一撃の浪漫 作:コンテンダーは良いぞおじさん
一撃必殺。
誰しもが一度は心に宿したことのあるであろう浪漫。
たった一発で相手を薙ぎ倒すそれは正しく浪漫の塊。
「はいドカン、と」
一発の銃声が体の芯を貫く。
狙った相手の胴体に着弾したそれは、相手をキリモミ回転させながら吹き飛ばす。
硝煙を上げる銃口を見て怯える相手に構わずトリガーガードを操作して銃身を解放、先程ぶっ放した弾丸の薬莢を排出する。
銃身に一発しか入らず、マガジンは無し。
一発撃つ度に排莢と再装填の手間が要る、凡そ実戦向きとは言えない構造。
「でもこのひと手間がたまらなく愛おしい」
鉄が熱せられた独特の香りを感じながら左手に持った弾丸を再装填、銃身を戻してロックすると右手の相棒が息を吹き返す。
一発限り、後隙極大のロマン砲。
この超銃器社会と言えるキヴォトスでもコイツを使ってる奴は私くらいなものだろうと苦笑が漏れる。
「アンタもそう思うだろ?」
一連の動作を淀みなく行いながら目の前の相手…残った二人に向かって微笑むと
「…気でも狂ってるのか!?」
銃口を向けながら発砲、連射される。
種類は分からないけど品の良さそうな銃だ…持ち主の性根とは真反対だな。
「酷い言われようだなぁ」
お返しの弾丸を真正面から受け止めつつ照準を合わせる。
既に相手の銃はスライドがロックしている…つまり弾切れだ。
「なんで、なんで効かないんだよぉ!?」
動揺しながら打ち切った銃の引鉄を引き続けるお嬢様。
弾切れだと言うのにマガジンを交換する素振りもない。
「…効かないから?」
小綺麗な自動小銃から放たれた弾丸は私の身体に当たる度に地面に落ちた。
流石に全く痛くない訳じゃないけど、ダメージと言うには余りにも卑小に過ぎる。
人よりも身体が頑丈で良かったと心から親に感謝した。
そうでもなきゃこの相棒を戦闘に使うなんて出来やしなかっただろうから。
「話を戻すけど。理解されにくいから浪漫って言うんだろうね」
引き金を引く。
轟音と共に発射された弾丸が相手の頭を撃ち抜いた。
頭上に輝くヘイローが一瞬で消える。
「でもアンタ達みたいに効かない弾を撃ちまくるよりも経済的で」
再度排莢、装填。
その間にも絶え間なく撃ち続ける相手へ照準を合わせる。
「何より…カッコいいだろ?」
引き金を引く度に一人ずつ倒れていく。
当てさえすれば一撃で意識を奪う私の弾丸は既に6人の意識を飛ばしている。
殆どの弾を正面から受けた私の制服はズタボロになったが…まぁ、どうせ今日限りで着なくなるし別に良いか。
「化物め…!」
負け惜しみのように口にした言葉への返答は
「聞き慣れてるよ。次はもっと個性を出すことをオススメする」
そんな言葉じゃ私の記憶には残らない。
そう告げて最後の一人を撃ち抜くと通りは静かになった。
立っているのは私だけ。
他は気絶して倒れたトリニティ生徒のみ。
いつの間にか助けようとしてた一人は何処かへ消えてるし…感謝しろとは言わないけど一声かけるくらいしろよなぁ、と溜息を吐く。
近隣の店舗は臨時休業の札を掛けて引き篭もり、店員達は息を殺して嵐が過ぎ去るのを待っている。
「…流石にやり過ぎたかな?」
「えぇ、やり過ぎですね」
誰にともなく呟いた言葉に返答があって少し驚く。
声の方に振り返るといつの間にか背後に正義実現委員会の制服を来た黒羽の生徒が強張った顔で立っていた。
「羽川副委員長?」
正義実現委員会副長、羽川ハスミ。
入学時に強面の正義実現委員会の代表と共に挨拶していたのを思い出す。
正実の中でもトップクラスに偉い人の登場に少し目を見開くが…
「遅かったじゃないですか」
もう終わりましたよ?と軽口を叩くと苦い顔で問われる。
「…ここまでやる必要はありましたか?」
「言っても聞かない困ったちゃん相手なら必要だと思う」
一度ならず警告はしたのだから。
その現場を見た時に思わず口を挟んでしまったのは私の落ち度かも知れないけれど…
「最初は勿論懇切丁寧に、下からお願いしましたが」
一人を囲んで陰湿にイジメているのを見て。
「それでも続けるって決めたのはこいつらだもの」
そりゃもう実力行使しかなかろうて。
「…そういう時は私達を呼ぶべきでしょう」
「そうかな…そうかもね」
頬が歪むのを抑えきれずに歪んだ口元のまま辺りを見渡す。
倒れ伏した相手は軒並み気絶、銃撃戦の後が残る通りには正実の部隊が展開、包囲されつつあった。
軽くため息をついて抵抗を諦め、発砲した熱を振り払う様に相棒を振り回してからショルダーホルスターへしまう。
「どうせ直ぐに釈放されて同じ事を繰り返すだろうけどそれはアンタ達には関係が無いんだろうし」
行きつけの店でランチをする度に見かけたやり取りを見る限り初犯ではなかった。
何なら今回の一件は補導された報復として行っていた様だし?
