アインズ様が「エボルトォオオオオ!」と叫ぶ話 作:月光舞詐称者姫
リアルの事情とか色々あって、8時に投稿するのが無理でした!
ギリギリで描き上がったので1時間遅れで投稿させていただきます。今後はこう言う事がないように頑張ります。これからもこの作品をよろしくお願いします。
「同族を……食った、だと……?」
「はい、厳しい掟を破った家族を追放した時、決まって族長は食糧だと、真っ赤な肉を持ってきたのです。」
その肉が一体何の肉だったか、誰もが薄々察しは付いていた。
「それでも、飢えには勝てませんでした。勝てなかったんです。私たちは、その肉に……」
「も、もういい分かったよ!大丈夫だから!」
その悲惨な話にアウラがそう声を上げる。
「まさか、族長代理というのは……」
「はい、私達は
他の部族と戦争するよりも悲惨だ。何せ相手は、この間まで一緒に笑い合っていた部族の同胞なのだから。
「数が多かった、私達が勝てた理由は、それが大半です。」
それだけ、不満に思うものが多かった。それだけ溜まった不満が一気に爆発したのだ。族長の死は、必然だったのかもしれない。
「あの方は、決して最後まで屈することはありませんでした。無数の傷を受けながら私に笑いかけたのです」
「笑いかけた?」
「…………掟に殉じたか」
アウラは疑問に思い、ザリュースは察する。
「掟に……どういうこと?」
「俺たちの部族では、それぞれの代表が話し合い、意見とともに自分たちの考えを通すか否かを決める。そういう形で回っていたのは、さっき話したな」
どういうことかわからないアウラに、ザリュースはそう言う。
「だが内乱が起きてしまった以上そうはいかない。そこに待つのは掟か革新か、どちらの考えが滅ぼされる結末だ」
どちらの陣営も血を流し、多くのものが死んでいく。
「そうなった以上、その思想の代表となった者が、『自分が間違っていたから許してくれ』と頭を下げる事は許されない」
それはそうだ。そんなことをすればその代表と敵対していた者も、その代表の味方だった者もふざけるなと怒るだろう。
「何よりも、己の為に死んでいった者達に申し訳がつかない」
「だから……死ななきゃならないの?」
「……そうだ。そうして初めて革命が成る」
族長の選択は、仲間を生き残らせる為のものだったのだろう。もしかしたら自分が内乱で倒れるところまで含めて。
「族長の陣営も私の陣営も数を減らし、最終的には食糧事情の改善に至りました。だから今でも思うのです。本当に正しかったのは現実を見据えて行動していた族長なのではないか、私たちは、間違っていたのではないかと。」
目尻に涙を溜めながら言うその言葉に、今度はアウラが俯く。自分も同じだ。アインズが間違っていないと断言できない。むしろ下等生物を殺したくないなんていうのは、ナザリックからしてみればアウラの我儘に過ぎない。
何が正しいのか分からない。そう嘆く二人にザリュースは言う
「正しい答えなんてものは、きっとこの世にはない。」
ザリュースはアインズの絶対的な支配体制を聞き、それは間違ってると口にした。だがアインズの元で幸せに暮らすものがいれば笑うだろう。俺たちはこんなにも平和に暮らせているのに、どこが間違っているんだと。
リザードマンの村の体制を見れば、アウラのように義憤を抱くものも少なくないだろう。部族に貢献したものが割を食う社会のどこが正しいんだと。
「俺たちは全知でなければ全能でもない。」
食糧難と争いの歴史も、知恵者や歴史家、高い文明を持つものが見れば、解決策が浮かぶのかもしれない。だが起こってしまったことは変えられない。どうあがいても、何を言おうとどうにもならない。
「だからただ歩くんだ、後悔や苦悩で足の裏を傷だらけにしながら。」
未来へ向かって、多くの物を抱えながら。そこに正解も間違いもない。
