モンスターハンターΔG   作:夏目陽光

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依頼主: 山裾の寒村にて煤にまみれる老婆


内容:「囲炉裏の火も、とうに凍りつきましただ。
村の衆はみな、あれをただの雪崩だと、
己を騙して震えております。
糊口をしのぐポポの群れも、峰の奥へ消えたきり戻りませぬ。
――とある古龍が伊吹込める時、天空の山凍つかん。
婆さまのそのまた婆さまから伝わる古い出鱈目が、
まさかこの眼前に現れようとは。
嶺を駆けるは、もはやただの降雪ではございませぬ。
天空山の悪気が一息に凍てつき、万物を調伏する白い地獄にございます。
あの引き裂かれた玄武岩の岩棚から、
乾坤を狂わせる「青白き鬼火」の唸りと、
大地を噛み砕く「山神」の地響きが、吹雪に混ざって聞こえてくるのです。
二頭の巨怪が噛み合い、のたうつたび、
黒鉄の山容がみしみしと割れていく音が、村の底まで響いてまいります。
狩人様、どうか火竜の鎧を纏い、かの白い深淵へ赴いてくだされ。
あれらが山を下りてくれば、この村など、
巨獣の足下に踏みつぶされる泥濘も同然。
万物が凍土へ帰る前に……あの不条理なる天の狂気を、どうか。
――お前様がただの肥やしとならぬよう、
囲炉裏の煤の中で、ただ祈って息を潜めておりますだ。」


【調査クエスト】天空山中腹・黒鉄の玄武岩床にて

とある古龍が伊吹込める時、天空の山凍つかん――。

 

山裾の寒村にて、囲炉裏の煤にままれて老婆が繰り返し呟いていた出鱈目な伝承が、いまさらになって耳の奥で凍りついたように響いている。

牙を剥くは乾坤の狂気か。天空山がその荒々しい稜線を天に突き出す中腹、引き裂かれたような岩棚であった。本来ならば、奇岩の隙間から這い出る硫黄の熱気と青臭い高山植物の匂いが混ざり合うはずの山腹が、いまや完全に変貌している。嶺を駆け抜ける猛吹雪は、最早ただの降雪に非ず。天空山の悪気が一息に凍てつき、無数の氷の針と化して、峰を衝く烈風とともに容赦なく肌を削りおとす。まさに一瞬にして万物を凍土へと帰す、天の調伏の如き有様であった。

 

視界は十歩先で白濁した闇に溶ける。俺の身体を包む雄火竜の甲殻は、並の得物を通さぬ比類なき剛性を誇るが、この極限の気候においては、外気の容赦なき酷寒をそのまま鎧の表面で捉え、自らの体温を外気へと垂れ流す冷徹な金石と化していた。内側に仕込んだ毛皮が防ぎきれぬ冷気が皮膚を刺し、肩当ての関節が息を吸うたびに不快な軋みを立てた。

「烈火の猟師」

ギルドの若造どもが、俺の火竜の得物を担いだ戦いぶりをそう呼んだ。だが、火竜の意匠など、この白い地獄においては何の意味もない。大剣の柄を握る革手袋の中で、すでに指先の感覚が失われつつあった。凍傷が肉理を壊死させる前に、俺は自らの太腿を拳で力任せに殴りつける。鈍い痛みが、麻痺しかけた神経をかろうじて繋ぎ止めた。死ねばただの肥やしに過ぎぬ。そう割り切りながらも、俺は火竜の面頬の奥で、ただ冷徹に牙を研ぎ澄ましていた。

 

地誌によれば、この一帯は古より黒鉄の如き玄武岩の床にして、千尋の谷を見下ろすこの狭隘な岩棚が、まさか二頭の巨怪による調伏の場になろうとは、いかなる智者も予見し得なかったであろう。

 

そのとき、岩盤の底から、網膜の奥を揺さぶるような周期の長い振動が伝わってきた。

地震ではない。重厚な岩盤が、上部からの莫大な質量による荷重を受け、その結合を破砕させていく悲鳴だ。

吹雪の白が、斜め前方でぐにゃりと歪んだ。大気の圧力を強引に押し広げて現れたのは、肉と骨で組み上げられた、動く城塞であった。

巨獣ガムート。

火竜の兜の目隙から覗くその輪郭は、生物のそれというよりは、山肌がそのまま剥がれて起き上がったかのような錯覚を抱かせる。山容の如き巨躯。全身を覆う剛毛は、首の後ろから背にかけてが血の澱んだような赤、そして四肢にかけてが深い蒼色を呈しているはずだが、いまは極寒の水分を吸ってバリバリに凍りつき、一本一本が太い氷柱のようになって皮膚を鎧っていた。頭部を覆う冠状の頭殻は重厚な層を見せ、その下から前方に反り返る二本の牙は、地表の岩を抉るために磨耗し尽くされている。

