アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話 作:月光舞詐称者姫
「それで……どこへいくの?」
一旦2人を追い出し、予備の服へと着替えてからアウラはそう問いかける。
「養殖場だ。」
「養殖場?」
『ザリュースは"旅人"やってたって言ってたろ?』
そこで養殖の方法を学んだんだってよ。というクローズドラゴンの説明が入る。
「俺たちリザードマンは、長年食糧不足に悩まされてきた。酷い時には、部族の間で殺し合ったりもした。」
彼が腰に下げる、獣の鉤爪のような形の氷の片手剣、リザードマンの有する四大至宝の一つ、
「最終的に七部族の内二つが滅び、リザードマンの数は減った。」
その悲惨な話は歴史ではない。ほんの少しの過去に起こった出来事で、彼らはその当時者だった。それ故に、語る言葉もまた重い。それ故に考えてしまう。
「(あの国にも、そんな歴史があったのかな……)」
リ・エスティーゼ・王国。どのようなことが起ころうが、そこの国民が何人死のうが構やしないと動いた、人間の国。自分は彼らのことを何も知らなかった。知って迷い、自分と大して変わらないと理解してしまった。ザリュースは、それよりも更に悲惨だ。なにせ大して変わらないどころか全く同じ種族で殺しあったのだから。
「…………どんな気分だったの?おんなじ種族で殺し合うっていうのは。」
だからこほ、問いかけずにはいられなかった。
『おい、そりゃちょっと』
「よせ、聞かれるのは当然だ。」
ザリュースも達観している雰囲気から歳を食っているように感じるがまだまだ若い、青年という呼び方が当てはまる年齢だ。自分よりも
「そうだな、何も思わなかったと言えば嘘になる。だが難しいな、あの時俺は……俺たちは必死だった。必死に生き残るための活路を求めていた。向こうも同じだろう。お互いに譲り合うだけの食料もなく飢えていて、出来るのは尊いはずの命を奪い合うか、もっと悍ましい方法に手を染めるかの二択だった。」
「そっか……それなら、仕方ないよね……」
お互いに生存を賭けて戦うしかないのなら、命を奪い合うしかない。こちらが奪わねばあちらに奪われるのだ。なら、
「確かに、あの時は俺もそう思っていた。だがすぐ気付かされたよ。それを"仕方ない"で済ませ続けてはならない、とな。」
「え?」
『確かにもうそうなっちまったモンはどうしようもねぇよ。』
ザリュースの言葉に、アウラの目元に高度を合わせながらクローズドラゴンがそう続ける。
『けどよ、そうなっちまった以上、後悔しないわけにはいかねぇんだ。"もしこうしてたら、そうはならなかったんじゃないのか"ってな。』
「……………」
その気持ちは痛いほどわかる。自分もそうだ。もしあの時、もっと上手くやれていれば、マーレは死なずに済んだんじゃないだろうか。そう思わずにはいられない。もう少しこう、上手くやれていれば今も自分はナザリックの完璧な僕としていられたのではないかと。
しかしその一方で、そんな自分に戻れるのなら戻りたいかと言われれば言葉に詰まってしまう。
「だから俺は旅人になった。飢えを凌ぐため、次に飢饉が来た時飢えなくするための方法を探すために。」
「それが、魚の養殖?」
「そうだ。とはいえ、最近ようやく始められたばかりだがな。」
見えてきたぞ、と言われ前に顔を向ければ、湖が見えてきた。その脇に佇む一匹のリザードマンもだ。身の丈に近い長い剣を装備しており、最初は護衛かと思ったが
「こんなところに、族長自ら足を運ぶ者じゃないだろう。」
「おぉ、ザリュースか。」
「……兄者、もしかしてつまみ食いか?」
振り返ったそのリザードマン。族長、そして兄者。その物言いから察せられる立場。そして
「…………いや、俺はちょっと魚の飼育の具合を見に来ただけだ。人聞きの悪いことを言うな。」
「そうか。ならならそろそろ収穫予定の魚は他の奴に回すとしよう。」
「むぅ…………」
言い訳の最中ピクピクと動き、ザリュースの言葉を聞けば残念そうにへちょ……と萎れる。そんなわかりやすい尻尾の動きに