『アウラ、お前も誰かを守りたいって思ったんだろ。それが例えお前の周りの奴には殺しても何とも思わねぇゴミに見えたって、他でもないお前がそう思ったんなら、それは絶対に間違いなんかじゃねぇ。』
「クローズドラゴン、あんた……」
慰めようとしてるのか。そんな問いに答えるようにクローズドラゴンは飛ぶ
『それにあの時あぁしてりゃ良かったって後悔するみてぇに、『あの時助けられて良かった』って、そう思う日が絶対来る筈だからよ。』
「来るかな?」
弟の仇を、主君にとって見下すだけの下等種族を、それでも助けて良かったと、そう思う日が。
『あぁ、きっと来る。』
「……そっか。」
そう言って笑うアウラ。一方ザリュースは、思わず泣き出してしまったクルシュを慰めていた。
「ごめんなさい、無様な姿を……」
「無様などと思うものか。道を苦悩し、傷つき、それでも進む雌の姿を笑うほど、俺が愚かな雄に見えるのか?」
クルシュの肩に手を乗せ、真面目な表情で言ってのける。
「誇れ、お前は美しい。」
「ーーーーーッ!!」
その言葉に湯気でも出るのではないかと言うほど真っ赤になるクルシュの顔。どうあがいても鱗がなく肌が白い彼女は、他の蜥蜴人とは異なる。流石アルビノの者だと褒め、好意を寄せる者達とも、若干の隔たりを感じていた。
だがザリュースは、目の前の蜥蜴人は、自分を一人の同胞として、なんの垣根も抱かずにまっすぐ見据えてくる。あぁ、
「やばいなぁ……。」
思わずそう呟いてしまった。
「うんうん、やばいよね。聞いた?」
『あぁ聞いた聞いた。『お前は美しい(キリッ)』だってよ。』
それを眺める外野が居る事に気づかず。
「あたし達が居るの忘れてまで口説き出すのどうかと思う。」
『全力投球すぎるんだよなぁ。もっとこう段階を踏んでから……』
じとっとした視線で二人のことを眺めるアウラとクローズドラゴン。
「そ、そういうところに惚れたからいいの!」
「だ、だいたいお前らには分からないだろうがな!惚れたメスの1匹でも出来ればオスはだいたいこうなって……」
その視線に耐えきれず散々嫌がっていった兄シャースリューのようなことを言い出すザリュース
『いや、俺にも彼女が居たけど流石にガキの前で口説いたりはしてねぇよ』
「「「えっ」」」
クローズドラゴンのその言葉に3人が固まった
「「「えーーーーーーーっ!?」」」
直後響く、本日何度目かの大絶叫
「か、かかかか彼女ってつまり……」
「番を持っていたのか!?いや持てたのか!?」
「その身体で!?いったいどうやって!?」
『お前ら俺をなんだと思ってんだよ……』
マスコット、オモチャ、昔の魔導士が開発した魔法で動く遺物とかかと……なんて帰ってくる返答におい!と抗議しながら、クローズドラゴンは別に普通だろ、と言いたげな顔で言う。
『しっかり居たよ。ガキは生まれなかったけどな。』
「(え?その物言い的にもしかして
アウラとクルシュの手前直接聞くことは出来ない。いや二人きりの時も正直聞けないがザリュースはそんなことを考えてしまう。相手がクルシュだったからいいものの、一目惚れという現象を前にして冷静で居られず普通の雌相手なら引っ叩かれてもおかしく無いような態度をとってしまったのでは無いか……そんな反省が頭をめぐる。
『お前もまだまだ若いな。』
「ぐぉおおおおおおお!?」
自分の脳内に現れたイマジナリー兄者も、このマスコット以下の童貞蜥蜴人めと鼻で笑ってきて、ザリュースは悶絶した。
「どしたのザリュース。」
『気にすんな、黒歴史って奴に苦しんでんだろうさ。』
「ぐはっ!?」
俺もあったなーという感じです頷くクローズドラゴンの姿になんとも言えない敗北感に苛まれながら、この締まらない四人の会談は終わった。
「ねむい……」
『夜更かしは……するもんじゃねぇな……』
翌日、クローズドラゴンとアウラはぐったりしていた。夜遅くまで朱の瞳の民たちを説得する会議にザリュース達と参加していた為だ。
