブン侯からの依頼で呼び出されて居たモモンは、騒ぎが発生した時には完全に出遅れてしまって居た。しかもマーレが放ったと思わしき大魔法の様なものが王都の一帯をめちゃくちゃにしてしまう自体を目にして、配下達のパフォーマンスは派手だななどと考えながらも騒ぎの中心点に降りてきてみれば目にしたのはあの惨状だ。

 これ以上被害が広がる前に逃げてくれたデミウルゴスにはむしろよくやったと言いたいが……

 

「大損害、だな。」

「申し訳ありません。敵の戦力を見誤っておりました。この罰は如何様な形にでも……」

 

 思わず口に出てしまった言葉に、そのデミウルゴスが平伏する。

 

「いや、あの作戦で許可を出したのは私だ。お前だけの落ち度ではない。」

「(この世界の人間のレベルを考えれば、相性有利な魔法を覚えて居たとはいえ、エントマと渡り合える魔術師がいたことだけでも驚きなのに、まさかマーレ(Lv.100)が負ける程の相手がいるなんて……)」

 

 いや、これは俺の読みの甘さが招いたことだなと、アインズは頭の中で反省する。何度か彼らの実力を確かめる為にと模擬戦をさせたことはあったが、本格的な同格相手の戦闘など、洗脳されたシャルティアと戦った自分くらいしか経験して居ない。我ながら油断が過ぎたと考えて、配下達に軽く詫びる。

 

「それよりも、最優先しなければならないのは、対策と」

「報復、でございますね?」

 

 アルベドの問いに、アインズは深く頷く。

 

「そうだ。特にプレアデスを殺し、マーレの命を奪う遠因となったブラッドスターク。奴には必ずや報いを受けさせねばならない。」

 

 そういえば、守護者達も当然だと言わんばかりに頷く。

 

「それからデミウルゴス、マーレの蘇生の為の魂の修復だが……」

「はい。現在最優先で研究を行っております。しかし、低位の蘇生魔法を扱うのでやっとな王国などでは、そう言った魔法の情報を得るのは……」

 

 そもそもユグドラシルにはそんな魂……ゲーム内データに干渉する魔法などは存在しなかった。というかあったら困る。完全にチートとかそういう領域だ。ギルド武器でマーレのキャラクター設定なんかを覗いたり書き換えたら出来ないかと試してみたが、あれはそのNPCが居ないと使えない。

 まず蘇生して、そこでとんでもない異常が発生してマーレじゃない何かが蘇っちゃいましたなんてことになったら洒落にならない。

 

「ですがヒントはあります。エントマを殺した魔法詠唱者の女は、エントマを殺すのに使った魔法をオリジナルだと言っていました。」

「オリジナルの魔法……か。」

 

 確かにそれを利用すれば、マーレのこの状態を何とかする魔法を作れるかもしれない

 

「つきましてはアインズ様、あの女を、私の牧場で利用しようと思うのですが……」

「(スクロールの制作工場に魔法の研究所をくっつける……ってことか。新しいスクロールの開発なんかもその場で出来るならかなり有用だな……)」

 

 アベリオンシープ……だったか、デミウルゴスが良質な"羊"を集め、魔法を使うスクロールに利用する羊皮紙を作成するその場所に、魔法の研究所を並べて、敵を捕まえてそこで利用する。いい計画だとアインズはそれを承認した。

 

「なるべく急いでくれ。私としても、アウラのあの様な顔を見るのは忍びない。」

「かしこまりました。」

 

 その言葉にデミウルゴスは頷いた。

 

「では次に報復の件でございますねらアインズ様。」

「落ち着けアルベド。それはまだ後だ。」

 

 一刻も早く王国を滅ぼしたくて仕方がない。そんな顔で提案してくるアルベド。そう命じれば今すぐ一人で王都を血の海に染めそうな勢いだが、焦るなとアインズは言う。

 

「スタークに報いを受けさせようと、それに頭が行きすぎてはならない。今回の失態の原因はそこにある。」

 

 自分もどちらかといえば戦いは迎え撃つのが得意なプレイスタイルだ。他のプレイヤーと比べても幅広い引き出しを利用して、対策を講じて敵を討つ。

 