「(つまみ食いしようとしてたんだ……)」
どことなく、お茶目な上とそれを諌める下という兄弟関係が感じられた。まるで自分とマーレの様で……そこまで考えて、思わず目を逸らす
「それで、そこのエルフのメスはどうした?まさかお前、変なペットと養殖の方法だけじゃなくて、番いの相手まで外から……」
「変なことを言わないでくれ。怪我をして彷徨っていたから手当てをしただけだ。」
『そもそも俺はペットじゃねぇ!』
ザリュースの兄の物言いにザリュースはそう言い、
「えっと……その、アウラ・ベラ・フィオーラです。今はその……旅をしている身……ですかね?」
視線がこちらに向き、気まずさから少し言葉につまり、身分についてどう名乗るべきかと悩みながらそう名乗れば、彼はそうか、なら
「
「兄者!客人だぞ!」
セクハラ一歩手前の発言をするシャースリューに、ザリュースはそう言って諌める。
「それにいつも言ってるだろう?俺に結婚は出来ないと。」
「フンッ、いつまでもくだらんことを言うな。その胸の旅人の紋様がそうさせるのか?」
「どこまで行っても、俺は一度部族を離れた身だ。知識が尊重されようと、一生部外者であることに変わりはない。」
「……どういうこと?ザリュースは部族のために養殖の方法を学びに行ったんじゃないの?」
先ほどから空気が変わり、重くなった二人の物言いに疑問を感じたアウラがそう問いかける。
「なんだ、流石に種族以外の者に話すのは抵抗があったのか。」
「単純に話すタイミングが無かっただけだ。」
俺はこれを恥とは思わない。そう言いながらアウラに向き直ったザリュースは、胸元の紋様をなぞりながら言う。
「旅人というのは疎まれる者なんだ。自分から好き好んで部族を離れる奴なんていない。この紋様をつけてるやつは大抵、掟を破り部族から追放されたならず者だからな。」
「で、でもザリュースは違うじゃん!」
短い付き合いだ。さっさと切り捨てて離れるつもりですらあった。だがそれでも分かる。ザリュースは善人で、仲間のことを本気で大切にしている。部族を離れたのだって仲間の食い扶持を掴み取る為だ。目の前に広げられた養殖場は、網で仕切られた中に、水面に映る影を見るだけでも分かる大物の魚が多く居る。これを築き上げたのは間違いなくザリュースの功績だ。
だが思えば、ザリュースは部族に身を置いてると言いながら、ザリュースの家の周りに居住地は無かった。よそ者として、部族の一員では無いという証に見えるその光景は、冷遇は、どう考えても食糧事情解決の功労者に対しての仕打ちでは無い。
「ザリュースは頑張ったんでしょ?だったら頑張りに相応しい報酬があるべきじゃない!」
「部族の一員でもないのに、部族の縄張りに身を置かせてもらっている。同族が、こんなよそ者の知識を尊重し、耳を傾けてくれる。その為に兄者も周りの連中に声をかけてくれたりした。それだけで俺は十分だ。」
アウラは思わず推し黙った。そう言って笑うザリュースの姿は、、
「なんでさ!?怒ればいい、不満を言っていい!ザリュースはもっと……」
「俺がそう主張すれば、兄者は力添えをしてくれるだろうな。」
だがそうならば諍いが生まれると、ザリュースは言う。
「一度特例を作って仕舞えば、掟の価値は少なからず軽くなる。それだけならいいが、掟を重んじる長老達に従う者と、俺の為に声を上げる族長に従う者で、最悪里が二つに割れるだろう。」
そうなればまたしても争いが起こり、血が流れてしまう。
「何より、俺たちよりも長い間里を見守り支えてきた長老達の知恵や意見も、俺のそれと同じで蔑ろにされる者じゃない。それを踏み躙り、俺一人がいい暮らしをする為に里の秩序を荒らす価値はないさ。」
俺は里のために頑張ったと、そう言ってくれるだけで十分だ。ありがとう。そう言って、あろうことか自分に礼を言ってきた姿に、自分がどうなったとしても皆んなを守ると自分と死闘を繰り広げた
「すまない、辛気臭い空気になってしまったな。兄者、この少女は凄腕のテイマーな様でな、あれほど雄々しい魔獣は見たことがない。ここに来たのは、その魔獣達に俺の成果を見せたかったからだ。」
