内容:「あの高地で見たものは、縄張り争いなどという生易しいものではねぇ。神々の共喰いだ。俺の胃袋は恐怖でひっくり返り、奥歯は割れた。だが、あの千切れた白銀の鎖刃……あれを持ち帰れば、俺の猟師人生は……。頼む、誰か確かめてきてくれ」
ただ、天を衝く寒風のみが、吹き荒んでいた。
その烈風は、峰々の尖角を削り、岩肌に伏す猟師の毛皮を容赦なく引き裂かんとする。天空山。その中腹、標高二千八百メートル近辺に位置するこの岩棚は、とある古龍の襲来により、万年雪の境界線であり、植生が辛うじて途切れる峻険なる地であった。大気は平地よりも遥かに希薄であり、鋭く吸い込めば肺腑が灼けるように冷たい。
男は、崩れかけた石灰質の岩陰に、這いつくばるように身を没していた。凍土の上に投げ出された重き狩猟弓は、いまや一片の木切れに等しい。男の指先は、すでに感覚を失って白く強張り、吐き出す息は千々の白糸となって一瞬で風に千切れた。
彼は指一本動かさなかった。動けば、その瞬間に冷気が侵入し、命を奪うことを知っていたからである。それ以上に、眼前の平底で繰り広げられている地獄の絵図から、一歩でも退くことは、野生の神々の逆鱗に触れて圧殺されることを意味していた。男は、ギルドから堅く禁じられている高地用の濃縮強走薬を、すでに奥歯で噛み砕いていた。体内で無理狂わせた熱血が脈動し、その薬効の残効だけが、かろうじてこの酷寒の中での昏睡と死を繋ぎ止めているに過ぎない。
――なぜ、こんな依頼を引き受けた。脳裏を過るは、街の酒場に残してきた女の顔と、ギルドへの呪詛だ。恐怖のあまり歯の根が合わず、カチカチと鳴る己の下顎を、音で気づかれぬよう凍りついた袖を狂ったように噛んで必死に押し留める。こんな誰も知らぬ極高の寒地で、獣どもの巻き添えを喰らい、犬死にするのかという俗な後悔が、男の五内を惨めに掻き回していた。
男の眼識が捉えているのは、盆地の如く窪んだ狭隘な岩床であった。そこに、二つの、絶大なる命が在った。
一頭は、その岩床の中央に、さながら太古の巨石がそのまま形を成したかの如くうずくまっていた。色が抜け落ちたかのような白の輝き。それは重厚かつ密度が高く、幾星霜ものあいだ風雨に晒され、変色した大理石か甲冑の如き堅牢さを持つ。四肢の節々は、原始的な飛竜に近い力強さを宿しながらも、飛竜種としては極めて稀な、前脚や下顎から首にかけて白く強度の高い体毛を密生させていた。特に異質なのは、背から伸びる一対の翼であった。本来あるべき皮膜はなく、白き体毛が翼の如き輪郭を形作り、その外縁部には、巨大な甲殻が幾重にも折り畳まれた長大な器官が、不気味な静寂を保って据えられている。
鎖刃竜、アルシュベルド。
猟師の耳に、奇妙な音が届いた。風の音ではない。その白き獣の翼から漏れ出る、きわめて高い、金属質の甲殻同士が噛み合い、伸縮する繊維が軋む鳴動であった。アルシュベルドは首を小さく、機械的な規則性をもって左右に振った。その際、下顎を覆う白い毛が、足元の万年雪を微かに散らす。四肢の爪で足元の泥をいじるようにして地表の硬度を確かめるその動作には、野生の獣が持つような、どこか無駄な、それでいて不気味な落ち着きがあった。その冷徹な姿とは裏腹に、ときおり長い尾の先を不規則に震わせ、自身の排熱の波長を測るかのように岩盤を小突き、弾音を確かめる縄張り誇示の仕草を見せていた。
