アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話   作:月光舞詐称者姫

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すみません、毎週月曜日投稿という話でしたが、それでは長すぎるのではというご指摘を友人からいただき、時間もそれなりに取れそうですので、誠に勝手な話にはなってしまうのですが、木曜と月曜の週二投稿に予定を変更させていただきます。できる限り期限を守って頑張っていくのでこれからも応援よろしくお願いいたします。


第二十八話 解放のメッセージ

「アウラ・ベラ・フィオーラ。貴方の第六階層守護者としての任を解き、謹慎を言い渡します。」

 

 アルベドにそう告げられたアウラは、マーレの部屋のベットで蹲っていた。

 

「もうだいぶ、あたしの匂いで染まってきちゃったな。」

 

 雨上がりの若草の様な、優しく温かい匂いは、日を跨ぐごとに薄れていく。代わりに入ってくるのは自分の匂い。混ざり合って一緒に森の中をフェンの背中に乗って駆け回った時みたいで、きつかった。

 

「本当に、どうなっちゃったんだろう。」

 

 どうかしてる。それは間違いない。そうで無ければ主人(アインズ)の命令に背く願いをすることも、人間たちを庇う様なことを言うのもあり得ない。セバスが個人的に連れてきたツアレみたいに、気に入ったやつ一人を可愛がるならまだわかる。だが自分は見ず知らずの人間含めて敵国そのものに有利になる進言をした。自分の命とアインズ・ウール・ゴウンの名前まで盾にして。

 鞭打ちか、いっそ首を落とすか、そんな提案が出てもおかしくなかったのだ。

 

「考える時間だけは、あるんだけどな……」

 

 憎しみに似た感情はもう無い。それはあの戦いで燃やし尽くした、だがマーレの周りの喪失感も悲しみも消えはしない。そしてなにより、疑問が尽きない。悩んで悩んで悩み続けて、一人では何も答えが出ない。だが、こんな疑問は抱くだけでも反逆行為だ、ナザリックに相談できる相手など、ありはしない。そんな時だった彼女の手元から、カチッという音が響いたのは

 

『メッセージを再生しマス』

「え?」

 

 いつも時計から響く、甘えるような甘いぶくぶく茶釜の声じゃ無い機械音声。それが、メッセージ?思わず腕に目を向ければ

 

『えーっと、これでいいのかしら。うん、ちゃんと撮れてるわね。』

「ぶくぶく……茶釜様……?」

 

 そこから聞こえてきたのはぶくぶく茶釜の声だった。

 

『久しぶり。……あ、もしかしたらそうでも無いかもしれないわね。よくこの隠しメッセージを見つけたわね。私が声優としての初仕事に臨んだ記念日なんて、いったい誰に聞いたわけ?』

「記念……日……?」

 

 何を言っているのかわからない、時計を見れば朝とも言えないような昼にはまだ早いようなそんな時間に、分数もまばらだが……気まぐれにセットしたこの時刻が、何かの日付のようだ。そして、このメッセージはその時間にセットした時のみに鳴る隠し音声、ということになる。

 

『それともただの偶然?嫌ね、これから離れるっていうのに、いざ未来に向けて語るってなると聞きたいことばかり出てきちゃうわ。』

「ッ!!じゃあこれは……!」

 

 ぶくぶく茶釜が、自分の主人がナザリックから消える前の、いわば遺言。録音の中の彼女はあれこれ悩んでも仕方ないわね、と伝えたいメッセージに意識を向けるつもりのようだ。

 

『知っての通り、私ぶくぶく茶釜は、ユグドラシルを引退します。こうしてメッセージを残したかったのはね、言いづらいけどはっきり、でも面と向かって言っちゃったら、ここのみんなの大事なものを壊しかねないことを、しっかり言葉に残したかったからなの。』

 

 ユグドラシル。その言葉には心当たりがある。自分の身体をまだ自分で動かせなかったころ、至高の41人達がまだみんな居て、あれこれと賑やかだったのを眺めていただけで満足だった頃、よく出てきた言葉だ。思い出せる文面からして、おそらくナザリックがこの平原に現れる前、沼地に存在していた頃の地名か何かではないかと思える。

 つまりぶくぶく茶釜がナザリックを去った理由だ。いったい何があったのか。それは

 

『ギルドのみんなの前では言ってなかったんだけど実は、あのサーガ・オブシリーズ最新作、サーガ・オブ・ヴァンデッタのメインキャラの役が決まりましたー!』

「え?」

『いやぁ、細々とアニメのちょい役やソシャゲのモブキャラなんかから入って細々とやって、名前のあるキャラとか貰えて芽が出てきて……ついにビッグタイトルのメインキャラよ、嬉しいったらないわ。』