兄者にも一尾取ってくる。と養殖場に足を踏み入れていくザリュースの姿を、アウラはなんとも言えない表情で見ていた。
『スゲェだろ?あぁいう奴なんだよ。」
「人はあぁいうのを英雄と言うんだろうな。」
アウラのやるせない気持ちを感じ取ってかそう言うシャースリューとクローズドラゴン。特にシャースリューの物言いは気に入らなさそうだ。不満に思っている、と感情が揺れる尻尾に出ている。だが本人があぁ言っている以上、彼もとやかく言えないのだろう。
『アイツは自分を大切にするって感覚があんまねぇんだ。自分一人割りを食って最悪命を落としても、それで他の奴らが助かるんならそれでいいって思えちまう。』
「……アンタを使ってたやつも、そうだったの?」
思わず飛んだそんな質問に、いや……とクローズドラゴンは首を振った。
『むしろ、戦い始めたのは自分のためだったよ。自分と、その身の回りを守る奴のために戦うので精一杯で、助けを求めてる声を聞こうとしないまま、そいつを見捨てたこともあった。』
「その人は……どうなったの?」
『死んだ……そう聞いた。攫われて、実験台にされて苦しみながら死んで行ったってな。』
それは彼の罪で、後悔だった。
「そっか、アンタも…………」
守れなかったことがあるんだ。自分があの時、弟を目の前で失ったのとは、色々と違うのだろうけど。
『でもな、ある男が教えてくれたんだ。名前も知らない誰かの為に戦うことがどう言うことなのか。』
「ある……男?」
『バカで自意識過剰な
どこか遠くを見つめながら懐かしむその物言いは、不思議と侮蔑に感じなかった。
「ねぇクローズドラゴン、あたしさ…………」
胸の内を渦巻く悩みを解決するためか、そう悩みを打ち明けようとして
「え…………?」
先ほどまでの快晴から一旦、蠢く暗雲がこの周囲を覆おうとしている空を見た。
「兄者!」
「分かってる!急ぐぞ!」
駆けつけたザリュースと共に走り出すシャースリュー。
「まさか……」
『何やってんだ!?行くぞ!!』
「う、うん!!」
急激に立ちこめていく暗雲。これは間違いなく
「子供たちを隠せ!戦士階級以外の者は家の中に避難せよ!長老達に手を貸すのを忘れるな!!」
騒ぎになる周囲に、そう声を張り上げ指示を出すシャースリュー。その側でザリュースが腰元の
「『ザリュース!』』
「アウラ、それにクローズドラゴン!?お前達まで来たのか?」
『来ないわけにはいかねぇだろ!』
「それに…………」
弓を片手に周囲を見回すアウラの表情は硬い。
「それに?……いや待て、上だ!!」
喉から出かかった言葉を出せずにいるアウラに問いかけようとして、空中の気配に全員の目が向いた。
負のオーラが集まり顕現するのは、無数の亡者の顔の集合体のようなモンスター
「あれは……」
旅の最中、遭遇経験のあるザリュースがいち早く気づいた。精神をかき乱す絶叫を放ち、魔法の付与された武器以外の攻撃をほとんど無効化してしまう。
出会ったばかりのクローズドラゴンが渡してくれたアイテムのおかげで勝利することができた強敵だ。
『聞ケ!我ハ偉大ナル御方二仕エシ者!』
『先触レトシテ来タ!』
「先触れ……?」
「あ……あぁっ……!!」
訝しむザリュースに対して、アウラはその言葉に思わず弓を取り落とし、言葉にならない声で嘆く。偉大なる御方、先触れ、間違いない。これはこの集落は……
『汝ラニ死ヲ宣告スル!』
『偉大ナル御方ハ汝ラヲ滅ボス為ニ軍ヲ動カサレタ!』
『御方ハ汝ラニ必死ノ、無駄ナ抵抗ヲスルダケノ時間ヲオ与エニナラレタ!』
『来ル八日後、汝ラヲコノ湖ノりざーどまん部族ノ内二番目ニ、滅ボストシヨウ!』
『必死ノ抵抗ヲセヨ!偉大ナル御方ガ、嘲笑ヲ持ッテ偉大ナル御方ガオ喜ビニナル!』
ゆめ忘れるな、八日後を。そう言って上空に消えていく
「八日後、二番目……」
「集会を開く。人を集めるぞ。ザリュースお前も席に加われ。」
言葉の真意を噛み砕こうとするザリュースに、シャースリューが声をかける。
『おい、大丈夫かよ!?しっかりしろ!?』