震える眼窩の奥で、猟師としての「業」が浅ましくも疼き出す。あの白き甲冑のような外殻、そして異形の鎖刃。もし生きて持ち帰れば、一体どれほどの金貨に化けるか、如何なる無比の得物が作れるかという貪欲な狂気が、死の恐怖の裏側で一瞬だけ男の脳髄を焦がした。
その白き静寂を、別の波動が破った。
男の肌が、衣服の隙間から粟立った。髪の毛が、見えない力に引っ張られるようにして、ふわりと持ち上がる。大気が、ひどく歪んだ匂いを帯び始めていた。激しい雷雨の直前にだけ漂う、あの特異な、鼻を突く空気の焼ける臭いである。
岩床の縁、傾斜の急な斜面を、大きな塊が滑るように登ってきた。
雷狼竜、ジンオウガであった。
その身体は、山の斜面に根を張る巨木のように強靭であった。紺青の殻が、陽光を弾いて暗く光る。背甲と四肢の付け根を覆う純白の長毛は、まるで独自の意志を持つ生き物のように、激しく波打っていた。ジンオウガは、岩床へ踏み込むと同時に、小さく鼻を鳴らした。珠玉の如き黄金の双眸を細め、首を低く下げて地表の匂いを嗅いだ。かつて他の個体が行ったであろう、凍りついた尿の痕跡を探るような、極めて泥臭い、縄張り意識の行動であった。一歩進むごとに、その爪が岩盤を掴み、ガリガリと硬い音を立てて微細な石粉を散らす。
その背の白毛の奥から、無数の小さな光の粒が湧き出していた。光の粒は、不規則な軌道を描きながら、ジンオウガの周囲の空間を埋めていく。それは、獣の皮膚から分泌される特有の脂質の匂いに引き寄せられた、無数の虫たちであった。虫たちは、獣の放つ熱と気配を吸い、代わりにその翅を激しく摩擦させて、微小な、しかし集積されれば巨大となる光の帯を生み出していく。ジンオウガは一度、大きく身震いをした。犬が水飛沫を飛ばすときのように、乱暴な動作であった。その振動によって、虫たちの位置が乱れ、また新たな配置へと収まっていく。この個体は首筋から背甲にかけて数多の古い裂傷が刻まれており、他を寄せ付けぬ威容を誇る、幾多の死線を越えた歴戦の雄であった。
二頭の視線が、空間の真ん中で交錯した。
男は、岩の割れ目に指を深く突き入れ、自身の身体を固定した。そこに、言葉はなかった。交渉の余地など、最初からこの高山には存在しない。あるのは、どちらがこの狭い天の平底を統べるかという、ただそれだけの重力であった。
青き巨獣が、動いた。それは、突進というよりは、質量そのものが位置を変えるような、強烈な移動であった。太い前脚が、一瞬だけ地表の岩を粉砕した。その瞬間に、背の白毛に潜んでいた無数の虫たちが一斉に輝きを増した。青白い光の束が、ジンオウガの背甲を伝い、その四肢へと流れ込んでいく。それは、獣の肉体そのものが持つ、電荷を集束・増幅するための特殊な殻の積層構造が、一気に臨界に達したことを示していた。
ジンオウガは跳躍した。その巨体が宙に浮き、太陽の光を遮る。右の前脚が、頭上高くに振り上げられた。その肉厚な爪の先からは、すでに肉眼で追えるほどの、青紫色の光の輪が幾重にも広がっている。大気が、その膨大なエネルギーの放出に耐えかねて、パチパチと嫌な音を立てて弾けていた。
アルシュベルドは、迎え撃つ姿勢を取らなかった。その代わり、その白き身体は、変幻の身のこなしを見せた。折り畳まれていた翼の外縁が、臨戦の吼え声をあげるかのように一斉に展開された。伸縮性のある強靭な筋繊維が引き絞られ、複数の巨大な甲殻が連なる長大な「鎖刃」がその全容を現す。アルシュベルトは地を這うが如く側方へと滑走し、ジンオウガの落ちる足元を外した。