「ロロロの背に乗るか?ひんやりしていて目が覚めるぞ。」
「ありがとザリュース。でも大丈夫、フェンが嫉妬するし。」
ザリュースの提案を聞いて露骨に不満そうに威嚇するフェン。あの美味い魚を頭が4つあるから一食4匹食えるというのも嫉妬ポイントらしい。そんな彼を諌めながら、このモフモフの毛皮で移動中は寝ようと考えるのだった。
「お疲れ様、ザリュース。」
「クルシュか。」
声をかけられ振り返った二人。だがその格好に驚く。
「その格好は…………」
「日除けよ。出歩くには太陽の光が眩しすぎるの。」
「随分斬新だね……」
全身を植物で覆い隠したクルシュの姿だった。日光はアルビノの肉体を焼いてしまう。確かに日除けは必要だ。だが上半身がすっぽりと覆い隠され、中から特徴的な赤い瞳だけが輝いて見えるその姿はどう見ても植物族モンスター。
飾りだろうか、頭のところにあしらわれた花やぴょこりと生えたアホ毛のような若葉、この葉っぱの衣の穴から顔を覗かせる足先も可愛らしい。
「(布のちゃんとした奴、どこかで見つけよう。)」
そんなことを考えるアウラを尻目に、クルシュはてくてくと歩いて行く。
「次は"
「いいのか?族長が村を離れて。」
「昨日ザリュース達が意見をまとめ上げてくれたもの。」
後は私が指示しなくても、格役職の頭達がやってくれる。もう明後日には部族全体が用意を終えられる予定だと言えばザリュースも安心する。
「なら、力を貸してもらいたい、クルシュ。」
「了解したわザリュース。任せてちょうだい。」
こうしてクルシュとザリュースはロロロの背に乗り、フェンがロロロの後をついて行く形となった。
「やっぱりフェンの背中はぁ……あったかくていいなぁ。」
『マジで?すげぇなそいつ。」
すやぁ、とビルドの並の攻撃なら弾いてみせる強靭さと、そこらの高級品の寝床を凌駕するふわふわを両立したレベル70代モンスターの背中を堪能するアウラ。その様子を羨ましがるクローズドラゴン。
「気は抜くなよ。次に行くのはあの"竜牙"族だからな。」
「全部族の中で最大の武力を持っているのよね。」
「あぁ。そして先の戦いで倒れた二部族の生き残りが流れ着いた先でもある。」
様々な意味で、団結の障害となりうる一団だ。
「戦での強さこそを誉とする、最も好戦的な部族だ。戦力差がどれだけであろうと、彼らが逃げる選択をしてるとは思えないが……」
団結すべき戦場で、いうことを聞かない猪武者というのは強大な敵よりも恐ろしい混乱のもとだ。
「そんな相手への使者が旅人、それもかつては"
喧嘩を売ってるととられかねない。最悪、その場で争いが始まることも。
「全ては"竜牙"にかかっている。傲慢な言い方になるがな。」
こちらから過去の遺恨を捨てろいうことも、こちらの言うことを聞けと命じることもできない。出来るのはありのままの考えを話し、受け入れてもらうことだけだ。
『勝算はあんのか?』
「風の噂で聞いた、"竜牙"の掟が、功を奏するかもしれない。」
「掟が?」
むにゃむにゃとしながらも、話に耳を傾けていたアウラが、気になる文言を見つけて質問を投げかけてくる。
「言っただろう?掟が役に立つ時もある……もっとも、お前には今まで掟の辛い部分を見せすぎたから説得力はないかもしれないがな。」
ザリュースら掟のせいで冷遇されていた。掟のせいで無駄なやり取りがある。かつて"朱の瞳"の族長が
「まぁ、結果は見てのお楽しみだ。"竜牙"の村まではかなりの距離があるからな。今は体を休めたほうがいい。」
「はぁい。」
くぁあ、と欠伸したアウラは再びフェンの背中を堪能することに戻る。そんな姿を見て微笑むザリュースとクルシュ。そうして旅の一時は流れていった。
「なんというかまぁ予想通りというか……」
「歓迎されているな。」
