アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話 作:月光舞詐称者姫
次回のエピソードは一週間以内に投稿できればと考えております。
代表戦の舞台は、王都近隣の広い平野で行われることとなった。その場所は、ニニャにもアインズにも酷く見覚えのある場所だ。そう、冒険者モモンとして、カルネ村までの道行で通ったあの場所だ。
「ここは……」
それに気づいたニニャは一瞬郷愁に耽るが、それも転移門の魔法を潜り、男装姿のダークエルフが現れるまでの話だ。
「アウラさん……」
「黙って。」
その言葉に、喉まで出かかっていた言葉を押し込める。言葉はきつかったが、弱々しく見えてしまったのだ。変身前の自分より遥かに強大な力を持った、ダークエルフの少女が。
「あれから……一度王都に行ったよ。マーレの眠った場所を見に行った。」
ぽつりと、アウラは独白を始める。口に出さずにはいられない独白を。
「そこで、あたしと同じ顔した人間を大勢見た。」
「同じ…顔?」
「大切な誰かを殺された顔。行き場のない怒りとどうしようもない悲しみが混ざり合った顔。それは、あたしの弟が作ったものだった。」
元はと言えば、マーレが死んだのはマーレ自身の責任。あぁ勿論、そんなつもりで言ったんじゃないのだろう。だがアルベドのその言葉はその瞬間からアウラの脳裏で反響し続けていた。
「自業自得って言葉の意味は、あたしもよく知ってる。八本指の連中が殺されるのだってそうだって、あたし自身が思ってたから。
でも、それをマーレに当てはめたくなくて、それでも当て嵌めるべきなのかもしれなくて……ぐちゃぐちゃだ。」
くしゃりと前髪をかきあげながら手をひたいの辺りにやって言う。色々な気持ちが渦巻いて、心がボロボロだ。
「色々見て、知って、感じて、あたしは壊れた。信じるものが分からなくなった。あんたに謝られたら、この場所で崩れ落ちちゃうんじゃないかって、思えてくるくらいに。」
「アウラさん……」
「でも」
息を吐いて、手を目の前から退けて真っ直ぐにニニャを見据える。その瞳は、怒りと憎悪を確かに宿していた。
「あんたがマーレを殺した。それは間違いなくて、たとえ自業自得だとしても、この怒りを抑えれるほどあたしは大人じゃない。」
鞭の持ち手に手を掛け、肩に巻きついていた鞭を解くように引き抜けば、白蛇のような獲物が空を切り独特の甲高い音を立てる。
「ぐちゃぐちゃになった気持ちには、一個一個整理をつけていく。まずはこの怒りからだ!」
「……わかりました。」
アウラの言葉に、ニニャはそう返答する。そしてビルドドライバーを取り出して腰に装着する。
「どうあれ、僕は過ちを犯した。それは間違いない。だからその気持ちは、僕が受け止めるべきものです。」
振るったフルボトルを、ベルトに装填。
響く音声を前に、魔法を利用した音声が響く。
『只今より、リ・エスティーゼ王国と、ナザリック地下大墳墓の、代表戦を執り行う!』
太い声で声が響くのは、アインズ側が用意した
『勝敗ハ、立会人ニヨル代表者ドチラカノ気絶、死亡、変身解除トイッタ戦闘不能ノ確認、マタハ代表者ノ指定範囲カラノ逃走ニヨル試合放棄、アルイハ降参ノ宣言ニヨッテ決定スル』
『この決闘の立会人は、私、リ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフとナザリック地下大墳墓第五階層守護者、コキュートス殿が連名で執り行う!』
つまりは審判だ。ザナックが提案した連名での審判にアインズはナザリック随一の武人であるコキュートスを、王国側はその異形の見た目に物怖じすることなく立候補したガゼフが務めることになった。だが、最初の問題は決闘の準備期間に、早速発生する。ニニャがドライバーのハンドルを回し、ライドビルダーの展開を始めた時だった。アウラが徐に右手を翳すと、アウラの背後に複数のワープゲートのような物が出現する。
「なっ!?」
アインズやアルベドと言った面々と共に王宮で試合を観戦していたザナックは目を見開く。流石のラナーもこれには驚きを隠せない。中から現れるのはフェンとクアドラシルを筆頭とした魔獣たち。本来ならばアウラ達の守護する階層のジャングルにて暮らす、弟の次に大切なアウラの家族達だ。