発生した余りの異常事態に、二人はここに居た小さな客人達の存在が抜け落ちていた。そんな悲痛な声に気がつき目を向ければ、心配して飛び回るクローズドラゴンの下で、服が泥まみれになることを気にする余裕すらなく膝をつき、頭を抑えるアウラの姿があった。
「あたしのせいだ……」
『どういう事だよ!?お前あのバケモンと関係あんのか!?』
震えるアウラは、耳元で叫ぶクローズドラゴンの言葉すら聞こえていない。両手で頭を押さえ、怯え切った目で言葉をこぼす
「逃げて……」
まだ見てからさほどの時も経っていない悪魔がフラッシュバックする。シャルティアが、アルベドが、デミウルゴスが、マーレの亡骸すら、己を失望と怒りの混じった目で見てくるあの光景が。
「逃げて!みんな、みんな殺されちゃう!?あの方に、」
「アインズ様に!!」
その叫びに、ザリュースとシャースリューは顔を見合わせるのだった。
「つまり、その少女の話を纏めるとあの奇怪なモンスターが言っていた偉大なる御方というのは、彼女が仕えていたアンデッド、アインズ・ウール・ゴウンという存在のことで……」
「彼女は、そのアインズという存在の態勢に納得いかずら拠点から脱走して来たと……」
集落の中心地にある集会所。そこに集まったリザードマン達は、族長から告げられた報告に悩む
「つまり、ザリュースが彼女を拾い上げたから、我らはそのアインズという奴の怒りを買ったということか?」
訝しむように言う狩猟頭、だがそれに対して戦士頭は首を横に振る。
「どちらかというとリザードマン全体を攻撃しようというような口振りだった。あのダークエルフの少女について触れてもいない以上、その線は考えづらい。」
「偶然、主人が攻め入る予定の集落に流れ着いたと?少々出来過ぎではないか?我らに取り入り、内側から食い破る為の間者という可能性も……」
「いや、それは無いじゃろう。」
よそ者であるアウラに疑念の目を向ける長老の一人の意見を、それよりも年配である祭司頭が否定した。
「あの天候を変えた魔法は恐らく第四位階魔法。この祭司頭の儂とて第二位階の魔法が限界。それを先触れの為だけに扱うような相手。そのような回りくどい方法を使うとは思いづらい。」
だが、疑念が生まれた以上もう少し否定する為の材料が欲しい。集会所の隅で話を聞いているザリュースに、シャースリューは目を向ける。
「あの子を拾って来たのはお前だ、ザリュース。お前の意見を聞きたい。」
「……俺が見た限り、あの子の力は強大だ。あの子は愚か、俺が見た使役している魔獣の一匹ですら、この集落を滅ぼせるだろう。」
「かの
ザリュースが意見を言うこと自体もそうだが、その絶望的な戦力の分析にざわめきが起こるが、戦士階級の者としてザリュースの強さを正しく把握している戦士頭は、いち早くその判断を飲み込んだ。
「だから、祭司頭の言う通り彼女が間者という可能性はないだろう。そんな事をしなくても、彼女が直接殴り込めば俺たちは滅びる。」
「そんな敵では、相手にするのも難しいか……」
悲観的だが、事実だ。つまり逃げるしかない。しかし自分たちの生活に適した沼地を捨てることになれば、
「食糧危機は、避けられんだろうな……」
「そもそも、それだけ強大な敵から逃げ切れるのか?」
「無理だ。八日間となれば戦の備えは出来ても、里を捨て放浪するなど……」
長老達は口々に逃げた場合の問題点を指摘する。
「逃走の先に道はない……か……」
かと言ってこのままでは勝算などありはしない。どうしたものか。会議場が重苦しい雰囲気に包まれる中、
「勝算を上げる方法が、二つある。」
シャースリューに促され、またザリュースが口を開いた。
「一つ目は?」
「俺が旅の最中に集めたマジックアイテムだ。あれを使う。」
「……いいのか?あれは危険な力だと言っていただろう。」
シャースリューの言葉に、ザリュースは首を横に振った。
「確かに普段使いするには過ぎた力だ。だからこそこう言う時に使い道が生まれてくる。」
「確かにな。で、二つ目の策ってのはなんだ?」
「相手の物言いからして、こちらの戦力を相手は理解しているから『蹂躙できる』と油断しているんだろう。そこを突く。」