 

 そう言って語られる話は、"りある"での仕事が忙しくなるからユグドラシルに来られません、という話は、アウラにとって余りにも理解のできない話だった。

 

『いやぁもうほんと凄いわよ。台本が厚いのなんの、さすが大作ゲームのメインキャラね。今まで経験したことのないセリフ量だし、これからは仕事も少しずつ増えていって、こうして軽くインする程度の時間も取れなくなっちゃうかもしれない。』

 

 声優?なんのことを言ってるのかさっぱりだ。仕事?ナザリックとは全く違う場所で?疑問が尽きない。だが、口ぶりでわかる。ぶくぶく茶釜様にとってそれは大切で、本気で取り組んでるものなんだというのを子供ながらに感じていた。

 

『でもやっぱりリアル最優先っていうのはそうなんだけど、結局この手のゲーム作ってるのって今じゃメガコーポで、その手先になるみたいでウルベルト君とかはいい顔しなさそうじゃない?

 あの子のことだから素直に祝ってくれるだろうけどさ。うん、それでも、どう取り繕ったってここの皆んなよりも私は夢を取るってことだから』

 

 最後の言葉に、この話の全てが詰まっていた。それが全てだ。

 

『だからこのメッセージを聞いた誰か、まだユグドラシルを楽しんで、私のことを仲間だと思ってくれてる誰か、どうか薄情な女だと笑ってちょうだい。この場所は楽しかったし、ギルドのみんなと過ごせたことは本当にかけがえのない体験だったと思ってる。』

 

 アウラは理解する。分かってしまう。嗚呼、自分は……

 

『で(・)も(・)多(・)分(・)、私(・)は(・)2(・)度(・)と(・)戻(・)ら(・)な(・)い(・)。私(・)は(・)私(・)の(・)夢(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)ま(・)っ(・)す(・)ぐ(・)走(・)る(・)か(・)ら(・)。きっと、声優の仕事を干されて時間が出来ても、みんなに合わせる顔がないと思うから。ごめんなさい。そして、さようなら。』

 

 最初から。主の寵愛を受けて(一番に愛されて)などいなかったのだと。彼女には、それ以上に大切なものがあって、それに真剣に向き合うために、ここを去ったのだ。

 その事実に、彼女の口から告げられた別れの言葉に、所詮ゲームと、なるべくしてかけられた言葉に、アウラは大粒の涙を流した。

 

 

「ジィッ!!」

「シャァッ!」

 

 一方ブレインとクレマンティーヌ、否ミカンは、王国の修練場で激しく刃をぶつけ合っていた。

 

「(秘剣〉……」

「〈流水加速〉ッ!!」

 

 ぶつかり合いの最中、流れるように居合の体制をとるブレインを前に、ミカンが加速。エストックを構え放たれる剣を極限まで高めた速度で凝視する

 

「〈虎落笛〉ッ!!」

「〈不落要塞〉ッ!!」

 

 ガキィッ!とエストックと刀がぶつかり合い激しく火花を散らす。その結果は……

 

「ぐうっ!?」

 

 甲高い金属音と共にブレインの刀が大きく弾かれ隙を晒す。一方ミカンの二本のエストックも同様に弾かれるが、彼女はあえてエストックを自ら手放し、弾かれた衝撃を軽減。エストックは宙を舞うがブレインが体制を立て直すよりも彼女の動きの方が早い。彼女まっすぐ伸ばされた指での抜き手がブレインの喉元に迫り……そこで止まった。

 

「あたしの勝ちね。」

「……あぁ、完敗だ。」

 

 それを合図にお互いに構えを解き楽な体制を取った直後

 

「しゃあっ!疾風走破ナメんじゃないわよ!」

「だぁあっ!これ受け止めて来んのかよ!?」

 

 盛大にガッツポーズを決めるミカンと悔しそうに額を抑えるブレイン。

 

「アンタはね、ビビり過ぎなのよ。いや生き延びるにはそれくらいがちょうどいいのかもしれないけど。」

 

 戦いの中で掴んだアドバイスを、ミカンはブレインに対して告げる。

 

「居合の体制を戦闘中に取る。どう考えても隙だらけだし何かの仕込みだし、そりゃ狙われる。でもどうあろうとそれをひっくり返す切り札。」

 

 だがそれは、領域により相手の動きを察知し読むことにある

 