あっという間に小規模な、だがそれだけて王国の軍を壊滅できるであろう魔物の軍勢が広がった。
「これはどう言うことだ!?代表戦は一対一の決闘のはず……」
「決闘において、マジックアイテムの使用とテイマーによる
思わず抗議した大臣に、アルベドはそう返した。
「まさかあれらは全て……」
「えぇ、全て彼女の意思に従う、彼女のモンスターですわ。」
総勢十数台。フェンのように大きいリーダー格からアウラほどの小柄な魔獣までの混成軍。
元来、テイマーというのは己よりも劣る魔獣を数体使役するか、出来て己より強い魔獣一体が限界だ。また、それ故に本人の戦闘力は無いに等しいと言っていい。故に決闘においてテイマーが自身でテイムしたモンスターに限って、使役が認められている。
またマジックアイテムや装備の効果も、使用が認められている。つまりテイムした無数のモンスターをアインズが授けたアイテムによって召喚するこの一連の流れは、ルールに反していない。
「そんな……」
本来ならば決闘に向かない役職のためのハンディキャップの筈だ。そのルールすら、神の如き軍勢が使えば絶望の象徴に過ぎないのか。ザナックは戦慄する。だが一方のニニャは、そして同じように王宮内でそれを眺めるスタークは、平然としていた。
「ずいぶんと、いい顔をする様になったじゃないか。」
代表戦が開幕する数日前、ツアレとの対話を終え、訓練場へとやってきたニニャに石動惣一の姿でエボルトは呼びかける。
「代表戦に出す為にクレマンティーヌを限界まで鍛える気で居たが……」
「いえ、僕が出ます。僕に行かせてください!」
「おいニニャ、無理は……」
クレマンティーヌは引き止めようとするが、ニニャは首を横に振って言う。
「皆んなを守るのは、僕の役目ですから。」
「お前…………」
「そういうことなら、これはお前にやるよ。」
そう言って取り出したのは、複数のフルボトル。
「八本指から回収したアイテムだ。代表戦まで時間もない。俺はコイツの使い方を叩き込む。クレマンティーヌ、お前も英雄の肉体の使い方ってのを叩き込んでやれ。」
その言葉に、クレマンティーヌは気に入らなさそうにバットロストフルボトルを、エボルトはコブラロストフルボトルを取り出してトランスチームガンにセットする
笑みを浮かべて銃口を下に向けるエボルトと、トランスチームガンを頭上に掲げて鋭い瞳で決意を口にするクレマンティーヌは同時に言葉を口にする
同時に吹き出した煙が二人の姿を包み込んでいく。
飄々としており何を考えているか分からないが、冷静な戦術側を持ちゆったりと佇むブラッドスターク
対照的に蒸血な言葉に相応しい激情を胸に秘め、アーマーの感触を確かめるように手を握り、開くを繰り返すナイトローグ
パチパチと火花を散らせる二人の怪人が、ニニャの前に並び立つ。
「俺たちと戦えば、今お前に足りないものを学びながらハザードレベルも上げられる。ハザードレベルを上げていけば、ハザードフォームだって使いこなせる時間は伸びる。」
「でも英雄の領域に踏み込んだ今のアンタなら、ハザードトリガーが無くても連中に通じる攻撃を繰り出せるはず。」
だが、それでも足りないときは、またハザードトリガーの力を頼ることになるだろう。そしたらまた、取り返しのつかない事態を引き起こすかもしれない。
2本のボトルをセットしてベルトを回す現れるライドビルダー。
ドライバーからの問いかけに、ファイティングポーズを取った時、また両手が血まみれに見えて、一瞬硬直する。だが、目を瞑って想起する
『私は自分の思いに真っ直ぐ生きたい。セシーは?』
「(僕は……)」
取り返しのつかない、罪を犯した。それでも、以前変わりなく
「(皆んなを守る、仮面ライダーだ!)」
目を開けた先に広がる世界は、どことなく澄んでいた。
ハリネズミと掃除機のトライアルフォーム。
「じゃあ……行くぞ!!」
ブラッドスタークがニニャへと迫る。トランスチームガンを連射。そこからニニャが慌てて飛び退けば、そこへナイトローグが迫る。振るわれるスチームブレードをハリネズミボディの刺々しいナックル、スパインアームの針を伸ばして受け止め、スタークからの射撃を掃除機ボディのロングレンジクリーナーで吸収する。