「プレアデス達とスタークの戦い、そしてニニャが繰り出した黒いビルド。どちらも今まで我々に足りて居なかった奴らの情報だ。それを集め、解析し、必勝の策を用意する。奴らを誅するのはそれからだ。」

「…………承知いたしました。出過ぎた真似を謝罪いたします。」

「よい、お前の気持ちはよくわかる。私も、お前と同じ想いだ、」

「アインズ様……!!」

 

 その言葉に恍惚としているアルベドを脇目に、アインズは考え込んだあと、もう一度アルベドを呼んだ。

 

「お前は軍備を調えろ,準備が出来次第」

 

 王国と戦争だ。その言葉に、守護者全員が引き締めた顔で頷いた。アインズとブラッドスターク、モモンガとエボルト、ナザリックと仮面ライダー。これから長きに渡る戦いのトリガーは引かれた。もう、戻ることはできない。

 

 

「蒸血ッ!!」

 

〈MIST…MATCH!!〉

 

「ハハッ!いきなりご挨拶だねぇ。」

「ちょっ!?ミカンさん何を!?」

「そうだぜ、まずは一旦落ち着いて……」

「黙れ!!これが落ち着いていられるかッ!!」

 

 一方王国の陣地、そこのスタートは、およそ穏便とはいえなかった.ナイトローグへと変身したクレマンティーヌが、スタークに掴み掛かったのだ。

 

「一つ確認させろ……ブラッドスターク……!!」

「コイツは確認じゃなくて尋問って言うんじゃないか?」

 

 だが、別に構わないぞと言うスタークに、クレマンティーヌは聞きだす。

 

「アレは、ハザードトリガーは危険な代物。そうアタシ達に説明したのはお前だな?」

「あぁ。」

「アレをニニャに渡したのもお前だな?」

「あぁ。」

 

 帰ってくる簡素な肯定にギリっと奥歯を噛み締める。この態度、まるで、あの惨状を惨状だと思ってない様な空気感。それが彼女の疑問を確信に変える。だがそれでも、それでもあの甘ちゃんに、ヒーローという選択肢を与えたこの男ならば、あるいは……

 

「分かってたんじゃないのか?アレを使えば、ニニャは暴走するって。」

「あぁ。」

「ッ!!!!!」

 

 嘘であってくれ、そう願いながら投げかけた問いに帰ってきたのは、先程までのそれと同じ、ひどく簡素な……肯定。

 

「テメェッ!!」

「勘違いするな。」

 

 今にもスタークを締め殺しかねない様な怒気を纏ったナイトローグの手を振り払い、スタークは言う。

 

「ハザードトリガーの強化剤はいずれ脳に到達して意識を奪う。これは決まりきったことだ。どれだけハザードレベルを上げようとな。」

「そんなことは関係ない!!あんな物を使ったおかげで……」

「だが、使わなくちゃ倒せなかった。違うか?」

 

 つめよるクレマンティーヌだったが、その言葉に押し黙る。実際、クレマンティーヌも目の当たりにしたから分かる。王都の一部分が土砂で埋まるほどの魔法、あんな災害みたいな魔法、クレマンティーヌが所属して居たズーラーノーンの首領や漆黒聖典の上位席次でも使えるか分からない。

 どれほど危険な代物だと分かって居ても、使わざるを得なかった。使わなくちゃ、止められなかった。ニニャだって分かって居ただろう。アレは精神力で乗りこなしたりとかそう言う次元のものじゃない。だがそれでも変身した。守る為に。そして……

 

「やめてください!」

 

 スタークとクレマンティーヌの言い争いに、思わず、目の前の机を立ち上がりながら思いっきり叩く。その結果だった。ベキバキと音を立ててテーブルが粉砕されたのは。

 

「…………え?」

「お、おいニニャ……今お前、何した……?」

「ふ、普通に叩いただけです!それが、こんな……!?」

 

 驚愕するルクルットに、思わずそう言うが、クレマンティーヌはその様子に忌々しそうに舌打ちしする。

 

「肉体の昇華……やっぱりね。」

「やっぱり……?知ってるんですか?」

「所謂才能って奴?その限界って人によって決まってるって、よく言われるじゃない。」

 

 これが案外その通りなのよねぇと、クレマンティーヌは解説する

 