「あんた、まだ瞬間展開の領域を広げることに満足してて大雑把な感知しかしてないでしょ。」

「ぐっ…………」

「せっかくの強みが潰れてるのよ。あたしみたいにそれなりの速さで動けるやつには通じないわ。」

「…………それは、俺が一番よくわかってる。」

 

 俯いていうブレインに、ミカンはため息をつく

 

「シャルティア・ブラッドフォールンだっけ?確かに出鱈目な強さだったわね。」

 

 自分よりもパワーのある相手、タフネスのある相手なんかは幾らでも相手にしたきた。だが、速さで上回られた経験はなかなかない。まるで自分の時間が遅くなったかのような、圧倒的スピードで吹っ飛ばされた。

 

「俺なんて指の爪で刀を受け止められたからな。」

 

 あれはきつかった。自分が命をかけて練り上げたものが爪切りにもならない剣術なら、果たして自分に価値はあるのかと。だが、

 

「あの子がやって見せたんだ。俺も見せなきゃ男が廃る。」

「なるほどね、アンタも仮面ライダーに勇気付けられた1人ってわけ。」

「それだけじゃないがな。」

 

 怪物じみた強さの面々に立ち向かったのは、なにもニニャだけじゃない。

 

「だが、俺には守るものがない。」

 

 自分も耐えることのできなかったセバスの殺気に耐え抜き吠えた青年(クライム)を見た。全てを守ってみせると、王国を代表して戦った少女(ニニャ)を見た。そんな彼女が傷つく姿を見てられないと、割って入った悪党(ミカン)を見た。誰かを守りたいと言う強い思いが、爆発的な力を生む。

 

「剣に人生を捧げてきた俺には、てんで理解の及ばない領域だ。」

 

 だからこそ、そこに意味がないと突きつけられたようで、シャルティアに負けてからここに至るまで立ち直れずにいた。立ち直った今も、心のどこかであの吸血鬼を恐れている。

 愛刀の鞘を腰から外し、目の前で刃を少しだけ抜く。そこに写る美しい刃紋、それだけで鋭い切れ味が見て取れる。

 

「今の俺は、まるでコイツだ。」

 

 斬ること以外知らず、鋭い一方脆く、折れれば手直しは効かない。

 

「今も強(・)く(・)な(・)る(・)た(・)め(・)に(・)、守(・)れ(・)る(・)誰(・)か(・)を(・)探(・)し(・)て(・)る(・)。」

 

 守るべき誰かがいるから強いのであって逆はない。理屈ではわかっていても、頭の中でそんなふうに考えてしまう。

 

「剣に生きた人生、ねぇ。あたしも一昔前は似たような……いや、一緒にするのはアンタに失礼ね。」

 

 ブレインの独白に首を振って彼女はそういう。月並みなアドバイスでも何かないかと考えていた時

 

「よぅ、休憩時間か?」

「げっ」

「……その言い方はちょっと酷くないか?おじさん傷ついちゃうぞ?」

 

 やかましいわ、と内心では吐き捨てながら声をかけてきたアーマー姿の男、ブラッドスタークに向き合う。

 

「帰ってたのか。」

「ついさっきな。」

 

 最近ブラッドスタークは王都を離れ、トブの大森林などの人の手がまだ入ってない場所に散らばったであろうフルボトルを回収している。戻ってきたということは、それなりに成果があったのだろう。あとは近況のチェックか。

 

「ニニャの奴はどうしてる?」

「漆黒の剣(三馬鹿)と依頼こなしに行ってるわよ。」

「なんだ、ついていってやらなくて良いのか?」

「そしたら誰が王都を見張んのよ。」

 

 もしアインズの手先が現れれば、戦いになるのはナイトローグのあるクレマンティーヌだけだ。戦いといっても勝ち目がないことに変わりはないがないよりはマシだ。それに

 

「久々に4人で水入らずってのも悪くないでしょ。」

「確かにな。お姫さんは?」

 

 そう聞いた直後、盛大な爆発音。ミカンは煙の立つ塔の方を指差した。

 

「しばらく篭ってるわよ。」

「今回は短かったな。」

 

 あれからラナーはより一層科学に打ち込んだ。時に悲鳴をあげ、徹夜の眠気に負けないように吠えながら、ドワーフや魔導士達、薬師達と共にアイテム開発に勤しんでいる。進捗は芳しくないが

 

「あいつのペット(クライム)が付いてるしまぁ大丈夫でしょ。」

 

 メンタルの心配はしなくても良さそうだ。

 

「で、そっちの収穫は?」

「新たに手に入れたボトルは3本。だがトブの大森林をこれ以上散策するにもなぁ。姫さんの方も限界だってんなら、そろそろ本格的に準備を始めるしかないな。」

 