クレマンティーヌの攻撃を弾き、吸引した弾丸をショットガンのように放出して浴びせ、スタークにはスパインナックルの針を弾丸のように飛ばして牽制。二人の動きにしっかりとついてこれているように見えるが……
「「駄目だ!なっちゃいない!」」
針を掻い潜ってきたスタークと、直ぐに体勢を立て直したクレマンティーヌによる同時攻撃をくらい、地面を転がることになる。
「両方に同時に対処しようとして防御も攻撃もおざなり!そんなんじゃすぐやられるよ!」
「ハリネズミも掃除機もベストマッチフォームで同じことができる!全部のフォームを覚えようとするな!両方の特性を利用しろ!」
今ニニャが有するのは、ベストマッチのドラゴンが未だ見つからないロックを除いた9×9のボトルのセット。
トライアルフォームを含めれば、変身できるフォームの数はこれだけで150を超える。そんな物をいちいち覚えきれやしない。故に
「ベストマッチの使い方をお前に叩き込む!ハリネズミは消防車、掃除機はライオンだ!」
「はいっ!」
ビルドドライバーからボトルを取り出したニニャは、それをドライバーにセットして二人の探しに挑むのだった。
「なっ!?」
アウラは目を見開いた。自分の指揮は、魔獣達との連携は完璧だ.そう自負するだけの自信がある。彼女の力でレベル90代にまで強化された魔獣達との連携攻撃は、例え単独戦最強の座に輝くシャルティアすら一方的に刈り取る物だ。しかし、目の前では包囲しようとした魔獣達を消防車ボディの腕に備え付けられた梯子車のラダーのような武器、マルチデリュージガンの放水と火炎放射で牽制し、先走ったひ突っ込んできた
「(破られた?いやそれよりも……)」
この中では比較的レベルが低いドラゴン・キンだが、巨大な体格と剣を持ち、凄まじい威圧感を誇る。その弱点を正確に見抜き、剣を振るう腕を押さえ込んで怯ませる。今までの戦いから研究していたのとは全く異なる初見のフォームで。明らかに
「策を講じてるのがそっちだけだと思ったか?」
ニニャの完璧に近い対処に目を見開いていたアルベドに、スタークは机の上にどかりと足を乗っけたくつろいだ体制で言う。
「あのお嬢ちゃんとは一度戦ってる。代表戦のルールを見てピンと来たよ。」
魔獣を使った集団戦、これならば例えハザードを出してきたとしても、目の前の敵を潰すことしか考えないハザード相手には有利に立ち回れる。
何よりこちらが初見の手を繰り出して来たとしても、生贄になるのは復活させられなくても困らない魔獣達だ。これこそがアインズが考えた対ビルド戦法。
「だから、ウチのミカンちゃんや戦士長殿の様な王国中の猛者をかき集めて、集団戦の対処法を徹底的に叩き込んだ。それに、」
「『集団戦』が出来るのはそっちだけって訳でもない。」
画面の中では素早くボトルをニンジャとコミックに切り替えたニニャがドライバーのハンドルを回していた。
マフラーをはためかせるパープルとイエローのフォーム。その手に専用の武器である四コマ忍法刀を握るニンニンコミックフォーム。接近してくる小型魔獣達に対して、四コマ忍法刀のトリガーを弾いて術を選択
ポンポンポンと煙と共に現れ出でる複数のビルド。たちまち同数となったビルドは、小型のモンスター、
「クアドラシル!ケロキャ!援護を!」
その様子にアウラは己の片腕であるクアドラシルと、神官服を着たカエル頭のモンスター、ツヴェーク・プリーストロードのケロキャに指令を出す。それに対しビルドは待ってましたと言わんばかりに再び四コマ忍法刀トリガーを引いた。
クアドラシルの舌とケロキャの強化によってブーストされた猟犬達が分身のビルドを撃退したかに見えた直後、その分身体が煙を発し、周囲をすっぽりと覆ってしまう。
「視界を潰して来た!?いや違う!フィアナ!!」
誰を狙っているか。スカウトスキルの目と耳を利用したアウラと、蛇特有の感知器官を備える尾の先にもう一つの頭を持つ翼の生えた蛇、
素早く取り出した弓に矢をつがえたアウラの一矢が飛んだのは、先ほどまでケロキャの居た場所。そこから矢を弾く金属質な音が響く。ビルドが狙ったのは後衛。それをさせるかと言わんばかりに迫るフィアナ。しかし