ガムートが、その長大な鼻の筋肉を収縮させ、地表の雪を大きく巻き上げるように、力任せに薙いだ。

――グオオオオオオオォォォォンッ!

胸腔という名の巨大な鞴(ふいご)が吐き出した大気の質量が、同心円状の衝撃波となって周囲の積雪を完全に吹き飛ばした。衝撃波が通り過ぎた後、岩棚の雪は一掃され、赤黒い玄武岩の肌が剥き出しになった。

 

だが、その剥き出しの岩肌に、すでに「それ」は吸い付いていた。

音はなかった。ただ、大気が裂ける直前の、あの鼻の奥を刺す独特の電離臭――硝石の燃えたる如き悪臭が、急激に濃度を増した。

電怪竜ギギネブラ亜種。

通常種が持つ不気味な白さはない。背面に浮かび上がる黄色の文様は、まるで腐敗した菌類のような毒々しい彩度を持ち、岩肌に密着した腹部は、不気味な藍紫色を晒している。目は退化し、肉の塊のような頭部と尾が、どちらも同じように不気味に蠢いていた。

ギギネブラ亜種の四肢の爪が、玄武岩の表面を引っ掻くたび、キチキチと高周波の嫌な音が響く。その爪は、常に体内で発生する電気を流し続けているせいで、周囲の水分を瞬時に沸騰させていた。氷点下の空気と接触した爪先から、シュウシュウと微細な水蒸気が立ち上り、それが吹雪にさらされて即座に微小な氷粒へと変わる。

 

二頭の距離は、わずか数丈。

ガムートの小さな、しかし底知れぬ敵意を孕んだ眼球が、岩肌を這う黄色い粘肉を捉えた。草食獣としての異常な縄張り意識が、その脳幹を狂暴さで満たしていく。ガムートは前肢の強靭な指骨を開き、岩盤へと突き立てた。

巨獣の巨躯が、物理的な法則を無視したかのような瞬発力で前進した。

突進ではない。それは、質量そのものの「倒壊」だ。

ガムートの頭部が地面を擦り、玄武岩がめくれ上がって、火花を散らしながら前方へ弾け飛ぶ。巻き上げられた雪と岩の混ざり合った濁流が、ギギネブラ亜種へと殺到した。

 

這う竜は、骨格の連結を感じさせない伸縮性で、その肉体を横方向へと引き伸ばした。

ベチャリ、と不快な音がして、ギギネブラ亜種の胴体が出鱈目な柔軟性で岩の濁流を紙一重でいなす。

だが、いなしきれなかった岩の破片が、ギギネブラ亜種の側腹部に直撃する。不気味な上皮が裂け、そこからアルビノエキスを含んだ乳白色の体液がどっと溢れた。その体液は、極寒の空気によって一瞬で凍てつき、傷口を塞ぐ白いかさぶたのようになる。

 

ギギネブラ亜種の反撃は、声なき放電だった。

その体内の電撃袋が、熱によって急激に温度を上げる。黄色の背面皮膚が、まるで内側から炭火を熾したかのように、不自然な蛍光の「紅」へと変色していく。

裂けた口元から、三条の黄色い電光が吐き出された。

それは直線的なそれではない。大気中の水分と電位差を狂わせながら、三方向に不規則に分裂する電弧の塊だ。

バリバリバリッ!

電撃の弾丸が、ガムートの顔面に直撃した。

電流がガムートの厚い毛皮を焼き、その下にある真肉へと浸透する。電流は気脈を断ち、骨肉を強制的に硬直せしめ、ガムートの巨躯をその場で激しく硬直させた。麻痺だ。

ガムートの四肢の筋肉が不随意に収縮し、肉体が、岩棚の上でつんのめるようにして激しく転倒した。

ドズゥゥゥンッ!