"竜牙"族の集落を訪れたザリュース達を出迎えたのは、数十人はいようという戦士の一団だった。骨を加工した棍棒を持つ大柄な者は、おそらく生来の"竜牙"族、鋭く尖る剣を持つすらりと長い腕を持ち、視線が"凍牙の苦痛"に向いてる者は"鋭剣"の生き残りだろう。小柄な体に小ぶりな武器、"
多種多様な戦士達は、暴言を吐くことも武器を振るう事もないが、真剣にこちらを見据えていた。
「俺は"緑爪"族の使者ザリュース・シャシャ!先日のアンデッドの件で来た!」
「同じく"朱の瞳"族長代理、クルシュ・ルールーです。ザリュースに同行してきました!」
「同行者のアウラ・ベラ・フィオーラ!こっちはクローズドラゴン!」
周囲が威圧する中で高らかに名乗る。
「よく来たじゃねぇか!」
そうすれば、そんな返答と共に戦士達の間から、
「随分と珍しいな!かの名高い"凍牙の苦痛"の使い手に、魔獣を連れたエルフ。でそっちは……」
胸にザリュースと同じ旅人の紋章を持つそのリザードマンは、ザリュース、その次にアウラと目をやってからクルシュに目をやる。
「もしかして植物系モンスターか?」
「違いますリザードマンです!」
目の前のリザードマンの第一印象から来る質問に植物のフードを少し持ち上げて顔を見せる。
「冗談だ本気にするな。俺は"
「え?旅人が?」
胸の紋様を見て思わず声を上げたのがアウラだった。今までのことから旅人というのは疎まれる存在だと思っていた。だがそんな言葉を聞いてゼンベルはガッハッハ!と大きく声を出して笑う
「おい聞いたかお前ら、外から来たエルフのちびっ子にも、旅人の族長は珍しいんだとよ!」
そう言って手に持つ斧槍を片手で奮って見せる。骨を加工した武器がメインのリザードマンには珍しい、鋼で作られた鋳造された武器。
「武者修行で部族を離れててな。コイツもその時の土産よ。俺たち"竜牙"が信じるのは力のみ!ザリュースっつったな!?」
片手に斧槍を持ち、もう片方の指が一本欠けた手を前に構えてチョイチョイと指で挑発する
「剣を取りな。お前が勝ったら、話を聞いてやる。」
「……ザリュース、あたしが行こうか?」
その態度に、アウラがそう質問を投げかける。自分ならば余裕だ。そしてナザリックの脅威を伝えるいいデモンストレーションにもなる。だがザリュースは首を横にふる。
「いや、これはリザードマンで解決する問題だ。」
腰元の"凍牙の苦痛"に手をやりながらザリュースが前に出る。その姿にゼンベルは笑みを浮かべて
「いいかお前ら!もしこの戦いで俺が死んだら、コイツがお前達の族長だ!」
「なっ!?」
アウラはその無茶苦茶な宣言にぶったまげる。
「正気!?他の部族の人だよ!?」
「言っただろ!俺たちが信じるのは強者のみ!この部族最強の奴が族長!なら部族最強の俺を殺した奴にコイツらが跪かねぇ道理はねぇ!
お前らもそれでいいな!?異論や反論、うざってぇことは一切認めねぇ!それでも文句があるってんならそいつに挑みやがれ!いいな!?」
その言葉に"鋭剣"や"黄の斑"出身と思わしき者達がざわめくが、従来の"竜牙"であろう者達は同調するように雄叫びを上げる。そうすれば次第に狼狽えていた者達もそれを受け入れ雄叫びを上げる。その光景に訳が分からず混乱するアウラだが、とりあえず今は目の前の戦いだとゼンベルとザリュースに目を向ける。
「俺からも一ついいか?もしこの戦いで俺が死んだ場合は……」
「待って待って!本当に殺し合うの!?」
とんでもないことを言い出して黙っているつもりだったのに思わず声が出てしまう。
「少なくとも、向こうはそのつもりでくるだろうな。」
その言葉にゼンベルが頷く
「応さ。俺は殺さず手加減しながらやり合えるほど甘くねぇぞ。」
「だろうな。覚悟は決めなければならない。最悪も、想定して動かなければならない。」
「だからって……」
『まぁ見てろよアウラ。』
納得が行かなそうなアウラをクローズドラゴンが宥める。
『掟が役に立つ時が来たみたいだぜ。』