巻き起こる竜巻が翼ある蛇を、カエルのプリーストと共に煙幕もろとも巻き上げた。
「しまった!!」
アウラが気づいた時にはもう遅い。
斬 逆巻く風の中を駆け回るビルドの斬撃により二体の魔獣が落ちる。それに歯噛みするアウラ。王宮内の観戦場では、おおっ!と声を上げたクライムがナザリックの面々から忌々しそうに睨みつけられていた。
だが、それを観戦する他の面々の表情は苦い。
「みなさん、どうかしたのですか?仮面ライダーがもう魔獣を2体も……」
「いや、"もう"2体じゃない。"まだ"2体だ。」
たったの、と付けてもいいと、ブレインはクライムの質問に答える。
「もうニンニンコミックの能力を半分近く消費しちまってる。ついでに言えば、初手であの
続けて言うのはクレマンティーヌだ。訓練に一番付き合ったものとして、ベストマッチフォームの特性をこの中ではスタークの次にビルドの有する能略への理解が深い。その彼女はそう言う。
「戦イハ、既ニ持久戦ヘト移ロイデイル。」
そこに口を挟むのはコキュートスだ。持久戦、つまりは互いの手札。アウラならば魔獣達、ニニャならば格ベストマッチフォームとその能力。それを互いに消費しながら相手の息切れを待つ。今やっているのはそんな戦いだと。
「一度見セタ手札ハ、乱発出来ナクナル。」
お互いにだ。アウラが特定のコンビネーションを見せれば当然ニニャも、それを警戒する。ニニャが見せたベストマッチフォームの動きも、無論警戒されるだろう。だが
「出来れば分身やファイヤーヘッジホッグの段階でもう少し魔獣の数を減らしたかった。」
手札の切り方、組み合わせという点では、アウラが遥かに上を行く。
「(要するにニニャは圧倒的に不利。その筈なんだが……)」
ちらり、とクレマンティーヌはスタークの方を見る。そんな状況に苦しげな表情を浮かべる王国の人間達とは大きく異なる、手に持ったゆで卵を弄び、勝利を確信し笑みを浮かべるナザリックの面々の顔を見て、それを楽しむ様な雰囲気すら感じる。
「(やけに余裕だ。まるで何かを楽しみに待ってるかの様な……)」
そんな嫌な予感に、手元のバットフルボトルを握りながら、クレマンティーヌは動き出した戦況に目を向けた。
白いラインを描く様にロケット噴射で突っ込んできたロケットパンダの突撃で、また魔獣が倒れ爆散する。
「くっ…………!」
分かってる。数を減らしてはいるが、こっちは未だ健在。対して向こうは、複数のベストマッチフォームを切っている。だというのに、一匹一匹大切な仲間が倒されて行くのに、心をかき乱されずにはいられない。
本来なら、自分の命も魔獣達の命も、アインズ様の、ナザリックの勝利の為に捧げることに何の疑問も湧かない筈なのに。それは魔獣達の指揮官であるアウラの精彩の欠如に繋がり、彼女の采配に少ないほつれを産む。
「フェン……ありがとう。」
らしくない主人の様子に、戦闘中ながら心配そうな鳴き声をあげて寄り添ってくる相棒に、軽く鼻先をなぜてニニャに向き直る。
一方のニニャも、新たなボトルをセット。
画面の中では素早くボトルをニンジャとコミックに切り替えたニニャがドライバーのハンドルを回していた。
ブルーとライトグリーンの輝く海賊レッシャーフォームはと変身して、主武装であるボウガンにも碇にも見える形状の武器、カイゾクハッシャーを構え後退する。
持ち手の部分となっている本体、ビルドオーシャン号に接続された電車型の矢、ビルドアロー号を引っ張ればそんな音声と共にエネルギーがチャージされて行く。
ホークガトリングと同じ遠距離攻撃手段を持つ二つのフォームの一つ、海賊レッシャーの射撃の特徴は、チャージによる一撃高火力。
「何か来る……!フェン!」
アウラの鞭が閃き、それを合図にフェンをリーダーとした猟犬達が迫る。
だが、ニニャはその連携をうまく掻い潜り、カイゾクハッシャーを限界まで引き絞ることに成功する。各駅、急行、快速と来て、それを上回る海賊レッシャー最高の一撃
電車の汽笛の様な轟音と共にカイゾクハッシャーから旅立つ大きな列車型のエネルギーの塊。唸りをあげて迫るそれは猟犬達をたちどころに撃破し、さらに後衛のモンスターに襲い掛からんとしたところで