矯正局に入れるほどでもないと判断されたのか、そいつの背後に居る誰かさんの力が大きいから見逃されたのかは知らない。
そんな事がまかり通っているならアンタ達を頼る意味ってなんなんだ?
「通報を受けてもお偉方相手じゃ強く出られないのがトリニティだものね?」
トリニティにおいて血統と派閥、その2つが複雑怪奇に絡み合った政治的な要素が人間関係に及ぼす影響は絶大だ。
私みたいなどう見てもお嬢様とは程遠い奴相手に正義実現委員会の副長が出張ってくる位には。
「それは…」
言い難そうに口籠る姿を見て態度を改める。
「あぁ、誤解がない様に言って置くけど別に責めてる訳じゃないよ」
そう続けて両手を挙げて降伏を宣言する。
「降参。もういいや」
お陰で未練も無くなった。
「此処の御飯は好きだったけど、人柄は合わないわ」
華やかな表面と裏腹に陰険で、陰湿で。
元々中等部を別の学校で過ごした私にはどうにも慣れない場所だった。
「退学するから伝言よろしく」
姉様にゃ悪いけど。と添えながらホルスターの裏に貼っていた退学届を手渡す。
「桐藤さん、それは性急にすぎます。まずはお話を…」
「悪いけど、もう決めたんで」
振り払う様に取り出したスモークグレネードを地面に落とすと同時に走り出す。
モクモクと煙を噴き出して視界を防ぐ煙幕の向こうから聞こえる声。
「待ちなさい!…早く捕縛を…!」
それを背に一気に包囲を飛び越えて走り抜ける。
「包囲したのに初手でぶっ放さないからこうなるんだよぉ!」
後はよろしくお願いします〜!と叫んでから反対側へ走り出す。
最初に声を上げた方へバタバタと動く気配を感じながら。
入学後三ヶ月で退学とかトリニティじゃ前代未聞じゃなかろうか…なんて考えながら。
「…それで、あの子は」
「申し訳ございません…街を出る所までは確認が取れましたがその後の足取りが掴めず」
報告を受けて思わず目眩がした。
桐藤ナギサ。
トリニティにおける三頭政治の一角、フィリウス派を率いる現ティーパーティーの長である彼女は崩れ落ちそうになる膝を抑えながら何とか席に着いた。
上の立場に立って、話す時間も取れなくなり。
書類に忙殺される中でも送ってくれていたメッセージに気づかず放置してしまう日々。
徐々にメッセージの頻度が減っていき、それがゼロになった頃にはもう遅く。
謝罪の言葉にも、誘いの言葉にも返事を返してくれなくなった妹。
いつか分かってくれるだろう、それまで辛抱強く接していれば必ず和解出来るはずだと思っていた矢先にこれである。
「一体、何が引鉄になったのです?」
「それが…」
話を纏めるに。
トリニティにおいては珍しくない目に見えない応酬…と言うには一方的に過ぎるやり取りを間近で見て。
思わず口を挟むものらりくらりと言い逃れられ。
被害者…此処ではその子だけを被害者とするが…の助けを求める言葉に応える形で大立ち回りを演じ。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた正義実現委員会へ退学の意思表明を叩き付けて何処とも知らず消えた、と。
「あのバ…!…失礼、取り乱しました」
咄嗟に出かけた罵倒を飲み込んで目の前にいる正義実現委員会の生徒へ向き直り謝罪する。
「とにかく、退学届は差し止めを。容疑者がトリニティ領内から出る前に捕縛してください」
自身の身内を容疑者と呼ばなければならない事に胃痛を感じながらも指示を下す。
「生徒を多数蹴散らした相手をそのまま逃がしてはトリニティの沽券に関わりますので」
分かりますね?と微笑む。
内心ではこんな真似をしなければ満足に妹一人探す手段がない自分を嫌悪しながら。
「了解しました」
頭を下げて退室する生徒から視線を切ってテーブルの上に用意したカップの一つに目を落とす。
日々の激務の中、ようやく空いた時間。
暫く顔を合わせていなかった、この春から後輩になった妹を迎える筈だった席には誰も座っていない。
「もっと、早く時間を空ければ良かったのでしょうか」
いや、あの子の事だから直接話をしていたとしても結果は変わらなかっただろうか。
