モンスターハンターΔG   作:夏目陽光

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依頼主:龍歴院・館長

内容:古文書に記述された天空山の「第一の領域」が永久凍土と化し、烏鉄の鱗を持つ晶竜が観測された。この異常寒波の影響か、現在ドンドルマの古龍観測所との通信が完全に途絶しておる。あの地で一体何が起きているのか、我々には知る術もない……。

だが、あの最果ての辿異種を放置すれば、動乱の余波はメゼポルタや我々ベルナ村をも飲み込むだろう。派遣した凄腕のハンター達が現地で孤立無援のまま交戦中との報告が入っている。彼らの命の灯火が消え、天理が完全に歪む前に、どうか力を貸してくれ。龍歴院の叡智のすべてを懸け、この異変の調査と晶竜の討伐を求む!


【緊急クエスト】【超高難易度】極天に吼えし最果ての晶竜

猛烈なる地吹雪が、昏い天を総毛立たせるように吹き荒れていた。かつて神々の住まう嶺と崇められた天空山は、いまや王暦の改元に伴う大動乱の余波に晒され、麓の村々の絹織物相場すら凍りつかせる不条理の極地に置かれている。地熱が死に絶え、永久凍土と化したその山門の隘路、かつて第一の領域と呼ばれた狭隘なる雪原に、その天理を歪める怪異は君臨していた。

 

星竜クアルセプス亜種。歴戦の果てに極限の狂気を宿し、獰猛なる飢餓に狂い、二つの名を冠するに至った最果ての辿異種。

 

全長は九丈七尺に達する。海竜種の枠を遥かに踏み越えたその巨躯は、烏鉄のごとき鉱物質の黒い鱗に隙間なく覆われ、背からは無数の魅玻璃──妖光を吸う水晶体が不気味な茨のように生い茂っていた。生物としての理を超え、摂取した地底の岩石を体内で変質させたその水晶が、陽光なき雪嵐の中で芸術的なまでに禍々しく煌めいている。

 

「一護牛乳、引くなよ。奴の呼気、すでに火気を孕んでいる」

 

地吹雪の轟音を割って響いたのは、凛とした、しかし冷徹な鉄の芯を持つ女の声であった。マ獅ン頑。その白磁のごとき太腿はジンオウガの氷刃に裂かれ、防具の隙間から生々しい鮮血が滲んでいたが、彼女の瞳に宿る戦意は些かも衰えていない。上気した肌に妖艶な紅の紐を絡ませたラギアククルス希少種の紺碧たる甲冑を纏い、手にした古の妖刀「軍刀」の切っ先をぴたりと怪物へ向けている。

 

「わかっているさ。だけどこの寒さは骨身に染みる。ギルドの役人どもは温かい暖炉の裏でふんぞり返っているというのに、僕らはこんな地獄で命を賭けているんだからね」

 

ジンオウガ亜種の漆黒の甲殻に身を包んだ男、一護牛乳がふてぶてしく笑う。その背には生者の肉を呪う「渾沌に呻くゴア・マガラ」の、黒紫の毛剥げた大剣が不気味な質量をもって鎮座していた。本来ならば指先すら動かせぬ極寒のはずだった。しかし、一護牛乳の胃の腑は今、滾るような熱に満たされている。出陣前、辺境の交易処で雇った隻眼のアイルーが供した、出所不明の獣肉と劇薬のごとき香辛料を練り上げた賄い飯──あれが、彼の五臓六腑を内側から異常なまでに熱せしめていた。

 

「猫の飯がそこまで効いているなら御託はいい。その熱い血、凍らせぬうちにすべて戦に回すことだね」

 

マ獅ン頑の乾いた言葉とともに、晶竜が動いた。

 

ゴゴゴ、と大地が鳴動する。クアルセプス亜種の下顎──口外にまで発達したシャベルのごとき牙が、凍りついた岩盤を抉り取ると同時に、巨躯が嘘のように滑らかに地中へと没した。ただの潜行ではない。数万トンの土砂を排しながら身をよじるその運動は、周囲の雪原を劇的に陥没させていく。地中の怪異が発する低周波の地響きが、ハンターたちの骨髄を直接揺さぶり、五感を狂わせるような不気味な膠着が数秒間、雪原を支配した。どこから湧き出るか分からぬ恐怖が、大気を限界まで引き絞っていく。

 

「来るぞ!」

 

一護牛乳は一歩を踏み出し、大腿の肉を軋ませて押し固めた雪を踏み締めた。百キログラムを超える大剣の自重と、振り回した刃が引き起こす凶猛な遠心が腰へと強烈な負荷をかけるため、足場の確保は死活問題であった。マ獅ン頑もまた、草履の下に仕込んだ鉄爪を氷下の岩肌へ力任せに食い込ませ、妖刀を正眼に構える。