「フェン!!!」
「なっ!?自分から盾に!?」
アウラの指示を受けたフェンが阻むことで海賊列車の弾丸を受け止めたのだった。凄まじい爆発。止められたのは痛いが彼女の精鋭を消費出来たのなら御の字……そこまで考えたところで、煙の中から目立った損傷のないフェンが襲いかかってきた。
「そんなっ!?ぐっ!?」
防御するも、フェンの猛攻にクアドラシルとアウラの連続攻撃が突き刺さり、カイゾクハッシャーを叩き落とされる。
「そんな!?最大出力の一撃なのでは!?」
「そうだな。ニニャの肉体が英雄級になった以上、ビルドのスペックも上がってるんじゃ!?」
「肉体のスペックは、な。」
ブレインとクライムが狼狽えるがスタークは淡々という
「別にライダーシステム自体がアップグレードされた訳じゃない。そりゃニニャのハザードレベルは上がっちゃいるが、あくまでそれだけだ。」
ファイヤーヘッジホッグの攻撃でドラゴン・キンを倒せなかったのもそれが理由だ。確かにニニャの肉体のスペックは上がった。それに応じてビルドのパンチ力、キック力も確かに上昇している。
だがカイゾクハッシャーなどの武器の威力が急上昇した訳じゃない。つまり今のニニャは
「歪なんだよ。下手に小道具使うよりもパワーでぶん殴ったほうが強い……複数の能力を使い分けるというビルドの特性を活かし辛い状態なのさ。」
お姫さんのほうでアップデートが出来ればな。と見ればラナーは思わず声を上げる
「無茶を言わないでください!トランスチームガンの設計図を見せられて頭が爆発しそうになったんですよ!?」
まだ科学の領域に足を踏み入れたばかりの彼女では天才物理学者の発明品に手を加えるには力不足だ。これ以上は無理ですとクライムに初めて泣きついたのは二人とそこで見ていたスタークだけの秘密である。
「(やはりか……)」
そんなやりとりを側から眺めていたアインズは、ある種の確信を持つ。アインズが放つ高レベルの隠密モンスターは、いとも容易く王国内に潜り込んで情報を探る。
そこでニニャが
「(単体でのスペックが高いスパークリングに行き着く。だが当然、予想の範囲内だ。)」
だからこそ、アウラの主力たるモンスターがフェンなのだと、アインズはほくそ笑んだ。
歓喜の声を上げ、泡を迸らせるラビットタンクスパークリング。その一撃に、ドラゴン・キンがなすすべなく倒れる。強化されてるとはいえ元はレベル50相当。それはまぁ仕方がないだろう。だが
「それ以上はやらせない、フェン、クアドラシル、タオラン!!」
前衛に
「回避も迎撃もそんな時間は一切与えない!」
アウラの合図とともに、フェンが進軍を開始する。その位置は、先頭。今までは以下の猟犬に任せていた位置を、自らが切る。大顎を開けてこちらに喰らいつく狼の鼻先に、カウンターじみたハイキック。ファンが大きくのけぞるが……
「耐えた!?これも!?ぐっ!?」
直後、吠え声をあげて七色の背鰭を持つ超大型のティラノサウルスのようなモンスターがニニャへと襲いかかる。攻撃の直後の隙だらけの場所にもろにくらったタックルはニニャを大きく吹き飛ばし起き上がった時には……目と鼻の先にフェンが居た。
「またっ!?」
「(アウラの魔獣は、彼女のスキルにより既存のレベルから戦闘能力が10レベル近く跳ね上がる。だがそれは周りのモンスターの話だ。そもそもレベルが10離れていれば戦力にかなりの差が生じるのがユグドラシルの世界である。)」
それがタイマーの上位職たるハイ・テイマーをマスターした者が設定した一部のモンスターに専用のスキルや、特殊な強化をもたらすことができる能力だ。
アウラがその特別なモンスターに設定しているフェンやクアドラシルのレベルは78。最大限までアウラが彼らを強化すれば、その出力は
「(無論、たっちさんの様な最上位の純戦士と比べれば技術やスキルの強さでは劣る。意思のないNPCとの連携を要求されることもありテイマーはそれでもロマンジョブの域だが……圧倒的パワーのモンスターは同じ単純なパワーファイターには最適解。アウラが相手と聞いて数の対処法をニニャに教えていた様だが当てが外れたな。)」