「え?いや、今また掟が原因で面倒なこと『いいから』に……」
アウラの抗議を口元近くを飛んで抑える
『見てな、そうすりゃ分かる。』
自身ありげな様子にそれなら……と一旦は抑えるアウラ。そんなアウラを尻目にゼンベルが動く。
「ラァッ!」
気迫と共に振り抜かれる斧槍。人間が両腕で扱うであろうそれを片手で軽々振り回す怪力は、体躯の大きい"竜牙"族の中で最強の座に君臨するだけのことはある。指が一本欠けているのもあるが、それを加味しても左腕より二回り近く大きな右腕は筋肉の塊だ。
「話を遮って悪かったな。」
「なぁに気にすんな。ガキンチョには分かんねぇ世界だ。」
その言葉を聞いたアウラはむっとするが、そんな様子を気にする事もないゼンベルは言う
「心配しなくても、お前が死んだらお前のメスとガキンチョは安全に返す。」
「フッ、まだ俺の……ではないがな!」
ゼンベルにザリュースの女と言われ、それを満更でもなさそうにそう返すザリュースに顔を真っ赤にするクルシュ。
「へっ、むちゃくちゃ狙ってんじゃねぇかよっ!」
振り抜いた斧槍を飛び上がってかわしたザリュース。そのまま落ちてくる足を反対の手で受け止めて振り払う。距離をとったところで気になったのだろう
「そのメス、そんなにいい女なのか?」
「非常に、な。」
「〜〜〜〜っ!?」
「こらー!ザリュース、戦闘中に口説くなー!」
顔を真っ赤にしてわなわなと震え、最終的にはあまりの恥ずかしさに顔を隠してうずくまってしまうクルシュを見かねて、アウラが声を上げる。
「そいつは気になるな。勝ったら返す前にいっちょ剥いてみるか。」
「……なんだか負けられない理由が出来てしまったな。」
「へっ!むちゃくちゃ惚れてんじゃねぇか!」
ザリュースの物言いに少しニヤけながら斧槍を振るうゼンベル。それに負けじとザリュースが加速する。
「あぁそうだ!」
速度を乗せた両手での一撃で、斧槍を弾き、間合いの内側に飛び込む
「むちゃくちゃ……」
ゼンベルの表情が焦りと驚きに変わるほどの鋭い攻撃、間合いの内側に入られ、勢いを溜めきれずザリュースの一撃を受けたハルバードがゼンベルの手から離れる。
「惚れているッ!!」
「だから戦闘中に口説くなぁ!!」
ピンと天に向けてそそり立った尻尾が恥じらいで左右に大きく揺れるクルシュの様子に、アウラがまた声を上げる。それを見て"竜牙"の一同は笑っていた。だがこのまま行けばザリュースの勝ち。そんな考えが、それと同様に笑うゼンベルの姿に覆される。
「マズイ、ザリュース!」
「ッ!!」
慌てて後ろに飛ぶザリュース。だが、かわしきれずに鮮血が散った。ザリュースの鱗を砕き肌を裂いたのは、血をその爪先に滴らせるゼンベルの腕だった。
「モンク……本命はその拳か。」
「応よ。決まったと思ったんだがなぁ。」
いやぁ惜しい。と爪に付いた血を舐めながら言うゼンベル
「そういや、"凍牙の苦痛"の能力は使わないのか?」
「……使うつもりはない。」
アイシー・バースト。一日に三度しか使えない魔法剣、"凍牙の苦痛"の切り札。
「なんだ、出し惜しみしてんのか?」
「直接剣を交えて、本気でそう思っているのか?」
ゼンベルの問いに、ザリュースはそう問い返す。使わないのではない、使えないのだ。広範囲に冷気を放出するそれをこの、周囲に見物人がいる状況で振るえばどうなるか。
「そうだな。すまねぇ、妄言だった。」
目の前の敵の高潔さを剣から感じたゼンベルはそう謝罪する。
「いや、構わない。」
「んじゃ、こっから本気で行くぞ!〈アイアン・スキン〉!」
スキルまで発動し殴りかかるゼンベル。対してザリュースは、その両手の拳による連撃を、ひたすらに"凍牙の苦痛"で受ける、受ける、受ける。先ほどとは打って変わって防戦一方。
自分たちの族長の激しい猛攻に歓声を上げる"竜牙"の面々。そこからひたすらに、必死に、攻めるゼンベルの拳打を受け止め続けるザリュース。先程まで悶絶していたクルシュも、その動きが止まりザリュースの方を見て心配をする劣勢。