その質量が倒れた衝撃で、俺が身を隠していた岩壁に無数の亀裂が走り、天井から数斤の氷塊が俺の肩当てに落ちて砕けた。極寒でお荷物と化していた火竜の鎧であったが、その本来の剛性が、ここで俺の鎖骨を砕けることから守り抜いた。俺は衝撃で息を詰め、大剣を盾のように構え直した。

 

転倒したガムートを、ギギネブラ亜種は貪欲に見つめた。いや、目のないその頭部を向けた。

この亜種は、通常種のように獲物を冷凍保存などしない。感電し、五体が壊死する前の、まだ熱い肉をそのまま貪り食う。

ギギネブラ亜種は長大な肉体を這わせ、不気味な速度で滑るように間合いを詰めると、倒れたガムートの首筋へと鎌首をもたげるようにして喰らいついた。常に帯電する剛爪が、ガムートの「巨獣の赤毛」を焼きちぎり、その下の肉へと深く食い込む。

 

麻痺の呪縛を断ち切らんと巨獣が悶絶するや、電怪竜はその強靭な顎を開き、厚い脂肪層へ肉薄して肉を抉り取った。首筋から吹き出す鮮血が、放電の熱によって瞬時にジュウと沸騰し、凍てつく大気の中で不気味な血煙となって霧散する。ガムートは激痛に狂い、転倒したまま巨躯を激しく回転させ、のしかかる異形を岩盤へと圧殺せんと泥臭くのたうった。押し潰される寸前、ギギネブラ亜種は蛇が身を翻すように岩肌を滑り、その圧倒的な外皮の伸縮性で圧殺の圧力を逃がした。

 

そして、尾の排触口から、どろりとした黒い球体を三つ、ガムートの足元へと産み落とした。

卵ではない。産み落とされた瞬間から、表面をパチパチと青黄色い火花が飛び回る、高密度の電撃爆弾だ。

「退け……!」

俺は本能的に、岩のさらに奥へと身体を縮こまらせた。

 

直後、網膜を完全に焼き尽くすほどの、白熱の爆鳴が岩棚を覆った。

凝縮された電場が、一気に解放されたのだ。

光の奔流がガムートの足元で弾け、肉が爆ぜ、焦げた蛋白質の凄まじい悪臭が吹雪を貫いて俺の鼻腔を刺した。硝石の臭いが熱気とともに押し寄せ、火竜の兜の通気口から肺へと滑り込む。喉が焼けるように熱い。

 

だが、その破滅的な気の渦中で、不動の山神は生きていた。

ガムートの脳幹を満たす野生の狂暴性が、麻痺による神経の遮断を、圧倒的な筋出力によって力ずくで突破した。

ガムートは四肢の爪を岩盤にめり込ませ、強引にその巨躯を立ち上がらせる。その背の赤毛は完全に消し飛び、炭化して黒煙を上げる肉が剥き出しになっていたが、巨獣はその痛みを咆哮へと変換した。

ガムートは長い鼻を地面に突き刺し、周囲の雪と、自らの分泌液を猛烈な勢いでおのれの四肢へと一気に吹き付けた。

瞬時に、水分の結氷が起こる。

分泌液と混ざり合った雪は、氷点下の環境下でたちまち凍てつき、鉄をも弾く硬度を持った氷の装甲――「雪甲塊」となって、ガムートの脚部を覆った。

 

体勢を立て直したガムートが、その巨大な頭部を激しく振った。

ブンッ!

長大な鼻の先端に生えた「剛鼻棘」が、眼前の地を這うギギネブラ亜種の胴体を、上方から叩きつけるようにして真に薙ぎ払った。

ベキベキッ!

伸縮性のある外皮も、巨大な質量が放つ破壊力の前には無力だった。ギギネブラ亜種の側腹部が異常な角度で陥没し、肉塊は岩棚の端にある岩壁へと猛烈な速度で叩きつけられた。

ドガァン!