数でも質でも上回る。それがナザリックの戦いだと、みたかとアインズはスタークに内心で勝ち誇りながら画面の中でビルドを追い込むアウラに命を下す。
「やれ、アウラ!お前の弟の仇に、お前の手で裁きを下すのだ!」
その言葉に答える様に、ついにフェンの鉤爪がビルドの体の芯を捉え、大きく吹き飛ばした。
「ぐあぁああああああ!?」
悲鳴をあげながら宙を舞うニニャ。大岩に叩きつけられ、バチバチと装甲から火花が散る。
「うっ……ぐっ……」
なんとか起きあがろうとするニニャだが、重いダメージに膝をつく。やはり、ここまでやっても、ジリ貧なのか。ならば、取れる選択肢は一つだけ。だが、それは悪魔の選択だ。ハザードトリガーを手に持ったまま、動きが固まる。
「(やっぱり、僕には……)」
あの嘆きが、無惨に破壊された街が、フラッシュバックする。覚悟を決めてもなお、これを使うには迷いが生じる。それを振り切ったのは
「使いなよ。」
「えっ……?」
アウラの、そんな言葉だった。
「使いなよ。使うまで、皆んなには手出しをさせないから。」
「なんで……?」
意味がわからない。今は戦いの最中だ。そしてハザードフォームは間違いなく今ニニャが変身できる最強の形態だ。それに変身するのをみすみす見逃すというのか。
『何を言っているアウラ!今のうちにとどめを差しなさい!』
「デミウルゴスは黙ってて!」
ナザリックから魔法でその様子を覗いていたデミウルゴスが思わず魔法で通信を入れるが、それをアウラは一括。
「マーレを殺したのはその真っ黒い姿だ。それを倒さないと、あたしはマーレに顔むけできない!仇を討ったと胸を張れない。そんな迷って心がボロボロのあんたに勝っても、あたしは前に進めない!」
それが、そんなプライドが理由だと。ナザリックの勝利のためにはあぁ確かに、それを捨てて今の弱りきったニニャを倒すのが確実なのだろう。だが、それでマーレの仇を討ったと言えるのか、墓前で胸を張れるのか。否だ。今の自分に、そんなことは到底出来ない。その言葉に、再びハザードトリガーに目を落とすニニャ。
「〜〜〜ッ!!何迷ってんのさ!?アンタには守るものがあるんだろう!?その為にその姿に変身したんじゃないのか!」
そんな様子に、アウラは吠えた。目の前のヒーローが悩んでる理由は理解する。恐れているのだ、この戦いの果てにアウラ自身が死ぬことを。こちらはもう、完全にビルドを殺すつもりでやっているというのに。
「あたしが勝てば何もかも壊されるんだぞ!?それをさせない為に戦ってるんじゃないのか!?それとも正義のヒーローなんて嘘っぱちだったのか!?」
らしくない。あぁ全くらしくない。自分はその何もかも壊す側の人間で、守護者たるビルドを殺す処刑人で、こんなことを言う立場でも言える立場でもない。それでも言わずにはいられなかった。
「最悪だ……」
ニニャもまた、その言葉にそう溢さずにはいられなかった。
「あれだけ覚悟を決めていたつもりだったのに、僕はまだ、恐れに縛られていた……」
そう言いながら、ハザードトリガーのカバーを外し、ビルドドライバーにセットする。
「皆んなを守る。そのために貴方達を止める。例え僕がどうなったとしても!」
守る。その思いに真っ直ぐに、迷わず、一直線に進むのだと、フルボトルを振ってセットする。
スーパァーベストマッチ!
ガタガタゴットンズッダンズダン、ガタガタゴットンズッダンズダンニニャにとってもアウラにとってもトラウマを想起する音を耳にしながら、出来上がっていくライドビルダーに、お互いの姿が見えなくなっていく。
『アウラ!攻撃を!何をしているのです!?』
デミウルゴスからの通信が聞こえるが、アウラは耳を貸しもしない。これは自分たちと、ニニャの、文字通り命を掛けた死闘なのだ。無粋な邪魔は要らない。どの様にして仇を討つか、今のアウラにあるのはそれだけだった。
一方のニニャも、問いかけてくる言葉に迷いはしない。大切な皆んなを守る。そよためなら理性を失う怪物になろうともその果てに死が待っていようとももう、恐れない。
音を立ててライドビルダーが閉じ、チン、という音共に黒煙を吐きながら漆黒のアーマーが現れる。
ブラックハザード!ヤベーイ!