ドォン、と、男の腹に直接響くような重低音が響いた。ジンオウガの右前脚が、誰もいない岩盤へと叩きつけられた。その瞬間、青白い光の柱が地表から突き抜け、周囲の泥や小石を、一瞬で硝子状の物質へと変えていく。それほどまでの熱と衝撃が、その一撃には込められていた。だが、その一撃は空を切った。
ジンオウガの着地の瞬間、その足元が大きく揺らいだ。アルシュベルドの回避は、ただ避けるためのものではなかった。真横に滑りながら、アルシュベルトはその長大な鎖刃を、まるで地を穿つ破城槌の如く展開し、地表の岩盤に深く叩きつけ、抉り取っていたのだ。抉り取られた、尖った岩の破片と凍土の塊が、ジンオウガの顔面へと容赦なく浴びせられた。
不意の目潰し。ジンオウガの黄金の双眸が、激しい泥と石の風に遮られる。青き獣が、視界を奪われて僅かに首を振った、その刹那であった。
刹那、白銀の怪躯が虚空で反転した。並外れた筋力を持つ翼の筋繊維が、大剣の如く折り畳まれた鎖刃を、一気の下段へと振り下ろす。それは神速というも愚かな、文字通りの『縮地』であった。岩陰に伏す猟師の眼識を以てしても、ただ一条の白閃が虚空を両断した、と驚破抜くのが関の山であった。
巨大な鎖刃の連なりが、地表の冷気を切り裂きながら、ジンオウガの剥き出しになった脇腹へと迫る。その一撃は、ただの硬い甲殻の打撃ではなかった。接触の瞬間、鎖刃の隙間から、禍々しい黒紅の光が奔出したのだ。敵の属性エネルギーを吸収し、その身の中で反転・生成せしめる、忌むべき龍属性の波動であった。
ギギギ、と、骨が削られるような、高く不快な音が大気に充満する。ジンオウガの藍色の側面の殻が、龍のエネルギーの強制的な侵食によって容易く引き裂かれ、変色していく。肉が裂け、そこから溢れ出た大量の鮮血が、鎖刃が伴う異様な熱によって、瞬時にジュウと不気味な音を立てて赤黒い霧へと変わる。男の鼻腔に、血の焼ける、酷く生臭い悪臭が届いた。胃の腑が、その臭いに激しく拒絶反応を示す。
しかし、ジンオウガは倒れなかった。それどころか、その致命的な痛みが、青き獣の神経を完全に狂わせたようであった。歴戦の雄たる底力が、限界を超えた強肉の収縮を生み出す。獣は、傷口から血を噴き出しながら、その場から退くどころか、さらに深く踏み込んだ。引き裂かれた脇腹の筋肉が断裂の悲鳴を上げるのを、強固な肋骨の噛み合わせと背甲の締め付けで強引に固定し、自重を支える軸を保ったのだ。
ガウッ、と、短い、しかし地響きのような咆哮。ジンオウガは、アルシュベルドの次の行動を予測することなく、ただ肉体の原始的な衝動のままに、その太い前脚でアルシュベルトの頭部を強引に抱きすくめるようにして、地表へと組み伏せた。二頭の巨体が、激しい音を立てて岩盤に激突する。ジンオウガの顎が開き、アルシュベルトの、あの白い毛皮に覆われた首の付け根へと深く突き刺さった。
ガチリ、と、殻と牙が噛み合う、鈍い音が響く。ジンオウガは、噛み付いたまま、自身の肉体の限界を完全に無視した出力を開始した。背の白毛が、もはや青白い炎のように激しく燃え上がって見える。体内に集いしすべての虫たちが発する電荷を、背甲の蓄電殻が極限まで集束・増幅し、一振りの雷霆の剣へと変えてしていく。ジンオウガの全身から、細い稲妻のような光の帯が、何十本も周囲の岩壁へと走り出す。それは、過剰な電力が、制御を失って周囲の空気を引き裂いている光景であった。