衝突の衝撃で岩壁が崩落し、大量の土砂がギギネブラ亜種の身体を埋め尽くす。

 

予定調和など、この戦場には存在しない。

崩落した土砂の中から、ギギネブラ亜種は頭部を狂ったように振り回しながら傷だらけの肉体を這い出てきた。だが、その動きには明らかな失調が見られた。ガムートの鼻棘の一撃は、ギギネブラ亜種の頭部――通常種であれば毒腺があり、この亜種においては発電の要である蓄電器官を、物理的に激しく破壊していた。

破られたる肉塊の隙間より溢るるは、商い物の黄色ではなく、禍々しい「青白い」光――冷徹にして凄絶なる天雷の毒気であった。麻痺の術を失った電怪竜は、制御の術をも失い、己が紡ぎ出す雷の余波によってその身を内側から焼き焦がしていく。狂ったように岩肌を幾度も這い回る雷蛇の如き姿が、吹雪を青白く染め抜いた。

 

そこへ、ガムートが雪甲塊に守られた前肢を高く掲げ、大山が崩れるが如きボディプレスを敢行した。地響きと共に振り下ろされた前肢が、逃げ惑うギギネブラ亜種の長い尾を直撃し、その肉を岩盤ごと文字通り圧搾する。

――ギィィェェェアァァァッ!

耳朶を狂わせる怪叫を上げ、ギギネブラ亜種は身をよじると、ガムートの前肢の隙間から覗く己の尾の付け根へと、狂乱のままに自らの牙を突き立て、強引に肉を引きちぎって引き剥がした。自らの肉を犠牲にした怪異は、そのままガムートの顔面へと文字通り這い上がり、残された爪がガムートの頑強な頭殻の隙間に食い込み、至近距離から青白い電光の残滓をぶちまける。巨獣の眼球がその熱に灼かれ、白濁していくのが見えた。

 

だが、二頭の度重なる衝突と天雷の熱によって、足元の岩盤が限界を迎えていた。

ピキ、ピキピキ、バリィィィン!

「しまっ――」

俺の口から、本能的な罵声が漏れた。

天空山の岩棚そのものが、中央から建物の如く真っ二つに割れ、崩落を始めたのだ。

 

傾く大地。大量の積雪と玄武岩の巨塊が、重力に従って下の斜面へと滑り落ちていく。

ガムートの巨躯が、足場を失って無様に傾いた。どれほどの蛮力を誇ろうとも、立脚する大地そのものが消え去れば、質量はただの凶器へと変わる。ガムートは長い鼻を必死に岩壁の残骸に巻き付けようとしたが、氷に覆われた岩肌は滑り、その巨体がずりずりと滑落していく。

そのガムートの顔面に、青白い光の塊となったギギネブラ亜種が、崩落の濁流の中で最後の手向けと言わんばかりに絡みついた。

二頭の怪物が、絡み合ったまま、白い闇の底へと落ちていく。

 

俺の足元もまた、例外ではなかった。岩壁の窪みが崩れ、俺の身体は宙に放り出された。

斜面を滑落しながら、俺は必死にリオレウスの大剣を雪面に突き立てた。大剣の厚い刀身が岩に弾かれ、火花を散らしながら、凄まじい制動抵抗を生み出す。

ガガガガガガガッ!

腕の関節が引き千切れんばかりの衝撃が、火竜の籠手を伝って肩へと突き抜けた。痛覚が脳を支配する。俺は歯を食いしばり、大剣の柄に全体重を預けた。

 

どのくらいの時間が経っただろうか。

滑落が止まったとき、俺の周囲には、ただ激しさを増した猛吹雪の音だけが残されていた。

見上げれば、先ほどまで戦場だった岩棚が、抉られたように無くなっている。

その滑落の終着点、数丈先の大雪原の底から、未だに青白い火花が時折、吹雪の帳を透かして明滅しているのが見えた。そして、それを押し潰すような、重い、しかし確実に衰えた巨獣の地響きが、一度だけ響いた。

 

俺は、凍りついた身体を強引に動かし、大剣を雪原から引き抜いた。鎧の隙間に詰まった雪が、体温で溶けてじわじわと皮膚を濡らし、さらなる悪寒を呼ぶ。

「烈火の猟師」は、まだ死んでいない。

俺は火竜の面頬の奥の目を細め、怪物の息吹きが残る白い深淵へと、一歩、泥濘を這うが如く足を踏み出した。吹雪の唸り声が、すべての痕跡を消し去ろうとするよりも早く、その命の結末をこの目で確かめるために。

 

一歩ごとに、膝まで埋まる雪を蹴り出す。肺へ滑り込む大気は、まるで剃刀の刃を飲み込んでいるかのように気道を苛んだ。大剣の重みが、冷え切った背筋に、容赦のない負荷としてのしかかる。