青と赤に複眼を輝かせる漆黒の仮面ライダー。戦いの合図は、もう待ちきれないと言わんばかりに先走った、アウラの魔獣の中でも一際凶暴な七色の背鰭を持つティラノサウルス、虹の暴王の方向だった。ハザードの一撃に吹き飛ばされ、その巨体が倒れ伏すのを合図に
「うぉおおおおおお!」
「はぁああああああ!」
背負ったもの二人が激しくぶつかり合う。
「ハザード……トリガー……」
その光景に戦慄するクレマンティーヌ。アインズ達にも緊張が走る。
「それよりもどういうこと?あのアイテムは使わない方針で修行していたんじゃないの?」
「あぁ、そんなものはお遊びだ。」
「なんだと……?」
集めていた情報と違うと歯噛みするアルベドに、いけしゃあしゃあとスタークがいう。
「どういうことだ!?使わせないんじゃ無かったのか!?」
「修行の時に言っただろ。ハザードレベルを上げれば、ハザードフォームでいられる時間も伸びる。」
「だけど……!」
「そもそも、英雄級のゼロとの実力差を埋めていたスパークリングが手も足も出なかったんだ。肉体が英雄の領域に届いたところで、スパークリングでは連中に届かないのも予想がついていた。」
「じゃあお前は最初から……!!」
「集団戦のやりかたなんてのはおまけに過ぎない。この勝負は、あくまで代表戦だ。」
つまりスタークが最初から建てていた計画とは
「ハザードで
「だから今回もニニャにハザードトリガーを……クソッ!」
トランスチームガンを握り、弾けるように立ち上がるクレマンティーヌ。
「どこへ行くんだ?」
「決まってる。」
取り出したフルボトルをトランスチームガンにセット。
ナイトローグへと変身することで、スタークのライトグリーンと彼女のイエローのバイザーが向かい合う。
「戦いに混ざれば反則負けだぞ?」
「分かってる。あんたも漆黒の剣もニニャも、殺させはしないわよ。」
翼を広げたクレマンティーヌは、王宮の壁をぶち破り飛び去っていく。
「追いますか?」
「いや、やめておけ。」
その様子にアルベドが問いかけるが、アインズはそう答えた。
「ハザードは確かに脅威だ。だがあれが隠し玉だというのなら、どのみちアウラには及ばない。なにより、」
ちらりと、仲間を殺した姿に彼らが何を思うのか、スタークの挑発と取れる物言いを恐れる彼らの顔を見て
「王国側の不手際は王国側に拭ってもらうべきだろう?」
「素晴らしいお考えです、アインズ様。」
アインズの言葉に、アルベドはただ恭しく頭を下げる。だが、中継に利用される魔法から響き渡る轟音に、一同の視線は中継を映し出す魔法に注がれる。
そこで繰り広げられているのは、まさに死闘だった。一匹、また一匹と魔獣は黒い仮面ライダーを前に倒れ、ビルドもた少なく無いダメージを負っているのか、その黒一色の装甲が所々白く汚れている。
「はぁあああああああっ!」
ラビットタンクからボトルを変更し、海賊レッシャーハザードとなったニニャが、その手に持ったカイゾクハッシャーのビルドオーシャン号の部分を近接武器として振るい、フェンの強固な獣毛を切り裂き血を滴らせる。だが負けじと伸びたアウラの鞭によって出来た隙を付き、振るわれた前足で大きく吹き飛ばされる。
「はぁっ……はぁっ……急がないと……」
既にだいぶ時間が経った。アウラの魔物もかなり数を減らし、騎乗していた麒麟も倒れ伏して地面に足をついている。だが、追い詰められているのこちらだ。ダメージという意味でも、タイムリミットという意味でも。そう思った瞬間だった。ぐわんと視界が揺れたのは。
「ッ!?これ……は……!?」
まずい、そう思って頭を押さえた時にはもう遅い。ぽろりと、手に握っていたカイゾクハッシャーが落ちた。
「来た……」
その光景を見たアウラは確信する。タイムリミットだ。そして……ここからが、本当のマーレの仇との戦いだ。
ガタガタゴットンズッダンズダン、ガタガタゴットンズッダンズダン。ハザードトリガーのスイッチが押され、破壊の音色が響き渡る。させるかと伸びてきたクアドラシルの舌を
掴んだ直後、ドス黒いオーラがクアドラシルに電流を走らせる。
「クアドラシルッ!」
怯み倒れるカメレオンに向けて駆け出すビルド。それに対して相棒を傷つけさせるかとフェンが前に出て戦う。だが、ビルドの戦い方も先程よりも遥かに容赦がない。数十トン単位の威力の蹴りが、その巨体を支える足へと突き刺さる。
激痛に身を悶えさせた直後、ビルドの追撃が飛ぶかに見えたが
「タオランッ!!」
馬の嘶きと共に倒れていた麒麟のタオランが走る。ボロボロで、動くのがやっとだったが、一度倒れれば起き上がれないそんぞそこらの馬とは違うのだと、空中を蹴り、麒麟の意地を見せた速度と己の体躯を利用した体当たりに、ビルドの動きが止まる。
「フェエエエエエエンッ!」
アウラの叫びに呼応するように、主人の言葉に答えるように、フェンが動く。だがぐらりとバランスが崩れる。激痛じゃない。右足があらぬ方向へ曲がっている。先ほどの一撃で骨が折れたのだ。それでまた反対の足と後ろ足で地面を蹴り、その牙でビルドを仕留めようとする。しかし、そこまでの動きのラグは
スーパァーベストマッチ!