 

突如、二人の足元の氷盤が爆発した。

 

噴出したのは土砂ではない。閃光と、狂ったような高電圧の雷光である。悪天候時のクアルセプスは、大気中から吸い上げた落雷のエネルギーを体表の魅玻璃に溜め込み、それを合図とともに一気に放出してくる。割れ裂けた大地から、紫電の柱が五方向に走り、周囲の空間を光の檻へと変えていく。

 

地中から躍り出た晶竜は、その全長の長さを生かし、自らの首を支点にして前方に激しくでんぐり返った。全長三十メートルに近い巨躯が、自重で大地を破壊しながら予測不能の軌道でのたうち回る。その地響きだけでハンターたちの鼓膜が引き裂かれそうになるが、二人は一歩も退かない。のたうち回る身動ぎの最中、晶竜の背から無数の魅玻璃の破片が引き剥がされ、四方の雪原へと突き刺さった。巨躯ののたうち回りが収束し、もうもうと立ち込める雪煙の向こうで、両者は一時的に距離を取って睨み合った。戦場に奇妙な静寂が訪れる。

 

晶竜はのたうち回る身動ぎをピタリと止め、次なる大質量の一撃を放つべく、その醜悪な顎を天へと持ち上げた。叫びの音波が響けば、周囲にばら撒かれた結晶が一斉に共鳴爆発を起こし、逃げ場のない大放電が空間を焼き尽くす。

 

「言われなくても、最高のタイミングだ!」

 

一護牛乳が地を蹴った。大剣を泥臭く引きずりながら、狂気的な質量運動へと自らを投じる。同時にマ獅ン頑もまた、彼の突撃に歩調を合わせ、刃を納めた軍刀の柄に手をかけたまま反対の側面から晶竜の懐へと低く滑り出していた。二人の影が二方に分かれ、雪原を疾走する。

 

一護牛乳の渾沌ゴアの大剣が空気を切り裂き、地面に突き立つ結晶へと正確に叩きつけられた。パァンと硬質な破裂音が響き、叩き割られた結晶から膨大な雷エネルギーが一護牛乳の大剣へチャージされると同時に、そのハックされた高電圧が衝撃波となって晶竜の巨体を強烈に打った。

 

ギチチッ! と雷の痛打に晶竜が僅かに身悶えし、その巨躯が大きくのけぞる。この一瞬の怯みが生んだ膠着を見逃さず、すでに懐近くまで肉薄していたマ獅ン頑が死角から一気に距離を詰めた。滑り込むように晶竜の真下へと潜り込み、むき出しになった腹部へ向けて腰の妖刀を一閃する。

 

「マ獅ン頑、今だ!」

 

「合点!」

 

鋭い吐息とともに放たれた気刃無双斬りの凄絶な三連撃が、天雷の理を恐れる晶竜の無防備な肉の深奥へと吸い込まれていった。一護牛乳が結晶を破壊して戦場に解き放った高電圧の余波が、マ獅ン頑の太刀の刃をも伝い、晶竜の肉組織の最深部へと伝導していく。

 

ズガガガガッ! と、晶竜の内臓が擦れ合う湿った摩擦音がおぞましく響き渡る。落雷を受け流すための体表の鉱石も、身内に撃ち込まれた直撃の雷には無力だった。クアルセプス亜種は激しく身悶えし、傷口から焦熱の体液と未消化の鉱石が混ざり合う悍ましき熱泥を雪原に撒き散らしながら、再び激しくのたうち回った。

 

晶竜の巨大な双眸が、激痛のなかで怪しく光った。奴はまだ死んでいない。身震いとともに尻尾を大きく振り回し、自身を取り囲むように周囲へ新たな結晶を配置していく。中央に位置する怪異の頭部から、収束された無数の紫電の光線が四方へ照射され、逃げ場のないクロスビームの檻が二人の退路を断つように激しく交錯し始めた。

 

「これで、仕舞いにするよ」

 

マ獅ン頑が小さく息を吐いた。辣味の薬湯で温まった吐息が白い霧となって消える。彼女は古刀を鞘へと納め、極限まで腰を落とした。衣服の擦れる官能的な音すら地吹雪に消えるなか、彼女の全神経が晶竜の首筋へと集中する。

 

一護牛乳が再び大剣を頭上高くへと掲げた。渾沌の呪いを宿した刃が、晶竜が抱える生身の呪いを断ち切るべく、天理の因果を含んで振り下ろされる。

 

激突の瞬間、天空山の第一の領域は、すべてを覆い尽くす白刃の閃光と、断末魔の咆哮によって完全に満たされた。

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