「実際これ以上どうやっても強くなれないって段階があんのよ。若い頃は天才って呼ばれてて、周りよりも出来てもてはやされてって奴が、年取ると普通になってるみたいなこと、聞いたことない?」

「えぇまぁ、一応は…………」

 

 魔法を扱うにも、英雄級と呼ばれる領域に至るにも、必要なものがある。才能だ。そして才能には限界がある。それは人それぞれだが

 

「稀にその逆で、素質はべらぼうに高いけど、機会に恵まれなくて成長できないって奴が居たりするのよ。」

 

 ニニャは、確かに魔法の習得が早くなると言う異能(タレント)を持つ。しかし、高名な魔法使いな教えを乞うでもなく、冒険者という職業で、冒険せず職級に見合った依頼をこなし続けて居た。

 そんな人間が仮面ライダーとなって、巨悪との戦いに身を投じる。確かに、以前は見切れなかった様な攻撃が見切れたりと言うこともあったが……

 

「ハザードレベルが上がったから……だと思って居ました。」

「それだけじゃなくて、あんたの肉体もレベルアップしてたってわけね。」

 

 中でも、熾烈な冒険を経ることによって肉体が急成長する場合がある。

 

「アタシもまぁ、最初からこう言う武技持ってたりしたわけじゃないしね。多少は分かるわ。」

 

 膂力も上がったのだろう。あのダークエルフの少年ほどでは無いだろうが、魔術師として領域外のパワーを得たのは間違いない。

 

「こう言うので面倒なのは、具体的にどんなところがどれほど昇華したのか、新しい武技に目覚めたりとかしてんのか、そう言うのが一切分かんない手探りってこと。でもアンタの新しい力ってことは、間違いないわ。」

「僕の、力……」

 

 ま、向き合っていくしか無いわねというクレマンティーヌに、思わずその手を見る。ただ、無我夢中に腕を振るっただけで、それなりに頑丈そうなテーブルを粉砕するほどの力。自分の新しい力。

 

 アノコヲコロシテテニイレタチカラ

 

 不意に、その手が血まみれな様に見えた。

 

「うっ!?」

「お、おい!?大丈夫か!?」

「気持ち悪いのか?どこか横に……」

「ここに袋があるのである!!」

「近づかないで!!」

 

 口元を抑えてよろめくニニャに、漆黒の剣の面々が駆け寄ろうとするが、出たのは拒絶だった。

 

「ぼ、僕に……近づかないでください!」

「あっ!?おいニニャ!?」

 

 逃げる様に走り出してしまうニニャに、ペテルが思わず声を上げるが、一目散に駆ける彼女には届かない。そのスピードもまた、今のニニャからはかけ離れて居た。

 

「何をそんなに悩む必要があるのかねぇ。」

「お前……ッ!」

「だってそうだろう。」

 

 心底理解できないという風に言うスタークにまだ言うかと思わず声を荒げるが、スタークは悪びれもせずにそう言う。

 

「相手は正真正銘の化け物だ。そもそもエルフは、法律的にも人間じゃ無いしな。」

 

 エルフや獣人(ビーストマン)と言った種族は亜人とされ、基本的に人間と認められて居ない。それは特にスレイン法国やそこと友好的なバハルス帝国で顕著であり、奴隷制を禁じておきながらエルフは例外と堂々と奴隷にする程だ。

 エルフの国家と戦争する法国は特にそれが激しくクレマンティーヌだって漆黒聖典時代に散々殺してきた種族だ。

 

「ちょっと子供の身体をしてて、そんな奴に泣かれたからって同情とは、お前も随分と丸くなったな。」

「ッ!!」

 

 ポンポンと肩を叩いてくる姿にパッと振り返り怒鳴ろうとして

 

「奴らは組織だ。上がいる。」

「ッ!?」

 

 ボソリと放たれた言葉に、思わず動きが止まる

 

「それに、今のあいつじゃ何を言っても俺じゃあ届かないだろうからな。」

 

 仲間の言葉を届けてやれと、そう言ってスタークもその部屋を出ていく。

 

「ちょっとスタークさん!?話し合いは……」

「こんな空気じゃそれも難しいだろ。他のところを見てくる。お前らも今のうちに身体を休めとけ。」

 