「ザリュース……」
「大丈夫。」
心配する姿に、今度はアウラが宥める番だった。
「え?」
「このまま行けば……」
何合打ち合ったことだろうか。肩で激しく息をする二人の動きが止まる。拳を握ろうとするゼンベルの手が止まる。いや動かせないのだ。見ればその両手には霜が降りている。
「先にアイツの限界が来る。」
「……チクショウ!俺の負けだ!」
そのアウラの言葉を裏付けるように、ゼンベルが叫んだ。二人の足腰から力が抜け、その場に座り込む。
「あの剣、触ってる相手に冷気ダメージを送り込むんだよ。だからずぅとゼンベルの拳を受け止め続けてた。」
ザリュースに影響がないあたり、本人を冷気から守る加護も備わってるかな?というアウラに、ザリュースは笑う
「流石だな。何も話してないのにそこまで見抜くとは。」
「なんだガキンチョ、お前も強ぇのか。」
「あぁ、俺より遥かにな。」
ほほぅそりゃ……と戦いの意欲を見せるゼンベル。ちょっとむかつくところもあったし一回くらいいいかなと思うアウラ。まったくもうとザリュースとゼンベルに治癒を施すクルシュ。そして、二人の激闘を讃える"竜牙"の面々。
「それじゃあ、ここから本題だな。」
「あぁ、と言いたいが……酒だ。」
「「は?」」
いざ本題に入ろうとしたところで出てきたゼンベルの言葉に呆気に取られる一同
「面倒くせぇ話は酒の席でするもんだ。分かるだろ?」
「分かんねぇよ!!」
思わずザリュースが叫んだ。
「まぁいい、酒の席で話そう。例のアンデッドの事だ。なんて言っていたか覚えているか?」
その言葉に、ゼンベルは照れくさそうに頭を掻いて言った
「すまんな、寝てた。」
『さてはお前……バカだな!?』
思わずクローズドラゴンまでそう言うのに対してガハハ!と愉快そうに笑うゼンベルを、一同は白けた瞳で眺めるのだった。
その後、"竜牙"の村では、中央に作られた焚き火を囲んで子供達がはしゃぎ、大人が焼き魚片手に酒を飲む、そんな光景が繰り広げられた。
「エルフの客人、飲んでるか!?」
「あたし子供だよ?お酒飲んだら大変なことになっちゃうって。」
「そうだったな、すまんすまん!」
誘ってきたリザードマンの提案を、そう言って断る。だが嘘だ。レンジャーの毒耐性があればここにある蒸留酒なんかで酔っ払うわけがない。だが酒を飲むなんていうのは大人のやることで、それを飲むと言うのはどこか大人の階段を登るようで、マーレを置いて行く気がして嫌だった。
「ねぇ……」
「ん?」
「おじさんって、"鋭剣"族だったの?」
腰に添えられた剣を見て、そんな疑問を投げかける。
「おう、これでもかつての部族では5本の指に入る剣士だった。あの争いで死に損なってしまってなぁ。」
「……もし、もしだよ、あんたの所の族長が死んで、ザリュースが次の族長ってなってたら……どうしてた?」
「そうだな……」
嫌味ではなく、真剣な疑問だ。そう感じたからだろう、どかりとアウラの隣に腰掛けたそのリザードマンは、息を吐いて言った。
「新たな族長に、決闘を申し込んでいただろう。恐らく"鋭剣"から流れた中で1番強いのは俺だからな。二人も使えるべき族長を殺されたのだ。黙ってはいられん。」
「そう……そりゃそうだよね……。」
「おいおい、抜け駆けは良くないぞぉ。」
真剣な面持ちで語る男に、アウラは頷く。しかし、そう言う男に絡んでくる奴がいた。
「それならまず、決闘の代表を決めるために俺と戦ってもらわなくちゃぁ困る。俺たちを受け入れてくれた部族の族長殺されたら……ってう条件は俺たちも同じなんだ。」
物言いにや鱗の特徴的に"黄の斑"出身なのだろう。そう言って笑う姿に、"鋭剣"出身のリザードマンは笑みを浮かべる
「そうだったな。そうなれば負けんぞ、"鋭剣"の威信にかけて"凍牙の苦痛"を取り返さねばならん。」