つまるところ、部族間同盟だと提案した。
「かつてこの地には7つの部族がいた。」
ザリュース達"
全部族一の狩上手、"
硬い鱗による防御が自慢の"
どの部族よりも強く好戦的な"
穏健派で小柄な体による機動戦を得意とする"
手先が器用で剣の扱いに秀でた"
祭事の神童を年々輩出して来た"
だが、不作が続き遂には食うか食われるかの争いに発展し、ザリュース達は生き残った。"
「かつての戦いで同盟を結んだ"
「彼らならば再び同盟を結んでくれることじゃろう。」
「ならば早速使者を……」
「待ってくれ、間違えないでほしい。」
三部族同盟の復活だと声を上げるリザードマン達を、ザリュースが止める。
「それだけでは足りない。"
「無茶だ!」
声を上げたのは戦士頭だ。かつての戦いで最前線を張った者の一人でもあり、だからこそ部族間の軋轢を誰よりも理解してる人物であった
「"
特に族長に代々受け継がれて来た
「"
「だが、五部族全てが団結すれば……」
道を切り開くことも夢じゃ無い。使者は計画の発案者かつ族長の弟でもあり、旅人という身分が使者に赴くことで相手の部族の反応を伺うこともできるザリュースが選ばれることになり、緑爪は五部族一丸となって種族の危機に立ち向かう準備を進めるのだった。
会議の後、魚を担いで自分の棲家へと戻って来たザリュース。
『アウラなら寝たぜ。泣き疲れちまったみてぇだ。』
簡素なあばら屋の縁側では、クローズドラゴンが待っていた。
「お前とも、だいぶ長い付き合いになるな」
ロロロ!と棲家の隣に住むザリュースの相棒、四つ首のヒュドラであるロロロの頭に一人一尾、魚を投げつつ、ザリュースはそう言う。
『よせよ。ここ暫くは網の様子を見る程度のことしかしてなかっただろ?』
「お前は食べ物を食わんからな。誰かに任せると、大抵そいつがつまみ食いするんだ。」
『お前の兄貴みたいに?』
「この野郎」
フッと笑ってデコピンでクローズドラゴンを小突く。このお喋りなドラゴンとの最初の出会いは、人間の元で養殖を学ぶ為、トブの大森林を抜け向かっていた時だ。何かで作られた玩具の竜が飛び回り、アンデッドに追い回されていた。そこを助けて以来、時に金目のものと勘違いされて売り払われそうになったり、子供達に玩具扱いされて断れず無邪気に遊ばれたり、アイテムの匂いがすると先走って酷い目にあったりとするクローズドラゴンを助け、旅の窮地ではクローズドラゴンに助けられる。そんな関係が続いた。
「だが場合によっては、この場でお別れになるかもしれん。」
『逃す奴は決まったのか。』
「あぁ……って、お前なんでそのこと……」
無論、自分たちは戦いのために残る。だが戦士や狩猟に長けたものを中心とした小規模な人数を逃し、全滅を避けるということも計画されたのだ。
それを言い当てて来たクローズドラゴンに驚くが、このくらいは簡単だよとクローズドラゴンは返す。
「総数は三百余り、と言ったところか。」
『少なくなるな。』
「元はと言えば、俺たちが増えすぎたのかもしれん。」
狩猟や採集。かつてと変わらないつもりでも人口が増えれば必要な量は増えてくる。ここまでリザードマンの村が発展していなければ、あの悲惨な飢饉も、もう少しマシな結果になっていたのかもしれない。いや、あるいは最初から……
『だーっ!お前は難しく考えすぎなんだよ!』
「痛っ!?お前何を……!?」
『さっきの仕返しに決まってんだろ!!』
そうやって悩む姿に痺れを切らしたクローズドラゴンがこのやろっ!このやろっ!とザリュースの体に突進を繰り返す。オモチャみたいな見た目の癖して結構硬く、それなりに質量もあるのだ。
『いっつも種族全体の為とか言って自分の身体を犠牲にしようとしやがって、恋人の一人でも作ったらどうなんだよ!?』
「なっ、お前までそんな兄者みたいな事を……」
『そんだけ危なっかしいんだよお前は!!』
ゲシゲシ、ゲシゲシと多角的に突撃を繰り返すクローズドラゴン。そんな二人のやり取りは、出発となる夜明けまで続くこととなった。