見据える先、雪煙の向こうで明滅していた青白い光が、にわかにその周期を速めた。

パチッ、と大気が爆ぜる高周波の音が、突風の合間を縫って耳朶を打つ。

そこに転がっていたのは、巨大な肉塊の山と、それに文字通り食らいついたまま硬直している、黄と紫の異形だった。

 

ガムートの巨躯は、雪原にその半身を埋めていた。脚部の甲殻は滑落時の衝撃で砕け飛び、むき出しになった生肉から流れた血が、周囲の雪を赤黒い氷へとたちまち凍てつかせている。それでもなお、その長大な鼻は、生存への妄執を示すように、雪を求めて微かに蠢いていた。

そのガムートの眉間――頑強な頭殻のひび割れた隙間に、ギギネブラ亜種が四肢の剛爪を深く突き立てていた。

ギギネブラ亜種の肉体は、すでに物理的な限界を迎えている。蓄電器官であった頭部は半ば潰れ、そこから滲み出るアルビノエキスと血液の混合液が、放電の熱によって絶え間なく蒸発し、周囲に異様な白い霧を立ち上らせていた。熱による自焼は肉理にまで達しており、かつて鮮やかだった黄色の背面皮膚は、至るところが炭化して黒い斑点と化している。

だが、その目のない頭部が、ガムートの眼球のすぐ側で、狂ったように細かく振動していた。

 

感電し、五体が壊死する前の、まだ熱い肉をそのまま貪り食う――その生態的な本能だけが、頭部を破壊されたこの怪物を動かしているのだろうか。ギギネブラ亜種の裂けた口元が、ガムートの凍りついた肉を噛みちぎろうと、その首をさらに数寸ほど伸ばした。

瞬間、ガムートの唯一動いていた鼻が、限界までしなり、鞭のように引き絞られた。

空気を切り裂く、凄まじい風切り音。

ドムッ!

鼻の先端にある剛鼻棘が、ギギネブラ亜種の伸び切った首の付け根へと、容赦なく突き刺さった。

筋肉の繊維が断裂する鈍い音が、吹雪の中に溶ける。

ギギネブラ亜種の身体が、激しくのたうち回った。首の傷口から、制御を完全に失った天雷が、青白い閃光となって全方位へと爆発的に解放される。

バリバリバリバリッ!

光の網が周囲の空間を埋め尽くした。俺は咄嗟に大剣を雪面に突き立て、刀身の影に身を潜めたが、火竜の籠手を伝って雷の余波が腕の筋肉を直撃し、思わず奥歯がガチガチと鳴った。大気中の静電気が、兜の中の髪の毛を逆立たせる。

 

光が収まったとき、ギギネブラ亜種の動きは完全に停止していた。

全身の水分を放電の熱によって失い、干からびた肉の塊となったその死骸が、ガムートの頭部からずるりと滑り落ち、雪の上に転がる。

ガムートもまた、その最後の一撃にすべての筋力を使い果たしたのか、長大な鼻を雪面に落としたまま、静かにその巨躯の熱を失いつつあった。吐き出される息の白さが、一回ごとに薄く、小さくなっていく。

 

俺は、大剣を両手で握り直した。

凍える指先が、柄に巻き付けられた革の感触を、かすかに捉える。

二頭の怪物の命が潰えた、その中心へと、俺は歩み寄った。雪を踏みしめる音だけが、不気味なほど鮮明に響く。

ギギネブラ亜種の死骸の傍らに、どろりとした不気味な輝きを放つ、親指ほどの玉石が転がっていた。洛中の数寄者や、おぞましき秘術を弄ぶ薬師どもが千両の金を積んででも欲する、稀なる怪物の秘宝。その内部では、未だに微小な青い光が、死してなお脈打つように蠢いている。今はその俗世の価値などどうでもよかった。

 

俺は、腰の剥ぎ取り用ナイフを逆手に握った。

極寒の空気の中で、鉄の刃がチリチリと凍りつくような音を立てる。

吹雪の底で生き残ったのは、怪物たちではない。ただの、泥臭く大剣を握り続けた、人間の猟師だった。

俺は凍える手で剥ぎ取りナイフを逆手に握り、冷えゆく巨獣の肉へと、その刃を深く突き立てた。鉄の冷たさが、掌から微かな命の残熱を奪っていく。吹き荒れる風の唸り声だけが、二頭の怪物の壮絶な戦いの記憶を、ただ白銀の彼方へと押し流していた。

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