 チャオ♪と言って去っていくスタークに、誰も声をかけられない。彼の姿が消えた後、変身を解除したクレマンティーヌは、行き場のない怒りをぶつける様に横の壁を殴りつけた。

 

「憎まれ役は任せろってか……?」

 

 仲間の言葉を、届けてやれと言って居た。だが

 

「アンタの方が、アタシなんかよりも遥かにあいつの仲間だろうが……!」

『そうそうその顔!よくも仲間を……!って怒るその顔をぐちゃぐちゃにして、絶望に染めて、踏みにじるのが最高なの!』

 

 あの日自分がニニャにぶつけた言葉が、彼女の脳裏に狂気的な笑みと共にリフレインしていた。

 

 

玉座の間から離れた第九階層にあるマーレの自室。彼が好んで居た空調の魔法は、部屋の主が居なくなった今も正常に機能する。

 

『マーレ!遊びに……って寒っ!?』

『う……おねえちゃん?』

『何してんの!?部屋めちゃめちゃ寒いじゃん!?』

『今からお昼寝するところだったから……』

 

 部屋を寒くして、毛布にくるまって寝るのが好きなんだと笑っていたベットの上で、噛み締める様にその毛布にくるまって、アウラは啜り泣いていた。

 

「マーレ……」

 

 もう、あの時の燃える様な怒りはない。ただぽっかりと、胸に大穴を穿たれたようで、苦しかった。布団に残る、月夜の若草の様な、木漏れ日の中の下の日陰のような、柔らかいマーレの香りを噛み締める様にして、ひたすらに現実から逃げたかった。

 

「アウラ様。よろしいですか?」

「……ペストーニャ?」

 

 コンコンと扉がノックされ、ナザリックのメイド長の声が聞こえてくる。

 

「お昼をお待ちいたしました。アウラ様は好物のハンバーガー、皮付きポテト、お飲み物はコーラを。以前のリクエスト通り、合い挽きの肉を利用いたしました…………わん。」

 

 自分のことを心配して、食事を持ってきてくれた様だ。入ってもいいかと問いかけてくるペストーニャの言葉に、暫く考え込んでから

 

「あたしの部屋に置いておいてくれる?匂いを……入れたくないんだ。」

「かしこまりました…………わん。」

 

 ペストーニャの去っていく足音が聞こえる。そんな中彼女は毛布にうずくまり、涙を流す。

 

「マーレがいない。胸が痛い。辛い,苦しい。それなのに……」

 

 彼女の腹がくぅ、と音を立てた。

 

「眠くなるよ……お腹が空くよ……!」

『お昼ご飯の時間だよ』

 

 甘く囁く様な自分の創造主の声が、時間の流れを無惨に告げる。同じ日に生まれた、ずっと一緒だった自分の片割れ。まだ76歳、成長と将来性を残す少女は、自分だけがこれから大きくなっていくと言う事実が,たまらなく辛く感じられた。

 仮面ライダーへの憎しみも、アインズへの忠誠も、この喪失の感情に比べたら些細な物だ。

 

『あいたいよ……ぼくらの……』

「ぶくぶく茶釜様……」

 

 あなたは一体どこのいるのか、何故、こんな事態になっても会いにきてくれないのか。アルベドもアインズも、デミウルゴスすら気づかない。肉親の死という事態に、疑問を抱くことを忘れてしまっている。そのアウラの感情が、創造主である至高の御方に絶対の忠誠を誓い、彼らに尽くすことを史上の命題としているはずの存在が、もし仮にアインズに死ねと命じられたら、喜んで命を捧げる様な存在が、その使命を蔑ろにして泣き喚くことに。

 ただただ、ショックが大きいからじゃない。至高の御方に仕えるということの優先度が、彼女の中で下がっていることに。

 

 オ(・)ー(・)バ(・)ー(・)フ(・)ロ(・)ー(・)を(・)受(・)け(・)た(・)の(・)が(・)、マ(・)ー(・)レ(・)だ(・)け(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)という事実があっても、誰も気づかない。彼女の中に刻まれた深い何かが、アウラをナザリックの僕では無くそうとしていることを。

クレマンティーヌはトランスチームガンを

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