噛み付かれたアルシュベルドの体内で、何かが決定的に狂い始めていた。外部からの圧倒的な電磁の渦が、アルシュベルドの堅牢なる白い外殻の限界を超え、ついに防壁たる絶縁を破壊した。その衝撃は、外殻の内部に直接的な誘導電流を惹起し、逃げ場を失ったジュール熱となって奴の五内を焼き焦がしたのだ。同時に、アルシュベルドの鎖刃は、噛み付く狼の肉体から強引に電力を吸い上げ、それを龍属性へと変換せんと過負荷の駆動を始めた。身体の節々から、それまでの白銀の輝きではなく、濁った赤紫色の光が、まるで溶岩のように染み出し始める。
男は、岩陰の中で息を止め、ただ祈るようにその光景を見ていた。どちらが勝つか、ではない。この二頭の狂気が、いつ自分を巻き込む爆発に変わるかという、恐怖だけが彼を支配していた。
アルシュベルドの内部で、変換の許容量を超えたエネルギーが臨界に達した。しかし、白き獣は、それをただの自滅としては受け入れなかった。アルシュベルドは、噛み付かれている首の筋肉を、不自然な角度で強引に捻った。
底知れぬ圧迫感に押され、男の喉からひう、と情けない悲鳴が漏れる。
そして、その背甲にある、通常は閉じられているはずの、幾層もの排気用スリットを完全に開放した。その背甲が開かれ、過熱された高濃度の生体ガスが噴出した――と認識した刹那、首筋に噛み付いていた狼の全身を覆う電弧がそれを捉え、二頭の肉体そのものが巨大な爆弾と化して、完全に同時に、逃げ場のないゼロ距離で炸裂した。
その瞬間の有様を、男はのちにこう振り返るしか選択肢を持たなかった。
――天が、地へ落ちたのだ、と。
大気が、一瞬で燃え上がった。狭い岩床全体を包み込む巨大な爆鳴気の火球が、一切の時間差なく膨張したのだ。
ドガァン――!
凄まじい衝撃波が、男の潜む岩陰をも容赦なく叩いた。男の身体は地面から浮き上がり、背後の硬い岩壁へと叩きつけられた。咄嗟に、凍りついた厚手の毛皮のフードを顔面へ引き絞り、泥に額を擦り付けたが、それでも肺の中の空気がすべて強制的に押し出された。
標高二千八百メートルの希薄な大気の中で、肺を空にされるのは死を意味する。吸い込めば熱風と冷気が混ざり合い、肺胞を破壊しかねない。劇薬のせいで狂ったようにのたうち回る心臓の音が耳元で早鐘のように鳴り響き、口内には胃から逆流した酸っぱい胆汁と、濃縮強走薬のねっとりとした酷い苦味が混ざり合って溢れかえる。男は激しい嘔吐感と朦朧とする意識の底で、その毒薬とも言える薬効が、かろうじて己の命の灯火を繋ぎ止めていたのを呪うように感じていた。視界が真っ白になり、耳の中では、ただ不快な高い音が鳴り続けていた。肉の焦げる臭いと、金属が熱せられたとき独特の、あの酸っぱい匂いが、周囲の空気を完全に満たしていた。
男が、朦朧とする意識の中で、かろうじて目を開いたとき。岩床の風景は、完全に変貌していた。地表の雪は一枚も残らず消え去り、泥は黒く焼け焦げて、そこかしこから細い煙が立ち上っている。
その中央で。
ジンオウガは、その巨体を横たえていた。紺青の殻は、爆発の熱によって白く煤け、多くの場所が剥がれ落ちている。あの美しかった純白の長毛は、一本残らず燃え尽き、黒い炭のようになって皮膚にへばりついていた。黄金の双眸は開かれていたが、そこにはもう、光を捉える力は残っていないようであった。獣の胸部が、最後のはためきを見せるように上下した。そして、静かに、その動きを止めた。その周囲には、主を失い、羽を焼かれた数匹の虫たちが、泥の上で弱々しく痙攣しているだけであった。