ビルドにボトルを変えるだけの猶予を与えてしまった。ホークガトリングハザードフォームのソレスタルウィングを広げたビルドが飛翔し、フェンの牙は虚しく空を切る。そこに追撃と言わんばかりのホークガトリンガーの掃射が突き刺さる。
飛翔し、アウラの鞭を回避しながらのホークガトリングの射撃にじわじわと苦しめられるアウラ達。だが
「好きにィ…………」
アウラの鍛え抜かれたレンジャーとしての五感は、ハザードの機械的な動きのパターンを見逃さない。
「させるかぁあああああっ!」
アウラの鞭がビルドの足に巻きつき、ガクンとその機動を押し留める。さらにクアドラシルがホークガトリンガーを握る手にその舌を巻きつけ地面に引き摺り落とそうとする。だが、ハザードも負けてはいられない。
左手でハザードトリガーのボタンを押しながら、ホークガトリンガーの弾丸をクアドラシルに叩き込む。ただでさえ一度オーバーフローを受けていたのだ。クアドラシルもダメージが限界に達して舌の力が抜ける。そこをハザードは見逃さない。
ガタガタゴットンズッダンズダン、ガタガタゴットンズッダンズダン、殺意の旋律が、この死闘の終焉を告げる
音声と共に、ビルドが足に力を込めアウラの鞭を思いっきり引く。アウラの軽い体はそれに引っ張られ宙を舞い、いつかの再現のようにビルドの元へと引っ張られている。
「狙い……通り!!」
それをアウラは理解していた。殺意に満たされたビルドであれば、鞭を体に巻き付けるという行動を取れば、同じパターンで攻撃してくると。だが今度攻撃を受けるのは……
「お前だ……仮面ライダー!!」
鞭を捨て、背中に背負っていた弓を展開。目にも止まらぬ速度で矢をつがえ、その複眼に狙いを定める。そうして放たれた矢はアウラよりも早くビルドの元へと到達し、その複眼を貫いたかにみえた。
「やっ……っ!?」
取った、そう思った瞬間、確かに今までそこにあったビルドの姿が消える。いや違う。矢が到達する瞬間にアウラの目がとらえていたのは、彼女の五感すらすり抜ける超高速で動いたビルドの
「ざんぞっ……!?」
気づいた時には、もう遅い。
「がっ!?」
背後で聞こえた音声と共に衝撃。アウラは凄まじい勢いで更なる上空へと蹴り飛ばされる。ガタガタゴットンズッダンズダン、ガタガタゴットンズッダンズダン、アウラの下でビルドがドライバーのハンドルを回せば、黒々とした煙がアウラの全身を包み込んでいく。
天高く、無造作に掲げられたホークガトリンガーの銃口が、その煙の塊を捉える。
引き金を引けば放たれたのは、たった6発の弾丸。一切の無駄の無い、殺意の凝縮された最低限の個数の弾丸が、アウラの体を撃ち抜いた。
「うわぁああああああ!?」
その爆発が、平原の空に大輪の花火を咲かせる。そうして地面に落下したアウラの指に付けられていた指輪が砕け散った。一度だけ、ありとあらゆる攻撃から装備者のHPが全損するのを守護し、HP1で耐えさせる指輪。その発動と、立ちあがろうとしながらも体に力が入らず倒れ伏すアウラ。
「そこまで!!」
「アウラ・ベラ・フィオーラノ……戦闘不能ヲ確認。」
よって勝者は仮面ライダービルド。
クレマンティーヌはトランスチームガンを
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手に取る
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手に取らない