「ハル…何処に行ったと言うんですか…」
思わず口に出した言葉は肉親への心配で溢れていて。
仮面を外した本心からの言葉であった。
「うへぇ…警戒線貼るの早すぎぃ」
さっさと街を抜けたのは良いが国境付近で厳戒態勢を敷いているトリニティの軍勢を見て思わず苦笑と共に愚痴が漏れる。
まだ三十分と経ってないのに既にトリニティ領内から外に出るラインを封鎖されている。
もう公共交通機関も使えないだろう事は想像に難くない。
「権力を持った身内ってこれだから厄介なんだよね」
一人呟きながら思い返す。
禄に顔も合わせなくなったのは何時からだろうか。
ティーパーティー入りした辺りから大分忙しそうにしていたのは知っていたが、その主の一角に成ってからはモモトークすらマトモにやり取りしていない間柄である。
…機内モードにする直前まではバカみたいに通知が鳴り止まなかったが。
(私の事は放っときゃいいのに)
中等部以前はそれなりに話していたがここ数年はまともなやり取りをした覚えもない。
姉様の責任が大きくなるに連れて素っ気なくなっていく返事に嫌気がさして、自分からメッセージを送らなくなったのはいつ頃だったか。
相手への興味が失せた頃、相手から送られてくるメッセージを無視するようになったのはいつ頃からだっただろうか。
人間関係とは相互に維持する意思があって初めて成立する契約である。
それは親子、姉妹だろうと変わらない。
先に関係を切ったのは姉様だと言うのに今更私の退学を止めようと躍起になる理由は何かと考えると…
(あぁ、身内から退学者を出したくないのか)
考えてみれば立派なスキャンダルである。
現ティーパーティーの筆頭、桐藤ナギサの妹が入学早々自主退学だなんて政敵からすれば格好の餌食だろう。
入れる中で一番偏差値が高いからと決めた進学先だが止めときゃ良かったと今更ながら後悔が押し寄せる。
(そう考えると悪いことしたなぁ…)
私が最初からゲヘナやレッドウィンター辺りに行っておけばこんな事には成らなかっただろうと思うと申し訳ない気持ちが湧いてくる。
…学校見学時点で上手いこと暗い部分を隠してたトリニティに思うところがない訳では無いが。
まぁ、姉様に迷惑が掛かるとしても。
(それは私が諦める理由にはならない)
あの学園で。
陰湿でネチネチしたやり取りを見聞きしながら三年間過ごす?
そんな生活はお断りだ。
昔ならいざ知らず、今の姉様にそこまでしなきゃならない理由も義理もない。
「でもこれはちょっと無理かな…」
流石にこの警戒網を抜けるのは骨が折れる。
.D.Uへ抜ける道も、ゲヘナへ抜ける道も封鎖されてるだろう。
私が相手じゃなきゃゲヘナ方面はザルだったんだろうけど…
(…やるかぁ、砂漠越え)
唯一穴があるとすれば南方に広がる砂漠地帯。
連邦生徒会が見捨てた学区ならまともな警備も居ないし、他学区だから簡単に追手もかけられない。
仮に見つかっても一面砂まみれのゴーストタウンまで走り抜ければ後は適当にブラックマーケットで適当に身なりを整えりゃいいだけの話だ。
その後は…どうするかなぁ。
取り敢えず北を目指してレッドウィンター辺りに身を寄せるか?
地理的に間にゲヘナが挟まるからトリニティからの追っ手は掛かりにくいだろう。
もしくは先輩を頼るか。
ゲヘナに居る先輩ならまぁ悪いようにはしないだろう…ちょっと抜けてるが頼りにはなるし。
トリニティとの仲の悪さを考えればそれも悪く無い選択に思える。
流石にゲヘナに転入すれば姉様も諦めてくれるだろうし。
ゲヘナに寝返った親類なら切り捨てるのも簡単だ…寧ろ同情されるまである。
それほどにトリニティにおけるゲヘナへの悪感情は根強い。
トリニティの敷居は二度と跨げなくなるだろうけどもう未練もないし…あれ?一石二鳥どころじゃなくね?
「よし、行くか」
取り敢えず先輩に一報入れて、最後に姉様に連絡しとこう。
その後はアビドスで端末を処分して今までの私とはさよならだ。
方針が定まり意気揚々と歩き出す。
先ずは砂漠越えだ。
思いつきの塊で見切り発車しました。