 帝国との和平交渉。目的はその先にあるフルボトルと、ドワーフの国との交易だ。

 

 

「うん、これでよし。」

 

 ポーション数本に包帯などの医療キット、干し肉や乾パンなどの保存食。数日分程度しかないそれを小さなカバンに詰めて、武器は創造主たる彼女から授けられた弓矢と鞭を一つずつ。手袋を外し手を見る。そこにあるのはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。この拠点であるナザリックへの転移を可能とする、ナザリックの誇りある仲間である証。ふぅと息を吐いて、それを外して机の上に置く。

 あのメッセージを聞いて、覚悟は決まった。自分は、今日この日をもってナザリックの一員ではなくなるのだ。主人の命令に背き、外へと1人で逃げ出すのだと。

 

「(ぶくぶく茶釜様は、こことは違う場所に旅立った。ならきっと、ここには戻ってこない。)」

 

 最後に羽ペンを手に取り書き置きを残そうとして、手が止まった。詳細はわからない。だがどこか遠い、2度と会えない程に離れた場所に行ったのだろうということは、察しがつく。

 

「(ぶくぶく茶釜様を探しにいく……っていうのは、なんだか違う気がする。)」

 

 本当はそう書こうと思っていたのだが、彼女は夢の為に旅立つといった。そんな彼女を見つけたところで、どうして一緒にいてくれなかったんだということはあっても、無理やり連れ戻すことなど自分には出来ない。

 でも、このメッセージを聞いてしまった以上、もう戻れない。ナザリックに忠誠を尽くすだけじゃない。ペン先をインクに浸し、文字を走らせる。多くの人が寝静まった深夜、部屋を出て、外へと向かう転移のゲートの方へと行く。そこには

 

「……シズ?」

「アウラ様」

 

 オレンジ色の長髪に、姉妹達よりも小柄な背丈。片目を眼帯のようなアクセサリーで覆ったヒューマノイド。プレアデスの1人、シズ・デルタがそこにいた。その背後にはアウラの相棒とも言える二匹の魔獣、フェンとクアドラシルもいる。

 

「どうしてここに……」

 

 まさか自分がここから出て行こうとするのがバレていた?すると彼女はフェンの顎下のもふもふとした毛を撫でながら言った

 

「この子達が、ここに連れてきてと。」

 

 そういえばいつぞやの森の賢王探しの時も、この二匹は自分についてきていたと思い出す。2人は自分を心配してきてくれたのだろう。だがシズはまずい。単純な戦闘ならばアウラが100度やって100勝つだろう。だがここで脱走がバレるのは……そう思って冷や汗を流していると、シズは驚きの言葉を放った。

 

「この子達も、連れて行ってあげてほしい……です。」

「…………えっ?」

「きっと、寂しがるから。」

「いや、いやいやいや!待って待って待って!!?!??」

 

 自分のことを止めもしないどころか、二匹の為にそう言うシズに声をあげる。

 

「どうして、あたしは……」

「アインズ様は」

 

 アウラの言葉を遮り、シズは言う

 

「私の大切なものを奪ったから。」

 

 ナザリック地下大墳墓、普段生活してる彼女達からすれば快適極まりない我が家だが、万が一外敵が攻め入ろうものなら一転して容赦のないダンジョンへと変貌する。

 

「私が博士から授けてもらった大事な記憶(データ)。」

 

 シズはオートマトン。良くも悪くも無感情で、周囲に興味を抱くことも無ければ、ナザリックの面々が持つ悪意のような感情の一切を持たない稀有なNPCだ。だがもふもふしたものが好きであることから感情も好みも立派にある。

 そんな彼女を作り上げた創造主、博士ことガーネットは、このナザリックのギミックやトラップを考案したトラップマスターでもある。そんな彼女は、愛娘たるシズに、その全てのデータを授けていた。

 だがアインズは、万が一ナザリックと敵対するものが現れた場合の安全策として、情報漏洩を危惧したアインズにそれを全く別のものにすり替えられてしまっているのだ。最後に残った至高の御方であるアインズの命令は絶対。そう命じられれば喜んで従うのは配下の義務だ。だがしかし、不満や反抗心は少なからず生まれる物でもある

 

「だから家出するなら止めない。そんな命令は受けてないから……です。」

「シズ…………」

 

 私は何も見なかった。そう言うことにしておきます。そう残してシズは去って行った。門を使うなら早いほうがいいと、最後に言って。

 そうしてアウラは転移を開始する場所も定めず、思いのまま自分の心に抱いた疑問、その解答を、探す為に。

クレマンティーヌはトランスチームガンを

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