「どうだか、部族同盟で手合わせした時は俺の方が強かったろう?」
「確かになぁ。だが今も同じだと思うなよ。」
「おいおい、俺たちは置いてけぼりかよ。」
そう言って笑い合う二人の間に割り込んできた大柄なリザードマンは、生まれた時から"竜牙"なのだほう。
「代表を決めんなら、俺たちからもだろ。」
「方法はどうする、三つ巴か?」
「総当たりやってる暇は無いだろうしなぁ、そうなるか。」
「……みんながザリュースと戦おう……とは思わないの?」
3匹とも背負う思いはバラバラだ。思わずそう問い掛ければ、その3匹は顔を見合わせて笑う。
「そりゃぁ無いな!3人も無駄な死闘をこなす事はない!」
「応とも!俺の想いがこいつらに負けるんなら、ハナから新たな族長には届くまいて!」
「3人も襲い掛かれば族長を倒した新族長もヘロヘロになっちまうだろ。そんな状況で勝って何の意味があるんだよ。」
何を言ってるのか、何故笑っているのか、アウラにはよくわからない。そんな表情を呼んだのか"鋭剣"出身のリザードマンは言う。
「今も不満がないわけじゃ無い。だが強きに従うのは"竜牙"の掟だ。族長が敗れ、彼の話を聞くことを認めた。掟に則るのなら、俺はそれに従うさ。」
「然り然り、元の部族にも掟はあった、掟は大切だ。俺たちも"竜牙"の掟で強さを示したことで部族に加わった。だから守る事に異論はない。」
「それと同じさ、決闘に赴く奴は不満に思ってる奴らの全部を相手にぶつけんだ。それが負けたなら、それだけ族長の背負った想いが固いってことさ。」
掟だから、戦いの結果に従う。彼らはそう言ってるのだ。掟なら仕方ないわ掟なら飲み込もうと。
「よそ者のエルフにはちと分かりづらい感覚かもなぁ。」
『言ったろ、掟は大事だってな。』
そこに、クローズドラゴンが飛んでくる。
『長老たちが引っ込むから不満を言わねぇってのと同じだよ。不満に思う気持ちを『掟だから』で飲み込めば争いも派手にならねぇし、部族を移るってなっても、『そこの掟に従えばいい』ってなんなら変な争いとかも生まれねぇ。』
まぁアレだ、法律みてぇなもんだと。
『確かに、旅人はよそ者で蔑ろにするべきとか、そう言うのを間違ってるって思うのはある。けどそれを『これは破っていい掟だから』って破ってたら、いつかお互いが歩み寄るためだったり、村の秩序を守るための掟も、平気で破るやつになっちまう。』
「…………」
『まーあれだ、なんでもバランスが大事なんだよ、バランスが。』
一歩間違えれば、血みどろの争いになってしまう。考えも出身も、育ち方だってバラバラな蜥蜴人達。だがそれでも争いを起こさないように、生き抜くためにと一つになろうとしてる。
アインズ様な統制されたナザリックに比べれば歪で、ぐちゃぐちゃで、長々と時間をかけて会議しなければ意見を一つにまとめられない様は愚かに見える。だがそれでも
「綺麗だ。」
争わないように、生き抜けるように、ザリュースが言うように傷を負いながらでも歩く様を、笑う気持ちは微塵も湧いてこなかった。
「これを、アインズ様は壊そうとしてるんだね……」
『……そうだな、蜥蜴人が滅ぼされちまったら、こんな光景は見られなくなっちまう。』
ナザリック出身のくせに、それが嫌だと思えてしまう。蜥蜴人達を見て、色んな苦しみを聞いて、そんな現状への抵抗を知ってしまったら、もう無理だ。そんな様子を見てか、クローズドラゴンは笑う
『させやしねぇよ。俺が、クルシュ達が、ザリュースが。』
「うん、そうだと……いいな……」
裏切り者。そんな呪詛がまた、聞こえて気がしたが、それでもそう言わずにはいられなかった。
本当はもう少し色々書きたかったけど書き切りたいところまで書いてると終わらなそうなので次回に回します。次回……には出来なくても次の次の話から本格的な戦いを始められそうです。また3日後にお会いしましょう!