アルシュベルドは、そこにいた。立ってはいたが、その姿は無惨であった。最大の武器であった鎖刃は、柔軟性の代償たる繊細さ故に、至る所が内圧と外傷によって千切れ飛び、変形した筋繊維が熱を持ったまま地表へと垂れ下がっている。全身の白い装甲は、至る所が弾け飛び、そこから、本来は体内を巡るはずの、粘度の高い、銀色の稠密なる油液が、ポタポタと絶え間なく滴り落ちていた。油液が地面の岩に触れるたび、ジュウ、と、小さな白い煙が上がる。
白き獣は、一歩、前へ進もうとした。しかし、その四肢の関節が、熱による変形のためにうまく噛み合わないのだろう。ガチ、と、短い甲殻音が響き、その巨体が僅かに傾いた。
それでも、アルシュベルドは頭部を上げた。その吻部から、凱歌をあげるような、しかしどこか壊れた汽笛のような、悲痛な高音が、天空山の空へと放たれた。
男は、自身の凍えた指を動かし、懐から小さな、汚れた手帳を取り出そうとした。しかし、指は鉛のように重く、ただ凍土を引っ掻くだけであった。
上空からは、再び、激しい風が吹き始めていた。発達した積乱雲の残骸が、冷たい、大粒の雪となって、焼け焦げた岩床へと降り注ぎ始める。雪は、静かに、横たわる青き獣の骸と、未だその場で立ち尽くす、傷だらけの白き異形を、等しく白く染めていった。
男はただ、その光景を、世界の終わりを見るような目で、見つめ続けていた。
――。
――後日、男が記したギルド宛の「生態報告書」には、殴り書きの如き筆致で、次のように結論づけられていた。
あの天空山の天辺で起きたのは、単なる獣同士の縄張り争いなどではない。あれは、大気の怒りと、白き異形による、凄絶なる共喰いであった。
青き雷狼は、古傷の多さから察するに、幾多の修羅場を潜り抜けた歴戦の特殊個体、いわば「狂宿の狼」とも呼ぶべき器であった。その背に群れる虫どもは、単なる光虫にあらず。狼の体表から滲み出る特殊な脂を喰らい、その代償として生体電位の共鳴を引き起こす「相利の虫」であった。狼が跳躍せしとき、その積層せる黄金の殻は、蓄電の器として機能し、空間の絶縁を破壊するほどの雷霆を宿したのである。主導権は常にあの狼の蓄電殻にあり、虫らの電荷を一振りの剣の如く集束・増幅せしめていた。
対する鎖刃竜は、かつて絶滅種と目されていた、極めて特異な形質を持つ「変換機関」に他ならぬ。奴の翼を構成する鎖刃は、複数の甲殻と伸縮性に富む筋繊維により成り立ち、鞭の如く叩きつけ、大剣のごとく振り下ろされる絶対の凶器であった。さらに恐るべきは、その刃が敵の属性エネルギーを直接的に吸収し、己の体内で「龍属性」へと置換・精製する能力を有していた点である。古龍の特権たるそのエネルギーを、奴は生物的な変成作用によって強引に引き出していたのだ。
しかし、白き竜とて万能ではなかった。雷狼の放った強烈な電磁の渦は、銀の装甲の限界を超えて「絶縁破壊」を引き起こし、それは逃げ場を失ったジュール熱となって奴の五内を焼き焦がしたのだ。あの最後の爆炎は、過熱限界に達して噴出せし生体ガスと、狼の放電が至近で交わったが故の、必然の「爆鳴気」であった。
自然の雷霆を宿す狼と、龍属性の変換を体現せし白き異形。どちらの生態が優れていたのか、管見の及ぶところではない。ただ一つ確かなのは、我々人間が「狩猟」と呼ぶ営みの遥か外側で、世界は今なお、我々の知らぬ森羅万象の理を以て、あまりにも残酷に、そして美しく脈動しているということだけである。